Rの作曲家



アンリ・ラボー Henri Rabaud (1873-1949)

フランスの作曲家,指揮者。1873年11月10日パリ生まれ。高名なフルート奏者(Louis Dorus)を祖父に,ソプラノ歌手(Julie Dorus-Gras)を大叔母に,パリ音楽院チェロ科教授イッポリト・ラボー(Hippolyte Rabaud)を父に持つ,恵まれた音楽的環境で育った。リセ・コンドルセ(Lycée Condorcet)で学ぶ傍ら,1893年パリ音楽院へ進み,和声法をA. トードー,作曲法をJ. マスネー,対位法とフーガをA. ジェダルジュに師事。翌1894年にカンタータ『ダフネ』でローマ大賞を受賞した。1910年からパリ音楽院で教鞭を執り,1922年からフォーレの後を継いで同院の院長へ就任。1941年までその地位を全うした。指揮者としても活躍。パリ・オペラ・コミークの指揮者を経て,1914年から1918年までパリ・オペラ座歌劇場の指揮者に就任し,ボストンやローマでも客演するなど,順境の中で生涯を送った。初期には強いドイツ音楽の影響下に,保守的な作風を堅持したが,その後イタリア歌劇に興味を示し,ロマン派形式を堅持しつつ保守・穏健な近代フランス音楽を推進。1949年9月11日パリ近郊ヌーイーにて死去。


主要作品

舞台作品 ・ロランの娘 la fille de Roland (1904) {4act} ...H. de BornierによりP.Ferrari台本
・メールフ,カイロの靴直し Mârouf, Savetier du Caire (1914) {5act} ...
千夜一夜物語よりL. Népoty台本
・ l'appel de la mer (1924) {1act} ...
J.M. SyngeによりRabaud台本
・ロランドと悪漢 rolande et le mauvais garçon (1933) {5act} ...
Népoty台本
・ Martine (1947) {5scene} ...
J.-J. Bernardによる
・愛と富の遊戯 le jeu de l'amour et du Hasard (1948) {3act} ...
P. C. de Chamblain de Marivauxによる
映画音楽 ・奇跡の狼 miracle des loup (1924-1925)
・チェス棋士 joueur d' echecs (1924-1925)
管弦楽 ・祭列の夜想曲 procession nocturne (1897)
・ロシア民謡による喜遊曲 divertissement sur des Chansons Russes (1899)
・英国組曲 suite Anglais (1917)
室内楽 ・言葉のないロマンス romances sans paroles (1890) {vc, p}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes en sol mineur, op.3 (1898) {2vln, vla, vc}
・アンダンテとスケルツェット andante, scherzetto (1899) {fl, vln, p}
・演奏会用独奏曲 solo de concours (1901) {cl, p}
・木管三重奏曲 trio (1949) {ob, cl, bssn}
・メールフ幻想曲 fantaisie sur Marouf (-) {tb, p} ...
同名の歌劇より改作。
・遺作集 oeuvres posthumes (-) {vc, p}
歌曲 ・カンタータ【ダフネ】 Daphne (1894)
・夏 l'été (1894-1895) {2sop, 2alto, tnr, bass, orch} ...
V. Hugo詩
・6つの歌 six mélodies (1897) {vo, orch} ...
A. de Lamartine, T. Gautier, G. Vicaire, A. Silvestre詩
・ヨブ Job, op.9 (1900) {vo, choir, orch} ...
C. Raffalli と H. de Gorsse詩
・詩篇第四番 Psaume IV, op.4 (1901) {vo, choir, orch}
・ヨブの本による第2叙情詩 2ème poème lyrique sur le livre de Job, op.11 (1905) {vo, choir, orch}
・2つの歌 deux chansons (1909) {2f-vo}...
A. Spire詩
・3つの歌 trois mélodies (1909) {vo, orch} ...
F. Gregh, A. Rivoire, H. Bataille詩
・アヴェ・ヴェルム Ave verum (1938) {4vo, org}


ラボーを聴く


★★★★
"Orchestral Works :
Mârouf, Savetier du Caire / Procession Nocturne / Suite Anglaise No.2 / Eglogue / Suite Anglaise No.3 / Divertissement sur des Chansons Russes" (Marco Polo : 8.223503)

Leif Segerstam (cond) Rheinland-Pfalz Philharmonic : Staatsphilharmonie Rheinland-Pfalz
その作風からするとかなり意外な気がするのですが,彼はドビュッシーより後輩に当たる,比較的若い世代の作曲家。しかし,平穏無事に過ぎ去ったその生涯が物語るとおり,保守派の優等生として出発した彼の作風は,やや軟化した後年に至るまで,仏近代ロマン派の嫡流から離れることはありませんでした。舞台作品の編曲ものと管弦楽のための小品で構成された,いかにも入門編といった体裁の本盤でも,それは変わりません。微かにドビュッシー以降のエキゾチズムが感じられるものの,基調をなすのは師匠世代の書法。同世代人のモダンな香りは添え物程度で,あくまで保守的な旋律線を壊さない程度に挿入されます。さすがはローマ大賞優勝者。曲書きの才能はしっかりしており,初期のドビュッシー作品(「幻想曲」やカンタータものなど)や,フォーレの管弦楽ものなどの国民音楽協会系,あるいは独立音楽協会系作家のローマ大賞時代の流れに属する優等生らしい甘美な作品がお好きなら間違いなく愉しめるものと思います。演奏はお馴染みちびまる子御用達コンビ。セーゲルスタムの出稼ぎオーケストラ,ライン州立管。これ以上の注釈・・要りませんね(苦笑)。

★★★★
"Divertissement sur des Chansons Russes / La Procession Nocturne / Marouf: Suite pour Orchestre / Eglogue" (EMI: TOCE-11413)
Pierre Dervaux (cond) Orchestre Philharmonique des Pays de Loire
保守派の優等生にも拘わらず,生まれが遅すぎたせいで名前がまるで残らなかった作曲家の代表選手と言っても過言ではないラボー。似た境遇のシャルパンティエがそうであるように,彼もまた,少なからず曲を書いたにも拘わらず,今日では『メールフ:カイロの靴直し』と,初期の数品以外にはまるっきり光の当たらない,カワイソーな人です。本盤は,目下マルコ盤と並んでラボーをまとめて聴ける珍しい作品集。しかしながら,最も頻繁に録音される『メールフ』を始め,彼の初期作品の中から4編を選ぶ体裁は,マルコ盤と殆ど同じです。彼の作風は,マスネーやサン=サーンスなど,仏近代の元老院世代の作家たちに範をとった,いたって保守的な筆致が基調。瞑想的な『夜の行列』あたりに近代の香りを聴くことができるものの,3品はやはり19世紀の作。いかにも初期ロシア国民楽派臭く,大仰な曲想と旧態然とした和音が織りなす曲構成は,特に宮廷音楽風の『ロシア民謡による喜遊曲』では色濃く表出。それだけに,やはり聴きものは,題材も手伝って異境趣味が全面に出る『メールフ』になるのでしょう。中近東音階が頻出し,舞台作家らしい保守的な曲想の中に,仄かなモダンの香りを添加。いわゆる「下野したモダニスト」とは違い、彼の作品には民謡起源の,地に足の着いたところは微塵もありませんけれど,「ひょっとしたら未発掘の後期作品にはお宝が隠れてるかも・・」とあらぬ期待を抱かせる書法には違いありません。ちなみに本盤,個人的に最も信用の置けないデルヴォーとロワール管の黄金コンビによる録音。ピエルネの未曾有の迷演が,深く心にトラウマを刷り込んでくれた彼らゆえ大いに警戒しましたが,中身は意外なほどの好演。これなら,「味のある」の修辞句で充分許容できる範囲内では。題材がピエルネ盤より古くさくて演奏しやすかったんでしょうかねえ。

★★★★☆
"Mârouf - Savetier du Caire" (Accord : 472 142-2)
Jésus Etcheverry (dir) Michel Lecocq, Anne-Marie Blanzat, Franz Petri, François Loup, Etienne Arnaud, Dany Barraud, Mario Marchisio, Xavier Tamalet, Jean-Pierre Rodde, Alexandre Calvani, Alain Domi, René Fabre, Jean-Claude Aupy, Michel Place, Julien Martinier, Humberto Sylvani, Tony Terzi (solo) Orchestre Philharmonique des Pays de la Loire : Choers de l'Opéra de Nante
上記マルコ盤にも組曲版が入っているラボーの代表作『メールフ』,こちらは全曲版です。いつの時代もそうなんでしょうが,好い文化が育つときと言うのは,それまでのイディオムを守る人々と,新しいイディオムを引っさげてそれをうち破ろうとする進歩的な人々との間に潮目ができるもの。パリ音楽院の院長を務め,ローマ大賞も獲ったことのあるラボーはそんな混迷の時代を象徴する人物の一人でした。こんにちでは殆ど名前を知られていない彼が,当時は要職を歴任するエライ人だった。その理由は作品を聴けば一目瞭然で,師匠達が依拠し継承してきた後期ロマン派のイディオムを,極めて穏当に継承した上に成り立っている。きっと角を立てない世渡り上手な優等生だったんでしょう。改めて聴くとお薦め度が高いのはむしろこのオペラ版。本質的に彼は舞台音楽家だったのでしょう。一聴,フランクやダンディを思わせる懐旧的な音作りですが,この人も転調が上手い。それでいてドビュッシーと同世代人らしく,さりげなく平行和音などが差し挟まれて師匠の世代にはない穏健な新風も吹いている。歌が入り,芝居を演じる関係上,リズムがしじゅう休止しては,めまぐるしく変化する舞台作品は,管弦楽と違ってリズムに大きな変化が生まれ,それが彼の持つ穏健なモダニストとしての良さを良く出すことに繋がっております。ソリストの中では主役のテノール,ミシェル・ルコックが滅法好くて溜飲が下がりました。