Vの作曲家


ルイ・ヴィエルヌ Louis Vierne (1870-1937)

フランスのオルガン奏者,作曲家。本名ルイ・ヴィクトル・ジュール・ヴィエルヌ。1870年10月8日ポワチエのジャーナリストの一家に生まれた。先天性白内障のため盲目であったが,6才で弱視へ快復したのをきっかけにソルフェージュとピアノを始める。1880年に一家はリールからパリへと移住。翌年から国立パリ幼年盲学校(Institution Nationale des Jeunes Aveugles)へ進み,基礎的な音楽を学んだ。同校をしばしば訪れていたフランクの勧めでオルガンを始め,1886年からルイ・ルベール(Louis Lebel)に師事。次いで1888年からフランクへ私的に就いてオルガンを学びながらパリ音楽院オルガン科で聴講を始め,1890年10月(ヴィドールの記録では1891年1月),正式に同院へ入学した。1891年11月にフランクが世を去ってからはヴィドールの門下に入り,間もなく彼の助手となって1896年までその地位を務める。さらに1892年からは聖シュルピス教会でヴィドールの代理オルガン奏者となり,1894年7月に彼のオルガン科で一等を得た。1900年5月,ノートルダム聖堂のオルガニストとなって亡くなるまでその地位を務めたほか,1912年からはスコラ・カントールム(のち1931年にエコール・セザール・フランクに改組)オルガン科教授。健康上の問題から1920年初頭にはオルガンの奏力が著しく衰え,残された録音のほとんどがその後のものであるため,演奏者としては過小評価されている。1937年6月2日パリにてリサイタル中,心臓発作のため死去。死後,弟子のデュリフレが後任となったが,この時パリ中のオルガン奏者が後任の公選を要求し,ノートルダム聖堂の権威は失墜したとされる。


主要作品
 

管弦楽曲 ・交響曲 イ短調 symphonie en la mineur (1907-08)
・詩曲 poème pour piano et orchestre, op.50 (1925) {p, orch}
・バラード ballade, op.52 (1926) {vc, orch}
・交響的小品 pièce symphoniques (1926) {org, orch} ...
オルガン交響曲第1〜3番を改訂編曲
・アダージョ adagio, op.28 (1926) {org, orch} ...「オルガン交響曲第6番」を改作
室内楽 ・2つの小品 deux pièces, op.5 (1894-1895) {vc(vla), p} ...Victor Balbreckに献呈
・ラルゴとカンツォネッタ largo et canzonetta, op.6 (1894/1896) {ob, p}
・弦楽四重奏曲 ニ短調 quatuor à cordes, op.12 (1894)
 1) introduction, 2) intermezzo, 3) andante quasi adagio, 4) finale
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano, op.23 (1905-1906) {vln, p}
 1) allegro, andante, intermezzo, 4) finale
・ハープのための狂詩曲 rhapsodie en sol mineur, op.25 (1909) {hrp} ...
Micheline Kahnに献呈
・チェロ・ソナタ ロ短調 sonate pour violoncelle et piano en si mineur, op.27 (1910) {vc, p}
 1) poco lento et Allegro, 2) molto largamente, 3) allegro molto
・ピアノ五重奏曲 quintette en do mineur, op.42 (1917-1918) {2vln, vla, vc, p} ...
他界した実息Jacquesに献呈
・ナポレオン一世生誕100年を祝う勝利の行進 marche triomphal centenaire de Napoléon I, op.46 (1921) {org, brass, timp}
・異境の夕べ soirs étrangers, op.56 (1928) {vc, p}
ピアノ曲 ・2つの小品 deux pièces, op.7 (1893?)
1) automne, 2) impression
・アルバムのページ feuillets d'album, op.9 (1893)
・ブルゴーニュ組曲 suite bourguignonne, op.17 (1898-1899)
・3つの夜想曲 trois nocturnes, op.34 (1915-1916) ...
Madeleine Richepinに献呈
・12の前奏曲 douze préludes, op.36 (1914-1915)
・葬送の鐘の詩 poème des cloches funèbres, op.39 (1916)
・子どもの影 silhouettes d'enfants, op.43 (1918)
・孤独 solitude, op.44 (1918)
・ツァラトゥストラかく語りき ainsi parlait Zarathoustra, op.49 (1922)
オルガン曲 ・アレグレット allegretto en si mineur, op.1 (1894)
・フーガの韻詩 verset fugue sur 'in exitu Israël' (1894)
・葬送前奏曲 prélude funèbre, op.4 (1896)
・コムニオン communion, op.8 (1896-1897)
・オルガン交響曲第1番 ニ短調 symphonie No.1, op.14 (1898-99)
・小ミサ曲 messe basse, op.16 (1900)
・オルガン交響曲第2番 ホ短調 symphonie No.2, op. 20 (1902-03)
・オルガン交響曲第3番 嬰ヘ短調 symphonie No.3, op.28 (1911)
・小ミサ曲 messe basse, op.30 (1912)
・24の自由な形式による小品 24 pièces en style libre, op. 31 (1913-14) ...
全2巻
・前奏曲 嬰ヘ短調 prélude (1914)
・オルガン交響曲第4番 ト短調 symphonie No.4, op.32 (1914)
・オルガン交響曲第5番 イ短調 symphonie No.5, p. 47 (1923-24)
・24の幻想曲 24 pièces de fantaisie pour orgue, op.51, 53, 54, 55 (1926-27)
・3つの即興曲 trois improvisations (1928) ...
即興演奏。1954年にデュリフレにより編曲。
・三部作 triptyque, op.58 (1929-1931)
・オルガン交響曲第6番 ロ短調 symphonie No.6, op.59 (1930)
・死者のための小ミサ曲 messe basse pour les défunts, op.62 (1934)
歌曲 ・タントゥム・エルゴ tantum ergo, op.2 (1886) {vo, org}
・アヴェ・マリア Ave Maria, op.3 (1886) {vo, org}
・2つの歌 deux mélodies, op.10 (1895, 1896) ...
P. Gobillard, M. Lena詩
・3つの歌 trois mélodies, op.11 (1896)
 1) beaux papillons blancs (T. Gautier), 2) donc ce sera par un clair soir d'été (Verlaine), 3) qu'as-tu fait de ta jeunesse? (Verlaine)
・3つの歌 trois mélodies, op.13 (1899) ...
Arlette Taskinに献呈
 1) chanson d'automne (Verlaine), 2) lied d'amour (Carly Timun), 3) éxtase (Victor Hugo)

・アヴェ・ヴェルム ave verum, op.15 (1899)
・3つの歌 trois mélodies, op. 18 (1897)
 1) l'heure du berger (Verlaine), 2) o triste, triste etait mon ame! (Verlaine), 3) le Rouet (Leconte de L'isle)
・眠れ,愛しのプルネラよ dors, chère Prunelle, op.19 (1898) ...
C. Mendès詩,Germaine Taskinに献呈
・3つの歌 trois mélodies, op.26 (1903) ...
Camille Chevillard夫人に献呈
 1) soleils couchants (Verlaine), 2) nox (Leconte de L'isle), 3) adieu (Villiers de l'Isle-Adam)
・ヴォーカリーズ=エチュードvocalise-étude (1907)
・愛と夢の解 stances d'amour et de rêve, op. 29 (1912) ...
Sully-Prudhomme詩。Jeanne Montjovetに献呈
 1) les chaines, 2) chanson de mer, 3) à l'hirondelle, 4) réssemblance, 5) le galop

・プシケ psyché op.33 (1914) {vo, orch}...Victor Hugo詩
・交響詩【アラビアの精霊】 poème symphonique 'les djinns', op.35 (1912) {sop(tnr), orch}...
Victor Hugo詩
・女神エロス Éros, op.37 (1916) {sop, orch}... A. de Noailles詩
・嘆きと絶望 spleens et détresses, op. 38 (1917) ...
Verlaine詩。Boisrouvray伯爵夫人へ献呈。
 1) dans l'interminable ennui, 2) un grand sommeil noir, 3) spleen, 4) promenade psentimentale
 5) a une femme, 6) sérénade, 7) le son du cor, 8) Sapho, 9) les faux beaux jours, 10) marine

・ヴォーカリーズ形式のロマンス romance, vocalise, op. 40 (1917?)
・ダル・ヴェルティス dal vertice, op.41 (1917) {tnr, orch} ...
G. d'Annunzio詩
・ボードレールの5つの詩 cinq poèmes, op. 45 (1919) ...
Baudelaire詩
 1) recueillement, 2) réversibilite, 3) le flambeau vivant, 4) la cloche felée; 5) les hiboux
・愛の詩 poèmes de l'amour, op.48 (1924) ...
J. Richepin詩。Madeleine Richepinに献呈。
 1) FLOREAL: Le jour ou je vous vis; Au jardin de mon coeur; Le bateau rose
 2) THERMIDOR: Donne-moi tes baisers; Le tresor; Rondeaux mignons; Abdication
 3) BRUMAIRE: Sonnet d'automne; Les sorcieres; Air retrouve; Le bateau noir
 4) NIVOSE: Jour d'hiver; Souvenir; Angoisse; Sombres plaisirs
・ヴォーカリーズ=エチュード vocalise-etude, op.51 (1925-1926)
・お告げの祈祷 les angélus (Jehan la pauvre moyne), op.57 (1929) {sop, org(orch)}
・4つのギリシャの詩 quatre poèmes grecs (1930) ...
A. de Noailles詩
・絶望のバラード la ballade du désespéré, op.61 (1931) {sop, orch} ...
H. Murger詩
・月の白バラ les roses blanches de la lune (-)
合唱曲 ・素朴なミサ messe solennelle, op.16 (1900) {4vo, 2org}
・(邦訳不詳) praxinoé, op.22 (1903-1905) {vo, chorus, orch}
・ゴンザークの聖ルイの頌歌 cantique à Saint-Louis de Gonzague (1926)


ヴィエルヌを聴く


★★★★
"Symphonie en La Mineur / Poème pour Piano et Orchestre" (Timpani : 1C1036)
Pierre Bartholomée (cond) François Kerdoncuff (p) Orchestre Philharmonique de Liège
本職がオルガン奏者だったヴィエルヌの創作活動は,基本的にオルガンと歌曲が中心で,管弦楽は数えるほどしか書きませんでした。本盤は,オルガン作品以外はシカト状態な彼の,聖堂外の顔に光を当てた珍しい作品集です。蓋し,仏近代の作曲家が保守派なのかドビュッシアンなのかを手っ取り早く予測する一番の方法は,仝魘繕覆鮃イ鵑能颪か,調性をいちいち指定するかの2点でしょう。いの一番に「イ短調で」交響曲を書いた20世紀初頭のヴィエルヌは,申すまでもなく保守派の優等生。どっぷりフランキズムに耽溺した,旧式の和声と頑迷な形式。つらつら系の美旋律,甘美な弦の肉付け,多彩な拍節のどれ1つなく,保守系ロマン派形式を律儀に踏襲。強いていうなら習作期のダンディ。カイゼル髭の校長みたく重々しい。和声フェチのあっしはもう,校長室で説教を食らってるみたく窮屈〜な気分になりました(苦笑)。では何故そんなCDが四つ星なのか。その理由は,20年の齢を経て心身ともに疲弊した作者晩年の『詩曲』一点に尽きます。諦観の境地に達した彼は,もはや世の因習にとらわれることなく,虚心坦懐,心のままに美を追究する仙人へと老成。ときにドビュッシー的な弦部に支えられ,民謡起源の主旋律が,あくまでフランク門下の品位を壊さぬ程度に抑制されながらエキゾチズムの花弁を開く。教科書的なメチエから解放された自由な転調と拍動。強いて言えば冒頭や緩奏部は,フレムの『死者のために』なんかに近いですか。やや対位法センスが素人臭いところもあるものの,別人の如きモダニズムに快哉。いや〜見落としていました。こんな曲書ける人だったとは。このまま無視されっ放しなのは惜しい・・ということで,勝手に宣伝部長。

★★★★☆
"Sonata in C Minor (Jongen) Poème (Tournemire) Sonata in B Minor (Vierne)" (Talent : DOM 2910 35)
Viviane Spanoghe (vc) André De Groote (p)
【フランスのチェロ・ソナタ集】と題され1996年に出た本盤は,三編を併録。ジョンゲンはベルギー人ですから,実際のところは国籍ではなく,「オルガン奏者メインな近代作曲家」のチェロ曲オムニバスという趣向なのでしょう。申すまでもなく,最も期待するのはジョンゲン。作曲した1912年(作品39)は,過渡期臭の漂っていたヴァイオリン・ソナタ第二番から僅かに3年後。少し若いかなとの危惧は,蓋を開けてみれば杞憂でした。情熱的で明瞭甘美な後期ロマン派流儀の旋律線を,ドビュッシアンを程良くとりいれた色彩的な和声がかっちりと支える。後年の『2つの小品』にも通じる温故知新の創作スタイルが出来上がっていたことを,高らかに告げるものです。嬉しいことに本盤,残る二編もかなりの美品。神秘主義のバーバリスト・イメージが強いトゥルヌミールのソナタは,まだ調性崩壊世紀に入って間もないからか,驚くほど穏健な書きっぷり。ラヴェル室内楽の旋法性を旋律に,和声を装飾音に少し足し,ムソルグスキっぽいリズムをちょっと伴奏譜に加えた程度。1910年と比較的初期の作なはずのヴィエルヌのソナタも,ジョンゲンを一回り古風にしたような,甘美で情熱的なクロマチック・ロマンティスト流儀。こちらも意外なほど出来が良い。オルガン曲ではかなりベクトルの開くお三方が,なぜか皆チェロ・ソナタを1910年前後に書き,書法の上でも近かったこの偶然。併録することで示唆を含ませながら,散漫な作品になることも同時に避けた作りに快哉を叫びました。嬉しいことに本盤,演奏も良い。このレーベルの演奏家に感心した記憶がなかったんですけど,記憶する限り初の例外です。チェロはブリュッセル音楽院講師。母国とドイツで学んだのち,インディアナ大学へ留学して修士号を獲り,1980年に【テヌート】放送杯に入賞。あまり派手な受賞歴はなく,女性のためか少し力感は弱いですけど,ピッチは正確で音色も穏やか。情感も程良く豊かな美演。チャイコフスキー,ミュンヘン,エリザベス各国際入賞のピアノは,元アリゾナ州立大客員教授。お年のせいか少しペダリングは過多ですけど,こちらも明晰な技巧で快演です。

★★★☆
"Organ Symphony No.3 / Organ Symphony No.6" (Naxos : 8.553524)
Bruno Mathieu (organ)
何でも半値で聴け,おまけに絶対に廃盤がないとの噂も聞こえる脅威の香港マフィア,ナクソス。本盤は6曲あるヴィエルヌのオルガン交響曲のうち,3番と6番を併録しています。上記作品表からもお分かりの通り,4番と5番の間にはおよそ10年ものギャップがあり,本盤の2作はそれぞれ前期と後期の作品ということに。ウィドールやギルマンの傍流止まりの保守的な三番に対し,俄然キラキラ度が増す最後の交響曲はジョンゲン彷彿で何とも荘厳。ここでも,後年,モダニスト度がみるみる華開いた彼の変遷をみることができます。独奏者のブルーノ・マチウは1958年パリ生まれのフランス人。エコール・ノルマルを出たのち,ルーイル=マルメゾン音楽院で優秀賞を貰ったんだそうで,その後はコルベール聖堂や聖ジュスタン教会のオルガン奏者を務めているとか。ほんの一瞬の可能性はあるものの,ジャン・ラングレやマリー=クレール・アランに学んだこともあるそうな。あからさまな弾き間違いは少ないものの,演奏はどんより鈍く重め。歯切れの悪い運指ともたつき気味のリズム,モヤモヤな残響の相乗効果。集音のせいもあるのでしょうが,とにかくモヨモヨとガスが掛かったように輪郭のぼやけた音像で,速いパッセージや重度のコード打ちが頻出する箇所では音符が潰れてしまい,和声フェチたるヴィエルヌの解題としては何ともメリハリが悪い気がします。ちょっと残念ですねえ。ちなみに,あっしは初めて買ったヴィエルヌのCDがこれでした。いらい,上記のタンパニ盤を買うまで完全無視することになるのですから,やっぱ作品を愛する演奏家の皆さんには,自らの手で誤解を広めてしまわぬよう,ある程度は演奏にも気を遣って欲しいなあ・・と。これって贅沢?

★★★☆
"Sonate (Vierne) 3ème Sonate (Ropartz) Thème et Variations (Messiaen)" (Musica Viva : MVCD1110)
Anne Robert (vln) Sylviane Deferne (p)
初耳なレーベルから出た本盤は,奏者が仏語圏だからか仏近代のソナタ3品を収めたオムニバス。滅多に聴けないヴィエルヌのソナタが嬉しい。1906年の作であることを紹介すれば,敬愛して止まない師匠に続く意図で書かれたであろうと,どなたもたちどころに気づかれるのでは。執拗なまでに主題が再現される循環形式のこの作品は,確かに良く書けてはいるものの,本家のソナタには確かに存在するはずの決定的なサムシングが不足している。往々にして従順な秀才は,師匠を超えられない哀しき優等生に終わるものでして・・。曲の中から浮かび上がり,聴き手の脳天に自らを刷り込ませずにはおかない,禁欲的でいて官能的な美旋律!その閃きが決定的に欠けている。師匠に恋い焦がれ,形式・和声感や曲の展開など,驚くほど本家を彷彿させるにもかかわらず,最も決定的な達磨の目【旋律美】だけはどうしても真似できないもどかしさばかりが,苦しげにのたうつ主旋律から痛いほど伝わってきて,聴くのが辛いです。確かに,フランクと比べるから駄目なんでしょう。でも逆に言えば,つい比べてしまう原因の根幹には,師のエピゴーネンに甘んじる道を選んでしまった彼の哀しい決断があるのもまた事実。その点,独立音楽協会の連中のほうへも目配りしていったん師をカッコに入れ,そこから自分の立ち位置をきっちり見定めて解脱していったロパルツは,やっぱり目の付け所もしたたかだったナァと感ぜずにはおれません。ソリストはケベック州を拠点に活動する室内楽団員。グリュミオー流儀の軽やかで艶っぽい演奏ながら,ピッチはやや緩く,フレージングも一本調子。もっと豊饒であっても良かったのでは。演奏がもう一つなせいか,早々に興味は明後日の方向へ。凄い美貌の伴奏者(1985年のブゾーニ国際6位)に目を奪われちゃったりして・・(恥)。併録のメシアンは六人組臭も飛び出す穏健な佳品です。

★★★★
"Suite Gothique: Toccata (Boellmann) Scherzo (Gigout) Impromptu / Toccata (Vierne) Communion sur un Noël (Huré) Paraphrase-Carillon (Tournemire) Toccata (Barié) La Vallée de Béhorléguy (Bonnal) Callion Orléanais (Nibelle) Suite pour Orgue / Variations sur un Thème de Janequin / Litanies (Alain)" (Calliope : CAL 9924)
André Isoir (organ)
ソリストは1935年フランスのサン・デジェ生まれ。フランク校を経てパリ高等音楽院へ進み,1960年にオルガン科,即興演奏科で一等。1970年代には黄金期を迎え,7年間続けて仏ディスク大賞を貰ったこともあるそうです。本盤はそんな彼が1976年に吹き込んだフランス近代オルガン秘曲選。フランク傍系の懐旧的なボエルマンとジグに始まり,フランクをベースにしつつも装飾音が絢爛豪華なヴィエルヌを緩衝帯として一気にドビュッシー世代へ。神秘主義的で晦渋なアランを除く全員が,フランク,ヴィエルヌらの直弟子世代。ドビュッシアン語法を参照しつつも,デュプレ以降の変態系オルガニストとは一線を画す楽曲は,いずれも繊細な和声とかっちりした形式感で,ポスト・フランキズムかくあるべしと主張する。近代フランス音楽史を,教会演奏家の系譜で概観させる構成には拍手喝采の一語しかございません。個人的には,他の作家が穏健なモード趣味に止まるところ,一人場違いに感性を炸裂させるトゥルヌミール『パラフレーズ=カリヨン』のオーラに脱帽。シュミット的な呪術性と躍動感を,教会音楽の神秘性と融合。即興演奏の如く自由な拍節上へ,煌びやかな和声の塊が天恵の如く降り注ぐ。10分近いにも拘わらず一切間延びしない構成美。これほどのオルガン曲を書く人だとは,正直思っていませんでした。なにぶん即興性の濃い曲。血肉の如く作品を理解しているのが明らかなシンコペーションで,曲の持つ野趣と妖気を生き生き再現前する演奏ゆえに良く聞こえるところは少なからずあるでしょう。たぶん別人で聴いたら,呆気にとられるほど散漫になるのでは。その意味でも,本盤最大の成功要因は,慧眼に裏打ちされたイゾワールの演奏。ユレやボナールら,日頃お天道様がまず気にも掛けない彼らが珍しく脚光を浴びたこの機会。演奏者が彼のような人物だったのは,まさしく幸運と言わねばなりますまい。

(2006. 1. 12 upload)