Tの作曲家



アレクサンドル・タンスマン Alexandre Tansman (1897-1951)

ポーランド出身の作曲家。のちフランス国籍。1897年6月12日ウッチ(Lodz)生まれ。1908年にウッチ音楽院へ進学し,ウォチェク・ゴウロンスキ(Wojciech Gawronski)らに師事して1914年に卒業。次いでワルシャワ大学へ進み,1918年に法学博士号を修得した。その後,ピョートル・リーテル(Piotr Rytel)にピアノを,ヘンリク・シュザヴィンスキ(Henryk Melcer-Szczawinski)に作曲法を私的に学び,1919年にポーランド国民音楽大賞で三部門に渡って入賞を遂げた。しかし,批評家からの理解は得られなかったことから故国を離れ,パリへ移住。ストラヴィンスキーやラヴェルと邂逅して,大きな影響を受けた。ツェレプーニンやマルティヌ,ミハロヴィチらとともに,当時のパリ在住の外国人作家として活躍。1938年にフランス国籍を取得した。間もなくナチの台頭と第二次大戦のためアメリカへの亡命を余儀なくされ,1941年にロサンゼルスへ移住。戦後は1946年に帰仏し,それ以降パリを拠点に,亡くなるまで活動を続けた。ポーランドの土着音楽の様式を基調にし,六人組やポスト・ロマン派から一定の距離を取りながら多くの作品を遺している。1941年にクーリッジ賞,1977年にベルギー王立アカデミー委員,1983年にポーランド文化功労メダルを受賞。1986年11月15日パリにて死去。


主要作品

歌劇 ・クルドの夜 la nuit kourde (1927) {3act} ... J.R. Bloch原作
・金羊毛 la toison d'or (1938) {3act, 4tbl} ...
S. de Madariaga原作
・(邦訳不詳) le roi qui jouait le fou (1948) ...{2parts, 13tbl} ...
R. Laporte台本
・誓い le serment (1953) {2tbl} ...
H. de BalzacによりD. Vincent台本
・ゼヴィの安息日 Sabbatai Zevi, le faux messie (1957-1958) {4act} ...
N. Bistritzky台本
・(邦訳不詳) l'usignolo di Boboli (1963) {1act 3 tbl} ...
M. Labroca台本
・ジョルジュ・ダンダン Georges Dandin (1973-1974) {3act}...
Morière台本
バレエ ・天上の庭 le jardin du paradis (1922) {4tbl} ...原作H.C. Andersen,1923年に吹奏五重奏曲に改作。
・六重奏 sextuor (1923) {1tbl}...
原作A. Arnoux,O. Preobrazenska振付。
・光明 lumières (1927) {4scenes}
・輪廻 le cercle éternel (1929) {2tbl} ...
J. Borlin振付
・蚤の市 Bric à brac (1935) {3tbl} ...
W. Ignatow振付
・大都会 la grande ville (1935/1944) {2p /orch: 3tbl} ...
K.Jooss振付
・彼,彼女と私 he, she and I (1946)
・夜汽車 le train de nuit (1951) {2p} ...
Jooss振付
・王の9つの習慣 les habits neufs du roi (1958-1959) {1tbl}
・復活 résurrection (1961-1962) {4tbl} ...
P. Medecis台本,F. Adret振付
交響曲 ・交響曲第1番 symphonie No.1 (1917)
・交響曲第2番 symphonie No.2 (1926)
・交響曲第3番【協奏的交響曲】 symphonie No.3 'symphonie concertante' (1931) {p, vln, vla, vc, orch?}
・交響曲第4番 symphonie No.4 (1939)
・交響曲第5番ロ調 symphonie No.5 en Ré (1942)
・交響曲第6番【イン・メモリアム】 symphonie No.6 'in memoriam' (1944) {sop, alto, tnr, bas, orch} ...
Tansman詩
・交響曲第7番【叙情】 symphonie No.7 'lyrique' (1944)
・交響曲第8番【管弦楽のための音楽】 symphonie No.8 'musique pour orchestre' (1948)
・交響曲第9番 simphonie No.9 (1957-1958)
管弦楽曲 ・心象 impressions (1920)
・交響的間奏曲 intermezzi sinfonico (1920)
・伝説 légende (1923)
・2つの交響的スケルツォ 2 scherzo sinfonico (1923)
・小交響曲第1番 sinfonietta No.1 (1924) {chamber}
・交響的序曲 ouverture symphonique (1926)
・古風な形式による組曲 suite dans le style ancien (1929)
・4つのポロネーズ 4 danses polonaises (1931)
・2つの交響的楽章 deux moments symphoniques (1932)
・ヘブライ狂詩曲 rapsodie hébraïque (1933)
・2つの間奏曲 2 intermezzi (1934)
・2つの小品 deux pièces (1934)
・2つの聖書の心象 deux images de la bible (1935)
・室内管弦楽のための組曲第1番 suite No.1 (1937) {chamber}
・フレスコヴァルディの主題による変奏曲集 variations sur un thème de Frescobaldi (1937)
・交響的練習曲 études symphoniques (1940-1942)
・ポーランド狂詩曲 rapsodie polonaise (1940)
・ルチェルカーレ ricercari (1941-1949)
・謝肉祭組曲 carnival suite (1942)
・セレナード第三番 sérénade No.3 (1943)
・喜遊曲 divertimento (1944)
・リートとトッカータ lied et toccata (1944)
・小組曲 short suite (1944)
・頌歌 le cantique des cantiques (1946) {chamber}
・序曲とジターヌの踊り introduction et danse gitane (1946)
・組曲第2番 suite No.2 (1948) {chamber}
・机上の音楽 musique de table (1949)
・スペイン趣味の組曲 suite dans le goût espagnol (1949)
・ショパンの墓 tombeau de Chopin (1949) {strings /2vln, vla, vc}
・シンフォニア・ピッコラ sinfonia piccola (1951-1952)
・カプリッチョ capriccio (1954)
・管弦楽のための協奏曲 concerto for orchestra (1954)
・軽やかな組曲 suite légère (1955)
・4つの交響的楽章 quatre mouvements symphoniques (1956)
・イスラエルのアルバム album d'Israël (1958) {chamber}
・バロック組曲 suite baroque (1958) {chamber}
・室内交響曲 symphonie de chambre (1960) {chamber}
・ヤコブと天使の諍い la lutte de Jacob avec l'ange, (1960) ...
P. Gauguinに着想
・6つの練習曲 six études (1962)
・6つの楽章 six mouvements (1962-1963) {strings}
・4つの動き quatre mouvements (1967-1968)
・エラスム・ド・ロッテルダム礼讃 hommage à Erasme de Rotterdam (1968-1969)
・二部作 diptyque (1969)
・追悼曲の形で,ストラヴィンスキーを偲び stèle in memoriam Igor Stravinsky (1972)
・ミヨーを偲ぶ哀歌 élégie à la memoire de Darius Milhaud (1975)
・10戒 les dix commandements (1978-1979)
・小交響曲第2番 sinfonietta No.2 (1978) {chamber}
協奏曲 ・ピアノ協奏曲第1番 concerto pour piano et orchestre No.1 (1925) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第2番 concerto pour piano et orchestre No.2 (1927) {p, orch}
・2台のピアノと管弦楽のための組曲 suite (1928) {2p, orch}

・5つの小品 cinq pièces (1930) {vln, orch}
・ピアノと管弦楽のための小協奏曲 concertino (1931) {p, orch}
・チェロと管弦楽のための幻想曲 fantaisie pour violoncelle et orchestre (1936) {vc, orch}
・ヴィオラ協奏曲 concerto pour alto et orchestre (19361937) {vla, orch}
・ピアノと管弦楽のための幻想曲 fantaisie pour piano et orchestre (1937) {p, orch}

・ヴァイオリン協奏曲 concerto pour violon et orchestre (1937) {vln, orch}
・パルティータ第2番 partita No.2 (1944) {p, orch}
・ギターと管弦楽のための小協奏曲 concertino (1945) {g, orch}
・小協奏曲 concertino (1952) {ob, cl, orch}
・ファリャ礼讃 hommage à Manuel de Falla (1954) {g, orch}
・クラリネット協奏曲 concerto pour clarinette et orchestre (1957) {cl, orch}
・中庭の音楽 musique de cour (1960) {g, chamber}
・チェロ協奏曲 concerto pour violoncelle et orchestre (1963) {vc, orch}
・協奏的組曲 suite concertante (1966) {ob, orch}
・フルートと管弦楽のための小協奏曲 concertino (1968) {fl, orch}
・音楽 musique pour harpe et orchestre à cordes (1981) {hrp, strings}
室内楽曲 ・ピアノ三重奏曲 piano trio No.1 (1915) {vln, vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第1番 sonate (1916) {vln, p}
・弦楽四重奏曲第1番 quatuor à cordes No.1 (1917) {2vln, vla, vc}
・ロマンス romance (1918) {vln, p}
・チェロ・ソナタ第1番 sonate No.1 (1918) {vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第2番 sonate No.2 (1919) {vln, p}
・3つの素描 trois esquisses (1922) {2vln, vla, vc, p}
・弦楽四重奏曲第2番 quatuor à cordes No.2 (1922) {2vln, vla, vc}
・魔女の踊り danse de la sorcière (1923) {cl, fl, hrn, ob, bssn, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第3番 sonata No.3 (1924) {vln, p}
・弦楽四重奏曲第3番 quatuor à cordes No.3 (1925) {2vln, vla, vc}
・フルートとピアノのためのソナチヌ sonatine (1925) {fl, p}
・ヴァイオリンとピアノのためのソナチヌ sonatine (1925) {vln, p}
・ピアノ三重奏曲第2番 piano trio No.2 (1928) {vln, vc, p}
・喜遊組曲 suite-divertissement, (1929) {vln, vla, vc, p?}
・チェロ・ソナタ第2番 sonate No.2 (1930) {vc, p}
・七重奏曲 septuor (1932) {fl, ob, cl, bssn, tp, vla, vc}
・2つの動き deux mouvements (1935) {4vc}
・弦楽四重奏曲第4番 quatuor à cordes No.4 (1935) {2vln, vla, vc}
・弦楽三重奏曲第1番 trio à cordes No.1 (1937) {vln, vc, vc}
・弦楽三重奏曲第2番 trio à cordes No.2 (1938) {vln, vla, vc}
・弦楽六重奏曲 sextuor à cordes (1940) {2vln, 2vla, 2vc?}
・弦楽四重奏曲第5番 quatuor à cordes No.5 (1940) {2vln, vla, vc}
・ヴァイオリンとピアノのための組曲 suite (1943) {vln, p}
・喜遊曲 divertimento (1944) {ob, cl, tp, vc, p}
・弦楽四重奏曲第6番 quatuor à cordes No.6 (1944) {2vln, vla, vc}
・フーガ fugue (1945) {5strings}
・吹奏八重奏曲 octuor No.1 (1945)
・弦楽三重奏曲第3番 trio à cordes No.3 (1946) {vln, vla, vc}
・吹奏八重奏曲第2番 octuor No.2 (1947)
・弦楽四重奏曲第7番 quatuor à cordes No.7 (1947) {2vln, vla, vc}
・吹奏三重奏曲 trio (1949)
・カヴァティーナ cavatine (1950) {g}
・ヴァイオリン二重奏のためのソナタ sonate (1950) {2vln}
・室内ソナティナ sonatina da camera (1952) {fl, vln, vla, vc, hrp}
・バスーンとピアノのためのソナチヌ sonatine (1952) {bssn, p}
・チェロとピアノのためのパルティータ partita (1955) {vc, p}
・五声の音楽 musique à cinq (1955) {5strings}
・弦楽四重奏曲第8番 quatuor à cordes No.8 (1956) {2vln, vla, vc}
・バスーンとピアノのための組曲 suite (1960) {bssn, p}
・幻想曲 fantaisie (1963) {vln, p}
・ショパン礼讃 hommage à Chopin (1966) {g}
・オスティナートのスタジオ studio ostinato (1970) {6perc}
・スクリャービンの主題による変奏曲集 variations sur un thème de Scriabine (1972) {g}
・ミニアチュール miniatures (1976) {tp, hrn, tb}
・組曲 suite in modo polonico (1976) {hrp, p}
・六声の音楽 musique à six (1977) {cl, 2vln, vla, vc, p}
・ワレサ礼讃 hommage à Lech Walesa (1982) {g}
・音楽 musique (1982) {cl, 2vln, vla, vc}
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ第1番 sonate No.1 (1915)
・ポーランド風のアルバム album polski (1916)
・心象 impression (1918)
・前奏風 ロ長調 preludium in B major (1918)
・3つの練習曲 trois etudes transcendantes (1922)
・ソナチヌ sonatine (1923)
・田舎風のソナタ sonata rustica (1925)
・ピアノ・ソナタ第2番 sonate No.2 (1928)
・環大西洋風のソナチヌ sonatine transatlantique (1930) {2p /orch}
・ピアノ・ソナタ第3番 sonate No.3 (1932)
・縮小模型で世界中を le tour du monde en miniature (1933)
・ヘブライ狂詩曲 rapsodie hébraïque (1933)
・ブルースの形式による3つの前奏曲 trois préludes en forme de blues (1937)
・ポロネーズ狂詩曲 rapsodie polonaise (1940) {2p}
・2台ピアノのためのソナタ sonate (1941)
・ピアノ・ソナタ第4番 sonate No.4 (1941)
・ピアノ・ソナタ第5番 sonate No.5 (1955)
・イスラエルへの旅 visit to Israel (1958)
・シュトラウスのワルツによる幻想曲 fantaisie sur des valses de Johann Strauss (1961) {2p}
・ルビンシュタイン礼讃 hommage à Artur Rubinstein (1973)
・友のアルバム album d'amis (1980)
歌曲 ・8つの日本の歌 huit mélodies japonaises (1918) {vo, orch}
・6つの歌 six songs (1934) {vo, orch} ...
N. de Braganca詩
・ジェネシス the genesis (1944) {narr, orch}...
Schoenberg, Milhaud, Stravinsky, M. Castelnuovo-Tedesco, Toch, Shilkretと共作
・フランスの句点法 ponctuation francaise (1946) {vo, orch} ...
C. Oulmont詩
・オラトリオ【予言者イザイ】 Isaie le prophete (1950) {sop, alto, tnr, bas, orch} ...
Tansman詩
・6つのソネット six sonnets (1955) {vo, choir, orch} ...
W. Shakespeare詩
・序言と交唱曲 prologue et cantate (1957) {f-choir, orch} ...
聖書
・3つの詩篇 psaumes Cxviii, Cxix, Cxx T (1960-1961) {tnr, sop, alto, tnr, bas, orch}
・カンタータ【ジオンの略字符】 Apostrophe à Zion (1976-1977) {sop, tnr, bas, orch} ...
古代神話
・ヴィクトル・セガレンの8つの台本 huit stèles de Victor Segalen (1979) {vo, chamber}


タンスマンを聴く


★★★★
"Bric à Brac / Symphony No.4" (Koch Schwann : 3-6558-2)
Israel Yinon (cond) Bamberger Symphoniker
ポーランド近代といえば,ショパンがあまりにも有名なため,どうしても他の作曲家のイメージも,御大に引っ張られてしまいます。しかしながら,パリへの留学経験もあるタンスマンの作風は,聴いてびっくりの六人組志向。ショパンの色はほとんどなく,むしろミヨーの多調感,プーランクの平明な軽さを,トマジ界隈の和声感覚でブレンドする六人組の音楽性に立脚したものと言えるでしょう。戯画的で風刺の利いた彼の作風は,いかにも活気に溢れてそうな『蚤の市』のほうで如実に堪能できます。これは同じくユダヤ系で移民指向だったブロッホもそうですけど,タンスマンも器楽や室内楽になると,土臭く気難しそうな民俗趣味が前面に。良く言えばシリアスなんだけど悪く言えば取っつきにくいとの感が拭えないのも確かです。そこへ行くと,本盤の表情は随分と柔らかめ。欲を言えば構成は平明で,やや食い足りないところもあるにはあります。それでも,ポーランド人ならではの生真面目さが,食ったような六人組の毒気や過度な通俗趣味を適度に中和し,本家の諸作品に比べても遜色ないものにしている点は一定の評価に値するのでは。演奏はバンベルク交響楽団によるもの。取り立てて名演奏というほどのこともないんですけど,コッホというレーベルは(マルコポーロほどではないが)演奏陣の顔触れにばらつきがあるので,比較的知名度も高い本オケによる選集は,安心して求めることができる一枚なのではないでしょうか。

★★★★
"Complete Music for String Quartet" (Etcetra : KTC 2017)
The Silesian String Quartet
1992年に出た本盤は,弦楽四重奏のための作品全てを収録した2枚組。彼の書いた最初の弦楽四重奏(1917年)は現存しないので,実質上全て,パリ移住後(1919年以降)の作品になります。華の都で気鋭の才能に囲まれ,時に浮かれつつも,出自の違いを感じることは少なくなかったのでは。果たして,ここに収録された楽曲を形容するなら,ポーランドの土臭い感性で再解釈された六人組。多調性とやや仰々しい擬古典様式に立脚しつつ,ところどころでカラフルな和声の飴と無調性の鞭を散りばめて聴かせる趣向です。この人は『交響曲第4番』も,やや戯画的な新古典書法でした。パリで大流行していたキッチュな新古典主義者の周りを回りながらも,どこか華やいだパリジャンの空気に馴染めないでいる異邦人。その微妙な距離感が書法に反映しているんでしょう。どこか似たもの同士なブロッホも,一番シュールなのは弦楽四重奏でした。タンスマンの四重奏も,フランス人の洒脱さや粋さは,綺麗さっぱり農夫面に奪胎されており,無調を利した耳当たりはかなり気難しい。それでも,1944年の『弦楽四重奏曲第6番』当時は穏やかな時期だったのか,第一楽章を中心に,硬い表情からしみじみとした叙情性が滲み出て,さすが武骨な哀愁の東欧人。ロマン派情緒を好む皆さんにも聴くに堪える佳作となっているのではないでしょうか。演奏を担当するシレジアン四重奏団は,カトヴィチェのシマノフスキ音大生が結成。彼らはかの高名なラサール四重奏団やアマデウス四重奏団のマスタークラスをご一緒した同窓生なんだとか。結成の翌年にはクラコウ国際で優勝。その後も1981年にポスナン弦楽四重奏コンペ,1984年のユネスコ作曲家委員コンペでいずれも優勝。東欧系らしいゾリゾリした土臭い音色と,生々しい情念の表出で,作品の持つ荒々しい力感を捉えた,レベルの高い演奏と思います。

★★★☆
"Partita / Fantaisie / Deux Pièces / Sonata for Cello and Piano / Quatre Pièces Faciles" (Etcetera : KTC 1209)
Alexander Zagorinsky (vc) Alexei Shmitov (p)
1897年ポーランドはウッチに生まれたタンスマンは,法学・哲学をワルシャワで学ぶ傍ら,ウッチ音楽院を出てピアニストとなり,保守的な国内の楽壇を嫌って1919年にパリへ進出。ユダヤ系の血筋のため,大戦中にヒトラーの手を逃れてカリフォルニアへ渡った他は,亡くなったのもパリなくらいフランスを愛した人物です。実際この人の作品は六人組傍系。緩章でのエレジアックな佇まいはプーランク,急速調における凝った転調技法とかっちりした擬古典様式美はフランセ辺りに近いでしょうか。しかしながら,彼のそれはやはり東欧人。パリ被れした六人組の洒落っ気や軽さはなく,風合いはずっとゴツゴツ武骨。その人当たりの悪そうな曲想から時折,瞬間的に漏れてくる美旋律家ぶりと,凝った和声をぶつけるピアノの叙情性は,パリに学んだ異邦人タンスマンならではの美点といえるかも知れません。演奏はいずれもモスクワ生まれのモスクワ音楽院卒業生。良く共感し,情熱的に演れている反面,チャイコ国際入賞にもかかわらず力量不足気味のチェリストが気になる。時折顔を覗かせるピッチの甘さはともかく,音色がキイキイと痩せているのはいただけません。フランセに似ていると言うことはパッセージも細かく速いので,音色がキイキイしていると音が割れちゃって聴くに堪えない。東欧風の厳しい佇まいを出そうとしたのかも知れませんけれど,それを割り引いてもあまり誉められた演奏とは思えません。ちょっとミスキャストだったかなあ。

(2006. 3. 6)