Lの作曲家




ガストン・リテーズ Gaston Gilbert Litaize (1909-1991)

フランスの教会オルガン奏者,作曲家。本名ガストン・ジルベール・リテーズ。1909年8月11日,ランベルヴィユ近郊のメニル=スュル=ベルヴィット郡ヴォジェ(Vosges, Ménil-sur-Belvitte)生まれ。生後まもなく病に掛かって失明。1917年にナンシーの青年盲学校へ進んでシャルル・マザン(Charles Magin)にピアノ,楽典,合唱法,オルガンを学ぶ。次いでマザンの勧めでパリへ移り,1926年から1931年まで国立青年盲学校に籍を置き,ガストン・レグリエ(Gaston Régulier)にピアノ,アドルフ・マルティ(Adolphe Marty)にオルガンを師事。当時,マルティの弟子だったアンドレ・マルシャルと邂逅して,深く影響を受けた。また1927年10月にはパリ音楽院へ進学。マルセル・デュプレにもオルガンを師事して,1931年に即興演奏とオルガンの両科で一等。このほかジョルジュ・コサードに対位法を師事し1933年に一等を得たほか,作曲法をアンリ・ビュセールに師事し,1937年に一等を得た。1936年に『フラ・アンジェリコ』でロッシーニ賞を受賞。1938年にカンタータ『王の指輪』でローマ大賞第二位を獲得。その後1939年から国立青年盲学校和声法科および音楽評論科の教授となり,31年間に渡って教鞭を執ったほか,1975年からは聖モーデフォッセ音楽院オルガン科教授となって後進の育成にあたった。1930年にメニルモンタンの聖ノートルダム・ドラクロワ教会(Notre-Dame de la Crois, Ménilmontant)のオルガニストとなり,1946年からは聖ザビエル聖堂の終身オルガン奏者を務めるなど,オルガン奏者としても活躍。また,のちに仏国営放送宗教音楽部門のディレクターを務めた。1991年8月5日ヴォジェにて死去。


主要作品

舞台作品 ・カンタータ【王の指輪】 l' anneau du roi (1938)
管弦楽 ・小協奏曲 concertino pour piano et orchestre de chambre (1937) {p, chamber}
・オルガン交響曲 symphonie pour orgue et orchestre (1943) {org, orch}
・パッサカリア passacalle (1947) {org, orch}
室内楽 ・3つの小品 trois pièces (1937) {ob, cl}
・付曲 cortège (1950) {3tp, 3tb, org}
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ sonate pour piano (1935)
・ピアノのための組曲第1番 suite pour piano No.1 (1940)
・ピアノのための組曲第2番 suite pour piano No.2 (1941)
オルガン曲 ・教会オルガンのための12の小品 douze pièces pour grand orgue (1931-1938)
 1) 前奏曲 prélude (1930)
 2) ダブル・フーガ double-fugue (1930)
 3) リート lied (1932)
 4) パストラール風間奏曲 intermezzo pastorale (1932)
 5) 終曲 final (1932)
 6) 悲曲 lamento (1934)
 7) スケルツォ scherzo (1934)
 8) ヴェニ・クレアトルによるトッカータ toccata sur le veni creator (1934)
 9) 祈り prière (1935)
 10) 拍動の遊び jeu de rythmes (1935)
 11) 間奏曲 interlude (1937)
 12) アンジェバンの降誕祭による変奏曲 variation sur un noël angevin (1938)

・全ての時の小ミサ曲 messe basse pour tous les temps (1959)
・バスク風のノエル noël basque (1949)
・5つの典礼風の小品 cinq pièces liturgiques (1951)
・24の典礼前奏曲 vingt-quatre préludes liturgiques (1953-1955)
・全ての時の大ミサ曲 messe basse pour tous les temps (1956)
・ reges tharsis (1984)
・ペンテコスト pentecôte (-) {2org}
・二重奏のソナタ sonate à deux (-) {vo, org /2org}
歌曲/合唱曲 ・オラトリオ【フラ・アンジェリコ】 Fra Angelico (1936) {vos, choir, org, orch}
・トビアスとサラ Tobie et Sara (1947) {choir, org, orch} ...
Claudel詩
・荘厳ミサ missa solemnior pour choeur et orgue (1954) {4vo, org}
・聖母を讃えるミサ missa virgo gloriosa pour trois voix mixtes et orgue (1959) {sop, tnr, bass, org}
・小荘厳ミサ messe solennelle en Français, Schola, congregation (1966) {vo, org}
・アドロ・テ adoro te (1990?) {choir, org}
・復活祭唱歌 chant de pâques (-) {3vo, org}


リテーズを聴く


★★★★★
"24 Préludes Liturgiques" (Solstice : SOCD 207)
Marie-Ange Leurent, Eric Lebrun (orgue)
お弟子さんにしてご夫婦でもある両演奏者の尽力で,このところ少しずつ発掘が進んでいるリテーズの風琴曲。オルガンものに強いソルスティスへ2002年に録音された本盤は,リテーズが1953年に着手し,3年ほどを掛けて書き上げた『24の典礼前奏曲』を収録しています。もともとこの作品は,彼が音楽理論家のジャン・ボンフィルと共同で上梓した【典礼オルガン奏者】なるシリーズ企画のために書いたもので,三巻に分けてスコラ・カントルム出版から順次刊行されました。初期の『12の小品』を,さらにラングレ的な方向へ敷衍。いっそう緻密な和声と高度な旋法表現を駆使し,意匠の凝らされた主題を肉付けの面から現代方向へと押し広げていきます。ただ,作品構成はあくまでも理知的で,ポスト・フランク基調。ラングレのように,憤怒のクラスター爆弾を投下して自己崩壊する瞬間はありませんし,トゥルヌミールのように,蠢動するイレギュラーなリズム配置で蛮族を気取ることもありません。20世紀前半の仏オルガンの方向性を決めた2名の奇人が誇る鋭敏な和声感覚を色濃く踏まえながらも,主題と作品の構成はあくまで見通し良く明瞭。地に足の付いた温故知新の態度といえましょう。「音楽の進歩」がまだ無邪気に信じられた20世紀半ば。テープや偶然性,電子楽器によって,音楽が実験材料と化す状況下。崩壊の手前にとどまった彼の作品が,地味に見えたとしても仕方なかったでしょう。むしろ,こうした作品を正しく評価できるのは,単線的な進歩史観で音楽が語れなくなってしまった現代的状況においてなのかも知れません。録音,演奏とも秀逸。煌びやかでミステリアス,主題がちゃんとクラシックしているリテーズの美点が良く見通せる。目下最もお薦めしやすい録音ではないでしょうか。

★★★★★
"Douze Pièces pour Grand-Orgue" (K617 : K617117 HM 90)
Eric Lebrun, Marie-Ange Leurent (org)
聖ザビエル教会の終身オルガニストだったリテーズは,1909年メニル=スュル=ベルヴィット生まれ。1917年にナンシー盲学校に進んでシャルル・マザンに師事し,次いでパリの国立盲学校,パリ音楽院などで学んだのち,聖ノートルダム・ドラクロワ教会のオルガニストなどを歴任しました。彼と先輩後輩の関係で親しい交流があったデュティーユは,このCDの発売に際して短文を寄稿。ローマ大賞審査にあたって彼が受けた厚意を述懐する内容は,リテーズの暖かい人柄を示した興味深いものです。ここに収録された12のオルガン作品は,このローマ大賞への応募と前後して書かれた小品を集めたもの。彼はパリ音楽院でデュプレに学び,同じクラスにはラングレやメシアンもいましたから,基調はやはりポスト・モダン教会音楽。高度な旋法表現を駆使した,神秘主義的な佇まいはラングレと良く似ている。しかし,ラングレが時折見せる憤怒の表情や,人を喰った曲構成で聴き手を嘲笑するメシアンの姿勢は一切なく,よりフランクの孫弟子を頷かせる温故知新の語り口です。彩色法は同世代人のそれに立脚しつつも,主旋律の書きっぷりは奇を衒うことなく,素直に編み上げていく姿勢が,一方ではやや語り口を平坦にし,強烈な個性の間で埋没する結果へ繋がり,こんにちの知名度になってしまったのでしょう。煌びやかな和声と神秘的な対位法表現という,近代フランス教会オルガンの魅力を,アクの強い個性に辟易させられることなく聴ける彼の書法は,大物二名よりもバランスが良いと思いますし,ローマ大賞を獲るだけの構成力もある。もっと評価されて良い人じゃないでしょうか。演奏はフリュリのオルガン曲も録音しているルブルン氏と,パリの聖ノートルダム・ド・ロレット教会のルーラン女史夫妻。ともにリテーズのお弟子さん。演奏良好です。

★★★★☆
"Missa Solemnior / Reges Tharsis / Adoro Te / Sonate À Deux / Chant De Pâques / Cortège" (Solstice : SOCD 222)
Michel Piquemal (cond) Éric Lebrun, Marie Ange Leurent (org) Choeur Régional Vittoria D'île de France
前衛へ向かうことで《進化》を信じられた当時の音楽史観が,完全に閉塞してしまったこんにち,穏健な創作態度のゆえに忘れられている多くの作曲家の遺産も,改めて評価するべき時期に来ているのかも知れません。特に仏宗教音楽の世界で,この目論見を最も強力に推し進めているのが,かつて自身も仏国営放送の少年合唱団で歌っていたミシェル・ピクマルさん。1978年にピクマル合唱アンサンブルを組織し,その後1987年にイルドフランス合唱団の指揮者となって,半生を当時代人の復活録音に捧げてきました。本盤は,オルガン作品がたまに録音される以外は,まず余所で見かけることのないリテーズの合唱曲にフォーカス。作曲者の直弟子ルブルン氏をオルガニストに迎えたオルガン独奏および連弾曲を含み,今のところ最も多彩なフォーマットでリテーズ作品を愉しめる素晴らしい内容といえましょう。合唱曲に於ける彼の書法は,オルガン曲よりも調性感が安定し,保守的。中世教会音楽に立脚した生真面目な旋律線を,キラキラ煌びやかな近代和声で色づけした温故知新が身上。フランスでいえばデュリフレやボナール辺りに通じる中庸さが好ましい。デュリフレよりも,旋律線はいっそう擬古典的で,単旋律だったらグレゴリオ聖歌と変わらないほど。この生真面目さが裏目に出て,やや忘れられているのでしょう。いい仕事してるのに勿体ないですねえ。それだけに残念なのは,例の如く合唱団の精度が低めなことですか。ロパルツもデュリフレも録音するピクマルさんのお仕事が高い見識に裏打ちされているのは疑うべくもない。しかし,もう少し技術の方も改善できないものでしょうか。先ず聴ける状態にすることが大事,なのは分かりますけど,演奏に留保条件が付いても良いってことにはならんでしょう。



(2005. 10. 12 upload)