Rの作曲家



ジョン・ラッター John Rutter (1945 - )

イギリスの作曲家,合唱指揮者。1945年9月24日ロンドン(ケンブリッジ)生まれ。父は科学者で,音楽的な家庭ではなかったが,前居者が置いていったアップライト・ピアノで,幼少期から音楽に親しんで育った。ハイゲイト・スクールで最初の音楽教育を受けた後,ケンブリッジ大学クレア・カレッジへ進学して音楽を専攻。その後,サザンプトンで短期間教鞭を執ったのち,僅か30才(1975年)でクレア・カレッジの学長となり,1979年までその地位を務めたが,1979年に音楽活動へ専心するため同校を離れ,自らケンブリッジ・シンガーズを結成。同合唱団を率いて数多くの自作を録音している。管弦楽や室内楽の作品もあるが,宗教音楽や合唱曲の作曲家として知られ,ヨーロッパ,スカンジナビア,北米などで客演指揮や講演をする傍ら,1980年にはプリンストンのウェストミンスター合唱大学(Westminster Choir College)名誉研究員,さらに1988年には教会音楽家連盟(Guild of Church Musicians)の研究員に就任するなど,高い評価を受けている。彼は敬虔なキリスト教徒で,1996年には英国教会カンタベリー大主教(Archbishop of Canterbury)から,音楽博士号(Lambeth Doctorate of Music)を授与されている。現代イギリスを代表する宗教音楽家のひとり。平明な作風から,特にアメリカでの人気が高い。


主要作品

舞台作品 ・BANG! bang! (1975)
・アムランの笛吹き the piper of Hamelin (1980)
管弦楽 ・弦楽のための組曲 suite for strings (1971) {strings}
・パルティータ partita (1973)
・古風な組曲 suite antique (1979) {fl, hpcd, strings}
・遙かなる国 distant land (1991)
・空想 fancies (-)
・つららが下がる頃 when icicles hang (-)
・5つの子どもの詩 five childhood lyrics (-)
協奏曲 ・ビートルズ協奏曲 beatles concerto (1977) {2p, orch} ...ビートルズの曲を編曲したもの
宗教作品 ・ファルコン the falcon (1969) {org, choir, orch}
・グローリア gloria (1974) {org, choir, orch}
・究極の愛 thy perfect love (1974) {choir, orch}
・世界を平和に go forth into the world in peace (1979?) {choir, orch}
・心より神を讃え praise the lord o my soul (1980) {brass, org, choir}
・我を平和の僕に lord, make me an instrument of thy peace (1980) {choir, orch}
・2つの祝祭歌 two festival anthems (1980-1981) {org, choir, orch}
・神は見守り祝福なさる the lord bless you and keep you (1981) {choir, orch}
・限りある全てのものに to everything there is a season (mid.1980s) {choir, orch}
・レクイエム requiem (1985) {sop, choir, orch}
・テ・デウム te deum (1988) {brass, choir, perc, org}
・マグニフィカート magnificat (1990) {sop, choir, orch}
・創造主への讃歌 hymn to the creator of light (1992) {2choir}
・誕生日のマドリガル birthday madrigals (1995) {choir}
・祝祭詩編 psalmfest (1993) {choir}
・福音の誓い clair benediction (late1990s) {choir}
・祝福されし我 I my best-beloved's am (1999) {choir}
・来たりて聖なるものを愛でよ come down o love divine (1999) {choir}
・ as the bridgegroom to his chosen (-) {choir, orch}
・神は我が中に god be in my head (-) {choir}
・ゲール人の主権 a gaelic ascending (-) {choir, orch}
・合唱ファンファーレ a choral fanfare (-) {choir}
・さあ,その手を叩き o clap your hands
・全ては美しく輝き all things bright and beautiful
・主は我が導師 the lord is my shepherd
・地球の美しさを讃え for the beauty of the earth
・主を讃えて praise ye the Lord
・我が目を通じて open thou mine eys
・聖パトリックの祈り a prayer of Saint Patrick
・主キリストは再び Christ the lord is risen again
・神のみ許で o be joyful in the lord
・神に感謝を now thank we all our god
・神と王の創造物 all creatures of our god and king
・春は来ませり I believe in sprigtime
・我が目を通して be thou my vision
・ヴェニ・サンクトゥス・スピリトゥス veni sancte spiritus

 (※邦題は拙訳。正式な訳は,和訳版の聖書を参照。正確な訳をご存じの方,よろしくご教示ください


ラッターを聴く


★★★★★
"Requiem / Advent Anthem / Anthem / Musica Dei Donum / Two Blessings / Two Organ Pieces" (Naxos : 8.557130)
Timothy Brown (cond) Nicholas Rimmer (org) Member of the City of London Sinfonia : Choir of Claire College Cambridge
既に下記ハイペリオンやコレギウムから,秀抜な演奏で音盤を出して貰っている『レクイエム』は,ラッターの代表作のひとつ。その演目を,彼の出身校でもあるケンブリッジ大学クレア・カレッジの聖歌隊が録音しました。本盤のミソは,『レクイエム』を原典(オリジナルの編成)で演奏した世界最初の録音であるという点でしょう。これまで録音されてきた『レクイエム』は全て管弦楽編成版。確かに壮麗なんですけど,ラッターの作る曲が,もともとやや甘美に過ぎることも相俟って,バタ臭いとの感は拭えませんでした。ところで,同じく複数の版があり,『レクイエム』を題材にした作品といえば,すぐに思い出すのはフォレのそれでしょう。管弦楽版で演奏されることの多かった同曲を,ごく少人数の器楽だけを付帯した小規模の合唱隊とオルガンで録音し,改めて室内楽編成の敬虔で透明な魅力を知らしめたのがヘレヴェッヘでした。本盤もまさしくこれと同じ。個人的な好みを度外視しても,この曲の持つ教会音楽としての趣を正確に再現前しているのは,間違いなくこの室内楽版。彼の青臭いロマンティシズムが,敬虔な響きの中で見事に霧散し,思惑を遙かに超えた劇的効果を挙げている。さらに幸運なことに本盤,ヘレヴェッヘの霊魂でも乗り移ったのか,怖ろしく演奏が良い。ソプラノのエリン・トーマス女史は摩周湖なみの透明感がありますし,ロンドン市立響(特にチェロ)は,甘く包容力のある音色で,十二分に力量を披瀝。加えて合唱隊が素晴らしい。録音も透明感と芳醇な膨らみがあって,下手な通常価格盤も真っ青の品位。ほんとにこれ,ナクソスのCDなんでしょうか?う〜ん信じられない。この値段でこの演奏とは。これだけコスト・パフォーマンスの高いCD,一年に3枚もないでしょう。ラッターの合唱曲を聴くにあたってのファーストチョイスとして,甲種大推薦致します。

★★★★★
"Gloria / Come Down, O Love Divine / Lord, Make me an Instrument of Thy Peace / To Everything there is a Season / I my Best-Beloved's am / Praise the Lord, O my Soul / I will Lift up Mine Eyes / As the Bridgegroom to his Chosen / A Clare Benediction / The Lord is my Light and my Salvation / Go Forth into the World / Thy Perfect Love / Te Deum" (Hyperion : CDA 67259)
Stephen Layton (cond) Andrew Lumsden (org) Polyphony : City of London Sinfonia : The Wallace Collection
彼の宗教作品に関しては作者の自作自演盤とこのハイペリオンの連続録音でかなりの発掘が進んでおり,嬉しいことにそのいずれを取っても水準以上の演奏と楽曲。特にステフェン・レイトンの手によるこのハイペリオン・シリーズは秀抜。少々甘美な情に流され気味なのは作者の人の好さ(詰めの甘さ?)が出たものでしょうが,アカデミー賞受賞映画の付帯音楽のように上品でロマンティックな美旋律がキラ星の如く並んで外れがない。おまけにこのシリーズ,録音が恐ろしく良いです。この盤は大曲ではなく,その間に残った小品を集めた作品集ですが,それが逆に奏功。この人本来が持つ慎み深く甘美な美旋律,美ハーモニーの極地。文句の付けようのない決定版と申せましょう。

★★★★☆
"Magnificat / The Falcon / Two Festival Anthems" (Collegium : COLCD 114)
John Rutter (cond) Patricia Forbes (sop) Andrew Lucas, John Scott (org) City of London Sinfonia : The Cambridge Singers
少々通俗的すぎ,安っぽいところもあるものの,優れて色彩的な和声感覚と,躍動的なリズムを併せ持つジョン・ラッターは,アメリカのジョン・ウィリアムスや,同じく通俗的なウィリアム・ウォルトンなどを思わせる作曲家です。以前,知人にご招待いただいて拝聴したコンサートで耳にして以来,気になっておりましたので,今回作曲者自身の指揮盤を見つけて嬉しい限りです。その際の演目でもありました『マグニフィカート』が本盤のメインですが,お薦めはむしろカップリングの『ファルコン』のほう。多彩で重厚なリズムと深淵な旋法様式で聴きごたえ充分。知る限り彼の最も緊密な作品で,間違いなく本盤の白眉でありましょう。ロンドン市立響は,ヒコックスと組んだシャンドス録音で近代物ファンにはお馴染みのオケ。この盤でも,やや軽い乍ら安定した響きで好演を展開。しかしこの盤の最大の美点はケンブリッジ・シンガーズの合唱。じゅうぶんに統率が取れ,ピッチも安定。極上と言っても良いレベルだと思います。ラッターをまず一枚お試しでという方は是非。

★★★★☆
"Requiem / Hymn to the Creator of Light / God be in my Head / A Gaelic Blessing / Cantate Domino / Open Thou Mine Eyes / A Prayer of Saint Patrick / A Choral Fanfare / Draw on, Sweet Night / My True Love Hath my Heart / The Lord Bless You and Keep You" (Hyperion : CDA 20947)
Stephen Layton (cond) Rosa Mannion (sop) Polyphony : Bournemouth Sinfonia
英国を代表するレーベルの一つ,ハイペリオンから出たCD。最も多くの録音があり,目下代表作と目されるのがこの『レクイエム』でしょう。このCDは,その代表曲に,初期,中期の無伴奏合唱曲を複数カップリングしたもの。このCDで特筆すべきはその演奏の素晴らしさです。ポリフォニーという合唱団,あまり耳にすることのない合唱団ですが,これが上手いの何の。ほとんど完璧に近いレベルではないでしょうか。曲の方はラッターらしい平明な作風。相変わらず少し安っぽい面もあるものの好いです。ちなみに "draw on sweet night" と "my true love hath my heart" の2曲は,もともと『誕生日のマドリガル』に収められたもので,ジャズ・ピアノの名手,ジョージ・シアリングの誕生日を祝って作曲されたものです。

★★★★☆
"Distant Land / Five Meditations / Suite for Strings / Suite Antique / Beatles Concerto" (Decca : B0001821-02)
John Rutter (cond) The Royal Philharmonic Orchestra
宗教作品ばかり出ている感のあるジョン・ラッターに,珍しく合唱隊が絡まない管弦楽作品集があるのを発見。普通の音楽を書いたときに,果たしてどれほどの力量なのか気になり,買ってみることに致しました。で・・聴いた印象なんですけど・・う〜ん・・何と言うんでしょうか。ポール・モーリアとかリチャード・クレイダーマンの路線ですねこれは(笑)。もの凄く大甘で,ロマンチックで,メルヘンチックで,しかも具象的な主旋律を,ひたすらに耳触りの良い弦が下支え。管部が時折,ちょろちょろ横から装飾音を入れる。いやホント,これだけです。一昔前の純愛もののテレビドラマで掛かりそうな,でなければ世界名作劇場(アニメです)で掛かりそうな,ヒッッジョ〜に感傷的な音楽でございます。音楽家も人の子ですから,思想信条や性格が音へ乗るのは当然のこと。ラッターさんはきっと,ものすゴーく素直で,もの凄いロマンチストで,世界平和や愛という言葉の普遍的な価値を心から信じているような,良心そのもののような方なんでしょう。もし貴殿が,無垢な彼のキラキラ輝く瞳を目の前にしたとき,少しでも「ゲ,何だこいつ・・とか思うオレって,ひょっとしてヨゴレ?」と妙な引け目を感じたり,「うわ恥っずカスィ〜,赤面しちゃって横にいるのが辛いわ」などという不埒なことを申す世俗的な民ならば,下がれ下がれ下がりおろ〜う!決してこのCDを聴いてはいけません。きっともの凄くバツの悪い思いをするか,軟弱な音楽だと激怒するかのどちらかでしょう。万事割り切った上でBGMとして愉しめる方と,聴いて素直にす・て・き♪と言える真っ直ぐな心根をお持ちの方にのみ甲種推薦です。私は・・どうも醜い方らしいですね(笑)。あまりに甘美な曲想を素直に受け止められず,なんだか恥ずかしくなってしまいました。演奏するは,駅売りでもよく見かける割りに,実はイギリス屈指の実力派ロイヤル・フィル。申すまでもなく大変に高品位です。

(2001. 8. 23)