Cの作曲家


ジャン・クラ Jean Emile Paul Cras (1879-1932)

フランスの軍人,作曲家。1879年5月22日ブレスト(Brest)生まれ。音楽好きの父の影響で,6歳から作曲を始め,作曲はほぼ独学で修得したと思われる。海軍学校に17歳で進学し,1898年に卒業。軍属として各地を訪れた。1900年,20歳でアンリ・デュパルクと運命的な出会いを果たす。クラはデュパルクを生涯の師とし,休暇中の僅か3ヶ月間ではあったが直接師事した。デュパルクは彼の才能を高く評価し,後に彼を評して「我が魂を継ぐもの(le fils de mon âme)」と呼んだと言われる(デュパルクの勧めで,当時一時的にパリ音楽院でアレクサンドル・ギルマンにも師事した)。その後は第一次大戦への従軍を経て,後方部隊の司令官となり,生地ブレストの海軍学校で教鞭を執る傍ら,作曲を続けた(彼は航海用機器の発明も手がけている人物であり,発明の幾つかは現在でも使用され,むしろ航海術の世界で有名といえる)。作風はドビュッシーやラヴェルの影響下にありながらも,保守的なロマン派の情緒を併せ持つ。1932年9月14日,ブレストにて53歳で死去。(関連ページ : ジャン・クラ ムジカ・メモリア運営)


主要作品

歌劇 ・歌劇【ポリュペモス神話】 Polyphème (1922) {6vo, choir, orch}
・歌劇【異国の騎士】 le chevalier étranger (1932)
管弦楽 ・子どもの魂 âmes d'enfants (1918) {orch}
・航海日誌 journal de bord (1927) {orch}
協奏曲 ・伝説 légende pour violoncelle et orchestre (1929) {vc, orch}
・ピアノ協奏曲 concerto pour piano et orchestre (1930) {p, orch}
室内楽/器楽曲 ・チェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1900) {vc, p}
・ラルゴ largo en fa (1901) {vc}
・ピアノ三重奏曲 piano trio (1907) {p, vln, vc}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes No. 1 (1909) {2vln, vla, vc}
・ピアノ五重奏曲 quintette pour piano et quatuor à cordes (1922) {p, 2vln, vla, vc}
・即興曲 impromptus (1925) {hrp}
・弦楽三重奏曲 trio à cordes (1925-1926) {vln, vla, vc}
・二重奏の組曲 suite en duo (1927) {vln, p}
・五重奏曲 quintette (1928) {hrp, fl, vln, vla, vc}
・4つの小品 quatre pièces (1926/1929) {vln, p}
ピアノ曲 ・秘められた詩 poèmes intimes (1902/1911) {p}
・舞曲 danze (1917){p}
・風景 paysages (1917) {p}
歌曲/合唱曲 ・7つの歌曲 sept melodies (1900) {vo, p}
・夕暮れの甘さ douceur du soir (1901) {btn, p}
・4声のミサ messe à quatre voix (1901-1910?) {4vo}
・叙情詩の捧げもの l'offrande lyrique (1920) {sop, p}
・映像 image (1921) {sop, p}
・泉 fontaines (1923) {btn, p}
・5つの4行詩 cinq robaiyat (1924) {btn, p}
・6つの詩曲 six poèmes (orch.1924) {vo, p/vo, orch}
・パンの笛 la flûte de pan (1928) {pan-fl, vln, vla, vc, sop}
・海の黄昏 soir sur la mer (1929) {btn, p}
・2つの民謡 deux chansons (-) {btn, p}
・哀歌 élégies pour chant et orchestre (-) {vo, orch}


クラを聴く


★★★★
"Journal de Bord / Âmes d'enfants / Légende pour Violoncelle et Orchestre / Concerto pour Piano et orchestre" (Timpani : 2C2037)
Henri Demarquette (vc) Alain Jacquon (p) Jean-François Antonioli (cond) Orchestre Philharmonique du Luxembourg

本盤はクラの管弦楽作品が聴ける唯一の2枚組CDで,いずれも世界初録音です。クラの作品はドビュッシーの影響が非常に顕著で,平行和音を多用した色彩的な和声や,クロマチックで不明瞭な主題・旋律などにそれをはっきりと見ることができます。この大編成作品でもそれは変わりありません。しかしその一方,やや作風が大味。本盤はそれを示す良い例ではないでしょうか。僅か4作品でCD2枚という体裁が,何よりも雄弁にそれを物語る。田舎暮らしの影響でしょうか。曲の密度に頓着せず,だらしなく間延びした主題の冗長さは,本家ドビュッシーやカプレなどに比べると明らかに1ランク落ちます(トゥルヌミールの管弦楽作品をご存じの方は,あれを連想していただくと宜しいかと思います)。指揮を務めるアントニオリは,クラベスにマルタンやドビュッシーの名録音を残したピアニスト。本業でも知的抑制の利いた澄んだタッチで淀みなく作品を現前する大変に優れた技量の持ち主ですが,最近は指揮者業でも健闘。ここではルクセンブルク管を率いて,優れた演奏を聴かせます。

★★★★★
"Polyphème - Drame Lyrique" (Timpani : 3C3078)
Armand Arapian, Sophie Marin-Degor, Yann Beuron, Valérie Debize, Rémi Corbier, Laure Baert (vo) Bramwell Tovey (cond) Orchestre Philharmonique du Luxembourg
今や最も熱いオケへと変貌したルクセンブルク放送がまたしても壮挙を達成。今度は,軍人でありながら作曲家だった異色の才人クラの遺した舞台大作『ポリュペモス神話』を,3枚組で豪華にCD化しました。ポリュペモスが絡む神話は,オデュッセウスの冒険で目を潰されるポセイドンの子として出てくるものと,海の妖精ガラティアに恋するものの2種類あり,ジャケットからお分かりの通りこのポリュペモス神話は後者です。ガラティアにはアキスという恋人がおり,ポリュペモスの恋は叶わぬ夢。恋慕の情に苛まれ,彼女の美しさとつれなさに向けた複雑な想いを笛に込めるポリュペモス。森に迷いこんだところで恋する2人に出会ってしまう。嫉妬の念で我を忘れた彼は二人に向かって岩を投げ,アキスを殺してしまった・・。そんな泥臭い筋とは裏腹に,内容はドビュッシーの『ペレアス』辺りを彷彿させる素晴らしいポスト・ロマン派オペラ。管弦楽はやや薄味なクラとしては,間違いなく代表作でしょう。惜しむらくは,若干演奏陣の力量にムラがあることでしょうか。ピクマル率いるイルドフランス合唱団は,マルコにロパルツやデュリフレの合唱曲を録音しておりお馴染みなんですが,国際水準で見ると,やはり響きの肌理が粗めで,質感がザラついている。これはルクセンブルク管も同様。本盤と前後するクリヴィヌとのコンビのロパルツでは,あれだけ完璧なプリマ振りを披瀝していたこのオケが,指揮者一人代わってしまうだけで,指先まで神経の通わないバレエを踊ってしまうのは不思議というか何というか。指揮者はジャズ畑で活動しているピアニストらしいので,クリヴィヌのように締め付けるタイプじゃないのかも。それでも,グラモフォン誌上で批評家推薦に輝いたことでもお分かりの通り,この秘曲の真価を知らしめるには充分。もっと広く聴かれることを願って,贔屓目ながら五つ星を。

★★★★☆
"Musique de Chambre pour Harpe :
Introduction et Allegro (Ravel) Danses Danses Sacrée et Profane (Debussy) Conte Fantastique (Caplet) Quintette (Cras)" (Valois : V 4739)

Isabelle Moretti (hrp) Michel Moragues (fl) Pascal Moragues (cl) Dominique Desjardins (b) Quatuor Parisii
ここでのクラの作品は,4楽章からなる『五重奏曲』ただ一曲。にも拘わらず,クラの真価を知る一曲となると,この盤は真っ先に挙げたい一枚です。個人的見解ではありますが,この五重奏曲は,紛れもなく作曲家クラの頂点をなす傑作のひとつ。彼の美点である擬古典的形式感とドビュッシアン和声とが,緊密に鍔迫り合いを演じます。ドビュッシーの「小組曲」から「2つの舞曲」を思わせる慎み深い書法は,印象主義に深く傾倒していながら,決してその新奇さに惑い足下を掬われることなく,見事にそのイディオムを用いて,既存の音楽理念の拡張に成功しています。時に凡人にも,「神が舞い降りる」ことはあるのです。この一曲は,そんな至福の時間を鮮やかに切り取った,紛れもない創作活動のピークをなすものといえましょう。残念なことに本盤,版元のヴァロワがナイーヴに吸収されてしまい,入手が困難になってしまいました。しかし,2006年になって,シュトゥットガルト周辺に展開中の素敵な方々が救いの手を差し伸べてくださり,対抗盤と呼ぶに値するレベルの演奏で聴けるようになりました。すばらしい(下記参照)。

★★★★☆
"Berceuse / Sicilienne (Fauré) Pastorale de Noël (Jolivet) Quintette (Cras) Suite (Tournier) Prélude, Marine et Chansons (Ropartz)" (Hänssler : CD-NR.93.175)
Linos Harfenquintett: Sophie Hallynck (hrp) Gaby Pas-van Riet (fl) Annette Schäfer (vln) Gunter Teuffel (vla) Jan Pas (vc)
シプレから出たジョンゲンのハープ付き室内楽作品集でも竪琴を鳴らしておいでのソフィーお嬢様が,ドイツにもかかわらず仏人以上にフランス的な録音履歴を積み上げるシュトゥットガルト楽壇の面々に客演。こんな素敵な顔合わせで,演奏するはクラ,トゥルニエにロパルツと来ている。トゥルニエの『組曲』なんて滅多に聴ける曲ではなく,「良くこんな選曲で商売が成り立つよな・・」と感心するばかり。これでもかと仏近代フェチの財布の紐を緩める選曲に喝采です。べーやんやもーざるとをやっても採算ギリギリな日本の状況と比べるにつけ,欧州の文化先進国ぶりには感心するしかございません。「あのジョリヴェがこんなにドビュッシー好きのする典雅な曲を」とびっくりな『降誕祭パストラール』を始め,いずれも秘曲にして瀟洒,モデストで叙情的な小傑作揃い。仏近代が好きで堪らない奏者の好きものオーラが相乗効果を挙げ,フランス人そこのけの優美な演奏に仕上がっている。むろんオケ団員がメインですから,弦やフルートに僅かなくすみや掠れがちらつくのはご愛敬。技術的にはかなり良質と思います。特にロパルツの『海景』には,等速ビブラートが古めかしいメロス・アンサンブルに,ヴァイオリンがヨレてるナンシー楽壇と,隔靴掻痒な代物しかありませんでしたから,それらより一枚上手の技術で演奏された本盤の登場は快挙といえるのではないでしょうか。それだけに少しばかり気になるのは,相乗効果で仏人以上におフランスになってしまった曲の解釈。くだんのロパルツは良い例で,あまりにもテンポを揺らしすぎの強弱キツすぎ。この曲のもつ擬古典的な典雅さが,過多気味のロマンティシズムで些か汚れてしまい,ちょっぴり水商売のおネエっぽくなってしまったのは残念です。

★★★★
"Mélodies :
Cinq Robaiyat / La Flûte de Pan / Fontaines / L'offrande Lyrique / Soir sur la Mer / Douceur du Soir / Image / Deux Chansons" (Timpani : 1C1025)

Catherine Estourelle (sop) Lionel Peintre (btn) Alain Jacquon (p) Simon Stanciu Syrinx (pan fl) Jean-Marc Phillips (vln) Pierre Lenert (vla) Henri Demarquette (vc)

クラの作品が最もそのドビュッシー好きな和声をモロに華開かせ,典雅な擬古典・ロマン様式を巧妙に案分しつつ緊密さや完成度を増すのは,蓋し器楽や室内楽など小規模から中規模編成の作品です。目下,ほとんど唯一クラの歌曲をまとめて聴けるこの歌曲集は,和声の面でドビュッシーの顕著な影響下にあるクラの美点がよく出た好内容。作品集としてクラの入門盤を一枚となると,この作品あたりが一番お薦めできそうです。それだけに惜しいのは,肝心の演奏がもうひとつなことですか。熱い血潮漲るリオネル・ペイントルの雄々しい歌声は秀逸で溜飲が下がるいっぽう,カテリーヌ・エストゥレーユのソプラノはやや安定感と力感を欠き,いかにも頼りなさが残る。星4つは彼女のソプラノを勘案した評価です。このレーベルはどうも女声の選定に難があるようですねえ。モリス・エマニュエル盤で出てきたカッツ女史も冴えませんでしたし・・。

★★★★☆
"Quintette pour Piano et Cordes / Quatuor à Cordes" (Timpani : 1C1066)
Alain Jacquon (p) Quatuor Louvigny
本職が軍人さんだったクラは,最近までほとんど知られることなく埋もれていた作曲家でしたが,そんなクラに慈悲の光を当てたのが,ティンパニによって進行中の一連のクラ作品集。一体どうして,いまだケックランの歌曲すら出してないティンパニが,クラの作品は4枚も出しているのかは謎としか言いようがございません。しかし,この4枚目は聴いて吃驚玉手箱。これまでに出たシリーズ中でも白眉の秀作です。名品と誉れの高い五重奏曲は,後期ロマン派の懐旧的な響きを尊重しながらも,随所に織り込まれた全音階,旋法,転調技法,デリケートな分散和音が夢心地の響きを生み出している。極めて好ましい形で,保守性(フランキスト)と革新性(ドビュッシアン)とが溶け合った逸品であると思います。フォーレの室内楽などお好きな方は,間違いなく嵌ってしまうでしょう。リエージュ音楽院ヴァイオリン科で教鞭を執る第一ヴァイオリンを始め,ルクセンブルク放送管の構成員で組織されたルービニュイ四重奏団と,お馴染みティンパニお抱えピアニスト,ジャコンのコンビによる演奏は少し線が細いものの熱を帯びた力演で,かなり溜飲が下がりました。いまだロクに録音もされていない作曲家でありながらこの曲と演奏なら,4枚も肩入れしたとしてもばちは当たりますまい。お薦め盤。

★★★☆
"L'oeuvre de Piano :
Danze / Paysages / Poèmes Intimes" (Timpani : 1C1033)

Alain Jacquon (piano)

これは,クラ以外にも,混迷の前世紀末を生きた時代の無名作家,例えばフレムやデュポンのピアノ曲にも皆共通していることですが,本ピアノ作品集も,一言で表現すると従前の保守的なロマン派とドビュッシアン和声の折衷表現。既存のロマン派音楽に比べると若干色彩感は増すものの,イディオムそのものはシューマンやショパンからそれほど大きな変化はありません。おそらくこれは,まるでイディオムの異なる2つの音楽が併存していた当時の楽壇で,多くの『普通の』作曲家が,どちらの道をも選びかねた結果の産物でありましょう。それだけに,言い換えるとこの作品もまた,2つの音楽の「核心」は捉えることのできない,その他大勢の作曲家による作品であり,ドビュッシーやラヴェルとこれら無名作家との間に横たわる決定的な違いと思われてなりません。聴き終えて残る一抹の欲求不満・物足りなさは,この一点につきましょう。ジャコンのピアノは上手いです。ただ,ペダリングが少し雑ですねえ。ブーランジェ歌曲でもそうでした。ペダルが雑なのはこの人の習性みたいです。

★★★☆
"L'oeuvre Complète pour Violon et Piano :
Suite en Duo / Quatre Pièces / Poèmes Intimes" (Skarbo : D SK 4941)

Marie-Annick Nicolas (vln) Jean-Pierre Ferey (p)

もともと音楽は余芸に近かったクラは生涯に遺した作品も多くなく,ヴァイオリン独奏のための作品は,このCDで全部,ピアノ曲も上記ティンパニ盤で全部のようです。ここでも主旋律の美意識はあくまで後期ロマン派に立脚。フランクやフォーレ,マスネー,ショーソンに通じる甘美な主旋律は,幅広いロマン派音楽ファンに気に入っていただけることでしょう。ただここでも,その分ドビュッシストとしての魅力はやや削られてしまいます。この優柔不断な中庸。それがこの時代の作曲家の大勢を覆っていたのは紛れもない事実。そうした作家が数え切れないほど出ては,佳作を遺して消えていったのが近代音楽の歴史であり,またその残酷な犠牲の上に,突然変異的に咲いた花がドビュッシーであり,ラヴェルだったといえるでしょう。本盤でピアノを弾くジャン=ピエール・フェリーは,このレーベルの音楽監督も務める人物。フランス近代の音楽にはそれなりの造詣がおありのようで,この作品の他にもケックランのピアノ独奏曲集を出しています。対するはルムランのコンチェルトで独奏を担当していたニコラ女史。独奏者としては些か弱いフェリーさんの組み合わせに不安が過ぎるものの,実演は意外にシュアで悪くありません。

★★★★☆
"Trio à Cordes (J.Cras) Trio à Cordes, op.58 (Roussel) Trio à Cordes (Françaix)" (Antes : BM-CD 31.9185)
Offenburger Streichtrio : Frank Schilli (vln) Rolf Schilli (vla) Martin Merker (vc)
バーデンに本拠を置くアンテスから2003年に出た本盤は,滅多に録音されない仏近代の弦楽三重奏曲を三編落ち穂拾い。管見の限り録音を見たことのあるのはフランセくらいで,それも自作自演でしたから,金鉱掘りを狙ったとみて間違いないでしょう。特筆すべきは極めて珍しいクラの三重奏。始終いずれかの弦が音符を刻んで,快活な推進力を生み,第三楽章で出現するしなの入った中国風ピチカート,第四楽章で出現するアイリッシュ風のフィドルなど,程良く採り入れられたエキゾチズムが,従前のロマン派音楽から堅苦しい貴族臭を綺麗に取り去って,プロレタリアな漁民の力強い生活感とざっくばらんな開放感を与えます。ドイツ人らしく,引き締まった光沢のある音色できびきびと演奏され,ピッチも綺麗に整った美演。努めて欲を言えば,かっちりと襟の整ったドイツ流儀の演奏が,ごく一部で長短所相半ばする瞬間があることくらい。第一楽章では,刻まれる8分音符のリズムがやや前乗りで輪郭も硬いため,潮風に吹かれながら陽光の下を漁に出る漁師の気分にも似た,おおらかな開放感がやや減退。もう少し胸襟を開いて,伸びやかかつ恰幅豊かに弾いても良かったのでは。しかし,これは完全に贅沢レベルの話。録音僅少なクラやルーセルの室内楽が,これだけの美演で紹介されるなんて,今後もまず期待できんでしょう。録音してくれた壮挙だけで,充分称賛に値すると思います。併録のルーセルやフランセも,フォームの上では擬古典的な形式感を残しながら,転調不思議ちゃんワールド(や戯けたリズム)を炸裂させ,クラとは違うアプローチでプロレタリアリズムを達成する佳品です。演奏するオッフェンブルク弦楽三重奏団は1981年に,ヴュルツブルク,バーゼル,フランクフルトの音楽院でまだ勉強中だったシリー兄弟が,同郷のチェリストを迎えて結団し,1989年のカルタニセッタ国際で2位を受賞。本盤は彼らにとって処女録音でした。1995年からは郷里オッフェンブルク夏季室内音楽祭の指揮兼芸術監督を務めているそうです。

★★★★
"Valse Romantique / Bruyères..(Debussy) Suite en Duo (Cras) Les Cygnes / Les Ecureuils (Büsser) Duo Concertant (Lancen) Pièce en Forme de Habanera / Pavane (Ravel) Sonatine de Mai (Casterede)" (Quantum : QM 7012)
Duo Thaïs : Florence Bellon (fl) Caroline Rempp (hrp)
デュオ・タイスはパリ高等音楽校の各楽器部門で1980年代始めに一等を得た才媛2人によって結成された二重奏団。フルートはマリオンの,ハープはジャクリーヌ・ボローの弟子と毛並みが好く,解釈はともかく演奏技術は闊達です。「瞑想曲」でお馴染みマスネーからいただいたコンビ名を見ても,穏健なモダニストを救済しようとの目論見は明らか。このCDはそんな両者の嗜好が良く出た近代秘曲集。客寄せパンダ的色彩の濃いドビュッシーとラヴェルの編曲ものを除くと,クラ,ビュセール,カステレードにランセンと,キラ星の如くマイナー作家が並べられています。クラの作品は『二重奏のための組曲』だけですが,その作風は,近代和声法の影響をさりげなくとり入れた優美なロマン派音楽。いずれも3分前後の小品であり瀟洒にまとまっていて,クラの中でもモダン度は高いですし,編曲ものでありながら,むしろこの編成のほうが曲想に合っているくらい(と思ったら,μさん情報によるとこちらがオリジナル編成だそうです・・恥: 2005. 10. 21追記)。演奏は上記盤とは段違いですし,併録も好いので,お求めになる価値はあると思います。

(2001. 1. 18 uploaded)