Composer of 'C'



アンドレ・カプレ André Caplet (1878-1925)

フランスの作曲家,指揮者。キャプレとも表記する。1878年11月23日,ル・アーヴル生まれ。9才でル・アーヴルのコンクールのヴァイオリン部門で優勝し,12才でル・アーヴル歌劇場管弦楽団に入って演奏するなど,幼少期から多彩な才能を発揮した。18才でパリ音楽院へ進み和声法,ピアノ伴奏,作曲を学ぶと共に,指揮をアルトゥール・ニキッシュに師事。21才(1899年)にはサン・マルタン歌劇場で音楽監督に就任し,翌々年の1901年にカンタータ「ミルラ」で,ラヴェルを退けローマ大賞を獲得。この間1910年から1914年にはボストン歌劇場管弦楽団の指揮者にも就任するなど精力的に活躍した。しかし,第1次大戦に従軍し,負傷した事で運命は暗転,毒ガスに冒された彼の身体は快喩せず,長年勤めたパリ・オペラ座歌劇場およびラムルー管弦楽団,コロンヌ管弦楽団の指揮者の座も勇退,1925年4月22日,パリ近郊で世を去った。僅か40余才の生涯であった。彼の作品は,ローマ留学の後から親交の深いドビュッシーの模倣と片付けられる。これは多忙,短命の故に作品数が少なく,じゅうぶんに聴かれていないことが多分に影響していると思われるが,ドビュッシーが「聖セバスチャンの殉教」などで見せた神秘主義的傾向や異国趣味を ,より徹底した形で体現したその作品は,どれも近代音楽史に燦然と輝く第一級の内容を誇っている。事実ドビュッシーは彼に厚い信頼を寄せ,多くの作品はカプレによって初演された。最も再評価の待たれる作曲家の一人といえよう。(肖像写真は【あんぐら社中】某氏にご提供いただいたものです。無断使用は決してしないでください)


主要作品

舞台作品 ・ジャンヌ・ダルクの幻想 la vision de Jeanne d'Arc (1895) {sop, tnr, f-choir, orch} ...A. Millard台本
・バルシャザール Balthazar (1898) ...スケッチのみ
・叙情劇【】 Fjeldrüst (1899) {5act: vo, m-chorus, p(orch)} ...ローマ大賞応募作
・カンタータ【カリロエ】 Callirhoé (1900) {2scene: vo, orch} ...
E. Adenis台本。「ミルラ」に転用
・カンタータ【ミルラ】 myrrha (1901) {3scene: sop, tnr, btn, choir, orch} ...
F. Beissier台本
管弦楽曲 ・交響詩【サランボー】 poème symphonique 'Salammbô' (1902)
・素朴な行進曲 marche solenelle pour le centenaire de la Villa Médicis (1903)
・4つの民謡 quatre folksongs (1910)
・ douaumont, marche héroïque de la Ve division (1916/1924) {winds}
協奏曲 ・伝説 légende (1908) {hrp, orch(p)}
・赤死病の仮面劇 la masque de la mort rouge [=conte fantastique] (1909/1922-1923) {hrp, orch(2vln, vla, vc)}
・エピファニ epiphanie (1923/1924) {vc, orch(p)}
室内楽 ・無邪気な夢 rêverie enfantine (1890) {vln, p}
・ハイチ Haïti (1895) {p}
・2つの小品 deux pièces (1897) {fl(vln), p}
・古代の形式による3つの小品 trois petites pièces dans le style ancien (1897) {p(vln/vc/mand), p, 2vln, vla, vc/chamber}
・小品 pièces (1898) {fl, cl, vln, vc, p}
・前奏曲 prélude (1899) {2p}
・アダージョ adagio en si mineur (1900) {vln, p(org)/vln, vc, p}
・ドレミファソを使って do, ré, mi, fa, sol dans tous les tons (1901) {2p}
・アルバムのページ feuillets d'album (1901) {fl(vln), p(org)} ...
4曲。2曲は「2つの小品」から転用
・五重奏曲 quintette (1898/1903) {p, fl, ob, cl, bssn/2vln, vla, vc, p}
・ペルシア組曲 suite Persane (1900/1902) {2fl, 2ob, 2cl, 2hrn, 2bssn/orch}
・こまごまとした雑事 un tas de petites chose (1901) {2p}
・アレグレッス allegresse (1903) {vc, p}
・哀歌 élégie en mi mineur (1903) {vc(vln), p}
・交響詩【伝説】 légende: poème symphonique (1903/1904) {ob, cl, as, bssn, 2vln, 2vla, vc/orch}
・読譜 déchiffrage (1910) {hrp} ...旧作から転用
・ソナタ sonate (1918-1925) {vo, vc, p}
・即興曲 improvisations (1923/1926) {fl(vc/vln/cl), p}
・2つの喜遊曲 deux divertissements (1924) {hrp}
・ sonata di chiesa (1924-1925) {vln, p}
歌曲 ・ contemplation (1893) ...N. Clauzes詩
・ la serenade de l'ecolier (1893) ...
P.-J. Pain詩
・ sous la voute etoilée (1895)
・秋の歌 chanson d'automne (1900) ...
A. Silvestre詩
・来るがいい!見えない笛の音よ viens! une flûte invisible soupire.. (1900) {msp, p (fl)/msp, orch} ...
V. Hugo詩
・グリーン green (1902) {vo, p(orch)} ...
P. Verlaine詩
・五月の詩 poème de mai (1902) ...
Silvestre詩
・蝶 papillons (1902-1903) {vo, p(orch)} ...
P. Gravollet詩
・泉にて dans la fontaine (1903) {vo, p(orch)}...
Gravollet詩
・ il était une fois jadis (1903) {vo, p(orch)}...
J. Richepin詩
・ブルターニュの歌 lon lon la, chanson bretonne (1903) {vo, p(orch)}
・ tu nous souriais (1906) ...R. de la Villeherve
・ paroles à l'absente (1908) {vo, p(orch)} ...
G. Jean-Aubry詩
・3つの詩 trois poèmes (1908) {vo, p}
・孤独 solitude (1915) {vo, p} ...
J. Ochse詩
・ en regardant ces belles fleurs (1914) ...
C. d'Orléans詩
・秋の夜 nuit d'automne (1915) ...
H. de Regnier詩
・2つのソネット deux sonnets (1916/1924) {sop, p(hrp)} ...
J. du Bellay詩
・ prière normande (1916) ...J. Herbertot
・哀しき十字架 la croix douloureuse (1917) {vo, p(org/orch)} ...
R. Lacordaire詩
・苦悩 détresse (1918) {vo, p(orch)} ...
H. Charasson詩
・古びた化粧小箱 le vieux coffret (1919) {msp, p} ...
R. de Gourmont詩
・ラ・フォンテーヌの3つの寓話 trois fables de la fontaine (1919) {vo, p} ...
J. de La Fontaine詩
・5つのフランスの詩 cinq ballades Françaises (1919) {msp, p} ...
P. Fort詩
・ le livre rose [orig. Nursery] (1920) ...
P.-J. Pain詩
・ le pain quotidien, 15 vocalises (1920) ...
9曲目が即興曲へ改作。
・ la cloche fêlée (1922) ...
C. Baudelaire詩
・ la mort des pauvres (1922) ...
Baudelaire詩
・ corbeille de fruits (1924) {vo, fl} ...
R. Tagore詩をH. du Pasquier訳
・ la part à Dieu: chanson populaire (1924)
・ロンサールのソネット sonnet doux fut le trait (1924) {vo, p(hrp)} ...
P.de Ronsard詩
・ Loué soit mon Seigneur (1925)
合唱曲 ・アヴェ・ヴェルム ave verum (1897) {sop, choir, orch}
・夏 l'été (1899) {vo, choir, orch}...
V. Hugo詩
・ pâques citadines (1900) {choir, orch(p)} ...
B. Croce Spinelli台本
・ spectacle rassurant (1901) {choir, orch}
・七重奏曲 septuor pour trois voix de femmes et quatuor à cordes (1909) {3f-vo, 2vln, vla, vc/3f-vo, p}
・野の墓碑銘 inscription champêtres (1914) {f-choir} ...
R. de Gourmont詩
・祈り les prières (1914) {vo, org(p)/vo, orch/vo, hrp, 2vln, vla, vc}
・天使の籠 panis angelicus (1919) {msp, choir, vln, vc, hrp, org}
・パーテル・ノステル pater noster (1919) {vo, hmn(p)}
・哀れみ深きイエス pie Jésu (1919) {vo, org}
・3声のミサ messe à trois voix (1919-1920) {3vo}
・ hymne à la naissance du matin (1920-1921/1924) {sop, choir, orch/orch} ...
P. Fort詩
・ tu es sacerdos (1920) {btn, choir, org}
・オラトリオ【イエスの鏡】 le miroir de Jésus (1923) {msp, hrp, choir, hrn, vln, vla, vc} ...
H. Gheon詩
編曲 ・ドビュッシー【夜想曲】 nocturnes (1908) {2p}
・ドビュッシー【海】 la mer (1908) {2p}
・ドビュッシー【映像】 images (1908/1913) {2p/4h}
・ドビュッシー【子どもの領分】 children's corner (1910) {orch}
・ドビュッシー【聖セバスチャンの殉教】 le martyre de Saint Sébastien (1911) {orch} ...
1,5幕はほぼドビュッシー
・ドビュッシー【おもちゃ箱】 la boîte a joujoux (1919) {orch} ...前奏曲と1幕冒頭はドビュッシー配置
・ドビュッシー【忘れられたアリエッタ】 ariettes oubliées, No.1, 5 (1921) {orch}
・ le jet d'eau (1922) {orch}
・ドビュッシー【版画】より「パゴダ」 pagodes (1923) {orch}
・ドビュッシー【ベルガマスク組曲】より「月の光」 clair de lune (-)
・リュリ【愛の勝利】 J.-B. Lully: le triomphe de l'amour (1922-1924)


カプレを聴く


★★★★☆
"Chamber Music :
Quintette / Deux Pièces / Improvisations / Suite Persane" (Musikproduktion Dabringhaus und Grimm: MDG 603 0599-2)

CALAMUS-ENSEMBLE : Dagmar Becker (fl) Kalle Randalu (p) Jutta Frank (fl) Washington Barella (ob) Reinhard Holch (ob) Wolfgang Meyer (cl) Dirk Schultheis (cl) Rainer Schottstädt (bssn) Ruth Krabbe (bssn) David Bryant (hrn) Gerhard Reuber (hrn)
カプレは,室内楽作品も幾つか遺していますが,現在最もまとまった形でそれらを聴けるのはこの盤です。MDGはドイツのレーベルで,演奏するカラムス・アンサンブルもドイツ系メンバーが中心。というと,「ドイツ人にカプレの洒脱さを表現し切れるのだろうか」と不安になりますが,どうしてどうして。ドイツのオーケストラや室内楽団のソリスト達によるこのアンサンブルは,1960年代,ドイツ・ユース・オーケストラの同窓生だったのが縁で再び旧交を暖める事になったのが謂れとか。いわば功なり名を遂げたソリストたちの凱旋録音,ないし同窓会なわけで,果たして演奏は素晴らしいものです。なお,「ペルシャ人」には管弦楽配置版もあり,そちらはマルコ・ポーロから録音が出ています。

★★★★★
"Le Miroir de Jésus / Inscription Champêtres" (Accord: 202332)
Bernard Tetu (direction) Hanna Schaer (msp) Isabelle Moretti (hrp) Solistes des Choeurs de l' Orchestre National de Lyon : Quatuor Ravel : Michaël Chanu (b)
「イエスの鏡」は,3部18曲からなる壮大な宗教抒情詩で,カプレの作品中では最も多く録音されている作品(知る限り4種類の競合盤があります)。事実最近もマルコ・ポーロから競合盤が発表されたばかりです。彼の特徴である高い内省性,神秘主義傾向,印象主義を咀嚼した含蓄豊かな語法の全てが最も色濃く体現されたこの作品は,カプレの作品の中でもピークをなす傑作であり,カプレを知る上ではまたとない作品と言えましょう。近代フランスの合唱・宗教音楽の分野では第一人者であり,カプレの音楽の最も良き理解者といえるベルナール・テテュは,カプレの演奏にかけてはこれ以上ない人選。彼の全面的な監修のもと録音された2枚のカプレ盤は,まさにカプレ演奏のみならず,フランス近代の合唱曲録音史上に燦然と輝く金字塔です。

★★★★★
"Messe, Prières et Mélodies :
Panis Angelicus / Mélodies sur des Poèmes de Rémy de Gourmont, Du Beilay, Ronsard, Paul Fort, Victor Hugo, Baudelaire / Les Prières / Pie Jésu / Messe à Trois Voix" (Accord: 204402)

Bernard Tetu (direction) Hanna Schaer (msp) Solistes des Choeurs de Lyon : Quatuor Ravel : Virginie Pochon (sop) Philippe Bernold (fl) Fabrice Pierre (hrp) Jean-Charles Fregosi (org) Noël Lee (p)
神秘的かつ静謐な響きを持つカプレの本領が最も良く発揮されるのは,間違いなく歌曲や合唱曲,宗教曲の分野。事実遺された作品の多くも歌曲や合唱曲。現在入手可能なあらゆるカプレ盤の中で,選曲,内容とも第一級の作品は間違いなくこのアコール盤でしょう。音楽監督を務めたテテュは,ミシェル・ピクマルやジャン・スリーゼと並び,フランスの宗教・合唱音楽指揮者界の第一人者。果たして手兵リヨン合唱団を率いて録音した2つのカプレ盤は,その圧倒的な完成度で他盤の追随を許しません。ハーモニア・ムンディから出た競合盤もあり,そちらも大変優れた内容なのですが,妥協を許さぬ本盤の徹底振りに軍配。カプレ芸術の粋を集めた,まさに珠玉の作品集です。

★★★★
"Le Vieux Coffret / Viens! une Flûte Invisible..* / La Croix Douloureuse / Détresse / Écoute* / Trois Fables de la Fontaine / Cinq Ballades Françaises" (Timpani : 1C1058)
Lionel Peintre (btn) Alain Jacquon (p) Étienne Plasman (fl)*
ティンパニのフランス歌曲集で男性といえば,まず真っ先に白羽の矢が立つのが,本盤の主役リオネール・ペイントル。国際的な受賞経験に乏しいので知名度は上がりませんが,パリ音楽院であのレジーヌ・クレスパンに師事した人物で,フランス国内ではメジャーなオケのほとんどと共演している実力者。熱の籠もった雄々しい歌声が持ち味なので,アルカイック趣味溢れるカプレなんて合うのかと思いますが,これが意外に違和感なく,アコール盤がギリシャのアテネの女神なら,こちらはローマの審問官といった面持ちで,なかなか面白く聴けます。収録曲の多くはアコール盤とダブりますが,『哀しき十字架』以降3曲は管見の限りこの盤でのみ聴ける珍品。『哀しき十字架』は『古びた化粧小箱』の習作めいており,『苦悩』はそのまま頭を抱えたくなるような作品であるなど内容は今ひとつですが,一聴の価値はあります。『聴け』はフルートのフラッター・タンギングが横溢する彼の遺作で,ピアノ抜き。カプレの諸作中最も東洋的で内省性の強い作品です。

★★★★☆
"Conte Fantastique / Les Prières / Divertissements pour Harpe / Deux Sonnets / Septuor pour Trois Voix de Femmes et Quatuor à Cordes" (Harmonia Mundi: HMC 901417)
Sharon Coste, Sandrine Piau (sop) Sylvie Deguy (msp) Laurence Cabel (hrp) Ensemble Musique Oblique
あまり録音のない『七重奏曲』を始め,アコール盤との競合も含むハーモニア・ムンディのカプレです。カプレのCDは数こそ少ないですが,その多くが内容秀逸で有り難い限り。このCDも,アコール盤に迫る好内容です。『三つの祈り』などは,アコール盤に比べちょっと弱いかなという気がしますが,『2つのソネット』が秀逸。ソプラノのサンドリヌ・ピオは,ロリータ風美声のアコール盤ヴィルジニエ・ポション女史に対し,正統派の典雅な歌声で上手いこと。アコール盤がない場合,こちらを代わりに購入なさっても一向に問題ないと思います。アンサンブル・ムジーク・オブリクは力強く推進力のある演奏で,こちらも上記アコール盤と好対照をなします。

★★★★
"Prix de Rome Cantatas :
Myrrha / Tout est Lumière (Caplet) / Le Printemps (Debussy) / L'aurore / Matinère Les Bayadères /La Nuit (Ravel)" (Marco Polo: 8.223755)

Jacques Grimbert (conductor) Sharon Coste, Brigitte Desnoues, Gaële Le Roi (sop) Marc Duguay (tnr) Jean-François Lapointe (btn) Choeur et Orchestre de Paris-Sorbnne
カプレの出世作であり,あのラヴェルをも退けたカンタータ「ミルラ」を含むこの盤は,現在では滅多に聴く事のできない巨匠らのローマ大賞出品作が一度に愉しめるという,印象主義を愛好するファンにはたまらない一枚です。審査員に迎合したからでしょうか,それとも作風がまだ未完成だったからなのでしょうか。いずれも,後年それぞれの形で大成する印象主義的語法はまだ控えめ。むしろダンディやフランクなどの影響の色濃い内容です。印象派というと,ドビュッシーとラヴェルばかりにスポットがあたるのですが,決して彼ら2人だけが傑出したイノベーターだったわけでも,彼等の力だけでその語法が完成したわけでもありません。少なくともこの時点で,いかにカプレが二代巨匠と肩を並べる作品を作っていたか,如何に印象主義という音楽が,有象無象の作曲家達の相互作用のうえに作り上げられていったものかを雄弁に語る一枚として,これは落とす事のできない録音と申せましょう。演奏陣の奮闘も光ります。ソプラノ陣は分けても素晴らしい。

★★★★☆
"A Saxophone for a Lady :
Rapsodie / Petite Pièce (Debussy) Légende (Caplet) Choral Varié (D'indy) Légende / Songs de Coppélius (Schmitt) Sonatine (Ravel)" (BIS : CD-1020)

Claude Delangle (sax) Odile Delangle (p)
前世紀初頭,ボストンにイライザ・ホール(Elisa Hall:1853-1924)という女性がおりました。地元の名士で外科医の夫を持ち,裕福だった彼女は,健康増進のため趣味でサックスを始めます。やがてボストン・オーケストラ・クラブの会長を務めるようになった彼女は,自分の演奏用に,欧州の作曲家へ次々と作品を委嘱するようになりました。『ある淑女のための作品集』という,限りなくナンパ盤を思わせるCDタイトルの真意はこうした経緯にあり,ジャケットの女性こそ,くだんのホール女史という訳。こうした事情を知れば,このCDの硬派さ加減はお分かり頂けることでしょう。演奏するのはパリ音楽院で教鞭を執るドゥラングル夫妻。ピアノ伴奏はオケに比べるとやはり物足りない感もありますけれど,ブレーズのインターコンテンポランにも抜擢されたソリストのサックスはコントロール完璧。素晴らしく甘美でビロードのように柔らかな音色は艶めかしく良く鳴り,演奏に関しては最近聴いたサックスものでは群を抜いての優秀盤。文句の付けようがありません。さらに,決して名品とまでは言えないものの,録音僅少なカプレの『伝説』を始め,ドビュッシーの珍曲『小品』,シュミットの『コッペリウスの歌』まで聴けるというおまけも付く。BISにはロクな盤がないと思っていましたが,これを聴いて反省しました。お薦め作。

★★★★
"La Chute de la Maison Usher (Debussy) / Le Masque de la Mort Rouge (Caplet) / Étude pour 'le palais hanté' (Schmitt)" (EMI : CDM 7 64687 2)
Georges Prêtre (cond) Christine Barbaux (sop) François Le Roux (btn) Pierre-Yves Le Maigat (btn-bass) Jean-Philippe Lafont (btn) Frédérique Cambreling (hrp) Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo
カプレの作品ではなぜか録音の多い『幻想的な物語』は,録音の多い室内楽版で聴くとかなりアヤシイ,ヒステリックな作品に聞こえますが,こちらの珍しいオケ版『赤い死の仮面』で聴くと,意外にもオネゲル彷彿の冷徹な響きを持つ逸品。この作品はオケ版で聴くほうがいい気がします。本CDは名匠プレートルが振ったおそらく決定版。ここに並んだ3作品(ドビュッシー『アッシャー家の崩壊』,カプレ『赤い死の仮面』,シュミット『幽霊屋敷』)は,いずれも『黒猫』で有名な怪奇小説家エドガー・アラン・ポーの小説が元ネタという繋がり。この盤では他にドビュッシーの『アッシャー家』も珍品。晩年の作らしく,有名な『ペレアスとメリザンド』などより数段深みと抽象性を増し,ちょうど『海』と『殉教』を歌劇ものの土壌の上で折衷したような充実の書法を堪能できます。

★★☆
"Songs of André Caplet :
Trois Fables de Jean de La Fontaine / Pie Jésu / Cinq Ballades Françaises / Trois Poèmes de Georges Jean-Aubry / La 'Part à dieu'" (Unicorn-Kanchana: DKP-CD9142)

Claudette LeBlanc (sop) Boaz Sharon (p)
カナダのソプラノ歌手,クローデット・リーブランク(ルブラン)は,ピアノのボーツ・シャロンと組んで,マイナー作家の発掘に尽力するアリガターイお方。印象派系統では,この盤の他にケックランの歌曲集を録音していて,こちらも現在競合盤ほぼ皆無という状況ですから確かに有り難い。ゼータクも言えん…のですが…。この演奏,残念ながら決して満足行くものではありません。良かれ悪しかれB級とは何か良く分かる一枚です。まずリーブランクの歌声は,カナダ訛りなのか巻き舌音のアクセントがやたらにきつく耳につくこと耳につくこと。もともとの声質は決して悪くなかったものと思うのですが,年ののせいかお太り遊ばしたせいか,喉にものがつまったようなその歌声も些か聞き苦しさを禁じ得ません。シャロンのピアノもペダル踏み過ぎだっちゅうの状態。一通りの歌曲を聴いて,さらにという方のみお探しになれば良いのでは。

★★★☆
"'Robert Casadesus Plays...
'Jeux d'eau (Ravel) / Quatuor No.1 / Prelude No.5 / Impromptu No.5 (Faure) / Cerdana - le retuor des muletiers (Severac) / Sonate pour Violoncelle et Piano (Debussy) / l'epiphanie (Caplet) / Sonate pour Flute et Piano (Casadesus) / Scherzo-Valse (Chabrier)" (EPM : 150072)

Robert Casadesus (p) Rene LeRoy (fl) Maurice Marechal (vc) Calvet Quartet
前世紀前半の仏ピアノ界を代表する名匠ロベール・カサドシュの演奏集。彼はドビュッシーやラヴェルの演奏も遺していますが,ソニーから出たそれらは絶頂期を遠く過ぎたヨレヨレの演奏で大きくミソをつけてしまいました。その点ここに収まったものは1920年代から1930年代のもので,輝くばかりの技巧の横溢する名演揃いです。カプレの『エピファニ』からは,「小さな黒人の踊り」を収録。曲は弦を掻きむしるようなヒステリックなものであまりお薦めできませんが,併録の自作自演が良いです。名手マレシャルとの合奏で,演奏そのものはピカイチ。