Cの作曲家


ロベール・カサドシュ Robert Casadesus (1899-1972)

今世紀前半のフランスを代表するピアニスト。1899年4月22日パリ生まれ。間もなく母を亡くしたため,彼は祖父母の元で育てられた。ピアニストであった叔母のロズ・カサドシュ(Rose Casadesus)にピアノを学び,1908年6月6日のコメディア神童コンクールで入賞(優勝はイヴォンヌ・ルフェビュール)。1912年に10歳でパリ音楽院ピアノ科へ入学し,ルイ・ディエメルに師事。翌年には一等で修了。1917年にはコンサート・デビューを飾り,1919年にはクサビエ・ルロウの和声法科も一等で卒業した。1921年にはガブリエル・ロートと結婚。コンサート・ピアニストとして活躍し,欧州や北南米で演奏活動を行う傍ら,作曲も嗜み,印象主義に深く傾倒した作品を遺す。演奏活動の傍ら教育活動も熱心に行い,死の直前までアメリカン音楽院フォンテヌブロー校で,演奏解釈法の教鞭を執り続けた。レジオン・ドヌール3等勲章(1964年),エジソン賞(1965年),オルドル・ドゥ・レオポルド(Chevalier de l'Ordre de Léopold=ベルギー)3等勲章(1971年),ブラームス賞(ドイツ)受賞。1972年9月19日死去。なお,正確に表記すると,彼の名前は「カザドシュ」と記述する方が正しいと思われるが,ここでは一般に流布している表記に従っていることを付記しておく。(関連サイト:ロベール・カサドシュ協会


主要作品

管弦楽 ・管弦楽のための組曲第1番 suite pour orchestre No.1 (1927)
・交響曲第1番ロ長調 symphonie No.1 en ré majeur (1934)
・管弦楽のための組曲第2番 suite pour orchestre No.2 (1937)
・プリンストン交響曲 symphonie No.2 'Princeton' (1941)
・ラモーの名による組曲 suite pour orchestre No.3 (1942)
・交響曲第3番 symphonie No.3 (1947)
・交響曲第4番 symphonie No.4 (1954)
・ハイドンの名による交響曲第5番 symphonie No.5 sur le nom de haydn (1959)
・交響曲第6番 symphonie No.6 (1965)
・交響曲第7番『イスラエル』 symphonie No.7 'Israël' (1967)
協奏曲 ・ピアノ協奏曲第1番 concerto pour piano No.1 (1926) {p, orch}
・ヴァイオリン協奏曲 conceto pour violon et orchestre (1931) {vln, orch}
・二台のピアノと管弦楽のための協奏曲 concerto pour deux pianos et orchestre (1933) {2p, orch}
・演奏会用小品 concertstück (1937) {p, chamber-orch}
・フルート協奏曲 concerto pour flûte et orchestre (1944) {fl, orch}
・ピアノ協奏曲第2番 concerto pour piano et orchestre No.2 (1944-1945) {p, orch}
・チェロ協奏曲 concerto pour violoncelle et orchestre (1947) {vc, orch}
・カプリッチョ capriccio (1952) {p, strings}
・ピアノ協奏曲第3番 concerto pour piano No.3 (1961) {p, orch}
・三台のピアノと弦楽のための協奏曲 concerto pour trois pianos et orchestre à cordes (1964) {3p, orch}
室内楽 ・序奏とポロネーズ introduction et polonaise (1924) {vc, p}
・ピアノ三重奏曲第1番 trio No.1 (1924) {vln, vc, p}
・2台のフルートのための小品 pièces pour deux flûtes (-) {2fl}
・ヴァイオリン・ソナタ第1番 sonate pour violon et piano No. 1 (1927) {vln, p}
・五重奏曲 quintette (1927) {fl, vln, vla, vc, hrp}
・ヴィオラ・ソナタ sonate pour alto et piano (1928) {vla, p}
・弦楽四重奏曲第1番 quatuor à cordes No.1 (1929) {2vln, vla, vc}
・ピアノ五重奏曲 quintette pour piano et quatuor à cordes (1932) {2vln, vla, vc, p}
・フルートとピアノのためのソナタ sonate pour flûte et piano (1934) {fl, p}
・2台のハープのためのソナタ deux pièces pour harpe (1935) {hrp}
・チェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1935) {vc, p}
・オーボエ・ソナタ sonate pour haubois et piano (1936) {ob, p}
・クラリネット・ソナタ sonate pour clarinette en si bémol et piano (1936) {cl, p}
・3つの間奏曲 trois intermezzi (1936) {fl, ob, cl, bssn, hrn}
・弦楽三重奏曲 trio à cordes (1937) {vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第2番 quatuor à cordes No.2 (1940) {2vln, vla, vc}
・ピアノ四重奏曲 quatuor pour piano et cordes (1940) {vln, vla, vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第2番 sonate pour violon et piano No. 2 (1941) {vln, p}
・三重奏のためのソナタ sonate pour flûte, violoncelle et piano (1943) {fl, vc, p}
・2台のヴァイオリンのための組曲 suite pour deux violons seuls (1944) {2vln}
・木管三重奏曲 trio pour haubois, clarinette et basson (1947) {ob, cl, bssn}
・九重奏曲 nonetto (1949) {2vln, vla, vc, ob, cl, bssn, fl, p}
・弦楽四重奏曲第3番 quatuor à cordes No.3 (1950) {2vln, vla, vc}
・ショーソンに捧ぐ hommage à Chausson (1954) {vln, p}
・ピアノ三重奏曲第2番 trio No.2 (1956) {vln, vc, p}
・弦楽四重奏曲第4番 quatuor à cordes No.4 (1957) {2vln, vla, vc}
・六重奏曲 sextuor (1958) {ob, hrn, cl, bssn, fl, p}
・幻想曲 fantaisie (1959) {fl, p}
・2つの小品 deux pièces (1960) {bssn, p}
・弦楽七重奏曲 septuor à cordes (1961) {2vln, 2vla, 2vc, b /strings}
ピアノ曲 ・空想の航海 le voyage imaginaire (1916)
・6つの小品 six pièces (1920) {2p}
・24の前奏曲 vingt-quatre préludes (1924)
・3つの子守歌 trois berceuses (1926)
・ピアノ・ソナタ第1番 sonate pour piano No.1 (1930)
・8つの練習曲 huit études (1939)
・ピアノのための組曲第2番 suite pour piano No.2 (1941)
・3つの地中海風舞曲 trois danses méditerranéennes (1943) {2p}
・パリの自由のための歌 chant pour la libération de Paris (1944) {2p}
・トッカータ toccata (1946)
・子どもらしい6つの小品 six enfantines (1950)
・ファリャのドビュッシー讃による変奏曲集 variations d'après l'hommage à Debussy de M.de Falla (1951)
・ト調の組曲 suite en la (1956)
・3つの舞曲 trois danses (1956) {p /orch}
・ピアノ・ソナタ第4番 sonate pour piano No. 4 (1957)
・2台のピアノのためのソナタ sonate pour deux pianos (1960)
・3つの子守歌 trois berceuses (1966)
・即興曲 impromptu (1967)
歌曲/合唱曲 ・3つのロンデル trois rondels (1935) {vo, p}
・溜息 spleen (1923) {vo (choir), orch}
・7つのギリシアの墓碑銘 sept épigrammes sur des tombeaux Grecs (1958) {vo, p}


カサドシュを聴く


★★★★★
"Complete Works for Violin :
Sonata No.1 / Sonata No. 2 / Suite pour Two Violins / Hommage à Chausson" (Koch : KIC-CD-7528)

Fritz Gearhart (vln) John Owings (p) Kathryn Lucktenberg (2'nd vln)
20世紀前半のフランスを代表する大排気量型ピアニストとして,ちょっとクラシックを囓った人なら一度は名前を聞いているであろう有名人カサドシュ。しかしその陰で,生涯70曲近い自作曲を残すほど作曲にも御執心だったことはほとんど知られていず,本人が吹き込んだ自作自演を除いて,これまで日の目を見ることはありませんでした。本盤はその未開の地に大いなる第一歩を踏み出した記念すべきCDで,彼のヴァイオリン曲を数点収録しています。ここでの彼の筆致は,意外にもドビュッシアンなモダニズムが基調。手すさびとは思えぬほど出来が良い。ポスト・フランク的な叙情性とモダニズムが横溢する幽玄な第1番は,彼に作曲を手ほどきし,旋法性の高いその作風に強い影響を与えたマリー・フランソワ・エマニュエルに献呈されたもの。後期ミヨーを思わせる和声法がアクセントとして用いられる第2番は,同じく大ヴァイオリニストのジーノ・フランチェスカッティに献呈。ショーソンに捧げた掉尾の楽曲は,CHAUSSONの文字を旋律の進行に読み替えるという手法で,ラヴェルの『フォーレの名による子守歌』や『ハイドンに捧ぐ』などに倣ったものでしょう。それらに共通しているのは,技巧派でならした彼らしく,メロディというよりはリフに近い器楽的な主旋律。ロパルツやドビュッシー,ラヴェルの薫陶を得たリリカルな和声が,フランスらしいエスプリを添え,無名なのが信じられぬ良さ。演奏も軽く滑らかでヴァイオリンはグリュミオー彷彿の美音に溢れ,掛け値なしに素晴らしい。嬉しすぎるCD化です。

★★★★☆
"Symphonie No.1 / No.5 'Sur le Nom de Haydn' / No.7 'Israël'" (Chandos : CHAN 10263)
Howard Shelley (cond) Natasha Jouhl (sop) Alexandra Gibson (msp) Mark Wilde (tnr) Michael Druiett (bass) Northern Sinfonia and Chorus : Gateshead Children's Choir
元ブレーズの懐刀にして,ラッブラの好録音があるハワード・シェリー氏は指揮者としてもなかなかのキャリア。ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの首席客演指揮者,ウプサラ室内管の音楽監督と首席指揮者を歴任。NY音楽祭賞金メダルの受賞経験もあるようです。そんな彼が,ナクソスの好録音群でお馴染みノーザン・シンフォニアを振ってカサドシュ交響曲三品を録音しました。どういう由縁かは良く分かりませんけれど,これまで有名人には悉く無視されてきたカサドシュが一線オケに録音してもらったこと自体,充分に事件。細かい点はともかく演奏に文句なんて申せません。前世紀前半を代表する大排気量ピアニストだった彼の作風は,やや透き間恐怖症気味の器楽的なリフを延々と連ね,色彩感溢れる和音でその主旋律をコラージュして体裁を整える新古典書法がベース。ポスト・フランク趣味を感じさせるヴァイオリン・ソナタに比べると,管弦楽ではその姿勢が大きく前面に出て,構成はマッシブになります。それでいてミヨーの多調性で人を喰うところはなし。分かりやすく形容するなら仏版ウォルトンでしょうか。絢爛和声と凝ったリズムで音の大伽藍・・と期待も最高潮。で,確かに半分それは当たってるんですが・・。正直なところ,大編成では,二足の草鞋を履く彼の限界もまた覆いようもなく露呈してしまう。彼の書く主旋律はいつも,簡素な新古典主題の装飾的反復が基調。メロディ(上下の波形軸)もリズム(横の拍節軸)も一本調子で起伏が乏しいため,編成が大きくなると,どうしても間延びしてしまう。これが専業作家なら,管弦楽的効果を計算して書きっぷりをシフトするのですが,ピアノが基本のカサドシュはあくまで主旋律と伴奏(あるいは左右の手)で曲を書くため,声部が分離してしまう。同じ管弦楽でも協奏曲ならさほど気にならないところに,ピアノの席からオケを見て曲を書く彼の限界が見えてしまう皮肉。曲想自体はモロ正統派だけに,書き手のご職業が透けてしまう曲想は少々興醒めかも。でも,時にミヨーへ変貌するこのカメレオン作家の,まともな面構えを愉しむには充分良い出来。和声フェチな皆さんなら溜飲が下がることでしょう。

★★★★★
"Variations d'Après l'Hommage à Debussy de Falla / Sonates pour Piano No.1-No.4" (Opus Millésime : GCK 20042)
Jean-François Bouvery (piano)
カサドシュの身内と思われるグレコ・カサドシュが創設した【カサドシュ協会】は,2004年に4枚からなるカサドシュ作品集を発表。本盤はその中の一枚で,4巻のピアノ・ソナタ,ファリャの『ドビュッシー礼讃』による変奏曲を収録したものです。リズムの輪郭を確実になぞりながらメカニカルに展開される右手。その主旋律と時にポリリズミックな絡みを見せながら,バロック的な輪郭を与える左手。バッハからミヨーへ連なる新古典主義者の美学をフォローしながら,ケックラン風の節回しとラヴェル的な和声感覚で煌びやかに装飾された楽曲は,堅牢でいて典雅です。基本的に本業がピアニストのカザドシュは,フォーマットが変わろうと,基本的にどれも同じ流儀に則した筆運び。ボザに通じる器楽的でメカニカルな主旋律とカッチリとした左手のヴォイシングがベースです。やはり,この人はどんな曲でも,ピアノを弾く目線で書いていく人なんでしょうねえ。それだけに,向いているのもやはりピアノ曲か,ピアノ伴奏の器楽曲。大編成の管弦楽に感じるメロディの扁平さや一本調子さは,器楽モードの本盤では欠点として響きません。演奏するジャン=フランソワ・ブブリー氏は1969年ロワレ・シェール(Loir-et-Cher)生まれ。日本では無名ながら,ブロワ音楽院を経てパリ高等音楽大学へ進み,ピアノと室内楽で一等。プレトリア,ヴェルチェリ,ショパン国際に入賞したほか,カサドシュ国際4位,カーン及びマガン・コンクール優勝の経歴を誇る腕利き。巨人カサドシュのお家芸であるピアノ曲を演奏する・・これだけで,相当なプレッシャー。敢えてその困難へ挑む心意気は,オノレの確かな技量に裏打ちされたものでしょう。柔らかく跳ね回る運指と,ジャズ的ですらある軽やかで即興性豊かなリズム。生き生きと原曲の相貌を描ききる演奏は,自信を裏付け。良い演奏で録音して貰って,カサドシュ氏も満足してるんじゃないでしょうか。惜しむらくはこのレーベル,親族経営だからか異様にマイナー!買って欲しいのなら,せめて手の届くとこに置いてくださいよ・・。

★★★★☆
"24 Préludes pour le Piano / Impromptu / Toccata / Six Enfanties" (Opus Millésime : GCK 20043)
John Owings (piano)
2004年,突如4枚からなるカザドシュ作品集が世に出て,ちまたを騒がせました。その第三集にあたる本盤は,1924年に書かれた初期の前奏曲集に,1940年代後半の二作品,そして晩年の1968年に書かれた即興曲を併録したピアノ独奏曲集の第二巻です。良く見ると,なんとピアノを弾いているのが,1975年のカサドシュ国際優勝者ジョン・オーウィングス。コッホ盤でも顔を出していた彼は,10%ほどの余裕を残し,軽やかかつきびきびと,メリハリ豊かに弾き仰せる。繰り出されるアルペジオは,粒も揃っているうえ,一つ一つのリズムに破綻がない。これだけメリハリ豊かかつ軽やかに弾けるなら,ラヴェルをやってもいい演奏をなさるのでは。前奏曲集はそのラヴェルに献呈されたもの。煌びやかな和声感覚と,簡素ながら堅牢な形式に立脚するのは,ラヴェルに良く倣ったことの表れでしょうか。題材に加え,演奏時間がおおよそ1分から2分の小品集。掉尾の6曲も,標題からしてシリアスな作品ではなく,ブブリーの弾いた1枚目に比べると,主題曲色の濃い,軽めの曲想のものが多く含まれている。純粋に曲を愉しもうとする向きには,少しばかり面白みの少ない録音かも知れません。ただ,こうした性格が却って,かっちりした形式とリフ寄りの主旋律,それらを煌びやかに下支えするラヴェル的な和音と快活なリズムによって曲を組み上げるのを好んだ彼の,作曲家としての嗜好を明瞭に映し出しているのもまた確か。掉尾の子ども向け作品では,性格上余分な音を抜き取って構造を簡素化するだけに,擬古典ベースで基本に忠実な彼の作曲スタイルが鮮明に窺えて,曲を聴くのとはまた違った楽しみがありました。

★★★★
"Trio No.1 / Sonate pour Violoncelle / Hommage à Chausson / Trio No.2" (Opus Millésime : GCK 20044)
Yves Henry (p) Gilles Henry (vln) Paul Julien (vc)
カサドシュ家のご子息グレコさんが半ば自主制作まがいに経営するオーパス・ミレジームは,カザドシュの作品や音源に光を宛てるためだけに存在している謎会社。コッホから初めてカザドシュのヴァイオリン曲集が登場し,ソニーがカザドシュの自作自演を二枚も復刻してくれたときは大層驚きましたけれど,「これで当分,次はないだろう」と思っていただけに,2004年突如,この謎会社から4枚もカザドシュの作品集が出たうえ,イギリス最大手のシャンドスまでが尻馬に乗り,管弦楽を出すに至って,あまりの俄かバブルぶりに目が点になるのを禁じ得ませんでした。本盤は,二編のピアノ三重奏曲に,チェロとヴァイオリンそれぞれのピアノ伴奏曲を1曲ずつ併録した室内楽選で,姉妹品である弦楽四重奏曲集と並べて,室内楽における彼の力量を推し量ることのできる得難い録音です。シャンドスの管弦楽と同様,編成が変わっても,カザドシュの筆致は基本的に大きな変化がありません。技巧的なピアノのアルペジオに乗り,ちょうどボザの如く,つらつら息の長いリフが繰り出される。モーラン辺りに通じる暗めの色調と煌びやかな分散和音,強い推進力を帯びたマッシブな拍動が,ともすれば一本調子になりかねない主旋律に起伏を与えて緊張感を生み出します。三人編成のこの盤では,管弦楽で感じられたスカスカ感は希薄になり,やはり作曲家としても演奏家としても,彼はミニアチュアリスト(機動性豊かな小規模編成で力を出す人)なのだと再確認しました。曲はどれもドラマチックで美しいだけに,残念なのは演奏が今ひとつなことですか。ジレ・アンリさんのヴァイオリンは,お世辞にもピッチが正確ではありませんし,音色はやや痩せて棘があり,イヴさんに比べるとかなり格下。チェロのポール・ジュリアンさんも,同様の傾向が見受けられる。これがなければ五つ星なんだけどなあ・・。世の中上手くいかんもんです。

★★★★
"Quatre Quatuors" (Opus Millésime : GCK 20041)
Quatuor Manfred : Marie Béreau, Luigi Vecchioni (vln) Vinciane Béranger (vla) Christian Wolff (vc)
赤字覚悟で大挙4枚のカザドシュ作品集を製造したこのレーベル。貧相だった作曲者の音盤カタログを,忽ち豊かにした功績は大と言わねばなりません。本盤は,作曲者が1930年から1957年にかけて作曲した弦楽四重奏曲4編を全集化したもので,申すまでもなく世界初録音です。かっちり明瞭な拍動上で,リフ主体のエネルギッシュな主旋律が淀みなくリズムの輪郭を作り,その骨格をラヴェリアン的な和声感がたっぷりと飾り立てていく。どこかボザやプーランクのそれに通じる器楽向けの書法は,ここでも健在。「この人はやはり,重い編成では一本調子になり,機動力の増す小編成で本領を発揮するタイプだな〜」との印象を再強化することになりました。ミヨーと並ぶ「大いなるワンパターン」ぶりは流石といえましょう。で,早々と興味は演奏に。残念ながら,先の三重奏曲の録音と同様,演奏の方はもう一声でした。いやね,決してヒドイんじゃありませんよ?でも,ハスキーで垢抜けのしない音色と,やや腰の据わらないピッチ。良くあることとはいえ,せっかくの初録音。丁寧に音大を回れば,もう少し良い演奏ができて,演奏機会に飢えてる人は一杯いるでしょうに。ちなみに本盤,実は二枚組仕様で,演奏を担当したマンフレッド四重奏団のリハーサルやインタビュー光景を収めたDVDになってます。これが付いて実勢価格は約500円増し。どうでしょうか皆さん。こんな辺境に手を出してくる購買者は,カザドシュ大好き(私のこと)か,マンフレッド四重奏団の追っかけ(少なそう・・失礼)のどっちかでしょう。彼らの関係者は恐らく大半がご祝儀でもらうでしょうから,購買者の大半は曲目的。なんで4枚のうちこの録音だけ,かくも微妙な「特典」を付けることになったんですかねえ・・。

★★★★☆
"'Mémoires :
' Jeux d'eau (Ravel) Prélude No.5 / Impromptu No.5 (Fauré) Cerdaña - le retuor des muletiers (Séverac) 12 Préludes(Debussy) Sonate pour Flûte et Piano (Casadesus) Concerto pour Piano et Orchestre No.2" (Cascavelle : VEL 2012)

Robert Casadesus (p) René LeRoy (fl) Leopold Stokovski (cond) New York Philharmonic
ピアニストとしては泣く子も黙る名匠と見なされているいっぽう,作曲家としては浮かばれない状態が続いているカサドシュ。彼の作品集としては上記コッホ盤でようやくまとめて聴くことが出来るようになりましたが,それ以前は,EPM盤で唯一『フルート・ソナタ』が聴けるのみでした。その上記EPM盤の音源に,初CD化となる『ピアノ協奏曲第2番』がカップリングされての再CD化。前半を彩る演奏家としてのカサドシュが凄腕なのは今さら申すまでもないことで,フォレの『即興曲』に聴けるコロコロ運指と余裕たっぷりの技巧には後光が差して見えるくらいですけれど,そんな美辞麗句は余所で語り尽くされているでしょうから申しません。カサドシュには妻子仲良く共演したトリプル・コンチェルトも録音があり(下参照),そちらではミヨー彷彿の多調ワールドを展開。いっぽう,こちらのコンチェルトは,極めて正統派の新古典趣味。オドロオドロシイ多調性で斜に構えたポーズをとることなく,技巧的なリフをカラフルな和声と緻密な拍節構造でがっちりと下支え。一聴ミヨーのピアノ協奏曲の影響顕著ながら,一方でロシア国民学派を思わせる重厚なロマンティシズムにも溢れた筆致は,大ピアニストならではの絢爛さと視野の広さが同居しており,溜飲が下がります。それにしても,こうしてみるとカサドシュの作品って,自作自演で結構残ってるじゃないですか。ちびちび小出しにしないで,まとめて出してくださいよ,コロムビア様。

★★★★☆
"Toccata / Three Méditerranean Danses / Sonata No.2 for Violin / Sextet / Concerto pour 3 Pianos and Orchestra" (Sony : 5054852)
Robert Casadesus, Gaby Casadesus, Jean Casadesus (p) Zino Francescatti (vln) Orchestre des Concerts Colonne
一体どうしたことでしょう。Cascavelle盤に続いてカサドシュ作品集がもうひとつ復刻されました。それまではCDRでのみ所蔵していたトリプル・コンチェルトがCD化されたうえ,吹奏楽とピアノのための六重奏曲,3つの地中海風舞曲,トッカータまで併録されての贅沢なプレスです。カサドシュ一家が勢揃いしてピアノを弾き,そこへ懇意のお仲間たちが集合した演奏は,本業における主役の輝かしい経歴のお陰で高水準。有り難いことこのうえありません。彼はときにロマンティックな面も見せるものの,基本的にはフォーマリストで,曲を書くときもメロディよりリフ,流動性より形式性を重んじる傾向が強い。これは彼が爆烈技巧の持ち主であったことも充分関係しているでしょうが,もう一方で,同時代に六人組の連中がいたことも,また深く関わっているように思います。この作品集に収められた自作曲は,期せずしてカサドシュの持つ六人組的な側面をクローズ・アップした内容となっている。多調性を採り入れ,過度になりすぎない程度に人を食った仰々しさを見せる。擬古典的なリフと,素朴なロマン派旋律が立ち現れるさまは,ミヨーの作品に良く似ています。カメレオンですねえ。六人組の洒脱な音楽性が好きな方は,おそらく本盤あたりが最適。お求めいただければ,穴盤ないし穴作曲家としてかなり興じ入って頂けると思います。反面,ポスト・フランキズムや印象主義的な和声あしらいに趣を感じる方は,コッホ盤のヴァイオリン作品集に比べ,物足りなさを禁じ得ないのではないでしょうか。

★★★★
"'Robert Casadesus Plays...
' Jeux d'eau (Ravel) / Quatuor No.1 / Prélude No.5 / Impromptu No.5 (Fauré) / Cerdana - le retuor des muletiers (Séverac) / Sonate pour Violoncelle et Piano (Debussy) / l'epiphanie (Caplet) / Sonate pour Flûte et Piano (Casadesus) / Scherzo-Valse (Chabrier)" (EPM : 150072)

Robert Casadesus (p) René LeRoy (fl) Maurice Maréchal (vc) Calvet Quartet
演奏の片手間に作曲をする人は幾らも居ますが,交響曲7曲を含む69作品も遺すとなると,これはもう片手間とはいえますまい。私事ながら,そんな彼の裏の顔を初めて知ったのがこのCDでした。標題にある通り,本盤の編纂姿勢は基本的に演奏家としての彼に焦点を当てたもの。リサイタル・ピアニスト的な摘み食い盤でも充分売り物になるだけの素晴らしい技巧に裏打ちされた,軽やかな筆致は溜息が出るほど。フォレの独奏なんてもう,普段聴いてる盆弱なピアノ弾きがヤマハ音楽教室にしか聞こえないほどの輝かしさですけれど,その輝きの陰で遠慮がちに併録された「フルートとピアノのためのソナタ(3曲)」(作品18)こそ掘り出し物です。イベールやダマーズを思わせる,典雅な擬古典書法。急速調で淀みなくアルペジオを弾くことが求められる技巧的な第3楽章は,超絶技巧の弾き手であったカサドシュの作品がもつ特徴でもあります。精々カプレや六人組どまりだった当時,ノーマークのままこれを聴いたときの驚きは忘れられませんですねえ。なまじ弾き手としてベテルギウスであったがゆえもう一つの顔が隠れてしまうとしたら,こんな勿体ないこともありません。我が国の心と権力あるプロの演奏家諸兄は,{ピアノ弾きが作曲=片手間=凡庸}のような分け隔てや色眼鏡で見ることなく,自らの耳で新たな作品を探し,教科書的な歴史観にとらわれることなく音の持つ力で評価して,プログラムを構成していただきたい。それこそ音楽家の良心であり,なさるべき仕事じゃないでしょうか。

★★★★
"Jean and Robert Casadesus :
Concerto en Sol / Concerto pour la Main Gauche (Ravel) / Concerto pour Piano (Bach) / 6 Pièces (Rameau) / La Bandoline
et al.(Couperin) / Improvisation No.5 (Poulenc) / La Tendre / LaModerne (Françaix) Valse Lente / Larghetto (Tailleferre) Sardane / Résonances / Toccata (R.Casadesus) / 11 Sonates (Scarlatti)" (EMI : 7243 5 64967 2 9)
Jean Casadesus : Robert Casadesus (p) Pierre Dervaux : André Vandernoot (cond) Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire
こちらも,カサドシュのピアノ曲を3曲収めたCD。最近,カサドシュ協会が自主制作の形で,彼の自作自演録音をまとまった形で出しましたけれど,一般人には入手困難。となれば,こういう大手のCDにも,いまだ自作落ち穂拾い用として多少の存在価値はあることでしょう。ここに収められた自作自演はピアノ独奏曲が3曲。モンポウ,セブラック,シャブリエらを思わせる土臭いリフと強靱なリズムが特徴的で,南仏色が濃いです。ちなみに,ジャケットで隣りに佇む目つきの悪い青年は彼の息子,ジャン・カサドシュさん。このCDの大半で演奏しています。彼もピアニストとして活躍しましたが,父の死と前後して亡くなってしまいました。カサドシュ家はいわば,代々演奏家の家柄だったというわけです。決していの一番にお薦めとはいかないものの,彼のピアノでラヴェルの『ピアノ協奏曲』が聴けたのは,好事家の一人としては思わざる収穫でした(買う前はロベール氏が弾いてるのかと思っていた)。なお,本盤は企画ものなので,時間が経つと入手は困難になるかも。興味がおありの方はお早めに・・。

(2001. 12. 28 upload)