Dの作曲家



ヴァンサン・ダンディ Vincent D'indy (1851-1931)

フランスの作曲家,教育者,合唱指揮者。本名ヴァンサン・ポール・マリー・テオドル・ダンディ。1851年3月27日パリ生まれ。1862年(11才)からルイ・ディエメル,アレクサンドル・マルモンテルにピアノを学び,1865年にはアルベール・ラヴィニャックに楽典および作曲法を師事して研鑽を積む。次いで1872年から1880年にかけて,パリ音楽院でセザール・フランクにオルガンおよび対位法とフーガ,作曲法を師事。1875年に第一等を得た。アンリ・デュパルクと同様に,当初はワグネリズムへ傾倒。1873年にはドイツを外遊し,リスト,ワーグナー,ブラームスとの交流も果たす。1871年に,「ゴール人のための音楽」を掲げる国民音楽協会の設立に秘書官として参画し,のち1890年にはその会長へ就任。サン=ルー(Saint-Leu)教会のオルガニストを務める傍ら,1873年にコンセール・コロンヌ管弦楽団の合唱指揮者兼ティンパニストを務めるなど,多方面で活躍した。1880年に『鐘の歌』でパリ市民賞を獲得して作曲家としての名声を確立し,1892年にレジオン・ドヌール賞を獲得。1894年にシャルル・ボルド,アレクサンドル・ギルマンとともにスコラ=カントールムを創設して1911年からは校長となり,同校をフランキストの根拠地とした。また1912年から1929年にかけて,パリ音楽院で編曲法科の教鞭を執っている。1931年12月2日,パリにて死去。


主要作品
 

舞台作品 ・ラインの城主たち Les burgraves du Rhin (1869-1872) ... Robert de Bonnières台本
・歌劇【演奏家たち】 Les maîtres-sonneurs (1874) ...
G.Sand原作
・歌劇【マホメット】 Mahomet (1874) ...
Goethe原作
・歌劇【アブンセラージェ】 Les abencérages (1877) ...
Chateaubriand原作
・歌劇【アクセル】 Axel (1878?) ...
Tegner原作,Fervaalに改作?
・驢馬の皮 Féerie: Peau d'Âne (1879) ...
Perrault原作
・貧民窟のオルガン奏者 L'organiste de harlem (1880) ...
作者台本,構想段階の草稿のみ?
・オペラ・コミーク【楡の木の下で】 Attendes-moi sous l'orme, op.14 (1876-1882) {1act} ...
R.de Bonnières台本
・ファルヴァル Fervaal: action musicale, op.40 (1881-1895) {prol.3act}
・メデー Médée, op.47 (1898) ...
劇音楽。Catulle Mendès台本
・異邦人 L'étranger: action musicale, op.53 (1898-1901) {2act}
・神秘劇【聖クリストフの伝説】 La légende de Saint Christoph, op.67 (1908-1915) ...
作曲者台本
・付帯音楽【ヴェロニカ】 Veronica, op.76 (1920) ...
Charles Gosに曲を付けた
・音楽劇【シニラの夢】 Le rêve de Cinyras, op.80 (1922-1923) {3act} ...
Xavier de Courville台本
管弦楽 ・イ調の交響曲 第1番 Symphonie en La (1870-1872)
・ダンテによる交響詩【聖喜劇】 La divine comédie (1871) ...
実現せず
・ジャン・ユニャード Jean Hunyade, op.5 (1874-1876)
・序曲【アントニウスとクレオパトラ】 Antoine et Cléopatre (1876)
・交響的バラード【魔法に掛けられた森】 La forêt enchantée: appelée d'abord Harald, op.8 (1878)
・交響曲ト長調【フランスの山人の歌による交響曲】 Symphonie sur un chant montagnard français (1886) {p, orch}
・ワレンシュタイン Wallenstein: Trois ouverture symphoniques, op.12 (1873-1879) ...
Schillerに着想
 
1) Le camp, 2) Max et Thécla, 3) La mort de Wallenstein
・交響的伝説【サルビアの花】 Saugefleurie, op.21 (1884)
・セレナードとヴァルス Sérénade et valse, op.28 (1887) {small-orch} ...
op.16, op.17より抜粋
・付帯音楽【カラデク】 Karadec, op.34 (1890)
・交響的変奏【イシュタール】 Variations symphoniques 'Istar', op.42 (1896)
・交響曲第2番 変ロ長調 2eme symphonie en Si bémol, op.57 (1902-1903)
・山の夏の一日 Jour d'été à la montagne: trois pièces, op.60 (1905)
・想い出 Souvenirs, op.61 (1906)
・小交響曲 Sinfonia brevis, op.70 (1916-1918)
・交響曲第3番ニ長調【麗しきフランスの小交響曲】 sinfonia brevis de bello gallico (1916-1918)
・浜辺の詩 Poème des rivages, op.77 (1919-1921)
・瞑想二部作 Diptyque Méditerranéen, op.87 (1925-1926)
協奏曲 ・月の光 Clair de lune: étude dramatique, op.13 (1872-1881) {p, orch} ...Hugo詩の歌曲版あり
・リート Lied, op.19 (1884) {vc, orch}
・幻想曲 Fantaisie, op.31 (1888) {ob, orch}
・変奏コラール Choral varié, op.55 (1903) {sax, orch}
・コンセール Concert, op.89 (1926) {fl, vc, strings}
室内楽 ・スケルツォ Scherzo en Ré majeur (1871) {vln, vla, vc, p}
・四重奏曲 イ短調 Quatuor en La mineur (1878-1888) {vln, vla, vc, p} ...
誤記であろうが,VallasによるとVlaなし=実質三重奏...?
・古風な形式による組曲 suite (en Ré) dans le style ancien, op.24 (1886) {tp, 2fl, 2vln, vla, vc}
・ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 Trio pour clarinette, violoncelle et piano, op.29 (1887) {cl, vc, p}
・弦楽四重奏曲第1番 ニ長調 1'er Quatuor à cordes en Ré (1890) {2vln, vla, vc}
・前奏と小カノン Prélude et petit canon, op.38 (1893) {org}
・弦楽四重奏曲第2番 ホ長調 2eme quatuor à cordes en Mi, op.45 (1897) {2vln, vla, vc}
・ファルヴァルのモザイク Mosaïque sur Fervaal (1897) {brass} ... Orledgeらしいが,ファルヴァルに転用された断片では?Vallasにはない
・歌と踊り Chansons et danses: divertissement, op.50 (1898) {fl, ob, 2cl, hrn, 2bssn}
・殉教の僕の晩祷 Vêpres du commun des martyrs, op.51 (1899) {org}
・第76少年連隊の行進曲 Marche du 76e régiment d'infanterie, op.54 (1903) {brass}
・ハ調のヴァイオリン・ソナタ Sonate en Ut, op.58 (1903-1904) {vln, p}
・小品 変ホ短調 Pièce en Mi bémol, op.66 (1911) {org}
・サラバンドとメヌエット Sarabande et menuet, op.72 (1918) {fl, ob, cl, hrn, bssn (p)} ...
「古風な組曲」の3,4楽章を編曲。TP分をPが代替
・五重奏曲 Quintette, op.81 (1924) {2vln, vla, vc} ...
ピアノが入って五重奏か?Vallas記載なし
・ニ調のチェロ・ソナタ Sonate en Ré, op.84 (1924-1925) {vc, p}
・フルート,ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロとハープのための組曲 Suite en parties, op.91 (1927) {fl, vln, vla, vc, hrp}
・弦楽六重奏曲 変ロ長調 Sextuor à cordes, op. 92 (1928) {2vln, 2vla, 2vc}
・弦楽四重奏曲第3番 変ニ長調 3eme quatuor à cordes en Ré bémol, op.96 (1928-1929) {2vln, vla, vc}
・ピアノ三重奏曲第2番 ト長調 Trio pour violon, violoncelle et piano en Sol, op.98 (1929) {vln, vc, p}
・弦楽四重奏曲第4番 4eme quatuor à cordes (-) {2vln, vla, vc} ...
作曲者の死により構想のみ
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ Sonate pour piano (1869) ...紛失か?二楽章
・無言のロマンス Romances sans paroles, op.1 (1870) ...Orledgeはこちらを作品番号無しとしている
・古典的形式による小ソナタ Petite sonate dans la forme classique, op.9 (1880)
・山地の詩 Poème des montagnes, op.15 (1881)
・4つの小品 Quatre pièces, op.16 (1882)
・エルヴェチア Helvétia: trois valses pour piano, op.17 (1882)
 
1) arrau, 2) schinznach, 3) laufenburg
・夜想曲 Nocturne, op.26 (1886)
・散歩道 Promenade, op.27 (1887)
・シューマニアーナ Schumanniana, op.30 (1887)
・海上にて Sur la mer, op.32 (1888) {f-choir}
・旅の画集 Tableaux de voyage: treize pièces, op. 33 (1889) ...
1891年に組曲版(6曲, op.36)管弦楽配置
・グレゴリオ風の小歌 Petite chanson Grégorienne, op.60 (1904) {2p}
・ホ調のピアノ・ソナタ Sonate en Mi, op.63 (1907)
・ハイドンの名によるメヌエット Menuet sur le nom de Haydn, op.65 (1909)
・13の短い小品 Treize pièces brèves, op.68 (1908-1915)
・12の易しい小品 Douze petites pièces faciles dans le style classique de la fin du XVIIIe siècle, op.69 (1908-1915)
・7つの土くれの歌 Sept chants de terroir, op.73 (1918) {2p}
・あらゆる年代の子ども達へ Pour les enfants de tous ages, op.74 (1919)
・変奏された主題,フーガと歌 Thème varié, fugue et chanson, op.85 (1925)
・お伽噺 Contes de fée, op.86 (1924-1925)
・6つのパラフレーズ Six paraphrases sur des chansons enfantines de France, op.95 (1928)
・フランスの古い輪舞のアリアによる幻想曲 Fantaisie sur un ville air de ronde Française, op.99 (1930)
声楽曲 ・苦悩 Angoisse (1869-1870) {vo, p} ...F.Bazenery詩
・大マレシャル6世の羽根飾り Marche du panache à la grande Maréchale VI (1871-1872) {vo, p} ...作者詩
・さらば Adieu (-1872) {vo, p} ...
Musset詩
・海の冒険者たち La chanson des aventuriers de la mer, op.2 (1870) {btn, choir, p} ...
V.Hugo詩
・試み Attente, op.3 (1872-1876) ...
Hugo詩
・マドリガル Madrigal, op.4 (1872-1876) ...
Robert de Bonnières詩
・テクラの不満 Plainte de Thécla, op.10 (1880) ...
Bonnières詩
・首領の騎行 La chevauchée du cid, op.11 (1876-1879) {vo, p} ...
Au galopと同じもの,Bonnières詩
・月の光 Clair de lune, op.13 (1872) ...
Hugo詩,P協版あり
・鐘の歌 La chant de la cloche: légende dramatique, op.18 (1879-1883) {vo, 2choir, orch} ...
作者詩,舞台版1912年ブリュッセル初演
・ L'amour et le crane, op.20 (1884) {vo, p} ...
Baudelaire詩
・カンタータ・ドミノ Cantate domino, op.22 (1885) {3vo, org}
・カンタータ【聖女マリー=マドレーヌ】 Sainte Marie-madeleine, op.23 (1885) {sop, f-choir, p (hmn)}
・我ら仏芸術院の三人は L'académie Française nous a nommés tous trois (1888) ...作者詩か。Cent moins un誌上で発表
・ヴィヴァレとヴェルコルの民謡集 Chanson populaires du Vivarais et du Vercors (1892) {vo, p}
・カンタータ【ある彫像の除幕式のために】 Pour l'inauguration d'une statue, op.37 (1893) {btn, choir, orch}
・芸術と民 L'art et le peuple, op.39 (1894) {m-choir}
・2つの子どもらしい歌 deux chansons enfantines (1896) {vo, p} ... M.ルグラン編の童謡集のため,童謡をハーモナイズ。編曲作品
・デウス・イスラエル Motet: Deus Israël, op.41 (1896) {choir}
・海の歌 Lied maritime, op.43 (1896) {vo, p} ... 作者詩
・ヴァレンスの叙事詩 Ode à valence, op.44 (1897) {sop, choir}
・頌歌【サセルドスの婚礼】 Cantique: Les noces du Sacerdoce, op.46 (1898)
・最初の歯 La première dent: berceuse enfantine, op.48 (1898) {vo, p} ...
Jules de la Laurencie詩
・モテット【聖なるマリア】 Sancta Maria, succurre miseris, op.49 (1898) {2vo}
・ヴィヴァレの民謡集 Chanson populaires du Vivarais, op.52 (1900) {vo, p} ...厳密には編曲作品, 1930年のものと合わせ二巻をなす
・幻影 Mirages, op.56 (1903) ...
Paul Gravolet詩
・恋する乙女の瞳 Les yeux de l'aimée, op.58 (1904) ...
作者詩
・ヴォカリーズ Vocalise, op.64 (1907)
・おお明るい日射し O gai soleil (1909) {2vo} ...
《音楽批評》誌のために書かれた
・(邦題不詳) Vive Henry quatre (1909) {4vo, winds} ...
作者不詳の曲に和声付けした編曲作品
・ペンテコステ派 Pentecosten, op.75 (1919) ...
グレゴリオ聖歌をもとにした24曲の頌歌
・2つの研究者の歌 Two scholar's songs, op.78 (1921) {2vo}
・アヴェ・レジナ・ケロルム Ave, regina coelorum, op.79 (1922) {4vo-choir}
・3つのフランス民謡集 Trois chants populaire Français (1924) {choir}
 
1) querelle d'amour, 2) histoire du junne soldat, 3) lisette
・2つのモテット Deux motets, op.83 (1925)
・オ・ドミネ・メア O domine mea, op.88 (1926) {2vo}
・6つの歌 Six chants, op.90 (1927) {choir}
・ティナのアリエット Ariette pour Tina (1927) ...
作者詩
・春のブーケ Le bouquet de printemps, op.93 (1928) {3vo}
・2声のマドリガル Madrigal, op.94 (1928) {2vo (sop, vc)}
・3人の紡ぎ女 Les trois fileuses, op.97 (1929) {3vo}
・6つのフランス民謡第2集 Six chants populaire Français 2e recueil, op.100 (1930) {choir}
・ヴィヴァレの歌集 Chansons du Vivarais, op.101 (1930) ... ヴィヴァレは作者の祖先がルーツを持つアルデーシュ郡のこと
・二声のための歌 Chanson pour deux voix, op.102 (1931) {sop, btn}
・乳母の歌 Chant de nourrice, op.103 (1931) {3vo}
・鍛冶屋 Le forgeron, op.104 (1931) {3vo, 2vln, vla, vc}
・夫の復讐 La vengeance du Mari, op.105 (1931) {3vo, choir, orch}
課題曲 ・100の和声主題と教程 Cent thèmes d'harmonie et réalisations, op.71 (1907-1918)
・ヴィオラのための500の教程 Cinq cents exercices de lecture pour alto (1925) {vla}
・ヴァイオリンのための500の教程 Cinq cents exercices de lecture pour violon (1926) {vln}
・チェロのための500の教程 Cinq cents exercices de lecture pour violoncelle (1927) {vc}
典拠 Orledge, R.1980. Vincent d'indy. In Sadie, S. ed. New grove dictionary. Oxford.
Vallas, L. 1950. Vincent d'indy II. Paris: Ed.Albin Michel.

※Pink Mozart氏より,「サラバンドとメヌエット」の主旋律をピアノが弾く件の情報などを頂きました(2006.11.24)


ダンディを聴く


★★★★
"Symphonie sur un Montagnard Français / Symphonie No.2" (EMI : CDM 763952 2)
Michel Plasson, Serge Baudo (cond) Aldo Ciccoloni (p) Orchestre de Paris, Orchestre du Capitole de Toulouse
まだ今ほど録音が多くなかったころ,クラシックの普及に貢献したのがEMI。アナログ時代の旧録音を安価でCD化する「フランスのエスプリ」シリーズでした。2枚のダンディ作品集もそのひとつで,貴重なリファレンスになったものです。本盤は,彼の作品の中でも恐らく最も有名で演奏機会も多い『フランスの山人の歌』を含むCDです。スコラ=カントールムの校長となり,パリ音楽院に君臨したフランクと手分けして後進の育成にあたったダンディの作品は,典型的な保守・仏後期ロマン派。優美な佇まいを持ち,フランキスト特有のめくるめく転調・半音階手法がとりいれられ,装飾音中心のピアノ譜から循環形式の踏襲にいたるまで,模範的なまでにフランク一門の書法。やや大仰な感さえただよう壮麗優美なロマンティシズムが振りまかれ,フランク,ボルド,デュパルク,ショーソン,ロパルツ,フレムなどなど,およそフランクに関わりのあった作品のどれかに心酔した経験のある方なら,まず問題なく受けいれていただけるでしょう。恐らくダンディの作品では最も有名な『フランス山人・・』は初期の作品でありながら,驚くほど甘美で色気たっぷり。なぜこの曲が突出して人気があるのかを雄弁に物語る内容です。演奏するセルジュ・ボードはチェコ管の音楽監督として名を残した人物ですが,もともとは1969年,地方オケの育成を掲げた文化省からフランス南部を委任され,ローヌ=アルプス管(現リヨン管)の監督となって,現在のクリヴィヌ黄金時代の礎を築いたほど優秀だった人物。いっぽうプラッソンはトゥルーズを任され,こちらも世界的に有名なオケに育て上げました。期せずして本盤は,地方興隆の功労者二名のカップリングでもあります。

★★★★
"Poème des Rivages / Diptyque Méditerranéen" (EMI : CDM 7 63954 2)
Georges Prêtre (cond) Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo
世に出てくる彼の管弦楽は,せいぜい20世紀初めまでに書かれたものばかり。斯界に君臨していたダンディにとって,野に下ったドビュッシーの音楽は,所詮傍流だったでしょう。明瞭な主題と,くっきりとした律動や曲構成に立脚する彼は,ときに甘くなることはあっても,決して調性を離れたり,示唆的な脱構築に走ることはありませんでした。そんな姿ばかりを目にしてきたファンにとって,最晩年の管弦楽曲を二編収めた本盤はかなり衝撃的。いかにこの二品が普段の彼と異なるかは,標題を見れば一目瞭然です。1921年に書かれ,二番目の妻へ献呈された『浜辺の詩』は「静寂と光」,「紺の光」,「緑の地平」,「大洋の神秘」からなり,1925年の『瞑想二部作』は,のち「朝日」と「夕陽」に改題されるも,当初「海の朝と夜」および「夕陽」と題されていた。標題音楽を嫌う保守派の流儀に反し,敢えて詩的題材に着想。交響詩風のフォーマットをとるこれら二編は,書籍や作品集の多くがそう見せてきたような「象牙の塔の総大将」イメージを百八十度ひっくり返すほどに斬新。主題ではなくモチーフで,全体の構成ではなく刹那の点描から曲は編み上がり,リズムは茫洋と揺らめきながら反復展開する。そして,本家に比べ遙かにぎこちなく古臭さが抜けないながら,オノレの積み上げてきた音楽家としての良心とギリギリまで接点を探り,進取の気性を必死に発揮する非機能的・色彩的和声感覚。これぞまさしく《老人と『海』》です。既に齢70を超えていた彼が,「ドビュッシーへの迎合」とも受け取られかねない大転回を遂げるには,さぞ大英断が必要だったでしょう。実際,初演時には賛否両論あったとか。しかし,彼ほど功なり名を遂げた人物なら,そのまま人生を終えるほうが遙かに容易かったはず。長老組に属しながら,良いと認めた若手はちゃんと評価した彼。そんな人だからこそ,地位を得てなお自分の美的信念と誠実に向き合い,転向を選んだのでしょう。出来不出来を遠く超え,最後まで音楽に至誠を尽くすその生き方は,聴く者の目頭を熱くします。演奏良好。

★★★☆
"Istar / Wallenstein" (EMI : TOCE-11406)
Pierre Dervaux (cond) Orchestre Philharmonique des Pays de Loire
仏近代の作曲家の中でも,顔の怖さにかけてはデュティーユと双璧ではないかと思われるダンディは,実際当代において見事に「頭のカターイ長老筋」の役割を背負った保守派の代表格。彼の出自が貴族だったという史実はまさに象徴的でしょう。血筋であらかた生涯が決まってしまった古き良き時代の恩恵を享受し,自らに恩恵をもたらした古き良き伝統を,次の世代へきっちり継承することに価値を見いだした彼にとっては,生まれの卑しいプロレタリアートどもの作る調性破壊の独立音楽協会なんて邪道もいいとこだったんでしょう。彼の作品でこんにち演奏機会があるのは『フランス山人』くらいのもので,実際同曲は,ワグネリスティックな壮麗さの中にも,フランス人らしい甘美なロマンティシズムが巧みに挿入され,これを聴いたドビュッシーが一度は,『幻想曲』をダンディの指揮で演奏してもらったのも頷ける仕上がりでした。申すまでもなくドビュッシー以上にビンボーなあっしとしましては,第2の『フランス山人』を期待して本盤を手にするわけですが・・。結論から申し上げると完全に当て外れ。これがあの優雅な佳曲を書いた人かと疑うほど頑迷な曲想は,ドイツのロマン派音楽と大差ないもの。確かに模範的なほど構成はかっちり編まれてますよ。でも,だから何です?音楽としての面白みは限りなく乏しいと言わざるを得ませんねえ。ちなみに本盤,最近CCCDにどっぷり浸かって完全にクラシック界のAVEX化している,東芝EMIの国内盤なのですが,1999年発売だったおかげでしょう。幸いまだCCCDではありませんでした(次回の再発は危ないです)。・・って,こんな事いちいち書かなきゃいけないなんて。どうなんですか東芝さん?

★★★★
"Trio en Ré Mineur, op.120 (Fauré) Trio en Si Bemol Majeur, op.29 (D'Indy)" (REM : 311292 XCD)
Philippe Berrod (cl) Eric Picard (vc) Pascal Gallet (p)
ドビュッシーの前に立ち塞がる二枚ブロック。「ど〜せ古臭ぇんだろ〜な」と思いつつ,普段滅多に紹介されない珍しげな三重奏ということでついつい買ってしまった本盤は,パリ音楽院で一等ののちパリ,ヴィエルゾン,プラハ国際に入賞したベロさん,ジャンドロンの弟子としてパリ音楽院一等を貰いリギュレ国際なるイタリアのコンペで優勝のピカールさんという,二名のパリ管首席をフロントに据え,イヴォンヌ・ロリオの弟子として同じくパリ音一等を得たピアノ支える布陣の1996年制作です。蓋を開けてみると前者は,弦二本の有名な三重奏のバヨリンをクラにしたもの。転調がいっそう自由度を増す後年フォレの,流れるようなフォルムは美しく「これでダンディ爺より10才上とは思えんな」と溜飲が下がりはするものの,大方の皆さんには「ケッ邪道ものかよ」,妙味も薄いことでしょう。確かにバヨリンのほうが合ってる感は拭えません。しかしフォレさん,実際に出版こそしなかったものの,バヨリン部はクラおっけーで構想しており,決して邪道ではなかったのが真相。それを知ってる三方の慧眼に裏打ちされた滑らかなフォルムが仏人らしく,少し音色やコントロールに細かい難点があるほかには,演奏も上質であると思います。いっぽう好事家的に聞き物な併録のダンディは,何しろ作品番号29。貧相な和声とやたらに太く縁取られる輪郭線。近代の香りはほぼ全くありません。肝心の旋律も,フォレを並べられてしまうと真面目すぎ,何とも分が悪いです。それでも編成が小さいからか,ワグナー的大仰さよりも美旋律中心史観は色濃くなり,敷衍部にはフランクを牧歌的にしたような情緒もある。少なくとも,彼の中では有名な『ワレンシュタイン』みたいのよりはずっと良いと思いますけどねえ・・。編成がやや珍だから聴かれないとしたら,勿体ないことです。ルクー以前の筆致がお好みなロマン派音楽好きの方には,愉しんでいただけるのではないでしょうか。

(2002. 6. 29 / 作品表校訂 2006. 11. 26)