Tの作曲家



マルセル・トゥルニエ Marcel Lucien Tournier (1879-1951)

フランスの作曲家,ハープ奏者,教育者。1879年1月5日,5人兄弟(女性2人を加えて7人)の一人として,パリ音楽院の傍で弦楽器の工房を営む職人の家に生まれる。子どもの将来のため,父は兄弟にそれぞれ異なる楽器を学ばせることを決め,マルセルはハープを学ぶ。戦渦によって他の兄弟が音楽家を断念する中,彼は16歳でパリ音楽院へ進み,ハープを近代ハープ奏法の開拓者,アルフォンス・アッセルマンとラファエル・マルトノに師事。1899年にハープ科の一等賞を獲得。次いでシャルル・ルネヴに和声法,ジョルジュ・コサードに対位法,シャルル・マリー・ヴィドールに作曲法を学ぶ。1909年にカンタータ『ラ・ルーザルカ(La Roussalka)』でローマ大賞第2位を獲得。さらに『ローラとペトラルカ(Laura et Petrarch)』でロッシーニ賞を受賞した。コンセール・ラムルー協会のハーピストを経て1912年,近代ハープ奏法の開拓者でもある師アッセルマンの後を継ぎ,パリ音楽院ハープ科の教授に就任。1948年にリリー・ラスキーヌにその地位を譲って職を辞すまで,数多くのハーピストを育成した。1922年に結婚したルネ・レナール(Renée Lénars)もハーピストであり,パリ音楽院ハープ科教授(1912-1933)である。作曲家としても印象主義の強い影響のもと,ハープのための典雅な作品を多数作曲。コード・グリッサンドや和声法に関する優れた著作も遺す。レジオン・ドヌール賞受賞。1951年5月8日パリにて死去。


主要作品

舞台音楽 ・ローラとペトラルカ Laura et Petrarch (1909)
カンタータ ・ラ・ルーサルカ la roussalka (1909)
室内楽曲 ・2つのロマンティックな前奏曲 deux préludes romantiques (pub.1909) {vln, hrp}
・妖精の国 féerie (1912) {hrp, 2vln, vla, vc}
・秋の散歩道 promenade à l'automne (pub.1912) {vln(vc), hrp}
・組曲 suite (-) {vln, vla, vc, fl, hrp}
・夜想曲 nocturne (-) {vc, hrp}
・アエレーム aéréme (-) {tb, p}
・アリアと変奏 aria et thème varié (-) {tp, p}
・朗唱と輪舞曲 recit et rondo (-) {tba, p}
・岬に向かって sur les pointes (-) {cl, p}
・前奏とスケルツォ prélude et scherzo (-) {sax, p}
・2つの韻詩 deux versets (-) {org}
・4つの祝祭の歌 quatre chants de fête (-) {tp, p}

・ minicaracteres (-) {g}
ハープ曲 ・6つのノエル six noël (-)
・4つの組曲 quatre suites (1897)
・森の泉のほとりにてvers la source, dans le bois.. (1922)
・ソナチヌ sonatine, op. 30 (1924)
・映像第1集 images 1ère suite (1925)
・映像第2集 images 2ème suite (1925)
・映像第3集 images 3ème suite (1930)
・映像第4集 images 4ème suite (1932)
・演奏会用練習曲 『朝に』 étude de concert 'au matin' (1940)
・永遠の夢 l'éternel rêveur (1946)
・子守歌 berceuse (pub.1965)
・溜息 soupir (pub.1976)
・4つの前奏曲 quatre préludes pour deux harpes, op. 16 (-) {2hrp}
・ソナチヌ第二番 sonatine No. 2, op. 45 (-)
・2つの小さな小品 deux petite pièces (-)
・舞曲風のアリア air à danser (-)
・ロシア風の子守歌 berceuse russe (-)
・主題と変奏 thème et variations (-)
・ fresque marine (-)
・ジャズ=バンド jazz-band (-)
・降誕祭の歌 noëls, op. 32 (-)
・黒人たちの小品 pièces nègres, op. 41 (-)
・ encore une boîte à musique, op. 47 (-)
・ pastels du vieux japon, op. 47 (-)
・ ce que chante la pluie d'automne, op. 49 (-)
ピアノ曲 ・ワルツ premier valse (-)
・ワルツ第2番 deuxième valse (-)


トゥルニエを聴く


★★★★★
"Harp Recital :
Etude de Concert: Au Matin / Vers la Source, Dans le Bois .. / Sonatine / Images 1er, 2ème, 3ème et 4ème Suite" (Claves : CD 50-9816)

Chantal Mathieu (harp)
近代以降,ソロの花形からオーケストラのツマに格下げされたハープ。今ではすっかりファンも限定されたこの業界は,オムニバスや軟弱なポップス編曲ものでしかCDを出せなくなってしまいました。この状況下で近代ハープ音楽の開拓者の作品集。滅多に作れるものではなく,トゥルニエの作品は長きに渡って,オムニバスで細々と紹介されるだけの嘆かわしい状況が続いていたのです。しかし,ついに・・ついに出ました。全ての近代音楽ファン待望,トゥルニエ作品集の登場です。管見の限り,一枚まるまるトゥルニエの作品で固めたCDはあと一枚,4つの映像を収めたものがあるくらいですから,本盤の登場はまさしく壮挙といわねばならないでしょう。加えて本盤,演奏が実に素晴らしいシャンタル・マチウは,トゥルニエもかつて教鞭を執ったパリ音楽院で,トゥルニエの弟子ジャクリーヌ・ボローに師事。その後イスラエル国際,パリ国際優勝,ジェネバ国際で第2位と華々しく活躍し,現在はローザンヌ音楽アカデミーで教鞭を執る実力者。童顔の愛くるしい美貌からは想像も出来ないほど,マッシヴで力感溢れる運指技巧は明晰。素晴らしいの一語です。曲の方も代表的な名曲が揃い,フランス音楽の粋を伝えるものばかり。トゥルニエでまず一枚という方。断固推薦です。

★★★★★
"Berceuse / Sicilienne (Fauré) Pastorale de Noël (Jolivet) Quintette (Cras) Suite (Tournier) Prélude, Marine et Chansons (Ropartz)" (Hänssler : CD-NR.93.175)
Linos Harfenquintett: Sophie Hallynck (hrp) Gaby Pas-van Riet (fl) Annette Schäfer (vln) Gunter Teuffel (vla) Jan Pas (vc)
シプレから出たジョンゲンのハープ付き室内楽作品集でも竪琴を鳴らしておいでのソフィーお嬢様が,ドイツにもかかわらず仏人以上にフランス的な録音履歴を積み上げるシュトゥットガルト楽壇の面々に客演。こんな素敵な顔合わせで,演奏するはクラ,トゥルニエにロパルツと来ている。トゥルニエの『組曲』なんて滅多に聴ける曲ではなく,「良くこんな選曲で商売が成り立つよな・・」と感心するばかり。これでもかと仏近代フェチの財布の紐を緩める選曲に喝采です。べーやんやもーざるとをやっても採算ギリギリな日本の状況と比べるにつけ,欧州の文化先進国ぶりには感心するしかございません。「あのジョリヴェがこんなにドビュッシー好きのする典雅な曲を」とびっくりな『降誕祭パストラール』を始め,いずれも秘曲にして瀟洒,モデストで叙情的な小傑作揃い。仏近代が好きで堪らない奏者の好きものオーラが相乗効果を挙げ,フランス人そこのけの優美な演奏に仕上がっている。むろんオケ団員がメインですから,弦やフルートに僅かなくすみや掠れがちらつくのはご愛敬。技術的にはかなり良質と思います。特にロパルツの『海景』には,等速ビブラートが古めかしいメロス・アンサンブルに,ヴァイオリンがヨレてるナンシー楽壇と,隔靴掻痒な代物しかありませんでしたから,それらより一枚上手の技術で演奏された本盤の登場は快挙といえるのではないでしょうか。それだけに少しばかり気になるのは,相乗効果で仏人以上におフランスになってしまった曲の解釈。くだんのロパルツは良い例で,あまりにもテンポを揺らしすぎの強弱キツすぎ。この曲のもつ擬古典的な典雅さが,過多気味のロマンティシズムで些か汚れてしまい,ちょっぴり水商売のおネエっぽくなってしまったのは残念です。

★★★★
"Interlude - Französische Musik für Flöl;te, Violine und Harfe :
Suite / Deux Ballades (Goosens) Deux Préludes Romantiques / Promenade à l'Automne (Tournier) Two Dances (L. Moyse) Cinq Nuances / Triptyque (Berthomieu) Entr'acte / Deux Interludes (Ibert)" (Thorofon : CTH 2194)

Hans-Jörg Wegner (fl) Marcus Honegger (vln) Ellen Wegner (hrp)
ブルグウェルデル生まれ,ハノーヴァー音楽院で教育を受けたウェルナー夫妻と,シュレスヴィヒ・ホルスタイン室内楽アンサンブルなる演奏家集団の首席奏者を務めるヴァイオリンのオネゲル氏。彼ら仲良し三人組の演奏によるフランス近代作品集がこれです。モロ,ドイツ・ドメスティックな顔触れの,どこからこんな企画が生まれたのかと思ってしまいます。どうもそのココロは,ハープのウェグナー女史の教育歴にある模様。彼女は上記トゥルニエ作品集を上梓したシャンタル・マチウの弟子ですから,つまるところトゥルニエのひ孫弟子にあたる。恐らく企画のイニシアチブも彼女がとったのでしょう。さすがに演奏は良くも悪くもやや垢抜けのしないものですけれど,演奏流儀は意外なほど瀟洒で,無名の割にはレベルもそう悪くない。そして何より選曲が素晴らしい。イベール,トゥルニエやグーセンスは勿論のこと,ベルトミューやモイーズに至っては立派な秘曲。モイーズは本職がフルート吹きですから,ほとんど余芸に近い秘曲。この盤がなけりゃ聴くことすら叶わない演目です。仏近代への豊かな造詣に裏打ちされた選曲だけでもう貴重盤。ドイツな方々の思わざる慧眼に感謝するばかりです。

★★★★
"Impromptu (Fauré) Sonatine No.2 (Tournier) Danses de delphes / La fille aux cheveux de lin (Debussy) Cinq Préludes (Salzero)" (Koch Schwann : 310179 GI)
Alice Giles (harp)
トゥルニエの基礎情報をお探しの方にはまことに申し訳ないのですが,とにかく,この作曲家に関して申し上げられることは一つしかありません。情報もCDもとにかく少ない!ニューグローブ音楽辞典のレベルで,半世紀もの間,項目すら掲げられたことのない作曲家なんて,そうそう滅多にいるもんじゃありません。それもこれも,彼が斜陽のハープ畑のみで曲を書く特殊な作曲家だったからでしょう。一応近代ハープの父ですらこの惨状。哀れです。ハープならではの古楽的な趣をたたえたあでやかな音色を生かしながら,ドビュッシーを昇華した繊細な和声を織り交ぜて書かれた彼の作品は,どれも大変センスが良く,あでやかな美を放つもの。本盤に収められたソナチヌも,そうした美点を色濃く反映した,優美な分散和音芸術をたっぷりと堪能できます。童顔の表情が愛らしいアリス・ジレス女史のハープで愉しめるこのコンピ,録音のせいか爪が弦を弾く音が妙に大きく,演奏者の技量もモレッティやマチウのクラスに比べると少しばかり格落ちで,運指の粒立ちもやや摩滅気味。弱音や細かいアルペジオで細部の輪郭が不鮮明なのは残念ですけれど,全曲近代物の選曲盤では珍しく,一枚で3曲もトゥルニエが聴ける数少ない盤なのが美点。内容以前に,それだけでもう価値があるというこの状況,悲しいの一語。ハープって人気ないんだなあ・・とナサケナーイ気持ちになって参ります。

★★★★☆
"Musique Française pour Harpe :
Deux Divertissements pour Harpe (Caplet) Étude de Concert pour Harpe 'Au Matin' (Tournier) L' Éternel rêveur (Tournier) Impromptu (Fauré) Une Châtelaine en sa Tour (Fauré) Impromptu-Caprice (Pierné) The Little Shepherd (Debussy) Thème et Variations pour Harpe (Sancan) Harpalycé (Constant)" (Auvidis Valois : V 4779)

Isabelle Moretti (harp)
ジュネーヴ国際ハープ・コンクールを始め3大ハープ・コンクールを制した才媛にして,大変な美人でもいらっしゃるイザベル・モレッティ女史によるハープ独奏曲集。ここでもトゥルニエは2曲だけです。しかし,上記のジレス女史に比べ,細部に至るまで圧倒的に輪郭明瞭かつ澱みのない運指技巧,そして周到な録音は,本盤の大きな美点でしょう。収録曲はフォレに始まってコンスタンまで,フランス近現代のハープ史を大づかみに俯瞰。編曲作品を多く含み,企画自体は軽めのものと言わざるを得ませんが,奏者の素晴らしい美演ゆえに,好事家的にも聴くに堪える内容です。トゥルニエの二曲はいずれも彼のハープ曲の中では最もポピュラーなもの。初期ドビュッシーの管弦楽作品を思わせる瀟洒な和声感覚と,程良い擬古典的形式感を留めた輪郭線の対比が好ましい小品です。本盤ではほかに,作曲家としてはほとんどまともに評価されていないサンカンのハープ曲が嬉しい。シュミットの呪術性と異教徒趣味をドビュッシーの原型に取り込み,現代音楽方向へ数歩前進した彼の小品は,逸脱ではなく拡張のベクトルでポスト=ドビュッシーの道を進んだ彼の,目立たぬ乍堅実な歩みを良くあらわしているといえましょう。

(2001. 1.16)