Mの作曲家



アルベリック・マニャール Albéric Magnard (1865-1914)

フランスの作曲家。本名ルシアン・ドニ・ガブリエル・アルベリク・マニャール(Lucien Denis Gabriel Albéric Magnard)。1865年6月9日パリ生まれ。1879年から1894年までフィガロ紙の局長を務めたフランソワを父に持つ裕福な家に生まれたが,幼少期(4才)に母を亡くす。ワーグナーの薫陶を受けて音楽家の道を志し,1886年にパリ音楽院へ進んでテオドール・デュボワに和声法,ジュール・マスネーに作曲法を師事。1888年に和声法科で一等を得たほか,1888年から1892年までヴァンサン・ダンディにも師事した。1896年にはスコラ・カントールムの対位法科の教授となり,後進の育成にあたる。同じフランク門下のロパルツと深い親交を持ち,フランキストの嫡流に位置しながらも,ときに「フランス版ブルックナー」と評されるほど独ロマン派の影響に立脚した保守的な作風をとったことや,作品の多くを敢えて自費出版するほどコマーシャリズムを嫌い,僅か21作品しか遺さなかった自己規制の強さから生涯に渡って不遇。1904年頃からはその状況にも絶望してバロン=スュロワーズ(Baron-sur-Oise)へ半ば隠棲し,世俗との関わりを絶った。1914年9月3日,折から第一次大戦の最中,ドイツ軍兵士によりバロンの自宅で射殺される。(関連ページ:Albéric MAGNARD サラベール社。仏語PDF


主要作品

舞台音楽 ・劇音楽【ヨランド】 Yolande (1891) {1act} ... Magnard台本
・悲劇【ギュルクール】 Gucrcoeur (1900) {3act} ... Magnard台本
・悲劇【ベレニス】 Bérénice (1909) {3act} ...
Racine原作,Magnard台本
管弦楽曲 ・交響曲第1番 symphonie No.1 (1889)
・交響曲第2番 symphonie No.2 (1893)
・葬送の歌 chant funèbre (1895)
・序曲 ouverture (1895)
・交響曲第3番 symphonie No.3 (1896)
・正義への讃歌 hymn à la justice (1899)
・ヴィーナスへの讃歌 hymn à Vénus (1904)
・交響曲第4番 symphonie No.4 (1913)
室内楽曲 ・五重奏曲 quintette en ré mineur pour vents et piano (1894) {fl, ob, cl, bssn, p}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1901) {vln, p}
・弦楽四重奏曲 ホ短調 quatuor à cordes en Mi mineur (1902-1904) {2vln, vla, vc}
・ピアノ三重奏曲 trio avec piano en fa mineur (1904) {vln, vc, p}
・チェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1910) {vc, p}
ピアノ曲 ・3つの小品 trois pièces (1887-1888)
・古風な形式の組曲 suite dans le style ancien (1888) {2p/orch}
・我が希望,我が剣は神を護るがために en dieu mon espérance et mon espée pour ma défence (1889)
・散歩道 promenades (1893)
歌曲 ・愛する人に poème, a elle (1887-1888) {btn, p} ...Magnard詩,「6つの詩曲」第1曲
・夜想曲 nocturne (1890) {sop, p} ...Magnard詩,「6つの詩曲」第4曲,管弦楽配置版あり(紛失)
・アンリエット a Henriette (1890) {btn, p} ... Magnard詩
・詩人 au poète (1890?) {btn, p} ...Ropartz詩
・自然への祈り invocation (1891) {sop, p} ...Magnard詩,「6つの詩曲」第2曲,管弦楽配置版あり(紛失)
・バンドゥージエの泉 ad fontem bandusiae (?-1893) {sop, p} ...Horace詩,「6つの詩曲」第5曲,管弦楽配置版あり(紛失)
・ライン地方 le rhin allemand (?-1897) {tnr, p} ...Musset詩,「6つの詩曲」第3曲,合唱付きの管弦楽配置版あり(紛失)
・4つの詩曲 quatre poèmes (1902) {btn, p} ... Magnard詩
 1) Je n'ai jamais connu les baisers d'une mère: Assez lent,
 2) Les roses de l'amour ont fleuri sur tes joues: Doucement
 3) Enfant rieuse, enfant vivace: Vif
 4) Quand la mort viendra: Modère

・12の音楽詩 douze poèmes en musique (1913-1914) {vo, p} ...
A. Chénier(1-6), Desbordes-Valmore(7-12)詩,紛失


マニャールを聴く


★★★★★
"Symphonies No.1-No.4 / Hymn à la Justice / Ouverture / Chant Funèbre" (EMI : 7243 5 72364 2 3)
Michel Plasson (cond) Orchestre du Capitole de toulouse
ミヨー管弦楽の名録音が印象に残るプラッソンとトゥルーズ管が1983年から7年掛けて完成させたこのCDは,マニャールの管弦楽作品をほぼ網羅した3枚組。記憶が確かなら仏ディスク大賞を獲りました。マニャールの管弦楽作品は最近もティンパニからシャロン氏の遺作となった管弦楽作品集も出ており(未聴ですが幾つか賞を獲り,評判も良いです),彼の中では特に再評価の進んだジャンルと言えるかも知れません。内容は,構成こそ彼が仏版ブルックナーなどという有り難い異名を拝領したのも頷ける,やや懐旧的なものながら,意外性をはらんだ転調技法と,保守的な形式の中で十全に探求された和声はなかなかに精緻。精気に富んだエネルギッシュな曲展開は,同じく薄幸のうちに世を去ったロシアのカリンニコフなどにも通じる,独特の「鬼気迫る官能美」をたたえたものです。デュカやチャイコフスキーあたりも好んで聴く方なら,間違いなくその曲想の充実ぶりに驚かれることでしょう。

★★★★☆
"Quintette en Ré mineur / Trio avec Piano en Fa mineur" (Accord : 200102)
Anna-Katharina Graf (fl) Roman Schmid (ob) Jili Flieger (bssn) Adelina Oprean (vln) Thomas Demenga (vc) Christoph Keller (p)
ケックランの録音で印象を残したスイスの名手クリストフ・ケラーの参加により,アコールが1980年代中頃から数年を掛けて完成したマニャールの室内楽録音。本盤はそのひとつで,録音のなかった2編の室内楽曲を世に知らしめた一枚。ヴァイオリンのアデリナ・オプリーン女史は,ハイペリオンにエネスコのヴァイオリン曲集も録音している人物。近代もの好きな方はご存じかも知れません。後年の作品だったためか,或いはフォレやフランクが後年に冒険を推し進め,室内楽で後期ロマン派様式を拡張しやすい土壌が整備されていたおかげでしょうか。既にその作風は「誰々みたい」という形容を容易には受けつけない,独自の語法へと到達。管弦楽で聴けるポスト・ブラームス主義者の印象とはひと味もふた味も違う,モダンな筆致にびっくり。形式感や調性感は充分に残しつつも,伝統的な後期ロマン派の書法に範を置き,意外性をたっぷり孕んだ転調を利して,延々と拡張されていく長大な主題の充実した筆致は,こののち書かれるロパルツやフレムら,高い旋法性を利したいっそうモダンな室内楽と比べても,遜色ない香気と典雅さを備えたものです。やたら息の音が五月蝿いフルートには少々眉間に皺が寄るものの,演奏も総じて良好であると思います。

★★★★☆
"Sonate pour Violon et Piano / Trois Pièces / En Dieu mon Espérance" (Accord : 220452)
Robert Zimansky (vln) Christoph Keller (p)
マニャールの再評価にいち早く着手したアコールは,まだCDが珍しかった1980年代中頃から室内楽を連続録音。のちの再評価の礎を築くことになりました。本盤は最も早い時期の録音で,ヴァイオリン・ソナタと2編のピアノ小品を収録しています。フォレやフランクの良き模範があったお陰でしょうか。管弦楽ではドイツ好きの目立つ彼が,1901年に書いたソナタは,驚くほどモダン。フランクやルクーの品位を保ちつつ,彼一流の凝った転調と,《穏健なモダニスト》を予見するかの如き分散和音。後の大成が充分予見できる。奏者のシマンスキーは1948年生まれの米国人。ジュリアード音楽院でイヴァン・ガラミアンとサリー・トーマスに師事。1968年にシカゴ独奏者コンペで優勝し,1972年からジュリアード音楽院管のコンサートマスター。1974年からロマンド管のコンサートマスターとなり,1980年にはジュネーヴ音楽院の教授を務めている御仁。1950年グラウス生まれのケラーさんは,チューリヒ音楽院卒。1984年にディゾナンツ誌の編集主幹となって2000年までその地位を務める傍ら,1980年代半ばからフリーのピアノ奏者として活動。あまり派手な経歴はないものの,1980年代以降ちょくちょく出てくるケックラン録音で,その腕が並みのものでないことは立派に証明済み。この録音でも,演奏を牽引しているのは間違いなく彼です。良い意味で教条にくみしない,抑制の利いたテンペラメンタルな揺らしの妙技と,良く力の抜けた,吸い込まれそうに透明でデリケートな打鍵。フーガ技法へ重度に立脚して書かれた初期作品「3つの小品」に,かくも慎み深い叙情性を与えつつ弾けるのは,この人くらいでしょう。

★★★★☆
"Quatuor à Cordes en Mi Mineur, op.16" (Accord : 220 602)
Artis Quartett, Vienne : Peter Schuhmayer, Johannes Meissl (vln) Herbert Kefer (vln) Othmar Müller (vc)
マニャールの再評価に燃えていたアコールは,1980年代半ばから小編成作品に焦点を絞って録音を開始。本盤は1986年に出たもので,1903年作曲の『弦楽四重奏曲ホ短調』を収録しています。収録曲僅かに1編,僅か4曲で39分。この長大さが,作品の性格を端的に反映している。ドイツ起源の「クラシック然」としたロマン派的構成美を頑なに守るいっぽう,出口の見えない保守派美学の閉塞感の中で,懸命に可能性を探ろうとする長老組門下生の姿。すでに先人がやることを皆やってしまった斯界で,彼らに残されていた可能性は,主題を複雑・長大化していくことと,「禁則処理!」のクレームが付く境界線ギリギリまで,半音階を敷衍して調性に揺らぎを与え,和声の非機能美を高めていくことでした。1902年のパリで,ドビュッシーとラヴェルの評価が確立していくのを横目に見ながら,彼はあくまで終わりなき主題敷衍の旅に身を置き,曲そのものが自らの重みと爛熟で落下する寸前まで,しがみつきながらその構造を極大化しようとする。巨大な知の閉塞感と戦っていたがゆえにこそ,彼の作品には溢れる情念とそれを抑制する知の危うい均衡があり,さながら昔日の栄華に想いを馳せる没落貴族の子女のような,品位高く慎みあるエロスがあります。こういう情感は,ポスト・ドビュッシー世代にはないものではないでしょうか。アルティス四重奏団はウィーン音大の同窓生にして,ウィーン及びグラーツ音楽院で教鞭を執る4名が集まり,1980年に結成されたアンサンブル。1983年のケンブリッジ国際,1984年のエヴィアン国際,1985年のイエロースプリングス国際で入賞。その後は故国に戻って,1997年にツェムリンスキー賞を受賞しました。キンキンと張りのある音はいかにも独襖系。ちょっぴり垢抜けしない音色と少し緩いピッチ,長閑なアーティキュレーションは垣間見えますが,演奏技量は達者です。

★★★★★
"Sonate pour Violoncelle et Piano / Sonate pour Violon, Violoncelle et Piano" (Auvidis Valois : V 4807)
Régis Pasquier (vln) Xavier Phillips (vc) Hüseyin Sermet (p)
第一次大戦の勃発により,自宅へと雪崩れ込んできた敵兵から,自宅もろとも燃やされて殺害されてしまった可哀相な男マニャールは,ドビュッシーより年下だったにもかかわらず,フランク的な後期ロマン派書法の美意識を堅持した作曲家。書きっぷり,特に和声面においては保守的なんですが,この人はフォレ同様,旋律美に最大のオリジナリティを秘めていた。経過音的に挿入されてくるピアノの半音階アルペジオが,時に全音階との境界線すれすれまで敷延されながら,ちらちら儚げにロマンティシズムを醸し出す。どこまでも拡張されながら予測不可能な方向へとフワフワ揺らめいていく移調センスは,もはや単純に後期ロマン派の枠内で語るのは困難なほどオリジナリティを持ったもの。美旋律をコアに置き,最後の一歩でフランク世代に踏みとどまった保守派の作曲家としては,フォレと同じくらい自由な水準で曲を書いていたと思うんですがいかがでしょう。本盤に収録された2品はいずれも弦楽器とピアノのために書かれた器楽曲で,チェロ・ソナタは1910年,三重奏曲は1904年と,後年の作。三重奏曲もさることながら,最晩年に書かれたチェロ・ソナタの出来は傑出していると思います。滅多に聴ける曲じゃありませんけれど,幸運なことに本盤,演奏の方も素晴らしい。パスキエのヴァイオリンが少しばかり恰幅が良い(ピッチが大らかな)のは評価が分かれるでしょうが,トルコ出身セルメのタッチは軽やかで水の玉の如く煌めき,チェロは鼈甲のように滑らか。美演という言葉がぴったりの演奏と思います。

★★★★☆
"Six Poèmes en Musique / Quatre Poèmes / A Henriette / Suite dans le Style Ancien" (Accord : 200492)
Eva Csapó (sop) Christoph Homberger (tnr) Niklaus Tüller (btn) Christoph Keller, Katharina Weber (p)
こちらは,マニャールの歌曲集に,ピアノ連弾の『古風な形式による組曲』を加えたCD。ケックランの器楽作品集やオトマール・シェックの歌曲集で素晴らしいピアノを披露している,ジュネーヴの隠れた名手クリストフ・ケラーの参加が嬉しい一枚は,もちろん世界初録音。寡作家だったマニャールの歌曲は,このCD一枚で全て揃ってしまいます。彼の作品はどちらかというとプレ・モダンなもので,曲の機動性が落ちる(つまりは大所帯な)管弦楽では,その重厚さや独ロマン派的な書法が,頑迷さを伴って聞こえてしまうところもありますが,さすが歌曲になると表情がぐっと瀟洒に。分散和音の柔らかなピアノに乗って軽やかに転調する様はなかなかに瀟洒。特に女声を意識した『夜想曲』や『祈り』などになると,フォーレやデュパルクの歌曲集に匹敵するほど慎み深い官能性に富み,作曲者の持つ叙情家ぶりを遺憾なく味わえます。併録の連弾曲はバロックの習作風で,さほど心惹くものではありませんが,近代ファンはまずこのCDから聴くことを薦めます。惜しむらくは少し男声が弱い。ソプラノが上手いだけに勿体ないなあ・・。


(2002. 5. 29)