Hの作曲家



アルテュール・オネゲル Arthur Honegger (1892-1955)

フランスの作曲家。スイス国籍。本名アルテュール・オスカル・オネゲル。1892年3月10日,北フランスのル・アーヴルに生まれる。両親はスイス人。母に就いて最初の音楽教育を受ける。1907年にチューリヒ音楽院に進んでヴィレム・デ・ボワにヴァイオリンを,ロタル・ケンプターに楽典を,フリードリヒ・ヘイガーに作曲法を師事。1909年まで学んだのちパリへ出て,1911年にパリ音楽院へ入学。リュシアン・カペー(ヴァイオリン),アンドレ・ジェダルジュ(楽典),シャルル・ヴィドール(編曲法),ヴァンサン・ダンディ(指揮法)らに師事した。1914年〜1915年には軍役のため,いったんスイスへ帰国。しかし在学中から既にダリウス・ミヨーと親交を持ち,帰仏後の1916年には,詩人のジャン・コクトーと若手作曲家らとで創設された『新青年(のちの六人組)』に加わる。1920年に作曲した『夏の牧歌』が,初演時にヴェルレー賞(聴衆選出の優秀賞)を獲得したことで,最初の評価を確立。オラトリオを始めとする劇的で大規模な舞台作品を得意とした。映画やラジオ音楽などの新しいメディアや,オンド=マルトノなどの新しい楽器の導入にも意欲的で,劇映画30,記録映画5,アニメーション映画3を残し,その発展に多大な貢献を果たしている。作風は鋭敏な対位法に基づく優れた構築力を特徴とし,印象主義の影響から出発。その後1920年代後半からは,即物主義の影響のもと晦渋で先鋭的な作風を展開したが,後年は新古典主義に接近する傾向が顕著に見られる。1955年11月27日,パリにて死去。


主要作品

※Halbreich, H. 1994. Arthur Honegger. Amadeus.   Spratt, G.K. 1987. The music of Arthur Honegger. Cork Univ.Press.
Delannoy, M. 1984. Honegger. Editions Slatkine. を入手しました。作品表は時間が出来次第,完全版へ改訂します。

舞台作品
・聖女アルメーヌの死 la mort de Sainte Alméenne (1918)
・ダビデ王 le Roi David (1921/1923/1924) {sop, alto, 2tnr, 2narr, choir, orch, org}
・エッフェル塔の花嫁花婿(葬送行進曲のみ) les mariés de la tour Eiffel (1921)
・スケート・リンク skating rink (1921)
・潜水艦 sous-marine (1924)
・嵐 suite de 'La Tempête' (1923-1925) {sop, orch}
・ユーディット Judith (1925)
・アンティゴーヌ Antigone (1924-1927)
・鋼鉄の薔薇 roses de medal (1928) {perc, p, dynaphones de bertrand}
・世界の叫び cris du monde (1930-1931)
・ポゾール王の冒険 les aventures du Roi Pausole (1929-1930)
・セミラミス sémiramis (1933) {sop, vln, onde-martenot, choir, orch}
・火刑台のジャンヌ・ダルク Jeanne d'Arc au bûcher (1935) {narr, choir, orch}
・鷲の子 l'aiglon (1935)
・小さき枢機卿たち les petites cardinal (1937)
・雅歌 le cantique des cantiques (1937)
・フリューのニコラス Nicolas de Flue (1939) {narr, choi, orch}
・シャルル豪胆公 Charles le téméraire (1943-1944)
・山の呼び声 l'appel de la montagne (1943)
・ショタ=ルスタヴェリ Chota Roustaveli (1945)
・フランソワ・ヴィヨンの贖罪 la rédemption de François Villon (1951)
付帯音楽 ・世の戯言 le dit des jeux du monde (1918)
・死の舞踏 la danse macabre (1919)
・サウル Saül (1922)
・ファンタジオ fantasio (1922)
・岩の女王 l'impératrice aux rochers (1925)
・フェードラ Phoedre (1926)
・七月十四日 le Quatorze Juillet (1936)
・マンドラゴラ la Mandragora (1941)
映画音楽 ・鉄路の白薔薇 la roue (1922)
・ゴシップ記事 fait-diver (1924)
・ナポレオン Napoléon (1927)
・ああ無情 les misérables (1933)
・霧笛 rapt (1934)
・イデー l'idée (1934) {onde-martenot, sax, orch}
・カマルグの王 roi de camargue (1934)
・砲撃止め! cessez le feu (1934)
・罪と罰 crime et châtiment (1934) {onde-martenot, orch}
・ヒマラヤの悪魔 der dämon des Himalaya (1935) {tratnium, choir, orch}
・エルシノア号の反乱 les mutinés de l'Elseneur (1935)
・最後の戦闘機 l'equipage (1935)
・泡沫の戀 mayerling (1936)
・マルト・リシャール Marthe Richard au service de la France (1937)
・リベルテ liberté (1937)
・二番芽 regain (1937) {as, p, orch, perc}
・フランスの顔 visage de la France (1937)
・ミアルカ Miarka ou la fille á l'ourse (1937)
・越境請負人 passeurs d'hommes (1937)
・ニチェヴォ(地中海) Nitchevo (1937)
・沈黙の要塞 le citadelle du silence (1937)
・マドモワゼル=ドクトル Mademoiselle Docteur (1937)
・建造者 les bâtisseurs (1937)
・脱走兵 le déserteur (1938)
・ピグマリオン pygmalion (1938)
・ファリネ:山の黄金 farinet l'or dans la montagne (1938)
・脱走兵 le déserteur: ou je t'attendrai (1939)
・第三の接吻 cavalcade d'amour (1939)
・天空の音楽家たち les musiciens du ciel (1940)
・五時のニュース le Journal tombe à cinq heures (1942)
・城の8人 huit hommes dans un château (1942)
・古代西アジア les antiquités de l'Asie occidentale (1942)
・ニュース映画 France-actualités (1942)
・フランスのボクシング la boxe en France (1942)...
スポーツ讃歌の1曲のみ
・秘め事 secrets (1942)
・フラカッス船長 le capitaine Fracasse (1943)
・降誕祭 la nativité (1943)
・メルモ mermoz (1943)
・ただひとつの恋 un seul amour (1943)
・今宵友きたる un ami viendra ce soir (1945)
・暁の悪魔 les démons de l'aube (1946)
・亡霊 un revenant (1946)
・ブルデル bourdelle (1950)
・バベルの塔 la tour de Babel (1951)
・パウル=クローデル Paul Claudel (1951)
管弦楽曲 ・アグラヴェヌとセリセットのための前奏曲 prélude d'Aglavaine et Sélysette (1917)
・ニガモンの歌 le chant sw Nigamon (1917)
・ヴィヴァーチェ vivace (1918)
・夏の牧歌 pastorale d'été (1920)
・交響的黙劇『勝利のオラース』 horace victorieux mimèe symphonique (1920)
・スケート・リンク skating rink (1921)
・喜びの歌 chant de joie (1923)
・テンペストのための前奏曲 prélude pour la Tempête de W. Shakespeare (1923)
・交響的運動第1番『パシフィック231』 mouvement symphonique 'pacific 231' (1923)
・ラグビー rugby -mouvement symphonique No.2 (1928)
・交響曲第1番 symphonie No. 1 (1929-1930)
・交響的断章第3番 mouvement symphonique No. 3 (1932-1933)
・夜想曲 nocturne (1936)
・ラルゴ largo pour orchestre à cordes (1936)
・交響曲第2番−弦楽オーケストラとトランペットのために symphonie No. 2 pour orchestre à cordes et trompette (1941)
・巨大ダム la grand barrage (1942)...
映画音楽か?
・スイスの祭りの日 jour de fête suisse (1943)
・交響曲第3番『典礼風』 symphonie No. 3 'liturgigue' (1945-1946)
・交響曲第4番『バーゼルの喜び』 symphonie No. 4 'deliciae Basilienses' (1947)
・前奏曲,フーガと後奏曲 prélude, fugue, postlude (1948?)
・古風な舞曲 suite archaïque (1951)
・モノパルティータ monopartita (1951)
・交響曲第5番『3つのレ』 symphonie No. 5 'di tre re' (1951)
・アレグレット allegretto (not specified) {chamber-orch}
協奏曲 ・コンチェルティーノ concertino pour piano et orchestre (1924) {p, orch}
・チェロ協奏曲 concerto pour violoncelle et orchestre (1929) {vc, orch}
・室内協奏曲 concerto da camera (1948) {fl, e-hrn, strings(p)}
器楽/室内楽曲 ・アダージョ adagio (1910) {vln, p}
・ヴァイオリン・ソナタ ロ短調 sonate pour violon et piano (1912) {vln, p}
・ピアノ三重奏曲 ニ短調 trio pour violon, violoncelle, et piano (1914) {vln, vc, p}
・弦楽四重奏曲第1番 quatuor à cordes No. 1 (1916-1917)
・狂詩曲 rapsodie (1917) {2fl, cl, p}
・フーガとコラール fugue et choral (1917) {org}
・ヴァイオリン・ソナタ第1番 sonate pour violon et piano No. 1 (1916-1918) {vln, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第2番 sonate pour violon et piano No. 2 (1916-1918) {vln, p}
・牝山羊の踊り la danse de la chèvre (1919) {fl}
・ソナティヌ sonatine pour deux violons (1920) {2vln}
・弦楽十重奏のための讃歌 hymne pour dixtuor à cordes (1920)
・ヴィオラ・ソナタ sonate pour alto et piano (1920) {vla, p}
・チェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1920) {vc, p}
・ソナティヌ sonatine pour clarinette et piano (1922) {cl, p}
・3つの対位法 trio counterpoint (1922) {fl, ob, vln, vc}
・前奏曲とブルース prélude et blues (1925) {4hrp}
・讃歌 hommage du trombone expromant la tristesse de l'auteur absent (1925) {tb, p}
・アリオーゾ arioso (1927-1929) {vln, p}
・ j'avais un fidele amant (1929) {2vln, vla, vc}
・ソナティヌ sonatine pour violon et violoncelle (1932) {vln, vc}
・前奏曲 prélude (1932) {b, p}
・小組曲 petite suite (1934) {fl, ob, vln, vla, p}
・弦楽四重奏曲第2番 quatuor à cordes No. 2 (1934-1936)
・弦楽四重奏曲第3番 quatuor à cordes No. 3 (1936-1937)
・バイオリン独奏のためのソナタ sonate pour violon seul (1940) {vln}
・演奏会用小品 morceau de concours (1945) {vln, p}
・パドゥアーナ paduana (1945) {vc}
・呪文 sortilèges (1946) {onde-martenot}
・イントラーダ intrada (1947) {tp, p}
・ロマンス romance (1953) {fl, p}
・序奏と踊り introduction et danse (-) {fl, hrp, vln, vla, vc}
・対話 collogue (-) {fl, celesta, vln, vla}
・フーガとコラール fugue et choral (-) {org}
ピアノ曲 ・3つの小品 trois pièces (1910)
・スケルツォ scherzo (1910)
・ユーモレスク humoreske (1910)
・アダージョ・エスプレッシーヴォ adagio espressivo (1910)
・トッカータと変奏曲 toccata et variations (1916)
・3つの小品 trois pièces (1915-1919)
・7つの短い小品 sept pièces breves (1919-1920)
・サラバンド sarabande - album des six (1920)
・カイエ・ロマンド cahier romand (1921-1923)
・アルベール・ルーセル礼賛 hommage à Arbert Roussel (1928)
・バッハの名による前奏曲,アリオーゾとフガート prélude, arioso et fughette (1932)
・2台のピアノのための組曲 suite pour deux pianos (1928) {2p}
・パルティータ partita pour deux pianos (1928) {2p}
・シニック・レイルウェイ scenic railway (1937)
・小さなアリア petits airs sur une basse célèbre (1941)
・2つの素描 deux esquises (1943-1944)
・ショパンの想い出 souvenir de Chopin (1947)
・小さな小品 petite pièce en sol (-)
歌曲/合唱曲 ・4つの詩 quatre poèmes (1914-1916) {vo, p}
・ポール・フォールの3つの詩 trois poèmes de Paul Fort (1916) {vo, p}
・『アルコール』より6つの詩 six poèmes des 'Alcools' (1916/1918) {vo, p}
・死せる自然 nature morte (1917) {vo, p}
・復活祭の讃歌 cantique de pâques (1918) {vo, female-choir, orch}
・ニューヨークの復活祭 pâques à New York (1920) {vo, 2vln, vla, vc}
・歌 chanson (1923) {vo, p}
・ジャン・コクトーの6つの詩 six poèmes de Jean Cocteau (1920-1923) {vo, p}
・アリエルの2つの歌 deux chansons de ariel (1923) {vo, p}
・歌 chanson (1924) {vo, p}
・アンデルセンの『小さな人魚』より3つの歌 trois chansons de la petite sirène d'Andersen (1924) {vo, fl, 2vln, vla, vc}
・ヴォーカリーズの練習曲 vocalise-étude (1929) {vo, p}
・大きな池 le grand étang (1932) {vo, p}
・黄熱病 fièvre jaune (1935) {vo, p}
・若さ jeunesse (1937) {vo, p}
・死者の舞踏 la danse des morts (1938) {vo, choir, orch}
・オ・サルタリス o salutaris (1939) {vo, p}
・パウル・クローデルの3つの詩 trois poèmes de Paul Claudel (1939-1940) {vo, p}
・3つの詩編 trois psaumes (1940-1941) {vo, p}
・倫理学の小講義 petit cours de morale (1941) {vo, p}
・6つの田園詩曲 saluste du bartas (1941) {vo, p}
・解放の歌 chant de libération (1942) {btn, choir, orch}
・小さな化粧小箱 panis angelicus (1943) {vo, p}
・低声部のための4つの歌 quatre chansons pour voix grave (1940-1945) {vo, p?}
・(邦訳不詳) o temp suspends ton vol (1945) {vo, p}
・ミマーマカン mimaamaquin (1946) {vo, p}
・クリスマス・カンタータ une cantate de noël (1953) {btn, choir, child-choir, org, orch}


オネゲルを聴く


★★★★☆
"Symphony No. 1 / Symphonie No. 2 / Symphonie No. 3 / Symphonie No. 4 / Symphonie No. 5 / Pasific 231 / Mouvement Symphonique No. 3 / Prélude pour la Tempête de Shakespeare" (Supraphon : 11 1566-2)
Serge Baudo (cond) Czech Philharmonic Orchestra
オネゲルを一言で形容するなら,蓋し近現代のベートーヴェン。彼ほどその作品が躁鬱的な作家,私はついぞ聴いたことがありません。どちらかというとあまり好きなタイプではなく,詳しく調べたこともないのですが,恐らく相当に躁鬱気質だったか,その逆だったのでは(失礼)彼はミヨー同様,初期には若気の至りで反ロマン・印象派を標榜,後の現代音楽へと通じるハゲシイ作品を量産しますが,後年次第に新古典的傾向と,僅かばかりのロマンティシズムを身につけ,作風はやや穏健になります。5つの交響曲はその所産。あまり聴いたことのない彼の交響曲集では,今のところこの盤が一番良い出来であると思います。彼はスイス人なので,スイス的冷徹さと重厚さを残して演奏しないと,たるんだ演奏になってしまいます。このボード盤はその点を最も良くくみ取った内容。オケの力量不足でむらもありますが,水準以下の演奏は皆無です。

★★★★☆
"Symphonie No. 5 'Di Tre Re' / Pasific 231 / Pastorale d'été / Chant de Joie" (Supraphon : CO-3572)
Serge Baudo (cond) Czech Philharmonic Orchestra
この作品集は,上に挙げたセルジュ・ボードが,1960年代から20年近くを掛けて録音したオネゲルの交響曲全集および管弦楽作品集からの分売ものです。そして,オネゲルへの入口として,小生がお薦めするCDでもあります。何しろ古いCDなのでもう廃盤かも知れません。その場合は,ここに挙がった作品を参考に,新しいCDを選んでも宜しいと思います。初期の彼は一方で晦渋な現代音楽にも影響されましたが,一方では印象主義の影響も受け,色彩的な作風も展開しました。『夏の牧歌』,『喜びの歌』はその代表格。前者は印象主義,後者は印象主義と新古典主義の折衷的表現で,ベルギーのジョンゲンに近い作品。いずれも名演奏で,特に前者は『夏の牧歌』の決定版と断言しても宜しいのではないでしょうか。『交響曲第5番』も,劇的なオネゲルらしい作風で,演奏も水準以上です。唯一難を挙げるとすれば『パシフィック231』でしょうか。機関車の疾走するさまを描写したこの曲,録音も多いのですが,機関車の音を管弦楽で真似て,いったい何が面白いの?との疑問を禁じ得ないんでございます・・。

★★★★☆
"Judith / Cantique de Pâques" (Cascavelle : VEL 1013)
Michel Corboz (cond) Brigitte Balleys, Liliana Bizineche (msp) Oers Kisfaludy (narr) Naoko Okada (sop) Michel Brodard (btn) Choeur et Orchestre de la Fondation Gulbenkian
このCDは,劇的な舞台作品で知られる現代音楽のベートーヴェンことオネゲルの,余り演奏されることのない初期カンタータものの2作品をカップリングしたもの。狭義の現代音楽好きからすると,彼の初期作品はまだ印象主義から抜けきれない,未完成な時期の作品ということになるのでしょう。しかし,近代物ファンからすれば,この時代のオネゲル作品は宝の山。実際,カラフルな和声で人気の高い『夏の牧歌』もこの時期の作品です。後年花開く緊張感溢れる対位法の軸線に沿って,ブーランジェに近い重厚かつ激情的な作風を展開。いずれも演奏僅少で無名なままなのが信じられない,内容のある作品。フォーレの名演で名高いコルボの指揮に,マルタン『旗手』の怪唱が記憶に残るバレーズの歌も巧い。優れたCDだと思います。しかし,このエグイジャケット,もう少し何とかならんのでしょうか・・

★★★★☆
"La Danse des Morts / Une Cantate de Noël" (Cascavelle-Erato : 2292-45520-2)
Michel Corboz (cond) Gilles Cachemaille (btn) Naoko Okada (sop) Brigitte Balleys (alto) Oeurs Kisfaludy (recit) Max Rabinovitsj (vln) Nicholas McNair (org) Susana Oliveira Teixeira (solo) Os Pequenos Cantores do Gremio Literario : Choeur et Orchestre Gulbenkian
1934年スイス出身のコルボは,ローザンヌ声楽アンサンブルを率いて,専ら合唱畑を歩んできた人物。それが認められて1969年にポルトガルのグルベンキアン財団付属合唱団の指揮者となり,斯界の第一人者として君臨してきました。同郷の作家の再発掘にも意欲的で,マルタンの『ピラト』やオネゲルの『ユーディット』など,滅多に録音されない演目に貴重な音源を提供してくれています。オネゲル晩年の2品を録音した本盤も面目躍如たるものでしょう。語りを挟んで,ストラヴィンスキーをヒステリックにしたような狂気じみた合唱,打楽器によって歌われる『死の舞踏』は,露骨に「死」を扱い,恐怖を鼓舞するのですが,「アビニョンの橋」まで風刺画的に挿入されるこの曲,どこか仰々しくイデオロギー先行で死へのリアリティが乏しい。その点,イデオロギーとしての「死」ではなく,彼自身の「死」が目前に迫った遺作『クリスマス・カンタータ』の重みは傑出している。もとは1937年に構想されていた受難劇の一部を改作したものであるにも拘わらず,既に心疾患で病床にあったオネゲルは予定の期日にも間に合わせられなかったほど健康状態が思わしくありませんでした。彼も,最後は裸の自己と向き合わずには居られない。少し前に書かれた『交響曲第5番』のグラーヴェを思わせる沈鬱な前半部を経ながらも,厳かな安息と歓喜に満ちた後半部の筆致の中に,死を目前にした彼の悲壮な胸懐が伺えるようです。このカップリングがそんなことを意図したものなのかどうか。計らずも2つの「死」が絶妙なコントラストを成していて,厳粛な心持ちになりました。

★★★★
"Farinet ou l'Or dans la Montagne / Crime et Châtiment / Le Déserteur ou Je t'attendrai / Le Grand Barrage / L'Idée" (Marco Polo : 8.223466)
Adriano (cond) Jacques Tchamkerten (o-martenot) Slovak Radio Symphony Orchestra, Bratislava)
スイス生まれの指揮者アドリアーノは,レスピーギの権威として知られる人物だそうですが,チューリヒ歌劇場の助手を務めたほかは,国際的な受賞経験なども見あたらず。国際的な檜舞台からはかなりの距離がある人物。ところが,どういうわけかマルコ・ポーロとはエラク懇意。チェコがスロヴァキアと分裂した結果の産物,スロヴァク放送響と組んで,マイナー作品をどこからともなく拾い出してはしこたま録音し,下手なカラヤンもどきより余程近代マニアに馴染み深い指揮者へと昇格しました。指揮者としての力量もなかなかで,冴えないマルコお抱えの指揮者の中では,多分,最も安定感があるんじゃないでしょうか。本盤もこのコンビによる岩窟企画。オネゲルの映画音楽という,言われてみれば確かに音源手薄なところを,確実に狙うこの隙間産業的キャラこそ,彼の面目躍如たるものでしょう。映画音楽という性格上でしょうか。躁鬱的で激情性の高いオネゲルとしては,驚くほど穏健。主題,調性感とも明瞭で激情性も低く,彼の持つ新古典主義の顔が,最も明瞭に味わえるのではないかと思います。決して爆発することはないものの,鬱々と拡がっていく苦悩の雲。その間から,時折覗くイベールの日差し。新古典的な音場の上で,両者が代わる代わる顔を出しては,陰影を作っていきます。『バーゼルの喜び』,『喜びの歌』あたりのオネゲルがお好みの方は興じ入っていただけるのではないでしょうか。楽団はB級だけに,弦を中心に粗さはあるものの,指揮は周到。総じてまずまず好演であると思います。

★★★★
"Le Roi David : Psaume Symphonique" (London : POCL-2197)
Ernest Ansermet (cond) Suzanne Danco (sop) M.de Montmollin (msp) Michel Hamel (tnr) Pauline Martin (msp) Stephane Audel (narr) L'Orchestre de la Suisse Romande : Choeur des Jeunes de l'Eglise Nationale Vaudoise
本作品はオネゲルの初期作品で出世作。3分ほどの詩篇を語りがブリッジします。初期作らしく即物主義的な晦渋さはほぼ皆無。後期ロマン派趣味に立脚しつつ凝った和声を積み上げるブーランジェもどきの作風が特徴。印象派ファンには特にすんなり聴けるオネゲルでは。ところで,解説文によればオネゲルはサティの作品を好まず,サティもまた六人組を語る際「オネゲルを除いて」という言葉を繰り返したとか。これは,六人組関係者に共通する「人を食った軽さ」を持たない生真面目なオネゲルの,六人組における位置を大変良く説明していると思います。アンセルメはドビュッシーも定評がありますが,どちらかというと小生は,ドビュッシーなどよりマルタンやオネゲルのような,冷徹でかっちりとした様式美を持つ作家の方が彼には合っている気がする。実際,アンセルメの指揮は大変見事で,この盤のロマンド管の演奏も,『牧神』のチンケな鳴りから一転。巷の評価通りの力量を見せます。それだけに,なかなか秀抜なオケに比して合唱団が格段に弱いのが惜しい!

★★★★☆
"Symphony No.1 / Symphony No.2 pour Orchestre à Cordes / Symphonie No.3 'Liturgique'" (EMI : CDM 7 64274 2)
Michel Plasson (cond) Yan-Pascal Tortelier (vln) Lucien Morui (vla) Jean-Louis Hardy (vc) Calvin Sieb (vln) Orchestre du Capitole de Toulouse
四半世紀以上に渡ってトゥルーズ管を率い,同楽団をフランス有数のオーケストラに育て上げたミシェル・プラッソンは職人堅気な指揮者。その割に演奏にはムラッ気が多く,ミヨーの交響曲集で感動させたと思えば,ドビュッシーやフォーレで聴き手を大いに落胆させる。指揮者に合わせてオケの音色まで粗野になってしまうから困ったもんです。このCDはそんなプラッソンが1970年代に残したオネゲルの交響曲全集中の一枚。結論から言うと,これは典型的な「当たりの仕事」です。速めのテンポを取り,作品の持つ流動感を活かしながら,デュトワのように甘さへは流れず,スイス人らしい凛とした佇まいは残すバランス感覚は賞賛に値しますし,何よりオーケストラの性能が不調時とは段違い。録音のせいもあるんでしょうが,鋭い弦部の切れ味は見事なものです。「フランスのエスプリ」シリーズは安く出回ってますし,この人の選集は,下手なのを買うより数段お得感が高いのではないでしょうか。

★★★★
"Symphonies No.1-5 / Pacific 231 / Rugby" (Erato : 3984-21340-2)
Charles Dutoit (cond) Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks
現在はNHK交響楽団の指揮者として有名になった好色一代男,シャルル・デュトワといえば,何と言ってもモントリオール管と組んで残した一連のフランスものが有名。彼の名前を一躍世界的にしただけに,そこでの彼の指揮はまさに水を得た魚のように見事なものでした。では,その前のデュトワは何をしていたのか?という例を探したときに,おそらく筆頭に挙げられるのがバイエルン放送響時代の録音。特にこのオネゲルは隠れた好内容作として一部のファンに彼の名前を知らしめたものでした。全体にテンポ取りは早く,流動感重視。冒頭『交響曲第1番』の切れ味鋭く,しかも良くスイングした(笑)センスの良いリズム処理には早くも非凡な才気を充分に見ることができますし,第2番の艶やかな弦の鳴動は,のちにフランスもので大ブレイクしたこの指揮者ならではのものでしょう。これ以前の定番だったセルジュ・ボード盤が持つ重厚で冷徹な演奏に比べ,遙かに滑らかで現代的な洒落っ気のあるデュトワの指揮は,緩楽章においては最大限に持ち味を発揮。一面やや甘く綺麗すぎて,作者の持つ新古典的な重厚さを減衰させてしまったきらいこそあれ,ひとつの推薦に値する立派なものであると思います。折からの価格破壊に乗って,とうとう二枚組で1000円にまで値下がりしましたし,入門盤としても充分にその役を果たす一枚じゃないかと思います。

★★★★☆
"L'Oeuvre pour Piano" (Fy : FYCD 033)
Alain Raës (piano)
最近,続々マニアックな復刻を出して要注目のフランスのアンデパンダン・レーベルSOLSTICE-FYから今度はオネゲルのピアノ作品集登場。オネゲルといえば形式的な書法のうえに,先鋭的な和声感と激情的なリズムを上乗せした晦渋な作風をとる人なので,独奏楽器ではどんなことになるのか,かなり心配しましたが,聴いてみると意外にも印象派色濃い。それもその筈,ここに収まった作品は,大半が初期のものです。音符が詰まってくるとリズムの輪郭も明瞭になり,新古典的なオネゲルのキャラクターを表しますが,緩楽章は一転して随所にシャブリエやドビュッシーの影響が。明らかにそれと分かる先鋭的で晦渋な作品は少なく,好い意味で伝統を重んじた彼の持ち味が良く出ていると思います。ピアニストは初めて耳にしますが,かなり達者な技量の持ち主で驚きました。その割にテンペラメンタルなタイプではないので,おそらく教育畑の人じゃないかと思いますが,詳しい経歴不明。何者なんでしょう?

★★★★☆
"Prelude, Fugue et Postlude / Monopartita / Prélude pour la Tempête de Shakespeare / Napoleon Suite d'Orchestre de Orchestre de l' illustration d'Abel Gance / Le Chant de Nigamon / Prelude pour la 'Phædre' " (Erato : 2292-45862-2)
Marius Constant (cond) Orchestre Philharmonique de Monte Carlo
オネゲルは素晴らしい様式的構成力の持ち主であったので,実際には一貫性のない作風(ときに印象主義,ときに即物主義的)でありながら,安定感と統一感を損なうことなく,ジャン・リヴィエら同時代の作曲家と一線を画していました。この作品集はフランスの現代音楽家,コンスタンの指揮による作品集で,オネゲルの中でも晦渋で現代音楽よりの作品を集めたものですが,ここでもバッハを敬愛したというオネゲルの際立った構成力によって,凡弱な現代音楽とは一線を画している点が注目されます。狂気すれすれの尖りまくった曲が並ぶ様は,ジャケットの才気走った表情そのもの。余計なエフェクト処理を加えず原音に拘った録音秀抜。金管の響きも最高です。

★★★★
"Sémiramis / Largo pour Orchestre / Interlude de 'La Mort de Sainte Alméenne' / Vivace / Fantasio / Suite de 'La Tempête' / La Rédemption de François Villon / Allegretto / Blues de 'Roses de Métal' " (Timpani : 1C1016)
Leopold Hager (cond) Mariette Kemmer (p) Choeur Polyphonia de Bruxelles : Choeur Symphonique de Namur et de la Communauté Française de Belgique : Orchestre Symphonique de RTL
これはオネゲルの未出版作品ばかりを録音した珍品CDです。しかし,ここに収められた作品は未出版だったのが嘘のように好い出来。尤も未出版なのにも色々な理由があるわけで,未出版だから駄作とか,本人が気に入らなかったということもないわけです(逆に,ドビュッシーの『幻想曲』や『夢』のように,出版されても本人がイヤ,ということだってあるわけです)から,当然といえば当然なのですが。ホルストの『惑星』とストラヴィンスキーの『祭典』を足し合わせたような『セミラミス』など,オネゲルとは思えないほど色彩感のある曲もあり,個人的には躁鬱質の交響曲などより,入門用に良いという気もします。金管が些か力量不足を露呈するものの演奏も良く,隠れた好内容盤。

★★★★☆
"Deliciae Basilienses (Honegger) : Métaboles (Dutilleux) : Suite (Roussel)" (Erato-BMG: B18D-39148)
Charles Münch (cond) Orchestre de l'Association des Concerts Lamoureux : Orchestre National de l'O.R.T.F.
フランス近代ものに深い理解を示し,その積極的な紹介者となった大指揮者シャルル・ミュンシュの面目躍如ともいうべき作品集です。作品の持つ生き生きとした精気,躍動感を大切にした彼の指揮は,現代の指揮者のそれに比べると,時に少しばかり緻密さにおいて見劣りすることがありますが,作品全体のつかみ取り方,ダイナミズムの表し方に掛けては,今以て第一級水準の魅力を保っていると思います。このエラート盤はまさしく,そのようなミュンシュの持ち味が色濃く表れた内容。オネゲルの4番は速めのテンポをとり,流れるようにいきいきと表情をつけた,同曲の決定版と言って良い出来映え。デュティーユのそれも,ビシュコフ盤ほどの緻密さはないものの,ダイナミックな流動感に富み,この曲の持つ艶めかしさを極めて効果的につかみ取った演奏内容であると思います。ミュンシュが指揮のモノラル録音もあるルーセルの『組曲』は隠れた名品ながらCDが少なく,得難い録音と言えるのでは。秀作です。

★★★★
"Symphonie No. 4 'deliciae Basilienses' / Pastorale d'été / Prélude, Arioso et Fughette / Concertino*" (Chandos : CHAN 8993)
Tamás Vásáry (cond, p*) Bournemouth Sinfonietta
ピアニストとしても鳴らしたタマース・ヴァーシャーリは最近,指揮者として活動することが多くなりました。彼に限らず,アシュケナージ,アントルモン,アントニオリと,いいピアニストが続々指揮者に転向していくのを見るのは,嬉しい反面勿体ないとの気も致します。ほとんど録音はお目にかかれない晦渋な『前奏曲,アリオーゾとフガート』を含むこの盤,ちょっとヴァーシャーリの指揮は流しすぎでテクスチュアと重厚さに欠ける面もありますが,選曲が好い。セルジュ・ボードの至高の名演でお馴染み,オネゲルの作品でも特に印象主義的で,優美かつ暖かみのある『夏の牧歌(pastorale d'été)』を筆頭に,聴きやすい曲が並び,オネゲルの親しみやすい表情を堪能できます。。