Dの作曲家



アンリ・デュパルク Henri Duparc (1848-1933)

1848年1月21日パリ生まれ。本名マリー=ウジェーヌ=アンリ・フーケ=デュパルク(Marie Eugène-Henri Fouques-Duparc)。ジェスイット・デ・ヴォジラール神学校(Collège des Jésuites de Vaugirard)でセザール・フランクにピアノおよび作曲を師事。1871年にサン=サーンス,フランク,ダンディ,フォーレらと共に国民音楽協会の創設に参画。フランス後期ロマン派の伝統に立脚しつつ,静謐な叙情性をたたえた作品を遺す。1885年頃(37歳)から神経症に悩まされた挙げ句視聴覚を失い,スイスへ隠棲。長命であったにも拘わらずこれ以降の作曲家としてのキャリアをほぼ絶たれた。稀に見る完璧主義者であった彼は,「いいものを,少しだけ書き給え」というフランクの教えを忠実に守り,生前にその殆どの作品を破棄したため,現存する作品はごく僅かに限られている。1933年2月12日,南仏モン=ドゥ・マルサン(Mont-de-Marsan)にて死去。※Northcote, S. 1950. The songs of Henri Duparc. Dobson. を入手しました。時間が出来次第,略歴を増補します。


主要作品

管弦楽 ・星たちへ aux étoiles : poème nocturne (1874) {orch}
・交響詩「レノール」poème symphonique 'Lénore' (1875) {orch}
・ゆるやかな踊り danse lente (1911) {orch}
歌曲 ・セレナード sérénade (1868) {btn, p}
・ミニョンのロマンス romance de Mignon (1868) {msp, p}
・ギャロップ le galop (1868) {btn, p}
・悲しき歌 chanson triste (1868) {msp, p}
・溜息 soupir (1868/1869) {msp, p}
・戦に寄せて au pays où se fait la guerre (1869/1870) {msp, p}
・逃亡 la fuite (1870) {msp, btn, p}
・旅への誘い l'invitation au voyage (1870) {btn, p}
・波と鐘 la vague et la cloche (1871) {btn, p}
・恍惚 extase (1872) {btn, p}
・エレジー elégie (1874) {msp, p}
・ローズモンドの館 le manoir de Rosamonde (1879) {btn, p}
・フィディレ phidylé (1882) {btn, p}
・フローレンスのセレナーデ sérénade Florentine (1880) {btn, p}
・悲曲 lamento (1883) {msp, p}
・遺言 testament (1883) {msp, p}
・前世 la vie antérieure (1884) {btn, p}
合唱曲 ・ベネディカト・ヴォービス・ドミネ motet :benedicat vobis domine (1882) {choir, org}
器楽曲 ・チェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1867) {vc, p}
ピアノ曲 ・夢 rêverie (1864)
・風に舞う木の葉 feuilles volantes (1869)
・ワルツ形式の組曲 suite de valses (1874) {2p}


デュパルクを聴く


★★★★
" Phidylé / l'invitation au Voyage / La Vie Antérieure / Le Manoir de Rosamonde / Testament / Au Pays où se Fait la Guerre / Lamento (Duparc) : Shéhérazade (Ravel) : Depuis le Jour (Charpentier) : L'année en Vain Chase l'année.. (Debussy) : D'amour l'Ardente Flamme (Berlioz)" (EMI : TOCE 4047)
Kiri Te Kanawa (sop) John Pritchard, Jeffrey Tate (cond) Orchestre Symphonique de l'Opéra National, Belgium : Orchestra of the Royal Opera House, Covent Garden
デュパルクの歌曲集はこの作家に於ける代表作で録音も数多ありますが,不思議なことに管弦楽への編曲ものになると,全曲を録音した作品は全くお見かけしません。『旅への誘い』以外は作曲者オリジナルの編曲ではないとはいえ,解せないの一言。予算的なものでしょうか?そんな中,充実の後期作品を中心に7曲も演ってくれたキリ・テ・カナワ女史には心より御礼申し上げるばかりです。おまけに今や値下げブームで1000円で買えてしまう。願ったり叶ったりのこの作品,デュパルクを聴くなら,まずはこれなど宜しいと思います。小生の愛聴する『フィディレ』こそアンへレス盤に一歩譲るものの,演奏も良いです。

★★★★
"8 Mélodies / Lenore / Aux Étoiles / Danse Lente" (Accord : 472 356-2)
Jérôme Kaltenbach (dir) Françoise Pollet (sop) Orchestre Symphonique et Lyrique de Nancy
ブーランジェの名録音が印象に残るナンシー交響合唱団と同楽団が残したデュパルク録音。彼の歌曲がオケ編曲版で8曲も聴ける嬉しい一枚です。しかし,そんな喜びすらも一瞬にして霞んでしまう驚きが併録に隠れていました。『星たちに』と『レノール』くらいまでは知っていましたが,『ゆるやかな踊り』は全くの初耳。1911年の作品ということは,歌曲集よりも後。なんとこの年,彼は最後の気力を振り絞り,できかけだったと思しきこの小品を書き上げるとともに,『星たちに』の再配置を行っていたのです。通説では1885年に神経症に陥り,以降創作できなくなった筈の彼に,まだ気力が残っていたとは・・正真正銘これが,彼の音楽的軌跡の最後を飾りました。指揮を執るカルタンバックはパリ音楽院を一等で卒業し,ブザンソン指揮者コンクールで入賞した人物。マルティノンの弟子です。だからというわけでもないのでしょうが,律儀に等間隔で拍を取っていく,些か気の小さい指揮。それは歌い回しの硬いソプラノも同様。初期のワグネリアン的な作品はともかく,デュパルクの持つ伸びやかな官能美を殺してしまっているのは残念。特に『星たちに』ではそれが顕著で,滑らかに抑揚を利かせたプラッソンの巧さを再確認させられることになりました。それでもなお,デュパルク・ファンには『ゆるやかな踊り』で充分に一聴の価値ありでしょう。

★★★★☆
"Poème de l'amour (Chausson) : 12 Songs (Duparc)" (Testament : SBT 1208)
Gérard Souzay (btn) Dalton Baldwin (p) Edgard Doneux (cond) Orchestre de Chambre de la Radio Télévision Belge
フランス近代ものの歌唱に掛けては第一人者と定評があるジェラール・スゼーの残したデュパルク歌曲集を,ショーソンの代表作『愛と海の詩』で割った企画盤。デュパルクの歌曲は,東芝EMIから国内盤としても出ていました。本盤は旧録音の再CD化で知られるテスタメントが,フィリップス盤を再発したものです(EMIのものとは録音違い)。詳しいことはよく分かりませんが,デュパルクの歌曲は今のところ17曲まで見つかっているので,本盤録音当時はおそらく,まだ12曲しか発見されていなかったのでしょう。録音は1972年で,仏ディスク大賞を受賞した高名なドビュッシー歌曲集の翌年に吹き込まれたものということになります。既に円熟の境地に達した歌は,快い落ち着きと甘美な佇まいを持ち,俗に「ビロードの歌声」と形容される,テノールのように滑らかで暖かい美声は相変わらず健在。大変に良くコントロールされており,男声の歌曲集としては,半世紀近くが経った今でも,おそらく決定版に近い代物ではないでしょうか。バリトンによる歌なので,女声による録音とはキーが違う。キーを変えるなんて,それ以前の歌曲ではそうあり得ないことでしょう。この辺りにも,当時のフランスで調性概念のもつ絶対性が揺らぎ始めていたことを伺えます。

★★★★
"L'apprenti Sorcier (Dukas) : Le Chasseur Maudit (Franck) : Effet de Nuit (Lazzari) : Lénore (Duparc) : Danse Macabre (Saint-Saëns) : Aux étoiles (Duparc)" (EMI : TOCE-9159)
Michel Plasson (cond) Orchestre du Capitole de Toulouse
企画盤というと,熟れ線狙いの有名曲をテキトーに詰め込んだ愚にも付かないものが多いのが常ですが,こちらは珍しく,滅多に演奏されないデュパルクの管弦楽作品を採り上げてくれた嬉しいCD。彼の歌曲は管弦楽で聴くべきだという理由は,このCDを聴けば分かります。すでに歌曲サイクルに入った時期の作品であり,サン=サーンスやラロなど比較的早い段階の後期ロマン派ものも大丈夫という方には,秘曲として魅力的に響くでしょう。分けても聴かせるのが『星たちに』。マスネーの『タイスの瞑想曲』も真っ青の,甘くどこまでも切ない旋律美に満ちた作品で,きっとラブ・ロマンスものの映画の主題歌にしたら,居合わせた女性客を泣かすだろうなと思わずにはおれないくらい,ひたすらに感傷的です。メジャーなフランスのオーケストラの中では,リヨン管やブルターニュ管と並んで,最も秘曲に優しい職人ミシェル・プラッソンとトゥルーズ管の演奏も,シュアな好演です。

★★★★
"Mélodies (Duparc)" (Pierre Verany)
Martine Maht (tnr) Vincent Texier (btn) Noël Lee (p)
こちらは一転,新しめのデュパルク歌曲集。新しい録音ということで,その後出てきたと思しき17曲全てが収録されているのが最大の美点でしょう。ピアノのノエル・リーは,かつてイヴァルディやウェルナー・ハースの第2ピアノを務め,フランス歌曲の歌伴などでも幅広く活躍する名手。カプレの歌曲集やゴベールのフルート作品集における伴奏,イヴァルディとのドビュッシー連弾やハースとの『白と黒で』連弾などは,それぞれの演奏史上においても最上と呼んで差し支えのない仕上がりとなっており,それもこれもこの人物の助演の巧さ依るところ大だったといえるでしょう。ヴァンサン・テクシエは,ブーランジェやロパルツなどの歌曲を出している人で,実績は充分。本来なら素晴らしい歌曲集が出来ても良い筈なんですけどねえ。出来映えの方はもう一つパッとしません。これは技術的な問題と言うより,相性の問題でしょう。匂い立つようなデュパルクの甘美な世界に,どちらかというと武骨に歌うバリトン歌手,テクシエはやはり,些か場違いな気がするのは私だけでしょうか?

★★★☆
"Great Recordings Collection - Charles Panzera Sings Duparc & Schumann" (EMI)
Charles Panzera (btn) Magdleine Panzera-Baillot (p) Alfred Cortot (p)
20世紀前半に活躍したフランスのバリトン歌手,シャルル・パンゼラによる,恐らく最も早い時期のデュパルク歌曲集。記憶が確かなら仏ディスク大賞を獲り,当時はかなり評判の良かったものだったはずです。実際問題私も,どこぞでそんな触れ込みを目にし,かなり期待して買った気がしますけれど・・え〜・・モノラルで聴き難いです(笑)。声質も決して素晴らしいとは言えませんし,何より歌い回しが古臭い。等速ビブラート全開の発声は,ちょうどNHKなんかで焼け野原の映像が流れている際のBGMに使われる「あの娘可愛やカンカン娘ぇ〜」みたいです。デュパルク・マニアの方か,かつてパンゼラしか選択肢がなかったころのセピア色の想い出がお有りの方以外は,敢えてお探しになるようなCDでもないかと。CDが普及した今日,幾らでもいい歌曲集があるでしょう。こういうレトロな音盤は,それらをお楽しみになった後で充分。一部の批評家は「昔は良かった」的なことを言うのに,時々こういうのを出したがる傾向があります。そういう「裸の王様」は無視するに限ります。確かに小生はあまり熱心なデュパルク・ファンとは言えず,それほど沢山のCDを聴いたわけではありません。しかし,その少ない選択肢の中でも,こんにちわざわざこれを持ち上げる気にはなれないですねえ。

★★★★☆
"Sonate pour Violoncelle et piano (Duparc) / Sonate pour Violoncelle et piano, No.1, No.2 (Ropartz)" (Daphénéo : A010)
Raphaël Chrétien (vc) Maciej Pikulski (p)
ロパルツとデュパルクという,フランク門下2人のチェロ・ソナタを収めたCDです。前者は1990年代になって漸く世界初録音された珍品。作者の兄に贈られたデュパルクのソナタ,そしてロパルツのソナタ2品も,期せずして彼らの作品中では初期のもので,作品に限って言えば筆致はフランキスト色が濃く,つらつらと儚げに移ろう半音階的な旋律美を旨とした作品。和声面では近代の匂いは弱く,後期ロマン派のイディオムに留まるものと言えると思います(ただし最後年のロパルツ2番は例外で,実際出来はこれが一番見事です)。しかし,旋律の美しさが勝負であるがゆえにこそ,ソリストの腕前によって生きも死にもする作品なのだ・・この新録音はそのことを何よりも雄弁に語る演奏秀逸盤。パリ国立音楽学校では2部門で一位を獲り,ベルグラード国際で2位と特別賞を獲得したフランスのチェロ奏者クレティアンの演奏は,フランス人らしく飴のように滑らかな甘美さを備え,全く棘の立たない音色が素晴らしい。デュパルクなんか同じ曲の筈なのにまるで別の曲であるかのようなみずみずしい精気に驚きました。同作を初録してくれたクラブユールさん・・申し訳ないけど出来は数段こちらが上です。ピアノもごく僅かミスタッチする他は良く力が抜け,みずみずしいタッチで見事。伴奏者としての長い経歴を裏付けるセンスの良いバック・アップであると思います。(本CDの入手に際しては黒山羊さん・myaさんから格別のご助力を賜りました。記して感謝申し上げます

★★★
"French Music Vol.2 :
Sonate pour Violoncelle et piano (Duparc) / Sonate pour Violoncelle et piano (Poulenc)" (King : KKCC 4148)

Robin Clavreul (vc) Boris Nedeltchev (p)
デュパルクはおそろしく完璧主義者だったらしく,生前に作品の殆どが破棄された上に,後半生は神経症のため作曲活動も出来ず,17曲の歌曲以外に知られた作品はほとんどありません。そんな中,青天の霹靂とばかりに出たこのCDは,全ての近代もの愛好者を驚愕させるに十分なものでした。フォーレやショーソンを思わせる高雅にして甘美な歌曲に比べると,僅か19歳で書かれたこの作品は旋律こそ甘美であるものの,和声面ではまだまだ古典的で,舌足らずな印象。それでも,これは珍品には違いありません。既に上記盤の登場で価値は下がってしまいましたけれど,こういう曲を真摯に発掘して世界初録するような,音楽家一人ひとりの自覚と,音楽に対する情熱と理解が,僅かずつでも音楽界を豊かにしていくのだと私は信じて疑いません。不毛な焼き直しの中で保身を図る世の凡弱な音楽エリートどもは反省しやがれ!

★★★☆
"Mass for Double Choir (Martin) / Benedicat vobis Domine (Duparc) / A Boy was Born (Britten) / Pavane (Fauré)" (IMP : CRCB-6058)
John Poole (cond) Choristers of Westminster Cathedral : Simon Joly (cond) BBC Concert Orchestra
BBC放送は日本で言えばNHKにあたる国営の放送局で,これまたNHK同様,交響楽団も持っています(しかも素晴らしい性能です)。BBCには膨大な量の放送音源が眠っており,1990年代の中頃,これらの中から100タイトルほどが,1500円ほどの廉価でCD化されて話題を呼びました。大半はいわゆる3B系ながら,中にはボールトのヴォーン・ウィリアムス集など,英国らしさを示す音源もあり,結構瞠目させられたものです。この録音もそのひとつで,大変珍しいデュパルクのミサ曲が入っています。彼らしい甘美な叙情をたたえた作品となっており,歌曲以外の作品も聴いてみたいという方にはお薦めです。ただ,演奏内容はもう一ついただけません。ラングレーのミサ曲でも歌っているウエストミンスター大聖堂聖歌隊,私でも知っているくらいですから,さぞ大きな教会でしょうに。その割に聖歌隊がパッとしないのは何故なんでしょう?などと不埒なことを言ったら天罰が落ちますか?