Bの作曲家



グランヴィル・バントック Granville Bantock (1868-1946)

イギリスの指揮者,教育者,作曲家。1868年8月7日ロンドンのノッテイングヒルで医者の家に生まれる。本名グランヴィル・ランソム・バントック(Granville Ransom Bantock)。当初はロンドンと南ケンジントンで工学を専攻したが,程なくトリニティ・カレッジへ転学し,和声法および対位法を独学で修得。その後1889年から1893年まで,王立音楽学校に進んでフレデリック・コーダーに師事した。在学中から,マクファーレン奨学財団から初の奨学生に選ばれ,自作が学内の演奏会で採り上げられるなど評価され,1893年から1896年まで【季刊音楽批評(New Quarterly Musical Review)】誌の編集委員を担当。その後まず指揮者として名声を博し,1897年にタウナー管弦楽団の音楽監督に就任。のちにケルト民謡に傾倒して作曲も行うようになり,シベリウスやチャイコフスキーの影響下に,ロマン派と国民楽派の折衷的な作風で膨大な作品を残した。教育者としても優れ,1900年から1904年までバーミンガム,ミッドランド音楽院の校長を,次いで1908年から1934年に掛けては,エルガーの後任としてバーミンガム大学の教授を務め,さらにはロンドン・トリニティ・カレッジでも教鞭を執った。1946年10月11日ロンドンにて死去。(関連ページ:グランヴィル・バントック協会 英語)


主要作品

舞台音楽 ・オペラ【エジプト】 Aegypt (1892)
・ケドマール caedmar (1892)
・オペラ【イランの真珠】 the pearl of Iran (1894)
・付帯音楽【ヒッポリトゥス】 Hippolytus (1908)
・付帯音楽【エレクトラ】 Electra (1909)
・バレエ【大いなるパンの神】 the gread god of pan (1915)
・コルテージュ cortège (1918)
・サロメ Salome (1918)
・ユーディット Judith (1919)
・オペラ【印づけられた女】 the seal-woman (1924)
・付帯音楽【マクベス】 Macbeth (1926)
・付帯音楽【お伽噺の王】 fairy god (1938)
管弦楽曲 ・ケマラの葬送曲 the funeral from 'Kehama' (1894)
・サウル saul (1897)
・ヘレナ変奏曲 Helena variations (1899)
・ロシアの風景 Russian scenes (1899) {2hrp, orch}
・英国の情景 English scenes (1899)
・音詩第1番 tone poem No.1 'thalaba the destroyer' (1900)
・音詩第5番【アトラの魔女】 witch of Atlas (1902)
・音詩第6番【ララ・ルク】 lalla rookh (1902)
・サッフォ Sappho (1900-1905) {sop, orch}
・ピエロ・オブ・ザ・ミニット the pierrot of the minute (1908)
・古風なイギリス組曲 old English suite (1909)
・音詩第2番【ダンテとベアトリス】 Dante and Beatrice (1901/1910)
・アトラス山の魔女 the witch of Atlas (1902)
・音詩第3番 fifine at the fair (1912) {hrp, orch}
・ヘブリディーン交響曲 Hebridean symphony (1913)
・海の略奪者 the sea reivers (1920)
・異教徒の交響曲 the pagan symphony (1927-1928)
・中国の4つの風景 four landscapes from the Chinese (1936)
・交響曲第3番 the cyprian goddess (1938/1939)
・シプルスのアフロディテ Aphrodite in Cyprus (1939)
・ケルト風交響曲 celtic symphony (1940) {6hrp, strings}
・ギリシャ喜劇のための序曲 overture to a greek comedy (1941)
・曲芸の人生 circus life (1941)
・波間に浮かぶ入り江 the sea-gull of the land-under-wave (1944)
・2つの英雄的なバラード two heroic ballads (1944)
・アリストファネスより【鳥】 the birds 'Aristophanes' (1946) {orch, hp}
・葬送曲 funeral (1946)
・グリーンスリーブスの編曲 greensleeves (-) {strings}
・テモフォリアズセ Thesmophoriazusae (-)
協奏曲 ・サッフォ風の詩曲 sapphic poem (1909) {vc, orch}
・ケルト風の詩曲 Celtic poem (1916) {vc, p /orch}
・サルヴェ・レジーナ salve regina (1924) {vla (vo), strings}
室内楽/器楽曲 ・日本の歌 song of Japan (1897)
・エレジアック・ポエム elegiac poem (1899) {vc, p (orch)}
・弦楽四重奏曲第1番 string quartet No.1 (1899) {2vln, vla, vc}
・セレナーデ serenade (1903) {winds}
・ピブロック pibroch (1917) {vc, hrp}
・ハマブディル hamabdil (1919) {vc, p}
・チェロ独奏のためのソナタ sonata for solo cello (1919) {vla, p}
・チェロ・ソナタ sonata (1924) {vc}
・幻想的詩曲 fantastsic poem (1925)
・弦楽四重奏曲第2番 string quartet No.2 'a chinese mirror' (1933) {2vln, vla, vc}
・アリストファネスより【蛙】 the frogs 'Aristophanes' (1935) {brass}
・チェロ・ソナタ第1番 sonata for cello and piano No. 1 (1940) {vc, p}
・劇的詩曲 dramatic poem (1941)
・チェロ・ソナタ第2番 sonata for cello and piano No. 2 (1944-1945) {vc, p}
・2つの短い小品 two short pieces (-) {vc, p}
合唱曲 ・火を崇拝する民 the fire worshippers (1892) {2vo, choir, orch}
・クリストゥス Christus (1901) {2vo, choir, orch}
・タイム・スピリット the time spirit (1902) {choir, orch}
・ミサ曲 missa Bb (1903) {male-choir}
・海の放浪者達 the sea wanderers (1906) {choir, orch}
・オマル・ハイヤーム Omar Khayyam (1906) {2vo, choir, orch}
・カライドンのアトランタ Atlanta in Calydon (1911) {choir}
・異教の神々vanity of vanities (1913) {choir}
・キャセイ組曲 suite from cathay (1923) {male-choir}
・合唱組曲 choral suite (1926) {male-choir}
・マクベス−序曲 Macbeth: overture (1926/1940)
・ seven burdens of isaiah (1927) {male-choir}
・スリー・クラウニング・ソング three crowning songs (1929) {male-choir}
・サイクロプス the cyclops (-) {bass, 3btn}
歌曲 ・選ばれた乙女 the blessed damozel (1892) {narr, orch}
・トルベンダの夢 Thorvenda's dream (1892) {narr, orch}
・ウルスタン Wulstan (1892) {vo, orch}
・フリシュターの空想 Ferishtah's fancies (1905) {vo, orch}
・サッフォの詩曲 Sapphic poem (1908) {vo, orch}
・大法官への歌 song to the seals (1930)
・中国の詩人による5つの歌第1集 five songs from the Chinese poets 1'st series (-) {vo, vc, orch}
・中国の詩人による5つの歌第2集 five songs from the Chinese poets 2'nd series (-) {vo, vc, orch}
・サーディのバラ園より from the rose-garden of Sa'adi (-) {btn, narr, orch}
・行進曲 th march (-) {sop (tnr), orch}


バントックを聴く


★★★★★
"Sappho / Sapphic Poem" (Hyperion: CDA 66450)
Vernon Handley (cond) Julian Lloyd Webber (vc) Susan Bickley (sop) Royal Philharmonic Orchestra

彼一流の異国趣味がモロにタイトルへ表れているこの作品は,チャイコフスキーなどを思わせる頑迷な形式感を基調に持ちながらも,優美さにおいて遙かにフランス的であったバントックの魅力が,最も好い形であらわれた名品。フォーレやケックランを彷彿とさせる禁欲的な,しかし匂い立つような芳香を漂わせたこの作品は,間違いなく彼の諸作品中でも,最上の部にランクされるものといえましょう。加えてこのCD,幸運なことに演奏が素晴らしく良い。ハンドリーとロイヤル・フィルハーモニックのコンビは変わらないこのシリーズの成否は,いつも宛われるソリストの力量次第。有り難いことに,たまたま本盤で抜擢されたスーザン・ビックリー女史が正解でした。彼女は,名門ギルドホール校で歌唱科の金賞を獲得した才媛。余り知名度は高くありませんし,正直,小生も初めて聴く名前でしたけれど,艶やかで良くコントロールされた美声。相当な実力ではないでしょうか。彼女のお陰で穴のなくなった本盤。蓋し,これまでに聴いたバントックのCDの中では,曲・演奏ともに最高の出来であると思います。

★★★★
"Celtic Symphony / The Witch of Atlas / The Sea Reivers / A Hebridean Symphony" (Hyperion: CDA 66450)
Vernon Handley (cond) Royal Philharmonic Orchestra

英国指揮界の重鎮,ハンドレーはハイペリオンとシャンドスに膨大な数の英国近代作曲家を録音している指揮者。このバントックも,彼のお陰で日の目を見た作曲家の一人と言って宜しいのでは。本盤は,そのハンドレーが進める連続録音中の一枚で,こんにちでは恐らく最も有名なバントック作品であると思われる『ケルト交響曲』を収録しているのが美点です。彼の作風は,生没年からすると意外なほど保守的で,同じイギリス人でいえばスタンフォードのそれに,少し近代の色を加えた程度。この後に続くブリスやアイアランドのような作曲家のようなモダンなところは殆どありません。フランスでいえば長老系後期ロマン派のそれに近く,歌劇場系の形式感に支配されたものです。それを近代の耳にも聴くに堪えるものにしているのは,弦あしらいの巧さと,フランスのそれとは違う英国人らしい品位。ドビュッシー好きの耳で聴くには,そこが地味に聞こえて少々退屈かも知れませんので,彼の作品を印象主義の耳で聴くなら『サッフォ』がやはりお薦め。しかし,そこで高雅な彼の作風に魅入られた方は,ぜひこれら他のCDもお試しください。プロレタリアートなドビュッシー以降の作家からは無くなってしまう高貴で穏健な弦部に,ともすれば退屈になりかねないワグネリスティックな歌劇場趣味と,異国趣味の隠し味が絶妙に絡みます。

★★★☆
"The Cyprian Goddess / Helena / Dante and Beatrice" (Hyperion : CDA 66810)
Vernon Handley (cond) Royal Philharmonic Orchestra

フォーレ周辺を思わせる官能的で優美な弦部と,イギリス人らしい繊細かつ清明な官能性を備えたバントックの管弦楽。しかし,書法そのものは意外なほど保守的。エルガーやシュトラウス,チャイコフスキーなどにも間接的な影響を受けているとされるのも道理,形式感は完全に歌劇場系のそれです。ハンドレーの録音中,このCDはその意味で最もエルガー寄りと申しますか,保守的な傾向の濃い曲が並んだ一枚。『ヘレナ』や『ベアトリス』は初期の作品なので,それらを併録したこの盤が退屈に響いてしまうのは仕方ないのかも知れません。基本的にこの人は,歌手を複数従えた壮麗な舞台音楽を書き,基本的には保守的な形式感に立脚しながら,繊細で官能的な弦部と,あくまで身を滅ぼさない程度に異国ロマンスを愉しむ蝶々夫人のだんな的な(笑)作品が向いているのではないでしょうか。というわけで,バントックをお試しになりたい方には,やはり歌手入りの『サッフォ』をしつこく薦めてしまいます。ところで・・,ジャケットのご婦人は豊満で色っぽいですなあ(変態)。

★★★★
"Overture to a Greek Tragedy / The Wilderness and the Solitary Place / Pierrot of the Minute / The Songs of the Songs" (Hyperion : CDA67395)
Vernon Handley (cond) Elizabeth Connell (sop) Kim Begley (tnr) Royal Philharmonic Orchestra
近代イギリスものの発掘に熱心なハンドレーが,またまたバントックの管弦楽作品を追加。これで6枚目になるのでしょうか。もう完全に箱盤化するのを狙ってると思うのですがいかがでしょう(だから買うなと申し上げているのではない)。前半の『ピエロ・・』と『ギリシャの悲劇』は,同じウースター音楽祭からの委託曲。前者は彼が存命中には最も有名だったほど成功し,後者の仕事もこの曲がヒットしたがゆえのことだったそうな。ただ,題材が喜劇ですから,古臭いマ・メール・ロワの域。前半は良くも悪くもそうした軽めの作品が続き,感動はもうひとつ。やはりクライマックスは,CD一枚には収まらないほど大掛かりな『ソング・オブ・ソングズ』でしょう。ロパルツやデュカの交響曲へ,もう少し女性的な甘美さを与え,その代償としてワグネリズム色をもう少し濃くしたようなこの作品。仰々しいばかりのフランス系保守派の舞台作品とはひと味違う,清明な甘さと,ドラマチックな曲想はここでも健在でした。少し細部に入りの不一致がみられるものの,バントック最大の美点である優美な弦を,確かな技量で聴かせるオケは高性能。それだけに少し勿体ないのは歌唱陣。特にソプラノのコーネル女史ですか。少しお年なんでしょうか。声が少し弛んでらっしゃいますし,跳躍が大きくなったり,ファルセットと地声の境界線に掛かると,声が一瞬腓返りのように制御不能になり,衰えを感じさせてしまう。声質から拝察するに,10年前ならさぞ美声だったのでは。声楽家って過酷ですね・・誤魔化しが利かない。