Iの作曲家


ジャック・イベール Jacques Ibert (1890-1962)

フランスの作曲家。1890年8月15日,パリ生まれ。幼少期から母にヴァイオリンとピアノを学ぶ。従兄弟でもあるスペインの作曲家ファリャの薦めで1911年にパリ音楽院演劇科,その後20才で作曲科へ進学し,ポール・ヴィダルに作曲法,エミーユ・ペッサールに和声法,アンドレ・ジェダルジュに対位法とフーガを師事。1914年に卒業。第一次大戦に従軍したのち,1919年,24才の時にカンタータ『詩人と妖精』(le poète et la fée)でローマ大賞を獲得。1937年から1958年にかけてはローマのフランス・アカデミーの院長,1955年から1957年に掛けてはパリのフランス国立歌劇場連盟(オペラ座,オペラ歌劇場の両方を管理する連盟)の総長などを歴任。1956年には学士院会員にも任命された。1962年2月5日パリにて死去。初期はドビュッシーの強い影響下に平行和音を多用した印象主義的な作風をとったが,その後は六人組の影響を受けて,やや擬古典的,戯画的な作風へと転じた。生粋のパリジャンであった彼の作風は,それらを折衷したうえに立脚した,軽妙でエスプリ漂うものである。


主要作品
 ※Michel, G. 1967. Jacques Ibert. Editions Seghers.入手。作品表補填予定。

舞台作品 ・詩人と妖精 le poète et la fée (1919)
・ペルセウスとアンドロメダ Persée et Andromède (1921) <4vo, choir, orch>
・3つの小品 trois pièces de ballet les rencontres (1922)
・アンジェリーク Angélique (1926)
・イヴトーの王 le roi d'Yvetot (1928)
・ゴンザーク gonzaque (1931)
・ドルシネアへのサラバンド sarabande pour dulcinée (1935)
・武者修行の騎士 le chevalier errant (1935)
・小鷲(ナポレオン二世) l'aiglon (1937)...
オネゲルと共作
・小さな枢機卿たち les petites cardinales (1938)...
オネゲルと共作
映画音楽 ・ドン・キホーテー don quihotée (1933)
・ゴルゴダの丘 gorgoda (1935)
・美しき諍い conflit (1938)
・幻の馬車 la charrette fantôme (1939)
管弦楽曲 ・レディング監獄のバラード la ballade de la geôle de Reading (1921)
・寄港地 escales (1922)
・狂人の歌(ポルトガル舞踊の歌?) chant de folie (1922)
・夢幻 féerique (1924) {orch/p}
・喜遊曲 divertissement (1930)
・交響組曲「パリ」 suite symphonique 'Paris' (1931)
・海の交響曲 symphonie marine (1935)
・祝典序曲 ouverture de fête (1940)
・エリザベス朝の組曲 suite Elisabéthaine (1942) {sop, choir, orch}
・モーツァルトへのオマージュ hommage à Mozart (1955)
・ボストニアーナ bostoniana (1955)
・バッカナール bacchanale (1956)
・架空の愛のトロピズム tropismes pour des amours imaginaires (1957)
協奏曲 ・チェロと10人の木管合奏のための協奏曲 concerto pour violoncelle et orchestre d'instruments à vent (1925) {vc, winds}
・フルート協奏曲 concerto pour flûte et orchestre (1932-1933) {fl, orch}
・アルトサックスと11の器楽による室内小協奏曲 concertino da camera (1935) {as, fl, ob, cl, bssn, hrn, tp, 2vln, vla, vc, b}
・10人の楽器のためのカプリッチョ capriccio pour dix instruments (1938) {fl, ob, cl, bssn, tp, hrn, 2vln, vla, vc}
・オーボエと弦楽合奏のための協奏的交響曲 symphonie concertante (1948-1949) {ob, strings}
・ルイヴィル協奏曲 Louisville concerto (1953)
室内楽曲 ・6つの小品 six pièces (1916-1917) {hrp}
・2つの断章 deux mouvements (1921) {2fl, cl, bssn}
・遊戯 jeux, sonatine (1923) {fl, p}
・サモス島の庭師 le jardinier de Samos (1924) {fl, cl, tp, vln, vc, perc}
・フランス風に française (1926) {g}
・アリア aria (1927) {fl, vln, p}
・3つの短い小品 trois pièces brèves (1930) {fl, ob, cl, bssn, hrn}
・鳥笛のためのパストラール pastoral (1934) {4pipe}
・喩え話 paraboles (1935) {2g}
・木管五重奏のための3つの小品 trois pièces breves (1930) {fl, ob, cl, bssn, hrn}
・間奏曲 entr'acte (1935) {fl, g}
・アリエット ariette (1935) {g}
・黄金時代 l'age d'or extrait du 'chevalier errant'(1935-1936) {as, p}
・フルート独奏のための小品 pièce pour flûte seul (1936) {fl}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes (1937-1942) {2vln, vla, vc}
・ハープ三重奏曲 trio (1944) {vln, vc, hrp}
・2つの間奏曲 deux interludes (1946) {fl, p(vln, hpcd, hrp)}
・ショパンの墓碑への練習曲−カプリース étude-caprice pour un tombeau de Chopin (1949) {vc}
・ギルラツァーナ ghirlarzana (1950) {vc}
・カプリレーナ caprilena (1950) {vln}
・即興曲 impromptu (1950) {tp, p}
・カリニャーヌ carignane (1953) {bssn, p}
歌曲 ・シャルル・ヴィドラックの3つの歌 trois chansons de Charles Vidrac (1921)
・東洋風に stèles orientées (1925)
・ヴォーカリーズ=エチュード vocalise-étude (1927)
・憂鬱 mélancolie (1927)
・ドン・キホーテーの歌 chansons de Don Quichotte (1933)
・小さなこぶ牛の歌 la berceuse du petit zébu (1936) {3choir}
・我が恋人の笛は高らかに mon bien aimé siffle si bien (1943)
・確かな婚姻 je pensais épouser un fier à bras (1943)
ピアノ曲 ・廃墟を渡る風 le vent sur les ruines (1915)
・スケルツォ scherzo (1917)
・物語 histoires (1922)
・邂逅 les rencontres, petite suite en forme de ballet (1924)
・フランス風に Française (1926)
・アルベール・ルーセルの名によるトッカータ toccata sur le nom d'Albert Roussel (1929)
・リリプー村の悪戯っ子 l'espiègle au village de Lilliput (1937)
・15の心象による小組曲 petite suite en quinze images (1943)
・ロマンティックな小品 pièce romantique (-)


イベールを聴く


★★★★☆
"Escales / Flute Concerto / Hommage à Mozart / Suite Symphonique 'Paris' / Bacchanale / Bostoniana / Louisville Concerto" (London - Polydor : POCL-1434)
Charles Dutoit (org) Timothy Hutchins (fl) Orchetre Symphonique de Montréal
彼の代表作を収めた,イベールを知るのにまたとない一枚。この手の近代作曲家はなかなか陽の光が当たらないものですが,イベールは例外。代表作『寄港地』に限ってはこのデュトワ盤の他にも,マルティノン盤を始め幾つもメジャー・オケ盤があります。イベールは生粋のパリジャンだったせいか,どこかシニカルで軽く,ムラッ気の強いところがあり,作品は玉石混淆。いい時は本盤にも収められた『寄港地』や『フルート協奏曲』のような,瀟洒な名品を書きますが,一方ではフランセもどきのチンケな堕曲も量産。そのため小生はあまり積極的に彼の作品を集めたことがありません。そうした側面も含めて,彼の作風の縮図を定評あるデュトワ/モントリオール響の演奏で聴けるこの盤は,イベールの作品を一枚となれば,まずお薦めしたい一枚です。ラヴェルの影響顕著な『寄港地』,二楽章の典雅な風情の中に,彼が印象主義かぶれを離れ,ロマン派に立脚したモダニズムを志向していったことを伺わせる『フルート協奏曲』。この二作品を聴くだけでも,充分もとはとれることでしょう。

★★★★★
"Persée et Andromède / La Ballade de la Geôle de Reading / Sarabande pour Dulcinée" (Avie : AV 0008)
Jan Latham Koenig (cond) Annick Massis, Philippe Rouillon, Yann Beuron, Mélanie Moussay (vo) Orchestre Philharmonique de Strasbourg
『ペルセウスとアンドロメダ』は,ローマ留学第2作にあたる初期作品。ご承知の通りイベールは初期のものほど印象主義の影響が濃い作家です。果たして本オペラは,『ペレアス・・』趣味満載の秀作。ワグナー的な壮大さを含みつつも,十全に用いられる平行和音,自由な転調,エキゾチックな旋法性を含ませる歌唱,フルートなどでさりげなく挿入される全音階的な装飾音,精気に富んだリズムなど,どれを取っても先輩ドビュッシーが手がけた革新的な舞台作品への憧憬は明らか。ドビュッシー好きな方には大いに溜飲を下げて聴けるのではないでしょうか。演奏するケーニヒはシャンドスから出ているウォルトンのヴァイオリン協奏曲でもタクトを振っていた英人指揮者。しかし血筋はフランス系なためか,仏ものも巧い。1998年からはその才を買われてストラスブール管とライン歌劇場の音楽監督をやり,結構評判を得ているようです。女声ソロの片割れ(アンドロさんじゃないほう),および合唱団がごく僅か弱いのはちょっと気になりますが,確かにストラスブール管の弦は優美な響きで,演奏は高水準。有名どころ以外になると極端にまともな演奏が減少するイベールの管弦楽作品に,貴重な選択肢を提供した,得難い録音と言えようと思います。個人的にはソロ陣が引っ込み,オケのみで聴ける『レディング監獄のバラード』が白眉。デュカスの傑作『ラ・ペリ』を思わせる導入部が印象的なこの作品,マルコ盤のみでしか聴いていませんでしたので,今回ちゃんとしたオケで聴いて初めて真価を知った次第です。天才的なオーケストレーションはある意味ラヴェルに匹敵するかも知れないですねえ。舞台ものがお嫌でなければ是非。(本CDの入手に際してはmyaさんからご配慮を頂きました。記して感謝申し上げます。

★★★★☆
"Ouverture de Fête / Escales / Tropismes pour des Amours Imaginaires" (EMI : CDM 7 64276 2)
Jean Martinon (cond) Orchestre National de l'O.R.T.F.
最近アコールから出た再発盤にも『寄港地』が収まっていたと記憶するマルティノン指揮のイベールは,デュトワとモントリオールの新録が出るまではイベールの管弦楽作品集の定番となっていたもの。特に,他ではなかなかお目にかかれない『架空の愛のトロピズム』が聴けるのは,この盤の強みでしょう。『祝典序曲』は1940年,日本の皇紀2600年を記念して委託された作品。同じ時に委託を受けたブリテンが『戦争レクイエム』を書いて「祝典に鎮魂歌(レクイエム)とは何事か」と激怒されたのは有名な話です。制作契機も頷ける重厚な新古典派の作風は,ややパリ風味がすることを除けば,ジョンゲンばりに煌びやか。天下のマルティノン〜仏国営放送管の演奏で聴けるのは有り難い限りです。さすがに半世紀近く前の録音でもあり,デュトワの優美な演奏を聴いた耳には,弦部の艶や肌理など若干見劣りこそしますけれど,石橋を叩いて渡るマルティノンらしく,細部まで大変見通しよく整理整頓されているのが印象的。一音一音確かめるように音符を置いていく指揮で,この当時の指揮者では抜群の安定感ではないでしょうか。多分有名盤ではこの演奏くらいしかないと思われる掉尾の『トロピズム』は,イベール最晩年の作品。印象主義被れに始まり,六人組や野蛮主義をちょこちょこッとつまみ食いして歩いた彼の集大成らしく,雑多な書法が奇妙に混在した大曲。大枠は国民楽派っぽい感じにも拘わらず,移調感覚はヘンテコで今ひとつ掴み所がないせいでしょう。結局,作者が亡くなる1962年まで演奏されることはなく,このCDでマルティノンが採り上げたのが世界初録音。初演もマルティノンさんがやったんだそうです。

★★★★
"Complete Chamber Works : Six Pièces pour Harpe / Deux Mouvements / Jeux / Le Jardinier de Samos / Française / Aria / Trois Pièces Brèves Pastoral / Paraboles / Cinq Pièces en Trio / Entr'acte / Ariette L'Age d'or / Pièce pour Flûte / Quatuor à Cordes / Trio / Deux Interludes / Étude-Caprice / Ghirlarzana / Caprilena / Impromptu / Carignane" (Olympia : OCD 707 A+B)
Elenore Pameijer (fl) Pauline Oostenrijk (ob) Hans Colbers (cl) Peter Gaasterland (bsn) Arno Bornkamp (as) Herman Jeurissen (hrn) Peter Masseurs (tp) Ernestine Stoop (hrp) Olga Franssen (g) Helenus de Rijke (g) Sepp Grotenhuis (p) Menno van Delft (hpcd) Arnold Marinissen (perc/pipe) Nieuw Nederlands Strijkkwartet

東欧系の作品に強いレーベル,オリンピアが出したこの全集は,まさに印象主義音楽ファンの全てが待ち望んだ全集と言うべきものです。もともとは2枚に分かれた形で発売されましたが,2000年にそれを2枚組にして再発。価格は従来の半分の2000円になりまさにお買い得。イベールの器楽作品,わけてもフルートやハープの入った作品は独壇場的魅力があり,録音も多くあります。その一方,このような形でまとまって発売されるのは初めてでは?これだけ演奏家を集めて録音するのはさぞ,資金も要したでしょう。ファンの熱意に応えるその企業姿勢に,ただただ頭が下がります。作品は年代順にまとめられ,印象主義から6人組へと向かうその作風の変遷が,クロノロジカルに愉しめるようになっております。ちなみに本盤,その後ブリリアント・クラシックスが廉価盤化しました。さらに安く買えますので,ぜひどうぞ。

★★★★
"Mélodies : Trois chansons de Charles Vidrac / Stèles orientées / Vocalise-étude / Mélancolie / Chansons de Don Quichotte / Mon bien aimé siffle si bien / Je pensais épouser un fier à bras" (Maguelone : MAG 111.120)
Franck Ferrari (btn) Catherine Dune (sop) Dalton Baldwin, Sylvie Lechevalier (p)
六人組ではなかったにも関わらず,六人組の一人オネゲルからは,「彼が最後のひとりでもおかしくなかったがね」(意味深だ・・)とさえ言われていたほど,イベールの音楽性には時として軽妙洒脱で,六人組的な感覚が満ちています。しかし,一面イベールには,時にエキゾチズムの面でラヴェルの影が深く差し込んでいて,これが他の六人組とはひと味違った彼の持ち味を醸しだす役割を果たしています。珍しい彼の歌曲集であるこのCDは,まさにそうしたイベールの持ち味が良く出た作品集。六人組ほど大衆歌曲じみてはいず,どこかカンツォーネを思わせる軽めの曲想で,書法の上ではラヴェルの影響を顕著に感じさせます。『マダガスカル島民の歌』や『ドゥルシネア姫に想いを寄せるドン・キホーテー』あたりがお好きな方は,あれをもう少し薄味にしたような作品として,かなり抵抗なく聴けると思います。ソプラノとバリトンが交替でソロをとりますが,上手いのは俄然バリトンのフランク・フェラーリ。ナポリ民謡歌手さながらに朗々と張りがあり,艶っぽい歌い回しの心憎さに吃驚しました。彼の歌った分に関しては,数少ないイベールの歌曲集中では最上の出来と言えるのではないでしょうか。

★★★★
"Scherzetto / Pièce Romantique / Toccata sur le Nom d'Albert Roussel / L'espiègle au Village de Lilliput / Française / Le vent dans les Ruines / Petite Suite / Histoires / Les Rencontres" (Naxos : 8.554720)
Hae-Won Chang (piano)
韓国のピアノ奏者ハエ=ウォン・チャン女史は,マルコ・ポーロやナクソスから精力的にマイナーな仏近代ものをリリースしてくださると〜っても素敵なピアニストです。特にサロンものがお好きなようで,他にめぼしいところを見てみますと,ピエルネにゴダールといった,軽めの作家のピアノ作品集が多い。そんな彼女の好みに適うだけに,このイベール作品集も,印象主義者としてのイベールを期待するのは殆ど不可能。シューマンを六人組風にした悪趣味な擬古典音楽,あるいはオドロオドロしくないオーリック,馬鹿馬鹿しくないフランセとでも言えば良いでしょうか。オネゲルが「オレよりイベールのほうが六人組らしいよ」と宣ったのも道理と首肯せずにはいられない,通俗的な作品群です。チャン女史の演奏は韓国人らしくアルゲリチ的な情熱を秘めたもので好演奏ですし,一般的なイメージとしての「オシャレなフレンチ」を好む方にはお薦めしますが,それ以外の方にはちょっと・・。

★★★☆
"Orchestral Works :
La Ballade de la Geôle de Reading / Trois Pièces de Ballet les Rencontres / Chant de Folie / Suite Elisabéthaine" (Marco Polo : 8.223508)

Adriano (cond) Slovak Radio Symphony Orchestra
B級オケの楽園マルコ・ポーロからはイベールの管弦楽作品が2つ出ております。(日本で・・?)有名なのは,某日本人指揮者とラムルー管弦楽団の演奏盤ですが,こちらはマルコ御用達の指揮者アドリアーノによる,あまり日の当たらない選集。演奏陣がそういう方ばかりだからでしょうか。この盤の魅力は何といっても,採りあげられた作品があまり日の当たらない作品であるということ。その点でも,堂々『寄港地』でデュトワに真っ向勝負を挑むラムルー盤より,慎み深くて得難い録音であると思います。演奏するスロヴァク放送管弦楽団と良く似た名前のオケに『スロヴァク管弦楽団』がありますが(同じオケの改称?),不思議なことに演奏は俄然こちらがまし。この盤をお買いになる前にもしスロヴァク管の演奏するシュレーカーあたりをお聴きになって「2度と聴きたくない」とお思いなら,ご安心を。演奏は随分ましです。

★★★
"Oeuvres Variées :
Concertino da Camera / Concerto for Violincello and Wind Instruments / Divertissement / Symphonie Concertante for Oboe and String Orchestra" (Newport Classic : NPD 85598)

Gary Louie (sax) Humbert Lucarelli (ob) Nathaniel Rosen (vc) Richard Auldon Clark (dir) Manhattan Chamber Orchestra
彼は6人組のミヨーやオネゲルらからかなり評価されていたようで,実際彼の残した舞台作品のうち,最後に書かれた二作品はオネゲルとの共作です。だからと言うわけでもないのでしょうが,初期にはドビュッシーやラヴェルさながらの作風を展開していたイベールは,その後徐々に六人組的な作風を採り入れるようになり,初期ミヨー顔負けの「おどろおどろしい軽やかさ」に満ちたアヤシイ作品も数多く書いています。『喜遊曲』はまさに好個の例でしょう。代表作が『寄港地』であるイベールはなかなか他の作品に日が当たらない。そんな事情を考えれば,あまり演奏されない作品にスポットライトを当てた本録音は,有り難いCDなのかも。しかし,今時モノラル録音なのは一体どういう了見なんでしょう?困ったものですねえ。

★★★★☆
"Concertino da Camera (Ibert) Rapsodie (Debussy) Poème Païen d'après Virgile (Loeffler) Raymonda (Glazounov) Poème de l'Extase (Scriabine)" (EMI : 7243 5 85240 2 4)
Manuel Rosenthal (cond) Marcel Mule (sax) Orchestre Philharmonique de Paris
先頃,惜しくも亡くなったロザンタール氏は,20世紀前半の仏楽壇を代表する名指揮者。1918年にパリ音楽院へ進み,ジュール・ブシェリ,ジャン・ユレに師事したのち,指揮者の道へ。1934年に仏国営放送管でアンゲルブレシュトの助演指揮者となって名を上げ,20世紀半ばには中心的な存在として君臨。後年はシアトル響でも指揮棒を執るなど,国際的に活躍しました。自身,六人組臭たっぷりの楽曲を遺した作曲家でもあり,アンゲルブレシュト同様,同時代人への理解が深かった人物。本盤は彼が1952年に,パリ管弦楽団と組んで録音した2枚組で,一枚目がマルセル・ミュールをフィーチャーした仏近代サックス協奏曲選,二枚目がロシア近代選です。何しろ半世紀以上前のモノラル録音。音質は決して良くはなく,オケも現代のそれほど肌理が揃っているわけではありませんけれど,同時代を呼吸していた演奏ならではの,夢現の華やかさに溢れた演奏。ロザンタールもさることながら,巨人マルセル・ミュールのサックスは凄い。確かにテンポの遅いドビュッシーなどで目立つ等速ビブラートは少し古臭い気がしますけど,速いパッセージにおいて,余裕たっぷりに軽やかなステップを刻む技量の見事さはさすが巨匠。張りと光沢があり,弾むような抑揚と滑らかなリップ・コントロールが利いた音色も素晴らしい。緊密な新古典様式と多彩な転調技法,新大陸の煌びやかな摩天楼を思わせる陽気な曲想が相俟ったイベールの協奏曲は,ほとんど独壇場。パーカーが彼の公演を聴いてショックを受け,『ウィズ・ストリングス』を吹き込んだのは,ちょうどこの頃に当たります。そりゃショックも受けたでしょう。上手すぎる。

★★★★☆
"Album pour Mes Petits Amis (Pierné) L'Almanach aux Images (Grovlez) Histoires (Ibert) Six Sonatas for Young Pianists (Stravinsky) Music for Children (Prokofiev) Children's Corner (Debussy)" (Discover : DICD 920169-70)
Jean-Paul Sévilla (piano)
ディスカバー・インターナショナルは,向こうで買えば5ドルもしない廉価レーベルなんですが,最近シャンドスから再発され堂々とレギュラー・プライスで売られているフランソワ・ショボーのミヨーや,セブラックのピアノ曲集でディアパゾン金賞を貰っていたビリー・エイディの弾くソーゲのピアノ曲集などを発表。余りに値段と不釣り合いな審美眼を展開しては,欧米諸国の文化的な懐の豊かさを感じさせてくれる会社です。この2枚組はその最たるもののひとつかも知れません。ストラヴィンスキーの息子にイベール,ピエルネ,プロコと来て,とどめはグロブレス。こんな人初めて聞きました。収録曲が「子供向け」を謳っているからでしょうか。どれも大なり小なり,形式感明瞭な新古典派風の小品集。ストラヴィンスキーは戯けたバロック様式で明瞭にアメリカ被れを主張しますし,プロコはまさに子どものためのバロック入門。一枚目はオール仏人だけに,どれもフォレの『ドリー』風。いずれも明瞭簡素な形式感が基調にあり,婦女子運指練習用サロン音楽の体で,あまり構えて聴くよりも,5分通りにBGMとして聞き流す方が愉しめるような気がします。簡素なものほど演奏は難しい,と私は時々思うのですが,この選曲でジャン=ポール・セヴィラを独奏者に指名するなんて,恐ろしいレーベルだと思いませんか。彼は,すっかり有名になったアンジェラ・ヒューイットの師匠。もとはパリ音楽院ピアノ科を一等で出たのち,1959年のジェネバ国際で優勝した実績のある凄腕。確かな技巧に加え,教育畑も頷ける端正な曲解釈と美麗なタッチの職人気質。遊び心のある演奏をする人ではなく,ジャズやスペイン民謡などのリズムが入る曲では硬さが出るものの,イベールの『物語』緩章での弱音の透明感なんかもう,ナクソスを鼻糞化するほど素晴らしい。こんなアリガターイお方が廉価盤なんてああっ!何て罪作りなんでしょう。大した腕もないのにCCCDで3千円取る国内ピアノ弾きどもは反省してください。

★★★★
"Le Saxophone Français" (EMI : 7243 5 72360 2 7)
Sonate bucolique (Sauget) / Sonate (Absil) / Sonate (Creston) / Fantaisie-impromptu (Jolivet) / Gavambodi 2 (Charpentier) / Epitaphe de Jean Harlow (Koechlin) / Printemps (Tomasi) / Le Chant du Veilleur (Nin) / Sextuor (Villa-Lobos) Introduction et Variations sur une Ronde (Pierné) / Quatuor (Désenclos) / Grave et Presto (Rivier) / Quatuor (Schmitt) / Quatuor (Dubois) / Petit Quatuor (Françaix) / Valse Chromatique (Vellones) / Sonate (Hindemith) / Nocturne (Beck) / Sonate (Denisov) / Improvisation I (Noda) / Rhapsodie (Debussy) / Concertino da Camera (Ibert) / Canzonetta (Pierné) / Pâtres (Forêt) / La Précieuse (Kreisler) / La Cinquantaine (Gabriel-Marie) / Chanson Hindoue (Rimsky-Korsakov) / Humoreske (Dvorák) / Variations sur Malborough (Combelle)
Quatuor de Saxophones Deffayet : Henriette Puig-Roget, Pierre Pontier, Marcel Gaveau (p) Daniel Millet (msp) Lily Laskine (hrp) Ramon de Herrera (g) Membres du Quintette à Vent de Paris : Jean Martinon, Philippe Gaubert (cond) Orchestre National de l'O.R.T.F.
クラシック界の大御所的レーベルEMIが,持ち前の豊富な音源を駆使した3枚組のサックス作品集。イベールの作品は1曲だけですが,吹奏楽ファンにはなじみが深く,演奏機会の多い作品。ここに収められたデサンクロやデュボワ,クレストンやアブジル,ヴェローヌらは,いずれも一般ファンには殆ど馴染みがなく,それでいて吹奏楽ファンにはお馴染みの作曲家ばかりです。楽器が現在と同じような形になったのは実のところ案外と最近のことなので,吹奏楽の分野では,古い古典ものより,近代の作曲家の作品の方が演奏機会が多いというわけです。精妙な和声,複雑な旋法性など,器楽の世界は,フランス近代の音楽家によって格段に豊かなものになったことを改めて教えてくれます。