Lの作曲家




ポール・ル・フレム Paul Le Flem (1881-1984)

近代フランスの作曲家で最も短命だったのがブーランジェとすれば,103才の天寿を全うしたフレムは間違いなく最長寿の作曲家と言えよう。1881年3月19日コート・ダムールのルザルドリュー生まれ。幼い頃に両親と死別。ブレストを経て1899年にパリ音楽院へ進み,シャルル・ウィドール,アルベール・ラヴィニャックに師事。同時にソルボンヌ大学でベルクソンから哲学を学ぶ(この頃ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」の初演を聴き,強く感銘を受ける)。1902年に音楽教師としてロシアへ出向するが,このころロシア国民学派からも影響を受ける。スコラ・カントールムへ進み,ダンディ,ルーセルに師事。その後,ルーセルの後を継いで対位法の教鞭を執り,シャルル・ボルドの後任として聖ジェルヴェ教会聖歌隊の指揮者にも就任した。批評家としても活躍。1922年から1938年に掛けて経済的事情から『コメディア』誌で健筆をふるった。彼の作風は,初期にはダンディからショーソン,ドビュッシーの線に連なる,後期ロマン派の嫡流に位置し,印象主義と国民学派の影響を取り入れた朴訥,穏健な作風を特徴とする。その後大戦や経済的事情もあって一旦は作曲から遠ざかるものの,1930年代後半ごろに再び筆をとるようになり,より大規模な作品にも挑戦。シュミットやストラヴィンスキーの語法も採り入れて,独自の緻密な作風を完成した。1981年に故郷へ戻り,1984年7月31日,ブルターニュ地方のトレギエにて没。(関連ページ:ミ シェル・レム=ポール・ル・フレム大学教授


主要作品 
※Gonin, P. 2000. Vie et oeuvre de Paul Le Flem. Presses Universitaires du Septentrion.入手(二巻本)。
時間が出来次第,作品表を全面改訂します(現在のは出版されたもののみです)。

歌劇/バレエ音楽 ・オーカッサンとニコレット Aucassin et Nicolette (1909) {vocal, choir, strings, hrp, p, org}
・春の祝祭 la fête du printemps (1936/1937) {choir, sax, tnr, ondes-martenot}
・サン・マロの夜うぐいす le rossignol de Saint-Malo: fantaisie lyrique tragi-comique en un acte (1938)
・呪われし者 la maudite (1968) {sop, tnr, btn, choir, orch}
管弦楽曲 ・海へ en mer (1901)
・交響曲第1番イ長調 première symphonie en la majeur (1906/1908)
・幻想曲 fantaisie pour piano et orchestre (1911) {p, orch}
・管弦楽のための舞曲 danses pour orchestre (1912)
・死者のために pour les morts (1912/1920)
・村 le village (1943)
・「海の魔術師」の2つの間奏曲 deux interludes de magicienne de la mer (1947)
・交響曲第2番 deuxième symphonie (1957/1958)
・交響曲第3番 troisième symphonie (1967)
・交響曲第4番 quatrième symphonie (1971/1974)
映画音楽 ・エモーションズ emotions (1939) {orch}
・フランスの偉大な庭 le grand jardinier de France (1942) {fl, ob, cl, bssn, crnt, tp, tb, timbal, strings}
・深紅の磯 côte de granit rose (1954) {fl, ob, bssn, vln, vla, vc}
室内・器楽 ・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour piano et violon en sol mineur (1905) {vln, p}
・ピアノ五重奏曲 quintette (1905) {2vln, vla, vc , p}
・砂浜の中を par grèves (1910) {p}
・荒野の向こうに par landes (1907) {p}
・廃れた舞踊 danse désuète (1909) {hrp/2vln, vla, vc}
・古びた十字架像 vieux calvaire (1910) {p}
・4月 Avril (1910) {p}
・7つの素朴な小品 sept pièces enfantines (1911) {p/vln, p/orch}
・シダの詩 chant des genêts (1911) {p}
・デュオニソス dionysos (1943) {onde-m, fl, hrp, cymbal, triangle, tambour}
・小協奏曲 concertstück (1964) {vln, p/vln, orch}
歌曲 ・森の奥に (アルフレッド・ド・ビニュイ詩) au fond des bois (1897) {msp (btn), p}
・キオス島の民謡から mélodies populaires Grecques del'île de Chio (1903) {vo, p}
・忘れられたアリエッタ(ヴェルレーヌ詩) ariette oubliée (1904/1905) {sop (tnr), p}
・4つの歌曲(ヴェルレーヌ/エヴァン/タリ−詩) quatre mélodies (1904-1912) {sop, p, strings}
・5つの十字軍の詩 cinq chants de croisade (1924) {vo, p}


フレムを聴く


★★★★
"Pour les Morts / Sept Pièces Enfanties / Le Grand Jardinier de France, Musique de Film* / Symphonie No.4" (Marco Polo: 8.223655)
James Lockhart / Gilles Nople* (conductors) Rhenish Philharmonic Orchestra
若くして2人の愛息を失ったフレムの悲しみが,静かに聴く者の心を打つ傑作中の傑作「死者のために」は,蓋しラヴェルの名作「亡き王女のパヴァーヌ」と肩を並べる名曲です。この盤のハイライトもやはり同曲ということになりましょう。ライン・フィルハーモニック管弦楽団とロックハートのコンビは,B級野郎の楽園マルコ・ポーロに幾つも録音を残している代表的なB級オケ。細部の弦の鳴動はいかにも頼りなく,管陣営は荒削り。楽壇における戦艦ことベルリン・フィルやウイーン響の如く芯の据わった演奏は,望むべくもありません。しかし,たとえ駆逐艦といえど5分の魂。デリケートに推敲演奏されたこの録音などは,「死者のために」の静謐な美しさも相俟って,聴き手の心に穏やかな感動を呼ぶ仕上がりになっているといえましょう。掉尾を飾る『交響曲第4番』は,次第にシュミット化していった作曲者晩年の,バーバルな作風を聴ける希少な機会を提供しています。

★★★★☆
"2 Interludes de 'La Magicienne de la Mer' / Fantaisie pour Piano et Orchestre / Symphonie No.1 en La Majeur" (Timpani: 1C1021)
Claude Schnitzler (conductor) Marie-Catherine Girod (piano) Orchestre de Bretagne
管見の限り,現在世界に5種類しかないフレムの作品集。その中で一枚をとなれば,私はこのティンパニ盤を挙げます。初期ドビュッシーが残した同名ピアノ協奏曲を思わせる『幻想曲』は,本家譲りの華麗な転調技法と豊かな色彩感が横溢する佳品。これを筆頭に,ドビュッシー好きが標題からも明らかな『海の魔術師』の印象主義書法,ルーセル譲りの新古典主義的な様式美と絢爛たる和声にがっちり支えられた『交響曲第1番』に至るまで,実にバランスの良い選曲。さらにこの盤,演奏陣も素晴らしい。進境著しかったブルターニュ交響楽団のどっしりと腰の据わった演奏は,こののちラッパのオービエと吹き込む幾多の秀盤を早くも予見させますし,自らもフレムの器楽作品集を録音,フランス近現代のマイナー作家のジャンヌ・ダルクと化しているマリー・カトリーヌ・ジロがピアノで参加するというおまけつき。モーリス・エマニュエルの「6つのソナチネ」などは彼女によって日の目を見ました。近代の至宝が多く眠るブルターニュ地方に,仏のローカル・オケ中でも屈指の地力を持った楽団が屹立しているというのは,何とも頼もしい事実ではありませんか。

★★★★☆
"Quintette en Mi Mineur / Sonate en Sol Mineur" (Timpani : 1C1077)
Alain Jacquon (p) Philippe Koch, Fabian Perdichizzi (vln) Ilan Schneider (vla) Aleksandr Kramouchin (vc)
ここ数年のうちに,仏近代を採り上げた音盤数は飛躍的に増加。ロパルツ,カプレやクラなど,かなりのマイナーどころも発掘が進み,一昔前には考えも付かないほど,充実したカタログを呈しつつあります。そのいっぽう,一足早く復刻の進んだフレムは,ルーシン盤以降音沙汰なし。やや取り残された感がありました。そんな状況下にあって,久々にフレムへと目を向け,室内楽の中でも代表作と思われる2つの佳品を収めた作品集が登場。嬉しいことに,ジャン・クラを集中録音して気を吐いたアラン・ジャコンとルービニュイ四重奏団の充実した演奏で聴けるという特典つきです。第一ヴァイオリンのコッホをソリストに迎えた『ソナタ』は,カトリーヌ・ジロとアニック・ルーシンの共演盤がアコールにある演目。さすがにルーシン盤に比べると緩楽章ではやや平坦になり,急速調では僅かに音が痩せる面もあるものの,ベルギー楽壇らしい艶のある音色で,健闘しているのではないでしょうか。しかし,この盤の最大の売りは,やはりかの高名な文筆家ジャンケレヴィチもべた誉めした『五重奏曲』の採録です。長尺の故でしょうか。控えめで伏し目がちな叙情性をたたえた名品でありながら,これまで演奏イマイチなシベリア盤しかなく,おまけに同盤は廃盤。待望久しい録音とはまさにこれです。日向ぼっこする古老のような長閑さはあったものの,どうにもピンボケ気味で冴えないアキテーヌ室内の演奏とは,比較するのも憚られるほど輝きのある美演。この曲の真価を知らしめるに充分なパフォーマンスでの再登場。これを機に,彼の再評価が正しくなされ,ほとんど手つかずのまま眠る他の未発掘曲へも,慈愛の視線が注がれることを祈ります。

★★★★
"Quintette pour Quatuor à Cordes et Piano / Trois Pièces pour Piano" (Cybelia : CY 815)
Centre National de Musique de Chambre d'Aquitaine
ごく最近まで,僅かに4種類しか存在しなかったフレムの室内楽作品集。中でも,最もリリース時期が古く,長年に渡って廃盤となっていた本盤は,2004年になってティンパニから素晴らしい演奏で『五重奏曲』が再録されるまでは,唯一この佳曲を耳に出来る音盤でした。地味で穏健な耳障りの中に,細かい推敲が行き届いた『五重奏曲』は,穏やかなフレムの人柄を偲ばせる瀟洒な佳作。フォーレの室内楽,シュミットの『ピアノ五重奏曲』などを愛聴なさる方なら,間違いなくお気に召すのではないでしょうか。演奏陣はいずれも,国立アキテーヌ室内楽センターに所属。全員ボルドー音楽院の教授だそうです。ピアノのロベール・ベーはかつてEMIから出たラヴェルの室内楽作品集でもピアノを弾いていた人物でしたし,それなりに実績もある布陣のはずですが,演奏は良くも悪くも洒落っ気がなく,音色は垢抜けない上に線も細い。ピッチもやや好くないご様子。温厚で牧歌的な演奏とも言えますが,平生,CDで中央の素晴らしい演奏に馴染んだ耳にはやや不安定かも知れません。(付記:本CDの入手に際しては“よ”さんのご助力を頂きました。有り難うございます)

★★★★
"L'oeuvre pour Piano / Piano et Violon :
Avril / Vieux Calvaire / Sept Pièces Enfanties / Par Grèves / Par Landes / Chant des Genêts / Sonate / Rêverie Grise / Concertstück" (Accord: 202312)

Annick Roussin (violin) Marie-Catherine Girod (p)
ティンパニによって『五重奏曲』と『ヴァイオリン・ソナタ』が再録されるまで,フレムの器楽作品を聴ける唯一の録音だったが本アコール盤。とはいえ『小協奏曲』を除く全曲が1910年代以前の,まだ駆け出しの頃の小品で,いずれも簡素な初心者向けの小品の体。楽曲としての魅力はあまり大きくありません。しかし,その中にあっても,既に師匠フランクの影響のもと,独自の語法を開拓しつつあった青年フレムの並々ならぬ才気を容易に見てとる事ができます。本盤の白眉は,やはりフランクに範をとったと思われる『ヴァイオリン・ソナタ』になるのでしょう。ギョーム・ルクーやウジェーヌ・イザイなど,フランク門下ベルギー楽壇の伝統であるヴァイオリン・ソナタの傑作群に名を連ねようとの意欲に満ちた,得もいわれぬ旋律美に溜飲を下げます。名手ジロ,古楽器風の甘い音色が魅力的なルーシンの演奏も秀逸。



(2001. 1. 16 uploaded)