Kの作曲家


ニコライ・カプースチン Nikolai Kapustin (1937 - )

旧ソ連(現ウクライナ)の作曲家,ピアニスト。1937年,ゴルロフカ(Gorlovka)生まれ。7歳でピアノを始め,モスクワ音楽院へ進んで,ピアノをアレクサンダー・ ゴリデンヴェイゼルに師事。在学中からジャズに興味を持ち,自己の五重奏団で演奏活動を始める。1961年に同音楽院を卒業。ユーリ・サウルスキーのセントラル・アーティスツ・クラブ・ビッグ・バンドに加入して演奏活動に入る。次いで1961年から1972年まで,オレグ・ルンドストレムのジャズ・オーケストラに参加し,ピアニスト兼作編曲家として活動した。1980年半ばごろにピアニストとしての演奏活動からは退き,以降は作曲活動に専心。ピアノ作品にとどまらず,様々な楽器に渡って作曲の手を広げた。作品の大半はピアノ独奏または協奏のためのもので,クラシックにジャズの書法を採り入れた,極めて技巧的な躍動感溢れる作風で知られる。同趣の作曲家にはロマン派的な作風のガーシュウィンがいるが,カプースチンの場合は,擬古典的な強いリフとリズムに立脚しつつ,よりポスト・バップ色の強い作風を展開したところに新しさを求めることができる。旧ソ連の崩壊によって徐々に知られるようになった。(関連ページ: Kapustin Onno van Rijen氏運営。英語)


主要作品

管弦楽 ・コラールとフーガ Chorale and fugue, op.4 (1962)
・ローズマリー幻想曲 Rose-Marie fantasia, op.6 (1963)
・子どものための3つの小品の幻想曲 Fantasia on three children's songs, op.7 (1963)
・審判 Piece for orchestra 'The trial', op.9 (1966)
・森の物語 The forest story, op.14 (1972)
・3つの小品 Three pieces, op.17 (1972)
・行進曲 March, op24 (1975)
・管弦楽のための2楽章の協奏曲 Two movement concerto for orchestra, op.30 (1980)
・エレジー Elegy, op.31 (1980)
・風は北から 'The wind from the north', piece for orchestra, op.32 (1981)
・正午 'Meridian', piece for orchestra, op.34 (1982)
・閉じた曲線 'Closed curve' for orchestra, op.35 (1982)
・心躍る邂逅 'The Pleasant Meeting', op.37 (1983)
・虫の知らせ 'Presentiment', op.38 (1983)
・小交響曲 Sinfonietta, op.49 (1987)
・室内交響曲 Chamber symphony, op.57 (1990)
協奏曲 ・ピアノと管弦楽のための小協奏曲 Concertino for piano and orchestra, op.1 (1957) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第1番 Concerto for piano and orchestra No.1, op.2 (1961) {p, orch}
・トランペットと管弦楽のための小品 Piece for trumpet and orchestra, op.5 (1962) {tp, orch}
・トッカータ Toccata, op.8 (1964) {p, orch}
・間奏曲 Intermezzo, op.13 (1968) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第2番 Concerto for piano and orchestra No.2, op.14 (1974) {p, orch}
・夜想曲 ト長調 Nocturne in G major, op.16 (1972) {p, orch}
・練習曲 etude, op.19 (1972) {p, orch}
・夜想曲 Nocturne, op.20 (1974) {p, orch}
・5本のサクソフォーンと管弦楽のための小品 Piece, op.22 (1975) {5sax, orch}
・コンセール狂詩曲 A concert rhapsody, op.25 (1976) {p, orch}
・スケルツォ Scherzo, op.29 (1978) {p, orch}
・二台ピアノと管弦楽のための小品 Piece, op.33 (1982) {2p, orch}
・ピアノ協奏曲第3番 Concerto for piano and orchestra No.3, op.48 (1985) {p, orch}
・アルト・サクソフォーン協奏曲 Concerto for alto saxophone and orchestra, op.50 (1987) {as, orch}
・ピアノ協奏曲第4番 Concerto for piano and orchestra No.4, op.56 (1989) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第5番 Concerto for piano and orchestra No.5, op.72 (1993) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第6番 Concerto for piano and orchestra No.6, op.74 (1993) {p, orch}
・コントラバス協奏曲 Concerto for doublebass and orchestra, op.76 (1994) {b, orch}
・チェロ協奏曲 Concerto for cello and orchestra, op.85 (1997) {vc, orch}
・11の器楽のための協奏曲 Concerto for eleven instruments, op.90 (1998)
・チェロと弦楽のための協奏曲第2番 Concerto No.2 for cello and string orchestra, op.103 (2002) {vc, strings}
・ヴァイオリン,ピアノと弦楽のためのコンセール Concert for violin, piano and strings, op.105 (2002) {vln, p, strings}
バンド ・変奏曲 Variation, op.3 (1962) {p, big band}
・エスタカード 'Estacade' for big band, op.11 (1966)
・アクアリウム=ブルース Aquarium-blues, op.12 (1967)
・メヌエット Minuet, op.21 (1974)
・謎 Enigma, op.23 (1975)
・序曲 Overture for big-band, op.51 (1987)
・イントラーダ 'Intrada', piece for big-band, op.52 (1988)
室内楽曲 ・4つの小品 Four pieces for instrumental ensemble, op.18 (1973)
・ジャズ四重奏のためのファンタジア Fantasia for jazz quartet, op.27 (1976)
・ラッシュアワー 'A rush hour' for ensemble, op.42 (1985)
・ある四月の日に 'An April day' for ensemble, op.43 (1985)
・朝 'The morning' for ensemble, op.44 (1985)
・チェロ・ソナタ第1番 Sonata for cello No.1, op.63 (1991) {vc, p}
・ヴィオラ・ソナタ Sonata for viola, op.69 (1992) {vla, p}
・ヴァイオリン・ソナタ Sonata for violin, op.70 (1992) {vln, p}
・六重奏のための小品 Piece for sextet, op.79 (1995)
・チェロ・ソナタ第2番 Sonata for cello No.2, op.84 (1997) {vc, p}
・ピアノ三重奏曲 Trio, op.86 (1998) {fl, vc, p}
・弦楽四重奏曲 String quartet, op.88 (1998) {2vln, vla, vc}
・ピアノ五重奏曲 Piano quintet, op.89 (1998) {p, 2vln, vla, vc}
・ディヴェルティスメント Divertissement, op.91 (1999) {2fl, vc, p}
・序奏とスケルツィーノ Introduction and scherzino, op.93 (1999) {vc}
・哀歌 Elegy, op.96 (1999) {vc, p}
・ブルレスク Burlesque, op.97 (1999) {vc, p}
・二台ピアノと打楽器のためのコンセール Concert for two pianos and percussion, op.104 (2002) {2p, perc}
・組曲 Suite for viola, alto-saxophone, piano and bass, op.106 (2002) {as, vla, b, p}
・スウィート・ジョージア・ブラウン変奏曲 Variations on 'Sweet Georgia Brown', op.107 (2002) {as, vla, b, p}
・チェロ独奏のための組曲 Suite for cello solo, op.124 (2004) {vc}
・フルート・ソナタ Sonata for flute and piano, op.125 (2004) {fl, p}
・四楽章の喜遊曲 Divertissement in four movements, op.126 (2005) {vln, vc, p}
ピアノ曲 ・ジーグ Gigue, op.10 (1966)
・日の出 Daybreak (sunrise), op.26a (1976)
・古風な形式の組曲 Suite in old style, op.28 (1977)
・トッカーティナ Toccatina, op.36 (1983)
・幻想ソナタ(ピアノ・ソナタ第1番) Sonata-fantasy, op.39 (1984)
・8つの演奏会用練習曲 Eight concert etude, op.40 (1984)
・変奏曲 Variations, op.41 (1984)
・モーティヴ・フォース Motive force, op.45 (1985)
・ビッグ・バンドの響き The sound of big band, op.46 (1986)
・瞑想 Contemplation, op.47 (1987)
・前奏曲集 24 preludes, op.53 (1988)
・ピアノ・ソナタ第2番 Piano sonata No.2, op.54 (1989)
・ピアノ・ソナタ第3番 Piano sonata No.3, op.55 (1990)
・アンダンテ Andante, op.58 (1990)
・10のバガテル 10 bagatelles, op.59 (1991)
・ピアノ・ソナタ第4番 Piano sonata No.4, op.60 (1991)
・ピアノ・ソナタ第5番 Piano sonata No.5, op.61 (1991)
・ピアノ・ソナタ第6番 Piano sonata No.6, op.62 (1991)
・ピアノ・ソナタ第7番 Piano sonata No.7, op.64 (1991)
・子守歌 Berceuse, op.65 (1991)
・3つの即興曲 3 impromtus, op. 66 (1991)
・3つの練習曲 3 etudes, op.67 (1992)
・異なる間を持つ5つの練習曲 5 etudes in different intervals, op.68 (1992)
・カプリッチョ Capriccio, op.71 (1992)
・10のインヴェンション 10 inventions, op.73 (1993)
・ユーモレスク Humoresque, op.75 (1994)
・ピアノ・ソナタ第8番 Piano sonata No.8, op.77 (1995)
・ピアノ・ソナタ第9番 Piano sonata No.9, op.78 (1995)
・主題と変奏 Theme and variations, op.80 (1996)
・ピアノ・ソナタ第10番 piano sonata No.10, op.81 (1996)
・24の前奏曲とフーガ 24 preludes and fugues, op.82 (1997)
・即興曲 Impromptu, op.83 (1997)
・左手のためのポリフォニックな小品 7 polyphonic pieces for left hand, op.87 (1998)
・組曲 Suite, op.92 (1999)
・バラッド Ballad, op.94 (1999)
・スケルツォ Scherzo, op.95 (1999)
・ニアリー・ワルツ 'Nearly waltz', op.98 (1999)
・二重奏曲 Duet for alto-saxophone and cello, op.99 (1999)
・ピアノのための小ソナタ Sonatina for piano, op.100 (2000)
・ピアノ・ソナタ第11番 Piano sonata No.11 'Twickenham', op.101 (2000)
・ピアノ・ソナタ第12番 Piano sonata No.12, op.102 (2001)
・パラフレーズ Paraphrase on the theme of Paul Dvoirin, op.108 (2003)
・何かが後ろに There is something behind that, op.109 (2003)
・ピアノ・ソナタ第13番 Piano sonata No.13, op.110 (2003)
・ジンジャーブレッド・マン Gingerbread Man, op.111 (2003)
・消えゆく虹 End of the rainbow,op.112 (2003)
・ホイール・オブ・フォーチュン Wheel of fortune, op.113 (2003)
・停車禁止標識 No stop signs, op.114 (2003)
・ピアノのためのファンタジア Fantasia for piano, op.115 (2003)
・ロンドレット Rondolett, op.116 (2003)
・スパイス・アイランド Spice Island, op.117 (2003)
・ブラジルの水彩のパラフレーズ Paraphrase on 'Aquarela do Brasil' by Ary Barroso, op.118 (2003)
・緩むものなど何もない Nothing to Loose, op.119 (2004)
・ピアノ・ソナタ第14番 Piano sonata No.14, op.120 (2004)
・ヴァニティ・オブ・ヴァニティーズ Vanity of vanities, 121 (2004)
・2つの練習曲風の装身具 Two etude-like trinkets, op.122 (2004)
・ブルー・ボッサのパラフレーズ Paraphrase on Blue Bossa by Kenny Dorham, op.123 (2004)
・ソナタ第15番: ファンタジア風のソナタ Sonata No.15: Fantasia quasi sonata, op.127 (-)
・標題未定 (as yet untitled), op.128 (-)
・マンテカのパラフレーズ Paraphrase on Dizzy Gillespie's 'Manteca', op.129 (-) {2p}
・対置された運動 Countermove, op.130 (-)


カプースチンを聴く


★★★★☆
"Kapustin Plays Kapustin Vol.1"(Triton : DICC-24058)
Nikolai Kapustin (piano)
自作自演。収録作品中では,1970年代チック・コリアのソロ演奏を思わせる,異様に闊達で熱の籠もった技巧に支えられた冒頭『エチュード』が強力。この曲に関しては,モダン・ジャズの(特に,モード手法への理解が斬新)イディオムをふんだんに盛り込み,甘ったるい曲想にテンポ・ルバートかけまくりという,一般的なクラシック作家の皮相的なジャズ導入作とは一線を画したレベルにまで到達しています。ジャズは,本質的に即興という錦の御旗によって,少々の散漫さを聴き手に許容させる欺瞞を抱えた音楽。でありながら,その場にいない聴き手は,その演奏が十全な即興なのか究極的には分からないわけです。譜面の再現前により緊密さを獲得しながら,奏者の熱を帯びた演奏によって即興と見まがうほど「生き生きとした」彼のエチュードは,そうしたジャズの持つ欺瞞に鋭く切り込んだものとして傾聴に値するでしょう。ただし,一方でこの盤の越境音楽としての魅力の大半が,既に書いたとおり作者の優れた技巧と,ジャズを嗜んだところからくる熱を帯びた演奏自体にある点にも注目していただきたい。ホロヴィッツの超絶技巧により,モシュコフスキの『火花』が生まれ変わったように,これらの作品を単なる折衷作以上に魅力的なもの にしているのが,むしろ作者の演奏であるという避けがたい限界も,ここには含まれている。これは,様々な演奏家に演奏されることで一般化されなくては普遍性を獲得できないクラシックとはかなり遠いところにこの作品のベクトルがあることの証左とも言える。演奏と作品との二律背反的な相克関係。ここに彼の音楽の持つある種皮肉なもどかしさも見て取れるように思われる次第です。

★★★★
"24 Preludes and Fugues / Elegie / Burlesque / Nearly Waltz" (Triton : DICC-40001-2)
Nikolai Kapustin (p) Alexander Zagorinsky (vc) Alexander Chernov (vln)
旧ソ連崩壊でグラスノスチとともに溢れ出してきた音源・才能は枚挙に暇がありませんが,ジャズとクラシックの境界領域でオリジナリティの発揮を目論むカプースチンもその中の1人でしょう。冷戦の終結で自作自演を西側で売ることもできるようになり,年齢が信じられないほど闊達な技巧で,彼の作品を楽しめるようになりました。このCDは『8つの練習曲』に続く彼の2枚組自作自演集。フーガとあるだけに曲によってはいくぶんかっちりとした対位法様式が採られてはいるものの,チック・コリアがかつてゲイリー・バートンと組んで出した一連のレコーディングを思い出さずには聴けないモーダルで爽やかな曲想に溜飲が下がります。このアルバムで興味を引くのはしかし,以前も書いたように彼の独奏以外の器楽を加えた『哀歌』以降の数曲。自作自演のように自分の技量を当てにしてテクをてんこ盛りにできない他者との共演ではどうするのかと興味を持って聴きましたが,やはりチェロやヴァイオリンは主旋律の提示と展開に抑えられ,ピアノ伴奏の書き込みが技巧的に処方されていました。そしてまた,やはり独奏曲に比べて明らかに凝った変拍子が多投されており,上述の弱点を変拍子によって補おうと目論んだのは明らかです。しかし,やはり独奏ものに比べるとジャズ臭は大きく後退。ジャズ的な和声進行ではあるものの,コンスタント・ランバート辺りがとうの昔にやっていたジャズ化の亜流として,さほど意外性もなく聴けてしまいます。畢竟クラシックにしては通俗的で,ジャズにしてはスポンティニアスさを欠いているうえすっきり行儀が良すぎ,いわゆるCM用疑似クラシックに近いものになっている感は否めない。やはりカプースチンの音楽はカプースチンのための音楽,録音芸術に止まり,音楽としては普遍性を欠く気がします。


(2002. 2. 1 upload)