Fの作曲家



マニュエル・デ・ファリャ Manuel De Falla (1876-1946)

近代スペイン音楽の中心人物の一人。本名マニュエル・デ・イ・マテウ・ファリャ(Manuel de y Matheu Falla)。1876年11月23日,南スペインのカディス(Cádiz)生まれ。まず母からピアノを習い,次いで地元の音楽学校教師アレハンドロ・オデロ(Alejandro Odero)にピアノ,エンリケ・ブロカ(Enrique Broca)に和声法と対位法を師事した。次いでマドリード音楽院へ進んでホセ・ドラゴ(Jose Trago)へピアノを学び,1899年に一等を得たほか,1902年にマドリードへ進出したフェリペ・ペドレル(Felipe Pedrell)にも師事した。当時,彼は聖フェルナンド芸術アカデミー(Real Academia de Bellas Artes de San Fernando)主催の作曲コンクールで優勝しながら作曲家としてはほとんど評価されず,1907年にピアノ伴奏者として仕事を得たのを機に渡仏。リカルド・ヴィニエスの仲介で多くの作曲家と交流し,特にドビュッシーからは激励され,自作への助言を受けるなど親しく交流した。1913年,作曲以来全く評価されていなかった『はかない人生(La vida breve)』が舞台作品として再評価されて知名度を獲得すると,大戦のためもあって1914年に帰国。その後はスペイン民族主義的傾向と印象主義的書法を巧みに折衷して,近代スペイン音楽を模索した。国外では評価を確立したが,母国での評価は十分なものではなかった。1920年以降はグラナダに隠棲し,新古典的作風へ転じる。次いで1939年よりブエノスアイレスのスペイン文化研究所(Institucion Cultural Espanola)の招聘でアルゼンチンへ移住。病弱のため作品数は少ない。1946年11月14日アルタ・グラシア(Alta Gracia, Argentina)にて死去。


主要作品

舞台作品 ・歌劇【ビリャメディアーナの伯爵】 El conde de Villamediana (1891) ...de Rivas台本,未上演,詳細不詳
・サルスエラ【ジュアナとペトラ】 La Juana y la Petra, o La Casa de Tocame Roque (1900) {1act} ...
Ramon de la CruzによりJ. Santero台本, 未上演紛失
・サルスエラ【イネスの愛】 Los amores de la Inés (1901-1902) {1act} ...
E. Dugi台本
・愛の施し Limosna de amor (1901-1902) ...
J.J. Veyan台本, 未上演
・サルスエラ【(邦訳不詳)】 El cornetin de ordenes (1903) {3act} ...
未上演,紛失。A. Vivesと共作
・サルスエラ【マルタの十字架】 La cruz de Malta (1903) {1act} ... 未上演,紛失。A. Vivesと共作
・サルスエラ【戦下の虜囚】 Prisionero de guerra (1903-1904) ...
未上演。複写譜のみ現存,Vivesとの共作
・叙情劇【はかない人生】La vida breve (1904-1913) {2act} ...
C. Fernandez Shaw台本
・付帯音楽【受難】 La pasion (1914) ...
G. Martinez Sierra [M. O Lejarraga]による
・付帯音楽【夜明け】 Amanecer (1914-1915) ...
Martinez Sierra [Lejarraga]による,紛失
・恋は魔術師 El amor brujo (1915) {1act} ...
Martinez Sierra台本, 1916-1917年にballet版, 1幕
・付帯音楽【オセロ】 Othello: Tragedia de una noche de verano (1915) ...
Martinez Sierra [Lejarraga]による, 紛失
・無言劇【代官と粉屋の女房】 El corregidor y la molinera (1916-1917) {2scene} ...
Martinez Sierra [Lejarraga]による
・バレエ【三角帽子】 El sombrero de tres picos (1916-1919) ... P. de Alarcon 「三角帽子」台本,のちバレエ版に改訂
・喜劇【蛍】 Fuego fatuo (1918-1919) {3act} ...
Martinez Sierra [Lejarraga],[based on Chopin themes], 1,3幕A. Ros-Marbaにより管弦楽配置
・付帯音楽【恋は盲目】 El corazon ciego (1919) ...
Martinez Sierra [Lejarraga], 紛失
・付帯音楽【バジルを洗う少女と興味津々の王子】 La niña que riega la albahaca y el principe pregunton (1922)
 ...
F. Garcia Lorca [Espanoleta y paso medio (Pedrell訳: Cancionero, iii)]
・付帯音楽【東方三博士の神秘劇】 Misterio de los reyes magos (1922) ...
未出版,[Pedrell: Cancionero, i and iii, and folksong]を元にL. Romeu編
・人形劇【親方ペドロの人形芝居】 El retablo de maese Pedro (1919-1923) {1act} ...
M. de Cervantes: Don Quixoteをもとに作曲者台本
・付帯音楽【世界大劇場】 El gran teatro del mundo (1927) ...
P. Calderon de la Barca台本
・付帯音楽【エジプトへの帰還】 La vuelta de Egipto (1935) ...
F. Lope de Vega台本
・付帯音楽【カンターロの乙女】 La moza del cantaro (1935) ...
Lope de Vega台本
・アトランティダ Atlantida: cantata escenica (1926-1946) {prologue, 3 parts} ...
J. VerdaguerによりFalla台本, E. Halffterにより補完, 1961年初演
管弦楽曲
・交響的印象【スペインの庭の夜】 Noches en los jardines de Espana (1909-1915) {p, orch}
 1) En el Generalife
 2) Danza lejana
 3) En los jardines de la Sierra de Cordoba

・恋は魔術師 El amor brujo (1915-1916) ...
舞台作品からの編曲
・組曲【三角帽子】 El sombrero de tres picos (1916-1921) ...
2部からなる。舞台作品からの組曲編曲版
・アルボスの名による荘厳ファンファーレ Fanfare sobre el nombre de E.F. Arbos (1934) {tp, tb, perc}
・讃歌集 Homenajes (1920-41)
 1) fanfare sobre el nombre de E.F. Arbos: à Claude Debussy
 2) elegia de la guitarra (1920): à Paul Dukas (1920) ...
ギター独奏曲を転用
 3) Spes vitae (1935) ...
ピアノ独奏曲から転用
 4) Pedrelliana (1926-1941) ...
F.Pedrellの歌劇[La Celestina]に着想
室内楽 ・メロディア Melodia (1897) {vc, p}
・ロマンス Romanza (1897-1898) {vc, p}
・小品 ハ長調 Pieza (1898) {vc, p}
・ピアノ四重奏曲 ト長調 Quartetto (1898-1899) {2vln, vla, vc, p} ...
紛失
・ミレイア詩集 Mireya, poema (1898-1899) {fl, vln, vla, vc, p} ...
紛失
 
1) Muerte de Elzear
 2) Danza fantastica

・アンダルシアのセレナーデ Serenata andaluza (1899) {vln, p} ...紛失
・恋は魔術師 El amor brujo (1914-1915/1926) {2vln, vla, vc, b, p} ...舞台作品より編曲
 1) Pantomima
 2) Danza ritual del fuego

・礼讃曲【ドビュッシーの墓】のために Homenaje: piece de guitare ecrite pour 'Le Tombeau de Claude Debussy' (1920) {g /p} ...
ピアノ版あり
・祝典ファンファーレ Fanfare pour une fête (1921) {2tp, timp, bass-ds}
・クラヴサンと五重奏のための協奏曲 Concerto (1923-1926) {fl, ob, cl, vln, vc, hpcd (p)}
ピアノ曲 ・ガヴォットとミュゼット Gavotte et musette (1892) ...紛失
・夜想曲 Nocturno (1996)
・スケルツォ Scherzo (1898)
・マズルカ Mazurka (1899)
・ミレイア Mireya (1899) ...
室内楽曲からの編曲
・アンダルシア風セレナータ Serenata andaluza (1900) ...出版1996年
・歌 Cancion (1900) ...出版1996年
・ヴァルス=カプリス Vals-capricho (1900) ...出版1996年
・ノームの踊り Cortejo de gnomos, 1901 (1996);
・セレナータ Serenata (1901)
・アンダルシア風セレナータ第二番 Serenata andaluza No.2 (1901) ...紛失
・幻想組曲 Suite fantastica (1901) ...紛失
・協奏曲のアレグロ Allegro de concierto (1903-1904)
・4つのスペイン風小品 4 piezas espanolas: 4 pieces espagnoles (1906-1908)
 1) Aragonesa
 2) Cubana
 3) Montanesa
 4) Andaluza

・ベティカ地方の幻想曲 Fantasia baetica (1919)
・三角帽子 El sombrero de tres picos, pianola (1921-1926) ...バレエ曲の編曲版
・ボルガの船乗りの歌 Canto de los remeros del Volga (1922) ...
1996年出版
・ポール・デュカの墓 Pour le tombeau de Paul Dukas (1935)
歌曲 ・前奏曲集 Preludios, Madres, todas las noches (1900) ...A. de Trueba詩
・叙情詩 Dos rimas (1900) ...
G.A.Bacquer詩,1980年出版
 
1) Olas gigantes
 2) !Dios mio, que solos se quedan los muertos!

・お前の黒い瞳 Tus ojillos negros (1902) ...
C. de Castro詩
・降誕祭の歌 Cantares de Nochebuena (1903-1904) {vo, g, zambomba (friction drum), rebec} ...大衆詩。詳細不明のため作品表に含めないことも多い
・3つの歌 3 melodies (1909-1910) ...
T. Gautier詩
 1) Les colombes
 2) Chinoiserie
 3) Seguidille

・7つのスペイン民謡 Siete canciones populares espanolas (1914) ...
詩は大衆詩から
 1) El pano moruno
 2) Seguidilla murciana
 3) Asturiana
 4) Jota
 5) Nana
 6) Cancion
 7) Polo

・幼子を抱く母たちへの祈り Oracion de las madres que tienen a sus hijos en brazos (1914) ...
G. Martinez Sierra詩
・ロンダのパン El pan de Ronda que sabe a verdad (1915) ... G. Martinez Sierra詩
・プシュケ Psyche (1924) {vo, fl, vln, vla, vc, hrp} ...
G. Jean-Aubry詩
・コルドバのソネット Soneto a Cordoba (1927) {vo, hrp(p)} ...
L. de Gogora詩
合唱曲 ・歓喜と法悦を以て Con afectos de jubilo y gozo (1908) {sop, f-choir, p}
・マジョルカ島のバラード Balada de Mallorca (1933) {choir} ...
J. Verdaguer詩,ショパン『バラードヘ長調』より編曲
・聖三位一体への祈り Invocatio ad individuam trinitatem (1935) {4vo}...
舞台作品[La vuelta de Egipto]より編曲
・マルシャル讃歌 Himno Marcial (1937) {choir, p, ds} ...
J.M. Peman詩,Pedrell: Canto de los almogavares
典拠 Crichton, R. 1976. Manuel De Falla: Descriptive catalogue of his works. London; Chester.
Hess, C.A. 2004. Manuel De Falla. In Sadie, S. ed. New grove online. Oxford University Press.


ファリャを聴く


★★★★★
"Concierto de Aranjuez / Fantasia para un Gentilhombre (Rodgrigo) Noches en Los Jardines de España / Three-Cornered Hat Suite No.2 / El Amor Brujo: Ritual Fire Dance (De Falla) Interludio (Granados)" (Live Classic Best : LCB 136)
Riccardo Muti, Mario Rossi, Rafael Bruhbeck de Burgos, Igor Markevitch (cond) Eduardo del Pueyo (p) Narciso Yepes (g) Orchestra Sinfonia di Milano RAI, Orchestra Sinfonia di Roma della RAI, Orchestra Sinfonia di Torino della RAI
いかにも風采の上がらない無精髭のオヤジが,所在なげに駅頭でラジカセを鳴らしては売っている【駅売りCD】。殆どの人が視界にすら入れず行き過ぎる,こんな場末の芥溜めにも,探せばたまには金鉱脈があるものでして・・。ええ,もちろん砂金掘りと同じで,上手いこと採算がとれる事なんてまず皆無。それで正規盤の立つ瀬がある世の中とってもバランスが取れてるわけですけど(苦笑)。オヤジのやぶにらみにハートを射抜かれては足を止め,好事家趣味で買っては外れまくったそれら駅売りCDの中でも,蓋し最大のゴールドラッシュとなったのがこれ。何をおいても出色はファリャの異教徒アンプレッショニズムが頂点に達した『庭の夜』でしょう。ベルギーの豪腕デル・プエヨがブルゴス〜ローマのご当地部隊を向こうに回し,1978年にローマで大見得を切ったライブの海賊音源。彼にはマルティノンと組んだフィリップスの立派な正規録音もあり,多くの方はそちらである程度のことはご存じでしょうが,あれで仁和寺の法師を気取るあなた!何て勿体ない。指揮者の手前襟を正し,余所行き風の大人しい演奏に終始したフィリップスとは別人の如きスペイン魂を滾らせて鍵盤をかき鳴らす彼のプロミネンスにノック・アウト。別人の如く精気漲るピアノを聴けるだけで,時代ずれしたモコモコのノイズゲート処理やモノラルのヒドイ集音といった数多の難点は綺麗さっぱり帳消しです。これを聴かずに『庭』を語っちゃいけません,というくらい素晴らしい穴盤,なんと二枚組で500円と大変お値打ちです(笑)。

★★★★★
"Piezas Españolas / La Vida Breve: Danza No.2 / En Sombrero de Tres Picos: Seguidillas, Fandango / El Amor Brujo / Fantasía Bética" (EMI : CDM 7 64527 2)
Alicia De Larrocha (piano)
スプーンおばさんも顔面蒼白,元祖スペインおばさんことラローチャ女史は,国際的にも第一線級。ショパンだけ弾いてても充分儲かる腕っぷしと知名度を持ちながら,自国の音楽的遺産を大挙録音して普及紹介に尽力。CD時代の到来でマニアの重箱漁りが始まり,ドイツとフランス以外の国へも一般人の触手が伸びるようになって,やっとその遺徳を認知されるほど,卓越した先見の明の持ち主でもありました。モンポウもグラナドスも吹き込んだ彼女が御大ファリャを見逃すはずもなく,1958年のステレオ黎明期にははやばやと本盤を録音していました。ファリャの熱心な聴き手ではない小生は,彼女のファリャ録音が本来全集だったのかどうか良く知らないのですが,この抜粋盤に選ばれた曲はほとんどが舞台作品の編曲抜粋版。現在でも『三角帽子』と『恋は魔術師』を除けると一気にCDの選択肢が減少するお寒い状況は,この当時から製作陣に大きな壁を作っていたのかなあ・・などと複雑な心境になるのを禁じ得ません。それでも残る二編で,ご当地色丸出しの『スペイン小品集』をやるのは,彼女の精一杯の良心の表れでしょうか。くだんの小品集は,グラナドスのもつ独襖系ロマンティストとスペインの土着乗りをさらに一歩前進。トゥリーナのピアノ曲から装飾音をやや減らし,近代和声の色合いもやや削って,そのぶん主題のロマンティシズムと土臭さたっぷりな民俗舞踏訛りへと回したポスト・グラナドス語法。水を得た魚の如くシンコペーションの大見得を切っては,ぴっちぴっちと二枚腰の効いた粒立ちで跳ね回るラローチャのピアノが溌剌と若いです。掉尾の幻想曲以外はやや訛りがきついので,仏近代好きの方には,同じファリャならピアノ曲よりも『夜の庭』,同郷のピアノ曲でならファリャよりもトゥリーナを先に薦めたいところですが,グラナドス好き。スペイン丸出しの乗りに抵抗のない方なら,ファリャのピアノ曲集として,本盤の演奏はほぼ理想的。あるなら全集を買っても,損したと思うことはまず無いでしょう。

★★★★
"En Sombrero de Tres Picos / Noches en Los Jardines de España" (EMI : TOCE-8459)
Neville Marriner (cond) Ann Murray (sop) Tzimon Barto (p) Academy of St.Martin -in-the-Fields
アカデミー「室内」だけに,フォーレみたく典雅な宮廷音楽くらいでしか本領を発揮してくれないマリナーさん。野外も野外,民俗丸出しスペイン魂の極みなファリャなんておよそ合わないに違いなく,実際バレエ版の『三角帽子』は,決して悪い演奏ではないものの,何となく野趣が足りないと申しますか,パンチ不足といいますか・・あるいは間延びしているといいますか・・(笑)。ピカソ画らしいジャケットもひでぇ。これで買う気になる奴いんの?というわけで,早々に期待は無名のソリストを起用して大ばくちに出た併録の『スペインの庭』ただ一点に集中。冒頭,10分25秒のヘネラリーフェは,遅いにもかかわらず英国人特有ののっぺりとした(一本調子な)管弦楽操縦で駄目モードまっしぐら。そんな本盤を救ったのがツィモン・バルトなる独奏者の健闘。1963年生まれのアメリカ人で,ジュリアード卒だそうな。恐らく独奏者として聴いたら意外に面白みのない技巧頼みのピアノ弾きなのではないかと思われる,粒立ちは好いがスペイン的な二枚腰や彫りの深さは乏しいピアノ。しかし,ここでは扁平なマリナーとの組み合わせの妙で双方の欠点が上手く相殺され,都会的な相貌に仕上がっている。こういうところがコンチェルトの面白いところですねえ。毛深いラテン臭のする,濃厚なファリャではおよそありませんけれど,逆にそういう『夜の庭』で,技巧的にも満足行くものが驚くほど少ないのもまた確か。スペインのエキゾチックな香りがちゃんとする・・という評価基準からすると確かにこのファリャは異聞系。しかし,実を捨てて形を取った彼らの演奏は,異郷人同士が互いの力を持ち寄り,ひとつの突破口を開いたものとして,評価に値すると思いますし,グローバルな視座で評価に値する作品というのは,そういう試みにも堪える作品じゃないでしょうか。少なくとも聴き映えという点では,有名なソリアーノや下記チッコリーニなんかより本盤の方がずっと良いと思います。

★★★★
"L'Amour Sorcier / Le Tricorne / 7 Chansos Populaires Espagnoles / Nuits dans les Jardins d'Espagnole / 4 Pièces Espagnoles / Fantasia Baetica / Concerto pour Clavecin et 5 Instruments" (EMI : 7243 5 69305 2 0)
André Vandernoot, Artur Rodzinski, Rafaël Frübeck de Burgos (cond) Oralia Dominguez, Victoria de Los Angeles (sop) Gonzalo Soriano (p) Michel Debost (fl) Robert Casier (ob) André Boutard (cl) Pierre Nérini (vln) Robert Cordier (vc) Royal Philharmonic Orchestra : Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire
売れないとなったらすぐ廃盤にしようが,東芝が撤退しようが,真っ先にCCCDへ飛びついて顰蹙を買おうが,過去の膨大な録音遺産を持っている・・その一点だけで左団扇。それがEMIです。その強みを生かして彼らはしじゅう,こういう過去の遺産の廉価盤再プレスを出してはご飯を食べています。本盤は,三部作(魔術師,庭,帽子)以外は極端にCDが減ってしまうこの作曲家の代表作を,二枚組で概観。ソリアーノのピアノにブルゴス〜パリ管の助演が付く『庭の夜』は,ラローチャの2種類に次いで,庭を批評家が論じるとき「スペイン情緒が豊か」とか何とかいう枕詞とともに必ずあがってくる,いわゆる《銘盤(名盤ではない)》の代表選手です。だから敢えて紹介するわけですが,そんなにこの演奏って素晴らしいでしょうか?何度聴いても御三家の一角を占めるほどの美演とは思えません。何が駄目といって,左右の音圧がまるで不均一なソリアーノの独奏。例えば「ヘネラリーフェ」冒頭は装飾音風の序奏からオケの短いブリッジを経て,2分前後から独奏部に入りますが,左手がまるで聞こえないほど左手の受けが弱いため,右手でコードを叩いてるだけになっちゃって,思い切り興醒め。左手の粒も立たないので独奏の煌めきが死んでしまう。これならプエヨとマルティノンの共演(フィリプス)が数段マシでしょう。とはいえ,本盤の価値は,水準以上の好演でファリャを手早く俯瞰することにあるわけで。ソリアーノの弾く独奏曲数点は,体臭濃いラローチャとは違い,端正で折り目正しい好演ですし,リエティかと見紛う擬古典趣味のクラブサン協奏曲は意外な一面が聴ける。ピアノ曲よりもさらにナポリ民謡臭さ丸出しの歌曲は,ラヴェルのドン・キホーテが毛むくじゃらになったようなコテコテの筆致で,面目躍如です。2000円弱で一通りファリャを俯瞰。こんなCDを作れる会社,やはり1つは必要なのでしょう。

★★★☆
"El Amor Brujo / Noches en Los Jardines de España / Interlude and Dance" (Chandos : CHAN 8457)
Geoffrey Simon (cond) Sarah Walker (sop) Margaret Fingerhut (p) London Symphony Orchestra
英国近辺に潜伏しては,時々思わぬ角度からジャブを繰り出してくるジェフリー・サイモン。世界初録音が大好きで,自らそのためのレーベルを作ったほど偏執狂の一面を隠し持った人物です。1996年に出た本盤は,ロンドン響を率いてファリャの有名曲二編を上演。さすが透明度の高いロンドン響の技量はさすがと感心するいっぽう,ややマイクの位置が遠かったのか,妙にもわっとした残響が多めに掛かる集音は正直いまひとついただけません。ということで,恐縮ながらこちとらの興味は,独奏者の奮起いかんでは当事者の思惑を超えたハプニングが起こりそうな『夜の庭』に集中。ロンドン生まれで王立音楽大学に進んだ独奏者は,ペルルミュテルやブライシャーにも師事したことがあるそうで,購入時は期待も最高潮。果たして,ミスターレディをすら思わせる厳ついお顔そのまま,リサイタリストらしい撫でつけるような波形の,流れるような運指でバリバリと弾き,聴き映えは決して悪くない・・んですが・・。何というか,ひたすら水割りのように《薄い》演奏なんですよねえ。彼女の運指は腕自慢の女流に良くあるタイプで,指回りは悪くない(素晴らしいわけでもない)反面弾き飛ばしているような荒っぽさが常に支配する,無表情な手数自慢。サイモンも全体に聴き映えばかりを意識し,リズムのスペイン波形を疎かにしたままさーっと勢いで流すように振っていく,いかにも演奏会向けの指揮をするので,この曲の持つ異国情緒が綺麗に死んでしまい,モノクロームかつ《粗忽な流線型》を帯びてしまう。仏作って魂入れず,を地で行くような演奏は,やっぱりB級グルメの域を出ないでしょう。本盤に限っては,むしろ併録の『魔術師』の出来が良い。サラ・ウォーカーさんは少し声が老けたものの,さすがの美声。クライマックスを作っているのではないでしょうか。

★★★☆
"Concierto de Aranjuez (Rodrigo) Danzas Fantásticas (Turina) Noches en Los Jardines de España* (Falla)" (EMI : CDE 7 67785 2)
Enrique Batiz (cond) Aldo Ciccolini (p) Alfonso Moreno (g) London Symphony Orchestra : Royal Philharmonic Orchestra*
一部で爆演指揮者と呼ばれているらしいバティスさん。同じラテン系で世界標準となり,主に欧州のラテン作家の救済活動をしているデ・ブルゴスと並んで,彼も中南米や南欧の作家が残した作品を数多く録音。貧相だったディスコグラフィを豊かにしただけでなく,欧州で彼らラテン作家の知名度を高めた功績は大でしょう。本盤は彼が1980年代前半に残した3つの録音をカップリング。英国のトップ・オケを率い,大物ソリスト二名を独奏に据えて,ラテン作家の代表曲を指揮しています。さすがは同じラテンの血を受け継ぐ彼。アランフェス協奏曲は素晴らしい。速いアルペジオにも全く淀みなく,綺麗に粒の揃った音符を並べる独奏者の技量にも感嘆。安っぽい廉価盤仕様も手伝って大した期待もせず購入したぶん,心地よく裏切られました。こちらに関しては,文句なしにあと1つ以上余計に星をつけられるでしょう。それだけに残念なのは併録されたファリャの『・・庭の夜』ですか。ヘネラリーフェを聴けば,大方の値踏みはできるこの曲。ここでもその法則は綺麗に当てはまる。バティスのテンポ取りは10分24秒と遅い。その遅さを補う濃密な呪術性を出せれば良いのですが,独奏者がチッコリーニですからねえ・・。良く言えば端正ではあるが,運指にまるで野性味やパンチがない彼の昼行灯なソロで遅いテンポを取られては,この曲の魅力は一気に霞んでしまいます。この曲がお好きな方,これで満足しちゃいけません。ベルギーの豪腕デル・プエヨがブルゴスと組んだ,ローマでの爆裂ライブ音源を探してください。音質は最悪ですけど,プエヨの切れっぷりが最高でして。これを聴いたらもう正規盤なんて聴けません。しかもなんとそれ,500円の駅売りなんですよこれが(笑)。

(2007. 1. 18)