Fの作曲家



ピエール=オクターヴ・フェルー Pierre-Octave Ferroud (1900-1936)

フランスの作曲家,批評家。1900年1月6日,リヨン近郊の町シャスレ(Chasseley)生まれ。幼少から母に就いてピアノを学ぶ。リヨン大学では自然科学を学んだが,同時にオルガン奏者エドゥアル・コメット(Edouard Commette)に和声法を学ぶ。その後,1920年にストラスブールへ出てジョセフ・ギイ・ロパルツに師事。1922年には再びリヨンへ戻ってフローラン・シュミットにも師事した。リヨンを拠点に【リヨンの秋の集い Salon d'Automne Lyonnais】などを通じてコンサートのプロモーターとして活躍し,1932年にはパリへ進出して室内楽愛好家の組織「トリトン(Le Triton)」を設立。傍ら批評家としても,『パリ・ソワール』誌,『音楽と劇場』誌,『シャンテクレール』誌などで健筆を振るった。作曲家としても活動し,優れた作品を残す。作風は才気闊達。作曲の師であったシュミットやストラヴィンスキーの影響下に,変拍子を多用した躍動的なリズム,無調,転調や全音階書法を巧みに採り入れた即物的な旋律,多調による鋭敏な対位法などに基づく緊密な曲構成を得意とし,新古典主義的な傾向を持つ作品を遺した。1936年8月17日,ハンガリーはデブレセンの路上を通行中,自動車事故のため客死。近代音楽の手法を堅持しながら現代音楽とはひと味異なる独自の音楽性を開拓しつつあっただけに,僅か36才での夭折はつくづく惜しまれる。親友であり良きライバルであったプーランクはその死に深い悲しみを受け,後年自身が手を染めた宗教作品の幾つかは,フェルーを悼んで作られた。


 主要作品

※Melkis-Bihler, R. 1995. Pierre-Octave Ferroud (1900-1936) : ein Beitrag zur Geschichte der Musik in Frankreich. Frankfurt am Main.
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歌劇/バレエ音楽 ・豚飼い le porcher (1924) {ballet}
・診察室 buffo chirurgie (1927) {opera bouffe}
・「ジャンヌの扇」より「マーチ」 march l'éventail de Jeanne (1927) {ballet}
・モンテカルロ Monte Carlo (1928)
・若さ jeunesse (1931) {ballet}
管弦楽曲
・温かいアンダンテ andante cordial (1919/1926) {orch}
・雑踏 foules (1922-1924) {orch}
・セレナード sérénade pour orchestre (1927) {p /orch}
・イ調の交響曲 symphonie en la (1930) {orch}
・外科医 chirurgie (1930) {orch}
・組曲【若さ】 jeunesse (1932)
・“クロムウェル”のファンファーレ sonnerie pour le Hérault (1935) {orch}
室内楽/器楽 ・フルート独奏のための3つの小品 3 pièces pour flûte seule (1920-1921) {fl}
・スピリチュアル spiritual (1926) {g}
・ヘ調のヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1928-1929) {vln, p}
・イ調のチェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1932) {vc, p}
・ホ調の三重奏曲 trio en mi (1933) {ob, cl, bssn}
・弦楽四重奏曲 string quartet (1932-1936) {2vln, vla, vc}
ピアノ曲 ・サラバンド sarabande (1920/1926) {p /orch}
・モンソー公園にて au parc monceau (1921/1925) {p /orch}
 - 雀と戯れる猫 chant jouant avec les moineaux
 - ベンチ sur le banc
 - のんびりと nonchalante
 - 子どもたち bambins

・前奏曲とフォルラーヌ prélude et forlane (1922)
・3つの練習曲 trois études (1920-1923)
・類型 types (1926/1931) {p /p, orch}
・ソナチヌ sonatine C# (1928)
・バッハ風ブルース the bacchante (1929)
・6つの寓話 6 fables (1931)
歌曲 ・意に任せぬ心 contre-coeur (1923-1925) {vo, p}
・P.J. トゥーレの5つの詩 cinq poèmes de P.J. Toulet (1927) {vo, p}
・ポール・ヴァレリーの3つの詩 trois poèmes de Paul Valéry (1929) {vo, p}
・3つの親密な詩 trois poèmes intimes de Goethe (1932) {vo, p}
・ジュール・シュペルヴィエルの3つの歌 trois chansons de Jules Supervielle (1932) {vo, p}
・3つの狂人の詩 trois chansons de fous (1935) {vo, p}


 フェルーを聴く


★★★★★
"Symphonie en La / Types / Sérénade / Foules" (Valois: V 4810)
Emmanuel Krivine (conductor) Orchestre National de Lyon: Elisabeth Laroche (p)
当時,フランス近代のマイナー作家にスポットを当てた「フランスの音楽 Musique Français」シリーズを現在進行中だった仏レーベル,ヴァロワから出たフェルーの管弦楽作品集。唯一知られている「フルート独奏のための小品」を除くと,管見の限りCDでのフェルーの作品集は,本盤と下記兄弟盤の他には,マルコ・ポーロから出たパトリック・ディヴィン/ヴュッテンブルク管弦楽団盤くらいしかありません(独奏曲ではギローのピアノ曲集もありますが,廃盤で入手至難)。マルコ盤が史上稀に見る駄盤とすれば,こちらは稀に見る演奏秀逸盤。ドビュッシー,ロパルツ,フロレンツと,いかなる素材を前にしても魔術的な指揮振りを見せ,1980年代のデュトワに代わって,当時の仏音楽演奏に掛けては間違いなく最高峰に君臨していたであろうクリヴィヌ〜リヨン管の演奏は一部の隙もなく,緻密なフェルーの音場を完璧に再現します。これほど完成度の高い演奏,おいそれと聴けるものではありません。圧倒的名盤です。ちなみに版元のヴァロワはその後Naiveに吸収合併されましたが,お陰で本盤は目出度くNaiveから新装で再発されました。

★★★★★
"Jeunesse / Chirurgie / Au Parc Monceau / Sarabande" (Naïve : V 4850 AD 100)
Emmanuel Krivine (conductor) Orchestre National de Lyon
フローラン・シュミットの高弟であり,シュミットイズムの継承者だったフェルーは,僅か36才であっけなく夭折してしまった悲運の天才でした。彼は作曲家としてよりも,興行師や批評家業,あるいは音楽団体の音頭取りなど,裏方家業で経済的に成功してしまったため作品数も少なく,それが現在では無名に拍車を掛けることになってしまいました。これまで,『フルート独奏のための3つの小品』以外は全く演奏される機会がなかったこの作曲家に光を当てたのが,現代フランスを代表する名匠クリヴィヌです。このCDはクリヴィヌとリヨン管によるフェルー作品集の第2弾。演奏はさらに共感に溢れ,文句の付けようがありません。舞台作品,ピアノからの軽めの編曲作品などを含み,前作よりもバラエティに富みますが,全音階,無多調の旋律および対位法など,当代の伝統的書法がもつあらゆる可能性を十全に駆使し,一聴彼のものと知れる緊密なオーケストレーションは健在。ところで,このジャケットは車の前面と見えるのですが,まさかフェルーが自動車事故で亡くなったことを知っててこんなジャケットにしたわけじゃありませんよねえ?だとしたら,どういう意図なんでしょうか?謎です。(付記:本CDの入手に際してはmyaさんのご助力を頂きました。有り難うございます)

★★★★☆
"Types / Au Parc Monceau / Fables / Trois Études / Prélude et Forlane / The Bacchante / Sonatine" (3D Classics : 3D 8019)
Marie-Catherine Girod (piano)
1996年に発売された本盤は,もともと版元自体が日本で入手至難なうえ,早々と廃盤に。たちまち屈指の希少盤へ昇格してしまいました。管弦楽作品集以外にはフェルーを満足に聴けるCDが見あたらぬ状況のなか,文句のないレベルの演奏で,彼のピアノ曲を全て網羅した本盤の価値は傑出している。ぜひ再発を望みたいものです。ラヴェルで言えば『クープランの墓』の位置づけにあたる『寓話』は,晦渋な音響の奥でこの人が堅牢な形式美を誇る逸材だったことを伺わせますし,思わずドビュッシーの『版画』を連想してしまう『練習曲』は,彼のもう一つのルーツがドビュッシー方向へも伸びていたことを雄弁に語る。やはりこの人はただのキワモノではなく,地に足の付いた本物の作曲家だったと再確認できたのは収穫でした。収録曲の一部はクリヴィヌの手になる管弦楽版でも聴けますが,カプレの『赤死病』がハープ版で聴くとヒステリックに変貌するのと同様,フェルーの場合も,ピアノ版で聴くと俄然装飾音の無調性が際だち,響きは鋭角的になり,パーカッシブで現代音楽の色合いも強くなります。デュティーユのソナタを思わせるその才気走った曲想を,存分に毒気をたたえたままに弾き仰せるジロのピアノが,本盤の価値をさらに不動のものとしている。往時ほどではないにせよ,かつてSolsticeに録音した妖気漂う怪演を彷彿させるその筆致は,芝居っ気たっぷりに見得を切る濃密なルバートと,武骨な打鍵に満ちた,アマゾネスの凄みをたたえます。スクリャービンやシュミットを弾いたら間違いなく名盤を作れる数少ないピアニスト。特にシュミットはフェルーの師匠ですし,ぜひ録音して欲しいですねえ・・

"Symphony in A / Chirurgie / Sarabande / March" (Marco Polo : 8.225029)
Patrick Davin (conductor) Württenberg Philharmonic Orchestra
夭折の作家フェルーは,僅か36才で世を去り,生涯の大半をプロモーターや批評家業などに費やしたため,作品数が限られているうえ知名度も芳しくありません。本CDは,その数少ないレパートリーの大半を網羅した選集であり,エマニュエル・クリヴィヌが残したヴァロワ〜ナイーヴ音源の2枚と並んで,フェルーの管弦楽作品を概観するうえでまことに得難い選択肢を提供してくれるものです。遙々海を渡って「東方見聞録」を著した本家マルコ・ポーロさながらに,未開のジパングを絶えず発掘していこうとするこのレーベルの企業姿勢は高く評価されなくてはならないでしょう。しかしまた,このレーベルほど,その随行員=すなわち演奏家に無神経な会社も珍しいのでは。その駄盤率は,蓋し他のどのレーベルをも遙かに凌駕する未曾有の高率。ビュルテンブルク管という,お世辞にも有名とは言えない独のマイナー楽団を敢えて新古典派のフェルーにぶつけるという意匠。その人選に何がしかの高尚なる意図が込められているのではないかという聴き手の淡い期待は,最初の一音で無惨に打ち砕かれます。調子っ外れの管部,キメの粗い弦,愚鈍で不必要に仰々しいシンコペーションをつける指揮など,どれをとってもミスキャストでしかなく,クリヴィヌ盤との落差は天地よりも巨大。週間金曜日にぜひ掲載していただきたいほど「買ってはいけない」レベルの演奏と弾劾せざるを得ません。マルコさん,もう少し人選に気をつけてください。あなたは聴き手に他の選択肢を与えないほどの冒険家なんですから(泣)。