Lの作曲家




チャールズ・マーティン・レフラー Charles Martin Tornov Loeffler (1861-1935)

1861年1月30日,アルザス地方のムルーズ(Mulhouse)生まれ。ドイツ系。技師であった父の仕事の関係で,幼少からロシア,ハンガリー,スイスを歴訪。ロシアに移った頃からヴァイオリンを学び13歳でヴァイオリン奏者を志す。ベルリン音楽大学でヨアヒムに付いてヴァイオリンを学び,同時にウォルドマル・バルギエルに作曲を師事。1879年にパリに移り,パリ音楽院でランベール・マッセール(Lambert Massert)にヴァイオリンを,エルネスト・ギローに作曲を師事。この頃フランスに帰化する。1881年にアメリカへ渡り,ニュー・ヨークでレオポルド・ダムロシュ管弦楽団のメンバーとして活動したのち,1882年にボストンへ移り第2ヴァイオリン奏者として,ボストン交響楽団で20年間活動したが,終生フランス音楽に深い愛着と共感を示し,フランスの作曲家とも深い関わりを持っていた(特にフォーレとの親交が深く,彼のヴァイオリン・ソナタ第2番はレフラーに献呈されている)。1903年に作曲へ専念することを決意してボストン交響楽団を離れ,その後は,1924年にジュリアード音楽院の創設に関わり,ボストン歌劇場の音楽監督も務めるなど楽壇との関わりは保ったものの,1935年5月19日に世を去るまで,マサチューセッツ州に小さな事務所を構えながら作曲活動を続けた。印象主義の顕著な影響を示す色彩的な作風を特徴とする。


主要作品※Knight, E. 1993. C.M.Loeffler. Univ of Illinois Press. を入手しました。作品表は時間が出来次第,完全版へ改訂します。

歌劇 ・ヒラリオンの情熱 the passion of Hilarion (1912-1913)
・生の現実 life is but a dream (-)
管弦楽 ・タンタジルの死 the mort de Tintagiles (1897/1900) {2vla-d'amore, orch/vla-d'amore, orch}
・悪魔のヴィラネッラ la villanelle du diable (1901) {org, orch}
・詩曲 poem (1901) {orch}
・異教徒の詩 a pagan poem (1906) {p, e-hrn, 3tp, orch}
・幼少期の記憶 memories of my childhood (1923) {orch}
協奏曲 ・ウクライナの夜 les vieilles de l'Ukraine (1891) {vln, orch}
・幻想協奏曲 concerto fantastique (p. 1894) {vc, orch}
・喜遊曲 divertissement (p. 1895) {vln, orch}
・スペイン風の喜遊曲 divertissement Espagnol (1901) {sax, orch}
室内楽 ・子守歌 berceuse (1884) {vln, p}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1886) {vln, p}...
紛失
・弦楽四重奏曲 イ短調 quatuor à cordes (1889) {2vln, vla, vc}
・弦楽六重奏曲 sextuor à cordes (1885-1892) {2vln, 2vla, vc, b?}
・弦楽五重奏曲 quintette à cordes (1894) {3vln, vla, vc}
・八重奏曲 octuor (1896) {2cl, 2vln, vla, vc, b, hrp}
・2つの狂詩曲 two rapsodies (1901) {ob, vla, p}
・異教徒の詩 poème paien (1901-1902/1903) {13inst./3tp, p}
・カルナヴァル風のバラード ballade Carnavalesque (1902) {fl, ob, as, bssn, p}
・詩曲 poème (1916) {vc, p}
・4つの弦楽器のための音楽 music four stringed instruments (1917) {2vln, vla, vc}
・ histoirettes (1922) {hrp, 2vln, vla, vc}
・ cynthia (1926) {vln, p}
・道化師 clowns: intermezzo for jazz band (1928)
・ norske land (1929) {vla d'amour (b) , p}
・パルティータ partita (1930) {vln, p}
・五重奏曲 quintet (-) {3vln, vla, vc}
・ the long prairée (1930) {sax, vla d'amour, p}
・習作 violin studies (1936) {vln, p}
歌曲
※楽史学レベル
で作曲年不詳の
ものが多いようです。
・夕暮れの諧調 harmonie du soir (1897) {vo, vla, p}
・射手 l'archet (1901) {female choir, vla d'amour, p}
・4つの詩 four poems (1902) {vo, vla, p}
・4つの詩 four poems (1904) {vo, vla, p}
・バビロンの河の畔に by the rivers of Babylon (1907) {female choir, vc, 2fl, org, hrp}
・悲しみのボレロ bolero triste (1908) {vo, p}
・ジュ・ト・ヴィ je te vis (1908) {vo, p}
・戦いに臨んだ者たちへ for one who fell in battle (1911) {8vo}
・神秘 hora mystica (1916) {male choir, orch}
・祈り prière (1917) {vo, orch}
・打て打て太鼓 beat, beat drums! (1917) {choir, winds, ds}
・5つのアイルランド幻想曲 five Irish fantasies (1922) {tnr, orch}
・エヴォカシオン evocation (1930) {female choir, orch}
・祈り prayer (1936) {vo, p}
・森に響する悲嘆にくれた角笛 le son du cor s'afflige vers les bois (-1900)
・セレナード sérénade (-1900)
・うぐいす le rossignol (-1900)
・ひび割れた鐘 le cloche fêlee (-1900)
・忘れられた旋律 timbres oubliés (190-)
・永久の別れ adieu pour Jamais (190-)
・秋の夕暮れ les soirs d'automne (190-)
・孔雀 les paons (190-)
・無邪気な歌 la chanson des ingénues
・ジーグの踊り dansons la gigue
・白い月 la lune blanche
・密やかな夢 rêverie en sourdine


レフラーを聴く


★★★★☆
"The Mort de Tintagiles / Five Irish Fantasies" (New World Records : NW 332-2)
John Nelson (cond) Jennie Hansen (vla-d'mr) Neil Rosenshein (tnr) Indianapolis Symphony Orchestra
生まれはドイツ人の親の間で,音楽的な影響はフランス。さらに後半生はアメリカへ。この経歴がそのまま音になったような作風がレフラーの持ち味です。『ティンタジルの死』は,『異教徒の詩』と並んで,彼の作品で数少ない有名曲。冒頭からジョンゲンを思わせる重厚な主題と,きらびやかな印象主義的和声感覚が溢れ,適度に躍動感がありながら決して晦渋にも,安っぽくもならないのが,彼の作品の大きな特徴でしょう。ベクトル的には,ケルト臭くはないモーラン,ロマン派的なジョンゲン,より叙情的な初期ピストン,少しロマンティックなハンソン辺りに近いでしょうか。演奏はあまり録音にはお目に掛からないインディアナポリス交響楽団。しかし,その演奏は統率が取れ抑揚があり,意外なほど秀逸。唯一の難はややヴィブラートが強いテノールですが,それ以外には欠点も見あたりません。印象主義ファンには一聴の価値が充分にあります。稀少盤なので,見つけたらただちに購入してください。声を大にしてのお薦め。

★★★★
"Carmina Burana (Carl Orff) A Pagan Poem (Charles Loeffler)" (EMI : 7243 5 67569 2 2)
Leopold Stokowski (cond) Virginia Babikian (sop) Clyde Hager (tnr) Guy Gardner (btn) Houston Symphony Orchestra and Youth Boys' Choir / Leopold Stokowski Symphony Orchestra
独善的に作品を改変してしまうことでも知られるストコフスキは,英米圏のカラヤンのような人。いち早く黎明期のステレオ技術に目を付けて録音を行ったり,自分のオーケストラを作ったりと,ワンマンの限りを尽くしました。この録音はその幸福な産物のひとつで,ワシントン・ポスト誌をして「髪の毛が総毛立つ」と言わしめたものです。当然,もともとのアルバムの顔は,オルフの代表作にして,野蛮主義の傑作とされている『カルミナ・ブラーナ』なわけですが,それから50年。すっかり有名になった同曲には数限りない対抗盤が登場。残念ながら楽団がテキサス州のいち楽団に過ぎず,録音も遙か半世紀前な同曲に関しては,聴き手の側が好き放題贅沢を言えるようになりました。そんなこの盤の今日的目玉は,むしろ併録のレフラーでしょう。半音階書法に立脚しながらも,全音階や平行和音を挿入した書法や,ピアノと管弦楽との協奏を基調にした曲想に至るまで,びっくりするほどにドビュッシーの『幻想曲』にそっくり。間違いなく彼らに倣ったものでしょうねえ。フォーレと親しく交流した彼ならではの作品だと思います。半世紀前の録音だけに,現代のものほど肌理の揃った響きを求めるのは贅沢というものですが,古き良きフランスの香気を感じさせる曲想に,その暖かい響きが柔和な人間味を加えていて,いい感じです。

★★★★☆
"Concertino da Camera (Ibert) Rapsodie (Debussy) Poème Païen d'après Virgile (Loeffler) Raymonda (Glazounov) Poème de l'Extase (Scriabine)" (EMI : 7243 5 85240 2 4)
Manuel Rosenthal (cond) Marcel Mule (sax) Orchestre Philharmonique de Paris
先頃,惜しくも亡くなったロザンタール氏は,20世紀前半の仏楽壇を代表する名指揮者。1918年にパリ音楽院へ進み,ジュール・ブシェリ,ジャン・ユレに師事したのち,指揮者の道へ。1934年に仏国営放送管でアンゲルブレシュトの助演指揮者となって名を上げ,20世紀半ばには中心的な存在として君臨。後年はシアトル響でも指揮棒を執るなど,国際的に活躍しました。自身,六人組臭たっぷりの楽曲を遺した作曲家でもあり,アンゲルブレシュト同様,同時代人への理解が深かった人物。本盤は彼が1952年に,パリ管弦楽団と組んで録音した2枚組で,一枚目がマルセル・ミュールをフィーチャーした仏近代サックス協奏曲選,二枚目がロシア近代選です。何しろ半世紀以上前のモノラル録音。音質は決して良くはなく,オケも現代のそれほど肌理が揃っているわけではありませんけれど,同時代を呼吸していた演奏ならではの,夢現の華やかさに溢れた演奏。ロザンタールもさることながら,巨人マルセル・ミュールのサックスは凄い。確かにテンポの遅いドビュッシーなどで目立つ等速ビブラートは少し古臭い気がしますけど,速いパッセージにおいて,余裕たっぷりに軽やかなステップを刻む技量の見事さはさすが巨匠。張りと光沢があり,弾むような抑揚と滑らかなリップ・コントロールが利いた音色も素晴らしい。緊密な新古典様式と多彩な転調技法,新大陸の煌びやかな摩天楼を思わせる陽気な曲想が相俟ったイベールの協奏曲は,ほとんど独壇場。パーカーが彼の公演を聴いてショックを受け,『ウィズ・ストリングス』を吹き込んだのは,ちょうどこの頃に当たります。そりゃショックも受けたでしょう。上手すぎる。

★★★★
"Mélodies" (Voice of Lyrics : VOL 1C 211)
Brigitte Balleys (msp) Laurent Martin (p) Jean-Philippe Vasseur (vla)
既に演奏はいまいちながらコッホがフォローしてくれたレフラーの歌曲集に,今度は素晴らしい演奏内容の競合盤が出ました。フランク・マルタンの『旗手』で素晴らしい歌唱を披露したのが印象に残るバレーズは,ティンパニにオネゲルの歌曲集なんかも録音している一線級の歌手。ベンソン&ヘッジズ・コンクールで優勝したのち,1987年にウィーン国立歌劇場でデビューをして一躍,スターダムにのし上がった人です。ピアニストのマルタンはモニク・アースのお弟子さんで,1973年のマリア・カザルス国際入賞者。アンサンブル・アンテルコンタンポランの一員でもあったチェロともども,既に出ているコッホからの競合盤を遙かに凌駕する豪華な人選で,仕上がりの良さは圧倒的。熱情を絞り出すように語りかけるバレーズの歌唱は勿論のこと,長年パスキエやノルドマン,フォンタナローサら名うてのソリストの伴奏を務めたピアノの,良く力の抜けたデリケートなタッチも好ましいです。少し気になるのがバレーズさん。お年を召されるには10年のキャリア,まだ早いと思うのですが,なんだか跳躍の時,少し声がうわずる・・というかヨレちゃったり,低域を中心に声量が不足して伸びやかさが不足してしまってます。端的に言えば声が痩せている。この若さで・・どこかお悪いんでしょうか。ちょっと心配。収録曲はいずれも,穏健かつ典雅なロマン派の美意識が基調。その穏健な輪郭を崩さぬよう最大限配慮しつつ,旋法のエキゾチックな匂いを漂わせたデリケートなピアノのアルペジオを絡めていく曲想は,さすがにドビュッシーほどの水彩的な色彩感はないですし,独立音楽協会の耳からはやや保守的かも知れません。それでも,新旧の美意識を巧くバランスさせた好ましいもの。こういう良い演奏で聴くと,同じレフラーの作品が退屈じゃなくなるから不思議なもんですねえ(笑)。

★★★☆
"Music for Stringed Instruments / String Quartet / Quintet in One movement" (Naxos : 8.559077)
Cora Cooper (vln) DaVinci Quartet
レフラーは,1882年にボストンへ移住してボストン響の準コンサートマスターとなり,後半生はすっかり彼の地に根が生えてしまいました。何しろ録音の少ない不遇の作家だけに,最も手薄な室内楽のジャンルで,こういうまとまった録音を出してくれたナクソスには感謝の言葉もありません。私事ながら私が彼を初めて聴いたのは,ジョンゲン彷彿の堅牢形式+極彩色和声な『タンタジルの死』だったんですが,その後聴いた歌曲は驚くほどプレ・モダンでしたし,もうひとつの管弦楽作『異教徒の詩』も,ドビュッシーの『幻想曲』っぽいロマン派佳品。どうも,この人の本分はダンディ傍系に色を添えたようなものだったようです。本盤を聴いた感想もまさしく後期ロマン派。ポスト・ロマンの薫りも漂うものの,いたって懐旧的。おそらく秀才型で穏やかな方だったのか,作風は穏健で教条的。起伏に乏しく,ギラギラ才気が煌めくようなところは殆どなし。良くも悪くも地味です。演奏するダヴィンチ・クァルテットはコロラド州を拠点に活動。コロラド・カレッジ器楽科教員を務める傍らデンバー大学レイモント校で在住芸術家,コロラド・スプリングス芸術センターと演奏活動を共催。五重奏で加わるコラ・クーパー女史は隣州のカンサス州立大助教授ですから,中西部界隈で意識の高い地元演奏家が作った・・という体裁になるのでしょうか。さすがに音程には少なからず甘さが目立ちますし,大都会人ほど腰の据わった演奏ではありようがないんですけれど,「ナクソスの」と枕詞を付けるならまだ許容範囲内。近現代のアメリカ作家の録音が身上だそうなので,いずれリエティやハンソンあたりの録音もやってくれるかも知れません。

★★★☆
"Forgotten Songs" (Koch : 3-7428-2H1)
Deidra Palmour (msp) Noel Lester (p) Noah Chaves (vla) Rose Ann Markow (vln)
レフラーは両親がベルリン生まれの作曲家。しかし作曲はフランスでギローに学んだという経歴が示すとおり,印象主義の影響濃い作品を多く遺した人。フォーレからヴァイオリン・ソナタの献呈を受けるほどだったんですから,さぞヴァイオリンは上手かったんでしょうが,後年アメリカに渡ったまま,最後まで故国には戻らなかったため,結局,大きな評価を受けることもないまま生涯を終えてしまいました。フランスでCDになった作品も見あたらない中,彼岸のアメリカでこんなCDが録音されるのも,恐らくはそうした経緯からのものでしょう。歌曲(メロディ)というくらいですから,分厚い和声が売りのレフラーとは思えないほどロマン派寄りの作風。ピアノも分散和音を多用し,ちょっと薄味で穏健な後期ロマン派様式の作風が続きます。しかし主旋律が移調する際などに,経過音にさりげなく挿入される全音階や,弦が入った途端一気に色彩感を増すピアノなど,終生フランス音楽を愛した彼の美学が出ています。演奏陣はローカルで,取り敢えず音程を合わせるので手一杯な歌手,田舎臭くお世辞にも綺麗とはいえない音色でピッチも甘めの弦とも垢抜けしませんけど,ピアノの伴奏は良い。難しい譜面じゃないとはいえ,穏健なタッチでアルバムの品位を上げています。レフラーをご存じない方で,秘曲をお探しの方には,それなりに面白い発見となるのではないでしょうか。個人的には印象主義色濃い0聞澆凌曲辺りが聴き所でした。



(2001. 9.16 upload)