Sの作曲家



イーゴル・ストラヴィンスキー Igor Stravinsky (1882-1971)

ロシアの作曲家,指揮者,ピアニスト。本名イーゴル・フョードロヴィチ・ストラヴィンスキー。1882年6月17日ペテルスブルグ生まれ。キエフとペテルスブルクで成功したバス歌手を父に持つ音楽的環境で育ち,1891年,9歳で従兄弟のカテリーヌ・ノセンコに就き最初の音楽教育(ピアノ)を受ける。両親の反対で音楽の道には進めず,はじめ1901年にペテルスブルク大学で哲学および法律を学ぶ(1905年卒)が,1902年夏に大学で知り合った息子の仲介でリムスキー=コルサコフに認められ,私的に教育を受けた(1903年〜1906年。初期作品『交響曲』から『花火』までが,師匠との間で作られたものである)。1908年に師は世を去るも,翌年『花火』の初演でディアギレフに認められ,『火の鳥』の依頼を受けるに至る。ディアギレフとの交流期間(〜1914年),夏期にはパリに止まりつつ,同作のパリ初演(1910),『ペトルーシュカ』(1911),『春の祭典』(1913)を次々発表。これらが大きな反響を呼んで,一躍評価を確立させた。その後彼は健康上の問題でスイスに移住。大戦中はスイスで活動し『ある兵士の物語』などを発表。戦後1920年に再びフランスへ移住。ディアギレフと交流し,各 地を点々としながら『プルチネルラ』,『アポロ』を発表する。その関係は1929年にディアギレフが他界するまで続いた。ディアギレフの死後は,経済的な理由からピアニスト,指揮者としても活動を開始。1939年にハーバード大学に招聘され,戦火を避けて渡米。ハーバードで教鞭を執りながら作曲活動を継続し,2つの交響曲などを作曲したが,この頃には作風は新古典派に転じ,楽壇への影響力は減退していた。1971年4月6日,ニュー・ヨークにて客死。ヴェニスのサン・ミケレ島に埋葬。野蛮主義(バーバリズム)の先駆者としてドビュッシーと並ぶ20世紀音楽の開拓者であり,特にベルク,シェーンベルクらウィーン楽壇に大きな影響を与えた。


主要作品
※Griffiths, P. 1992. Stravinsky. Schirmer Press. および Walsh, S. 1988. The music of Stravinsky. Routledge.
入手。作品表完全版へ改訂予定(時間が出来たら)。

舞台作品 ・火の鳥 l'oiseau de Feu (1910/1911/1919/1945) {ballet}
・ペトルーシュカ pétrushka (1911/1947) {ballet}
・バレエ【春の祭典】 le sacre du printemps (1913/1947) {ballet}
・歌劇【うぐいす】 le rossignol (1914/1917/1962) {opera/vln, p/orch}
・或る兵士の物語(語られ、演じられ、踊られる物語) histoire du soldat (1918) {3 act, dancer, 7 inst/vln, cl, p}
・プルチネルラ(ペルゴレージの音楽に基づく) Pulcinella (1920/1947) {ballet, 3vo, orch/orch}
・歌劇【マヴラ】 Mavra (1922/1947)
・バレエ【結婚】 les noces {4vo, choir, p, perc}
・【エディプス王】 Oedipus Rex : opera-oratorium after Sophocles/Cocteau (1927/1948) {narr, vo, m-choir, orch}
・バレエ【ミューズの神を率いるアポロ】 Apollon Musagete (1928/1947) {ballet/strings}
・バレエ【妖精の接吻】(チャイコフスキーの音楽に基づく) le baiser de la fée (1928/1950) {ballet, orch/vln p}
・カルタ遊び jeu de cartes (1936) {ballet, orch}
・バレエ【オルフェウス】 orpheus (1947) {ballet, orch}
・歌劇【道楽者の遍歴】 the rake's progress (1951) {opera}
・バレエ【アゴン】 Agon (1957) {ballet}
・音楽劇【大洪水】 the flood (1962) {vo, speaker, dancer, orch}
カンタータ ・カンタータ cantata for mixed choir and Piano (1904) {choir, p}
・カンタータ【星の王】 le roi des etoiles (1911) {male-choir, orch}
・カンタータ【バベル】 Babel (1944) {narr, m-choir, orch}
・古いイギリスの歌詞によるカンタータ cantata on medieval English verses (1952) {sop, tnr, f-choir, cham-orch}
・ビブリカル・カンタータ biblical cantata (1961/1963) {vo, choir, orch}
管弦楽曲 ・交響曲(第1番)変ホ長調 symphony in E-flat major (1907) {orch}
・幻想的スケルツォ scherzo fantastique (1908) {orch}
・花火 feu d'artifice (1908) {orch}
・協奏曲 変ホ長調【ダンバートン・オークス】 concerto in E-flat : dumbarton oaks (1938) {cham-orch}
・ハ調の交響曲 symphony in C (1940) {orch}
・ダンス・コンチェルタント danses concertantes (1942) {cham-orch}
・4つのノルウェーの叙情 four Norwegian moods (1942) {orch}
・頌歌 -クーセヴィツキーを偲んで ode (1943) {orch}
・3楽章の交響曲 symphony in three movements (1945) {orch}
・祝賀前奏曲(ピエール・モントゥーの80歳の誕生日のために) greeting prelude (1955) {orch}
・管弦楽のための変奏曲 variations (1964) {orch}
・カノン canon (1965) {orch}
協奏曲 ・ピアノ協奏曲 concerto for piano (1924/1950) {p, winds, timp, b}
・ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ capriccio (1929/1949) {p, winds}
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調 violin concerto in D (1931) {vln, orch}
・ピアノと管楽器のための協奏曲 concerto (1934) {p, winds/2p}
・エボニー協奏曲 ebony concerto (1945) {cl, jazz-ensemble}
・弦楽のための協奏曲ニ長調【バーゼル協奏曲】 concerto in D : Basler concerto (1946) {strings}
・ムーヴメンツ movements (1959) {p, orch}
吹奏楽曲 ・リムスキー=コルサコフの死に寄せる哀悼歌 chant funebre (1908) {wind-orch}
・カノン canons (1917) {2hrn}
・二重奏曲 duet (1918) {2bssn}
・管楽器のための交響曲 symphonies of wind instruments - for 23 Winds (1920/1947)
・サーカス・ポルカ circus Polka : for a young elephant (1942) {winds/orch}
ピアノ曲 ・タランテラ tarantella (1898)
・スケルツォ scherzo (1902)
・ソナタ嬰ヘ短調 sonate f-sharp Minor (1904)
・4つの習作 quatre études (1908)
・花のワルツ valse des fleurs (1914) {2p}
・3つの易しい小品 three easy pieces (1915) {2p}
・ドイツの行進曲の思い出 souvenir d'une marche boche (1915) {p/2p}
・ピアノラのための練習曲 for Pianola : Player Piano (1917)
・子どものためのワルツ valse pour les enfants (1917)
・ピアノ・ラグ・ミュージック (1919)
・5本の指で(8つのとても易しい小品) le cinq doigts (1921/1961) {p/15inst}
・ピアノ・ソナタ sonate pour piano (1924)
・イ調のセレナード serenade in A (1925)
・タンゴ tango (1940/1953) {p/orch}
・ソナタ sonata (1944) {2p}
器楽/室内楽 ・弦楽四重奏のための3つの小品 three pieces (1914) {2vln, vla, vc/2p/orch}
・11楽器のためのラグタイム ragtime (1918) {11player}
・クラリネットのための3つの小品 three pieces (1919) {cl}
・弦楽四重奏のためのコンチェルティーノ concertino (1920/1952) {2vln, vla, vc}
・八重奏曲 octet (1923/1952) {fl, cl, 2bssn, 2tp, 2tb}
・デュオ・コンチェルタント duo concertant (1932) {vln, p}
・悲歌 elegie (1944) {vla/vln}
・七重奏曲 septet (1953) {3 winds, 3 strings, p}
・フュルステンベルクのマックス王子の墓碑銘 epitaphium (1959) {fl, cl, hrp}
・ラウール・デュフィ追悼の二重カノン double canon (1959) {2vln, vla, vc}
・新しい劇場のためのファンファーレ fanfare for a new Theater (1964) {2tp}
ジャズ・バンド曲 ・前奏曲 preludium (1937/1953) {jazz-ensemble/orch}
・ロシア風スケルツォ scherzo a la Russe (1944) {jazz-band/orch}
歌曲/合唱曲 ・牧神と羊飼いの娘 faun et bergere (1907) {vo, orch}
・ロマンス【嵐の雲】 storm cloud : romance (1902) {vo, p}
・戦争に行くきのこ the mushrooms go to war : ballad for bass and piano (1904) {bass, p}
・タランチュラ tarantula (1906) {vo, p}
・3つの歌 three songs (1907) {msp, orch}
・パストラール pastorale : vocalise for soprano and piano (1907) {sop, p/sop (vln), 4winds (p)}
・ヴェルレーヌの2つの詩 deux mélodies (1908) {msp, p}
・バールモントの2つの詩 deux poèmes (1910) {btn, p}
・3つの日本の叙情詩 trois poèsies de la lyrique Japonaise (1913) {sop, p(cham-orch)}
・3つの小さな歌【幼き頃の思い出】 souvenir de mon enfance (1913) {vo, p(cham-orch)}
・プリバウトキ(戯れ歌) pribaoutki (1914) {vo, p/m-vo, 8inst}
・猫の子守歌 berceuses du Chat (1916) {alto, 3cl}
・ブルレスク【きつね】 renard : burleske (1916) {2tnr, 2bass, cham-orch, cymb}
・5つの易しい小品 five easy pieces (1917/1925) {2p/orch}
・子どものための3つのお話 trois histoires pour enfants (1917) {vo, p}
・4つのロシア農民の歌(皿洗い) saucers : four Russian peasant songs (1917/1954) {2-4 f-choir/4hrn}
・子守歌 berceuse (1917) {vo, p}
・4つのロシアの歌 four Russian songs (1919/1953-1954) {vo, p/vo, fl, hrp, g}
・メロドラマ【ペルセフォーヌ】 Persephone (1934/1949) {speaker, vo, choir, orch}
・小さな音楽の枝 petit ramusianum harmonique (1938) {unison-choir}
・ナディア・ブーランジェの誕生日のためのカノン canon - hommage à Nadja Boulanger (1947) {2vo}
・シェイクスピアの3つの歌曲 three songs from Shakespeare (1953) {msp, fl, cl, vla}
・ディラン・トーマスを偲んで in memoriam Dylan Thomas (1954) {tnr, 2vln, vla, vc, 4tb}
・哀歌 -預言者エレミアの哀歌 threni : id est lamentationes Jeremiae prophetae (1958) {6vo, choir, orch}
・説教,物語と祈り a sermon (1961) {narr, inst}
・アンセム【鳩は空気を引き裂いて降りる】 anthem (1962) {choir}
・J.F. ケネディのための悲歌 elegy for J. F. K. (1964) {btn, msp, 3cl/vo, 2cl , hrn}
・ふくろうと猫 the owl and the pussy cat (1966) {sop, p}
宗教作品 ・パーテル・ノステル(主の祈り) Pater Noster (1926/1949) {choir}
・詩篇交響曲 symphony of psalms (1930/1948) {choir, orch}
・クレド credo (1932/1949/1964) {choir}
・アヴェ・マリア Ave Maria (1934/1949) {choir}
・ミサ曲 mass (1948) {choir, winds}
・カンティクム・サクルム -聖マルコを讃えて canticum sacrum (1955) {tnr, btn, choir, orch}
・宗教的バラード【アブラハムとイサク】 Abraham and Isaac (1963) {vo, orch}
・イントロイトゥス introitus (1965) {m-choir, cham-orch}
・レクィエム・カンティクルス requiem canticles (1966) {alto, bass, choir, orch/vo, p}


ストラヴィンスキーを聴く


★★★★★
"Noches en los Jardines de España (Falla) Le Sacre du Printemps (Stravinsky)" (Erato : 0630-12145-2)
Daniel Barenboim (cond) Martha Argerich (p) Orchestre de Paris
『春の祭典』はストラヴィンスキーの出世作であり代表作。初演で観衆から大バッシングを浴び,サン=サーンスをして「ヤツは気違いだ!」と絶叫せしめた世紀の問題作でした。少しばかり思い入れのあるこの作品,ドラティ,ブレーズ,ラトル,カラヤン,モントゥ,アバド,ディヴィス,シャイー,スウィトナーと聴いてきた中では,ダントツに好かったのが本盤。有名盤に比べ大きく知名度落ちながら,中身は一般に有名なドラティや通好みのディヴィス盤より好いと思います。この曲には,ドラティのように速めのテンポで推進力を強調した演奏と,アバドやディヴィスのように遅めのテンポで重厚な演奏とがあり,こちらは後者のタイプ。定評のあるアバドやディヴィスに比して,弦部がさらにきめ細かく,透明感と重厚さがあり,見事です。バレンボイムはブレーズなどとは反対に,あまり手心を加えない大らかな指揮をしますが,これをパリ管の素晴らしい演奏が支えます。最初にバーバルな弦が野趣溢れる大音響を奏でるくだりの重量感,無窮動的なピチカートの透明感溢れる響き,繊細な不協和音を限りなく正確なピッチで弾き仰せ,指揮者の意図を正確に汲み取った秀演であると 思います。ただし併録のファリャはおまけ程度。初めて聴く方以外は得るものが乏しいです。

★★★★☆
"Le Sacre du Printemps / Pétrouchka" (Sony : SRCR 2031)
Pierre Boulez (cond) The Cleveland Orchestra : New York Philharmonic
ピエール・ブレーズは,最近ではあまりお見かけしない,顔の見える名物指揮者の1人。昔の指揮者は良かれ悪しかれ,みんな顔の見える指揮をしたもので,やたら遅いチェリビダッケ,やたら速いパレーなんかはその代表格です。ブレーズの指揮はそこへ行くと,とにかく分析的。特に古い録音は全く人間くさい暖かみがなく,作品の音符構造がスカスカに見え透いてしまうほど透徹な指揮ぶりが大きな特徴でした。これは紛れもなく自身が現代音楽を代表する理論家兼作曲家だったからでしょう。当然好みもモロに分かれますけれど,後年,新古典派に転じたほどバーバルなふりして実は堅牢な形式美を誇るストラヴィンスキーなんかは,ブレーズの持ち味が最も良く出るものではないかと思います・・と新盤を聴いて思っていた小生。この旧盤はその新盤が一瞬にしてピンボケに聞こえてしまうほどに,輪を掛けて才気走ったブレーズの独壇場。斯様にメカニカルな緊張感を有し,堅牢精緻な指揮が奇妙な円みを帯びるのは,時計の内部構造を見せるが如く細部のテクスチュアを浮き立たせた大きな振幅と遅めのテンポ取りによるものでしょう。特に現代音楽色の強い後半は素晴らしいです。何しろコンピュータのような醒めた演奏ですし,オケも現代の水準からすれば少々落ちる。誉め尽くされたCDですけれど,ひとつの解釈として模範的なまでに説得力があると思います。

★★★★☆
"Pétrouchka / Le Sacre du Printemps" (Deutche Grammophon : 435 769-2)
Pierre Boulez (cond) The Cleveland Orchestra
ストラヴィンスキーの演奏に掛けては滅法定評のあるブレーズの『祭典』。こちらは新盤です。印象主義色顕著で見逃せない併録『ペトルーシュカ』が見事な演奏です。彼には2度の録音があり,こちらは老成して表現が円やかになった後のもの。それでも年齢からすれば驚くほど細部まで推敲の行き届いた指揮は見事。年老いたからかかつてほどの深みはありませんが,適度に角が取れ丸くなったお陰で中庸になり,一般に薦めやすくなりました。オケは一流のクリ管。そんなこの盤がなぜ2番手以降に甘んじるのかと申しますと,グラモフォンの録音なのです。新しい録音だけに機材は素晴らしく,広いレンジで輝くような瑞々しさがあるのですが,ちょっと聴くと弦と管のバランスが悪い。不自然に大きな金管のせいで音が痩せて聞こえます。また,高域の広がりを重視する余り低域がコケ気味で,ドスンドスンと腹にくるあの蠢動感が伝わらない。おまけに肝心の金管が少々足を引っ張って いるのがやや痛い。指揮演奏とも充分素晴らしいのに録音がミソを付けてしまいました。

★★★★☆
"Pétrouchka / Le Sacre du Printemps" (Philips : 416 498-2)
Sir Colin Davis (cond) Royal Concertgebouw Orchestra
『春の祭典』は,もともと生け贄に捧げられた女性の狂おしい踊りを表現したもの。バレエ音楽ですから,無窮動(=ペルペトゥム・モビーレ,同じリズムの動きで通された曲)的な性格を持つ分節を,つなぎ合わせたような側面があります。このため,実のところこの曲を演奏するに当たっては,それぞれの部分でテンポとリズムのアクセントをどう取るかという問題が極めて重要になります。通好みの演奏として知られるコリン・ディヴィス〜コンセルトヘボウ管の演奏する『祭典』の魅力は,指揮者の選ぶテンポとアクセント取りが実に要を得ており,作品の持つ躍動感,蠢動感,流麗感を,どの分節においても巧みに捉えている点にあるといえましょう。第2楽章の冒頭5分間などまさにマジック。1970年代の録音で決して新しくはありませんし,他の有名盤に比べてとりわけオケが優秀なわけではないにもかかわらず,魔術のようなディヴィスのリードが,この盤を並外れた名盤にしました。恐らくバレンボイムは,この演奏あたりを参考にして,あのコクを描出したのでは?『祭典』に比べリズムの野趣が希薄な併録『ペトルーシュカ』が,『祭典』とは天と地ほども落差のある演奏にとどまったことを見ても,『祭典』におけるリズム・マジックがいかに見事か,お分かりになりましょう。

★★★★
"Le Sacre du Printemps / Symphonie d'Instruments à Vent" (Decca : 414 202-2)
Charles Dutoit (cond) Orchestre Symphonique de Montréal
惜しまれながらモントリオール響の指揮者から退いたデュトワは,NHK響の音楽監督もお辞めになったようで,これから急速に斜陽を迎えてしまうのではないか・・と,ちょっと気がかり。老いたりとはいえあれだけの実績を残し,有名盤を吹き込んだ人です。このまま枯れてしまうとしたら惜しいですね。デュトワの指揮は,短期間にモントリオール響を鍛え,「フランスのオケよりフランス的」と言われるほど優美で肌理の揃った弦部を持つオケにしたことが示すとおり,女性的で曲線的な,柔らかい曲解釈が特徴。1984年に録音された本盤も,まさしくその好個の例と呼べるものでした。一聴いかにもデュトワらしい優美な曲解釈。最絶頂期のモントリオール響が後ろを固めているだけに,演奏レベルは大変に高い。幾多の演奏が,異教徒趣味の荒々しい相貌を削り出そうとする野蛮主義の傑作に対し,デュトワはそれでも艶っぽく科を作ろうとする。優美に揺らぐ金管のポルタメント,どこか流し目風の弦部,それらが渾然となって,野蛮な筈の『祭典』からドビュッシーの『海』を思わせる典雅な表情を覗かせることに成功しました。確かに,デュトワの指揮は一般的な祭典とは大きく異なっており,結果としてミスマッチに思えるところも少なくないのですが,優れた楽団の性能に支えられ,デュトワの冒険が応分の面白みを獲得しているのもまた事実。特に,ホルストの『土星』を思わせるミステリアスな「生け贄」冒頭の数分間は良い証拠。第一楽章の野蛮かつ強靱な拍動がないこの第2楽章で,デュトワが見込んだ成果は,充分に挙がっていると思います。『春の祭典』を代表する演奏としては到底お薦めできるものではありませんけれど,オケの性能が思い通りだと,指揮者もこれだけ冒険できるのだなあ・・と感心させられる一枚です。

★★★★
"Le Sacre du Printemps / Petruchka" (Philips : 420 491-2)
Bernard Haitink (cond) London Philharmonic Orchestra
何を振っても遅めのテンポで丁寧に仕上げていく実直型指揮者ハイティンクは,1929年アムステルダム生まれ。1957年にオランダ放送管の指揮者となり,続く1961年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の常任指揮者に抜擢されて,一躍知名度を獲得しました。当時恐らく世界でも3本指に入っていた端正な弦部を誇るコンセルトヘボウ管を駆っていた彼の指揮は,際だった派手さや個性こそ乏しいものの,何を振っても実直にこなし,イチロー並みに手堅くまとめる堅実さが特徴。自身がもともとアムステルダム音楽院時代はヴァイオリン奏者だっただけに,弦部の清明な鳴らしっぷりは独壇場的魅力がありましたねえ。コンセルトヘボウ時代が長かっただけに,ハイティンクというと同楽団しか浮かんできませんが,実際は1967年から12年間はロンドン管弦楽団の首席指揮者も兼任しており,本盤は1973年に同楽団と吹き込んだもの。凡そ『春の祭典』のイメージとは正反対な指揮者だけに,或いはミスマッチなのでは・・そんな心配は,彼の堅実なタクト捌きの前では杞憂。この録音においても,当時としてはかなり精密に統御された弦部の透明感,下手な弄り回しの少ない端正な曲解釈に,紛れもなくハイティンクらしい良心が溢れており,好ましく聴けます。デイヴィスのようなコクはありませんし,ブレーズのような分析的なところもない,至って中庸な指揮は,確かに面白みには欠けるんですけど,逆に言えば彼は,誰が聴いても4つ星クラスの満足を保障する。実際,露民謡起源の明瞭なリズムが支配し,煌びやかな弦部が最大限に映える併録の『ペトルーシュカ』の見事さったらありません。当時の録音で,これだけ流麗に弦の鳴った演奏は,そうそうないんじゃないでしょうか。

★★★★
"Le Rossignol" (Erato : WE 810 ZK)
Pierre Boulez (cond) Phyllis Bryn Julson, Felicity Palmer (sop) Elizabeth Laurence (msp) Michael George, John Tomlinson, Brindley Sherratt (bass) Ian Caley, Ian Kennedy, Gareth Roberts (tnr) Neil Howlett (btn) Bella Dekany (vln) BBC Symphony Orchestra : BBC Singers
アンデルセンの童話をもとにした『うぐいす』の3幕歌劇版は,ストラヴィンスキーがまだリムスキー=コルサコフの弟子だった1908年に着手されました。しかしディアギレフから,出世作となる『火の鳥』,『ペトルーシュカ』,『春の祭典』の委託を受けた彼は,いったん本作を放棄。その後,モスクワ自由劇場から委託を受ける形で,再度作品と向き合ったのは1913年に入ってからのこと。この数年間に,彼の語法がドビュッシアンから野蛮主義に激変したのはご承知の通り。彼は自由劇場側にその旨を説明し,既に書き上げていた第一幕だけを別作品として独立させてはと提案しますが,自由劇場側はあくまで三幕歌劇を主張。彼は,「原作に含まれる多様なエキゾチズムを表すには,異なる音楽表現が入っているのも悪くない」と,無理矢理自分を納得させ,第二幕を1913年にクラランで,三幕を翌年にリザンで書き上げました。実はこの後,当の自由劇場が倒産するというおまけが付くのですが,代わりにディアギレフが,喜んで興行権を購入。1914年5月26日,パリ歌劇場でモントゥーの指揮により初演されました。こんな経緯が示す通り,この作品の第一幕と二幕以降は全くの別流儀。前者は『ペレアス・・』被れのモロ・ドビュッシー。後者はペトルーシュカや春祭の彼。のち1917年に作ったバレエ版が,後ろの二楽章のみを編曲した交響詩仕立てだったのも無理からぬことかも知れません。『春祭』のセンセーションから数年を経過したバレエ版のパリ初演が時機を逸していたこと,『春祭』のように分かりやすい野人蠢動音楽でなかったことも手伝い,この曲は大きな評価を得ることもないいまま今日に至っています。勿体ない。華美な表層の奥に注意深く配された現代音楽としての含意は,決して有名な三部作に見劣りするものではないと思います。歌劇版は冗長な部分も散見され,合唱隊まで入る編成も曲想に比して重すぎる気がしますけれど,バレエ版ならバランスも良いですし,一度お試しになっては?

★★★☆
"Le Sacre du Printemps (Stravinsky) Les Biches (Poulenc)" (Seraphim : TOCE-7155)
Igor Markevitch, Georges Prêtre (cond) The Philharmonia Orchestra : Ambrosian Singers
イーゴル・マルケヴィッチがステレオ録音勃興期の1959年に録音した『春の祭典』の古典的録音です。このセラフィム盤はもう廃盤だと思いますが,最近再発盤がテスタメントからも出まして,こちらは入手平易です。一部で熱狂的なファンを持つこの録音。そんなに素晴らしいのかと言うことで,小生もお相伴に預かることと致しました。彼の指揮は全体に,作品の持つ流動感を意識したもののようで,他の演奏が誇張するグロテスクなゴツゴツ感は,マルケヴィッチ盤には拍子抜けするほどに希薄です。冒頭では遅めのテンポを取りつつ,「春の兆し」に入ったところで露骨にテンポを変えるところなどは,そうした指揮者の意図を端的に反映したものでしょう。これを効果的であると聴くかどうかで,この盤に対する態度はかなり変わるのでは。個人的にはどうにも,このテンポ換えが露骨すぎて,なんだか「こわいんだゾー」と自ら宣言しているお化けみたいな,空々しい印象を禁じ得ませんでした。特にテンポが速い断章においてはそうした彼の狙いが前面に出過ぎており,まだこの作品を古典的な音楽の彼岸に置くエキゾチズムの目で見た,やや古典的(古臭い)指揮だと思います。同じく巷でヤケに受けが好く,やっぱりこれ同様,やたらテンポが速いドラティ盤同様,大仰なだけで中身への共感が薄いなあ,という気が・・。その点で,個人的には掉尾「祖先への儀礼」以降の7分間が,彼のテンポ取りの狙いが生きていて面白く聴きました。

★★★☆
"Le Sacre du Printemps / Four Norwegian Moods" (London : F35L-20080)
Riccardo Chailly (cond) Cleveland Orchestra
イタリア出身ながら,ベルリン放送交響楽団に席を占めるなど海外の評価も高いシャイー。確か現在はウィーン国立歌劇場かどこかの常任指揮者でしたっけ?彼は1980年代後半に,ストラヴィンスキーの主要な管弦楽作品を連続録音し,このCDはそのシリーズ中の一枚。響きに掛けては世界的にも最上位に来るオケの一つとされるクリーヴランド管弦楽団を迎えて環境に文句のあろうはずはなく,彼の指揮の特徴も色濃く出ている。一言で形容するなら,これはふくよかな『祭典』。遅めのテンポを取り,充分に膨らみと抑揚を持たせた艶っぽい指揮だと思います。例えて言うなら,推進力のあるマッシヴなドラティや,分析的で鋭角的なブレーズなどとはおよそ対極。ドビュッシーで言えば,『映像』におけるモントゥー盤のような感じでしょうか。他の演奏がどれもスマートで切れ味があるのに対し,どこか牧歌的な感じさえ漂うこの指揮,読み込みもしっかりやっており決して悪い演奏ではなく,一つの解釈として成立はしています。ただ,個人的にやはり『祭典』には少し温厚すぎる。馬鹿になり切れていないというか。本当なら,この温厚さと狂気の顔を自在に使い分けられれば好いのでしょうが・・。それが証拠にこの盤,リズムの柔らかさが生きる新古典的な『4つのノルウェイ情緒』であるとか,同じ『祭典』でも後半戦の,バーバルなようでいてオネゲル的な新古典的要素も濃い「生け贄」のほうが,圧倒的に出来が良い・・。

★★★★☆
"Symphonie de Psaumes / Feux d'artifice / Le Roi des Etoiles / Chant du Rossignol" (London : F35L-50260)
Riccardo Chailly (cond) Radio-Symphonie-Orchester Berlin and Chor
このCDはストラヴィンスキー初期の印象派に被れた頃の作品である『花火』と,『星の王』という滅多に演奏のないカンタータ(しかもオネゲル風の名品)を,ベルリン放送響というまともなオケで録音してくれた,有り難いCD。シャイーの連続録音からの一枚です。演奏するベルリン放送交響楽団。クリーヴランド管に比べ明らかに知名度落ちだと思うのですが,実に素晴らしいオーケストラですよねえ。レーグナー指揮のヴォルフ=フェラーリ管弦楽作品集やアイスラー管弦楽作品集などの,素晴らしいメリハリと弦の鳴りには圧倒されたものです。シャイーの本録音も合唱隊こそやや力量不足ながら,はっきり言ってクリーヴランド管より演奏が好い。見事に統率の取れた弦部で,作品のダイナミズムを見事に現前している。加えて嬉しいのが『うぐいすの歌』。フォーヴィスティックな躍動感を加えた新古典的な内容ですが,無多調や全音階などを巧みに使った曲あしらいが,いつにも増してピエール・フェルーそっくりなのに仰天。人を食った仰々しさ控えめで,彼本来のオネゲル的な構成力を存分に愉しめ,個人的にはこれまでに聴いた彼のCD中でも白眉の内容と感じました。『祭典』の成功ですっかり彼は原始主義の創造主ということにされてしまいましたが,これだけ新古典的な作品が多いと,案外彼本来の持ち味は,フェルーやシュミットに近かったのかなと思わずにはいられません。この仮説に同意なら本CDは甲種お薦め。「ヤツは音楽史的にバーバリズムなんだよ!それが控えめな作品は地味で目立たない失敗作!」と宣う方は有名曲を,どうぞ聴いてくだされ!

★★★
"Le Sacre du Printemps / Jeu de Cartes" (Berlin Classics : BC 3035-2)
Herbert Kegel, Otmar Suitner (cond) Staatskapelle Dresden, Rundfunk-Sinfonie Orchester Leipzig
ライプツィヒ放送管弦楽団といえば,シュレーカーやアイスラーなどに代表される,ドイツ近代頽廃音楽世代の作曲家を精力的に採り上げ,連続録音して紹介。近代ファンにはベルリン・フィルより有名なオーケストラです(笑)。ドイツ・シャルプラッテン・レコードは,この楽団を黄金期に導いた名匠ケーゲルの指揮で,ストラヴィンスキーの管弦楽作品を幾つか録音しているレーベル。実はわたくし,このシャルプラッテン盤を聴いてケーゲルの演奏に惚れ込んでしまいましてねえ。唯一持っていないケーゲルの『祭典』かと喜び勇んで購入したのが本盤だったという次第。ところが,どうしたわけか本盤の語り口はどもり気味で推進力に乏しく,木管を中心に音を外す箇所も散見。意外なほど詰まらない演奏で大きく落胆しました。後日,どうも演奏が悪いのでよくよく解説を見ましたら,ケーゲルが演っていたのはカップリング『カルタ遊び』のみ。『祭典』はオトマール・スウィトナーの指揮で,ドレスデン交響楽団の演奏でした。彼だってそれなりの知名度がある指揮者なんですがねえ。とゆうわけでお薦めは俄然みずみずしい膨らみと滑らかな流動感を有するケーゲルの『カルタ遊び』です。でも,これ別のCDで持ってるんだよなあ・・(下記参照)。

★★★★
Stravinsky conducts Stravinsky "Suite No.1 / Suite No.2 / Ragtime / Otetto / Danses Concertantes / Dumbarton Oaks / Concerto per Orchestra d'Archi" (Ermitage : ERM 156)
Igor Stravinsky (cond) Orchestra della Radiotelevisione della Svizzera Italiana
ストラヴィンスキーの自作自演を収めたCDが,僅か数百円の安価で出ました。この盤を録音したのは彼がイタリアに移った後の1950年代半ば。既に作風は新古典派に転じ,楽壇の表舞台からは半分,離れてしまった後です。演奏されている曲も後年のものが中心で,既に角が取れ,穏健な新古典派音楽。初めての方にも聴きやすいでしょう。恐らくは疑似ステレオで,古い録音の割にそれほど劣悪な音質ということもありません。演奏するスヴィツェラ放送管弦楽団,聴いたことある人いますか?(のちに,このオケはアドリアーノと組んでマルコから録音を出してました。その解説によると,スイス=イタリア語放送管のことらしいです)ストラヴィンスキーがこんなオケを振るようになった経緯は詳しく知らないのですが,請われてこのオケの音楽監督か何かをやっていたのでしょうか。冒頭に1分半ほど,『組曲』のリハーサル風景が収められています。アクセントの置き方と,リズムの切れをかなり煩く指示しているようで,その後に続く本番の演奏を聴くと,問題の箇所がちゃんと,エキセントリックなリズムに変わっていました。

★★★★★
"Jeu de Cartes / Suite No.1 / Suite No.2 / Dumbarton Oaks" (Schallplatten : TKCC-70679)
Herbert Kegel (cond) Rundfunk-Sinfonie-Orchester Reipzig
長くライプツィヒ放送管弦楽団とドレスデン交響楽団を率いたヘルベルト・ケーゲルは,1990年に自殺してしまいましたが,近現代の録音に掛けては一家言ある素晴らしい指揮者でした。特にリズムの強烈な作品や,拍節構造のくっきりとした新古典的な傾向を持つ楽曲の指揮には抜群の巧さがありましたですねえ。彼のストラヴィンスキーは以下の盤とこの盤の2枚しか知らないのですが,きっと『祭典』の録音があれば,さぞ好いでしょう(・・との予想は,のちに下部に掲げた盤を買って,やや裏切られました)。このCDは,彼のストラヴィンスキー録音からの分売で,1990年代に版元の独シャルプラッテン・レコードの50周年企画として発売されたもの。録音も秀逸なうえ,指揮解釈・演奏ともどもかっちりと好くまとまった名盤。新古典時代に入り,ミヨー風になったストラヴィンスキーを好む方なら,これは甲種推薦盤。ぜひ手にとってください。現在では入手が難しいかも知れませんが,ケーゲルの指揮盤はどれも好いので(=別レーベルから転売されていても構わない),お探しになる価値大です。

★★★★☆
"Capriccio / Circus Polka / Petruschka - Trois Pièces" (Schallplatten : TKCC-70680)
Peter Rösel (p) Herbert Kegel (cond) Rundfunk-Sinfonie-Orchester Reipzig
こちらも,上記同様ドイツ・シャルプラッテン・レコードの企画盤として出たものの分売で,やはり録音抜群,演奏秀逸です。こちらはピアノの入るものが中心で,やはり喜劇的な多調・新古典時代のストラヴィンスキー作品集。冒頭の『カプリッチョ』など,副旋律と多調的に絡み合いながら南欧風の軽やかなピアノが縦横無尽に転がるさまはミヨーのピアノ協奏曲そっくりで吃驚。後半の『ペトルーシュカからの3章』はピアノ独奏用に編曲されたもので,ペーター・レーゼルのピアノです。レーゼルはロシアで学び,チャイコフスキー・コンクール6位,モントリオール国際2位,シューマン・コンクール2位などの経歴を持つ人物。ロシアで学んだだけにいわゆるヴィルトゥオージシティ志向の高い演奏。鋭く硬派な打鍵でテクスチュア豊かな演奏解釈が特徴。ここでも,軽やかな中に,鋭い打鍵を包み隠した好演を展開します。しかし,ケーゲルの統率力は素晴らしいですね。これなんか上記ベルリン・クラシックス盤と同じドレスデン響なのに。スウィトナーとケーゲルの落差がデカすぎる・・。

★★★☆
"Scènes de Ballet / L'Oiseau de Feu / Le Sacre du Printemps" (Weitbuck : SSS0023-2)
Herbert Kegel (cond) Rundfunk-Sinfonieorchester Leipzig: MDR Sinfornieorchester
以前,ドイツのシャルプラッテン・レコードから2枚に分売されていた,ケーゲルとライプツィヒ放送響の競演による見事なストラヴィンスキー。いらい,『春の祭典』はないものかと探しておりましたら,ありましたよ,やっぱり。1919年版を採用し,1977年に録音されたライブ録音のようです。ライブという,必ずしも録音には良い条件ではない中,オーケストラをできるだけ統制して,肌理の揃った音色を出そうと考えたのでしょう。遅めのテンポを取り,律儀に拍節を提示しながら進んでいく,堅実で慎重な指揮という印象を受けます。さしずめフランスでいうならマルティノン臭いと形容すればいいでしょうか。確かに彼の思惑通り,演奏はライブにしては端正だと思うんですけど,このノーブルなあざとさが全面に渡って,野蛮な踊りの向こうで妙に褪めた小賢しい視線を送ってくる。作られた置物のような居住まいの悪さがどうにも引っかかりますねえ。最強のアフリカ戦士が,蓋を開けてみたらガリ勉でしたでは,ニカウさんに示しがつかんでしょう(暴言)。シャルプラッテン盤はあんなにのびのびと抑揚があったのに。意外とケーゲルさんは,リズムが明瞭な拍子を刻み新古典的な明快さのある曲を振って,そこに生き生きと躍動感を乗せていくほうが水を得た指揮ができる人なのかも知れません。というのも,併録されたマイナー作品『舞踏の情景』が好対照だから。宮廷音楽風の定常的なリズムの上に,『春祭』の不穏な香りが不定期に挿入されるこの佳品で,ケーゲルは遙かにスムースで伸び伸び振れています。ライプツィヒ放送の演奏も,弦は良く鳴っている一方で,どういうわけか金管がかなり危なっかしいです。

★★★
"Le Sacre du Printemps / L'Oiseau de Feu / Pétrouchka / Apollon Musagete" (MCPS : 6243)
Sir Simon Rattle, Antal Dorati, Charles Mackerras, John Lubbock (cond) The National Youth Orchestra of Great Britain, Royal Philharmonic Orchestra, London Symphony Orchestra, Orchestra of St.John Smith Square
英国の名門ASVの音源投げ売りレーベルMCPSから出たストラヴィンスキー初期の主要舞台作品集。2枚組で僅か680円と安いので,入門盤としてまず一枚をと言う方にはこれなど悪くないのかも知れません。ナクソスも,アルテ・ノヴァも真っ青の激安価格なうえ,演奏陣をご覧ください。小生的には大いに興味のあったラトルの『春の祭典』を始め渋い音源選定。敢えて銘演ではなく,そのすぐ脇の渋いところを突いてくるその慧眼辣腕ぶりは廉価には勿体ないほどです。各曲に,それぞれ更なる名演があることは否定しませんが,演奏はいずれもイギリスの名門オケで,指揮者も少しクラシックを囓った方ならご存じの名匠揃い。聴くにたえないような酷い駄演はありません。「すとらびんすきってどんな人?」という方には,好きな曲を探すのに好個の一枚になりましょう。ちなみにラトルには,ユース・オーケストラ盤の他にも,まともなオケによる『春の祭典』がある模様。多分そっちのほうが良いんでしょうねえ(苦笑)。

★★★☆
"Renard / 3 Pièces pour Quatuor à Cordes / 2 Poèmes de Balmont / 3 Poèmes de la Lyrique Japonaise / 3 Pièces pour Clarinette / Concertino pour 12 Instruments / Symphonies d'instruments à Vent / Variations sur le Choral 'Vom Himmel Hoch' de J.S.Bach / Cantium Sacrum" (Adès : CC-1069)
Pierre Boulez, Gilbert Amy, Robert Craft (cond) Jean Giraudeau, Louis Devos (tnr) Louis-Jacques Rondeleux, Xavier Depraz (bas) Elemer Kiss (cymbal) Quatuor Parrenin / Guy Deplus (cl) Orchestre et Ensemble Instrumental au du Domaine / Musical Chorale Elisabeth Brasseur
現代音楽の語法が完成しきる前に世を去ってしまったドビュッシーの語法はまた,理屈よりはセンスの音楽であったためか,正統な彼の後継者で,その後の楽壇の進展に寄与しうる語法を確立する人物はあらわれませんでした。一方ストラヴィンスキーは長命を全うし,また自身が後に新古典派へと向かったことからもお分かりのように,彼の音楽は,当時こそ前衛的ではあったものの,その後さらに前衛方向へと進む音楽の理論的な礎となる要素を多く含んでいました。現代音楽の鬼才であったブレーズが,作者立ち会いの下,ストラヴィンスキー作品集を考えたのは,そうしたところに由縁を求めることが出来るのかも知れません。印象派好きの小生にとってこの作品集,はっきり言っていっそう訳の分からん六人組風音楽の体。良く教養の行き届いた人物が酒を飲んで正体を失ったような,或いは理性を超えた体験でもして茫然自失,頭の中をアホウドリが飛び回っているような曲と形容したら良いでしょうか。好きな人は好きなのでしょうが,小生はちょっと・・。

(2002. 2. 2)