Bの作曲家



アーノルド・バックス Arnold Bax (1883-1953)

イギリスの作曲家。本名アーノルド・エドワード・トレヴァー・バックス(Arnold Edward Trevor Bax)。1883年11月8日ロンドン(ストリーサム Streatham:現在はロンドン市内)の裕福な家庭に生まれる。幼少期から音楽好きの父に連れられてコンサートを聴くようになり,1896年には作曲を始めた。1900年9月に王立音楽学校へ進学してフレデリック・コーダーに師事。1904年に卒業。在学中からW.B.イエィツ(Yeats)の『ケルトの薄明かり』に触れてケルト文学に傾倒し,コーダーに従ってドレスデンを訪問するうちアイルランドの土着音楽に触れ,強い影響を受ける。ホルストやスタンフォードの影響下に後期ロマン派的様式と印象主義の手法を折衷させつつ,北方的色彩と民族色の強い作風を展開。1937年にサー(Sir)称号を受け,次いで1942年にワルフォード・ダヴィーズの死を受けてキングズ・ミュージックの指導者に選任された。1953年11月3日アイルランドのコーク(Cork)にて死去。


主要作品※Foreman, L. 1983. Bax - 2nd ed. Scolar Press. を入手しました。作品表は時間が出来次第,完全版へ改訂します。

バレエ音楽 ・ロシアの踊り子の実体 the truth about Russian dancers (1920)
交響曲 ・交響曲第1番 symphony No. 1 (1922)
・交響曲第2番 symphony No. 2 (1925)
・交響曲第3番 symphony No. 3 (1928-29)
・交響曲第4番 symphony No. 4 (1930-1931)
・交響曲第5番 symphony No. 5 (1931-1932)
・交響曲第6番 symphony No. 6 (1934)
・交響曲第7番 symphony No. 7 (1939)
管弦楽曲 ・管弦楽のための4つの素描 four sketches for orchestra (1912-1913)
・交響的作品 “春の火” 'spring fire' (1913)
・交響詩 “ファンドの園” symphonic poem 'the garden of Fand' (1916)
・交響詩 “ティンタジル城” symphonic poem 'Tintagel' (1917)
・交響詩 “十一月の森” symphonic poem 'November woods' (1917)
・序曲,哀歌とロンド overture, elegy and rondo (1927)
・悪漢喜劇のための序曲 overture to a picaresque comedy (1930)
・北方のバラード a northern ballad (1932-1933)
・北方のバラード第2番 Northern ballad No. 2 (1937)
・伝説 a legend (1943)
・黄金の鷲 golden eagle (1945)
・王女エリザベスとエジンバラ公の婚礼のためのファンファーレ
two fanfares for the wedding of T.R.H. Princess Elizabeth and the Duke of Edinburgh (1947)
・載冠式行進曲 coronation march (1953)
協奏曲 ・ロマンティックな序曲 romantic overture (1926) {orch, p}
・冬の伝説 winter legends (1932?) {p, orch}
・ヴァイオリン協奏曲 concerto for violin and orchestra (1937) {vln, orch}
・左手のためのピアノ協奏曲 concertante for piano (left hand) and orchestra (1948) {p, orch}
映画音楽 ・オリヴァー=ツイスト Oliver Twist (1948)
室内楽曲 ・哀歌 trio for flute, viola and harp 'elegy' (1916) {fl, vla, hrp}
・追悼 in memoriam: of Patrick Pearce (1916) {e-hrn, hrp, 2vln, vla, vc/orch}
・ハープと弦楽のための五重奏曲 quintet for strings and harp (1918) {2vln, vla, vc, p}
・民話 folk tale (1918) {vln, p}
・ハープ五重奏曲 (1919) {hrp, 2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ第2番 violin sonata No. 2 in D (1915/1921) {vln, p}
・オーボエ五重奏曲 oboe quintet (1922) {ob, 2vln, vla, vc}
・チェロ・ソナタ sonata for cello for piano (1923) {vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第3番 violin sonata No. 3 (1927) {vln, p}
・ヴァイオリン・ソナタ violin sonata in F (1928) {vln, p}
・フルートとハープのためのソナタ sonata for flute and harp (1928) {hrp, fl}
・九重奏曲 nonet (1928-1930) {fl, ob, cl, 2vln, vla, vc, b, p}
・チェロ・ソナテティナ sonatina for cello and piano (1933) {vc, p}
・弦楽五重奏曲 string quintet (1933) {2vln, 2vla, vc}
・八重奏曲 octet (1934) {hrn, p, string sextet}
・クラリネット・ソナタ clarinet sonata (1934) {cl, p}
・セレノビーとスケルツォ threnoby and scherzo (1936) {bssn, hrp, string sextet}
・伝説ソナタ legend-sonata for cello and piano (1948) {vc, p}
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ第1番 piano sonata No.1 (1910/1917/1921)
・ウクライナの五月の夜 May night in the Ukraina (1911)
・ゴパック gopack (1911)
・冬の水景 winter waters (1915)
・王女の薔薇の園 the princess's rose-garden (1915)
・林檎の花咲く時 apple-blossom-time (1915)
・眠気 sleepy-head (1915)
・ネレイド Nereid (1916)
・ロマンス a romance (1918)
・ピアノ・ソナタ第2番 piano sonata No.2 (1919-1920)
・ブルレスク burlesque (1920)
・勝利の歌(パッサカリア) paean: passacaglia (1920)
・地中海 mediterranean (1920)
・ピアノ・ソナタ第3番 piano sonata No.3 (1926)
・毒を入れられた噴水 the poisoned fountain (1929) {2p}
・ピアノ・ソナタ第4番 piano sonata No.4 (1932)
歌曲 ・ディンボビッツァの吟遊詩人 the bard of the Dimbovitza (1914) {msp, orch}
・5つのアイルランドの歌 five Irish songs (1921)
・3つのアイルランドの歌 three Irish songs (1922)


バックスを聴く


★★★
"Symphonic Poem 'Tintagel' / Nympholept / Paeam / Christmas Eve / Danse of Wild Irravel / Festival Overture" (Chandos : CHAN 9168)
Bryden Thomson (cond) The London Philharmonic : Ulster Orchestra
その後,下記ハンドレーとBBCフィルによって新盤が録音されてしまったので,価値はかなり下がってしまいましたが,最近までトムソンの手になるバックスの管弦楽作品全集は,この知られざる作曲家を知る上で,またとないカタログを提供するものでした。こちらもその一つで,バックスの代表作という人もいる『ティンタジルの城』を含むCDです。実は小生,初めてバックスの管弦楽を聴いたのがこのCDでしてねえ。一応代表作に敬意を払って耳に入れたんですけど,ケルト風のうらぶれた美旋律が吹き抜けていく室内楽やピアノ曲における,彼の苦み走ったロマンティストぶりは殆ど感じられず。バックスを大編成の管弦楽から聴くと,彼を過小評価してしまうような気がしたものでした。その後,下記盤などを聴いて印象はだいぶん改善されましたが,彼の作風の魅力は,やっぱりこの民謡的な旋律美にあるのでは。小回りの利かない管弦楽は彼には不向きなのではと思うのですが如何でしょうか。演奏も冴えません。ブライデン・トムソンはこのシャンドスに幾つも吹き込みがあり,マルタンの名演でお馴染みのマシアス・バーメルトよりは格上の扱いらしいのですが,はっきり言ってそりゃ間違っとる。少なくとも小生が今まで買った彼の演奏は,どれもこれもろくでもないものばかりでした。特にジョン・アイアランドのピアノ協奏曲(ピアノ:エリック・パーキン)は最悪じゃ,などとこの場を借りて八つ当たりしてしまいます。

★★★★
"In Memoriam / Concertante for Piano / The Bard of the Dimbovitza" (Chandos : CHAN 9715)
Vernon Handley (cond) Jean Rigby (msp) Margaret Fingerhut (p) BBC Philharmonic
一昔前に揃ったトムソン版に続き,ハンドレーは再びバックスの全集をやったようです。もちろん総合力は言うまでもなく段違いに上な本集のほうが,決定版になるんでしょうなあ。本盤はその一つで,3編の初録を収めた岩窟CD。『イン・メモリアム』はもともと室内楽ですが,実は作曲者によりオケ版にも編曲されていたということで,この版としての初録音。いかにもケルト好きの作曲家らしい悲哀の籠もった,しかし明瞭な節回しを飾るのは,ドビュッシー好きらしい装飾音や平行和音の挿入。モーランなんかお好きな方は好んで聴いていただけるでしょう。『ティンタジル・・』以来,バックスの管弦楽には全くいい印象を持っていなかったんですが,ちょっと反省しました。1949年と後年の作品である協奏曲は,ピアノが左手!ラヴェルを意識もしたでしょうが,実際にはハリエット・コーエンという,隻腕のピアニストのために書かれたもので,彼女の古い録音と,ソロの断片的な譜面から,今回フィンガーハット女史によって復活されたものだそうです。こちらはかなり調性が自由になり,技巧的。シュミットのコンチェルトすら感じさせる,バーバルで凝った書法に驚きます。イギリス作家は皆,ピアノが絡むとバーバルになりますが,これってラヴェルの影響?それともストラヴィンスキでしょうかねえ?ちなみに,個人的には,やっぱりやや大仰で硬い2作品よりも,掉尾に収められた「ディンボビッツァの吟遊詩人」を面白く聴きました。この題,元々は1892年にステッケルの英訳で刊行されたルーマニア民謡集の標題。ここからリュート吹きと機織りの歌を5編選んでオケ入りの歌曲にした模様です。曲がワグナー風で今ひとつパッとしないものの,やや形式張っている彼の管弦楽書法が歌入りのお陰で円やかに。やっぱりこの人の持ち味は,小編成だなあと再確認しました。

★★★★
"Concerto for Violin and Orchestra / A Legend / Romantic Overture / Golden Eagle" (Chandos : CHAN 9003)
Bryden Thomson (cond) Lydia Mordkovitch (vln) The London Philharmonic
一昔前にバックスの管弦楽作品集を大挙リリースしたブライデン・トムソンのシャンドス録音は,既に箱盤になって再発されており,これはその分売もの。個人的には悪名高いソリストの一人,モルドコヴィッチを迎えたヴァイオリン協奏曲は1938年の作品で,(当館の外では巨匠な)ヤッシャ・ハイフェッツに献呈されたもの。しかし,パガニーニ同様テク自慢の本人には,技巧的でないためかまるで気に入って貰えなかったそうです。逆に言えば,テク誇示よりも曲重視。いかにも英国北方の厳しい気候を思わせる厳しい佇まいが,エキゾチックな節回しに反映された,まずまずの佳品ではないでしょうか。大仰モードのウォルトンに,モーランの異教徒風味を掛け合わせたような彼の世界は,柔和なフランス作家には求め得ないものでしょう。トムソンのCDには落胆することが多いのですが,これは良く演奏されていて意外。打楽器の前面に出る『伝説』や『序曲』などで,やはり彼特有の脆い音癖が出ますけれど(打楽器の配置が悪いんでしょうか・・?),弦は好く鳴っており,彼の指揮盤としてはかなり良好な部類ではないかと思います。スラヴものに通じる厳しい佇まいに加え,テク誇示でなかったのも奏功したのか,ヴァイオリンのモルドコヴィッチも,第三楽章などでこそ特有のアラが出るものの,過去に記憶がないほど好く曲に乗っています。

★★★★★
"Nonet / Oboe Quintet / Elegiac Trio / Clarinet Sonata / Harp Quintet" (Hyperion : CDA 66807)
The Nash Ensemble
バックスの作品で一般に知られたものは,『ティンタジルの城』くらい。実際,どちらかというと管弦楽作品の録音のほうが体系化(シャンドスに2種類,ナクソスにも1種類)されているのも決して偶然ではないでしょう。蓋し,彼の管弦楽には師匠の影響からでしょうか。結構大仰・大味なものも多く,玉石混淆。その反面,ひょっとして代表作が管弦楽作品だとされているせいで,過小評価に甘んじているのでは?と思うほど,この人の器楽・室内楽作品は,素の部分が好く出ており素晴らしい。このハイペリオン盤はわけても白眉と言うべき優れた内容。飾らぬ武骨さを適度にとどめた民謡的な旋律美,そしてフランスの作家のように甘美一辺倒ではなく,厳しい佇まいを留めながら主旋律を飾る和声感覚は,エミール・ブロンテの『嵐が丘』そのままに,寒々と荒涼たる大地が広がった北部イギリスの風景を想起させ,心に静かな感動を伴って染み渡ります。さらにこのCD,ナッシュ・アンサンブルの演奏が滅法素晴らしい。バックスの真価を知るには,まずこの盤などよろしいのではないかと思います。

★★★★
"Octet / String Quartet / Concerto for Flute, Oboe, Harp and String Quartet / Threnody and Scherzo / In Memoriam" (Chandos : CHAN )
Margaret Fingerhut (p) Academy of St. Martin-in-the-Fields Chamber Ensemble
この盤の面白みは,バックスの作品中でも,おそらく最もフランス音楽(ドビュッシー周辺)の影響が顕著な『七重奏のための協奏曲』でしょう。原曲は1928年の『フルートとハープのためのソナタ』。これにヴィオラを加えれば,かのドビュッシーが最晩年に書いた傑作ソナタになります。ハープを加えた,イギリス人作家としてはやや特異な編成からしても,明らかに彼岸の天才作家を意識したものといえましょう。それだけに,バックスとは思えないほどフランス的な甘美さに富んでいて,彼の持ち味であるケルト臭はびっくりするほど希薄です。惜しむらくはこの盤,演奏がもう一つ宜しくない。渡辺マリナーでお馴染みアカデミー室内管弦楽団のソリストが集まったアンサンブル。有名なオケのソリストだけに駄演であるはずはないのですが,どうもデュナーミクが弱いのか演奏にメリハリがなくのっぺり弛緩していて,一体感や精気に乏しい。作品の持つふくよかな官能美が伝わってこないのが残念です。いい演奏で聴けば,きっと本家もびっくりの素晴らしい作品なのでは。

★★★☆
"Sonata in E Flat / Folk-Tale / Sonatina in D / Legend-Sonata in F# Minor" (ASV : CD DCA 896)
Bernard Gregor-Smith (vc) Yolande Wrigley (p)
異教徒系のバーバリズムをポスト・ロマン派書法に融合。モーランとふたり,イギリス北方の荒涼たる風景を音楽に乗せ換えたバックス。ややリズム処理が硬めな彼は,その欠点を機動力で相殺できる小編成のほうに佳品が多いと思うのですが,本人はまさにその理由から,あまり得意ジャンルではでなかったのでしょう。作品数は多くありません。チェロ独奏のために書かれたものは4編。本盤はその全てを収め,企画自体は大変に有難いものです。ただ,惜しむらくは演奏が宜しくない。チェロを弾くグレゴール=スミスは王立音大に16才で進学し,ダグラス・キャメロンに師事。卒業を前に教員となり,1993年に研究員に昇格した人物。演奏家としては室内楽畑が活動の中心だったようで,1967年に結成したリンゼイ弦楽四重奏団のメンバーとして活動。2005年に現役を退くまで多くの録音を残しました。キール,レイチェスター,シェフィールド,マンチェスターの4つの音大で名誉博士号を取得し,現在はおもに王立北音楽大学の教授職がメインの教育者。演奏活動は続けているらしいですけど,余芸ってことでしょうかねえ。速いパッセージでは弦を擦る音がキコキコしちゃって,音色も屠殺前の鶏系。ピッチも危なっかしく,聴き苦しいことおびただしい。誉められたものとはいえません。王立音楽院で華々しくやってた過去はあるらしいですから,昔は上手かったんでしょうかねえ?少なくともこの音色でこのテクニックなら,ナクソスの域を出ないんじゃないでしょうか。曲は出来映えにややばらつきこそあれ,野趣に富んだリズムと呪術含みの和声が「ノーブルなフロラン・シュミット」めいて素晴らしいだけに,隔靴掻痒というか何というか。ASVは時々こういう地雷を踏むなあ・・やれやれ。

★★★★
"Piano Trio No.2 (Bridge) Piano Trio in B flat (Bax)" (Chandos : CHAN 8495)
The Borodin Trio
近代イギリスに於ける怪人二十面相ことフランク・ブリッジとのカップリングによる,バックスのピアノ三重奏曲。1928年に書かれたブリッジの三重奏は,後期スクリャービン的旋法性にどっぷり浸かった,呪術的かつ陰鬱な作品。『幻影』などに聴ける,先鋭的な純音楽家としての彼の美意識が色濃く出たイレギュラーなリズムと無調寸止めの分散和音は,大戦間の不穏な空気を色濃く反映しているかのようです。いっぽう1945年に書かれたバックスの三重奏は,調性記号が示されていることからお分かりの通り,いたって穏健なモダニズムに満ちた佳品。ケルト情緒を,荘重でアタックが強いピアノの和声や旋法込みの旋律にちらつかせつつ,英国のポスト・ロマンティストらしいノーブルな叙情性とダイナミックなリズムを彩り良く絡めたバックスらしい筆致。この人はやはり小編成の曲で魅力を発揮するタイプだな〜と頬が緩むのを禁じ得ませんでした。演奏するボロディン・トリオは,読んで字の如く全員ソ連出身。モスクワ音楽院で邂逅したピアノとヴァイオリンのご夫婦に,1970年のプラハ国際優勝者のチェロが相乗りする強力トリオで,1976年の亡命後西側で高い評価を得たそうな。ちょっとヴァイオリンに年齢を感じるところはあれ,ピッチも一応は正確,程良くメリハリが利いた好演でいらっしゃると思います。

★★★☆
"Piano Music volume 1 :
Lallaby / Country-tune / Sonata No.1 / Winter Waters / Sonata No.2" (Chandos : CHAN 8496)

Eric Parkin (piano)
エリック・パーキンはシャンドスから盛んに英国近代の作家を採り上げた録音を出しているピアニスト。しかし,中にはジョン・アイアランドのピアノ協奏曲のようなトンデモナイ駄盤もあり,テクニックで売るタイプではないのは明らかです。そんな彼の持ち味が生きるのは,やはり少な目の音数で訥々と語ることのできる穏健なイギリスのピアノ独奏曲。音数が少な目で書法も穏健なバックスのピアノ作品では,彼の持ち味が良く生きるように思います。第1集のこのCDは,2曲のソナタと小品を収録。初期の作品だからか冒頭からシューマンやグリーグにもう少し近代臭をブレンドしたような穏和な筆致の,愛らしい小品が続きますが,例外になっているのが『冬の水』と『ソナタ2番』。題材のためでしょうか。彼なりに印象派を咀嚼しようとした珍妙な曲構成。左手の装飾音が全編に通奏されており,右手は抽象的な旋律で合いの手を入れるのみ。おまけに同じ水でもアイリッシュな荒野の水をイメージしたのか,最低域をマイナー調に上下降する不気味な分差和音で,正直形骸化された印象主義という以上の感慨はありませんでした。案外とイギリス人だった彼がドビュッシーあたりを聴いた印象ってこういう感じだったんでしょうねえ。

★★★★☆
"Piano Music volume 2 :
Sonata No.3 / Water Music / A Hill Tune / In a Vodka Shop / Sonata No.4" (Chandos : CHAN 8497)

Eric Parkin (piano)
パーキン演奏によるバックスのピアノ曲集,こちらは第2集です。イギリスものらしい紳士的な品格によって巧みにショパン世代の泥臭さを中和している曲の佇まいは,さながら音詩(トーンポエム)そのもの。しかし,まとまった形で並べて聴くと,後年の作品ほど分散和音をよく使って曲の輪郭は不明瞭になる傾向が増し,「ああバックスはこうやって,自分の音楽的語法の中へと印象主義の表現方法を内在化させていったんだなア」と納得しました(特に『3番』や『水の音楽』は印象派の語り口が穏健なロマン派書法にかなり自然に溶けこんでいて充実。デュポンあたりが守備範囲ならちょっとした秀作として興じ入っていただけます)。どれか一つというなら,多分この第2集が一番近代ファン向けじゃないかという気がしました。左手のパッセージが早くなると運指がやや重さを感じさせるものの,パーキンのピアノも訥々と良く語っていると思います。

★★★★
"Piano Music vol. 3:
Two Russian Tone Pictures / The Maiden with the Daffodil / The Princess's Rose-Garden / Apple-Blossom-Time / On a may Evening / O Dame Get Up and Bake your Pies / Nereid / Sleepy-Head / A Romance / Burlesque" (Chandos : CHAN 8732)

Eric parkin (piano)
バックスのピアノ作品集からの分売もの。イギリス近代の作曲家は,ほとんどが王立音楽学校の出身者のため作風も直接間接,多かれ少なかれヴォーン=ウィリアムスの影響下に。彼も王立音楽出身者なので,本当ならバタ臭いカラフルな曲を書きそうですが,早くからアイルランド民謡に魅せられたその作風は,同時代の作曲家に比べ遙かに土臭く,独自の魅力があります。彼のピアノ作品は,短編中心なこともあって一見地味ですが,彼らしい民謡ベースの旋律が強い個性を放ち,なおかつメゾフォルテ以下の強度で訥々奏でられる分散和音が,ちょうどドビュッシーの『映像』を思わせる神秘性をたたえ,なかなかの聴き応えがあります。ショパンに出発しアイアランドやモーランなどに聴くことのできる民族臭,ケルト臭に趣を感じる方には,ぜひお試しいただきたい一枚です。ピアノのパーキンは技巧的な曲になると明らかなテク不足を露呈する人ですが,一転この手の遅いテンポで内省的な表現をさせると実に巧い。演奏も好いと思います。

★★★★☆
English Tone Poems "Irish Landscape (Bax) The Banks of Green Willow / Two English Idylls (Butterworth) Two Pieces (Moeran) There is a Willow grows aslant a Brook (Bridge)" (EMI : TOCE-6420)
Jeffrey Tate (cond) English Chamber Orchestra
これはEMIから出た,近代イギリスのトーン・ポエム(交響詩)を集めた作品集。バックス以外は現在でもなお過小評価の極みにある作曲家ばかりです。旋法・多調を利して巧みな対位法を駆使するモーランの個性がやはり抜きんでているような気がしますが,他の作品も,いかにもこの時代のイギリスの作曲家らしい,牧歌的なロマンティシズムが満ちあふれた佳品ばかりです。バックスの作品は3曲。『4つの素描』を再編したものです。上記で以前,彼の管弦楽を酷評しましたが,これを聴いて反省しました。いずれも民謡的な旋律が穏健かつ色彩的な和声で優しく包まれた,瀟洒でロマンティックな小品です。演奏は作品への共感に溢れ,弦部は伸びやかで演奏も好い。これからイギリスものでもという方には,こういうCDなど良いかも知れません。

(2001.2.26 uploaded)