Mの作曲家


ジャン・フランチェスコ・マリピエロ Gian Francesco Malipiero (1882-1973)

イタリアの作曲家,音楽研究家,ヴァイオリン奏者。1882年3月18日ヴェニス生まれ。1893年にピアニスト兼指揮者であった父ルイージの下,各国を歴訪し,ウィーン音楽院で短期間の音楽教育を受けた。1899年に母方に引き取られてヴェニスへ戻り,リセオ音楽院へ進む。さらにボローニャのマルチェロ音楽院に進んでエンリコ・ボッシに対位法を師事したのち,1913年パリへも留学し,印象主義やフォーヴィズムに共鳴した。その後1921年から1923年までパルマ音楽院で作曲法の教鞭を執る。1938年にバドバ・チェツァーレ・ポリーニ音楽院の院長,次いで1939年にはヴェネチアのベネディクト・マルチェロ音楽学校の校長も務めた。リセオ音楽院時代からイタリア古典音楽に傾倒。生涯の仕事としてモンテヴェルディ,ヴィヴァルディ作品集の校訂編纂に従事したことで知られ,音楽研究者としては高い評価を受けているが,その一方で作曲家としては過小評価の状態に置かれたままである。1880年代に生まれたレスピーギ,ピゼッティ,カセッラとともに,色彩的なオーケストレーションを採り入れつつ,イタリア復古主義音楽を推進。印象主義の影響下に,近代イタリア音楽の確立に力を注いだ。1973年8月1日,トレヴィソ(Treviso)にて死去。


主要作品
 ※Waterhouse, J. 1999. Gian Francesco Malipiero. Harwood Academic Publishers. を入手しました。時間が出来次第,作品表は完全版へ改訂予定です。

舞台作品 ・カノッサ canossa (1911-1912)
・パンテア Pantea (1917-1919)
・7つのカンツォーネ sette canzoni (1918-1919)
・オルフェオ物語 l'orfeide (1918-1922)
・ゴルドーニの3つの喜劇 tre commedie goldoniane (1925)
・トーナメントの夜 torneo notturno (1929)
・アントニウスとクレオパトラ Antonio e Cleopatra (1938)
・カローの気まぐれ i capricci di callot (1942)
・ストラディバリオ Stradivario (1947-1948)
管弦楽曲 ・愛の交響曲 sinfonia degli eroi (1905)
・シンフォニア『海』 sinfonia del mare (1906)
・静寂と死の交響曲 sinfonie del silenzio e de la morte (1909-1910)
・自然の印象 impressioni dal vero (1910-1911)
・間隙と静寂 pause del silenzio (1917)
・ ditirambo tragico (1917)
・幻想の東洋 oriente immaginario (1920)
・チマロジアーナ Cimarosiana (1921)
・沈黙の休止 pauze del silenzio (1917-1927)
・交響曲第1番『四季の如き4つのテンポで』 symphony No.1 in quattro tempi, come le quattro stagioni (1933)
・交響曲第2番『悲壮』 symphony No.2 'elegiaca' (1936)
・交響曲第3番『鐘』 symphony No.3 'delle campane' (1944)
・交響曲第4番『イン・メモリアム』 symphony No.4 'in memoriam' (1946)
・交響曲第5番『エコーによるコンチェルタント』 symphony No.5 'concertante in eco' (1947)
・交響曲第6番『弦楽のために』 symphony No.6 'degli archi' (1948)
・交響曲第7番『カンツォーネ風』 symphony No.7 'delle canzoni' (1948)
・1つのテンポによる交響曲 sinfonia in un tempo (1950)
・黄道十二宮の交響曲 sinfonia dello zodiaco (1951)
・交響曲第8番『小交響曲』 symphony No.8 'symphonia brevis' (1964)
・交響曲第9番『溜息』 symphony No.9 'dell'ahimè' (1966)
・交響曲第10番『アトロポ』 symphony No.10 'atropo' (1966-1967)
・ガブリエリアーナ Gabrieliana (1971)
・対話第1番『ファリャの想い出に』 dialogo No.1 con Manuel Falla, in memoria (-) {small-orch}
・対話第5番『変奏協奏曲』 dialogo No.5 quasi concerto (-) <vla, orch>
・対話第7番 dialogo No.7 (-) <p, orch>
・シンフォニア sinfonia per antigenida
協奏/室内楽曲 ・ヴァイオリン協奏曲第1番 violin concerto (1932) {vln, orch}
・ピアノ協奏曲第3番 concerto per piano e orchestra No. 3 (1948)
・チェロ協奏曲 cello concerto (-) {vc, orch}
・フルート協奏曲 flute concerto (-) {fl, orch}
・ピアノ協奏曲第6番 piano concerto per piano e orchestra No.6 'della machine (-) {p, orch}
・ヴァイオリン協奏曲第2番 violin concerto (-) {vln, orch}
・主題なき変奏曲 variazioni senza tema (-) {p, orch}
・セレナータ serenata (-) {bssn, 10inst}
・未明のセレナータ serenata mattutina (-) {10inst}
・ ricercare and ritrovari (-) {11inst}
・ endecatode (-) {14inst, perc}
室内楽 ・弦楽四重奏曲第1番 『リスペットとストランボット』 quartetto per archi No.1'rispetti e strambotti' (1920) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第2番 『ストロネッロとバラータ』 quartetto per archi No.2 'stornelli e ballate' (1923) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第3番 『マドリガル風』 quartetto per archi No.3 cantari alla madrigalesca (1931) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第4番 quartetto per archi No.4 (1934) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第5番 quartetto per archi No.5 'dei capricci' (-) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第6番 quartetto per archi No.6 l'arca di (-) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第7番 quartetto per archi No.7 (1950) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第8番 『エリザベータのために』 quartetto per archi No.8 per Elisabetta (-) {2vln, vla, vc}
・五重奏曲 sonata a cinque (1934) {fl, vln, vla, vc, hrp}
・田園風即興曲 impromptu pastorale (-) {ob, p}
・ファンファーレのファンファロン le fanfaron de la fanfare (-) {tp, p}
・終わりなき歌(?) canto nell' infinto (-) {vln, p}
・チェロ・ソナタ cello sonata (-) {vc, p}
・チェロのためのソナティナ cello sonatina (-) {vc, p}
・対話第4番 dialogo No.4 per cinque strumenti a perdifiato (-)
歌曲 ・対話第3番 dialogo No.3 con Jacopone da Todi (-) {vo, 2p}
ピアノ曲 ・6つの小品 6 pezzi (1905)
・ la notte del morti (1916)
・煌めき barlumi (1917)
・相貌 rizonanze (1918)
・ベルニ・ムジカーティの2つのソネット 2 sonetti del Berni Musicati (1922)
・3つの前奏曲とフーガ tre preludi a una fuga (1926)
・ hortus conclusus (1946)
・5つの習作 cinque studi per domani (1959)
・対話第2番 dialogo No.2 (-) {2p}

般若堂氏より,邦訳の誤りを1点修正いただきました(2008. 9. 20)


マリピエロを聴く


★★★★☆
"Sinfonia del Mare / Symphony No. 3 / Symphony No. 4" (Marco Polo : 8.223602)
Antonio de Almeida (cond) Moscow Symphony Orchestra
なんでも発掘あるある大事典ことマルコ・ポーロが敢行したマリピエロの管弦楽作品集はまさに,全ての近代ファンにとって驚きの福音でした。イタリアで印象主義の影響を受けた作曲家は俗に,その生年から「’80年組」などと呼ばれますが,この作曲家ではレスピーギが一人勝ち。作曲家としては無名で,ひたすら象牙の塔に籠もり,イタリアの古典音楽の再編に没頭したマリピエロなんて,これまで殆ど誰も注目してくれなかったのです。マリピエロは初期の作品ほど印象主義の影響が濃いので,彼のCDを探す際は前半生のものが狙い目です。このCDでは2つの交響曲が傑作。イタリア風の旋律がレスピーギも吃驚のカラフルなオーケストレーションのうえに十全に展開され,初期オネゲルの『夏の牧歌』や『喜びの歌』,あるいは後年のミヨーを思わせる夢心地のオーケストレーションに,フランス好きの貴方も溜飲を下げることになるでしょう。職人マリピエロの面目躍如です。マルコに良く録音しているオケの中でも安定感は特に高いアルメイダ/モスクワ響の演奏は線が細いながら端正。管を中心にちょっと不安定ですが,繊細な和声を良く鳴らします。まず一枚という方は,彼の出自とフランス趣味のエキゾチズム が最も幸福な形で和合したこのCDを。

★★★★☆
"Sinfonie del Silenzio e de la Morte / Symphony No.1 / Symphony No.2" (Marco Polo : 8.223603)
Antonio de Almeida (cond) Moscow Symphony Orchestra
こちらもマリピエロの管弦楽作品集からの分売。指揮を執るアルメイダとモスクワ交響楽団のコンビは,一般のクラシック・ファンからは軽く見られているようです。そりゃウィーンやパリ,クリーブランドやロンドンの大手オーケストラと比べれば線が細いところもあるでしょう。しかし,舐めちゃいけません。事実彼らの演奏するこのマリピエロ管弦楽作品集は,海外で批評家賞を受賞したほど評価が高い選集。普段のマルコ盤に多く見受けられるような粗い弦の響きを想像して聴くと,まさしく心地よい裏切りを受けることになるでしょう。このCDは数枚に分売された選集のなかでも,最も初期寄りの選曲。厳かな中に色彩的な和声が十全に取り込まれた『シンフォニア』は,本家に比べると,形式を飲み込むような感性のうねり,艶めかしさ,洒脱さがない分,少し間延びして聞こえるところもありますが,イタリア民謡を思わせるエキゾチックな主旋律に妖しく絡むカラフルなオーケストレーションが光る秘曲。しかし,一番の聴きものはここでも,交響曲。初期オネゲルの重厚さと後期ミヨーを思わせる牧歌的でエキゾチックな作風で,印象派ファンも溜飲を下げることになるでしょう。

★★★★
"Sinfonia dello Zodiaco / Symphony No.9 / Symphony No.10" (Marco Polo : 8.223697)
Antonio de Almeida (cond) Moscow Symphony Orchestra
この盤は,5枚にわたるマリピエロの交響曲連続録音の掉尾を飾るもの。国民楽派や復古主義運動に傾倒した作曲家の多くがそうであるように,彼も少しずつ印象主義の手法の影響下から脱却していきます。後年の作品である2つの交響曲は一気に無調的傾向が強まり,様式もますますかっちりとして,前記盤より新古典主義的色彩が強まります。しかし,ここでも一貫しているのはオネゲル的な作風。分厚い和声と凝った対位法の網の目が緊張感を持続します。前述の盤に比べるとバーバルで晦渋度も高いため,印象派ファンなら誰でも聴けるという代物ではありません。オネゲルの交響曲や『前奏,フーガと後奏』などがたまらないという方には,「こんなオネゲル紛いのハイなヤツがイタリアにも居たのか!」と吃驚なさるでしょう。それ以外のファンは,『黄道十二宮の交響曲』がお薦め。上記2枚をお気に召した方なら間違いなくはまります。マルコ・ポーロの演奏陣中では特に安定感の高いアルメイダ/モスクワ交響楽団による本録音,演奏レベルも上々。

★★★★
"La Notte del Morti / Barlumi / Tre Preludi a una Fuga / Rizonanze / Hortus Conclusus / Cinque Studi per Domani" (Rivo Alto : CRR 9810)
Gino Gorini (piano)
マルコのお陰で一気に選択肢が豊かになったマリピエロですが,それでは他のジャンルもとなると,みるみる選択肢が減ってしまいます。このCDはマルコ盤登場による再評価機運のお陰でCD化なった(と思われる)珍しいマリピエロのピアノ曲集。ジーノ・ゴリーニのピアノによるこの録音,1968年のもので,いわばヒストリカル・レコーディングです。作風は驚くほどモンポウ似。少ない音数と無窮動的なリズムと,北欧的な冷たい和声,素朴で飾らないメロディが,思索的で深い内省を感じさせる。オーソドックスなクラシックの世界とはかなり異質なところにある東洋的な美意識に富んだ作品で,このあたりがこれまで殆ど手を付けられずに置かれていた理由なのでしょう。しかし,モンポウも再評価されるくらいマルチ・パラダイム化されてきた昨今です。この浮かばれないもう1人のモンポウも,ぜひ再評価を。

★★★★
"Three Goldoni Comedies / Stradivario / La Cimarosiana / Gabrieliana" (Marco Polo : 8.225118)
Christian Benda (cond) Orchestra della Svizzera Italiana
マルコ・ポーロがなぜかやたらと力を入れているマリピエロの管弦楽作品。おかげで,録音がほとんどなかった管弦楽作品は,かなりまともな演奏で充実したカタログを呈するようになりました。1882年生まれの彼は,世代的には六人組あたりになり,作風もイタリアのエキゾチックな節回しが基調にありながらも,重厚な対位法を利した初期オネゲルの構成力と,後期ミヨーの持つ多調を利したロマンティシズムが好ましく融合したもの。スペインのファリャやトゥリーナのようにこれ見よがしな国粋主義が表出しない中庸を得たセンスと,自ら古典音楽の再編を行って名を残したほどの理論家ぶりは,分かりやすい派手さはなくとも,傾聴に値する立派なもので六人組なみには評価されてしかるべきです。おまけにミヨーやオネゲルと違ってこの人の作品は外れがない!初期と後期で別人のように変わるミヨーや躁鬱病のように現代と近代を行きつ戻りつするオネゲルとは違って,確実にいいものを作ってくれる安定感抜群の職人ぶりはもっと評価されて欲しいものです。収録作品のうち最後の2曲は厳密には編曲作品。イタリア中世の作家チマローザとガブリエリへのオマージュ。同じ80年代組のレスピーギやカセッラらも同じ趣向で編曲作品を遺している。フランスではカントルーブやエマニュエルも同じ事をしており,それにならった彼のイタリア復古主義的側面を垣間見せてくれる作品です。ストラヴィンスキー自作自演盤もあるスヴィツェラ管は名前の通りスイス=イタリアを混ぜた造語が語源だそうで,イタリア=スイス放送の管弦楽団だそうです。一流オケほどきめは細かくないですが,演奏はモスクワ響並みの高レベル。チェコ人ベンダの指揮ともども作品に良く共感した好演を展開しています。

★★★★
"String Quartet (Rota) String Quartet in D major (Respighi) String Quartet No.3 (Malipiero)" (Claves : CD 50-9617)
Nuovo Quartetto Italiano
近代イタリア楽壇を牽引した3人の作曲家の弦楽四重奏を採り上げた作品集です。イタリア四重奏団といえば,ドビュッシーの弦楽四重奏で有名ですが,「新」が付くこちらは同楽団とはあまり関係がなさそう。「ニ長調で」とわざわざ書いてくださったレスピーギのロマン派回帰願望が強いのはある程度予測可能なこのCD,当然ながら購入動機は,聞いたことのない映画音楽作家ロータと,イタリアものでは一番贔屓な作曲家マリピエロの弦楽四重奏曲です。果たして,彼の初期交響曲をそのまま弦楽四重奏にしたような堅実な新古典主義の書法に則って書かれ,しかも適度な色彩感を持った和声が程良い緊張感を持続する。紛れもなく彼の職人芸を示す秀作であると聴きました。一方のレスピーギはカメレオンな彼の作風が良く出たもの。終楽章などには『ローマ三部作』を書いた彼の優れた和声に対するセンスが現れるものの,全体に懐旧的で,彼のファンでもない限り改めて聴くほどのものではない気がしました。これはロータも同様で,フツーのロマン派カルテットです。新イタリア四重奏団は少しヴァイオリンのピッチが甘くなる部分もちらつきますが,極めて抑揚豊かで膨らみがあり,良く四人が協調した好演奏を聴かせています。

(2002. 3. 18 upload)