Kの作曲家



シャルル・ケックラン Charles Koechlin (1867-1950)

フランスの作曲家。1867年11月27日パリ生まれ。本名シャルル・ルイ・ウジェーヌ・ケックラン。15才から作曲活動を始め,パリ音楽院でアンドレ・ジェダルジュ,ジュール・マスネ,ガブリエル・フォーレに師事するとともに,1898年から1901年までは助手も務める。1910年には,フォーレ,ラヴェル,カプレらによって進められた「独立音楽協会(Société Musicale Indépendante)」の設立に参画した。批評家,理論家としても優れ,1909年から『芸術録(chronique des Arts)』誌に評論の執筆を始めたのを皮切りに,1915年までに対位法や作曲法の優れた著述を残し評価を高め,1935年から1943年までの8年間に書かれた『管弦楽配置法(Traité de l'orchestration):全4巻』により,当代を代表する理論家としての名声を確立。1937年にスコラ・カントールムで教職に就くとともに,のちにはアメリカやカナダでも教鞭を執る。典雅な旋律美を特徴とし,高い旋法性を利した柔和で古楽的な佇まいのなかに,高度な対位法を駆使してエスプリ溢れる作風を堅持した。多作家でもあり,作品番号付きのもので226の作品を遺している。1950年12月31日,コート・ダジュールにて死去。


主要作品 ※Orledge, R. 1991. Charles Koechlin. Harwood Academic Publishers. を入手しました。作品表は時間が出来次第,完全版へ改訂します。

歌劇/合唱曲 ・カンタータ「タイの解放」 libérons Thälmann (1934) {vo, choir, orch}
・無伴奏による宗教的な合唱曲 choeurs religieux a cappella (1935) {choir}
・古風な様式による15のモテット 15 motets de style archaïque (1949) {choir}
映画音楽 ・いのちの勝利 victoire de la vie (-)
管弦楽曲 ・森 la forêt (1896-1907)
・バラード ballade pour piano et orchestre (1911-1915/1919) {p, orch}
・交響曲第一番 première symphonie (1916)
・ペルシアの時 les heures Persanes: suite d'après 'vers Ispahan' de Pierre Loti. (1916) {orch/p}
・春の歩み la course de printemps (1925-1927)
・7つの映画スターの交響曲 the seven stars symphony (1932)
・遙かな波 sur les flots lointains (1933)
・星空の詩 vers la voûte étoilée (1933)
・新たな街 la cité nouvelle (1936)
・プーラン=バガの瞑想 méditation de Purun-Baghat (1936)
・ジャングル・ブック la loi de la jungle (1939)
・バンダール・ログ les bandar-log (1939-1940)
・交響曲第2番 seconde symphonie (1943)
・ファブリシウス博士 le docteur fabricius (1945)
・パルティータ partita (1945)
・燃ゆる茂み le buisson ardent, poème symphonique d'après un épisode de 'Jean-Christophe' de Romain Rolland (1945)
・バッハの名による音楽の捧げもの offrande musicale sur le nom de BACH (1942-1946)
器楽・室内楽曲 ・遠い憧れ en rêve et au loin (1896) {ob, p}
・2つの夜想曲 deux nocturnes (1897/1907) {hrn, fl, p}
・ピアノとフルートのためのソナタ sonate pour piano et flûte (1911-1913) {fl, p}
・ピアノとヴィオラのためのソナタ sonate pour piano et alto (1915) {vla, p}
・オーボエとピアノのためのソナタ sonate pour haubois et piano (1911-1916) {ob, p}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1916) {vln, p}
・ピアノとチェロのためのソナタ sonate pour violoncelle et piano (1917) {vc, p}
・パストラール pastorale (1917-1918) {fl, cl, p}
・ホルン・ソナタ sonate pour cor et piano (1918-1925) {hrn, p}
・陸景と海景 paysages et marines (1917 /1950) {p /p, fl, cl, 2vln, vla, vc}
・2本のフルートのためのソナタ sonate pour deux flûtes (1918/1920) {2fl}
・ファゴット・ソナタ sonate pour basson et piano (1919) {bssn, p}
・ピアノ五重奏曲 quintette pour piano avec quatuor à cordes (1920-1921) {p, 2vln, vla, vc}
・喜遊曲 divertissement (1921-1924) {3fl}
・クラリネット・ソナタ sonate (1923) {cl, p}
・三重奏曲 trio (1924) {fl, cl, bssn}
・ブルターニュの歌 chansons Bretonnes (1931) {vc, p}
・ソネリエ soneries (1932) {hrn, p}
・あるクラリネット吹きの秘密 les confidences d'un joueur de clarinette (1934) {narr, cl, fl, 4hrn, 3vln, vla, vc, b}
・リリアンのアルバム(叙情小品集)第二巻 l'album de Lilian deuxième série (1935) {fl, p, ondes-martenot, clavecin}
・20のソネリエ 20 sonneries (1935) {hrn, p}
・5つのソネリエ cinq sonneries (1935-1940) {hrn, p}
・旋法によるソナチネ sonatine modale (1935-1936) {fl, cl}
・イディーユ idylle (1936) {fl, bssn}
・民衆の祭のためのいくつかのコラール quelques chorals pour des fêtes populaire (1936) {winds}
・吹奏七重奏曲 septuor à vent (1937) {as, e-hrn, fl, ob, cl, bssn, hrn}
・オンド・マルトノのための旋律 vers le soleil - sept monodies pour ondes martenot (1939) {ondes-martenot}
・14の小品 quatorze pièces (1942) {ob, p}
・15の練習曲 quinze études (1942) {sax, p}
・ソナチヌ sonatine pour haubois d'amour
 - avec accompagnement de flûte, clarinette, harpe et sextuor a cordes (1942-1943) {ob, fl, cl, hrp, 6strings}
・7つの小品 sept pièces (1943) {sax, p}
・プリマヴェーラ 'primavera' quintette pour flûte, harpe, violon, alto et violoncelle (1944) {fl, vln, vla, vc, hrp}
・甘美な歌 les chants de nectaire (1944) {fl}
・イングリッシュ・ホルンのための旋律 monodie pour cor anglais (1947) {e-hrn}
・初見用小品 morceau de lecture (1948) {fl}
・七重奏ソナタ sonate à sept (1949) {ob, fl, hrp, 2vln, vla, vc}
・墓標 stèle funéraire pour flûtes à tour de rôle (1950) {3fl}
・3人の羊飼い tri pastukha (-) {fl, ob, cl}
・ジャン・ハーロウの墓標 epitaph de Jean Harlow (-) {fl, sax, p}
ピアノ曲 ・組曲 suite op. 6 (1896) {2p}
・組曲 suite op. 19 (1896) {2p}
・5つのソナチヌ cinq sonatines (1914) {p}
・4つのフランス風ソナチヌ quatre sonatine françaises (1919) {2p}
・4つの新奇なソナチヌ quatre nouvelles sonatines (1924- ) {p}
・古い田舎屋敷 l'ancienne maison de Campagne (1932-1933) {p}
・ディジー・ハミルトンの肖像 le portrait de Daisy Hamilton (1934) {2p}
・ジンジャー・ロジャースへの5つの踊り cinq danses pour Ginger (1937) {p}
・前奏曲集 préludes (1945) {p}
歌曲 ・ロンデル集 rondels, op.1 (1890) {sop, p}
 2) 夜 la nuit
 4) 春 le printemps
 5) 夏 l'été

・ロンデル集 rondels, op. 5 (1894-1895) {sop, p}
 3) 愛の歌 chanson d'amour (1895)
 5) お望みならば si tu le veux (1894)

・ plaine eau (1892) {sop, p}...
op.7-2
・ロンデル集 rondels, op. 8 (1895) {sop, p}
 4) 月 la lune
・秋の詩 poème d'automnes, op. 13 (1894) {sop, p}
 1) 愛の衰え déclin d'amour (1894)
 2) les rêves morts (1899)
 4) l'astre rouge (1899)

・ロンデル集 rondels, op. 14 (-) {sop, p}
 1) 一日 le jour
 4) 葡萄酒 le vin

・3つの歌曲 trois mélodies, op. 15 (1899-1900)
 3) nox (1899-1900) <sop, p>..op.15-3
 - 死者の祈り a prière du mort (1896) {sop, p}...
op.17-3
・妖精のいた時 aux temps des fées (1895) {sop, p}
・2つのヴィラネル deux villanelles, op. 21 (1900-1901) {sop, p}
 - 11月 novembre (1901) {sop, p}...
op.22-2
・無邪気な子らの歌 la chanson des ingénues (1901) {sop, p}
 - 伴奏 accompagnement (1902-1907) {sop, p}...
op.28-3
 - 夕餉はできた le repas préparé (1906) {sop, p}...
op.31-5
・アンフィトリトは進む le cortège d'Amphitrite (1905/1907) {sop, p}
・アメジスト améthyste (1905/1908) {sop, p}
・アンフィスとメリッタ Amphise et Melitta (1906) {sop, p}
 - 異教徒の夜 soir païen (1908-1909) {sop, p}...
op.35-4
・ヴィーナス礼讃 hymne à Vénus (1918) {sop, p}
・リリアンのアルバム(叙情小品集)第一巻 l'album de Lilian première série (1934) {sop, p, fl}
・7つのおどけた歌 sept chansons pour gladys (1935) {sop, p}

(NTさんに作品表の誤謬を2点教えていただきました。有り難うございます。2002. 12. 29)


ケックランを聴く


★★★★☆
"Chamber Works for Oboe :
Sonate À Sept / Deux Monodies pour Haubois / Le Repos du Tityre pour Haubois d'amour / Monodie pour Cor Anglais / Quatorze Pièces" (CPO: 999 614-2)

Lajos Lencsés (ob, e-hrn) Gaby Pas-van Riet (fl) Lucia Cericola (hrp) Kalle Randalu (p) Parisii-Quartett
シュトゥットガルト交響楽団の主席オーボエ奏者として活躍するラヨ・レンチェーシュは,ハンガリー出身。ドイツで演奏こそしていますが,もともとはパリ音楽院で学んだフランス系の優美な演奏が持ち味です。それだけに,彼はケックランにも深い共感を示し,オーボエのための作品集を2つも録音。その後もシュトゥットガルト放送管をけしかけては,ケックラン絡みの作品集を多数吹き込ませ,今やケックランの録音に掛けては完全に第一人者へと変貌しました。この作品は彼のケックラン行脚の出発点となったもののひとつで,当時,他に録音らしい録音のなかった『七重奏ソナタ』など,編成の大きな室内楽作品を楽しめる有り難い一枚でした。すでにヴァロワなどから数多い録音を出し,フランスものの演奏にかけては特に評価の高いパリジイ四重奏団を迎えた決定盤ともいうべき演奏で楽しめます。

★★★★★
"L'ancienne Maison de Campagne / Quatre Nouvelles Sonatines / Danse Lente" (Accord : 202202)
Christoph Keller (piano)
スイスの隠れた名手クリストフ・ケラーによるケックランのピアノ作品集。世界初録音でした。ケラーはスイスの作曲家オトマール・シェックの歌曲集で歌伴をするなど,もともとマイナー漁りに一家言あり,伴奏もこなす巧さを持っている人です。ケックランのピアノ曲はこの後,スカルボからも当該レーベルの音楽監督を務めるジャン・ピエール・フェリー氏の演奏による作品集が出ました。しかしながら内容的にはこの盤が圧倒的。詩的情緒を重んじる演奏流儀からか,少しペダルを過多に感じる向きもあるようですが,ひとつの解釈として立派に首尾一貫していれば問題ないでしょう。ケックランは近代音楽史上稀に見る美旋律の書き手でした。ピアノのための作品を集めたこの盤は,そうしたケックランの魅力がまさしく最良のかたちで表れています。曲の深層へ静かに降り立って,そのデリケートで無垢な表情を余すところなく捉えるケラーのタッチもまさしく出色といえましょう。なお,以下に続くアコール3盤は,こののち箱盤になって再発されているものと同一内容です。

★★★★☆
"Sonate pour Piano et Alto / Paysages et Marines" (Accord : 201092)
Christoph Keller (p) Christoph Schiller (vla) Ensemble Mobile, Zürich
初期のケックランは,ほぼ歌曲と交響詩に専念してきましたが,1910年ごろを境に,以降10年間は器楽曲と室内楽曲にほぼ専念し,優れた作品を数多く作曲しました。迫る第一次大戦の不穏な影を感じていた作曲者が,みるみるロマン派歌曲ベースの世俗臭を廃し,仙人然とした忘我の境地へ向かっていったのは興味深い事実です。ここに収められた2つの作品も,まさにそのころ書かれた作品。わけても,2部12曲からなる『陸景と海景』は,『リリアンのアルバム』と並んで,CD時代の到来とともに最も早い時期から再評価された作品のひとつ。作曲者のもつ清明典雅な旋律美が余すところなく描き出された傑作中の傑作です。ケックランの器楽作品の発掘録音に意欲を燃やす名手クリストフ・ケラーを中心とし,スイス首都圏の演奏家が敢行したAccord盤の連続録音は,その後みるみる急増することになった数多いケックラン作品集の嚆矢をなすもののひとつ。フレムやロパルツが,魅力的な作品を同じく書いていながら,その後もあまり芳しい発掘状況にないのを見るに付け,後進を喚起するだけの確かな選曲眼で選んでもらい,確かな技量の演奏で録音してもらえたのは,作曲者にとってまことに幸運なことだったと思わずにいられません。

★★★★☆
"L'album de Lilian / Vers le Soleil - Sept Monodies pour Ondes Martenot / Stèle Funéraire pour Flûtes à tour de Rôle" (Accord : 201232)
Kathrin Graf (sop) Philippe Racine (fl) Christine Simonin (onde martenot) Daniel Cholette (p, clavecin)
「リリアンのアルバム(叙情小品集)」は,「ジャングル・ブック」と並んで,ケックランの作品のなかでは最も良く知られたもののひとつです。ところで,彼はこの作品を書く二年前(1932年)に「7つの星の交響曲」を作曲していますが,実は標題の「星」には,銀幕の「スター」の意味が込められています。実はこの当時,ケックランは映画にご執心だったとか。本盤に収められた「リリアンのアルバム」にも,これと同じ趣向が見られる。「リリアン」は,女優のリリアン・ハーヴェイに捧げるという意味と,叙情小品集の含意が重ねられた標題というわけです。スイス寄りのメンバーで固められた本作は,Clavesから出た「プリマヴェーラ/フルート・ソナタ」の録音と対を成すもの。珍しいオンド・マルトノのソロをフィーチャーした「7つの旋律」を含むこの盤は,「リリアンのアルバム」の決定盤ともいうべき演奏。古典に良く学び,アルカイックな佇まいの中に,典雅なエスプリを展開した作曲者の美意識が横溢します。

★★★★★
"Les Heures Persanes" (Chandos : CHAN 9974)
Kathryn Stott (piano)
ケックラン中期の傑作『ペルシャの時』のピアノ版は,幾つか録音も出ているようですが,漸く誰にでも手に入れられそうなCDが出ました。元ネタは『千夜一夜物語』と,小説家ピエール・ロティが1904年のペルシャ旅行をもとに書いた紀行文『イスファハンへ』。ドビュッシー同様,ペルシャ自体の描写というよりは,小説などから得た霊感を曲に仕立てたものといえるでしょう。五音階主体の旋法や多調に立脚した分散和音が,ごくゆっくりと,静かにリズムを刻んでいく瞑想的な曲想。ペルシャという語感から連想される曲想からは遠くかけ離れた,水彩画のように透明でデリケートな筆致には,耳を吸い寄せずにはおかない深い内省性が溢れています。曲はけばけばしい起伏もありませんし,BGMとしても素晴らしいと思います。独奏者のキャスリン・ストットは,最近はヨー・ヨー・マの伴奏者として活躍している女流。このレーベルに多くの吹き込みを残しており,特にピアノ協奏曲などのフォーマットになると,アルゲリッチ的なアマゾネスぶりを発揮する,なかなか魅力のあるピアノ弾きです。反面,彼女のフランスものは余り面白くなく,以前吹き込んだドビュッシーとラヴェルは,気の抜けたアルゲリッチ傍系。正直,独奏者としては魅力がないかなと思っていました。しかし,蓋を開けてみれば驚くほど良好。少しペダルが過多に感じる人もおられるかも知れませんし,もっと粒が立っても良いと感じる方もおられるでしょうが,この単純な反復リズムを前に,タッチの丸さで勝負。下品な情感表現で色を付けなかった点に,伴奏者歴で培った演奏家としての良心を見ました。作品の簡素清明な魅力を良く活かした,秀演だと思います。

★★★★★
"Les Heures Persanes" (Wergo : WER 60 137-50)
Herbert Henck (piano)
独奏者のヘルベルト・ヘンクは1948年西ドイツのトレイザ生まれ。アロイス・コンタルスキーに師事し,コローニュを拠点に活動しているピアノ弾きです。ECMにモンポウの『沈黙の音楽』を吹き込んでいることで知っている方も多いと思いますが,レパートリーは専ら現代のみという,極めて男気豊かな録音遍歴の持ち主。そんな彼の珍しい仏近代ものとなったこの録音も,現代ものを弾き込んできたピアニストらしく,競合するストット盤に満ちた詩情豊かな寛ぎや豊かな潤いとは,全く対照的な解釈に目を見張ります。無意味にテンポを揺らさず,強弱を控え,無窮動的な律動を中心に置いてひたすら冷徹に,淡々と作品の組成をピアノへと投射する。譜面から距離を取り,あくまでこの曲の持つ現代音楽的な側面の描出を意図したのでしょう。ケックランはシュットガルト管のレンゼによるオーボエ作品集をはじめ,ベルリン木管五重奏団やベルリン放送響の録音など,本国よりもドイツの演奏家に余程受けが良いのですが,こういう演奏を聴くとその理由は一目瞭然。屈指の理論家であり,バロック的な形式美を持つ彼の作品は,響きの持つ感覚的な美しさよりも,曲としての構成美から音楽を捉えようとするドイツ人には理解しやすいのでしょう。一般には,遙かに深く作品への共感の根が降りていて,人間味のあるストットのほうがお薦めしやすいでしょうが,ピアノを弾く方やアナリーゼ目的の方はぜひこちらを。技巧的なΔ砲ける運指の明晰さから伺える通り,技量は明らかに一枚上です(本盤の入手に際してはケンブリッジ大学モードリン校のリッチー・カニンガム氏にご配慮いただきました。記して感謝いたします。)。

★★★★★
"Sonate pour Violon et Piano / Sonate pour Alto et Piano" (Skarbo : D SK 1985)
Marie Viaud (vln) Michel Michalakakos (vla) Mireille Guillaume, Martine Gagnepain (p)
本盤に収録された2つのソナタは,1915年から1916年に掛けて作曲。折から第一次大戦の最中,野戦病院に勤務していたケックランは,ミヨーの勧めでブルリスへ移って休暇を取ります。ヴィオラ・ソナタはその折りに書かれました。彼は「直接負傷兵を看病するのも一つの方法だが,芸術を通して傷ついた人々を癒すのも,また戦時貢献になる」との動機で,創作意欲を掻き立てられたのだとか。実際,初演は負傷兵の慰問コンサートでなされました。奇しくもドビュッシーとフォーレに前後して1916年に書かれたヴァイオリン・ソナタもまた,戦争と関わりのある曲。彼は戦意高揚の曲を書くのではなく,「魔法に掛けられた森」をイメージして作曲したのだそうです。果たして2品は,いずれも彼独自の無垢で柔和な佇まいが横溢。山奥で独り,悟りの境地に浸る仙人の如く,透明感と安息に満たされた名作。これほど清らかで穏やかな作品が,いずれも戦時中に,負傷兵の苦しみを目の当たりにしながら書かれたと推測するのは殆ど不可能です。それだけ,ケックランの精神力は静かに,しかし逞しく世の不条理を見据えていたのでしょう。演奏陣は寡聞にして良く知らない無名人。しかし演奏は意外にも良演。ヴァイオリンは少し扁平で一本調子なきらいもありますけれど,いずれも仏楽壇らしく軽やかで甘い音色。ヴァイオリン・ソナタはクァントゥム盤に,ヴィオラ・ソナタはアコール盤に,それぞれ競合する録音がありますが,前者については本盤の出来が明瞭に凌駕します。

★★★★
"Le Livre de la Jungle / The Seven Stars' Symphony / 4 Interludes / l'andalouse dans Barcelone" (RCA : 74321 845 962 LC 00316)
David Zimman, James Judd (cond) Radio Symphonie-Orchester Berlin, Deutsches Symphonie-Orchester Berlin
フランスの作曲家,ケックランは去年(2000年)が没後50周年でしたが,あるいはその関係からでしょうか。今年に入ってちょこちょこ好いCDが出てきました。この盤は以前からケックラン好きの間では知られているデヴィッド・ジンマン指揮の『ジャングル・ブック』に,ジャッド指揮の珍曲珍演をカップリングした徳用盤。オケはベルリン(放送)交響楽団,これ以上何を申すことがありましょう。間延びしたところのあるケックランの管弦楽作品はやや大味ですが,随所に印象主義的な書法や,(特に『7つの星の交響曲』などでは)無調の手法を取りいれていながら,それらしい晦渋さを感じさせない柔和にして高雅な佇まいは,紛れもなく彼ならではの世界です。2枚で1800円と安価な上にこのCD,演奏のほうも素晴らしい。世界が誇る名門オケにケックランを録音してもらえることなんて,今後もしばらくは期待できそうにありませんので,それだけでもこれは紛れもなくファン必携の一枚と申し上げて宜しいでしょう。演奏秀逸盤。

★★★★★
"Sonate pour Violoncelle et Piano (Pierné) Sonate pour Violoncelle et Piano / Chansons Bretonnes (Koechlin)" (Hyperion : CDA 66979)
Mats Lindström (vc) Bengt Forsberg (p)
ケックランとピエルネのチェロ・ソナタをカップリングした盤です。演奏はスウェーデン人ですが,チェロはロイヤル・フィルハーモニックの首席だった人物。力量確か。しかし,共演のベンクト・フォルスベルイの磨き抜かれたタッチにも心奪われます。ゾフィー・ムターの伴奏者だったそうで,やっぱりなあ,という感じ。ジャズでもクラシックでも,伴奏が本業の人は歌心があって端正。下手に大物づくしのを聴くより良いと思います。ケックランは時に無調寄りの晦渋な作品を書く人ですが,ここに収まったのは,アルカイックで禁欲的,叙情的な表情のケックラン。ただただ,溜息が出るほどの美しさです。カップリングのピエルネは印象主義的な書法と,通俗的な書法を使い分けるカメレオン。しかしこの作品に関してはシリアス。器楽物の中では出色の出来ではないでしょうか。甲種お薦め盤。

★★★★
"Sonate pour Violon et Piano / Quintette pour 2 Violons, Alto, Violoncelle et Piano" (Sepm Quantum : dQM 7018/SM 55)
François Duroy, Jean-Pierre Sabouret (vln) Stéphane Marcel (vla) Philippe Bary (vc) Thierry Rosbach (p)
2000年に没後50周年を迎えたケックランは,お陰で随分カタログを豊かにしました。このCDもその一つ。1910年代後半から1920年代初頭に書かれた2作品が収められていますが,いずれもくつろいだ長閑な旋律を,アルカイックで仙人然とした虚脱感と恍惚感が快く包み込んだ瞑想的な作品。ロパルツものちに類似の題で類似の作品を書いた『海と風景』を思わせる温厚な佇まいに溢れ,器楽ものとしてはケックランの作品中でも出色と言って良い出来映えではないかと思います。この企画の経緯は,アルザス地方で毎年行われているムジカルタという音楽祭に集まる国内の演奏家たちが,ケックラン没後50周年の2000年のムジカルタ終了後に記念盤を作ろうと集まって制作したものだとか。国内クラスだけにピッチは少々緩く,抑揚も小さめで,朴訥な音色ともどもやや垢抜けしませんけれど,共感に富んでいて悪くないですし,何よりピアノが綺麗に鳴っていて,好演奏だと思います(本CDの入手に際しては黒山羊さんから格別のご配慮を頂きました。記して感謝申し上げます)。

★★★★
"Le Buisson Ardent / Au Loin / Sur les Flots Lointains" (Marco Polo : 8.223704)
Leif Segerstam (cond) Reinland-Pfalz Philharmonic
ご存じセーゲルスタムのドイツ出稼ぎオーケストラ,ラインラント=プファルツ管との共演によるケックランの管弦楽作品集です。初期の『遠い憧れ』あたりは,まだ後期ロマン派の半音階的な書法に依拠した保守的な作風の枠内に収まっている。しかし,オンド・マルトノの入る大作『燃ゆる茂み』になると,もう独壇場。管弦楽を聴くなら是非これを。2章からなるこの曲の第2部は本当に凄い。音楽的な語法は,得意の五音階を幾重にも重ねたポリモードといえますが,もはや音楽と言うより音のパルスに近い。限りなく神秘的で,仙人の達観の境地を見ているようです。デュティーユなみに先鋭的なことをやっているにも拘わらず,曲想は恐ろしく柔和。恐ろしく審美的であり瞑想的。余人の追随を許さない,全くケックラン独自の世界です。彼の管弦楽はあまりに自由であるがゆえ観念的。主題やリズムなど,聴き手が依拠しようとする表現上のあらゆる制約から,フワフワとゆらぎながらすり抜けていくような,虚脱感と官能美を持った音楽です。楽器の制約上,辛うじて曲の輪郭が残っている(らざるを得ない)器楽曲とは全く違う聴き方が要求されるように思います。弦を中心に少し粗いながら演奏も良好。

★★★★☆
"La Course de Pintemps / Le Buisson Ardent" (Hänssler : CD93.045)
Heintz Holliger (cond) Radio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR
B級堕天使(失礼)セーゲルスタム盤以外には選択肢らしいものがなかったケクラン管弦楽の傑作『燃ゆる茂み』に素晴らしい対抗馬登場。近代ファン以外にも一流と目される有名人,ハインツ・ホリガー/シュトゥットガルト放送管による『・・茂み』です。なぜかケックランの録音の多くはドイツの演奏陣によるものが多い。しかしながら,ことこの盤に限っては,ケックラン大好きな首席オーボエ奏者ラヨ・レンゼの肝いりと見て間違いないでしょう(レンゼさんありがとう!)。前半は知名度No.1『ジャングル・ブック』の抜粋で,ライブ録音。後半がスタジオ録音で,聴きものは言うまでもなく後半の『・・茂み』。特に,スイスの名匠フランク・マルタン彷彿の構成美を基調に据えた,緊密な筆致を誇る第1部の12分半は水を得たような演奏で,オケも完璧にコントロールされ,この曲の構造を良く把握した見事な仕上がりに感服しました。反面,よりフランス的な官能美を持つ第2部はややテンポ速めでさっぱり振られており,指揮自体はセーゲルスタムに軍配。図らずもドイツ人指揮者の得手不得手が,この大作の前後半を通して表出したと言うところでしょうか。とまれ楽団の力量は明瞭にマルコ盤を凌ぎますし,『・・茂み』ファンにはぜひ聴いていただきたい録音であることに変わりありません。

★★★★
"Le Docteur Fabricius / Vers la Voûte Étoilée" (Hänssler : CD 93.106)
Heinz Holliger (cond) Christine Simonin (ondes martenot) Radio-Sinfonieorchester Stuttgart
以前『燃ゆる茂み』を録音したホリガーが,またまたケックランの新録を出しました。しかも今回は全て世界初録音です。もしかしてシリーズ化してくださるんでしょうか。もともと天文学者を目指していたほど宇宙が大好きだったケクランは,カミーユ・フラマリオンの書いた『一般天文学(Astronomie Populaire)』を読んですっかりはまってしまい,1923年から10年掛けて『星空の詩』を書きました。彼は出来映えにはあまり満足していなかったらしく,1939年の改訂後はそのまま放置。1989年のベルリン音楽祭に,この曲が登場しなければ,まだ当分は日の目を見なかったでしょう。オンド・マルトノが入らない点,調性感が遙かに明瞭な点は大きく異なるものの,のちに彼の晩年を飾る大傑作『燃ゆる茂み』を思わせる,たおやかなモチーフと弦あしらいを早くも聴くことができる佳品。確かに群を抜いた透明感を誇るケックランにしてはバタ臭い印象ですが,これがやがて,あの名品へ向かって浮世離れしていくのだ・・と考えれば,お好きな方は充分聴く価値があるのでは。いっぽう対照的なのが,1941年から1946年に掛けて書かれた『ファブリシウス博士』。『燃ゆる茂み』を除いて,ケックラン最後の管弦楽作品となったもの。50分を超える大曲なうえ,ユニゾン・オンリーや無調スレスレの部分が次々に顔を出し,晩年のホルストにも匹敵する薄気味悪さと地味さを誇る変態作品。1949年にブリュッセルでフランツ・アンドレが初演したのち,完全にお蔵入りしてしまったのも無理はありません。しかし好事家向けとしか思えぬこの二品を,堂々選ぶドイツ人。何て素晴らしいんでしょう。おまけに天下のシュトゥットガルト楽壇。演奏もピカイチと来ている。フランス人は完全に遅れをとってますねえ。哀しむべきことだ。

★★★★★
"Quatre Poèmes d'Haraucourt / Deux Poèmes Symphoniques / Poèmes d'Automne / Deux Poèmes d'Chénier / Chanson de Mélisande (Fauré) / Trois Mélodies / Études Antiques / Six Mélodies sur des Poèsies d'Semain / Chant Funèbre à la Mémoire des Jeunes Femmes" (Hänssler : CD 93.159)
Heinz Holliger (cond) Juliane banse (sop) SWR Vokalensemble Stuttgart : Radio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR
どうやら本気で箱盤を作る気らしいホリガー氏。2005年発表の本盤は,管弦楽作品集三枚目にして,初めての歌曲集に取り組みました。しかも,フォーレを除く全てが世界初録音です(管弦楽版で,ですが)。収録曲は全て1910年よりも前に書かれ,半分は19世紀の作曲。「こりゃフランキー境かな・・」と,気持ちも萎えつつ耳にしましたが・・。これが嬉しい大誤算でした。初期作品『アロクールの4つの詩』,『秋の詩』,『3つの詩』は,確かに優美なワグネリスト。旋律線だけ聴くと,いかにも長老組が喜びそうな懐旧性たっぷりの作品なんですけど,不思議なほど古臭い感じはしません。古い歌曲もオーケストレーションだけは世紀の変わり目以降になされているせいでしょう。同じ頃に書かれたローマ大賞受験者と比べずっと滑らかで女性的な旋律線が,繊細な官能美を醸し出します。『2つの交響的な詩』を筆頭に,『シェニエの2つの詩』,『古風なエチュード』,『サマンのポエジー』,『若い娘の想い出に捧げる葬送歌』では,朝靄の山上で遠くを見つめる仙人の胸懐にも似た,深い瞑想性と透明感溢れるオーケストレーションがたっぷり聴ける。充分に間を置き,抑揚豊かに音を膨らませていくホリガーの指揮は共感豊か。オーケストラの鳴動は,僅かに弦部がざらっとしてはいるものの,数少ない競合盤プファルツ管やトゥルーズ放送管とは比較にならない高水準ですし,ややほの暗い翳りを帯びながらも,朗々と伸びるジュリアン・バンゼの歌唱も素晴らしい。2枚組であることも手伝って,お値段は少々張りますけれど,ケックラン管弦楽を聴くなら間違いなくお薦め度最高ランク。ワグナーまでで止まっている狭義のクラシック好きからドビュッシアン万歳まで,幅広く愉しめること請け合いです。

★★★★☆
"Épitaphe de Harlow / Trio pour 2 Flûtes et Piano / Suite en Quatuor / Trio pour Flûtes, Clarinette et Basson / Sonate pour 2 Flûtes / 2 Nocturnes / Sonatine Modale / Pièce de Flûte" (Hänssler : CD93.157)
Tatjana Ruhland, Christina Singer (fl) Dirk Altmann (cl) Libor Síma (sax, bssn) Joachim Bänsch (hrn) Mila Georgieva (vln) Ingrid Philippi (vla) Yaara Tal (p)
ことケックランに関しては,すっかり本国を凌ぐ音盤製造量を誇るシュトゥットガルト楽壇。ヘンズラーからまた一枚,今度は彼の本分ともいうべきフルート主体の室内楽作品集が出ました。良く見ると,見事な演奏の連弾曲集を吹き込んでいた中近東出身者ヤーラ・タル女史まで加わっている。最早彼の地はケックラン再評価のメッカ状態で,レンチェーシュさん1人の肝煎りとは思えぬ状況です。収録された作品は,最も若い『夜想曲』でも1907年のもの。ドビュッシーよろしくバタ臭い和声を極力削ぎ落とし,高度な旋法表現と巧みな移調と対位法を駆使して,どこまでも透んだ音世界を作っていくケックランの美点が十全に。どこを切っても,古代ギリシャの女神の踊りでも見ているかの如きアルカイックな佇まい。曲のはしばしに,ちらりちらりと淡い色気を漂わせていく精妙な近代和声。お顔そのまま仙人の如き達観の境地。最早,ワン・アンド・オンリーとしか言い様がございません。既に他盤でケックラン室内楽の古楽的な佇まいに惚れ込んだ方は,ほとんど予定調和的に愉しんでいただけるでしょうし,ケックラン室内楽の入門用にもぴったりじゃないでしょうか。演奏を務めるのはシュトゥットガルト放送管の楽団員。出ずっぱりのルーラント女史は1996年のプラハ国際,1997年の神戸国際の入賞者だそうです。なにぶんにも楽団員。専業のソリストほど華のある演奏とは行かず,各人少しばかり音色にくすみや濁りがあったり,線が細かったりもします。けれども,アラはいずれもご愛敬程度で,曲を聴く分にはほとんど不自由のないレベル。これだけ多様な編成の室内楽を一枚に収めることができるのも,オケならではの強み。その意味でも,「この一曲」をお探しでない限りは,バイキング形式で摘み食いのできるこのCD,お買い得なのではないでしょうか。

★★★★☆
"Les Heures Persanes" (Hanssler : CD 93.125)
Heinz Holliger (cond) Radio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR
ケクラン市場においてセーゲルスタムの価値を無化しようと目論む,シュトゥットガルトの素敵なおじいさまハインツ・ホリガーのケクラン管弦楽連続録音。とうとう『ペルシャの時』まで管弦楽版を出しちゃいました。付されたヘンリク・ホフマンの解題のおかげで,有名なロティの著述の他にもジョセフ・ゴボノー『アジア通信』や有名な『千夜一夜物語』が,着想段階でインスピレーションを与えていたと知り,ちょっと得した気分です。せっかくセーゲルスタムが貴重な音盤を出したのに,その演奏技量の拙さから《トンデモ録音》に近い評価しかされていない1921年版(管弦配置版)。しかし,ご本人の手で編曲されているわけですから,れっきとしたオーセンティックな代物。既に管弦楽配置の上手さは天下一品だった時代の彼のアレンジなわけですし,もうちょっと評価されてもいいんじゃないでしょうか。打鍵をピークに音がほぼ真っ直ぐ減衰していくピアノと違い,音圧を自由に上げ下げでき,ビブラートやグリサンドも可能なのは管弦楽の美点。その規則的な拍動がピアノ版では『墓碑銘』的無窮動感を与えていた3曲目や,狂気のチラ見える前衛路線と思われた6曲目は良い例です。滑らかな弦の響きを得て,楽曲が俄然いきいきと妖しげな輝きを放つようになり,「ほんとはこういう世界観だったのね」と首肯する場面が幾つもあります。むろん,個人的に贔屓な「陽の落ちる丘」のように,どうしてあんなに速いテンポにしたのか疑問を拭えなかったりする演奏もあるんですけど,総じて抑揚の加減やテンポ取りは理に適っている。少しザラ感こそあるものの,マルコとは比較にならぬ高技量で艶めかしく鳴るオーケストラも達者。色眼鏡を掛けて聴かないままにしておくのは勿体ない優秀録音です。

★★★★☆
"1ère Sonate / Les Confidences d'un Joueur de Clarinette / 2ème Sonate / Idylle pour Deux Clarinettes / Quatorze Pièces / Monodies" (Hänssler : 98.446)
Dirk Altmann (cl) Florian Henschel (p) Sybille Mahni Haas (hrn) Rodolf König (cl) Gunter teuffel (vla) Johanna Busch (vc)
買っても買っても次々出てくるシュトゥットガルトのケックラン録音。どういうわけか他盤の三割引で買えてしまう本盤,値引きの真相は,1999年に初版の出たクラリネット作品集を,2004年に再プレスしたことにあるようです。そうまでしてケクラン録音を集成する心意気は,ぜひ仏人も真似していただきたいですねえ。ソリストは1965年ハノーヴァ生まれ。ハノーヴァ芸術院でヘルムート・パルシェクに師事し,1981年ドイツ連邦《若手音楽家賞》で優勝。これで翌年からカラヤン財団の奨学金を貰い,1985年にはシュトゥットガルト放送管のソリストになりました。良く鍛錬された音色は素晴らしいと思う反面,速いパッセージでは時折もつれる場面があり,高域で目一杯吹いている際には時折フレーズが腓返りを起こすなど,ちょっと怪しいところも散見されるのはご愛敬ですか。それでもリードは良くコントロールされ,オケ団員としては充分お上手ですし,音的にもケックラン向き。曲を聴くぶんには充分では。ホルンとクラが単旋律を絡ませながら,時にバロック曲の引用,時に民謡風主題,時にややシュールな旋律を交錯させる「あるクラリネット吹きの告白」や,クラ二本の最少和声を目一杯活用する「牧歌」,「モノディ」は,古典によく学んだ理論家としての表情が色濃く覗くものの,仙人ワールド炸裂の「ソナタ第一番」や,より典雅な擬古典趣味に立脚しつつ,程良い叙情性が溶け込んだ「第二番」「14の小品」などのピアノ伴奏作品になると,もはや独壇場。渓流の如き音の透明度は,余人には真似の出来ない孤高の世界。時折,思い出したように前衛オープンを開催する作者も,ここでは擬古典か仙人かの二分法で執筆。捨て曲なしで安心して聴けます。

★★★★
"The Seven Stars Symphony / Ballade pour Piano et Orchestre" (EMI : CDM 7 64369 2)
Bruno Rigutto (p) Françoise Pellié (ondes martenot) Alexamdre Myrat (cond) Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo
ケックランの映画好きが高じた結果作られた『7つの星(映画スター)の交響曲』は,ダグラス・フェアバンクス,リリアン・ハーヴェイ,グレタ・ガルボ,クララ・ボウ,マレーネ・ディートリッヒ,エミール・ジャニングス,そしてチャールズ・チャプリンの7人の名前を一楽章ずついただいた作品です。彼の大編成ものは奇声の音楽的な制約に囚われない《穏健な自由さ(前衛性)》がありますが,ときにそれが大味なものになりがちで,お薦めできるものは多くありません。この作品はそんな中,数少ない佳作。ふわふわと中空を舞う天女のようなオンド・マルトノの神秘的な響き。伏し目がちに彩りを添える弦。それらの効果を最大限に活かした好内容の管弦楽作品として,最も鑑賞に堪えるものといえそうです。いっぽうカップリングの『バラード』は比較的初期に書かれた作品らしく,フォーレの『バラード』を範にしたと思われる,優美で甘いフランス・ロマン派の美学が溢れた佳品。地味ですが,彼の美旋律家ぶりが良く出た作品として,落とすことのできないものといえましょう。モンテカルロ響の演奏は,やや線が細いながら良好です。

★★★★☆
"Sonata for Horn / Morceau de Lecture / Fifteen Pieces / Sonneries" (ASV : CD DCA 716)
Barry Tuckwell (hrn) Daniel Blumenthal (p)
バロックを始めとする古典によく学んだ旋法基調の美旋律と,繊細この上ない5音階ベースのハーモニック・ランゲージを組み合わせ,独自の筆致で書かれるケックランの器楽作品は,同時代の他の作曲家の中には見ることのできない瞑想性と,柔和で陶然とした佇まいに溢れたもの。近代に至って行き着くところまで行ってしまったバタ臭い形式や調性感を,バッハ以前に立ち返った旋法表現の薄め液によって希釈する。その水彩画のように透明感のある音作りは,ドビュッシーが後年目指した美意識に通じるところがあります。フレンチ・ホルンのための作品を集めたこのCDでも,そうしたケックランの持ち味は変わりません。やはり,中世音楽によく学んだことを伺わせる擬古典的な旋律美と,近代的な和声をモデストに絡ませた,アルカイックで柔和な表情はこの人ならではです。さらに輪を掛けて素晴らしいのが演奏。慎み深く,しかし要を得たブリュメンタールの助演を受け,ホルンのタックウェルが繊細極まりない演奏を披露。全く音が割れないソロは技巧的にも見事としか言いようが御座いません。

★★★★
"The Music for 2 Pianos :
Suite op.19 / Le Portrait de Daisy Hamilton / Quatre Sonatines Françaises / Danses pour Ginger / Suite op.6" (SME : 89618)

Yaara Tal, Andreas Groethuysen (piano)
随分と発掘の進んだケックランのCDカタログにあっても,滅多に録音のないジャンルがピアノ連弾曲。そこに殴り込みを掛けてきたのが本盤でした。もちろん『組曲:作品19』以外大半が世界初録音。素晴らしい企画に何をおいても喝采です。しかもこのCD,演奏も滅法好い。演奏者の2人はイスラエルとドイツの国際結婚カップル。これまでにも少なからず録音しており,4枚がドイツ・シャルプラッテン賞を獲得,さらに1998年にはドイツ音楽アカデミー主催のカンヌ・クラシカル・アワードでエコー賞を獲得するなど海外では評価も高く,実際その粒立ちとメリハリ,並みの技量ではありません。ケックランなんかに注目してくれたことを感謝するばかりです。やや擬古典度高めですが曲も好いです。なお,ジャケット写真はケックラン自身の撮影とか。

★★★★☆
"Le Saxophone Lumineux : 15 etudes / 7 pieces" (Chandos : CHAN 9803)
Federico Mondelci (sax) Kathryn Stott (p)
そういえば,ケックランの作品集が,全体としてはかなりの数に上っているにも拘わらず,何故かサックスとピアノのために書かれた作品集だけは殆ど見たことがありませんでした。それもその筈。この『サックスとピアノのための作品全集』は,本盤でソロを取るイタリアのサックス奏者フェデリコ・モンデルチ氏による原典版をもとにした,いわば発掘もの。なんでも彼は1979年にボルドー音楽院へ留学していた当時にケックランの『練習曲』と出会い,その原典版をケックランの子息イヴ氏の助言のもと,国立パリ図書館で発見した・・というのが,この2つの世界初録音(ただし『7つの小品』は原典版として世界初録音)の生まれた経緯のようです。サックスというのは意外に歴史の浅い楽器で,発明者アドルフ・サックスの肝いりでパリ音楽院に講座が開設されたのは1857年。しかも間もなく不人気で閉じられてしまい,次に開講されたのは1942年。あのマルセル・ミュールによってだったというくらい。フルートのための作品が一杯あるにも拘わらず,近代ものにサックスのための作品が少ないという事情を考えれば,もともとその音色はフランス人の肌には合わなかったんでしょう(逆にアメリカ人の肌には適って,ジャズが生まれた)。再開講時,既に70を超える高齢だったにも拘わらず,いち早くこの新しい風に呼応して,2作品を書いたケックランの好奇心旺盛さには驚くばかりです。『練習曲』だけに,多彩な転調技法とかっちりとしたリフの連なりが支配する明るい色調が印象的で,思わずミヨーの『協奏的二重奏曲』を思い出してしまいました。独奏曲を多く書いているオーボエ曲に比べ,サックスの響きに違和感があったのかピアノの和声が豊饒なのも嬉しいです。穏健で美しいケックラン・ワールド全開なお薦め作。

★★★★☆
"Chant de Linos / Sonate pour Flûte et Piano (Jolivet) / Sonate pour Piano et Flûte / Primavera (Koechlin)" (Claves : CD 50-9003)
Daniel Cholette (p) Philippe Racine (fl) Robert Zimansky (vln) Monika Clemann (vla) Curdin Coray (vc) Xenia Schinder (hrp)
アコール盤にも参加してフルートを吹いていたフィリップ・ラシーヌが,レーベルを変えて制作した裏盤がこれ。カップリングは,同じく旋法的な作風をとりいれながらも,ケクランとは反対にバーバルで野趣溢れる作風を得意としたアンドレ・ジョリヴェの代表曲。まるで陰と陽のような選曲になってます。しかし,他に録音をお見かけしない『プリマヴェーラ(五重奏曲)』が聴けるのは美点。上記アコール盤でも共演済みのスイスの名手ダニエル・コレットと,フィリップ・ラシーヌのフルートによる演奏。フルートは息も多いですし,スイス楽壇の演奏だからか少し重い気がしますけれど,なかなかの好演です。カップリング盤ながら演奏も好く,何より『プリマヴェーラ』が好く書けた作品なので,余裕があれば是非お試しいただきたいところです。

★★★★
"Les Confidences d'un Joueur de Clarinette / Sonatine No.1, 2 pour Hautbois d'amour et 9 Instruments" (Gallo : CD-1055)
Armin Jordan (cond) Kammer Ensemble de Paris
スイスでの活動が目立つアルミン・ジョルダンとパリ室内アンサンブルは,このレーベルから数枚の作品集を出している団体。ヤン・ノヴァークという,滅多に録音されない作曲家に2枚ものヴォリュームを割いて作品集を作る,なかなかに男気のある楽団です。おそらくこの団体が作った最初のフランスものとなる本CDで選ばれたのがケックラン。それも録音を見たことのない『あるクラリネット吹きの秘密』なる作品。何とも好事家的でマニアックなこういう団体が居てこそ,消費者の選択肢は豊かになり,音楽業界の懐も教養も深まるというものでしょう。珍しい『秘密』は,ロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」をもとにした『燃ゆる茂み』やキップリングに着想した『ジャングル・ブック』と同様に,アルザス地方の小説家エックマン=シャトリアンの小説をもとにしたもの。50分を超える大部は18曲から構成。各曲ごとに語りが入り,クラリネットとホルンの独奏(一部合奏)が加わるという,かなり変則的な内容。古典に良く学んだケクランらしく,その旋律はバロック趣味に富んでいますが,今まで録音がなかったのも納得してしまいました。音楽ファンとしては,むしろ併録された2つの10重奏曲が聴きものなのでは。こちらは先に出回っているレンゼのオーボエ室内楽作品集でも聴けるモデストな佳品です。

★★★★
Charles Koechlin "Les Chants de Nectaire" (Bayer : BR 100 106 CD)
Christina Singer (flute)
以前,ユビュ王さんからお薦めいただいて買おうと思っていたケックラン1944年の大作『ネクテールの歌』です。原曲は各32曲が三部の合計96曲からなる大曲ですから,当然一枚には収まりません。本盤は抜粋盤ということになります(レーンデルト・デ・ヨンゲの演奏で,5枚組の全曲版がBastaレコードから出ていましたし,最近新たにピエール=イヴ・アルトーの吹いた三枚組がSisypheから出た模様です)。ご承知通りの古典に良く学んだ理論家で,五音階基調の透明感溢れる旋律美に大きな特色のあるケックラン。とはいえ,一枚べったり和声なしは幾ら何でも持たないだろうと思って遠慮していました。反省しなければなりません。かっちり熟慮された旋律であれば,和声なしでも和声を感じさせることができると雄弁に物語る逸品。これは素晴らしい。ケックランらしい,古典に良く学んだことを雄弁に物語るアルカイックな旋律美に,ドビュッシアンらしい進取の気性を無理なく融合。モーダルでいて慎ましやか。女性的なデリカシーと清明さに満ちた音世界です。フルートを吹くクリスティーナ・ジンガー女史は,シュトゥットガルト音楽院でロベルト・ドーンに師事し,オーレル・ニコレ,ペーター・ルーカス・グラフにも指導を受けたことのある人。1992年からシュトゥットガルト放送管の団員さんをなさっており,以前出たフルート入り室内楽選でも一部でフルートを吹いていた《ヘンズラーの一味》です。音色はややくすみがあって重く,音量を上げたとき時折音が濁るところに若干の改良の余地はありますけれど,演奏は地方人とは思えないほど良質。技巧的な不安はほとんど感じません。私同様「取り敢えずいきなり三枚組を買うのは博打すぎ」と仰る方には,良いお試し盤になるんじゃないでしょうか。

★★☆
"Oeuvres A Cappera :
Choeurs Religieux A Cappella / 15 Motets de Style Archaïque" (Skarbo : D SK 2972)

Gilbert Martin-Bouyer (dir) Ensemble vocal Français
指揮を担当するジルベール・マルタン=ブーイエが中心となって,1992年に創立されたフランス合唱アンサンブルによる,ケックランの珍しい合唱曲の録音です。バッハを敬愛し,旋法と対位法の優れた書き手でもあったケックランのアルカイックな魅力は,こうした宗教曲や合唱曲に色濃くあらわれます。果たしてここに収められた作品は,晩年のケックランらしい深い思索性と高い品位を併せ持つ,大変に優れた作品となっている。しかし一方で,これらはどれもかなりの難曲。残念ながらこのフランス合唱アンサンブル,それを謳いこなすにはやや力量不足でした。正直なところ,誉められた歌唱ではありません。層の厚いフランス。もっと素晴らしい合唱団は,地方にだって幾らでもいるでしょうに。何でこんな冴えない合唱隊に歌わせたんでしょうかねえ。作品の珍しさと出来映えに投資しようという方以外には,手をお出しにならないほうが…。

★★★☆
"L'Abbaye / Choral / Trois Sonatine pour Orgue / Choral en Fa Mineur" (Skarbo : DSK 2034)
Gilbert Martin-Bouyer (cond) Jean Galard (org) Ensemble Vocal Francais
あっしの脳内において,これまで聴いたフランスの合唱団中,最低の座に君臨している仏歌唱アンサンブル。二度と聴くことはあるまいと思ってましたが・・スカルボさん懲りずにまた起用。ただ今回はジャン・ガラールの風琴演奏によるケックランのオルガン作品集中,『大修道院』のみの参加。メインは珍しいケックランの風琴作品集ということになります。ガラールは1979年からボベの聖ピエール教会でオルガニストを務める傍ら,ボベの国立音大で教鞭を執る人物。デュティーユを福々しくしたようなお顔立ちそのまま,やや扁平ながらまったりと穏やかな演奏を披露します。ケックランのオルガン曲は,意外にも形式感明瞭かつ保守的な筆運びで,管弦楽に聴ける神がかった和声遷移感覚は希薄。凝った転調をしている・・の範囲内で充分理解可能な穏健さは,正直彼らしくないとさえ感じるほど。彼は同世代には珍しく,オルガン・スクールにあまり浸からずに通り過ぎましたから,良くも悪くもそれがポスト・デュリフレの不穏なオルガン曲とも,それ以前の格式ばったオルガン曲とも違う,どこか庶民的な人懐っこさを秘めた曲想に反映されたのでしょう。本盤最大の聴きものは,蓋し1899年の初期作品『大修道院』ですか。まだ硬さの残る筆致ながら,一歩先んじたフォレの『レクイエム』を大いに意識したであろう禁欲的かつ清明な仕上げにびっくり。ケックランが他ならぬ彼の弟子だった事実を鮮やかに想起させずにはおきません。それだけに,歌唱が「?」なのはいかにも残念。10年経っても相変わらず進歩のない彼の合唱団は,相変わらず声質もアーティキュレーションもバラバラで「フェリーさん・・アンタも演奏家の端くれだろ・・?」と溜息をつくしかありませんでした・・なんでコイツらやねん!

★★★★☆
"Oeuvres pour Haubois :
Sonatine pour Haubois d'Amour avec Accompagnement de Flûte, Clarinette, Harpe et Sextuor A Cordes / Sonate pour Haubois et Piano / Monodie pour Cor Anglais" (Audite Schallpltten : 97.417)

Lajos Lencsés (ob, e-hrn) Shoshana Rudiakov (p) Mitglieder des Radio-Sinfonieorchesters Stuttgart
ケックランはフランスの作曲家であり,作風もフランス的です。にもかかわらず,彼に限っては,むしろドイツ方面で,よほど正当に評価されている。仏近代における彼の立ち位置を示唆した,まことに興味深い事実ではないでしょうか。こうした海外での再評価を牽引することになったのが,シュトゥットガルト放送管の首席オーボエ吹きラヨシュ・レンチェーシュでした。本盤は彼が初めてケックランと大々的に向き合った作品集で,ドイツ・シャルプラッテンから出たもの。擬古典ベースのアルカイックな形式感と,仏近代ならではの夢うつつな旋律美が溢れ出す楽曲は,素晴らしい出来映えの演奏で固められ,録音が出た当時は,アコール盤に次ぐマスト・アイテムとなったものです。恐らく,彼の周辺の面々にも真価が伝わったのでしょう。シュトゥットガルト放送管は間もなく団員総出でケックラン贔屓を始め,21世紀を跨ぐ頃には,世界で最もケックランに優しい楽壇へと躍進することになりました。

★★★★☆
"La Princesse de Clèves (Françaix) Sarabande et Allegro (Glovlez) Adagio (Hugon) Pièce / Shylock (Fauré) Choral sur le Nom de Fauré / Vocalises (Koechlin) Pièce en Sol Mineur / Sérénade (Pierné) Aria (Bozza) 15 Portraits d'Enfants (Françaix)" (Capriccio : 67 064)
Lajos Lencsés (ob, e-hrn) Alain Moglia, Patrick Strub (cond) Orchestre de Chambre National de Toulouse : Radio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR
相変わらずフランス物にとってもお優しいシュトゥットガルト放送のオーボエ吹きレンチェーシュさん。2003年吹き込みの本盤でも,またまたフランスべったりプログラムを組みました。前作までとはうって変わって本盤では,トゥルーズ室内管とシュトゥットガルト放送管が,持ち回りで後ろを固めての協奏作品集。恐らく,選曲の段階から,ジャケットに象徴されるイメージの作品を作ろうと,明確な方針を立てていたのでしょう。どの曲をとっても,擬古典ベースの外連味のない曲構造の上で,極めて穏健かつ控えめな色気を放つ和声が花ひらく。喧噪の大都会を離れ,田園へと降り立ったモダニストたちが,かわるがわる,自らの大切に手入れしている田舎屋敷と秘密の花園を見せてくれるかのような,穏やかな曲がずらりと並ぶ選曲に快哉を叫びました。グロブレスやユゴンの秘曲に聞こえる,パスカルやティリエ彷彿の趣味の良さにも溜息を禁じ得ませんでしたが,何にも増して驚いたのは,標題にも選ばれたフランセの『クレーヴの女王』。ミヨー後年の緩楽章を,より外連味なくたおやかに校正したかの如く,穏やかな佳品。小人がぴょこぴょこ跳ね回るような,戯画的な曲ばかりしか書かないヤツだとタカをくくっていたこの作曲家が,これほど田園詩風の叙情性豊かな曲を書くとは。これを聴くだけでも,本盤を入手する価値は充分だと思います。少し音が硬くなり,細部のコントロールに少し不安を残すものの,緩やかな曲が揃う本盤では技巧もほぼ気にならないソリスト。背後を固める管弦楽。細かいアラを除けばいずれも好演。良い意味で,BGMにこれほど好適なCDもないでしょう。ジャケットが軟弱でも結構結構。後はこれを聴く機会さえ持たせることができれば,きっと仏近代を見直す部外者は,かなりの頻度で出現すると思います。

★★★★
"Trois Pièces Brèves (Ibert) : Printemps (Tomasi) : La Cheminée du Roi René (Milhaud) : Septuor (Koechlin) : Quintette no.1 (Françaix) : Scherzo (Bozza)" (BIS : CD-536)
Berlin Philharmonic Wind Quintet
ベルリン・フィルハーモニーの構成員5人が集まって組織されたこの楽団,言うまでもなく通常は古典や前期ロマン派などがレパートリー。彼らゲルマン人の音楽史観では印象派なんぞワグナーからシェーンベルクへと移行する途上に咲いた突然変異の仇花に過ぎないわけで,滅多に録音してくれるはずもありません。このCDはそんな楽団が残してくれた,非常に珍しいオール・フランス・プログラム。選曲もトマジにボザ,ケックランと,つまみ食い企画のわりにはかなり硬派でマニアックなうえ,天下のベルリン響の構成員らしく演奏技術が素晴らしいです。じゃァどうして4つ星なんですか?と仰るあなたは鋭い。選曲をみても,彼らの仏ものに対する知識はかなりのものでしょう。そんな彼らが選んだゆえにこそその選曲が,却って彼らの音楽観を反映しているのですね。和声は希薄で,細かいリフが交錯する対位法様式のものばかりなんですよ。古楽通のケクランにロマン派回帰のミヨー,通俗的ながらやはり懐旧的なフランセという人選,そして,トマジとは思えないほど擬古典的な『春』・・一見無作為なようでいて,実はかなり意図的なものだと思った次第です。演奏は(アルバン・ベルク四重奏団のドビュッシーがそうだったように)技術的には大変高水準。でありながら,どこか無機質な響きが特徴です。

★★★☆
"Songs by Charles Koechlin" (Hyperion : CDA 66243)
Claudette Leblanc (sop) Boaz Sharon (p)
20世紀ケックランの,つらつらとたゆたう旋律美が堪能できるこの歌曲集は,入手至難なマゲロン盤を除くと,今のところケックランの歌曲をまとめて聴ける唯一の盤です(その後,上記の管弦楽付帯の歌曲作品集が出ましたけれど,ピアノ伴奏版に関してはいまだこの2盤がメインです)。ソプラノのクローデット・リーブランク(ルブラン)と,ピアノ伴奏のボーツ・シャロンのコンビは,忘れられたフランス近代歌曲の発掘にご執心のようで,この他にカプレの歌曲集も録音。ピアノのシャロンさんは,ご自身でもドビュッシーの録音もなさるなど,仏近代に優しい方々です。本当なら満場一致で推薦と行きたいところなのですが,いまいましいことに本盤,肝心かなめの歌唱力がもう一つなんですよ。もともとはかなりの美声であったのでしょう。しかし,既にこの録音時には,お太り遊ばしたせいなのか,やや声色が脂肪層に反響し,くぐもってしまっております。発音もカナダ訛なんでしょうか,妙に巻き舌が強調され,聞き難いことおびただしい。そんなわけで,あまり強くお薦めできるものではありません。レーベルならTimpani辺り,歌手で言えばアニュス・メロンさんとか,ヴィルジニー・ポションさん辺り。録音してくれないですかねえ。

★★★★
"Mélodies :
Rondels / Poèmes d'automne / Villanelles / Trois Mélodies / Novembre / Le Repas Préparé / Accompagnement / Soir Païen" (Maguelone : MAG 111.113)

Michele Command (sop) Christophe Durrant (p)
仏マゲロンは国内ではあまり流通しておらず,カードが使えず通販のできない人にとっては入手困難。そこから出たこのCDは,目下入手可能な数少ないケックランの歌曲集です。皮肉なことに,入手平易なハイペリオン盤の歌がヒドイのに対して,入手の難しいこちらのほうが実力者の歌唱で出来が良い。早いところティンパニあたりが歌曲集を出してくれないもんですかねえ。収録された歌曲は,作曲者がまだパリ音楽院在学中の作品が中心。ドイツ・リートを軟弱にしたような凡庸な習作の域を出ず,後年開花する深い内省性を聴ける歌曲がハイペリオン盤より少ないのも二重の皮肉といえましょう。それでも世紀の変わり目を境に,みるみる書法充実。全ての仏近代ファンにとっては,軟弱なドイツ・リート風から一気に神秘主義的傾向が深まる後半の数曲のためにこのCDの存在価値があると言っても過言じゃ御座いません。その後,彼の歌曲については,ジュリアン・バンゼの女声にシュトゥットガルト放送響が伴奏した,素晴らしい録音が出ましたから,まず一枚と仰る方は同盤をお薦めします。(付記:本CDの入手に際してはmyaさんのご助力を頂きました。有り難うございます)

★★★★
"Sonate pour Alto et Piano (Koechlin) Sonate No.2 (Milhaud) Textes (Mihalovici) Sonate Concerto No.6 (De Mondonville)" (INA : IMVO29)
Ernest Wallfisch (vln, vla) Lory Wallfisch (p)
仏視聴覚研究所(INA)はひと頃,収蔵する歴史的録音のアーカイブから,山のようにCDをプレスして世に送り出し,好事家を驚喜させました。本盤もそのひとつで,ルーマニア出身のデュオ=ウォールフィッシュが残した2種類の音源を併録しています。意外に思える彼らのフランス贔屓は,作曲者たちと同時代人な二人の生きた交流の所産であったことが,書き下ろされた奥さんのエッセイから明らかにされる・・というブックレットの趣向はさすが研究所制作。心憎いばかりです。弦を担当するエルネストは1920年フランクフルト出身。幼少期にルーマニアのブカレストへ移住し,アマチュアのヴァイオリン弾きだった父に影響されて楽器を手にします。ブカレスト音楽院へ進むまではヴァイオリンがメインだったものの,15才でヴィオラに転向。3年後にプロとなりました。在学中に出逢った二人は,1944年に結婚。大戦後の1946年に,二人の演奏を聴いたメニューインの援助で渡米し,1964年から1979年に世を去るまでノーザンプトンのスミス・カレッジで教員となりました。さすがに死を目前にした1979年のミヨーとミハロヴィチの演奏はすっかり音色もくすんで弱々しくなり,指板を抑える手の震えで所在なげな儚さと不安定感が乗ってはいますけれど,却ってそれがメニューイン効果をもたらし,あどけなく無垢な佇まいを与えて悪くありません。個人的に最も関心のあったミハロヴィチはジョリヴェ風の掻きむしり系疑似無調でややがっかりでしたが,1957年に吹き込まれたモノラル録音のケックランの演奏などは,仏人の演奏にはない忍び泣きにも似た抑えめの音圧と重いビブラートが,原曲に穏やかな恨み節を与え,実に素晴らしい。