Gの作曲家




アンリ・ガニュバン Henri Gagnebin (1886-1977)

ベルギー生まれのスイス人作曲家,オルガン奏者。本名アンリ・ダヴィド・ガニュバン(Henri David Gagnebin)。1886年3月13日リエージュ生まれ。もともとベルン出身の牧師の家柄であったため,1892年に一家は帰国。ローザンヌでジョセフ・ローバーに師事して作曲法,編曲法,オルガンを学んだほか,オットー・バルブラン(Otto Barblan)に師事(作曲法とオルガン?)。さらにパリのスコラ・カントールムでヴァンサン・ダンディに作曲法を,ブランシュ・セルヴァ(Blanche Selva)にピアノを学んだ。またベルリンではオスカル・シュルツ(Oscar Schulz)からも指導を受けている。パリ,ジュネーヴ,ローザンヌでプロテスタントの教会オルガニストを務めたのち,1916年に帰国。ローザンヌ,ジュネーヴ,ニューシャテールの各音楽院で音楽史とオルガンの教鞭を執り,次いで1925年から1957年まで,ジュネーヴ音楽院の院長を務めた。1938年にジュネーヴ国際演奏競技会を創設し,1959年まで会長を務めてスイス楽壇に貢献。1961年にジュネーヴ市音楽賞を受賞したほか,ジュネーヴ大学名誉博士号を受けている。著書に『16世紀独,瑞西,仏における芸術ルネサンスの歴史学的検討:Etudes historiques sur la réformation au XVIe siècle en Allemagne, en Suisse et en France』(1936年:La Concorde刊,205p.)および『音楽その美しき関心事,我が半生の随想:Musique mon beau souci. Réflexions sur mon métier』(1968年:Editions de la Baconniere刊, 168p.)がある。作風は初期にはフランキストの流れに属し,のち表現主義の影響を採り入れつつ,深みを増した。1977年6月1日ジュネーヴにて死去。


主要作品

管弦楽曲 ・交響曲第1番 symphonie No.1 (1911)
・交響詩【狂った乙女】 les vierges folles (1913)
・交響曲第2番 symphonie No.2 (1921)
・組曲 suite (1936)
・3つの交響的絵画 trois tableaux symphoniques: après Hodler (1942)
・小管弦楽のための夜想曲 nocturne (1944) {small-orch}
・春 printemps: le jeune homme admiré par les femmes (1948)
・ユグノー教徒の詩篇による組曲第1番 première suite sur des psaumes huguenots (1950)
・交響曲第3番 symphonie No.3 (1955)
・ユグノー教徒の詩篇による組曲第2番 deuxième suite sur des psaumes huguenots (1966)
・交響曲第4番 symphonie No.4 (-) ...
詳細不詳。ガセかも知れません。
協奏曲 ・ピアノ協奏曲 concerto pour piano et orchestre (1931) {p, orch}
・アンダンテとアレグロ andante et allegro (1939) {cl, small-orch}
・ピアノと管弦楽のための幻想曲 fantaisie (1960) {p, orch}
・小協奏曲 concertino pour trompette et orgue (-) {to, org} ...
M. アンドレに献呈。
室内楽曲 ・弦楽四重奏曲第1番 quatuor à cordes No.1 (-) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第2番 quatuor à cordes No.2 (-) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第3番 quatuor à cordes No.3 (1927) {2vln, vla, vc}
・チェロ・ソナタ sonate en la pair violoncelle et piano (1927) {vc, p}
・チェロ独奏のための組曲 suite pour violoncelle seul (1933) {vc}
・3つの小品 trois pièces pour guitare à Andres Ségovia (1953) {g}
・フルート四重奏曲 quatuor pour flûte, violon, violoncelle et piano (1961) {fl, vln, vc, p}
・トッカータ toccata (1966) {org}
・幻想曲 fantaisie pour flûte, clarinette et harpe (1972) {fl, cl, hrp}
・小品集 pièces récréatives et progressives pour servir à l'étude de la flûte avec accompagnement de piano ad libitum (-) {fl/fl, p}
・三重奏曲 trio en ré majeur (-) {fl(vln), vln, p}
・陽気な男たちの行進曲 marche des gais lurons (-) {fl, p}
・嬰児のための教会ソナタ sonata da chiesa per il Natale (-) {ob, org}
・狂詩曲 rhapsidie (-) {fl, hrp}
・奉献曲 aubade (-) {hrn, p}
・23の余興用小品 23 pièces récreatives - et progressives (-) {fl}
・冬と春 hiver et printemps (-) {fl, p}
・幻想曲 fantaisie pour clarinette sib et piano (-) {cl, p}
・サラバンド sarabande (-) {tb(tba), p}
・カリヨン carillon (-) {org}
・田園詩曲 pastorale (-) {org}
歌曲 ・幸運 le bonheur (1926) {sop(tnr), p(small-orch)}
・暁の館 la maison du matin (1926) {sop(tnr), p(orch)}
・3つの歌 trois mélodies (1929) ...
T.Derème詩
・小さき子らのクリスマス・ツリー pour l'arbre de noël de nos petits enfants (1930) {vo, p}
・3つの神秘的な歌 trois chansons spirituelles (1937) {vo, org}
・男と海 l'homme et la mer (1937) {alto(btn), p(small-orch)}
・2つの詩曲 deux poèmes (1942) {sop(tnr), p} ...
Verhaerenのheures Clairesより
・世界周遊の歌 chansons pour courir le monde (1945) {sop(tnr), o(orch)}
・楽器 l'instrument de musique (1950) {2vo, fl, ob, cl, hrn, bssn, p}
合唱曲 ・オラトリオ【アッシジの聖フランソワ】 St.François d'Assise (1933)
・オラトリオ【世界の虚栄】 les vanités du monde (1938)
・生け贄となったアブラハム Abraham sacrifiant (1939)
・カンタータ【イェーダマン】 Jedermann (1942)
・オラトリオ【万聖節と死者の日のための歌】 chant pour le jour des morts et la toussaint (1943)
・詩篇第100番 psaume 100 (1947) {choir, org}
・詩篇第109番 psaume 109 (1948) {choir, org(orch)}
・オラトリオ【誓いの神秘】 les mystères de la foi (1958)
・詩篇第104番 psaume 104 (1962) {vo, choir, orch}
・古い降誕祭唱歌によるラテン風のミサ messe latine sur de vieux noëls (1966) {choir, org}
・演奏会式のミサ messe de concert (1973) {choir, org}
その他 ・悲しみよこんにちは bonjour tristesses (-) ...スイス国立図書館蔵。未出版。不詳。


ガニュバンを聴く


★★★★
"Pièces sur les Psaumes Huguenots / Fantaisie / Dialogue et Passacaille / Monologue et Fugue / Toccata en Fa Mineur / Sonata Da Chiesa per il Natale" (Toquade : 9503)
Vera Geissberger, André Luy, René Oberson (org) Jean-Paul Goy (ob)
マルタンと若干名くらいしか思いつかないスイス。教会音楽はどうなってるのかと思っていましたら,いましたいました。1886年生まれのこの作曲家は,スコラ=カントールムでダンディのお弟子さんだった人物。留学中はドコーとヴィエルヌからオルガンを習い,のちジュネーヴ,ローザンヌ両音楽院で教鞭を執りました。しかし詳しい方でも,ジュネーブ国際コンクールの創設者くらいの認識しかないのでは。1995年に出たこの録音は,そんな彼の珍しい作品集。まるっきり頑迷な保守派音楽のダンディと,シェーンベルクよりも先に無調を試みるほど先鋭的だったドコーの両方から,同じ大学で習うという,あまりにシュール過ぎるシチュエーションだったからでしょうか。ここに聴ける彼の作風は,二者の間で分裂症気味。フランクやダンディそのまんまのかっちりした形式感を基調としつつ,少々ヴィエルヌ経由の近代臭と旋法性を加えただけの保守的なものから,ドコーの弟子だったことを伺わせる,ラングレ趣味の無調寄り神秘主義作まで。演奏するは,チューリヒ音楽院を出たのち,リテーズに学んだ経験を持つベラ・ガイスベルガー女史。ローザンヌ音楽院で作曲者の弟子だったと思しきアンドレ氏と,デュティーユ,ラングレの弟子だったらしいルネ氏が代わる代わる助太刀。ベラ女史のオルガンは,それなりにメリハリはあるもののミスが目立ち,お世辞にも上手いとは思えませんし,本家ラングレに比べ,楽曲は些か真面目すぎるかも知れません。それでも,日の当たる管弦楽領域でスイス楽壇を牽引したマルタンの陰で,教会音楽分野でも,こうしてスイス楽壇の近代化に貢献していた人物がいたんだなと厳粛な気持ちになりました。ピアノやヴァイオリンと違って,演奏家人口が極端に少ないオルガン音楽は,音楽史を語る際どうしても扱いが日陰になります。しかし,各人のベクトルが乖離していく潮流の中で,いわば方位磁針の役割を果たしていたオルガン・スクールの役割を見過ごしての近代音楽史は片手落ちというもの。それはスイスでも同じ事でしょう。基礎情報がまるきり貧弱な現状は不条理。美しいはもっと聴かれていい佳品。判官贔屓ながらこの評価を。

(2006. 2. 26)