Dの作曲家



モーリス・デュリュフレ Maurice Duruflé (1902-1986)

フランスのオルガン奏者,教育者,作曲家。1902年1月11日ノルマンディー地方のルヴィエ生まれ。1918年にルーアン教会合唱学校に進んで歌唱,オルガンとピアノを学んだのち,1919年にパリ音楽院へ進学。1922年まで在籍し,トゥルヌミールとヴィエルヌに師事するとともに,ウジェーヌ・ジグにオルガン,ジャン・ガロンに和声法,ポール・デュカに作曲法を学び,卒業までに5部門で一等を得た。1919年から1929年まで聖クロチルド教会付の助演オルガン奏者を務め,1929年にルイ・ヴィエルヌの後任としてノートル・ダム聖堂のオルガニストに就任,1931年までその地位にあった。次いで1930年からは,聖エチャンヌ=ドゥマン教会(St.Étienne-du-Mont)付の正オルガニストとなり,1975年まで同教会のオルガニストを務める傍ら,1944年から1969年までパリ音楽院和声法科の教授として教鞭を執る。作品番号のあるもので生涯に僅か14作品と大変な寡作家で,作曲家としては極めて過小評価の状態に置かれている。1986年6月16日パリにて死去。『オルガンの友』誌最優秀賞,『レクイエム』の録音(エラート盤)で仏ディスク大賞などの受賞歴がある(関連ページ: Maurice Duruflé Memories 英語)。


主要作品

管弦楽曲 ・3つの舞曲 trois danses (1938)
・アンダンテとスケルツォ andante et scherzo (1951)
宗教音楽 ・レクイエム requiem (1947)
・グレゴリオ聖歌の主題による4つのモテット quatre motets sur des thèmes grégoriens (1960) {choir}
・クム・ユビロ mass 'Cum jubilo' (1966) {btn, org, orch}
・われらが父 notre père (1976) {choir}
室内楽 ・前奏曲,朗唱と変奏 prélude, récitatatif et variations (1929) {fl, vla, p}
オルガン曲 ・スケルツォ scherzo (1926)
・前奏曲,アダージョとコラール変奏曲 prélude, adagio et choral varié sur le thème du 'Veni Creator' (1930)
・組曲 suite (1930)
・ジャン・アランの名による前奏曲とフーガ préludeet fugue sur le nom d'Alain (1942)
・フーガ fugue sur le callion des heures de la cathédrale de Soissons (1962)
・イントロゥイトによる前奏曲 prélude sur l'Introït de l'épiphanie (1961)
ピアノ曲 ・三部作 tryptique (1927)


デュリュフレを聴く


★★★★★
"Requiem / Quatre sur des Thèmes Gregoriens" (Hyperion : CDA20191)
Matthew Best (cond) Ann Murray (msp) Thomas Allen (btn) Thomas Trotter (org) Corydon Singers : English Chamber Orchestra
コライドン・シンガーズはロマン派以降の合唱曲を主なレパートリーにしているイギリスの合唱チーム。1973年に,ここでも指揮棒を執っているマシュー・ベストが創設した合唱隊です。ハイペリオンに多くの合唱曲を吹き込んでおり,特にイギリス近代ものには滅法強い。ラッターやヴォーン=ウィリアムスの合唱曲集はいずれも見事で,多分昨今のイギリスの合唱チームでは最も実力が安定しているんじゃないでしょうか。デュリュフレの代表作を収めたこの盤も,入手平易な盤としては最上と思われる,見事に整った肌理に溜飲が下がります。録音のせいなのか,イギリス室内の弦の響きが少々粗くキンキンと神経質なのは引っかかりますけれど,合唱隊や楽団のきめの細かさや正確さ,少しテンポが速く含みに乏しい感もあるものの流麗な指揮などは流石。特に艶やかで清明な女声の一体感は現在活躍している数多の合唱団中でも屈指の高水準で,『レクイエム』掉尾の「天国へ」などでは改めてその水準の高さを実感しました。比較的良い演奏が少ないデュリフレの合唱曲集では,内容から言って最もお薦め度の高い部類に属する一枚なのでは。ちなみに,『4つのモテット』は,他盤とは違うキーで歌われています。版が違うのかな?それとも元ネタがグレゴリオ聖歌だから?

★★★★☆
"Requiem / Prélude, Adagio et Choral Varié : Prélude en mi bémol mineur : Sicilienne pour Orgue" (Erato : 4509-96952-2)
Maurice Duruflé (cond, org) Hélène Bouvier (msp) Xavier Depraz (bss) Marie-Madeleine Duruflé-Chevalier (org) Chorales Philippe Caillard et Stéphane Caillat : Orchestre de l' Association des Concerts Lamoureux
デュリフレは大変な寡作家でしたが,嬉しいことに生前,自作自演を多く残してくれました。この録音はその中でも定番というべきもので,1959年と1963年の録音。作者自身がオルガンを演奏した三曲のオルガン独奏作品を併録しています。仏ディスク大賞を受賞した名録音だけに,『クム・ユビロ』や『4つのモテット』を収めた自作自演による兄弟盤と比べても内容は段違いに良い。一音一音の輪郭を明瞭に浮かび上がらせた管弦楽部の描き込みはわけても素晴らしく,兄弟盤では足を引っ張ったステファン・カイラ合唱団にはフィリップ・カイヤール合唱団が援護射撃。ステレオ創生期だけに,オケは現代に比べると良くも悪くも細部にこだわらない悠々とした演奏ですし,合唱団も細かく聴くと声質は少々くたびれ気味で決して最良とは言えません。しかし,それが却って奏功。オケも録音も良くなったのに合唱団だけが悪く,結果として全体のバランスが大きく崩れてアラが目立ってしまう兄弟盤に比べ,細部にこだわらずおおらかな暖かみのある演奏・歌唱陣と,そこから実直堅牢な構造美を浮き立たせる作者の周到な指揮振り(特にオケの統率に関して顕著)が絶妙にバランスして際立った結果をもたらしている。現象としての演奏よりも,彼らが表現している音のアニマを重んじる方にはぜひ。フォーレとラングレの中庸を得た重厚な様式美と強い旋法性,精緻な和声感覚に酔います。

★★★★
"Cum Jubilo / Quatre Motets / Trois Danses / Scherzo / Prélude et Fugue sur le nom d'Alain" (Erato : 4509-98526-2)
Maurice Duruflé (cond) Roger Soyer (btn) Marie-Madeleine Duruflé-Chevalier (org) Orchestre National de l'O.R.T.F : Chorale Stephane Caillat
作曲者自身も録音僅少な管弦楽『3つの舞曲』で指揮を執り,全編に奥さんのオルガンがフィーチャーされるこのCD。原作者が夫婦仲良くどっしり鎮座している重みひとつで,スタンダードとして,一定の存在価値を有しているのは否定しがたいでしょう。あのデュティユーも教鞭を執った天下のパリ音楽院和声法科の教授だったくらいですから,彼の旋法・和声感覚は大変に精緻。中世教会音楽に根ざしたうえでの温故知新な創作態度ゆえ一聴穏健ですが,例えば『クム・ユビロ』の「ベネディクトス」はスイスの大作曲家マルタンに,「サンクトゥス」はジャン・ラングレに良く似ており,近代のエッセンス(高い旋法性,構成力,鋭敏な和声感覚)が幸福に溶け合った品格あるモダニストぶりを発揮。恐らく寡作ゆえに知名度落ちなのでしょう。筆力そのものは素晴らしいと思います。併録されたオルガン作品も,アランとデュプレの中間あたりにベクトルを置き,秘曲として充分に愉しめるのでは。それだけに惜しかったのは,冒頭から派手に足を引っ張る合唱陣でしょうか。もう少し何とかならなかったんでしょうかねえ。勿体ない・・ひょっとして上記『レクイエム』の録音で合唱隊が違うのは,本盤を聴いて作曲者激怒だから?なんてありもしない下司の勘ぐりをしてしまいますことよ。

★★★★
"Requiem / Quatre Motets / Notre Père / Scherzo / Prélude et Fugue sur le nom d'Alain" (Naxos : 8.553196)
Michel Piquemal (cond) Eric Lebrun (org) Béatrice Uria-Monzon (msp) Didier Henry (btn) Ensemble Vocal Michel Piquemal : Orchestre de la Cité
プーランクもロパルツもトマジもお世話になっている(?)フランス近代宗教音楽界の救世主,ミシェル・ピクマルのデュリュフレ。精妙な和声の肉づけを得たデュリフレの宗教曲は,古典教会音楽に立脚した敬虔な雰囲気に満ちていながら,近代ものとしても充分鑑賞に堪える衣の色合い豊かさが実に風雅。それだけに,生涯僅か14作という驚異的な寡作家ぶりが返す返すも惜しいですねえ。ナクソス系列にばかり録音している指揮のピクマルですが,ロパルツの宗教曲集はアコールから出ましたし,廉価レーベルでしか相手にされないお安い演奏家とは訳が違います。確かに,彼の手兵ピクマル・アンサンブルは,大手合唱団に比べるとやや肌理が粗く,声質の粒が揃わないところはあります。それでも,エラート自作自演盤のステファン・カイラ合唱団あたりに比べたらピッチの精度は明らかに上。取り敢えず曲を知りたいと仰る方にであれば,充分入門盤として機能するレベルの歌唱はしているんじゃないでしょうか。オルガンを弾くルブルンさんは,ガストン・リテーズの弟子筋で,リテーズ作品集も録音している素敵なお方です。

★★★★
"Requiem, op.9 / Cum Jubilo, op.11 / Notre Père" (Delos : DE 3169)
Dennis Keene (cond) Patricia Spence (msp) François Le Roux (btn) Mark Bleeke (tnr) Voices of Ascension Chorus and Orchestra
あまりお見かけしたことのない米国勢によるデュリフレ録音は,1995年のもの。こんな企画が,脈絡もなしに新大陸から出てくる筈もなく,どうやらデュリフレにハマって四半世紀な指揮者デニス・キーンの肝煎りが背景にあった様子です。ジュリアード出身の彼は,当初オルガン奏者としての活動がメイン。ジュリアード在学中にガストン・デシエ賞を受賞し,1977年に渡仏。デュリュフレ夫人,アンドレ・マルシャル,アンドレ・イゾワルに師事しました。しかし,ほどなく指揮のほうが面白くなり,ジュリアードでジョン・ネルソンに,モントゥー校でシャルル・ブリュックに指揮法を学んで転身。本盤に聴けるNY5番街昇天教会合唱団の音楽監督となり,マンハッタン音楽院の教員にも就任しました。恐らくはパリ在学中,デュリュフレの作品に出逢ってすっかり傾倒。その後はスペシャリストとして,活動の大半をデュリフレ上演に費やしているのだとか。この吹き込みもその一環だったというわけです。流動感を重んじた流れるような指揮に乗った合唱隊の力量は,一聴意外なほど高く,特に弱音の滑らかな歌い回しはかなりのもの。「オオ,あんな小島に良い合唱隊揃えたな」と感心しました。フォルティッシモになると若干ボロが出まして,各人の声質にムラがあるのが分かってしまいますし,貧相な録音のせいか,音量が上がると合唱隊がダイナミックレンジを突き破り,見事に音割れを起こして,くだんのムラを刺々しく増強してしまう。勿体ないお化けが飛び交うのを禁じ得ませんねえ。オレゴン州出身のソプラノも声質が重くオカマバーっぽいですし,強音で喉を締め過ぎており,緊張が仰々しいビブラートに乗ったお声もやや苦しそう。ここでも音割れが起きていて,興醒めなのが勿体ないです。自慢げに一筆啓上してる録音技師のジョン・アーグルさん!犯人は貴方ですよあなた!

★★★★☆
"Requiem (Fauré) Quatre Motets / Cum Jubilo (Duruflé) O Sacrum Convivium (Messiaen)" (Conifer : 74321 153512)
Camilla Otaki (sop) Mark Griffiths (btn) Briony Shaw (vln) Richard Pearce (org) David Marlow (dir) The Choir of Trinity Colledge : London Musici
プーランクの合唱曲集の録音もあるデヴィッド・マーロウ指揮トリニティ・カレッジ合唱団による一連のコニファー録音,今度はフォーレ,デュリフレ,メシアンの合唱曲集です。フォーレのレクイエムなどを聴くと,指揮はそれほど細部にこだわりなく割にあっさりと振っていて,ヘルヴェッヘほどには透徹していませんし,コルボほどの重厚さや安定感もないのですが,そう感じるのはむしろレクイエムの音盤が充実しているからで,決してこの盤の出来が物足りないわけではありません。トリニティ教会の聖歌隊は,同じ首都圏にある(私の中では悪名高い)ウェストミンスター教会とは月とスッポンな優秀合唱団。この盤でも安定した歌声を披露しており,嬉しいことに今までこれといった演奏のなかったデュリフレの無伴奏『4つのモテット』を録音してくれた。そんなに聴いてる訳じゃありませんけど,本盤の『モテット』は目下,聖歌隊の肌理が粗くざらざらした風合いになってしまったピクマル盤(ナクソス)や,そもそも男声がモロに力不足な自作自演盤を明瞭に凌駕する内容だと思います。メシアンの宗教作品はこの併録で初めて聴きますけれど,かなり良くてびっくり。無調マンは,そもそもの動機が脱調性だから宗教音楽と相性がいいのかなあ?なんて思ってしまいました。

★★★★
"The Flench Flutes 1920-1930: Prélude, Récitatif et Variations (Duruflé) Suite / Improvisation et Rondo (N.Gallon) Passacaille / Bourrée (Rhené-Baton) Romanesque (R.Hahn) Sonatine (G.Ropartz)" (Classico : CLASSCD 160)
Bent Larsen (fl) Lars Grunth (vla) Sverre larsen (p)
ラングレのフルート入り室内楽作品集でもご紹介した北欧の印象派好きフルート吹き,ベント・ラーセン氏。どうやらフランス趣味はお遊びではない様子です。今度のCDは一番有名な作曲家でもデュリュフレ。好事家の財布の紐を緩める術を熟知した,街金よりも甘い誘い文句。『1920〜1930年代のフランス・フルート曲集』と題された本盤は,ラングレでCDを作ろうとする氏の仏近代に対する慧眼と博識の為せる業でしょう。中でも,教育者として以外には全く無名で,滅多に録音もお見かけしないノエル・ガロンとルネ・バトンが複数曲聴けるのは,この盤ならではの特典と言えるのではないでしょうか。ガロンのは,調性感,形式,旋律のいずれも明瞭で,教育者らしさを示す『組曲』と,一変,モーダルで印象派モロ出しの『即興曲』。温故知新の穏健なモダニストだったんでしょう。ゴベールに似ているという印象です。いっぽうルネ・バトンの2作品はドビュッシー的な調性の崩れがちらつき,ロパルツ後年に通じる妖しい官能美のゆらぎがあって,出色の出来です。演奏陣はやはりややB級。一部参加のヴィオラはやや不安定ですし,フルートもややハスキーで垢抜けませんけれど,劣悪な演奏ではありません。内容を考えれば充分買ってみる価値はあるのではないでしょうか。

(2002. 3. 18)