Dの作曲家



ポール・デュカ Paul Dukas (1865-1935)

フランスの作曲家。1863年10月1日パリ生まれ。ピアニストだった母はポールが5才の時に世を去るが,彼に最初の音楽教育を与え影響をもたらした。16才でパリ音楽院へ進んで,ジョルジュ・マティアスにピアノ,テオドール・デュボワに和声法,エルネスト・ギローに作曲法を師事。1886年には対位法とフーガで一等を得た。1888年に,カンタータ『ヴェレダ(Vélleda)』でローマ大賞(一等なしの)第二等を受賞するも,翌年は入賞できなかったため,失望した彼は作曲家の道を捨てルーアンで従軍。しかし同地の軍楽隊でバンドマスターと知遇を得たのが契機となり,除隊後は批評家兼作曲家として活動。1892年から『週間批評(Revue Hebdomadaire)』誌の批評を担当したほか,『音楽批評』,『芸術紀(Chronicle des Arts)』,『芸術新報(Gazette des Beaux-Arts)』の各誌上で批評家として活躍し,400を超える評論を執筆。1895年からサン=サーンスを中心に進められた『ラモー全集』の編集顧問も担当している(1901年刊行)。教育者としては,1910年から1913年までパリ音楽院教授として編曲法の教鞭を執り,1928年にはウィドールの後任として作曲法科教授も歴任。エコール・ノルマルでの教職経験もあるほか,1934年12月,ブリュノーの死を受けて仏芸術院委員にも選任された。弟子にはメシアン,デュリュフレ,アランらがいる。1906年にレジオン・ドヌール賞。稀に見る完璧主義者で,作品番号のない自作の全てを破棄したため,現存するのは15作品のみである。1935年5月17日,パリにて死去。なお彼の名は,通常の表音規則に従えば「デュカ」になるが,しばしばポール・デュカスとも表記される。当館では現在のところ,別掲の根拠(リンク先参照)からデュカ説の蓋然性が高いと判断し,「デュカ」表記を採用している


主要作品

舞台作品 ・歌劇【ホーンとイムニルド】 Horn et Rimenhild (1892) ... 古英語の英雄伝が原典。Dukas台本,未完
・歌劇【叡智の木】 L'arbre de science (1899) ... Dukas台本,未完
・アリアーヌと青ひげ Ariane et barbe-bleue (1907) ...Maurice Maeterlinck台本,3幕
・歌劇【新たなる世界】 Le nouveau monde (1908-?1910) ...
未完(構想のみ?)。アメリカを指すかどうかは不明
・ラ・ペリ La péri, poème dansé (1911) ...
舞踏劇。N. Trouhanowaに献呈された
・バレエ【メデューサの血】 Le sang de Medusé (1912) ... 未完(構想のみ?)。
・バレエ【舞踊の変奏】 Variations chorégraphiques (1930)
管弦楽 ・リア王 Le roi Lear (1883) ...現存せず。ただし序曲(1893年作曲)のみ発見され,1995年に初演。
・ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン Götz von Berlichingen (1884) ...
現存せず(序曲のみ現存か)
・ポリュークト Polyeucte (1891) ...
副題は「Corneilleの悲劇への序曲」
・交響曲ハ長調 Symphonie en ut majeur (1895-1896)
・魔法使いの弟子 L'apprenti sorcier (1897)
・フレデゴンド Frédégonde (1897?) ...
現存せず。フランク王朝時代の悪女を描くギローの歌劇から一幕三場を編曲。
・交響曲第2番 Symphonie No.2 (-) ... 構想のみ(か未完)
室内楽 ・ヴィラネル Villanelle (1906) {hrn, p}
・ヴァイオリン・ソナタ Sonate pour violon (-) {vln, p} ...
構想のみ(か未完)
歌曲 ・ヴォーカリーズ=エチュード Vocalise-étude (1909) {vo, p}
・ロンサールのソネット Sonnet de Ronsard (1924) {vo, p}
...
ロンサール生誕四百年記念企画で,Ravel, Roussel, Honegger, Caplet, Aubert, Roland-Manuel, Delageと共作
合唱曲 ・カンタータ【ヴェレダ】 Vélleda (1888) ... F. Beissier詩
・カンタータ【セメレ】 Sémélé (1889) ...
E. Adénis詩
・太陽への讃歌 Hymne au soleil (-) {choir, orch} ...
Casimir Delavigne詩
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ 変ホ短調 Sonate en mi bémol mineur (1901)
・ラモーの主題による変奏曲 Variations, interlude et finale (1903)
・ハイドンの名による悲壮な前奏曲 Prélude élégiaque sur le nom de Haydn (1909)
・牧神の遙かな嘆き La plainte au loin du faune (1920)
典拠 Hopkins, G.W. 1980. Dukas, Paul. In Sadie, S.(ed) New grove dictionary. Oxford.

※リッチー・カニンガム氏の助力により作品表を改訂(2006. 12. 9)

デュカを聴く


★★★★☆
"Symphonie en ut majeur / La Péri, poème dansé" (Erato : R32E-501)
Armin Jordan (cond) Orchestre de la Suisse Romande
ドビュッシーなどの音楽が好きな貴兄に,目下最もお薦めしたいデュカのCDはこれです。『交響曲』は,形式と調性がずいぶん拡張され,色彩感が段違いに豊かであることを除けば,彼以前のロマン派音楽(チャイコらロシアものや,サン=サーンスなどの仏もの)の保守的ロマン派書法を基本的には踏襲した作品。近代ものが好きな人には形式的で古臭く聞こえるかも知れませんが,優れた和声感覚で簡単には飽きさせぬ良品。しかし,この盤の聴きものはやはり『ラ・ペリ』でしょう。冒頭からデュカの図抜けた和声感覚を偲ばせる分厚い金管のテュッティ(合奏)を経て,20分にも渡る夢心地の叙情詩が展開される『ラ・ペリ』はデュカ最後の大作。ドビュッシーも目を見張るような絢爛たるオーケストレーションが見事な畢生の名品です。注意深く聴けば,ロマンティックで典雅な作品中の随所に,ドビュッシーの音楽語法が注意深くとり込まれているのをお気づきになるでしょう。この作品がおそらく,上品典雅かつ伝統的な形式の中に,豊かな和声の花を咲かせようとしたデュカにとって,最も理想に近い音楽ではなかったでしょうか。

★★★☆
"L'apprenti Sorcier (Dukas) : Le Chasseur Maudit (Franck) : Effet de Nuit (Lazzari) : Lénore (Duparc) : Danse Macabre (Saint-Saëns) : Aux étoiles (Duparc)" (EMI : TOCE-9159)
Michel Plasson (cond) Orchestre du Capitole de Toulouse
デュカは優れた弟子を数多く育成し,大きな影響力を持った人ですが,印象派好きでそれも音楽史的なことに多少なりとも興味でもない限り,一般にはほとんど知られていません。そんな彼が唯一,フツーのファンにも知られている(と思われる)のがこの『魔法使いの弟子』。演奏盤も多いのですが,ここでは,こちらも珍しいデュパルクの管弦楽作品と一緒に演奏してくれたプラッソン盤を。ディズニー映画でも用いられる,有名な主題モチーフが繰り返し繰り返し登場し,ムソルグスキーの『展覧会の絵』みたいです。具象的で覚えやすい主題にポピュラリティがあるのは分かりますが,ちょっと幼児向け作品めいて,安っぽく聞こえるのも確か。主題の反復をつないでいるブリッジにおける,半音階書法を駆使した熟達のオーケストレーションはそれなりに魅力的なものの,クラシック・ファン一般にはやはり上記盤のほうを薦めます。

★★★★
"Alla Francese : Sonate (Poulenc) / Cavatine (San-Saëns) / Villanelle (Dukas) / Impromptu (Ibert) / Choral, Cadence et Fugato (Dutilleux) / Divertimento (Françaix) / Sonate (Hubeau) / Recreation (Gabaye)" (Pierre Verany - Victor : VICC 23005)
Thierry Caens (tp) André Cazalet (hrn) Michel Becquet (tb) Yves Henry (p)
もともと彼がマイナーな理由の大半は,残った作品が極端に少なかいから。そういう過小評価のされ方をする人の作品は外れが少ないです(デュパルクやカプレ,ブーランジェが良い例)。ここに含まれている彼の作品は『ヴィラネル』僅か1曲だけですが,これがマイナーなままにしておくのが勿体ないような佳品。彼の前半生の作品は保守的で古臭いので,多くの近代ファンはそれらを聴いてデュカはいらん,と通り過ぎてしまうのではと小生は危惧します。彼を聴くならぜひ後年のものを。1900年に入ってからの彼の作品はテンションが上がり,いずれも充実した逸品揃いです。カップリングでフランスものが入っているCDで彼を見かけたら,ぜひ聴いてあげてください。

★★★★
"La Plainte au Loin du Faune / Sonate pour Piano / Prélude Élégiaque" (EMI : TOCE-9834)
François René Duchâble (piano)
プーランクのピアノ作品集で評価が高いフランスのピアニスト,ルネ・デュシャーブルによるデュカのピアノ作品集です。残念ながら全集ではないのですが,主立った作品はこの一枚でほぼ揃えることができます。彼のピアノ曲は初期のフォーレやショパンなどと同様のロマン派的なもので,近代以降のイディオムはあまり見ることができません。その例外というべきものが,ドビュッシーの死を悼んで作られたという4分足らずの小品『牧神の遙かな嘆き』。ソ音が執拗に反復され,沈鬱な雰囲気を醸しだしていますが,よくよく耳を澄ませてみると,確かに遙か遠くで『牧神の午後への前奏曲』のクロマティックな主旋律が反復されているのが分かるという仕組みになっています。

★★★★
"Thème et Variations / Nocturnes / Impromptu (Fauré) : Variations, Interlude et Finale / Prélude Elegiaque (Dukas)" (Fy : FYCD 088)
Yvonne Lefébure (piano)
パリ音楽院のピアノ科教授にして,自身も優れたピアニストとして知られたイヴォンヌ・ルフェビュールは,きっと現役の間は教育者として身を捧げる決心をしていたのでしょう。少なくとも近代物に関しては晩年になるまでほとんど録音を残していません。しかし,教職を辞して自由になったせいでしょうか,晩年に入って気ままに録音にも手を染めるようになりました。多くは技巧の衰えが見受けられ,正直なところ,楽しみのための録音といった印象。絶頂期だったらなあ・・と思わずにはおれないものですが,少なくとも1970年代以前に残されたものに関しては(既にかなりのご高齢であるにもかかわらず)絶頂期の片鱗を伺わせる好演が潜んでいます。これもその中の一つで,フォーレとデュカの作品集。評判になったラヴェルの作品集やドビュッシーとエマニュエルのソナタ集などと同様,彼女の演奏は余計な虚飾を排し,全体にさらりと瀟洒な語り口。朴訥なフォーレやデュカでは,その表情の淡泊さが目立つ気がするのも確かです。決して今日的ではありませんけれど,ギーゼキングなどにも通じるタッチの丸みや軽やかさは,打鍵の表情そのものに拘った古き良き世代のピアニストならではのものです。

★★★★
"Matrix 27 :
Piano Sonata (Dutilleux) / Deux Mirages (Schmitt) / Piano Sonata (Dukas)" (EMI : 7243 5 65996 2 8)

John Ogdon (piano)
現代音楽を得意とした個性派オグドンのフランス近現代ピアノ作品集。併録の2作品がかなり才気走った先鋭的な作風なのに対し,デュカのソナタはずっと保守的。とはいえ,パリ音楽院で和声法の教鞭を執り,ドビュッシーの死を悼んで『牧神の遙かな嘆き』を作ったくらい,進歩的な音楽に寛容だった人です。リストやショパン,ラフマニノフを彷彿させる技巧的な装飾音が,保守的なロマン派様式の上に華麗なデコレーションを形成しています。その系統の作品に目がない方は溜飲を下げて聴けるのでは。オグドンの演奏は少し弾き間違いが気になりますが,ただならぬ妖気の漂う怪演。全盛期にベートーベンやショパンなんか弾かせたら凄そう・・・。

(2002. 2. 1)