Mの作曲家



オリヴィエ・メシアン Olivier Messiaen (1908-1992)

フランスの作曲家。1908年12月10日,南仏アヴィニョン生まれ。8才から独学でピアノを学び,11才でパリ音楽院へ進学。ポール・デュカに作曲法,マルセル・デュプレにオルガン,モーリス・エマニュエルに楽史を師事。1931年にパリの聖トリニティ教会付オルガニストとなる。六人組に反発。アンドレ・ジョリヴェ,ジャン・ダニエル=ルシュールらとともに,音楽における人間性の回復を掲げて,1936年に『若きフランス』を組織した。大戦後はさらに非西欧圏の土着音楽に興味を持ち,自然界のあらゆる造化のなかに,人知を超えた創造主の奇蹟を見ようとするカトリック主義的な世界観に基づいて,リズムの音列技法(自然界のフラクタル的なリズム感を採り入れることによる整数的なリズムからの脱却)やミュージック・コンクレート手法(外界の音を用いたテープ音楽)の探求にあけくれた。1932年にスコラ=カントールムで教職に就いたのを皮切りに,1942年から1978年までパリ音楽院教授に就任して作曲法,和声法,音楽哲学ほかの教鞭を執り,ブレーズ,ロリオらを育成。彼らやクセナキス,シュトックハウゼンら戦後の前衛音楽に多大な影響を与えた。1992年4月27日,パリにて死去。(関連ページ:オリヴィエ・メシアンに注ぐまなざし 西村英士氏運営)


主要作品

管弦楽曲 ・フーガ ニ短調 fugue (1928)
・聖餐式 la banquet eucharistique (1928) <orch/org>
・或る魂の純粋な歌 simple chant d'une âme (1930)
・忘れられた捧げもの les offrandes oubliées (1930)
・輝ける墓 le tombeau resplendissant (1931)
・神聖なる秘蹟の讃歌 hymne au saint sacrement (1932)
合唱曲 ・3つの典礼 trois petites liturgies de la présence devine (1944) <p, onde, choir, orch>
合奏/協奏曲 ・トゥランガリーラ交響曲 Turangalîla-symphonie (1946-1948) <p, onde, orch>
・鳥たちの目覚め réveil des oiseaux (1953) <p, orch>
・異国の鳥たち oiseaux exotiques (1955-1956) <p, 11winds, vib, perc>
・クロノクロミー chronochromie (1959-1960) <2xylo, orch>
・7つの俳諧 sept haïkaïs (1962) <p, 13winds, 8vln, xylo, mnba, perc>
・天の都市の色彩 couleurs de la cité céleste (1963) <3cl, xylo, mnba, xylonba, p, 4perc>
・我ら死者の復活を待ち望む et expecto resurrectionem mortuorum (1964) <18woodwinds, 16blass, 3perc>
・峡谷から星たちへ des canyons aux étoiles (1970-1974) <p, harm, hrn, xylonba, vib, orch, 風音器, ジュオホーン, perc>
室内楽 ・主題と変奏 thème et variations (1932) <vln, p>
・幻想曲 fantaisie (1933) <vln, p>
・世の終わりのための四重奏曲 quatuor pour la fin de temps (1940) <vln, cl, vc, p>
・黒ツグミ le merle noir (1951) <fl, p>
・ジャン=ピエール=ゲゼックの墓 le tombeau de Jean-Pierre Guézec (1971) <hrn>
オルガン曲 ・旋律のスケッチ esquisse modale (1927)
・スコットランド風変奏曲 variations Écossaises (1928)
・魂の愛すべき主 l'hôte aimable des âmes (1928)
・二枚折絵 diptyque: essai sur la vie terrestre et l'éternité (1930)
・永遠の教会の出現 apparition de l'église éternelle (1932)
・キリストの昇天 l'ascention: transports de joie d'une âme devant la gloire du Christ qui est la sienne (1934)
・主の降誕 la nativité du Seigneur (1935)
・栄光の御体 les corps glorieux, sept visions brèves de la vie des ressuscités (1939)
・精霊降臨祭のミサ messe de la pentecôte (1950)
・オルガンの書 livre d'orgue (1951)
・献堂式のための唱句 verset pour la fête de la dédicae (1960)
・聖なる三位一体の神儀への瞑想 méditations sur le mystère de la Sainte Trinité (1969)
ピアノ曲 ・シャロットの女 la dame de Shalott (1917)
・大天の悲しみ la tristesse d'un grand ciel (1925)
・前奏曲集 préludes (1929)
・幻想ブルレスク fantaisie burlesque (1932)
・ポール・デュカの墓のための小品 pièce pour le tombeau de Paul Dukas (1935)
・ロンドー rondeau (1943)
・アーメンの幻想 visions de l'amen (1943) <2p>
・嬰児イエスにそそぐ20の眼差し vingt regards sur l'enfant-Jésus (1944)
・カンテヨジャヤー cantéyodjaya (1948)
・4つのリズムの練習曲 quatre études de rythme (1949-1950)
・鳥のカタログ catalogue d'oiseaux (1972)
・庭のホオジロ la fauvette des jardins (1972)
歌曲 ・フランソワ・ヴィヨンの2つのバラード deux ballades de Villon (1921)
・3つの歌 trois mélodies (1930)
・ヴォーカリーズ vocalise (1935)
・ミのための詩 poèmes pour mi (1936)
・天と地の歌 chants de terre et de ciel (1938)
・ハラウィ harawi: chant d'amour et de mort (1945)
オンド・マルトノ曲 ・美しき水の祭典 fête des belles eaux (1937)
・4分音による2つのモノディ deux monodies en quart de ton (1938)
・ソフォクレスのオイディプスのための情景音楽 musique de scène pour un Oedipe de Sophocles (1942)
ミュージック
コンクレート
・音色・持続 timbres-durées (1952)※ピエール・アンリとの共作。


メシアンを聴く


★★★★★
"Turangalîla-Symphonie" (Deutsche Grammophon : POCG-7111)
Myung-Whun Chung (cond) Yvonne Loriod (p) Jeanne Loriod (ondes Martenot) Orchestre de la Bastille
『トゥランガリーラ交響曲』は,メシアンの管弦楽作品中最も有名な代表作。ピアノ,オンド・マルトノに管弦楽の合奏という体裁を取ります。弦部の味付け(微分音に基づく低体温ぶり)はデュティーユに足を載せ,ときにオンド・マルトノが入る緩奏部の柔らかな恍惚感はケックランを範とし,多調感と激情的なリズムに立脚した全体の構成は,『うぐいすの歌』のストラヴィンスキーをさらに一歩現代方向へ踏み込んだ筆致。一言で形容するなら,拒食症に陥ったストラヴィンスキーが,とうとう強迫神経症になっちゃったような感じと形容すれば良いでしょうか。彼の器楽作品は無調度が高く即物的で,おまけにパーカッシブでゴツゴツしているので,叙情性を嗅ぎ取るのはかなり難しいのですが,そこへ行くとこの作品は,微分音を駆使したデュティーユ的な響きが実に繊細で,メシアンの作品中では最も叙情性が感じられる部類に属するといえるでしょう(逆に,これを聴いて「うへェ」と思った方は,メシアンはもう止めときましょう)。この盤はピアノが少し弱い以外は演奏も秀逸で入手平易。充分お薦めできる一枚です。ちなみに小生が所持しているのは国内盤なんですが,実のところ一番面白かったのはライナーノーツ。いつもは滔々と解説が書かれるはずなのに,なぜかこのCDには仰々しく示唆的なマントラを唱えるメシアンの訳文だけ。普通に聴けば上記の理解で済むのに,抽象的な言説に基づいた「理解不能なものへの畏れ」を煽る効果によって,解説者は「解説」を放棄し,メシアンの自説をそのまま掲載して「降伏」させられてしまった。ここに至ってメシアンは見事,自らの権威づけに成功し,その勝利を高らかに謳っている。ハッタリと虚構に立脚したポスト・モダンというものの特質が実に良く現れていて,思わず膝を叩いてしまいました。輸入盤ではどうなってるんでしょう。興味津々です。

★★★★☆
"Quatuor pour la Fin du Temps / La Merle Noir*" (EMI : CDM 7 63947 2)
Erich Gruenberg (vln) Gervase de Peyer (cl) William Pleeth (vc) Michel Béroff (p) Karlheinz Zöller (fl)* Aloys Kontarsky (p)*
1908年生まれのメシアンは,世代的にはケックランとデュティーユの中間くらいか。果たして,これを聴いた印象もまさしくそんな感じ。印象派の語法から,ふくよかで官能的な響きや,全体のストーリーのまとまりだけをどんどん削ぎ落として行く。やがて最後には,抽象的な旋律・和声の断片が骸骨のように残る。骸骨は,決してもう後戻りできない人間だった頃の自分を想って,ぎくしゃくと踊る。器楽の奏でる主旋律はときに旋法的,時に無調的。そこへ,前後の脈絡(ストーリーの流れという時間軸)を聴き手に与えまいとする機能性を無視したピアノがただ一音の響きの美しさだけで音楽を生み出そうと,凝った和音を重ねていく。断片化された時間の堆積が,累々とその屍を晒しているような,ネクロフィリアな香りのするポスト印象主義音楽です。メシアン・コンクールの覇者(と記憶する)ベロフ以下演奏はなかなか緊密。醸し出される雰囲気は明らかに20世紀の頽廃的な美意識へと移行してはいるものの,音楽性そのものはやや無調寄りの晦渋な印象主義の範疇で,充分理解の範囲内でした。

★★★★
"Trois Petites Liturgies de la Présence Divine / Les Offrandes Oubliées Méditation Symphonique / Hymne au Saint-Sacrement" (Erato : 0630-17905-2)
Marius Constant, Marcel Couraud (cond) Yvonne Loriod (p) Jeanne Loriod (onde martenot) Orchestre Philharmonique de l'O.R.T.F. / Maîtrise et Orchestre de Chambre de la R.T.F.
このCDはメシアンの宗教作品を3つ併録したもので,特に後2者は宗教作品でありながらコーラスが入らないという,特異な作品です。『3つの典礼』は読んで字の如く,ピアノと合唱団が互いに呼応しながら,無調風のフレーズをフラクタルに反復するという体裁。こう書いて,すぐに思い出すのはハンガリーの無調新古典櫓に住む城主バルトークです。特に急奏部ではバルトークへの憧憬の念によって和声は大きく減退し,調性感の失われた単旋律ユニゾンの日の光が譜面の地表を刺す。忽ち叙情性の川の流れは干上がり,もはや水分を取らずには聴けぬカサカサ日照りの無調音楽です。もちろんフランス人であるメシアンのそれには,ハンガリアンであるバルトークの土臭さはなく,奇妙な柔らかさ,洒脱さがあるにはありますが,これでもかと倍音をてんこ盛りにし,頭を掻きむしるような弦部なんかを前にすると,もはや「キチガイじみてる・・」以外に言葉も見つかりません。その一方,弦部が入る緩奏部になると,デュティーユを思わせる思索的な弦部が一気に水かさを増してきて,辛うじて停止ボタンに伸びた手が止まる。基本的にこのこのサドマゾ感で構成されている。多分,ドビュッシーからデュティーユへと連なる脱構築的かつ流動感のある和声と,バルトークの堅牢な無調御殿との間で中庸を得ようというのが,メシアンなりのバランス感覚だったのでしょう。演奏良好です。

★★★★
Olivier Messiaen "L'ascension / Les Corps Glorieux" (Caliope : CAL 9926)
Louis Thiry (orgue)
初めて聴くメシアンのオルガン作品集です。ソリストのルイ・ティリーはパリ高等音楽院を一等で卒業したルーアン音楽院の名誉教授。バッハのピアノ作品集の録音もあるようで,その筋では知る人ぞ知る人物らしいです。全く単旋律で書かれていながら,主旋律一本で得も言われぬ妖しい世界を創出してみせる冒頭から,完全にメシアンの無調ワールド全開。作風としてはラングレやアランと良く似ており,前衛的とはいえいわゆる実験音楽とは明瞭に一線を画すもの。アランと似ているのも道理,彼ら3人はいずれもデュプレの弟子でオルガニスト出身。そう考えれば,成る程デュプレのそれとも思いの外近いものが多いのが分かります。ただ,アランやデュプレよりも,メシアンの無調は人を食ったように即物的で不協和音もキツく,叙情性も希薄。個人的にこれを聴いた限りでは,ときにヒステリック,ときに原始主義的なメシアンより,無調をベースにしてもあくまで伝統に立脚していて,堅牢な構成をもち,語り口も示唆的なラングレのほうが音楽的に深遠に聞こえてなりませんでした。いずれにしろひたすらに薄気味悪くそら寒いこの手のオルガン作品。ホラー映画の伴奏で使ったら,間違いなく恐怖は倍増するでしょう(笑)。演奏大変に良好です。

★★★★☆
"Requiem (Fauré) Quatre Motets / Cum Jubilo (Duruflé) O Sacrum Convivium (Messiaen)" (Conifer : 74321 153512)
Camilla Otaki (sop) Mark Griffiths (btn) Briony Shaw (vln) Richard Pearce (org) David Marlow (dir) The Choir of Trinity Colledge : London Musici
プーランクの合唱曲集の録音もあるデヴィッド・マーロウ指揮トリニティ・カレッジ合唱団による一連のコニファー録音,今度はフォーレ,デュリフレ,メシアンの合唱曲集です。フォーレのレクイエムなどを聴くと,指揮はそれほど細部にこだわりなく割にあっさりと振っていて,ヘルヴェッヘほどには透徹していませんし,コルボほどの重厚さや安定感もないのですが,そう感じるのはむしろレクイエムの音盤が充実しているからで,決してこの盤の出来が物足りないわけではありません。トリニティ教会の聖歌隊は,同じ首都圏にある(私の中では悪名高い)ウェストミンスター教会とは月とスッポンな優秀合唱団。この盤でも安定した歌声を披露しており,嬉しいことに今までこれといった演奏のなかったデュリフレの無伴奏『4つのモテット』を録音してくれた。そんなに聴いてる訳じゃありませんけど,本盤の『モテット』は目下,聖歌隊の肌理が粗くざらざらした風合いになってしまったピクマル盤(ナクソス)や,そもそも男声がモロに力不足な自作自演盤を明瞭に凌駕する内容だと思います。メシアンの宗教作品はこの併録で初めて聴きますけれど,かなり良くてびっくり。無調マンは,そもそもの動機が脱調性だから宗教音楽と相性がいいのかなあ?なんて思ってしまいました。

(2002. 9. 14)