Wの作曲家



ウィリアム・ウォルトン William Walton (1902-1983)

イギリスの作曲家。1902年3月29日ランカシャー地方のオールダム(Oldham)生まれ。合唱監督および歌唱指導者の父を持つ恵まれた環境で育つ。1912年オックスフォード教会学校付聖歌隊に入隊。そこで学科長であったトーマス・ストロングに見出され,16才でオックスフォード大学へ進学するも,音楽生活のため通常科目の取得に失敗し退学。しかし幸運にもこの頃に,大学時代からサークル活動を通じての友人であったサチェヴェレル・シットウェル(Sacheverell Sitwell)に作曲の才を買われ,父ジョージ・シットウェルの養子として迎えられて,その庇護の元で作曲活動に入る。1948年にアルゼンチンで知遇を得たスサナ・ジル・パッソと結婚しナポリへ移住。1983年3月8日に彼の地で生涯を終えた。作風の基調はロマン派的であるが,同時代の英国圏の作曲家に比して遙かに強いリズム感と新鮮な和声感覚,通俗的な傾向を併せ持つ。イギリスでは高い人気があり,作品の大半は委嘱作であった。


主要作品
※Kennedy, M. 1989. Portrait of Walton. Oxford. を入手しました。作品表は時間が出来次第,完全版へ改訂します。

歌劇・バレエ音楽 ・賢い乙女たち the wise virgins (1940) {orch}
・審判 the quest (1943) {vo, orch}
・トロイラスとクレシダ Troilus and Cressida (1954) {vo, g (hrp, perc, strings)}
・熊 the bear: extravaganza (1967) {sop, tnr, btn, small-orch}
映画音楽 ・逃げちゃいやよ escape me never (1935)
・お気に召すまま as you like it (1936)
・少数者の首位 the first of the few (1942)
・ヘンリー5世 Henry V (1944)
・ハムレット Hamlet (1947)
・リチャード3世 Richard III (1954)
管弦楽曲 ・統語論博士 Dr.syntax: a pedagogic overture (1921)
・ポーツマス岬 Portumouth point (1924-1925/1928)
・シエスタ siesta (1926) {small-orch}
・ファサード,第1組曲 façade, suite No. 1 (1926)
・交響曲第1番 symphony No. 1 (1932-1935)
・載冠式行進曲「王冠」 coronation march 'crown imperial' (1937) {orch (p, small-orch)}
・ファサード,第2組曲 façade, suite No. 2 (1938)
・子どものための音楽 music for children (1940)
・スカピーノ scapino (1940/1949)
・スピットファイア前奏曲とフーガ spitfire prelude and fugue (1942)
・追悼ファンファーレ memorial fanfare for henry Wood (1944)
・英国国歌 the national anthem arranged for full orchestra (1953)
・星条旗 the star-spangled banner, arranged for full orchestra (1955)
・ヨハネスバーグ祝典序曲 Johannesburg festival overture (1956/1958)
・パルティータ partita (1958)
・交響曲第2番 symphony No. 2 (1959)
・英語圏の人々の歴史のための行進曲 march for the history of the English speaking people (1959)
・グラナダ Granada: prelude for orchestra (1962)
・ヒンデミットの主題による変奏曲 variations on a theme by Hindemith (1963)
・カプリッチョ・ブルレスコ capriccio burlesco (1968)
・ブリテンの即興曲による即興曲 improvisations on an impromptu of Benjamin Britten (1969)
・狂想変奏曲 varii capricci, arranged for orchestra from the Five Bagatelles (1976)
・序言と幻想 Prologo e fantasia, for orchestra (1982)
協奏曲 ・幻想協奏曲 fantasia concertante, for two pianos, jazz band, and orchestra (1924) {2p, jazzband, orch}
・協奏的交響曲 sinfonia concertante (1926-1927/1943) {p, orch}
・ヴィオラ協奏曲 viola concerto (1929/1961) {vla, orch}
・ヴァイオリン協奏曲 violin concerto (1939/1943) {vln, orch}
・チェロ協奏曲 cello concerto (1956/1975) {vc, orch}
器楽・室内楽 ・ウィートリーによるコラール前奏曲 chorale prelude on Wheatley (1916) {org}
・ピアノ四重奏曲 piano quartet (1921/1975) {vln, vla, vc, p}
・弦楽四重奏曲第1番 string quartet No.1 (1922) {2vln ,vla, vc}
・トッカータ toccata for violin and piano in A minor (1923) {vln, p}
・即興のための主題 theme for improvisation (1936) {org}
・弦楽四重奏曲第2番 string quartet No. 2 in A minor (1946) {2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ sonata for violin and piano (1949) {vln, p}
・2つの小品 two pieces for violin and piano (1950) {vln ,p}
・主題と変奏 theme and variations (1970) {vc}
・5つのバガテル five bagatelles (1971) {g}
・パッサカリア passacaglia (1980) {vc}
・デュエッティーノ duettino for oboe and violin (1982) {ob, vln}
ピアノ曲 ・ワルツ valse in C minor (1917)
・姪のための曲 tunes for my niece (1940)
・コラール前奏曲 chorale Prelude on Herzlich thut mich verlangen (1931) ...
厳密には編曲作品
・子どもたちのための二重奏曲集 duets for children, for piano duet (1940) {2p}
・ライとロンデットLai and Rondet de carol (1944)
歌曲・合唱曲 ・全ての聖者たちに for all the saints, hymn tune (1916) {choir}
・典礼 a litany, for mixed chorus (1916/1930) {choir}
・突風 the winds (1918) {vo, p}
・トリトン tritons (1920) {vo, p}
・オラトリオ「ベルシャザール公の饗宴」 oratorio 'Bershazzar's feast' (1929) {btn, 2choir, orch, 2brass}
・(邦訳不詳) Make we joy now in this fest, Old English Carol (1931) {choir}
・ファサード形式の3品 three façade settings (1931-1932) {vo, p}
・ロンドン市民の栄誉をたたえて in honour of the city of London (1937) {choir, orch}
・緑林の木の下で under the greenwood tree (1937) {vo, p}
・(邦訳不詳) set me as a seal upon thine heart, for mixed chorus (1938) {choir}
・ベアトリスの歌 Beatriz's song (1942?) {vo, p}
・(邦訳不詳) where does the uttered music go?, for mixed chorus (1945-1946) {choir}
・テ・デウム te deum (1953) {choir, orch}
・グローリア gloria (1961) {choir}
・(邦訳不詳) what cheer?, carol for mixed chorus (1961) {choir}
・恋する無名詩人の歌 anon. in love (1962) {vo, g (orch)}
・領主市長の仕事台 a song for the lord mayor's table (1962) {vo, p}
・続ファサード形式の3品 three façade settings (1962) {vo, g}
・12使徒 the twelve (1964-1965) {choir, org}
・祈祷用ミサ曲 missa brevis (1966) {choir, org (orch)}
・オール・ディス・タイム all this time, carol for mixed chorus (1970) {choir}
・ユビラト・デオ jubilate deo, for double mixed chorus and organ (1971/1972) {2choir, org}
・カンティコ・デル・ソル cantico del sole, motet for mixed chorus (1973-1974) {choir}
・マグニフィカトとヌンク・ディミッティス magnificat and nunc dimittis (1974/1975) {choir, org}
・アンティフォン antiphon, for mixed chorus and organ (1977) {choir, org}
・ヘロデ王と雄鳥 king Herod and the cock, carol for mixed chorus (1977) {choir}


ウォルトンを聴く


★★★★★
"Symphony No. 2 / Viola Concerto / Johannesburg Festival Overture" (Naxos : 8.553402)
Paul Daniel (cond) Lars Anders Tomter (vla) English Northern Philharmonia
友人の庇護を受けてやっと作曲活動をし,学校すらほとんどラッキーな巡り合わせで入ったようなもの。一方にヴォーン=ウィリアムスのような象牙の塔を置くなら,いわばウォルトンは叩き上げの雑草タイプとも言えましょう。実際旅行先でいきなり異国の女性を見初めて結婚,そのまま国を捨てて異国の地で後半生を送るというその人生,なんとも破天荒ではありませんか。そんなウォルトンの作風は論より実行,良い意味で分かり易く明快。ドビュッシーやラヴェル以降の色彩溢れる和声感覚,シュミットやストラヴィンスキーの躍動的リズムから,難しいことを考えず耳触りよいところをところを集めてきて見事に音楽を組み上げてみせる手腕は天衣無縫。怖い者知らずの痛快さがあります。そんな彼の好い意味での明解さ,通俗性が見事に発揮された作品として小生がまずお薦めするのはこれ。『ヨハネスブルク祝典序曲』の楽しさはどうでしょう。さらに嬉しいのは演奏。廉価でありながら正規盤そこのけの素晴らしい熱演です。下克上万歳!

★★★★★
William Walton "The Bear" (Chandos : CHAN 9245)
Richard Hickox (cond) Della Jones (msp) Alan Opie (btn) John Shirley-Quirk (bass) Northern Sinfonia
通俗的ながら躍動感溢れるリズムと斬新な和声感覚で,イギリス版シュミットとでも形容したくなるような作品を沢山書いたウォルトンは,生涯に2つのオペラ作品を遺しました。これはその2作目にあたるオペラ。1980年代にシャンドスが大々的に行ったウォルトン連続録音中の一枚で,名匠ヒコックスが指揮を担当しております。舞台作品であるオペラは視覚的な情報に依存するところがあり,小生はあまり好んでCDを買ったことがありません。このCDも場末の中古屋で800円でなければ,手にすら取らなかったかも。しかし,聴いてみて吃驚。この盤,恐ろしく演奏が好い。ヒコックスの伴奏は小管弦楽だけですが,これが素晴らしい。生命力に富み,抜群の統率力で,一糸乱れぬ響きとはこういうのを言うのでしょう。ソロイスト陣の出来も最高で,特にデラ・ジョーンズは,マルタン盤のブリジット・バレーズや,ラヴェル盤のジル・ゴメスに肩を並べる出色の出来映えと言って宜しいと思います。全く聴いたことがなかったこの作品ですが,小生は早くもこの一枚で,この作品は解脱いたしました。オペラが散漫に聞こえたりしないという方なら,これぞ甲種大推薦盤です。

★★★★☆
"Christopher Columbus / Songs after Edith Sitwell / Anon in Love / A Song for the Lord Mayor's Table / The Twelve" (Chandos : CHAN 8824)
Richard Hickox (cond) Jill Gomez (sop) Linda Finnie (msp) Martyn Hill (tnr) City of London Sinfonia : The Westminster Singers
コロンブスの新大陸発見450周年を記念して委嘱された『コロンブス組曲』を始め,既に余所で発表された作品の編曲ものなどから構成された再編曲作品を中心とするこの盤は,ウォルトンの色彩音楽家としての魅力と,そのルーツである合唱曲の両方が味わえるお薦め作品。ヒコックス/ロンドン市立響はアイアランドの録音でその相性の良さが立証済み。ラヴェルの『ステファヌ・マラルメの3つの詩』で怪唱を披露したジル・ゴメスも加わって華を添えます。全体に短い作品が多く,初めて彼を聴くという方にも,取っつきやすい一枚なのでは。

★★★★☆
"Choral Works :
A Litany / Missa Brevis / Chichester Service" (Nimbus : NI 5364)

Stephen Darlington (dir) Christ Church Cathedral Choir, Oxford
クラシックでありながら,変拍子を多用したリズミカルな構成を得意にし,臆面もなくバタ臭い和声をてんこ盛りにする。形にこだわらないウォルトンの魅力は,ちょうどあのジョン・ウィリアムスの映画音楽の乗りでも充分愉しめるその平明な分かりやすさにあります。しかし一方では,それがやや通俗的で安っぽく聞こえてしまうのも事実。悪い意味で通俗的なその作風が,行き過ぎることなく高尚なものに留まるのはどういう場合だろうか?・・そうです。題材が高尚な時です。というわけでこのCD,ウォルトンの合唱曲を集めたものです。一見彼の持ち味とは相容れないような気がしますが,彼がもともとオックスフォード聖歌隊で歌を歌っていた経歴の持ち主と知れば,このCDの持つ価値は明らか。宗教曲特有の敬虔な風情が,彼の過剰な通俗性を見事にうち消します。ジョンゲン辺りの作風がお好みなら,これは間違いなく愉しめるものと思います。

★★★★★
"As You Like It / Hamlet" (Naxos : 8.553344)
Michael Sheen (cond) Andrew Penny (narr) RTÉ Concert Orchestra
ナクソスはこのウォルトン・シリーズを含め,最近イギリスものの作家シリーズを進行しており,ブリスやフィンツィ,ホルストなどを続々録音しております。ナクソスに録音しているオーケストラでも,イギリスのオケは概して水準が高く,果たしてこの企画は稀に見る秀逸企画に成長。1999年にグラモフォン・エディターズ・チョイスに十数枚が選定されたほど。何だか聴いたことのないオケなので,最初は手が引っ込みそうになるこの盤も,内容は意外なほど秀逸で驚きました。このCDはウォルトンの映画音楽を採りあげたもの。映画の附帯音楽ということで,あまり期待せずに聴き進みましたが,驚くほど良く書けていて溜飲が下がりました。ウォルトンらしい明晰な様式と躍動感,カラフルな印象主義的和声が横溢。とくに『ハムレット』では,ドビュッシーの『海』を思わせる筆致が見られ,興味深く聴きました。優れた演奏と相俟って,大いに愉しめる一枚と思います。

★★★★☆
"Belshazzar's Feast / Symphony No.1" (EMI : 7243 5 56592 2 4)
Simon Rattle (cond) Thomas Hampson (btn) City of Birmingham Symphony Orchestra and Chorus : Cleveland Orchestra Chorus
今では欧州指揮界の雄にのし上がったラトルが,手兵バーミンガム響を迎えて送るウォルトンの交響曲です。ウォルトンは親しみやすい作品を数多く書いているので,クラシックの作曲家としてはもうひとつ評価が低いようですが,『交響曲第1番』は悲劇的なマイナー調。ウォルトンの作品の中でも特に重厚長大で,作曲者自身も完成までに2年の月日を要した労作。のっけから太鼓の厳かなロールで幕を開けるこの作品,全体に打楽器が効果的に用いられ,ウォルトンの作品の中でも特に激情性が高い。それもそのはず,ベートーベンの作風を意識して作られたものなのだそうです。それが奏功したか,彼の作品では特にクラシックらしい重厚さに富んだ作品と申せましょう。バーミンガム響は,響きの素晴らしいオーケストラなので,演奏レベルは高いです。ただ,往時に比べると,少しきめが粗くなった気がする。もう少しシャープな切れ味と,大きな抑揚が欲しかった気もします。

★★★★
"Walton Conducts Walton :
'Portsmouth Point' Overture / Siesta / Music for Children / Suite - The Quest / Sinfonia Concertante / Scapino - A Comedy Overture / Capriccio Burlesco" (Lyrita :SRCD.224)

William Walton (cond) London Symphony Orchestra : London Philharmonic Orchestra
自作自演集。彼の特徴である躍動感溢れるリズム,カラフルな色彩感とメロディーが溢れた作品集です。彼のように簡明さを旨とした作曲家は,一歩間違うと単なる通俗的な流行作家になりかねません。事実,時に彼の作品はやや安っぽいこともありますが,彼を非凡な作曲家にしているのは,一にも二にもその構成力。また,近い路線のトムソンがまるっきり大衆音楽に堕するのに比して,彼の作品がある種の品位を保っていられるところを見ると,出自がイギリス人であることも幸いしているのでしょう。『子どものための音楽』はややチンケですが,イベールやシュミットを思わせる『審判』などなかなかの聴き応え。比較的聴きやすいものが並び,入門盤として宜しいのではと思います。

★★★★
"Spitfire Prelude and Fugue / Sinfonia Concertante / Variations on a Theme by Hindemith / March for 'A History of the English Speaking Peoples' " (Naxos : 8.553869)
Paul Daniel (cond) Peter Donohoe (p) English Northern Philharmonia
『交響曲第2番』のCDで目の覚めるような快演を聴かせたポール・ダニエル/イギリス北管弦楽団のウォルトンです。1927年版の『協奏的交響曲』は,下にもご紹介するストット/ハンドレー盤の出来が良いので,やや見劣りする感も否めません。しかし,それでも,滅多に聴けない『英語圏の人々の歴史』なる作品が入ってますし,演奏も,ものによってはシャンドス盤並みの満足感は充分得られます。廉価盤であることを考えれば,この演奏水準は驚異的ではないでしょうか。ピアノのピーター・ドノホーは,この他にドビュッシーの前奏曲集の録音も吹き込むなど,近代物を得意としているようで,技巧的にもなかなか良いものをもっております。

★★★★
"The Winds / Tritons / Beatriz's Song / Under the Greenwood Tree / Three Façade Settings / Anon in Love / A Song for the Lord mayor's Table / Three Façade Settings" (Collins : 14932)
Felicity Lott (sop) Martyn Hill (tnr) Craig Ogden (g) Graham Johnson (p)
本盤はヴォーン・ウィリアムスを採り上げた【英国歌曲シリーズ第1集】に続いて制作された第2弾で,珍しいウォルトンの歌曲を集めたCDです。そういえば,山のように録音のあるウォルトンに,なぜか歌曲集をお見かけすることは滅多にありませんでした。本盤を聴いた感想は「ああ,やっぱりなあ・・」でしょうか。同じ英国近代で歌曲を得意に出来た人というのは,みな旋律線の流麗な旋律線をお持ちです。しかしながら,ウォルトンは彼らとは異なり,旋律よりリズムや和声を強調し,庶民的な分かり易さで聴かせるのが持ち味。良い意味で下世話さが抜けず,ジャズ的でバタ臭い彼の作風は,やたら跳躍やスタッカートが多く,戯画的です。音が膨らまないピアノ伴奏の響きで物足りなくなるのは仕方ないことで,そもそもこのフォーマットに不向きなのでは。同じく管弦楽版があるにもかかわらず,ラヴェルやショーソンの歌曲がピアノ版でもすんなり聴けるのを考えれば,これが作曲者の側にある問題なのは明らか。山のように曲を残したウォルトンが,どういうわけか歌曲に限っては滅多に書かず,おまけに殆どが管弦楽でも演奏できるよう仕立ててあるのを見れば一目瞭然。作曲家自身も,かなり自覚はしていたのではないでしょうか。歌を担当したマーティン・ヒルとグラハム・ジョンソンは,ハイペリオンを拠点にイギリス近代の歌曲を大量に吹き込んでいる名コンビ。ソプラノのロットともども大物だけに,演奏は安心して聴けるレベルに到達しています。ただ,やっぱりネタそのものが,どうにも歌いにくそう。ギター伴奏の『無名の愛の歌』なんかは特にキョーレツで,ヘンテコにシンコペーションの利いた曲を前に苦労するマーティン・ヒルさんが,滑稽ですらあります。

★★★★★
"Sinfonia Concertante (Walton) / Piano Concerto (Ireland) / Phantasm for Piano and Orchestra (Bridge)" (Conifer : 74321 15007 2)
Vernon Handley (cond) Kathryn Stott (p) Royal Philharmonic Orchestra
イギリス近代に活躍した3人の演奏家の手によるピアノと管弦楽の協奏的作品を集めた,コンピレーション企画です。キャサリン・ストットは日本ではあまり有名ではありませんが,アルゲリッチのようなピアニズムでバリバリ弾くタイプ。以前ヨーヨー・マが来日して某深夜のニュース番組に出演した際に伴奏者を務めていたのが印象的です。指揮のハンドレーは数多いイギリス近代物の吹き込みを残している重鎮。この曲はナクソスにも録音がありますが,演奏の完成度は段違い。優美な弦と,明晰なピアノ。オールスター・キャスト的な演奏で文句なしです。ラヴェルのピアノ協奏曲から,アメリカ受けを狙ったキッチュさを少し削ったような作風は(些かリズムが英国紳士の横好き的な白々しさを感じさせる面もあるとはいえ)分かりやすく明快。併録された2編も良い。アイアランドのコンチェルトは,ウォルトンよりもさらに高完成度なラヴェリアン流儀の名品ですし,日和見的な作風だったブリッジの『幻影』は,この作曲家としては驚くほど先鋭的。どこかデュティーユを彷彿させる緊張感を備えていて,溜飲を下げます。いずれも競合盤ば少ない上,あっても演奏いまいちなので,ご興味のある方はぜひお探しになってみてください。

★★★★
"Concerto for Violin and Orchestra / Sonata for Violin and Orchestra / Two Pieces" (Chandos : 9073)
Jan Latham-Koenig (cond) Lydia Mordkovitch (vln) The London Philharmonic
ここに収められたソナタと小品は器楽版を編曲したもので,それでも1992年のこのCDで漸く世界初録音。シュミットとジョン・ウィリアムスを足したような和声は,本家より分厚くマスネ的な官能美があり,やはり作曲者とは異質なものです(クリス・パーマー氏編曲)。硬いこと考えない私は「E.T.」彷彿のこのアレンジ,充分楽しめました。演奏もこちらのほうが良いです。いっぽうウォルトン中でも屈指の人気曲『協奏曲』のほうはマイナー調の哀しげな節回しと激情性を持ち,通俗的な彼の中では『交響曲1番』と並ぶ重厚長大型の作品。ケルト風の厳しい佇まいと,甘美な間奏が程良く表情を与え,モーランを意識した感がありあり。彼の管弦楽などお好きな方はお気に召すこと請け合いです。ただ難を挙げるとすれば演奏。ロシア出身の独奏者はそのモーランも録音しており,シャンドスに可愛がられているんですが,ロン=ティボーとキエフ若年の両国際の入賞くらいしか実績のない彼女がどうしてこう重用されるのか,正直言って理由が良く分かりません。音色は痩せているうえ,速いパッセージになると途端に運指が硬くなってしまい,そのためフレーズが死んでしまう。試験課題曲を機械的にこなしている如く,愛が感じられない。そのくせ変な具合にお仕着せのベントは掛けるので,それがピッチの甘さに聞こえて更に興ざめ悪循環。もっと良い演奏するヴァイオリン奏者は沢山いると思うんですけどねえ。なんで?

★★★☆
"Piano Quartet / Violin Sonata / Five Bagatelles" (EMI : CDC 5 55404 2)
Janice Graham (vln) Paul Silverthorne (vla) Moray Welsh (vc) Israela Margalit (p) John Alley (p) Tom Kerstens (g)
ウォルトンは再三申し上げているように,旋律美よりは和声美で聴かせるタイプの作曲家。いきおい,彼の遺した作品は大きな編成のものが中心で,器楽や室内楽は数も少なく,大編成作品に比べるとやや見劣りがしてしまいます。ちょうど,ギョーム・ルクーあたりに似た激情性をもつこの器楽作品集も,やはりルクーに比べると旋律美の点で大きく水をあけられてしまう。特に『ヴァイオリン・ソナタ』は,上記シャンドス盤で管弦楽への編曲版があり,比べることができる分落差もロコツに感じざるを得ません。音色がどうしても痩せてしまう小編成だと,変拍子やメカニカルなパッセージの多いウォルトンの曲は神経質になってしまい,そこにメリハリを与える筈の官能性を失ってしまうように思います。これはフランスにおいて似たような作風を展開したフロラン・シュミットを想起していただくと具合が良い。バーバリストと目される彼も,実はマスネーの弟子であり,激情の合間にふくよかな官能性を含ませることで,陰影を掘り出す技に長けていました。ウォルトンにも同じ事が言えるでしょう。こちらにご紹介するのはそんな室内楽の数少ない吹き込み作品。メンバーはロンドン交響楽団の団員で構成されており,決定版と言っても良いのではないでしょうか。