Pの作曲家



フランシス・プーランク Francis Poulenc (1899-1963)

フランスの作曲家。1899年1月7日,パリのソッセー広場二番地に,代々カトリック教徒で,フランス最大手の化学工場の経営者であった父エミールと,パリの古くからの家具職人の一族であるロワイエ家の娘であった母ジェニーの間に生まれる。熱心な音楽愛好家であり,コンセール・コロンヌ(コロンヌ管弦楽団)の後援会員でもあった父と,リストの孫弟子でありピアノを嗜む母という恵まれた音楽的環境で育ち,4才頃母から最初の音楽教育を受けた。次いで8才に,プテ・ドゥ・モンヴァル門下の教師に師事してピアノを習得。この頃,ドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的舞曲」,ストラヴィンスキーの「火の鳥」,「ペトルーシュカ」,「春の祭典」の初演を聴いて強い影響を受ける(初期のピアノ曲にドビュッシーの影響が見られる)。次いで15歳頃からリカルド・ヴィニェスに師事してピアノを学び,多大な影響を受けた。17歳で作曲したダダイズムの作品『黒人狂詩曲』で知られるようになる。ジャン・コクトー,エリック・サティを支持するオーリック,ミヨー,タイユフュール,デュレー,オネゲルらとともに,フランス古典音楽への回帰と,ドイツ・ロマン主義の放棄などを標榜し「新 青年」を結成。彼らの演奏会を聴いた批評家のアンリ・コレによって「六人組」と呼ばれ,その一員と目された。正規に作曲の指導を受けていなかったプーランクは,第1次大戦を挟んで1921年にリセ・コンドルセに進み,シャルル・ケックランに作曲を師事。作品は器楽や歌曲が知られており,フランス的エスプリと簡素な形式,独自の哀愁味を帯びた作風で「フランス版シューベルト」と評されることもあるが,1936年にライバルであったフェルーの事故死に遇って以降は宗教作品にも手を伸ばし,作風を広げた。1963年1月30日午後1時,心臓発作のためパリにて急逝。


 主要作品

歌劇 ・ティレジアスの乳房 les mamelles de Tirésias (1944) <sop, btn, orch>
・カルメル派修道女との対話 dialogues des Carmélites (1956)
・人の声 la voix humaine (1958) <1actor, orch>
バレエ音楽 ・エッフェル塔の花嫁花婿〜『トゥルーヴィユで水浴する女の踊り(la baigneuse de Trouville)』『将軍の話(discours du général)』(1921)
・牝鹿 les biches (1923/1939-1940)
・ジャンヌの扇 l'éventail de Jeanne〜『パストラール(pastorale)』 (1927)
・模範的な動物たち les animaux modèles (1940-1941)
管弦楽曲 ・フランス組曲 suite française d'après Claude Gervaise (1935) <9winds, cemb, hrp, tambr>
・2つの行進曲と間奏曲 deux marches et un intermède (1937) <chamber-orch>
・シンフォニエッタ sinfonietta (1947) <orch>
協奏曲 ・2台のピアノと管弦楽のための協奏曲 concerto pour deux pianos et orchestre (1932) <2p, orch>
・ピアノ協奏曲 concerto pour piano et orchestre (1949) <p, orch>
・クラヴサンと管弦楽のための田園風奏楽 concert champêtre pour clavecin et orchestre (1927-1928) <cemb/p, orch>
・ピアノと18の楽器のための舞踊協奏曲『オバド』
  aubade, concerto chorégraphique pour piano et 18 instruments (1929) <p, 2fl, 2ob, 2cl, 2bssn, 2hrn, tp, timpani, 2vln, 2vc, 2b>
・オルガン,弦楽オーケストラとティンパニのための協奏曲
  concerto pour orgue, orchestre à cordes et timbales (1938) <org, timpani, strings>
室内楽曲 ・ホルン,トランペットとトロンボーンのためのソナタ sonate pour cor, tp, et trompette et trombone (1922) <frn, tp, tb>
・ピアノ,オーボエとバスーンのための三重奏曲 trio pour piano, haubois et basson (1926) <ob, bssn, p>
・六重奏曲 sextuor (1932-1939) <fl, ob, cl, bssn, hrn, p>
・クラリネット,ヴァイオリンとピアノのための三重奏曲
  'L'Invitation au Château' - trio pour clarinette, violon et piano musique de scène pour la pièce de Jean Anouilh (1947) <cl, vln, p>
器楽曲 ・クラリネットとバスーンのためのソナタ sonate pour clarinette et basson (1918) <cl, bssn>
・2本のクラリネットのためのソナタ sonate pour deux clarinettes (1918) <2cl>
・バガテル bagatelle (1931) <vln, p>
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1942-1943) <vln, p>
・チェロ・ソナタ sonate pour voloncelle et piano (1948) <vc, p>
・フルート・ソナタ sonate pour flûte et piano (1957) <fl, p>
・ホルンのための哀歌 élégie pour cor et piano (1957) <hrn, p>
・サラバンド sarabande (1960) <g>
・オーボエ・ソナタ sonate pour haubois et piano (1962) <ob, p>
・クラリネット・ソナタ sonate pour clarinette et piano (1962) <cl, p>
ピアノ連弾曲 ・ピアノ連弾のためのソナタ sonate pour piano quatre mains (1918) <2p>
・シテールへの船出 l'embarquement pour Cythere (1951) <2p>
・『仮面舞踏会』の終曲によるカプリッチョ capriccio d'après le final du 'le bal masqué' (1952) <2p>
・2台のピアノのためのソナタ sonate pour deux pianos (1952-1953) <2p>
・哀歌 élégie (1959) <2p>
ピアノ曲 ・無窮動 mouvement perpétuels (1918)
・ワルツ valse (1919)
・組曲ハ長調 suite (1920)
・5つの即興曲 cinq impromptus (1920)
・散歩 promenades (1921)
・ナポリ Napoli (1922-1925)
・2つのノヴェレッテ deux novellettes (1927-1928)
・3つの小品 trois pièces (1928)
・アルベール=ルーセルを讃えて hommage à Albert Roussel (1929)
・間奏曲ニ短調 intermède (1932)
・12の即興曲 douze improvisations (1932-1947)
・村人たち villageoises (1933)
・アルバム帳 feuillets d'album (1933)
・2つの間奏曲 deux intermezzi (1934)
・バディナージュ badinage (1934)
・ユーモレスク humoresque (1934?)
・プレスト presto (1934)
・ナゼールの夜会 les soirées de Nazelles (1936)
・オーヴェルニュのブーレー bourée d'Auvergne (1937)
・憂鬱 mélancolie (1940)
・間奏曲変イ長調 intermezzo (1943)
・主題と変奏 thème varié (1951)
・即興曲ハ短調 improvisation (1959)
合唱曲 ・酒飲み歌 chanson à boire (1922) <male-choir>
・7つの歌 sept chansons (1936) <mix-choir>
・ロコマドゥールの黒衣の聖母への連祷 litanies à la virge Noire de Rocomadour (1936) <female-choir>
・小さな声 petite voix (1936) <3child-choir>
・枯渇 sécheresses (1937) <choir, orch>
・ミサ messe (1937) <mix-choir>
・悔悟節のための4つのモテット quatre motets pour un temps de pénitence (1938-1939) <mix-choir>
・神をあがめよ exultate deo (1941) <mix-choir>
・サルヴェ・レジーナ salve regina (1941) <mix-choir>
・カンタータ『人の姿』 cantate 'figure humaine' (1943) <2mix-choir>
・小室内カンタータ『雪の夕暮れ』 petite cantate chambre 'un soir de neige' (1944) <6mix-vo>
・フランスの歌 chanson françaises (1945) <mix-choir>
・アッシジ,聖フランシスコの4つの小さな祈り quatre petites prières de Saint François d'Assie (1948) <male-choir>
・スターバト=マーテル stabat mater (1950) <sop, mix-choir, orch>
・クリスマスの4つのモテット quatre motets pour le temps de noël (1951-1952) <mix-choir>
・アヴェ=ヴェルム=コルプス ave verum corpus (1952) <mix-choir>
・パドゥアの聖アントニウスの歌 laudes de Saint Antoine de Padoue (1952) <mix-choir>
・グローリア gloria (1959) <sop, mix-choir, orch>
・夜課の7つの応唱 sept répons des ténèbres (1961) <child-choir, male-choir, orch>
歌曲 ・黒人狂詩曲 rapsodie nègre (1917/1933) <btn, p, 2vln, vla, vc fl, cl>
・闘牛士 toréador (1918/1932)
・動物詩集 le bestiaire, ou le cortège d'Orphée (1919) <vo, p/vo, fl, cl, bssn, 2vln, vla, vc>
・リボンの結び目 cocardes (1919) <vo, p/vo, vln, cornet, tb, drum, trg>
・ロンサールの詩 poèmes de Ronsard (1924-1925)
・陽気な歌 chasons gaillardes (1925)
・ヴォーカリーズ=エチュード vocalise-étude (1927)
・歌の調べ air chantés (1927-1928)
・墓碑銘 epitaphe (1930)
・3つの詩 trois poèmes (1931)
・4つの詩 quatre poèmes (1931)
・5つの詩 cinq poèmes (1931)
・仮面舞踏会 le bal masqué - cantate profane (1932) <btn, ob, cl, bssn, cornet, vln, vc, perc, p>
・8つのポーランドの歌 8 chansons Polonaises (1934)
・子どものための4つの歌 quatre chansons pour enfants (1934)
・5つの詩 cinq poèmes (1935)
・ギターに寄せて a sa guitare (1935)
・そんな日そんな夜 telle jour, telle nuit (1937)
・3つの詩 trois poèmes (1937)
・2つの詩 deux poèmes (1938)
・燃ゆる鏡 miroirs brûlants (1938-1939)
・肖像画 le portrait (1938)
・ラ・グルヌイエール la grenouillère (1938)
・平和の祈り priez pour paix (1938)
・彼女の優しい小さな顔 ce doux petit visage (1939)
・矢車菊 bleuet (1939)
・偽りの婚約 fiançailles pour rire (1939)
・バナリテ banalités (1940)
・愛の小径 les chemins del'amour (1940)
・子象ババールのお話 l'histoire de Babar, le petit éléphant (1940-1945)
・モンパルナス Montparnasse (1941)
・村人の歌 chansons villageoises (1942)
・メタモルフォーゼ métamorphoses (1943)
・2つの詩 deux poèmes (1943)
・ハイド=パーク Hyde Park (1945)
・橋 le pont - un poème (1946)
・ポールとヴィルジニ Paul et Virginie (1946)
・3つの歌 trois poèmes (1947)
・しかし死ぬための ..mais mourir (1947)
・失踪者 le disparu (1947)
・手は心の意のまま main dominée par le coeur (1947)
・カリグラム calligrammes (1948)
・冷気と火 la fraîcheur et le feu (1950)
・パリの風物 Parisiana (1954)
・ロズモンド Rosemonde (1954)
・画家の仕事 le travail du peintre (1956)
・2つのメロディ deux mélodies (1956)
・最後の詩 dernier poème (1956)
・当たりくじ la courte paille (1960)
・モンテカルロの女 la dame de Monte Carlo (1961) <sop, orch>


 プーランクを聴く


★★★★★
"Intégrale Musique de Chambre"(RCA : 74321 632122)
Mathieu Dufour, Emmanuel Pahud (fl) François Leleux (ob) Michel Portal (cl) Paul Meyer (cl) Gilbert Audin (bssn) Ab Koster (hrn) Frédéric Mellardi (tp) Nicolas Vallade (tb) Kolja Blacher (vln) François Salque (vc) Eric Le Sage (p)
プーランクはドイツ・ロマン派の大仰さに異を唱え,フランス古典音楽の再評価から近代音楽を推進した六人組の中心人物の一人であったという経歴が示すとおり,穏健で簡素なロマン派様式をとりながら,影を帯びたシニカルな旋律美と,控えめなながら近代的な和声感覚によって,オリジナリティを発揮する作曲家でした。彼の師匠であり,同様に旋律美を基調とする作風を持ち味にしたケックラン同様,プーランクのそうしたオリジナリティが最も色濃く反映されるのは,旋律の機動力を上げる小規模な器楽・室内楽作品。このCDはプーランク生誕100年を記念して企画されたもの。フランスの若手を中心に素晴らしい演奏陣が顔を揃えた豪華な全集です。

★★★★★
"Sextuor / Sonate pour Clarinette / Sonate pour Flûte / Sonate pour Haubois / Trio"(London : POCL-5195)
Pascal Rogé (p) Patrick Gallois (fl) Maurice Bourgue (ob) Michel Portal (fl) Amaury Wallez (bssn) André Cazalet (hrn)
全集で買うのはちょっと・・という方にまずお薦めしたいのがこちらのLondon盤。上記盤よりちょうど一世代上のメンバーが中心となった,フランスのエリート集団による名録音です。ケックランの弟子らしく,ロマン派を思わせる擬古典的な様式と,エレジアックでありながら陰を帯びたコミカルな旋律の面白さは,プーランクの大きな特徴のひとつ。そんなプーランクの美点が最も色濃く出るのが,こうした器楽的な作品。ピアノのパスカル・ロジェは,ソリストとしてフランスものの録音も数多く出していますが,やはりこの人は脇役に回った方が抜群に好い。ソロイストはいずれも超一流。並外れたタンギングを要するフルート・ソナタの『プレスト』や,余程運指闊達でなければ演奏し仰せないオーボエ・ソナタの『スケルツォ』など,いずれも見事な演奏で,最上クラスの内容を持っていると言えましょう。

★★★★★
"Intégrale Musique pour Piano" (London : 425 862-2)
Pascal Rogé (piano)
六人組の音楽的中核には,どこまでも余計な音楽上の因習や装飾を剥ぎ取り,ひたすら擬古典的でシンプルな曲想の中に本物の感動を追い求めようとしたサティのピアノ曲がありました。そんなサティのある種【最小の美学】を,最も色濃く受け継いでいるのがプーランクのピアノ作品だといえるでしょう。一歩間違うと悪趣味でしかない,ひたすら軽妙で洒落っ気に満ちた,懐旧的なサロン音楽の気分を持つプーランクのピアノ曲は,このように考えると【家具の音楽】を作り,音楽を普段着のものにしようとしたサティの意図を極めて生真面目に継承した,プーランクならではの姿勢が反映されていると言えるかも知れません。聴き手が音楽の表層をさらりとなぞり,演奏者や作曲者へさしたる関心を抱くこともないまま聞き流したとしても,それで問題なくことが済まされてしまう。決してそれに抗おうとはしないプーランクの姿勢が,一見平易な音の向こうに隠れています。「至高の美を苦心惨憺の挙げ句,形にすることができれば,理解ある時代・聴衆はいつか丹念にそれを反芻し,いずれは評価してくれる」・・そういうモダニズム的音楽史観が虚構に過ぎないのだという,六人組一流のペシミズムがそこに潜んでいるのではないか。「所詮そんなもんサ,それでもいいサ」という彼のシニスムが,一見「何の変哲もない」音符の奥にはあるように思います。フランスの貴公子ロジェの全集は確かな技巧に裏打ちされた,流麗で軽やかな筆致。極めて上品な正統派のプーランク。EMIに残る金閣銀閣盤であり,靴職人のように職人気質の堅実なプレイが光るガブリエル・タッキーノの全集と並んで,おそらく決定版と言って良い代物ではないでしょうか。

★★★★
"Sonate pour Violon / Violoncelle / Trio / Sextuor / Sonate pour Flûte / Haubois / Clarinette / Élégy / Sonate pour Deux Clarinettes / Clarinette et Basson / Cor, Trombone et Trompette" (EMI : CZS 7 62736 2)
Jacques Février (p) Yehudi Menuhin (vln) Pierre Fournier (vc) Maurice Bourgue, Robert Casier (ob) Gérard Faisandier, Amaury Wallez (bssn) Michel Portal, André Boutard (cl) Michel Bergès, Alan Civil (hrn) Jacques Castagner (fl) John Wilbraham (tp) John Iveson (tb)
プーランクの室内楽といえば,最も最近ではエリック・ルサージュやエマニュエル・パユらの若手を迎えて制作された全集盤がRCAから出ました。これより一世代前のロジェらによる選集がLondonから出たのが,それから約10年前のこと。そして,それよりさらに前,まとまった選集を残していたのが,なんとジャック・フェヴリエでした。2枚組ですが,1枚目と2枚目は対照的。London盤,RCA盤にも顔を見かけた名手(モーリス・ブールグやアモーリー・ワレス,ミシェル・ポルタルら)も加わり,陣容豪華な2枚目のソナタ集では,彼ら若手のフレッシュなソロが終始全体をリード。こんなに何度も録音して・・ライフワークにでもしてるんでしょうか(笑)。ここでのフェヴリエはやんちゃな子どもの相手をするパパ然としたやや教条的な伴奏。可愛い弟子を引き立てることに徹したのか積極的な美点には乏しい。いっぽう1枚目では,フェヴリエの硬質で格調高いピアノが一本芯を通す。ラヴェルの独奏版同様,最晩年のものなはずですが,年齢を考えるに驚くほど運指の切れが良く,含み豊か。特に1960年代に録音された『三重奏曲』の素晴らしさには参りました。絶頂期はどんなに凄かったんでしょう。全体の印象としては,しなを作らず硬い表情の曲解釈が印象的。現代のものに比べると軽妙でも洒脱でもありませんので,最初に聴くなら後代のもののほうが好いと思います。

★★★★
"Mass / Quatre Motets pour le Temps de Noël / Quatre Petites Prières de saint François D'Assise / Quatre Motets pour un Temps de Pénitence / Laudes de saint Antoine de Padoue / Ave Verum / Salve Regina / Exultate Deo" (Conifer : 74321 18992 2)
Richard Marlow (dir) Choir of Trinity Colledge, Cambridge
6人組の中でも,簡素なロマン派様式を取りながら,陰を帯びた独自のシニカルなフレーズの歌わせ方などに,紛れもない個性の発露を見せるプーランクは,独自の位置を占めた名匠。このCDは,エラートにデュリュフレなども録音しているデイヴ・マーロウが監修したマイナー宗教作品集です。不自然なマイク定位と,それを補うべく極端な残響を施した録音はやや問題があるように思いますが,中身の方はなかなか。近代の作曲家が多くお世話になった伝統のトリニティ・カレッジ合唱団は良く歌っていますし,何より曲が好い。プーランクは和声以外は穏健で,ロマン派的表現に依拠した伝統的書法を大切にしているので,宗教曲が合うのも道理と言えるかも知れません。プーランクの宗教曲では,むしろ下記盤の2曲のほうが遙かに演奏機会も多く,録音も多数あるのですが,近代ファンが聴くなら古臭い前者よりこちらの無名曲のほうがお気に召すと思います。程良く近代的な和声が,ともすれば過度に保守的になりがちな旋律線に巧妙な面白みを与えております。

★★★☆
"Gloria / Stabat Mater" (EMI : CDC 7 49851 2)
Georges Prêtre (cond) Barbara Hendricks (sop) Cheurs de Radio France : Orchestre National de France
『グローリア』と『スターバト・マーテル』の2曲は,プーランク宗教作品でも人気の演目で,ナクソスからもピクマル指揮盤が出ています。こちらはフランス国立管弦楽団とプレートルという,母国の顔合わせによる演奏。カンタータや歌劇などには巧さを発揮するプレートルの素晴らしい指揮と安定感のある演奏で聴け,決定版と言っても宜しいでしょう。しかし,正直申し上げてこの作品,少し保守的な形式が気になります。旋律の跳躍や,繊細なハーモニーがちらりちらりと差し挟まれて,この作品が近代ものであることを主張していますが,基本的にこの2作品はロマン派趣味や伊オペラ趣味が顕著で,印象派好きの方には少々食い足りないのではという気がします。一般の方は上記のマイナー宗教曲集から入る方が宜しいのでは。

★★★★
"Intégrale des Mélodies"(EMI : ZDMD 7 64087 2)
Dalton Baldwin (p) Elly Ameling (sop) Nicolaï Gedda, Michel Sénéchal (tnr) Gérard Souzay, William Parker (btn)
膨大な数に上るプーランクの歌曲を集大成したEMIの全集。伝統に則ったうえで,慎み深いモダニズムを常に意識した彼の歌曲は,こんな喩えはちょっとマズイかも知れませんがモノクロ映画の伴奏のよう。チャップリンでも出てきそうな,どこか昔懐かしいセピア色の淡い色調と,「モダン」の語感の持つ,軽妙ながらもどこか懐かしい香りが同居した,慎ましやかな佳曲揃いです。多くに参加しているスゼーとボールドウィンのコンビは,フランス歌曲にかけては抜群の巧さを誇り,ドビュシーやフォーレの名演を残しました。しかし,この録音は,1970年代前半に遺されたそれらに比べ,少し間の空いた1977年のもの。彼の声の衰えが,そろそろ少しずつ顔を見せ始めた頃のもの。大胆な跳躍の多いプーランクの歌曲には,少々苦しげに聞こえてしまうのが残念です。

★★★★
"Aubade / Concerto pour Piano / Concerto pour deux Pianos" (EMI : CDM 7 64714 2)
Georges Prêtre (cond) Gabriel Taccino, Bernard Ringeissen (p) Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire : Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo : Ensemble de Solistes de l'Orchestre
このCDはプーランクが書いた3種類のピアノ協奏曲を集めたもの。ロマン派の保守的な書法をなぞりながらも,それを転調や旋律の跳躍,野趣溢れるリズムなどで微妙にコラージュし,近代ならではの「おどろおどろしさ」や「シニカルな軽さ」を捻り出すというやり方は六人組ならではのもので,プーランクらしい温故知新的な作風が良く出ておりましょう。収録作品中『オバド』は擬古典度高めで,印象派ならではの斬新さはやや乏しい。印象派の耳で聴きやすいのは2つの協奏曲のほうでしょうか。ドビュッシーの初期作品『幻想曲』を思わせる転調多めの優美なロマン派書法です。ただ,ストラヴィンスキーの間接的な影響を感じさせるリズムの強さを鑑みると,プーランクの本領は機動力の高い小規模編成の作品。器楽ものを聴いて,プーランクの一見保守的な作風でも大丈夫という方が,さらにという場合にのみお聴きになれば良いのでは。パリ音楽院のオケを中心に演奏は少々粗め。

★★★☆
"The Immortal Art of Charles Munch Vol. 25 : Le Création du Monde / Suite Provençale (Milhaud) Concerto pour Orgue, Orchestre à Cordes et Timbales (Poulenc)" (RCA-BMG : BVCC-7929)
Charles Münch (cond) Boston Symphony Orchestra
今世紀前半に活躍したフランスの巨匠ミュンシュは,1949年にボストン響に請われて指揮者となり,同交響楽団を世界一流のオケに成長させるとともに,フランス近代の作品を精力的にとりあげてくれたことでも,まことにアリガターイ指揮者でございました。何しろモノラル時代から録音がある彼ですが,このCDは最晩年のもの。独自の柔和な響きの木管と,抜群に統率された弦が醸し出す,どこか暖かみのある優美な音色はこの盤でも健在。オルガンをソロ楽器にするという編成からでしょうか。『オルガン協奏曲』は,ブクステフーデの『幻想曲』を踏襲したのだとか。確かに和声以外はドイツものと見まがうほど保守的。プーランクの作品中でも特に重厚な響きと高いバロック的な構築性を持ったものといえそうです。個人的にはドイツもののパロディみたいで,あまり・・・。

(2001. 9.22 upload / 2002.11.5 updated)