Rの作曲家


ジョセフ・ギイ・ロパルツ Joseph Guy Ropartz (1864-1955)

フランスの作曲家,指揮者。1864年6月15日ブルターニュ地方コート・ドゥ・ノールのゲンガン(Guingamp)生まれ。弁護士だった父の希望で,レンヌのジュズイット(Jesuit)大学へ進み,法学を専攻。しかし,在学中から学生オーケストラで演奏活動をして音楽への興味を深め,1885年の卒業後は,作曲家を志してパリ音楽院へ進学。テオドール・デュボワに和声法,ジュール・マスネーに作曲法を師事した。1896年にダンディの《鐘の歌》に深く感銘を受け,1887年以降はセザール・フランクに師事している。1894年から1919年までナンシー音楽院の院長を務め,ショーソンの詩曲などを初演。さらに1919年からはストラスブール音楽院でも院長を務め,音楽文化の振興に尽力した。1929年に引退後は故郷ブルターニュへ戻って作曲活動を続け,1955年11月22日,コート・ドゥ・ノールのランルー(Lanloup)にて死去。作風は初期のものほどフランクの影響が強く,半音階書法や循環形式を基調として,後期ロマン派の枠内で作曲。その後,印象主義的な語法を採り入れながら徐々にフランクの影響を離れ,独自の典雅な作風を築き上げた。宗教音楽(合唱曲)および器楽の分野では,特に優れる。また,1888年から1892年に掛けてのパリ在留中には,詩人としても活躍。《アダージェット(Adagiettos)》,《モード・マイナー(Modes mineurs)》,《ニュアンス(Les nuances)》の3つの詩集を上梓している。(関連ページ:ジョセフ・ギイ・ロパルツ協会 仏語)


主要作品
 ※改訂中・・

舞台作品 ・付帯音楽【氷島の漁師】 pêcheur d'Islande (1891) ... P. LotiとL. Tiercelin台本
・歌劇【故郷】 le pays: drama lyrique (1908-1910) {3act 4tbl: sop, tnr, btn, orch} ...
C. Le Gofficの'L'Irlandaise'が元
・付帯音楽【コロンヌのエディプス王】 Oedipe à Colonne (1914) ...
Sophocles原作
・バレエ【安息日のための前奏曲】 prélude dominical et 6 pièces à danser pour chaque jour de la semaine (1929)
・バレエ【浅慮】 l'indiscret (1931) {1act}
管弦楽 ・死者の鐘 la cloche des morts (1887)
・荒野 les landes (1888)
・ブルターニュの安息日 dimanche Breton (1893)
・交響曲第1番 symphonie No.1 'sur un choral breton' en la mineur (1894-1895)
・幻想曲 ロ長調 fantaisie en ré majeur (1897)
・交響曲第2番 ヘ短調 symphonie No.2 en fa mineur (1900)
・交響曲第3番 symphonie No.3 en mi majeur (1905) {sop, msp, tnr, bass, choir, orch}
・交響曲第4番 symphonie No.4 en ut majeur (1910)
・マリアの昇天 à Marie endormie (1911)
・アーサー王子の狩り la chasse du prince Arthur (1912)
・晩祷の鐘が鳴る sons de cloches (1913)
・藁葺き屋根の上の夕闇 soir sur les chaumes (1913)
・喜遊曲 divertissement (1915)
・劇的前奏曲 prélude dramatique (1928)
・田舎風のセレナード sérénade champêtre (1932)
・ブルボネ風のブーレ bourrées bourbonnaises (1939)
・小交響曲 petite symphonie (1943) {chamber}
・交響曲第5番 symphonie No.5 en sol majeur (1944)
・ディベルティメント divertimento (1947/1948)
・田園詩曲 pastorales (1950)
協奏曲 ・パストラールと舞曲 pastorale et danses (1907) {ob, orch}
・チェロと管弦楽のための狂詩曲 rapsodie (1928) {vc, orch}
・協奏曲 concerto en ré majeur (1930) ...
恐らく「管弦楽のための」協奏曲
室内楽 ・悲曲 lamento (1887) {vln, p /ob, orch}
・弦楽四重奏曲第1番 ト短調 quatuor à cordes No.1 en sol mineur (1893) {2vln, vla, vc}
・アダージョ adagio (1899) {vc, p /vc, orch}
・アンダンテとアレグロ andante et allegro (1899) {tp (cor), p}
・チェロ・ソナタ第1番 ト短調 sonate pour violoncelle et piano No.1 en sol mineur (1904) {vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ短調 sonate pour violon et piano No.1 en ré mineur (1907) {vln, p}
・弦楽四重奏曲第2番 ニ短調 quatuor à cordes No.2 en ré mineur (1911-1912) {2vln, vla, vc}
・祭壇の下で 第1巻 aupied de l'autel (1916) {harmonium /org}
・2つのノエルに基づく狂詩曲 rapsodie sur les deux noëls (1917) {org}
・ヴァイオリン・ソナタ第2番 ホ長調 sonate pour violon et piano No.2 en mi majeur (1917) {vln, p}
・ピアノ三重奏曲 イ短調 trio en la mineur (1918) {vln, vc, p}
・チェロ・ソナタ第2番 イ短調 sonate pour violoncelle et piano No.2 en la mineur (1918-1919) {vc, p}
・2つの小品 deux pièces pour flûte et piano (1920) {fl, p}
・弦楽四重奏曲第3番 ト長調 quatuor à cordes No.3 en sol majeur (1924-1925) {2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ第3番 イ長調 sonate pour violon et piano No.3 en la majeur (1927) {vln, p}
・ロマンツァとスケルツィーノ romanza e scherzino (1927) {vln, p}
・前奏曲,海景と歌 prélude, marine et chanson (1928) {fl, hrp, 2vln, vla, vc}
・ソナチヌ sonatine pour flûte et piano (1930) {fl, p}
・弦楽四重奏曲第4番 ホ長調 quatuor à cordes No.4 en mi majeur (1933-1934) {2vln, vla, vc}
・入祭曲とスケルツェット entrada et scherzetto (1936) {cl, ob, bssn}
・弦楽三重奏曲 イ長調 trio à cordes en la majeur (1938) {vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第5番 ニ長調 quatuor à cordes No.5 en ré majeur (1940-1942) {2vln, vla, vc}
・祭壇の下で 第2巻 aupied de l'autel (1942) {harmonium /org}
・弦楽四重奏曲第6番 ヘ長調 quatuor à cordes No.6 en fa majeur (1951) {2vln, vla, vc}
オルガン曲 ・間奏曲 intermède (1894)
・序奏とアレグロ・モデラート introduction et allegro moderato (p.1919)
ピアノ曲 ・セレナード sérénade (1892) {p /strings}
・10つの小品 dix petite pièces (1903)
・コラールの変奏 choral varié (1904) {p /org /hrp}
・序奏,変奏と終曲 ouverture, variations et final (1904)
・夜想曲 nocturne (1911)
・3つの夜想曲 trois nocturnes (1911/1916)
・スケルツォ scherzo (1916)
・庭園の音楽 musique au jardin (1916)
・夏の素描 croquis d'été (1918) {p /orch}
・秋の素描 croquis d'automne (1929) {p /orch}
・若い娘たち jeunes filles (1929)
歌曲 ・小さな子 petit enfant (1888)
・海 la mer (1893) {vo, p /vo, cham-orch}
・祈り prière (1893) {btn, p /vo, orch}
・ジャンヌのロンデル rondel pour Jeanne (1893) {vo, p}
・子守歌 berceuse (1894) {vo, p /vo, orch}
・夜明け lever d'aube (1894) {vo, p /vo, orch}
・恋について話すなら si j'ai parle de mon amour (1897) {vo, p}
・4つの詩曲 quatre poèmes de l'intermezzo (1899) {vo, p /vo, orch} ...
H.Heine詩
・森の下生え sous-bois (1900) {vo, p}
・別れの前に veilles de départ (1902) {vo, p /vo, orch} ...
C.Guerin詩
・菊の花 chrysanthèmes (1904) {vo, p /vo, cham-orch}
・村の音楽師の歌 chanson du ménétrier (1905) {vo, p /vo, orch}
・秋の歌 chant d'automne (1905) {btn, p /btn, orch}
・君の瞳 tes yeux (1905) {vo, cham-orch}
・いかなる時も de tous les temps (1905) {vo, p}
・2人のイスラエル deux Israel (1906) {vo, p}
・嘆き il pleut (1907) {vo, p /vo, orch}
・聖女たちの時代 le temps des Saintes (1907) {vo, cham-orch}
・その夜一晩 tout le long de la nuit (1907) {vo, orch /orch, p}
・別れの詩 poème d'adieu (1907) {vo, p}
・小川のほとりで près d'un ruisseau (1908) {vo, p}
・瞳の魔力 le joug de tes yeux (1910) {vo, p}
・金色の花 fleur d'or (1911-1912) {vo, cham-orch}
・2つの歌 deux chansons (1912-1913) {vo, p}
・オデレット odelettes (1914) {vo, p} ...
H. Regnier詩
・快い時間 les heures propices (1927) {vo, p} ...
L. Mercier詩
合唱曲 ・詩編第136番 psaume CXXXVI (1897) {vo, choir, org, orch}
・聖ニコラの奇跡 le miracle de Saint Nicolas (1905) {choir, vo, p, org, orch}
・船 le navire (1906) {choir}
・ジャンヌ・ダルクのためのカンタータ cantique à Sainte Jeanne d'Arc (1910) {btn, choir, orch}
・安息日 dimanche (1911) {3f-vo, orch}
・聖女アヌのミサ messe de Sainte Anne (1921) {sop, tnr, btn, bss, org}
・聖女オディールのミサ messe de Sainte Odile (1923) {sop, tnr, btn, bss, org}
・小ミサ曲 messe brève (1921) {org, choir, orch}
・テ・デウム missa te deum laudamus (1925-1926) {sop, tnr, bss, org}
・午後の挨拶 les vêpres sonnent (1927) {vo, orch}
・ブルボネ地方の6つの民謡 six chansons populaires du Bourbonnais (1936) {choir}
・レクイエム requiem (1938) {sop, msp, choir, orch}
・夜想曲 nocturne (1938) {choir, orch} ...
1926年とするものもありました。
・アヴェ・ヴェルム ave verum (1940) {3m-vo, org}
・アヴェ・マリア ave Maria (1940) {4vo}
・サルヴェ・レジナ salve regina (1941) {4vo, org}
・詩篇第129番 psaume CXXIX en la majeur (1941) {choir, orch}
典拠 Djemil, E. 1967. J.Guy Ropartz ou la recherche d'une vocation. Imprimerie Jean Vilaire: Le Mans.
Ferey, M. and Menut, B. 2005. Joseph Guy Ropartz: catalogue des oeuvres. Editions Papillon.


ロパルツを聴く


★★★★☆
"Requiem / Psaume 129 / Messe Brève" (Accord : 205132)
Michel Piquemal (cond) Catherine Duposc (sop) jecqueline Mayeur (msp) Vincent Le Texier (btn) François-Henri Houbart (org) Choeur Régional Vittoria d'ille de France : Ensemble Instrumental Jean-Walter Audoli
ロパルツの作風には二面性がある,というのが私の見解です。いっぽうではフォーレやフランクの影響下に,必要に応じてドビュッシーの影響まで取りいれていきながら,アルカイックで敬虔,高雅にして甘美な筆致の近代音楽を作る。しかし,そのいっぽうでは,早くからパリの喧噪を離れて地方に下り,民衆の間に埋もれて,土着の民話や伝承,民謡などに着想し,素朴な筆致の作品も書く。まだまだ現代ほど世相がくだけていない当時には,彼のようなタイプは掴み所がなく受け取られたのでしょう。後者の代表が歌曲や管弦楽とすれば,さしずめ前者の代表は器楽と宗教作品。浮世離れしたモチーフも相俟って,フランクの禁欲的な書法を発展しつつ,随所に印象主義の影響を取りいれた,充実したものです。この盤はフランス近代の合唱曲,宗教作品を次々に録音しているミシェル・ピクマルによるロパルツ作品集。ロパルツの宗教作品のなかでも特に優れた内容を持つ『レクイエム』を含むこの盤は演奏も良好で,兄弟盤ともいうべき下記マルコ・ポーロ盤と並び,彼の魅力に触れるにはまたとない内容です。

★★★★☆
"Choral Works :
Psaume 136 / Dimanche / Nocturne / Les Vêpres Sonnent / Le Miracle de Saint Nicolas"
(Marco Polo: 8.223774)

Michel Piquemal (cond) Didier Henry (boucher) Christian Papis (recitant) Vincent Le Texier (st.Nicolas) Irène Brissot (hrp) Eric Lebrun (org) Choeur Régional Vittoria d'ille de France : Orchestre Symphonique et Lyrique de Nancy : Solistes de la Maîtrise de Radio-France
フォーレにしろフランクにしろ,この当時の多くのフランス作曲家は,教鞭を執ると同時に教会でオルガニストをするなど教会音楽へ深い造詣があります。ロパルツもフランクの門下生である以上,この傾向が顕著。合唱曲やオルガンの入ったミサ曲などが,分けても優れた内容なのも,師匠に徹底して信服した時期があったからこそです。本盤は,イルドフランス合唱団などを振る仏近代合唱曲の良き理解者ミシェル・ピクマルが録音した,3枚からなるロパルツ合唱作品集の2枚目。幸運なことにこのシリーズは内容も安定しており,ロパルツの創作活動の最も良い部分を聴くことができるお薦め盤。平行和音や5音階などの精妙な導入に印象主義の影響をちらつかせ,フランクからは高尚な気風を,マスネーからは妖艶な抒情のチラリズムを吸収した作曲者の,良い意味でのバランス感覚が良く出た作品集になっているのではないでしょうか。

★★★★★
"La Chasse du Prince Arthur / Quatre Odelettes / La Cloche des Morts / Quatre Poèmes" (Timpani : 1C1073)
Emmanuel Krivine (cond) Cécile Perrin (sop) Vincent Le Texier (btn) Orchestre Philharmonique du Luxembourg
噂では持ち前の完璧主義から本国に居づらくなったとも仄聞するクリヴィヌ氏。しかしそこで,昨今ブーランジェやクラ作品を録音し進境著しい仏近代の二の丸御殿ことルクセンブルク放送管を選んで出て行くとは流石,このお方は転んでもただで起きることはございませんな〜。これで,両者の緊張感たっぷりな蜜月関係が構築されるのなら,このオーケストラは間違いなく,次の5年で世界最強の性能を誇るフランスもの製造楽団へと昇格することでしょう。2003年に登場した本録音は,まさしく最も雄弁にそれを物語る内容。もちろんアントニオリやストリンガーの指揮でも充分に良い演奏ではありました。しかし,この盤におけるアンサンブルの一体感や密度はどうでしょう。特に弦部が素晴らしい。神秘の影をまとった,ほの暗く蠱惑な響きと,吸い込まれそうに妖艶な艶めかしさ。生ける魔性の如く滑らかな流動感を前に唖然呆然。アニマの魔術師クリヴィヌの天才ぶりに瞠目するしかありません。楽曲は比較的初期のものでしたが,この素晴らしい演奏のためか苦もなく聴ける。特に1912年と1913年に書かれた3品は,すでにフランク門下から旋法表現を利して緩やかに解脱しつつあった頃のもので,ポスト・ロマンティシズムが満面に横溢した名品です。惜しむらくは厳ついヴァンサン・テクシエ氏がやっぱりロパルツには不似合いに思えることですが(声の調子もやや宜しくなかった?),それを補って余りあるセシル・ペリン女史の美声に快哉必至。紛れもなく管弦楽入りのロパルツでは最高峰に君臨する一枚ではないでしょうか。甲種推薦。

★★★★☆
"Symphonie No.1 en La Mineur / Symphonie No.4 en Ut Majeur" (Timpani : 1C1093)
Sebastian Lang-Lessing (cond) Orchestre Symphonique et Lyrique de Nancy
以前からぽつぽつとロパルツの管弦楽を録音していたタンパニ。とうとう本腰を入れる気になった模様。交響曲全集を銘打っての第一集を出してきました。彼の交響曲は知る限り5番までありますから,恐らくは3枚組ということになるのでしょう。第1番は1894年,ちょうど彼がナンシー音楽院院長に就任してパリを離れた年の作品。一方1910年の第4番は,彼がナンシーで書いた最後の交響曲。こうした経緯から,まずこの2曲が選ばれたのでしょう。実際本盤は,パリの優等生だった彼が,地に足を着けることで,どう自らのポスト・ロマンティシズムを深化させていったかが,上手く俯瞰できる内容となっている。第1番は,総じて模範的なダンディ門下生。ドビュッシーすら,やっと『牧神』を書き上げたご時世では仕方ないものの,「ブルターニュのコラールによる」の副題はお題目程度。独ロマン派の美観と曲構成へ重度に依拠する形式感は頑迷です。それでも,本家より艶めかしく女性的な転調技法は紛れもなくロパルツですし,第三楽章ではブルターニュ民謡が主題に使われ,保守派の枠組みの中で転調と半音階による拡張が図られる。のちのポスト・ロマンティシズムの萌芽は容易に聴き取れます。しかし,やはり近代ファンにとっての福音は,ナンシーに腰を据えて15年を経た4番。まるで性転換でもしたかの如く,1番の窮屈な形式感は薄らぎ,牧歌的なリリシズムが大きく前に出てくる。お陰で,窮屈そうにしていた転調と半音階,自由な拍動が,スムースに呼吸を始めます。野に下ることで,心のままに詩的情緒を描く心得を掴んでいった様子がクロノロジカルに垣間見え,ジャンルからくる懐旧的な形式感もそう苦になることはありませんでした。演奏は1884年に創設されたナンシー交響楽団。ご存じの通り,当時彼の地で音楽院長だった作曲者と,歌劇場の音楽監督だったアルベール・カレ繋がりで密接に関係を持っていたいわくつきの布陣。1999年から同楽団の音楽監督に就任したドイツ人指揮者の指揮は滑らかで,演奏も高水準です。

★★★★☆
"Symphonie No.2 en Fa Mineur / Symphonie No.5 en Sol Majeur" (Timpani : 1C1097)
Sebastian Lang-Lessing (cond) Orchestre Symphonique et Lyrique de Nancy
ロパルツゆかりのナンシー交響楽団が進める交響曲全集の第2弾は,1900年に書かれた二番と,1944年に書かれた五番の2品を併録。既にプラッソンの録音がある三番をお持ちの方は,世界初録音を2品録れてくれた本盤を買うことで,ロパルツの交響曲を一足早く全集化なさってうっしっしじゃないでしょうか。長大な三番を挟み,前期と後期を一曲ずつ併録した製作陣の目配りが,前作同様本盤の中身を物語っておりましょう。二番はやっぱりドイツ風詠嘆趣味が顕著。フランス的な柔らかさと和声のチラリズムが香料として混ぜ込まれるとはいえ,形式的には古臭く,ダンディずむ満点です。構成堅牢で立派な作品とは思うものの正直趣味ではなく,ドビュッシアンとは水と油に近い内容と言わざるを得ません。対する五番は格段に田舎情緒が増し,転調はより自由に,和声は色合い豊かに,主題はより民俗的になっており,こちらはいかにも穏健なモダニスト。叙情性豊かな第三楽章「ラルゴ」を白眉に,田園情緒溢れる簡素な旋律が好ましい佳品で溜飲を下げました。ただ最晩年にしては,随分と保守的。こと交響曲において,モダニストとしての進展は三番辺りで止まっているのを興味深く思った次第です。結局,晩年まで交響曲というフォーマットを捨てなかったロパルツにとってのモダニズムは,最後まで過去の音楽的遺産を引き継ぐ,穏当な発展だったのだなあとしみじみ痛感。パリを離れ,ナンシーやストラスブル楽壇の国司となる道を選んだ彼は,中央で華々しく進む音楽的改革を読み解きながらも,あくまでそれを郷土の風土に溶け込ませ,その地に住まう人々にとって最も自然な形で再現前することに,一番の関心があったんでしょう。演奏するは,交響曲の全集化を目論むレッシングとナンシー交響楽団・合唱団のコンビ。少し肌理の揃わぬところもあれ,先行する第一番と第四番のカップリングで示した技量の高さは健在です。

★★★★★
"Pecheur d'Islande / Rhapsodie / Oedipe à Colone" (Timpani : 1C1095)
Kirill Karaboits (cond) Henri Demarquette (vc) Orchestre de Bretagne
ロパルツ大全集の箱盤化目指して一直線に突き進むタンパニから出た本盤は,付帯音楽『氷島の漁師』と『コローヌのエディプス王』の組曲版に,チェロと管弦楽の協奏による『狂詩曲』を併録。最も古い『氷島の漁師』は,まだ彼がパリにいた1891年の作です。当然ながら和声的には完全にドイツ訛りで,一口に言ってダンディズム。しかしながら,いっぽうで曲想は見事に交響詩然としている。ダンディがやっと後年に辿り着いた田舎臭くしかめつらしい印象主義風情を,1891年の時点でこうも体現していたとは。驚きました。残る二品は1928年の狂詩曲と,1914年作のエディプス王ですから,最も古い『漁師』の出来が約束された時点で,本盤の成功は決まったようなものです。フレム管弦楽の郷土色をいっそう強めたような,穏健なモダニスト書法が溢れる『狂詩曲』は,長閑にそよぐ田舎の風を運んできますし,『エディプス王』は,師匠筋の重厚な品位の輪郭を残しつつも,より形式感は緩やかになり,細やかな彩りの和声と自由な転調が駆使され,独自のバランス感覚を発揮している。健筆です。初耳のロシア人指揮者には心配したものの,こちらも手堅い指揮ぶりで大安心。作品に籠もった民謡起源の農土臭を巧みに掬い取るその手腕は,作曲者と同じ「農耕民族意識」を(永久凍土モードではあれ)ちゃんと共有できる国の出身者だったことを,鮮やかに想起させるものです。レーベルからすっかり贔屓にされているブルターニュ管の演奏も相変わらず高品位。加えて録音がまたいいですねえ。余計なエフェクトを掛けずに録ったおかげで,飾り気のない田舎情緒と,リッチでふくよかな音像の一挙両得状態です。

★★★★☆
"Symphonie No. 3" (EMI : CDM 7 64689 2)
Michel Plasson (cond) Françoise Pollet (sop) Nathalie Stutzmann (msp) Thierry Dran (tnr) Frédéric Vassar (bss) Orféon Donostiarra : Orchestre du Capitole de Toulouse
フランクに心酔して音楽院を辞めたほど熱烈なフランキストだったロパルツの作品は,もともと宗教音楽を中心に発掘がスタートしたのが再評価の嚆矢でした。この事実はいわゆる「フランク主義者」なロパルツのイメージの再考を促す,結構重要な傍証かも知れません。彼は確かに当初,仰々しい独ロマン満載の作品を書きましたが,その後次第にドビュッシー以降の和声法と田舎情緒含みの旋法性を織り交ぜて,独自のポスト・ロマン主義へと解脱してゆきます。録音された宗教作品の殆どは後年のものでした。彼が他の同時代人(例えばデュカ)よりもさらに一歩前へ進むことができたのは,フランク超えのヒントを当のフランクから吸収していたことにあるのでは。フランクが風琴の名手だったことで,ヴィエルヌやバリエらへと流れる仏風琴界の潮流をより間近で見られたことは,極めて大きな意味があったのでしょう。そんな彼の解脱が最も早く刻印されたのが,両方の特徴を反映した『交響曲第三番』。その大掛かりな仕立ては,彼のもつ2つの顔が最も危うく均衡した瞬間を,鮮やかに切り取っている。フランク以前の作家が最も得意とする大規模編成による大仰なロマンティシズムは,歌劇に見紛う異様に巨大な編成と,デュカのそれを思わせる壮大な曲想が端的に示唆。いっぽう,のちの彼が得意とするポスト・ロマンの萌芽は,宗教音楽経由の旋法表現と,全編を覆う半音階の至芸が物語る。ローマ大賞時代のラヴェルやドビュッシーのカンタータそこのけの豊かな和声が綴れ織りをなします。危うい均衡が緊張と緻密な推敲をうながしたのでしょう。自身の二律背反性が芸術的な次元で創造性のピークを形作った,素晴らしい作品です。

★★★★☆
"Intégrale des Sonates pour Violon et Piano" (3D Classics : 3D8032-2)
Pierre Hommage (vln) Michel Bourdoncle (p)
比較的手薄だったロパルツの器楽作品にいよいよ真打ち登場。3つのヴァイオリン・ソナタ全てと『ロマンツァとスケルツィーノ』を収録した願ってもない企画作品です。アヴィニョン生まれのヴァイオリンは,国立パリ高等音楽院の室内楽及びピアノ科で一等を得た人物。EMIのラヴェル盤でソロを弾いていたクリスチャン・フェラの弟子で,果たせるかな音色はパリ楽壇直系。ジュヌヴィエーヴ・ジョワ,ドミニク・メルレに師事したマルセイユ出身のピアノとの共演になる演奏は,パリ楽壇ならではのハスキーで甘美,軽やか極まりない音色が全面に横溢。セピア色の音風景がさらりとした筆致で描かれていきます。しかし,この盤の聴きものは何と言ってもロパルツの楽曲!1番こそ古色蒼然ながら,2番と3番の素晴らしさたるや瀟洒極まりありません。後期ロマン派の官能美が印象派の語法の助力を得て極限まで拡張。その気品と慎み深い艶気の素晴らしさときたら!フランクの品格に源を発しつつも,フォーレの軽やかな甘美さとドビュッシーのモダンな和声が絶妙に絡みバランスされたセンスの良い作曲の才気に陶然となりました。紛れもなく近代のヴァイオリン・ソナタ屈指の名品だと思います。器楽曲に於けるこの人の作曲センスの良さはしかし,他の追随を許さないですねえ。甲種お薦めいたします。(本CDの入手に際しては黒山羊さんから格別のご助力を賜りました。記して感謝申し上げます

★★★★☆
"Sonate No.3 en La Majeur / Sonate No.2 en Mi Majeur / Sonate No1 en Ré Majeur" (Pavane : ADW 7491)
Sandrine Cantoreggi (vln) Béatrice Rauchs (p)
最近何だか急に録音が増えてきた気がするロパルツさん。ひょっとして去年が没後50周年だったからかな?これまで一枚しか見当たらなかったヴァイオリン・ソナタ集にも,嬉しい競合盤が出ました。結局ドビュッシーも一曲しか残せず,ラヴェルもブルース方向に行ってしまったこのジャンルは,フランキストにとってはまさしくパラダイス。フランクに心酔し,転学までした彼にとって,心の師匠が畢生の名品を書き残したこのジャンルは特別のものだったのでしょう。実際ここに収まった三品の美しさときたら,ロパルツの諸作中でも白眉と言ったって,あなかち誇張ではないほど。調性記号が付くものの,作風は大違い。フランクそっくりの循環もので,和声もかなり古色蒼然な第一番に対して,三番になると旋律はモーダルになり,和声も格段に近代化されます。本盤で独奏を担当するカントレッジ女史は,お名前から拝察の通りイタリア系なご様子。ルクセンブルク音楽院を出たのち,パリ音楽院でピエール・アモワイヤル,ハイデルベルクのマンハイム音楽院でロマン・ノデルに師事。現在はブリュッセル音楽院とルクセンブルク音楽院でヴァイオリンを教えているそうです。時折微妙に音がフラット気味になり,速いパッセージのスタッカートでは音を外し気味になるのが気になると言えばなりますし,少し金属的な脆さの残る音色ももう少し磨き込みが必要。アクセントの取り方もやや一本調子な気はしますけれど,優美にしなの利いた演奏の出来映えといい,音色の厚みといい,先に出たオマージュ〜ブルドンクル盤よりは上を行っていると思います。どうも録音状況があまり良くなかったようで,それもアラに影響しているのでしょう。ピアノのラウクス女史はドイツ人で,セニガラ,パリの両国際に入賞。こちらも安定した好演奏です。

★★★★
"Trio / Préludes, Marine et Chansons / Quatrième Quatuor" (Timpani : 1C1047)
Jean-Louis Haguenauer (p) Alexis Galpérine (vln) Cécilia Tsan (vc) Ensemble Stanislas
ロパルツは,スコラ・カントールムを出た後はナンシー音楽院の院長に就任してパリを離れてしまいます。中央の喧噪を嫌ったのでしょうが,このCDに参加している演奏家も,多くがどこかでロパルツと地理的な繋がりを持っている。四重奏団は1984年ナンシーで設立されましたし,ピアノはストラスブールで教鞭を執っている。地方振興に尽力したロパルツの貢献が思わざる形で実を結んだ企画といえるのかも知れません。弦楽四重奏団が少しばかり格落ちで,特にヴァイオリンのピッチが悪いのは気になるものの,演奏は水を得た魚のように煌めいた秀演だと思います。ショーソン似の初期作品『三重奏曲』はフランク門下らしい曲想ながら,瞑想的な三楽章など秘めた美しさをたたえた佳曲でショーソンより明らかに一枚上ですし,さらに年代が進んだ『前奏曲』になると,フランクからは完全に脱却。その美しさはもう他の追随を許しません。フルート,ハープが入る編成からかドビュッシーの『フルート・ヴィオラとハープのソナタ』の穏やかな雰囲気が満ち,しかも曲想は印象主義からアルカイックで古楽的な佇まいを取り出してきて,後期ロマン派の枠の中で穏やかに醸成したような夢心地の世界。紛れもなく近代屈指の名品だと思います。ところで本CDには,ブロッホのヴァイオリン・ソナタ集で細身ながら素晴らしい美音を聴かせていたアレクシス・ガリペリンが参加していました。このCDの解説書でその後の彼の近況を知りましたが,どうやらアメリカン・チェンバー・プレイヤーズの一員としてアメリカに移り,ワシントンDCを拠点に活動している様子です。彼くらい上手くても海外流出しなきゃやっていけないのか〜・・。

★★★★
"Quatuor No.3 en Sol Majeur / Quatuor No.2 en Ré Mineur" (Timpani : 1C1099)
Quatuor Stanislas : Laurent Causse, Bertrand Manut (vln) Paul Fenton (vla) Jean De Spengler (vc)
スタニスラス四重奏団は,1984年の結団以来ナンシーを拠点に活動。以前出た『前奏曲,海景と歌』でも演奏していました。恐らくは同盤が好評だったのでしょう。弦楽四重奏のための作品集を全集化することになった模様です。本盤はその第一弾で,1912年作曲の『2番』と,1925年作曲の『3番』を併録。後者は既に後期ロパルツの書法がほぼ固まった時期にあたり,群追う羊飼いの如き高原情緒と,村祭りの娘たちの快活な踊りを想起させる主旋律の田舎趣味を,モーダルな副旋律と和声,快活なリズムが目立たぬように下支え。地域主義者ロパルツの面目躍如たる筆致に快哉を叫びました。いっぽう3番のほうは,ロパルツが新旧イディオムの間で揺れていた微妙な時期の作品。フランク的な風格と古めかしさを色濃く留めながら,調性概念には収まりきれなくなった旋法性があちこちに芽を出し,彩り豊かな和声が色気のチラリズムを発揮。2番に比べると宮廷音楽家的な技巧と田舎の農民情緒の間でやや焦点が拡散し,右顧左眄気味な気はしますけれど,面白く聴きました。ほぼ購買層が固まっているであろう本盤で,記しておく必要があるとすれば演奏でしょう。前作ではヴァイオリンのピッチが甘く,この腕前で全集はちょっとキツイのではないかと思っていましたが,どうやら彼らも思い当たるふしがあった模様。全集録音を前に第二ヴァイオリンを交代。一番目立つヴァイオリンがましになったせいか,アラはやや目立たなくなりました。なおピッチは不安定で,都会っ子のような訳には行かないこのアンサンブルを,それでもなお起用。その背景には,「100年前のローカリストの全集である以上,ご当地ゆかりの楽団に演奏してもらうことに意義がある」と考えるレーベル側の思惑が多分に反映しているのでしょう。

★★★★☆
"Sonate pour Violoncelle et piano (Duparc) / Sonate pour Violoncelle et piano, No.1, No.2 (Ropartz)" (Daphénéo : A010)
Raphaël Chrétien (vc) Maciej Pikulski (p)
ロパルツとデュパルクという,フランク門下2人のチェロ・ソナタを収めたCDです。前者は1990年代になって漸く世界初録音された珍品。作者の兄に贈られたデュパルクのソナタ,そしてロパルツのソナタ2品も,期せずして彼らの作品中では初期のもので,作品に限って言えば筆致はフランキスト色が濃く,つらつらと儚げに移ろう半音階的な旋律美を旨とした作品。和声面では近代の匂いは弱く,後期ロマン派のイディオムに留まるものと言えると思います(ただし最後年のロパルツ2番は例外で,実際出来はこれが一番見事です)。しかし,旋律の美しさが勝負であるがゆえにこそ,ソリストの腕前によって生きも死にもする作品なのだ・・この新録音はそのことを何よりも雄弁に語る演奏秀逸盤。パリ国立音楽学校では2部門で一位を獲り,ベルグラード国際で2位と特別賞を獲得したフランスのチェロ奏者クレティアンの演奏は,フランス人らしく飴のように滑らかな甘美さを備え,全く棘の立たない音色が素晴らしい。デュパルクなんか同じ曲の筈なのにまるで別の曲であるかのようなみずみずしい精気に驚きました。本作を初録してくれたクラブユールさん・・申し訳ないけど出来は数段こちらが上です。ピアノもごく僅かミスタッチする他は良く力が抜け,みずみずしいタッチで見事。伴奏者としての長い経歴を裏付けるセンスの良いバック・アップであると思います。(本CDの入手に際しては黒山羊さんから格別のご助力を賜りました。記して感謝申し上げます

★★★★
"Masses and Motets :
Missa Te Deum Laudamus / Sub Tuum Paa sidium / Five Motets / Salve Regina / Hic Vir Despiciens Mundum / Missa Brevis in Honour of Saint Anne / Ave Maria / Mass in Honour of saint Odile" (Marco Polo : 8.225126)

Michel Piquemal (cond) Eric Lebrun (org) Ensemble Vocal Michel Piquemal: Cavaillé-Coll Organ: Saint Antoine des Quinze-Vingts, Paris
フランス合唱曲の世界に君臨するミシェル・ピクマルは,近代ものにも精力的に取り組む素敵なおじさま。デュリフレやプーランクの合唱作品を吹き込んでいるほか,ロパルツの合唱曲集も他に2つ録音しており,これで3枚目の録音ですから,もはや仏近代ファンにとっての足長おじさんと申し上げても過言ではありますまい。今回は自ら率いる「ミシェル・ピクマル合唱アンサンブル」による録音。演唱は良好です。他の2枚が管弦楽付帯の作品集だったのと比べると,こちらの伴奏は大オルガンのみで,ほぼ純然たるアカペラによる宗教作品。編成が意図を物語っているのでしょう。ポスト・ロマン派的色彩感を強調してリリシズムを探求するというよりは,伝統的な形式に則り,禁欲的な宗教音楽を作った印象。比較的初期のフォーレの作品『ラシーヌの賛歌』あたりを思わせる風情が色濃く現れています。それにしてもこの盤,マルコ・ポーロ盤のはずなのに・・トレードマークの紺色ジャケットは廃止するんでしょうか?

★★★★☆
"Petite Symphonie / Pastorales / Sons de Cloches / Sérénade Champête / Divertimento" (Timpani : 1C1034)
Pascal Verrot (cond) Orchestre de Bretagne
つい先頃,静岡の楽団(モーツァルト・オーケストラ静岡)が日本初演を敢行した『小交響曲』を含む,ロパルツの管弦楽作品集です。この盤が出た当時,まだロパルツの作品集は多くなく,合唱団を加えない管弦楽のための作品は,本盤で聴けるものが唯一でした。その後上記クリヴィヌ盤が出た現在も,収録曲は本盤でしか耳に出来ない演目ばかり。その価値は些かも揺るぎないものです。宗教曲や合唱曲では高踏的な表情が濃く,室内楽ではフランクの嫡流も頷ける慎み深い抒情を見せるロパルツですが,実際は早くにパリを離れて地方の音楽文化の継承と育成に尽力した人でもある。この管弦楽作品は,100年前に地方分権思想を実践した彼のもつ,地に足の着いたモダニストぶりを知るのに相応しい一枚となっていると言えましょう。生地ゆかりのオーケストラ,ブルターニュ管が演っているせいもあるでしょうが,牧歌的で田舎紳士然とした一面が濃密に。土着民謡を思わせる飾らない主題と,保守的なロマン派書法を朴訥に織り交ぜた飾り気のなさは,中央で改革を推進していた同世代の作家たちに比べると一聴地味。正直,当初私も過小評価していたことを白状せねばなりません。それだけ,「田舎臭さ」を壊さぬよう周到に主旋律を彩っていく,熟達した管弦楽手法が自然ということです。幸運にも本盤,演奏が良い。ケベック響の音楽監督を務めたパスカル・ヴェロが,フレムやラドミローも見事な演奏で掘り起こしてくれたブルターニュ交響楽団を周到に振り仰せます(2004. 7. 13補筆)。

★★★★
"Musiques au Jardin / Trois Nocturnes / Scherzo / Jeunes Filles" (Atma : ACD2 2255)
Stéphane Lemelin (piano)
ソリストのルムランは1960年ケベック州モントジョリ生まれ。ニューヨークへ出てカール・シュナーベルに師事したのち,エール大学大学院へ進んでボリス・バーマンに学び,博士号を得ました。カサドシュ国際で入賞してコンサート・ピアニストとなり,ATMAと契約。ドビュッシー『おもちゃ箱』やサマズイユのピアノ作品集を録音。特に後者は他に類を見ない発掘企画で,学位に恥じない博識を物語る企画でした。競合盤一枚と演奏僅少なうえ,穏健なモダニスト中でも屈指の健筆を誇るロパルツのピアノ曲を選んだ本盤もまた,彼の慧眼と趣味の良さを示す一枚といえましょう。ただなあ,これは同じく博士号を取ったシュミット作品集の録音者イーヴォ・カルチェフにも言えることですが,演奏と研究の二足の草鞋を履くと,やっぱり各々に注ぐ精力は2分の1。意地悪な神は二物をなかなか下さらない。サマズイユ作品集でどことなくピントのずれた演奏をしてしまう彼の,優れた慧眼と釣り合わぬ表現力の至らなさは勿体ないというか口惜しいというか。本人は半分情感表現として意識的にやっていると思われるアクセントや休符,ペダリングが,結局はまるで一瞬一瞬躊躇しているようなぎこちなさを与え,曲の輪郭を壊す結果になっている。他の穏健なモダニスト同様,ロパルツのピアノ曲も,装飾音や転調の中に旋法表現を控えめに足す程度で,民謡起源の素朴な筆致が基本。輪郭をきっちりと捉えきれないままの中途半端な即興性が,演奏にどこか脆い響きを与え,貧相に聴かせてしまう一因となっているように思います。それでも,品薄なロパルツのピアノ曲を聴ける有り難いCDではありますし,取り敢えず曲を掴むには充分。もっと聴かれることを願わずにはおれません。

★★★☆
"Mélodies :
Veilles de Départ / Il Pleut / En Mai / tout le Long de la Nuit / Chanson de Bord / Le Temps des Saintes / Chant d'Automne / Si J'étais Roi / Quatre Poèmes" (Auvidis Valois : V 4701)

Vincent Le Texier (btn) Philippe Biros (p)
こんな表現を使うとファンに叱責されそうですが,彼の作風を一言で表すとき私の脳裏に浮かぶ言葉はいつも「毛深い(土臭い)フォーレ」なんでございます。フランキストである彼の作風は典型的な仏後期ロマン派の嫡流で,優雅な旋律美が特徴です。しかし一方,この人の作品はフォーレやデュパルクなどのそれに比べるとやや濃い口で,俗っぽい。そうした田舎臭さ,男臭さが,彼の知名度にも大きな影を落としている感は否めないところ。シャルル・ボルドやジョセフ・カントルーブ,モーリス・エマニュエルなど,仏近代の多くの作曲家が地方に眠る民謡や伝承をもとに歌曲集を多く手がけましたが,まさしく歌曲には,そうした近代音楽のもつひとつの大きな特徴=脱宮廷音楽(脱音楽官僚主義)のはしりが現れていると見ることができましょう。そのぶん,どうしてもデュパルクのような儚い美意識より,波止場の労務者が奏でるロマンティシズムに近い垢抜けしない匂いが先に立つのはしょうがないことで,彼の歌曲集もその好個の例。フォーレやデュパルクとこの作品の間にある微妙な毛深さ(笑)の違いの中に,そうした音楽における近代化の一端が透けて見えます。

★★★★
"Introduction et Allegro (Ravel) Sonate pour Flûte, Alto et Harpe (Debussy) Sérénade (Roussel) Prélude, Marine et Chanson (Ropartz)" (Decca : 452 891-2)
Osian Ellis (hrp) Melos Ensemble
名前くらいしか聞いたことのないメロス・アンサンブルは,クラリネット奏者のジェルヴェ・ド・メイエが中心となって,1950年に創設した室内楽団。普通の編成ではなかなか演れないような作品を採りあげて演奏できる楽団を組もうとの意図から創設されたそうで,今で言えばナッシュ・アンサンブルのような大所帯だったようです。設立の意図が示すとおり,メンバーは全員,モントゥーのもと極上名盤のドビュッシー『映像』を吹き込んだ,あのロンドン交響楽団員さんで構成。思わず涎が出そうな曲をてんこ盛りにした本CDの演奏は,一言で形容するならまさしくモントゥー時代のロンドン響を思わせる,柔和で牧歌的な暖かみに富んだもの。現在と奏法の流儀が違うのか,フルートを始め,団員の掛けるビブラートがみな等速等圧でいかにも古臭いですし,やや表情も硬い。緊密さよりもおおらかさを前面に出すアンサンブルの完成度は現代のそれに比べると分が悪い面もあります。それでも,全体に溢れる暖かみに富んだアルカイックな風情は,どなたも洗練された都会的な演奏をする現在の室内楽団にはない牧歌的な魅力をたたえたもの。特に弦の音が暖かいのには参りました。個人的にはロパルツ『前奏曲,海景と歌』の競合盤を作ってくれた事実に欣喜雀躍。確かに良く一体感を成して滑らかに弾けているものの,残念ながらヴァイオリンのピッチがやや不安定なティンパニ盤となら,半世紀経とうという今でも充分にタメを張れるんじゃないでしょうか。

★★★★☆
"Berceuse / Sicilienne (Fauré) Pastorale de Noël (Jolivet) Quintette (Cras) Suite (Tournier) Prélude, Marine et Chansons (Ropartz)" (Hänssler : CD-NR.93.175)
Linos Harfenquintett: Sophie Hallynck (hrp) Gaby Pas-van Riet (fl) Annette Schäfer (vln) Gunter Teuffel (vla) Jan Pas (vc)
シプレから出たジョンゲンのハープ付き室内楽作品集でも竪琴を鳴らしておいでのソフィーお嬢様が,ドイツにもかかわらず仏人以上にフランス的な録音履歴を積み上げるシュトゥットガルト楽壇の面々に客演。こんな素敵な顔合わせで,演奏するはクラ,トゥルニエにロパルツと来ている。トゥルニエの『組曲』なんて滅多に聴ける曲ではなく,「良くこんな選曲で商売が成り立つよな・・」と感心するばかり。これでもかと仏近代フェチの財布の紐を緩める選曲に喝采です。べーやんやもーざるとをやっても採算ギリギリな日本の状況と比べるにつけ,欧州の文化先進国ぶりには感心するしかございません。「あのジョリヴェがこんなにドビュッシー好きのする典雅な曲を」とびっくりな『降誕祭パストラール』を始め,いずれも秘曲にして瀟洒,モデストで叙情的な小傑作揃い。仏近代が好きで堪らない奏者の好きものオーラが相乗効果を挙げ,フランス人そこのけの優美な演奏に仕上がっている。むろんオケ団員がメインですから,弦やフルートに僅かなくすみや掠れがちらつくのはご愛敬。技術的にはかなり良質と思います。特にロパルツの『海景』には,等速ビブラートが古めかしいメロス・アンサンブルに,ヴァイオリンがヨレてるナンシー楽壇と,隔靴掻痒な代物しかありませんでしたから,それらより一枚上手の技術で演奏された本盤の登場は快挙といえるのではないでしょうか。それだけに少しばかり気になるのは,相乗効果で仏人以上におフランスになってしまった曲の解釈。くだんのロパルツは良い例で,あまりにもテンポを揺らしすぎの強弱キツすぎ。この曲のもつ擬古典的な典雅さが,過多気味のロマンティシズムで些か汚れてしまい,ちょっぴり水商売のおネエっぽくなってしまったのは残念です。

★★★★☆
"Baigneuses au Soleil / Extraits de 'Cerdaña' / Les Naiade et le Faune Indiscret (De Séverac) Jeunes Filles (Ropartz) Quelques Danses (Chausson)" (Erato : B18D-39029)
Jean Doyen (piano)
何と言ってもフォーレのピアノ作品全集とラヴェル独奏曲集,そしてフルネを従えたラヴェルのコンチェルト集の録音で有名なフランスの名ピアニスト,ジャン・ドワイヨン。しかし,それ以外にも彼には近代もの,特にフォーレ周辺の後期ロマン派的な無名作曲家のピアノ曲を,思いの外沢山録音しています。中古屋で拾ったこちらもまさにそうした一枚。近年,チッコリーニの3枚組でちょっとだけ有名になったセヴラックのピアノ曲は,実はもともと彼が初演者。それだけに演奏は,彼一流のゴツゴツとしたテクスチャの中にも透徹した解釈の一貫性が光り,お世辞にもあまり好いとは言えないチッコリーニ盤の演奏を遙かに見下ろす名演となっている。さらに,珍しいロパルツのピアノ曲に至ってはまさしく水を得た魚のような演奏。蓋し小傑作です。本職が教育者であった彼は,決して録音の多い人ではなかったのですが,そんな中でもこういう録音を残していた慧眼には畏れ入るばかり。ちなみに,最近になってロパルツのピアノ曲には,一枚まるまるロパルツづくしの体裁をとったピアノ作品集も出ましたが,日本では入手困難。その後さらにカナダ人のピアノ弾きが録音するも,こちらは演奏今ひとつと隔靴掻痒。メーカーさん何とかしてください。

★★★☆
"Flûte Panorama :
Sonate (Pierné) Joueurs de Flûte (Roussel) Rêverie, Petite Valse (Caplet) Sonatine (Milhaud) Sonate (Koechlin) Sonatine (Ropartz) Sonate (Poulenc) Jeux (Ibert) Sonatine (Sancan) Sonatine (Dutilleux) Le Merle Noir (Messiaen) Chant de Linos (Jolivet)" (Skarbo : D SK 4955-6)

Michel Debost (fl) Christian Ivaldi (p)
1934年生まれのデボストは67才。1982年以降はパリ音楽院でフルートを教え,さらに1989年からはオバーリン・カレッジの学科長を務めるなど,徐々に教育者としての活動が目立つようになり,そろそろ現役は引退かと思っていたところに登場したのが本録音。最後にもうひと華,自らの手で後進にフランス音楽の範となりうるような音のテキストを残そうと考えたのでしょう。仏近代音楽史を縦断した選曲もそれを裏付けるもので,この自覚溢れる姿勢が素晴らしいです。何しろこのご高齢。1960年代チェコ管のミステリアスなソロ・フルートを彷彿させるビブラートは好みが分かれる気がしますし,イヴァルディは相変わらず少し演奏が荒い気がするのですが,全体に早めのテンポを取り,切れのあるスタッカートを利して,メリハリのある解釈を意図した演奏は熱気を帯びたもので,年齢が信じられないほど良く鳴り,勢いに富んでいて驚かされました。カプレの『夢と小さなワルツ』はMDG盤に見劣りしますし,サンカンのソナタもパユのほうが滑らかで好い(フルート吹きの方に言わせると違う意見なのかも知れませんが)など,それぞれの曲目にさらなる良演があることは否定しませんが,まだここに挙がった作品の多くを聴いたことがないという方には,好い演奏で主立った近代フルートの名品をお手軽に揃えられる一枚として,お薦めできるのではないでしょうか。

★★★★
"Première Sonate pour Violoncelle et Piano (Ropartz) Sonate (Debussy) Trois Pièces / Deuxième Dialogue (Migot)" (Integral Classic : INT 221.105)
Jean-Marie Trotereau (vc) Jeffrey Grice (p)
本盤は,ジョルジュ・ミゴというエラクマイナーなところを突く選曲が心憎い好事家盤。ロパルツのソナタは1904年の作。器楽作品では初期のものにあたり,まだ書法の基調はフランクにありますが,凝った移調センスや伴奏ピアノのアルペジオのそこここにポスト・フランキズムの萌芽を見てとることのできる佳品。こちらはクレティアンの秀演があるだけに,興味の大半は初めて耳にするミゴということになりましょう。ポスト・ロマン派とジムノペディのサティを足して二で割ったような,不思議な風合い。同じ旋法使いでも,ユニゾンまたはアルペジオ主体の伴奏で和声感希薄なミゴのそれは,即物主義的な視線がちらつき,とにかく薄味でカサカサしている。エキセントリックな個性が様々なベクトルに伸びていった近代の中で,どの方向にも偏倚しようとしなかったこの人なりの美学なのかも知れません。既にチェロを弾くトロトロー氏はシベリウス三重奏団のメンバー。トゥルーズとパリ音楽院で学んだのち,1985年にはオーベルニュ管弦楽団のソリストに選ばれた人物。さすがに,コピーやクレティアンに比べると幾分音が痩せているようですが,ピッチは正確で,抑揚豊かな情感表現も秀逸の部類に入るのではないでしょうか。そんな良いことずくめの本盤,残念なのは録音が貧相なことですか。どこか教室サイズのお部屋で演奏したのを,そのまま2トラック録音したような感じ。それならそれで,もう少しリッチに録ることは出来ると思うんですが,チェリストが動くのを考慮してか,やや離れた位置から集音している。そのせいで楽器と距離感が大きくなり,部屋の残響に原音が埋もれてしまい,定位が怪しくなってます。さらに,マスター音源がテープなのか細部に音の摩滅が。実際,吹き込みに関する記述は皆無。お金が無かったんでしょうかねえ?

★★★☆
"Sonate en Sol Mineur (Vierne) 3ème Sonate en la majeur (Ropartz) Thème et Variations (Messiaen)" (Musica Viva : MVCD1110)
Anne Robert (vln) Sylviane Deferne (p)
初耳なレーベルから出た本盤は,仏語圏だからでしょうか,仏近代のマイナー・ソナタ3品を収めたオムニバス。滅多に聴けないヴィエルヌのソナタが嬉しい。1906年の作であることを紹介すれば,敬愛して止まない師匠に続く意図で書かれたであろうと,どなたもたちどころに気づかれるのでは。執拗なまでに主題が再現される循環形式のこの作品は,確かに良く書けてはいるものの,本家のソナタには確かに存在するはずの決定的なサムシングが不足している。往々にして従順な秀才は,師匠を超えられない哀しき優等生に終わるものでして・・。曲の中から浮き上がってきて,聴き手の脳天に自らを刷り込ませずにはおかない,禁欲的でいて官能的な美旋律!このソナタには,その閃きが決定的に欠けている。師匠に恋い焦がれ,形式・和声感や曲の展開など,驚くほど本家を彷彿させるにもかかわらず,最も決定的な達磨の目【旋律美】だけはどうしても真似できないもどかしさばかりが,苦しげにのたうつ主旋律から痛いほど伝わってきて,聴くのが辛いです。確かに,フランクと比べるから駄目なんでしょう。でも,逆に言えば,比べさせてしまう原因の根幹には,師と同じベクトルへ自分を置き,コピーに甘んじる道を選んでしまった彼の哀しい決断があるのもまた事実。その点,独立音楽協会の連中のほうへも目配りしていったん師をカッコに入れ,そこから自分の立ち位置をきっちり見定めて解脱していったロパルツは,やっぱり目の付け所もしたたかだったナァと感ぜずにはおれません。ソリストはモントリオールやケベック州を拠点に活動する室内楽団員。グリュミオー流儀の軽やかで艶っぽい演奏ながら,ピッチはやや緩いですし,フレージングが一本調子。もっと豊饒であっても良かったのでは。演奏がもう一つパッとしないせいか,早々に興味は明後日の方向へ。凄い美貌の伴奏者(1985年のブゾーニ国際6位)に目を奪われちゃったりして・・(恥)。併録のメシアンは六人組臭も飛び出す穏健な佳品です。
(2002.11.24 一部加筆