Fの作曲家



セザール・フランク César Franck (1822-1890)

ベルギー出身の音楽教育者,作曲家,オルガン奏者。本名セザール・オーギュスト・ジャン・ギョーム・ユベール・フランク(César Auguste-Jean-Guillaume-Hubert Franck)。1822年12月10日リエージュ生まれ。優れたピアニストのニコラ=ジョセフを父に持つ音楽的な環境で育ち,1830年にリエージュ音楽院へ進学。1832年にソルフェージュ科で,1834年にピアノ科で,それぞれ一等を得た。1835年,家族とともにパリへと渡り,定住資格を得るため一年の空白ののち,1837年にパリ音楽院へ進学(このため音楽史上はフランスの作曲家と位置づけられる)。ツィメルマンにピアノ,対位法をルボルヌ(Leborne)に師事。1838年にピアノ科で,翌年対位法科で一等を得た。その後ブノワスト(Benoist)のオルガン科でも2等を得るが,1842年に父の事情で中退を余儀なくされ,ローマ大賞への応募は果たせなかった。このため晩年に至るまで過小評価に甘んじることとなり,自身の作品も,1880年代に入ってから漸く評価された。1858年,聖クロチルド教会のオルガン奏者となり,生涯その地位を務めるとともに,1871年にはゴール人のための音楽の育成を掲げて国民音楽協会を創設。さらに1872年からは師ブノワストの後任としてパリ音楽院オルガン科の教授に就任。彼の音楽性と人格に傾倒するダンディ,デュパルク,ロパルツ,ピエルネ,ヴィエルヌら多くの弟子(フランキスト)を育成するなど教育者として活躍し,その後に続くフランス近代音楽の楽壇に巨大な影響をもたらした。1885年にレジオン・ドヌール賞,1886年にパリ音楽院院長。1890年11月8日,インフルエンザをこじらせ,68歳で没。


 主要作品 
Fauquet, J-M. 1999. César Franck. Fayard. Vallas, L. 1951. César Franck. Harrap & Company入手。
作品表須移行完全版但空時間時。

舞台作品 ・頑固な召使い le valet de ferme (1851-1852)
・ユルダ Hulda (1882-1885)
・ジゼル Ghisèle (1888-1890)
管弦楽曲
・交響曲ニ短調 symphonie (1886-1888)
・交響詩《人が山上で聞いたこと》 poème symphonique 'ce qu'on entend sur la montagne' (1846)
・交響詩《アイオリスの人々》 poème symphonique 'les Eolides' (1875-1876)
・交響詩《呪われた狩人》 poème symphonique 'le chasseur maudit' (1882)
・交響詩《鬼神》 poème symphonique 'les Djinns' (1884) {p, orch}
・交響的変奏曲 variations symphoniques (1885)
・交響詩《プシュケ》 poème symphonique 'psyché' (1886-1888) {choir (sop, alto, tnr), orch}
室内楽 ・3つの協奏的ピアノ三重奏曲 trois trios concertants (1841) {vln, vc, p}
・第4の協奏的ピアノ三重奏曲 quatrième trio concertant (1842) {vln, vc, p}
・アンダンティーノ・クイエトーソ andantino quietoso (1843) {vln, p}
・ダレイラック《ギュリスタン》のモティーフによるピアノとヴァイオリン協奏のための二重奏曲
 duo pour piano et violon cocertants sur des motifs de 'Gulistan' de Dalayrac (1844) {vln, p}
・ピアノの独奏 solo de piano (1844) {p, 2vln, vla, vc}
・ピアノ五重奏曲 quintette pour piano et cordes (1878-1879) {p, 2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1886) {vln, p}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes (1889) {2vln, vla, vc}
ピアノ曲 ・《ゴッド・セイヴ・ザ・キング》による二重奏曲 duo sur 'God save the king' (1842) {2p}
・牧歌 eglogue -hirtengedicht (1842)
・大奇想曲 grand caprice (1843)
・エクス=ラ=シャペルの想い出 souvenir d'Aix -la -Chapelle (1843)
・バラード ballade (1844)
・ダレイラック《ギュリスタン》による第一幻想曲 première fantasie sur 'Gulistan' de Dalayrac (1844)
・ダレイラック《ギュリスタン》のアリアとヴィルレによる第二幻想曲
 deuxième fantaisie sur l'air et le vireley de 'Gulistan' de Dalayrac (1844)
・幻想曲 fantaisie (1844)
・2つのポーランド民謡による幻想曲 fanaisie sur deux air polonaises (1845)
・3つのなぐさみごと trois petites riens (1845)
・グレトリー《リュシル》による二重奏曲 duo à quatre mains sur 'Lucile' de Grétry (1846) {2p}
・人形の嘆き les plaintes d'une poupée (1865)
・前奏曲,コラールとフーガ prélude, choral et fugue (1884)
・ゆるやかな踊り danse lente (1885)
・前奏曲,アリアと終曲 prélude, aria et final (1888)
オルガン曲 ・アンダンティーノ ト短調 andantino (1858)
・3つのマリア讃歌 trois antiennes (1859)
・大オルガンのための6つの小品 six pièces pour grand orgue (1860-1862)
・3つの小品 trois pièces (1878)
・3つのコラール trois chorals (1890)
ハーモニウム曲 ・行進曲風に quasi marcia (1862)
・5つの小品 cinq pièces (1863)
・44の小品 44 petites pièces (1863)
・ブルターニュのアリアによる奉献曲 offertoire sur un air Breton (1871)
・オルガニスト l'organiste (1889-1890)
教会音楽 ・3声のミサ messe à trois voix (1860) {sop, tnr, bass, org, hrp, vc, cvsn}
・アヴェ=マリア Ave Maria (1863) {sop, tnr, bass, org}
・天使の糧 panis angelicus (1872) {tnr, org, hrp, vc, cvsn}
・来たれ創造主 veni creator (1872) {tnr, bass, org}
・詩編第150番 psaume CL (1888) {choir, orch, org}
管弦楽付歌曲 ・ルツ eglogue biblique 'Ruth' (1843-1845) {vo, choir orch}
・オラトリオ《バベルの塔》 oratorio 'la tour de Babel' (1865) {vo, choir, orch}
・贖罪 poème symphonie 'rédemption' (1871-1872) {narr, msp, choir, orch}
・オラトリオ《至福》 oratorio 'les béatitudes' (1869-1879) {sop, msp, alto, 2tnr, btn, 2bass, choir, org, orch}
・レベッカ scène biblique 'Rébecca' (1886-1888) {vo, choir, orch}
歌曲 ・回想 souvenance (1842-1843)
・ナノン Ninon (1842-1843)
・ベンガドールのエミール l'Emir de Bengador (1842-1843)
・空気の精 le sylphe (1842-1843) <vc, inst(助奏)>
・ロビン=グレイ Robin Gray (1842-1843)
・天使と子ども l'ange et l'enfant (1846)
・3人の亡命者 les trois exilés (1848) {btn(bass), p}
・愛する aimer (1849)
・薔薇の結婚 le mariage des roses (1871)
・日ごとに過ぎてゆけ passez, passez toujours (1872)
・薔薇と蝶 roses et papillons (1872)
・リート lied (1873)
・壊れた甕 la vase brisé (1879)
・夜想曲 nocturne (1884)
・夕べの瞳 les cloches du soir (1888)
・6つの二重唱曲 six duos (1888) {2vo}


 フランクを聴く


★★★★☆
"Les Béatitudes" (A Charlin Disques-Venus : TKCZ-79257)
Jean Allain (cond) Pierre Cochereau (org) Denise Monteil (sop) Simone Couderc (msp) Mona Kerys (c-alto) Christiane Chantal, Denise Joly (alto) Marcel Huylbrock, Jean Brazzi (tnr) André Jonquères, Louis Maurin (btn) Xavier Depraz, Pierre Marret (bss) Choeur Elisabeth Brasseur : Petits Chanteurs de Chaillot : Orchestre de l'Académie Symphonique de paris
『ヴァイオリン・ソナタ』が筆頭で,続くのが『交響曲』。その他は良く知らない作曲家。そうですそれがフランクです(笑)。パリ音楽院にどっかり腰を据え,ベルギー出身でありながら仏近代の花園を,この上なく可憐に咲かせてみせた大教育者。しかし,敬虔なカソリックであり,自己に厳しく慎み深い性格だったのが災いしてか,作曲家としては晩年まで評価されませんでした。本盤に収められたオラトリオ『至福』は,作曲者の友人の奥さん,コロン夫人の書いたテキストに着想し,1868年に着手。途中,オラトリオの分野では代表作とされる『贖罪』執筆のための休止を挟んで,1979年に完成しました。何しろ,やっとドビュッシーがハイティーンになった頃の作品。まだまだ旧態然とした和声に,近代の悦びを見出すのは困難ではあります。それでも,万事ワグネリアンなこの時代の舞台作品としては,驚くほど大仰さも華美さもない,慎み深い筆致。要所要所で心洗われる弦部,合唱,オルガンによる緩奏を差し挟み,フォレの『レクイエム』を先取りしたような,品位高い叙情性と穏やかな内省性を満たしていく曲想は,やはり大衆的人気を博した他のオペラ作家とは,一線を画すのではないかと思います。ちなみに本盤,高名な録音技師アンドレ・シャルランが集音を担当しているためか,旧盤としては驚くほど録音が良いのも魅力。すっきり晴れ渡る青空の如く良く澄んだ,雑味の少ない集音は見事の一語。透明度高く鳴る弦はまさしく至福です。実際,本盤は仏ディスク大賞を受賞し,このレーベルの代表作となりました。ちなみに指揮棒を執るアランは亡霊ではなく,良く似た名前の別人です。

★★★★★
"Sonate pour Violon et Piano No. 1 et No. 2 (Fauré) / Sonate pour Violon et Piano (Franck)" (Philips : 432 707-2)
Arthur Grumiaux (vln) Paul Crossley, Gyorgy Sebok (p)
フォーレが書き残した2編の美しいヴァイオリン・ソナタを収めたこのCDの魅力は,何といってもヴァイオリンのアルテュール・グリュミオーの気品と艶に溢れた美音でしょう。美音で知られる彼は,こうした優美な仏近代ものになるとまさしく独壇場的な魅力を発揮します。そんな彼に相応しい選曲で,その魅力を余すところなく発揮させることに成功した本盤は,まさに企画の勝利です。さらにこの盤を価値高いものにしたのが,カップリングのフランク。正直,あまり熱心に聴くこともなかったフランクが,これだけ色気のある美旋律を書くとは。初めて聞いたときは大層驚きました。極限にまで高められた慎み深い叙情が,伝統的形式の制約の網の目の隅々にまで行き渡った,仏人後期ロマン派を代表する傑作の一つでしょう。どちらかというと性格そのままに生真面目な筆致のフランクも,ようやく最晩年になって,こういう可憐な花を咲かせることができたんですねえ。その後イザイ,ルクー,フレム,ジョンゲンなど,フランクと直接間接に何らかの関わりがある作曲家が,皆こぞって同じヴァイオリン・ソナタに異常な集中力を注ぎ,その後へ続こうとしたことからも,いかにこれが図抜けた傑作かご想像いただけましょう。同じベルギー出身だけにグリュミオーのフランクはまさしく水を得た魚。クラシックの世界では言い古された「まず一枚なら同郷の演奏で」の格言は,ここでも有効ということでしょう。優美かつ気品溢れる音色と,分を弁えた上で施される豊かな情感表現により,この名品が最良の形で楽しめる本盤は,まさしく贅沢の極みです。

★★★★
"Quatuor à Cordes en Ré Majeur (Franck) Quatuor à Cordes en Ré Mineur (Samazeuilh)" (Calliope : CAL 9889)
Le Quatuor Joachim: Zbigniew Kornowicz, Jonna Rezler (vln) Marie-Claire Méreaux (vla) Laurent Rannou (vc)
相変わらず日の当たらない可哀相な作曲家サマズイユさんに,珍しい弦楽四重奏曲の録音です。併録のフランクは1890年1月と,まさしく最晩年に書かれた作品。ベートーベン《四重奏》の影響力があまりに大きかったため,当時のフランス人がみな弦楽四重奏を避けたという話は有名ですけど,フランクもこの曲を書くにあたっては,御大やブラームス,シューベルトの四重奏曲を随分研究したとか。それが災い半ばしてか,3曲が10分を超える長尺で,表情もやや硬め。ソナタに比べると旋律線はいかにもドイツ・ロマン派臭いですし,循環形式もちょっと取って付けたような印象を拭えません。それでも,生真面目そうな律動のそこここに,慎み深い叙情のチラリズムが潜んだ本品は,地味な魅力を放つ佳品ではありましょう。いっぽうサマズィユの『四重奏』は1900年,20代前半の若い時期に書かれた作品。まだドビュッシーの影響は薄く,書法はフランク基調のロマン派で,循環形式。しかし主題の一部に出てくる音型が,ドビュッシーの『夢』に出てくるモチーフとうり二つだったりと,随所に小さなサプライズが。ベートーベン御大を前に萎縮したかのようなフランクの四重奏に比べ,若く自信満々でもあったろうサマズィユの四重奏は,特にリズム面で格段に生き生きとしており,いかにも若く野心含み。象徴的な第二楽章は,まさしく彼のドビュッシー傾向を予見させる佳品。上の空で授業を聞きながら,外の景色を眺める学生みたいな作品といえましょう。ヨアヒム四重奏団は1984年に結成され,ピカルディ文化省から助成を受けながらアミアンを拠点に活動するアンサンブル。初めて聞くお名前ですけれど,先に録音したダンディの四重奏曲全集でディアパゾン誌から5音叉をもらった実力は伊達ではありません。仏人じゃないからでしょうか。第一ヴァイオリンの音色にやや癖があり,少しフラット気味なのは気になるものの,なかなか良好な演奏と思います。

★★★★
"Prélude, Fugue et Variation / Prélude, Choral et Fugue / Prélude, Aria et Final / Prélude pour l'Ave Maris Stella / Noël Angevin / Chant de la Creuse / Chant Béarnais / Deux Morceaux / Danse Lente" (René Gailly : CD86 004)
Dominique Cornil (piano)
ベルギーのレーベル,ルネ・ガイーは,最近破産したとの噂もちらほら。そういえば世紀の変わり目あたりから,急速に見かけなくなりました。自国ものを中心に,素晴らしい慧眼で滅多に聴けない作曲家を掃海してくれる得難いレーベルだけに惜しいです。本CDもまた,余り演奏をお見かけしないフランクのピアノ曲集。後年の筆致で書かれたピアノ曲の大半を聴くことができます。冒頭『前奏曲,フーガと変奏』から,オルガン曲を思わせる標題なのも道理。幾つかはオルガン作品からの抜粋をもとに手を加えたもの。曲想をひとくちに形容するなら,さしずめショパンからあの後ろ髪を引かれるような経過音を除いたような感じといえば好いでしょうか。あるいはベートーベンから,ほどばしる熱気を抜いたような感じと言っても好いかも知れません。或いは少し高潔なシューマンという喩えでも好いかも。これら3人に比べバロック的な構築性があり,理知的で学級肌な面が特徴か。このあたりの持ち味は,禁欲的で慎み深い人柄だった作曲者ならではのものといえましょう。後期ロマン派のピアノ曲でも大丈夫な方なら問題なく聴けると思います。ピアニストはベルギーを拠点に活動中。ジョンゲンの室内楽作品などでも伴奏者に加わって弾いておられましたっけ。名前をお見かけしました。派手さはありませんけど,インティメートな雰囲気に富んだ好演なのでは。

★★★☆
"Sonata for Violin and Piano (Franck) Sonata for Violin and Piano / Sonata for Flute, Viola and Harp (Debussy) Introduction and Allegro (Ravel)" (Decca : 421 154-2)
Kyung Wha Chung (vln) Radu Lupu (p) Osian Ellis (hrp) The Melos Ensemble
1948年韓国出身のキュンファ女史は,6才でヴァイオリンを始め,12才でジュリアード音楽院に進学。ヨゼフ・シゲティやサイモン・ゴルドベルクに師事したのち,1967年にレヴェントリット国際コンクールで優勝して知られるようになりました。いかにも韓国人らしく,熱の籠もった高音圧の鳴動と,磨かれた美音は魅力的。2つのソナタでは,冒険の可能なドビュッシーのほうで,彼女の美点を色濃く聴けました。多少取って付けたようなところこそあれ官能的にも演出できており,細かいパッセージが正確なのはさすが一流。狂おしくも儚げな風情を漂わせ,挑み掛かるようにグイグイと弾けていて,なかなかに溜飲が下がります。ただ,どういうわけかフランクになると,途端に遊び心が後退し,フレーズの表情が扁平に。どのフレーズも同じような表情をつけて,スラー気味に抜いていくので,なんというかモノクロームなんですよねえ。特にリズムの拍動が明確な4楽章は,もはやノルマをこなす単純労働者のように面白くない。そういえば,以前酷評したミンツのフランクもそうでした。非フランス人にとって,古典とも現代とも言えないフランキストは鬼門ですか?しかし,リサイタル・ヴァイオリニストを自認し,何でもプログラムに取り込む彼女の様な人ならば,いかなるベクトルの作品を前にしても,我が儘の許される範囲を的確に読みとり,作品の持つ美意識と彼女の切り口を上手くバランスさせ,自分の身から出た嘘のない語り口を聴かせられるのでなければ,単なる百貨店になっちゃうんじゃないかと思えてならないんですが・・いかがなもんでしょう?

(2001. 9.16 upload)