Rの作曲家



ジャン・ロジェ=デュカス Jean Roger-Ducasse (1873-1954)

1873年4月18日ボルドー生まれ。本名は,ジャン・ジュール・エマーブル・ロジェ=デュカス(Jean Jule Aimable Roger-Ducasse)。生地で音楽教育を受けたのち,1892年にパリへ移り,パリ音楽院でエミーユ・ペッサール,ガブリエル・フォーレ,アンドレ・ジェダルジュに師事。特にフォーレからは強い影響を受け,フォーレからも高い評価と信頼を得た。1902年三度目の挑戦で,カンタータ『アルシオーヌ』がローマ大賞第二位を獲得。フォーレの後を継いでパリ音楽院で作曲法の教鞭を執った。1909年からはパリ教育委員会の歌唱科の総督に就任。さらに1935年には,ポール・デュカの死を受けてその後を継ぎ,編曲法科の教授に就任して後進の育成に尽力した。その作風は師フォーレやサン=サーンスの薫陶を受けた甘く優美なロマン派様式を基調にしつつ,印象主義の影響も採り入れた穏健なモダニズムを特徴とするものである。1954年7月19日ジロンド県タイヤン(Taillan-Médoc)にて死去。


主要作品

バレエ/歌劇 ・アルシオーヌ Alcyone (1902)
・オルフェー orphée (1913)
・喜劇【カントグリル】 cantegril (pub 1931)
管弦楽曲 ・フランス組曲 suite français (1907) {orch}
・小組曲 petite suite (1900?) {orch}
・バレエへの序曲 prélude d'un ballet (1910) {orch}
・フランス行進曲 marche française (1914) {orch}
・春の夜想曲 nocturne de printemps (1920) {orch}
・祝婚歌 epithalame (1923) {orch}
器楽・室内楽 ・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour vilon et piano (1896) {vln, p}
・弦楽四重奏曲第1番 quatuor à cordes (1909) {2vln, vla, vc}
・パストラール pastorale (1909) {org}
・ピアノ四重奏曲 quartuor pour piano et trio à cordes (1912?) {p, vln, vla, vc?}
・弦楽四重奏曲第2番 quatuor à cordes en re majeur (1912-1952) {2vln, vla, vc}
ピアノ曲 ・6つの前奏曲 six préludes (1907)
・4つの練習曲 quatre études (1915)
・6度の練習曲 étude en sixtes (1916)
・アラベスク集 arabesques... (1917)
・素描集 esquisses (1917)
・リズム rythmes (1917)
・アラベスク第2集 arabesques No.2 (1919)
・舟歌第3番 3e barcarolle (1921)
合唱曲/歌曲 ・白の賛歌 hymne blanc (1895) {vo, p}
・マルグリートの庭 au jardin de Marguerite (1901-1905) {choir, orch}
・サラバンド sarabande (1910)
・ユリシーズとシレーヌ Ulysse et les sirènes (1937) {choir, orch}
詳細不明 ・フランソワ・ヴィヨンの2つのロンデル deux rondels de Villon (1897- ) {vo, p?}
・水のかけら pièces d'eau (-)
・薔薇のノエル noël de roses (1903)
・バルカロール barcarolle (1906)
・アヴェ・レジーナ ave regina (1911)
・3つのモテット trois motets (1911)
・採譜課題曲? ecole de la dictée (1910/1937)


ロジェ=デュカスを聴く


★★★★
"Orchestral Works Vol. 1 :
Marche Française / Nocturne de Printemps / Petite Suite / Le Joli Jeu de Furet / Orphée" (Marco Polo : 8.223501)

Leif Segerstam (cond) Rheinland-Pfaltz Philharmonic
ロジェ=デュカスの作品集というのは極端に数が少なく,容易に入手可能なのはこの2枚と,交響曲第三番を収めた某輸入盤(小生未聴)くらいではないでしょうか。それだけに,主要な管弦楽作品が気軽に聴けるマルコ・ポーロ盤は貴重です。ロジェ=デュカスの作品はいかにもベル・エポックらしい,穏健で洒落た作風。印象主義の和声法はところどころに顔を出しますが,基調はあくまでも後期ロマン派。安心して聴ける作曲家であると思います。マルコお馴染みの演奏陣はいつもながらB級オケらしい演奏で悪くないです。

★★★★
"Orchestral Works Vol. 2 :
Epithalame / Au Jardin de Marguerite / Suite Française / Prélude d'un Ballet" (Marco Polo : 8.223641)

Leif Segerstam (cond) Rheinland-Pfaltz Philharmonic
イギリスの作曲家が,シャンドスとハイペリオンにより優れた演奏で続々復刻されているのに比して,フランスの作曲家の多くはまだまだロクに録音もされていないままの御仁が多く可哀相。そんな中,ところ構わずマイナー作家を掘り出しては録音しているマルコ・ポーロの制作方針は,些か薄利多売めいたところがあっても有り難いものです。ロジェ=デュカスなんか,フランスの作曲家なのに,ドイツのレーベルであるマルコ盤でしか満足に聴けないというのは間違っております。フォーレの影響が強いとされますが,聴いてみた感じはもう少しサン=サーンスやらマスネー,グノーなどの影響が強く,フォーレのような禁欲的な美意識は余りありません。印象主義的な部分もありますので,あらかた近代物を聴いたという人は,それなりに楽しめると思われます。2枚あるうちでは,この第2集のほうが,ちょっとだけ上でしょうか。

★★★★
"Quartuor à Cordes en Re majeur No.2" (Mandala : MAN 4934)
Quatuor Loewenguth : Alfred Loewenguth, Maurice Fueri (vln) Roger Roche (vla) Pierre Basseux (vc)
弦楽四重奏第2番は,1909年に書いた第一番に続き,1912年に着手されました。作曲者自身はこの弦楽四重奏曲が未完成と思っていたようで,イシドール・フィリップに「どうも第4楽章が上手く書けん。もう直すのは3回目じゃ」と愚痴をこぼしてますし,結局「やっとできたよ母さん・・」と母宛の書簡で述べたのは1952年の11月。既に40余年の月日が経過していました。第2楽章を除いて全て10分を超える大曲。なにぶんにも保守的な作風の人ですから,基本はやっぱりロマン派。しかし,自由な転調技法が駆使され拡張された主題と,いつになく凝ったアクセント配置が,近代を高らかに主張する。長尺を中だるみせず聴かそうと苦心したんでしょう。この曲は主題よりもリズム面が面白い。40年掛けて推敲したのも頷ける第4楽章の精気に満ちた筆致,一発OKも頷ける第2楽章の変拍子,フォレを思わせるスイスイした主旋律が美しい第1楽章と,テンポの入った3つの楽章が俄然密度も濃い。こう書いて思い出すのが,同じく異様に長尺なのを書き,やっぱり初演録音一枚きりしか音源のないシュミットの弦楽四重奏。あちらは1948年の作でした。パリ音楽院の院長さんでもあったシュミットの大曲を,彼が聴かなかった筈はありませんし,それが些かなりとも,不思議にリズムの凝った本弦楽四重奏の出来に影を落としているとしたら,面白い限りですねえ。ちなみにローウェングース四重奏団による演奏は,1954年2月27日パリ録音。作曲者が亡くなる4ヶ月ほど前の吹き込みで,現存する唯一の録音であるばかりでなく,初演となったもの。言うまでもなくモノラル音源ですし,ピッチも甘め。転調が頻出する曲想も手伝って,絶対音感をお持ちの方やそれに煩い方は船酔いに近い気分へ陥るのではないかと危惧しますが,解釈は大きな破綻もなく,伸びやかでメリハリ豊かに協調。良い演奏かと思います。

★★★★
"Arabesques / Sonorités / 3e Barcarolle / Six Préludes / Étude en Sixtes / Quatre Études Rythmes" (Mandala - Harmonia Mundi : MAN 5011 / HMCD 78)
Dominique Merlet (piano)
ロジェ=デュカスのCDといえば,マルコ・ポーロから出た2枚が入手平易である以外には,ほとんどお見かけしたことがありません。そんな中出現したこのCD,かなりの珍品であることは確かです。どうもパリ高等音楽院で教鞭を執る独奏者の祖父が作曲家と深い親交があったようで,デュカスなんかの辺境に目が行ったのは,そうした経緯からということのようです。演奏者自身も,9歳の時に,最晩年のデュカスをタイヤンの自宅に訪ねた経験があるとかないとか。内容は,やや技巧的なサロン音楽。旋法性が高く,めまぐるしく転調するクロマティックな書法は後期ロマン派らしい新しさを感じさせるものの,曲の作りそのものは保守的な傾向で,類似の作品を探すと,アルベニスや和声の色彩感の弱いラヴェルあたりといったところでしょうか。印象主義ファンには少し食い足りないかも知れませんが,演奏は好いので,後期ロマン派あたりまで守備範囲に入っている方なら充分楽しめると思います。

(2001.12.01 last updated)