Sの作曲家



エリック・サティ Erik Satie (1866-1925)

近現代フランス音楽において,極めて特異な位置を占める作曲家。1866年5月17日,ノルマンディー地方セーヌ川河口の小都市オンフルール(Honfleur)にて,音楽的な素養を持つスコットランド人の母とノルマンディー生まれの父の間に3人兄弟の長子として生まれる。間もなく一家はパリへと出るが,母が他界したため,彼は生地の祖父の元へ預けられた。彼の音楽的素養に気づいた祖父の紹介で,聖カトリーヌ教会のオルガン奏者で聖歌隊長ヴィノー(Vinot)にピアノを師事。1879年,父親がパリ音楽院出身のピアノ奏者ウージェニー・バルネッチ(Eugenie Barnetsche)と再婚。彼は同年パリ音楽院に入学してデコンプ(Descombes)にピアノ,ラヴィニャック(Lavignac)にソルフェージュを師事。さらに1884年にマティアス(Mathias)のピアノ科へ進み,翌年にはトードー(Taudou)の和声科に進んだ(その後ノイローゼに陥り,音楽院を離れる)。古代舞曲研究へ没頭し,薔薇十字教に入信した初期の作風は,アルカイックで神秘主義的な傾向を示し,機能和声を無視した大胆な書法でドビュッシーに強い影響を与えた。次いでダダイズムに傾倒。コクトーやピカソ,6人組や『アルクィーユ派』(彼の信奉者の集まり)と交流し多大な影響をもたらす。その後40歳でスコラ・カントールムへ再入学。ルーセルとダンディに対位法と編曲を学び,晩年は大規模な舞台作品にも手を広げた。生涯反アカデミズム,反ロマン主義的立場を一貫して取り続け,不遇。晩年は安酒がたたり肝臓を傷め,グラン・ホテルに借り住まいの日々となった。1925年7月1日,肋膜炎の悪化で聖ジョセフ病院に運ばれ,59歳で世を去る。


主要作品

オペレッタ ・ブラバンのジュヌヴィエーヴ Geneviève de brabant (1899)
・メドゥーサの罠 le piège de Méduse (1913)
バレエ/付帯音楽 ・星の子どもたち le fils des étoiles (1891) <orch>
・見世物小屋 parade (1916) <orch, 各種効果音>
・ソクラテスの死 la mort de Socrate (1918) <2sop, chamber-orch>
・メルクリウス Mercure (1924)
・ルラーシュ(本日休演) relâche (1924) <orch, actors, movie film, 大砲>
管弦楽曲 ・「真夏の夜の夢」のための5つのしかめ面 cinq grimaces pour 'le songe d'une nuit d'éte' (1914)
・組合された3つの小品 trois pièces montées (1919) <4hds, small-orch>
・おかしな美女 la belle excentrique (1920)
・家具の音楽 musique d'ameublement (1920-1923) <fl, cl, bssn, hrn, tp, perc, strings>
器楽曲 ・左と右に見えるもの−眼鏡なしで choses vues à droite et à gouche -sans lunettes (1914) <vln>
・(いつも片目をあけて眠る見事に太った)猿の王様を目覚めさせるためのファンファーレ sonnerie pour réveiller le roi des singes (-) <2tp>
歌曲/合唱曲 ・3つの歌 trois chansons (1886)
・歌 chanson (1887)
・国旗への讃歌 hymne au drapeau (1891)
・貧者のミサ messe des pauvres (1895) <choir, org>
・おまえが欲しい je te veux (1900)
・優しく tendrement (1900)
・ランピールのプリマドンナ la diva de 'l'empire' (1903)
・3つの愛の詩 trois poèmes d'amour (1914)
・3つの歌 trois mélodies (1916)
・4つの小さな歌 quatre petites mélodies (1920)
・潜水人形 ludions (1923)
ピアノ曲 ・尖弓形 ogives (1886)
・2つのサラバンド deux sarabandes (1887)
・3つのジムノペディ trois gymnopedies (1889)
・グノシェンヌ第1番〜第3番 gnossiennes, No.1-3 (1890)
・ヴェクサシオン vexation (1893)
・グノシェンヌ第4番〜第6番 gnossiennes, No.4-6 (1889-1897)
・3つの前奏曲 trois préludes (1891)
・ばら十字教団の鐘の音 sonneries de la Rose+Croix (1892)
・ナザレ人の2つの前奏曲 deux préludes du Nazaréen (1892)
・ゴシック風舞曲 danses gothiques (1893)
・4つの前奏曲 quatre préludes (1893)
・天国の英雄的な門の前奏曲 prélude de la porte heroique du ciel (1894)
・ヴェクセイション vexations (1895)
・冷たい小品集 deux pieces froides (1897)
・びっくり箱 Jack in the box (1899)
・小さな序曲 petite ouverture a danser (1900)
・金粉 poudre d'or (1902)
・梨の形をした3つの小品 trois morceaux en forme de poire (1903) <2p>
・ピカデリー le piccadilly (1904)
・あやなす前奏曲 prélude en tapisserie (1906)
・パッサカリア passacaille (1906)
・うつろな空想 songe creux (1906-1908)
・不愉快な概要 apercus desagreables (1908-1912) <2p>
・乗馬服を着て en habit de cheval (1911) <2p>
・犬のためのぶよぶよした前奏曲 trois véritables préludes flasques (1912)
・太った木の人形のスケッチとからかい croquis et agaceries d'un gros bonhomme en bois (1913)
・あらゆる意味にでっち上げられた数章 chapitres tournés en tous sens (1913)
・自動的な描写 trois descriptions automatiques (1913)
・ひからびた胎児 embryons desséchés (1913)
・子どもらしさ enfanties (1913)
・古い金貨と古い甲冑 vieux sequins et vieilles cuirasses (1913)
・世紀ごとの時間と瞬間の時間 heures séculaires et instantanées (1914)
・スポーツと気晴らし sports et divertissements (1914)
・嫌な気取り屋への3つのワルツ trois valses distinguées du précieux dégoute (1914)
・操り人形の踊り les pantins dansent (1914)
・臨終前の思索 avant-dernières pensées (1915)
・官僚的なソナチヌ six gnossiennes sonatine buraucratique (1917)
・夜想曲 nocturnes (1919)
・最初のメヌエット premier menuet (1921)


サティを聴く


★★★★☆
"Parade / En Habit de Cheval / Trois Morceaux en Forme de Poire / Trois Petites Pièces Montées / La Mort de Socrate" (Accord : 465 801-2)
Denise Monteil (sop) Georges Auric, Jacques Février (p) Manuel Rosenthal (cond) Orchestre National de l'O.R.T.F.
自らも作曲家として少しだけ有名なマニュエル・ロサンタール指揮のフランス国立放送管。これまた6人組の一人オーリックと,名ピアニスト,フェヴリエの連弾という,ちょっと信じられないような豪華メンバーによる,サティの旧録が堂々,フランスの名門アコールから再発されました。やはりこのレーベルは素晴らしいです。サティの管弦楽は,ピアノ曲に比べ遙かに知名度が落ちます。しかし,『春の祭典』に先んじること4年で,ストラヴィンスキーも真っ青の「馬鹿馬鹿しい音楽」ぶりを見せた『パレード』を筆頭に,フランスらしい,とぼけた形のシニカルな反楽壇主義,バーバリズムの反骨精神が横溢。しかし,一見そういう作風でありながら,随所に見られる和声の流れは,意外なほど穏健で美しさを失いません。表面的な虚飾を取れば,やはりここでもシンプルな近代音楽の表情が見えてきます。印象主義,6人組,バーバリズム,どこからもほどほどに近い,サティの持つユニークなベクトルがよく見える作品として,それらのどのファンにも一聴をお奨めしたい作品です。案外,彼はその「中庸な」ベクトルを通して,近代音楽の中核を見ていたのかも知れません。

★★★★
"Entr'acte de Relâche / Sonnerie / Musique d'ameubluement / Vexations" (Erato : B15D-39208)
Marius Constant (cond) Michel Dalberto (p) Pierre Thibaud, Bernard Jeannoutot (tp) Ensemble Ars Nova
ピアノ作品ばかりが注目されるサティは,管弦楽の作品となると滅多にCDになりません。これは,ほとんど唯一サティの『家具の音楽』を採り上げたものとして,大変珍しい録音です。『家具の音楽』は,人から意識して聴かれ「ない」音楽を目指して作られた,最もサティらしい哲学の表れている作品。作者自身が「それに何か重要なふくみがあるとはお考えにならずに,休憩時間のように,音楽などは存在していないかのように振舞われますよう,切に皆さまがたにお願い申し上げます」と記したように,現代のBGMに通じる発想を,100年近くも前にしていた音楽としては成る程興味深い。各楽章の標題を描写したような単純な主題を延々反復するだけのこの作品,確かにじっくり聴こうとすると途方もなく馬鹿馬鹿しくなるだけでございます。マァ,それこそ反芸術,反アカデミズムを標榜したサティの狙いに嵌ってしまったことなんでしょうけれど(しかし初演では,「聴くな!」というサティの怒声と裏腹に,みんなひたすら傾聴し,サティの思惑は完全に外れたんだそうです:笑)。『本日休演』のほうは印象主義ファンにも聴くところがある佳品。ピアノ独奏の 『ヴェクサシオン』ともども演奏は素晴らしい出来映えです。無意味性の『家具』で星1つ減点しときますか(笑)。

★★★★
"Gymnopédies No.1, No.3 / Parade / Relâche / Mercure" (EMI : CE33-5134)
Louis Auriacombe, Pierre Dervaux (cond) Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire : Orchestre de Paris
サティの代表作とも言うべき『3つのジムノペディ』編曲版を含むサティの管弦楽作品集。こちらはパリ音楽院管弦楽団と,パリ管という,フランスの首都が誇る2大オーケストラによる好録音で,あまり録音をお見かけしない『メルクリウス』を聴けるのが美点です。オーリアコンブが指揮するパリ音楽院管は,出来不出来の激しいオーケストラですが,この演奏は当たり。抑揚をたっぷりと利かせた演奏で,古い録音ならではの匂い立つような香気があります。オドロオドロしいサティの作品は舞踏音楽風の軽い風刺画で,あまり気を入れて聴くと早晩飽きてしまいます。聴きものの『メルクリウス』は,六人組に影響を与えたという彼の作風が大いに出たもの。大まじめに仰々しく展開される尤もらしい擬古典様式。それが,どこか人を食っている。しかし,時折印象主義の影響がちらりと覗く。後年のサティらしさが出た作品と言えましょう。演奏は好いです。

★★★★☆
"2 Sarabandes / 3 Gymnopedies / 6 Gnossiennes / 2 Préludes du Nazaréen / Prélude de la Porte Heroique du Ciel / 2 Pieces Froides / Petite Ouverture A Danser / 3 Véritables Préludes Flasques / Chapitres Tournés en tous Sens / 3 Descriptions Automatiques / Embryons Desséchés / Heures Séculaires et Instantanées / Sports et Divertissements / 3 Valses Distinguées du Précieux Dégoute / Avant-Dernières Pensées Sonatine Buraucratique / Nocturnes" (Arts Music : 99384)
Håkon Austbø (piano)
2枚組680円と正規盤に真っ向勝負。ゲリラ精神炸裂のこのCD,取り敢えずサティの輪郭だけはなぞっておこうという方には福音とも言うべき一枚。廉価ということで解説書も何もありませんが,それを補って余りあるのがピアノ。訛のない,良く力の抜けた丸いタッチと深い内省性,そして読み過ぎ・作りすぎているほどに丁寧な弾き込みが素晴らしい。もともと余り技巧的ではないサティ作品とはいえ,充実の演奏で充分最上の一角に食い込む内容であると思います。彼はノルウェー出身でミュンヘン,ラヴェル,ブラティスラヴァ国際で入賞(1974-1975),1989年にノルウェイ批評家賞,1992年のノルウェーの年間最優秀演奏家に選ばれた御仁。現代音楽が得意なようで,スクリャービンのピアノ曲集でノルウェイ版グラミー賞も獲っている。巧いわけです。廉価盤(海賊盤?)にしておくのは勿体ない硬派なCDで,制作者の良識が伝わる優れた企画なのは間違いありません。こういう優れたCDを,お値段だけで『廉価』だの『海賊』と呼ぶのは失礼というものです。甲種推薦盤。

★★★★
"trois gymnopedies / trois gnossiennes / pieces froides / je te veux / songe creux / apercus desagreables / preludes flasques / embryons desseches / vieux sequins et vieilles cuirasses / heures seculaires et instanees / avant-dernieres pensees" (Victor : VDPY-25020)
Jean-Joel Barbier, Jean Wiener (piano)
アウストボー盤に比べ,こちらは通好みの定番というべき一枚。通常価格で国内盤です。セヴラックのピアノ曲集でも素晴らしく熟達した演奏を聴かせていた隠れ名手,シャラントン音楽院院長にして名ピアニスト,バルビエのサティ。含蓄とテクスチュアに富み,訥々感のある演奏をする人なので,モンポウと同じくらいプリミティヴで訥々とした初期サティの作風には相性が好いと言えるのかも知れません。果たして全体に過度の感情移入を避けた演奏ではありますが,全体に若干テンポ速めで,ペダルも多め。彼の演奏にしてはやや性急で流し気味なのが気になります。流麗でフランス的な演奏とも聴けますが,些かサティの持つ無垢さや質感には乏しいBGM的演奏かも知れません。

(2001. 9. 11)