Bの作曲家



エルネスト・ブロッホ Ernest Bloch (1880-1959)

スイスの作曲家。ユダヤ系。1880年7月24日ジュネーヴ生まれ。生地でヴァイオリンをルイ・レイ(Louis Rey)に,作曲法をエミーユ・ジャック=ダルクローズ(Emile Jaques-Dalcroze)に師事。ドイツへ出て,フランクフルトのホーホ音楽学校でイヴァン・ノール(Iwan Norr),ベルギーのブリュッセルでウジェーヌ・イザイとフランソワ・ラッセ(François Rasse)に師事し研鑽を積んだ。1917年に『3つのユダヤの詩(Trois Poemes Juifs)』初演の際ボストンを訪れて以降アメリカに移り,1924年に市民権を取得。その後は教育者として名を馳せ,1920年にクリーヴランド音楽院の音楽監督になったのを始め,サンフランシスコ音楽院やカリフォルニア大学バークレー校でも教鞭を執り,ロジャー・セッションズやジョージ・アンタイルら優秀な弟子を育成。聖シチリア音楽アカデミーの名誉委員,アメリカ芸術科学アカデミー金賞,ニューヨーク批評家賞(『弦楽四重奏曲第2番』と『コンチェルト・グロッソ第2番』,『弦楽四重奏曲第3番』)などの受賞歴がある。1959年7月15日,癌のためオレゴン州ポートランドのエーゲイト・ビーチ(Agate Beach)にて死去(関連ページ: A Young Person's Guide to Ernest Bloch 日本語)。


主要作品

オペラ ・マクベス(3幕) Macbeth (1909)
管弦楽 ・交響曲 嬰ハ短調 symphony in C-sharp minor (1902)
・交響詩 『冬−春』 hiver-printemps (1905)
・管弦楽のための 『3つのユダヤの詩』 trois poèmes Juifs (1913) {orch}
・交響曲『イスラエル』 Israel (1916)
・『イン・ザ・ナイト』 : 管弦楽のための愛の詩 in the night : a love poem (1922)
・管弦楽のための3つの小品『海の詩』 poems of the sea (1922)
・コンチェルト・グロッソ第1番 concerto grosso No. 1 (1925) {p, strings}
・室内オーケストラのための『4つの寓話』 four episodes (1926) {chamber-orch}
・エピック・ラプソディ 『アメリカ』 America - an epic rhapsody (1926)
・交響詩『ヘルベチア』 Helvetia (1929)
・交響組曲『エヴォカシオン』 evocations (1937)
・交響組曲 symphonic suite (1944)
・コンチェルト・グロッソ第2番 concerto grosso No.2 (1952) {strings}
・イン・メモリアム in memoriam (1952)
・短篇交響曲 sinfonia breve (1953)
・交響曲 変ホ調 symphony (1955)
協奏曲 ・チェロと管弦楽のためのヘブライ狂詩曲 『シェロモ』 shelomo (1916)
・ヴィオラと管弦楽のための組曲 suite for viola and orchestra (1919) {vla, orch}
・交響詩『荒野の叫び』 voice in the wilderness (1936) {vc, orch}
・ヴァイオリン協奏曲 concerto for violin and orchestra (1938) {vln, orch}
・ヴァイオリンと管弦楽のためのバール・シェム Baal shem (1939) {vln, orch}
・ピアノと管弦楽のための交響協奏曲 concerto symphonique (1948) {p, orch}
・ピアノと管弦楽のためのスケルツォ・ファンタスク scherzo fantasque (1948) {p, orch}
・フルート、ヴィオラと弦楽合奏のためのコンチェルティーノ concertino (1950) {fl, vla, strings}
・ヴィオラ(またはヴァイオリン)と管弦楽のためのヘブライ組曲 suite Hébraïque (1951) {vla, orch/vln, p/vla, p}
・トロンボーンと管弦楽のための交響曲 symphony for trombone and orchesta (1954) {tb, orch}
・トランペットと管弦楽のためのプロクラメーション proclamation (1955) {tp, orch}
・フルートと弦楽合奏のための モーダル組曲 suite modale (1956) {fl, strings/fl, p}
・フルート独奏と管弦楽のための2つの最後の詩 two last poems (1958) {fl, orch}
室内楽 ・アンダンテ andante (1895) {2vln, vla, vc}
・幻想曲 fantaisie (1897) {vln, p}
・チェロ・ソナタ cello sonata (1897) {vc, p}
・弦楽四重奏曲 第1番 string quartet No.1 (1916)
・ヴィオラとピアノのための組曲 suite for viola and piano (1919) {vla, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第1番 violin sonata No.1 (1920) {vln, p}
・ピアノ五重奏曲 第1番 quintet for piano and string quartet No.1 (1923) {p, 2vln, vla, vc}
・バール・シェム Baal Shem (1923) {vln, p}
・『神秘の詩』 ヴァイオリン・ソナタ第2番 poème mystique (1924) {vln, p}
・3つの夜想曲 three nocturnes (1924) {p, vln, vc}
・エキゾチックな夜 nuit exotique (1924) {vln, p}
・ヘブライ風瞑想曲 méditation Hébraïque (1924) {vc, p}
・ユダヤ人の生活から from Jewish life (1925) {vc, p}
・山地にて in the mountains (1925) {2vln, vla, vc}
・風景 paysages (1925) {vln, vla, vc}
・夜 night (1925) {2vln, vla, vc}
・前奏曲 prelude (1925) {2vln, vla, vc}
・アボダー abodah (1929) {vln, p}
・メロディー mélodie (1929) {vln, p}
弦楽四重奏曲 第2番 string quartet No.2 (1945) {vln, vla, vc}
・6つのプレリュード six preludes (1949) {org}
・4つの結婚行進曲 four wedding marches (1950) {org}
・弦楽四重奏のための2つの小品 deux pièces pour quatuor à cordes (1950) {2vln, vla, vc}
・メディテーション&プロセッショナル meditation and processional (1951) {vla, p}
・弦楽四重奏曲 第3番 string quartet No.3 (1952) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲 第4番 string quartet No.4 (1953) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲 第5番 string quartet No.5 (1956) {2vln, vla, vc}
・無伴奏チェロ組曲 第1番 suite No.1 (1956)
・無伴奏チェロ組曲 第2番 suite No.2 (1956)
・無伴奏チェロ組曲 第3番 suite No.3 (1957)
・ピアノ五重奏曲 第2番 piano quintet No.2 (1957)
・無伴奏ヴァイオリン組曲 第1番 suite No.1 (1958)
・無伴奏ヴァイオリン組曲 第2番 suite No.2 (1958)
・無伴奏ヴィオラ組曲 suite for viola solo (1958−未完)
ピアノ曲 ・パストラール pastorale (1896)
・『捧げもの』 ex-voto (1914)
・『イン・ザ・ナイト』 : ピアノのための愛の詩 in the night (1922)
・ピアノのための3つの小品『海の詩』 poems of the sea (1922)
・4つのサーカスの小品 four circus pieces (1922)
・聖なる踊り danse sacrée (1923)
・子どもらしさ :子供のための10のピアノ小品 enfanties (1923)
・涅槃 nirvana (1923)
・セピア色の5つのスケッチ five sketches in sepia (1923)
・ピアノ・ソナタ piano sonata (1935)
・幻想と予言 visions et prophéties (1936)
歌曲 ・黄昏の歴史 histoirette au crépuseule (1904) {msp, p}
・声楽と管弦楽のための秋の詩 poème d'automne (1906) {msp, orch}
・バリトンと管弦楽のための詩篇第22番 psaume 22 (1913)
・ソプラノと管弦楽のための前奏曲と2つの詩篇 deux psaumes (1914)
・聖なる礼拝 Avodath Hakodesh (1933)


ブロッホを聴く


★★★★★
"Poème Mystique / Sonate No. 1"(Adda : 581044)
Alexis Galperine (violin) Frédéric Aguessy (piano)
ジュネーヴ生まれ。ユダヤ民族のルーツをモチーフにした作曲家ブロッホ。以前からどんなものか聴きたいと思っていたところへヴァイオリン・ソナタ作品集を見つけ購入。原盤のAddaが1980年代の終わりに行った,器楽作品全集の第一弾のようで,2つのソナチヌが収録されております。このうち前者にあたる『ヴァイオリン・ソナタ第1番』は時代を反映してか,6人組やストラヴィンスキーなど近代以降のアヤシイ音楽イディオムをてんこ盛りにした習作的な色合いが強く,作品としての出来はもうひとつ疑問符が拭えませんが,これを補って余りあるのが,20分を超える長尺の『神秘の詩(ヴァイオリン・ソナタ第2番)』。印象主義や後期ロマン派の影響を充分に咀嚼した,稀に見る充実の書法に圧倒されます。同曲に関してはかなりの名品と言って良く,マイナーなままにしておくのは惜しい。演奏する両者はいずれも手練れ。ヴァイオリンはフランチェスカッティ,エネスコ両コンクール入賞でパリ高等音楽院の助教授。ピアノはロン=ティボー国際の優勝者。細身ながら美音のヴァイオリンなかなかに巧く,演奏は良いです。お薦め盤。

★★★★☆
"Sonata No.1 / Poème Mystique / Suite No.1, No.2 / Mélodie / Baal-Shem / Abodah / Nuit Exotique / Suite Hébraique" (Arte Nova : 74321 76810 2)
Latica Honda-Rosenberg (vln) Avner Arad (p)
ごく最近まで安住の地すら約束されなかったユダヤ人。ヒトラーに迫害され,金持ちが多いゆえに世界中で妬まれ,イスラエル建国を餌に世界中から厄介払いされました。そんな受難の歴史を反映してのことでしょうか。数の上でユダヤ系の作家が多かった割には,彼らの書いた山のような作品の中で,ユダヤ人の民族性が反映された作品の数は,驚くほど少ないのが実状です。その暗黙の禁忌領域へ初めて足を踏み入れた作曲家。それがブロッホでした。このCDは日系ドイツ人ホンダ=ローゼンベルク女史の手になるブロッホのヴァイオリン曲全集。彼女は,ドイツ人としては史上初めてチャイコフスキー国際の決勝へ進み,2位を獲得した才媛だとか。強い音圧と情熱的なグリッサンドが力感溢れる演奏が印象的。チョン・キュンファ辺りを思わせるその演奏は,廉価盤とは思えないほど高水準です。何しろ2枚組でもせいぜい1500円程度と,価格が滅法安いですし,主立った有名曲をこれ一枚でほとんどフォローできますから,一枚は持っていても損はないんじゃないでしょうか。

★★★★☆
"Concerto Symphonique / Scherzo Fantasque / Hiver-Printemps" (Chandos : CHAN 10085)
Alexander Tchernushenko (cond) Halida Dinova (p) St. Petersburg State Academic Cappella Symphony Orchestra
ペテルブルク界隈の演奏家が集まって作った本盤は,ブロッホの書いたピアノ協奏形式の2品に管弦楽作品を併録したもの。面白いことに,ピアノが入る前2品と,入らない後の1曲で,かなり筆致が変わります。1947年に着手された『交響的協奏曲』は,続く『スケルツォ』と並んで,ピアノと管弦楽の編成に対するこの人の曲作りの基本姿勢が良く出ている。呪術的な音使い,ブロック・コードと装飾音をてんこ盛りにした煌びやかなピアノの書法,長大でいて,断片化されたモチーフをゴツゴツと連結していく構成。そして何より,それらを連結するリズムの蠢動感。これは【ピアノ協奏曲】のフォーマットを近代に蘇生させたラヴェルに源を発し,それ以降,20世紀のピアノ協奏曲の作曲史に一つの流れを作った【絢爛バーバリスト】的イデオロギーを引き継いだものでしょう。なかんずくブロッホが範としているのは,前者の標題からも一目瞭然なようにシュミットの『協奏的交響曲』。3曲全てが10分を超え,完成まで2年を掛けた意欲作。その筆致は,この人が異教徒風のモード感覚溢れる『神秘の詩』を書いた,ユダヤの呪術師であることを思い出させずにはおかないものです。なにぶん,デモーニッシュな高揚感と,圧倒的な密度で書き込まれた本家シュミットのコンチェルトがあまりに強力なせいか,定常リズムの占める割合が多いこちらのコンチェルトが些か大味に感じられるのは致し方ないところ。これは普段着仕様の国民楽派的インプレッショニストの筆致(『冬−春』)から踏み出してしまったが故でしょう。むしろ,やや緩楽章の役割を果たす2楽章中程で聴ける,不穏さの滲むロマンティシズムの書きっぷりに,シュミットにはないこの人の持ち味が良く出ているように思います。演奏陣は指揮者の人脈で集められたリムスキー音大及びペテルブルク音楽院関係者たち。愛らしいロシア人のソリストはリムスキー音大においてウゴルスキのお弟子さんだった人で,クリーブランド音楽院に留学し学位を取得。このバーバルな難曲を弾くには打鍵のアタックが弱く,粒立ちも野趣も足りないようですけど,弾き間違いなどは少なく腕はまずまず。指揮者さんが再編して復活したというオケも,あまり聴いたことがなく,嫌な予感がする割に端正です。

★★★★
"From Jewish Life / Méditation Hébraïque / Suite No.1 - No.3 / Baal Shem"(Opus 111 : OPS 30-232)
Peter Bruns (vc) Roglit Ishay (p)
Adda盤に心惹かれるものがあったこの作曲家。少し付き合ってみようと思っていたところに出くわした本盤は,無伴奏も含む彼のチェロ作品集です。チェロが上手いと思ったらこの御仁,かのベルリン交響楽団で10年間主席チェリストの座にあった人物だとか。その後はドレスデン音楽院教授として後進の育成にあたっている模様です。ピアノを弾くイスラエル出身ログリット・イシャイ女史は無名ですが,おそらくはドレスデン音楽院つながりでしょう。内容は『ユダヤ人の生活から』とある通り,作曲者のルーツ回帰を高らかに謳ったもの。随分以前に森繁久弥主演で大成功したミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』の挿入歌「サンライズ・サンセット」を思わせる,マイナー調の哀しげな節回し。ジャズっぽく言えばブルー・ノート多投で世俗歌臭プンプンの作品揃いです。『神秘の詩』に見られた,ピアノ伴奏による近代的な和声の肉付けはかなり意識的に避けられ,癖のある旋律を極端に強調した仕上がり(『組曲』なんて,独奏作品ですし)。こちらが本来の姿とすれば,これがユダヤ音楽の代表のように語られる所以なのでしょう。ただ,近代ファンへの推薦はちょっと難しいかも。演奏は少しピアノの表情が硬いものの,良いです。

★★★☆
"Quartet No.4 / Quartet No.5" (Arabesque : Z6627)
Portland String Quartet: Stephen Kecskemethy, Ronald Lantz (vln) Julia Adams (vla) Paul Ross (vc)
ピストンに自作を献呈されたこともあり,彼の室内楽作品集を二枚録音しているポートランド四重奏団。時々ピッチが狂うのもおかまいなく,熱っぽく弾くのが持ち味の4人組です。他国生まれながらアメリカに渡った点で,彼らの録音方針と合致したんでしょうか。本盤では,ブロッホが晩年の1950年代半ばに書いた弦楽四重奏曲を2編録音してくださってます。ユダヤ民謡の旋律を使って曲を書いた,初めての近代作曲家というのがブロッホの評価ですけど,実際問題ユダヤ民謡なんて【屋根の上のヴァイオリン弾き】を通してしか知らず,どんなもんかあまりピンとこないこちとらとしては,取り敢えず異教徒趣味な呪術作家フロラン・シュミットと並べてしまうのが楽。実際,彼の管弦楽作品は,シュミットの呪術性と躍動感に,色彩的な和声を上手く絡めた曲想に,この人なりの美点を見出し得るものでした。で,この曲も確かに,フランス作家で喩えるならシュミット的なんですが・・美学的には完全に東欧系。シュミットで形容するなら,彼の中でも一番晦渋な,無調寄りの部分を切り出してきて,それをバルトークの土臭さ三割で割り,さらに扁平にして変化を乏しくしたような曲想。わざとなのかヘタなのか,音の外れたポリ・モードが頻出する第三楽章後半あたりになると,もう気持ち悪くてゲーともどしそうになりました・・。土臭くて即物主義的。鬱々と陰気くさい音楽。本盤からブロッホを聴いた人,逆に他盤でブロッホを聴いてきた人のどちらにとっても,それぞれの意味で期待を裏切られることでしょう。和声フェチな方,近代的な叙情性やメロディアスさを求める向きにはお薦めできません。ポートランド四重奏団の演奏は例によって熱が籠もっていて悪くありませんけれど,総じてピッチが甘いため,中央の楽団のように透明度の高い音は出ず。そこが却って農夫臭い曲に合っていると言えなくもありませんけれど・・(苦笑)。

★★★★
"Violin Concerto (Bloch) Poema Elegíaco / Momento Psicológico (Serebrier)" (ASV : CDA 785)
Michael Guttman (vln) José Serebrier (cond) Royal Philharmonic Orchestra
シャンドスにショーソンの隠れたブランド盤を吹き込んでいるセレブリエールは,ストコフスキーに気に入られて頭角を現したベテラン指揮者。ウルグアイの音大を出たのち,1956年にカーティス音楽院へ留学してコープランドに師事。2度のグッゲンハイム賞やロックフェラー財団の助成の獲得など,受賞歴が豊富。アメリカとは当時から縁の深い人です。一般には専ら指揮者としてのみしか知名度はないと思われますが,実はジョージ・セルからクリーブランド管の在住作曲家に任命されるほど,作曲にも入れあげていたって知ってました?この盤は,滅多に聴くことのない彼の自作自演を2曲楽しめるという意味でも,なかなか興味深いCDといえるでしょう。エキゾチックな旋律美が妖し光沢を放つブロッホのコンチェルトは,管弦楽法の熟達した手腕に感嘆させられる見事な出来。『神秘の詩』あたりで,呪術的なエキゾチズムに溢れた旋律美と,周到な和声法に快哉を叫んだ方は,間違いなくこの曲もヒットすることでしょう。ということで,本盤を生かすも殺すも,残る片割れにして作曲も自信満々なくだんのセレブリエール御大の腕一つという状況なわけですが・・。う〜ん,正直なところ,やはり二足の草鞋は二足の草鞋。作風は現代テイストの入ったシベリウス傍系で,大々的に打楽器を使い重々しく荘重な雰囲気作りをしたいのは分かるんですけど,大袈裟なばかりで一本調子。曲想に奥行きがないので,大仰な分空々しくなってしまう。本盤を聴く限りでは素人の域を出ませんねえ。なまじブロッホの曲想が見事なだけに落差が・・。演奏は総じて良好。ヴァイオリンの表情がやや硬く,シャンドスに録音してるリディア・モルドコヴィッチにどことなく似た,少し緩めのピッチと表情の硬さがあるのは少々気になりますが,さすが王室の冠を掲げる楽団だけに,オーケストラの性能は水準以上。安心して聴いていただけると思います。

★★★★
"Concerto for Violin and Orchestra (Bloch) Fantaisie (Debussy)" (Music&Arts : CD-270)
Willem Mengelberg (cond) Joseph Szigeti (vln) Walter Gieseking (p) Concertgebouw Orchestra of Amsterdam
1895年にコンセルトヘボウ管の指揮者となったメンゲルベルクは,第二次大戦が終わるまで,半世紀に渡って君臨。ステレオ期のドビュッシーやラヴェルが示した通り,当時世界で最優秀レベルの弦部をもつオケに成長させた手腕は,巨匠と呼んで差し支えないものです。本盤はそんな彼が1938年と1939年におこなった放送録音用ライブを2編カップリングしたもので,当時としてはかなり通好みだったと思われるブロッホとドビュッシーを,名だたる巨人ソリストの演奏で聴く機会を与えてくださったアリガターイ吹き込みです。ギーゼキングが独奏を担当する『幻想曲』は,今のところ同曲を彼がやった放送録音としては最も古いとか。メンゲルベルクの指揮はいかにも百年前。規則的な律動で推移する第一楽章は特徴的で,ややしかめつらしさの残る前のめりのリズム解釈と,他盤に比してかなり速め(6分半)のテンポをとり,ザクザク軍靴を鳴らして推進する。独奏者の壮麗なピアノがある程度まで抑制してはいるものの,やはり硬さは拭えません。テンポが異様に速いせいもあってか,ライブ録音も手伝ってか。さすがの絶頂期ギゼキンさんもミスタッチがちょこちょこ顔を出すうえ,オケも所詮は戦前。好事家向けの域は出ないと言わざるを得ません。ということで,本盤の妙味はむしろ併録。1938年にシゲティのために書かれたこの曲を,被献呈者自身の手で吹き込んだこの演奏は,現存する限り初演から3度目の録音として貴重な点でも,シゲティの濃い鳴りっぷりが,作品の民俗臭をどっちり掬い取っており素晴らしい点でも,本盤のクライマックスを成しておりましょう。途中パチパチ音溝の擦れ音まで入るヒドイ録音。既にASVから遙かに音の良い録音の出ている現状では,広く薦めにくいのも確か。しかし,独奏者の技量は雲泥の差。軽々と難点を超えてしまわれる。お好きな方は,それだけで一聴の価値があると思います。

(2002. 3.18)