Kの作曲家


ギデオン・クライン Gidéon Klein (1919-1945)

チェコの作曲家,ピアニスト。ユダヤ系。1919 年12 月6 日モラヴィア地方のプシェロフ(Prerov)に生まれる。10 才で最初の曲を書き,11 才でR.クルゾワ(Ruzena Kurzová)にピアノを学んで才能を発揮。1938年にプラハへ出てヴィレム・クルツ(Vilém Kurz)のピアノ専科へ進み,翌年には演奏家デビューを果たす。1939 年に楽典の修士号を獲り,さらに作曲法科でアロイス・ハーバ(Alois Hába)に師事。しかし,当時ナチス・ドイツの保護下にあったチェコでユダヤ人は厳しい制約下に置かれることになり,彼も自作の上演機会を奪われ,王立音楽大学(英国)の入学許可を得ながら断念を余儀なくされた。1941年12月,テレジン強制収容所(=プロパガンダ目的で設置された芸術家向けの中継収容所。のちチェコ管の指揮者となるカレル・アンチェルや,作曲家のパヴェル・ハース,ヴィクトル・ウルマンらが収監されていた)へ送致された彼は,残された僅かな日々を作曲と演奏に捧げたが,間もなくアウシュヴィッツへの移送が決まり,1944 年10月16日,シレジア地方のフュルステングルーベ(Fürstengrube)へ移された。1945 年1 月27 日,敗走するナチは囚人もろとも同地を殲滅。連合軍が同地を解放する僅か数時間前の出来事だった。(関連ページ:クライン財団


主要作品

管弦楽 ・パルティータ Partita für streichorchester (1944) {strings} ... 親友だったV.Saudekにより《弦楽三重奏曲》から編曲されたもの
室内楽 ・弦楽四重奏のための4楽章 Vier sätze für streichquartett (1936-1938) {2vln, vla, vc}
 1) andante, 2) allegro, 3) largo, 4) allegro
・喜遊曲 Divertimento (1939-1940) {2ob, 2cl, 2hrn, 2bssn}
 1) tempo di marcia, 2) allegretto scherzando, 3) adagio, 4) allegro
・ヴィオラ独奏のための前奏曲 Präludien (1940) {vla}
・弦楽四重奏曲 作品2 Streichquartett, op.2 (1940-1941) {2vln, vla, vc}
・弦楽二重奏曲 Duo für violine und cello: unvollendet (1941) {vln, vc} ...
第三楽章「スケルツォ」は未完
 1) allegro con fuoco, 2) lento

・幻想曲とフーガ Fantasie und fuge für streichquartett (1942-1943) {2vln, vla, vc}

・弦楽三重奏曲 Streichtrio für violine, viola und cello (1944) {vln, vla, vc} ...
絶筆。
 1) allegro spiccato
 2) lento: variation über ein mährisches volkslied
 3) molto vivace
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ Klaviersonate (1943)
 1) allegro con fuoco
 2) adagio
 3) allegro vivace
声楽曲 ・3つの歌 Trei lieder, op.1 (-1940) {vo, p} ...1990年に発見された。詳細不詳,下記の独語標題は不明です。
 1) The fountain (Johann Klaj)
 2) In the midst of life (Franz Hölderlin)
 3) Darkness descending (Johann Wolfgang Goethe)

・ヴィヨン【死の言葉】のマドリガル Madrigal sag tod (1942) {2sop, alto, tnr, bass} ...
F.Villon詩, Otokar Fischer訳
・原罪 První hrich: erster sündenfall (1942) {m-vo, choir}
・ヘルダーリン【世界の愉悦】のマドリガル Madrigal das angenehme in dieser welt (1942) {2sop, alto, tnr, bass}...
F.Hölderlin詩, E.A. Saudek訳
・(邦訳不詳) Bachuri, le'an tisa? (1942) {f-choir}
・チェコとロシアの民謡をもとに Bearbeitung tschechischer und russischer volksweisen (1942) {tnr, f-choir}
 1) Aby nás pán buh miloval
 2) Chodzila liska po razi
 3) Chodíme, chodíme
 4) Na tych nasich lukách
 5) Poljusko, pole
 6) Uz mne kone vyvádeji: erste version
 7) Uz mne kone vyvádeji: zweite version

・揺りかごの歌 Wiegenlied: sch'haw b'ni (1943) {choir /sop, p} ...
ヘブライ語詩


クラインを聴く


★★★★
"Divertimento / Duo / Four Movements / Sonata / Trio" (MDG : 304 0618-2)
Ensemble Villa Musica : Ingo Gortizki, Washington Barella (ob) Ulf Rodenhäuser, kerstin Grötsch (cl) Wolfgang Wipfler, Volker Grewel (hrn) Klaus Thunemann, Matthew Wilkie (bssn) Thomas Brandis, Ida Bieler, Eckhard Fischer, Kea Hohbach (vln) Enrique Santiago (vla) Martin Osterlag (vc) Kalle Randalu (p)
少し前に話題を呼んだ『戦場のピアニスト』。しかし実演を聴くと,その技量は意外なほど凡庸。「実体はこんなもんだよな・・」と,些か興醒めを禁じ得なかったのも事実です。ドラマになった彼の陰で,作曲家やピアニストとして同等以上に実力がありながら,命を絶たれたユダヤ人は沢山おりました。以前耳にして,その筆力に感心したウルマン然り,パヴェル・ハース然り。そして,彼らと同じテレジン収容所に収監され,終戦を目前に命を絶たれたこのユダヤ系チェコ人もまた然りです。本盤はこの悲運な作家にスポットを当て,直前に発見された弦楽四重奏を含む,主要な器楽作品を収録した貴重な音盤。擬古典的な律動のうえで,時に無調風,時に戯画的ポリモードの旋律が絡み合い,グロテスクに道化を演じる。アイスラーにオーリックを3割足したような耳当たりは,聴き手をかなり限定しますけれど,破格に美しい『ピアノ・ソナタ』の深い内省と無調寸止めのシリアスな表情はデュティーユのソナタすら彷彿させ,シェーンベルク筋をよく吸収した彼の非凡な才気を雄弁に物語っておりましょう。演奏するアンサンブル・ヴィラ・ムジカは,ウルフ・ローデンハウザーを中心とし,ババリア管やベルリン・フィルの団員が集まって1990年に結成。名前は楽団の運営資金を供出するメンツのヴィラ・ムジカ財団に由来するとか。ソリッドな弦部,木管も高品位です。活動目的は忘れられたドイツ近現代作曲家の復活上演とか。かつてナチスのもとで命を落としたユダヤ人の遺作を,ドイツを拠点に活動する演奏家が,60年後こうして演奏。平和って本当に有り難いですねえ。

(2006. 10. 7 upload)