
![]()
![]()
渋谷駅。
人ごみの溢れるその場所で、生田斗真はある友人を待っていた。
約束時間は正午。
しかし時計は既に十二時半を回っている。
(あ〜おっせーよマジで……)
渋谷駅と言えばジャニーズショップから徒歩五分とかからない場所だ。
彼らのファンの女の子達が「今日会ったらどうする?」とか「山Pサイコー♪」とか好き勝手に
奇声を発しながら通り過ぎてゆく。
その度に気付かれやしないかとハラハラしながらサングラスを押さえる斗真だった。
そして、さっきから気になる事が一つ。
同じく渋谷駅の前…しかも斗真から2mも離れていない場所で、やはり正午から誰かを待って いるらしい
女がいるのだ。
最初はファンかと思ったのだが斗真のほうに視線を向ける様子は無いし、例えファンでも遠慮 したい器量
の持ち主だった。
この三十分、失礼と思いながらも斗真は彼女を見分していた。
歳は十二、三歳くらい。背は低い。髪はロングの茶髪で肩に流れている。
目は小さい方で奥二重。それなりにメイクしてある色白の顔。
季節が夏な為、服装はキャミソールの重ね着に黒のロングスカートにミュール。
見かけ上細くも太くもないように見えるが、芸能界で様々な人間に見慣れて目の肥えている斗真は、この女が
実は少し太っているかな、と推測した。
そして、全体的に見て結論。
『かわいくないし、彼女には向かないかな』
まぁ関係無いけど……と斗真は吐息をついた…刹那。
前方から物凄い勢いで走ってくる少年が一人。
斗真の待ち合わせのお相手……。
(おせーんだよハセジュンっっ!)
思いっきり叫びたいのを堪え、斗真は一歩前へ進み出る。
それと同時に、その女も動き出すのが視界に入った。
そっちもようやく相手が来たんだな、と斗真は思う。
しかし彼女は、あろうことかハセジュンに向かって小さく手を振ったのだ。
ファンの娘がする仕草ではなかった。
ハセジュンもそれに少し照れながらお辞儀をする事で応える。
「ゴメン生田くん!ほんっとゴメン!」
とりあえず斗真の元へ来て謝るハセジュン。
しかし、彼女の方が気になって仕方ない様子だった。
斗真はハセジュンと彼女を交互に見やると、目を瞬かせた。
彼女は斗真と視線が合うと、にっこりと微笑んだ。
ジュニアに対しての露骨な好奇心は欠片もなかった。
「……誰?」
堪り兼ねて斗真はハセジュンに問う。
ハセジュンは「あれぇ、言ってなかったっけ?」と目を丸くしてから、彼女を自分の隣に呼んで、言った。
「那美。春日那美って言うんだ」
「で、どんな関係?」
「彼女だよ」
平然と答えるハセジュンに、那美と呼ばれた女は小さく「バカ」とつっこんだ。
呆然とする斗真を他所に、那美はハセジュンの袖を引いた。
「遅いぞぉ、純」
「うっせぇな。俺が時間にルーズなのは知ってるだろ?」
「うっせぇなじゃねーよボケ。お前が遅れてくるから日焼けしちゃったじゃん!」
「んなの日陰にいりゃあ済む事だろ」
「そういう問題じゃねーっつーの!」
二人のやりとりを見て、斗真はますます唖然とした。
絶対彼女には向かないと思った女がハセジュンの彼女で、しかも那美はロングスカート
に関わらず平気でハセジュンに蹴りを入れている。いや、服装に関わらず女の子が蹴りを いれちゃいけない。
ジャニーズジュニアの人間に対してなら、もっといけない。それ以前の
問題として、言葉使いが悪すぎる。
わーわーと兄弟喧嘩のように騒ぐ二人を引き剥がして、斗真はハセジュンに耳打ちした。
「お前、ホントにアレが彼女なのか?」
「うん」
「だって、お前この前Folder5の奴らと合コン…」
「ばかっ!あんなのデマに決まってんだろーが!だいたいあの話には生田くんだって…っ」
「そうじゃなくても、可愛くないじゃんあいつ。趣味変わったな」
「そんなんじゃないけど…一緒にいると面白いんだって」
「それじゃ彼女じゃなくて友達じゃないのか?」
「違う!彼女なの!」
きっぱりと言い切るハセジュン。
那美の方は分けが分からずきょとんとした表情で二人の方を見ていた。
とりあえず場所を変えようという斗真の意見で、三人は歩き出した。 .
「ふぅん。よくここに来るんだ?」
やって来たのは静かな喫茶店。
隣席の那美の問いに、ハセジュンは「うん」と元気よく答えた。
実際この喫茶店は口が堅く、ジュニアの人達がよく来る場所で、それに喫茶店と言うのは名ばかりで、
現実にはファーストフードに近いものだった。
客は斗真達の他いなかった。
斗真とハセジュンはアイスコーヒー、那美はアイスティーを注文した。
「……あ、まだ紹介してなかったよな。コイツの事」
ハセジュンが向かい側に座った斗真を指差しながら言う。
紹介しなくても知ってるだろうと斗真は眉を顰めたが、形だけはと喋りだした。
「生田斗真。高校一年生で、コイツと同じジュニア」
「私は、春日那美。呼ぶ時は春日でいいから。 県立高校一年生」
最後の那美の言葉に、斗真は大きく「えぇえ??」と声を上げた。
…絶対中学生だと思っていた。下手したら小学生かな、とも。
同い年とは夢にも思わなかった。
しかも、自分と同い年と言う事は……・。
(ハセジュンから見たら、年上?)
斗真は眉間を押さえた。
「どうしたの?」
「いや……」
那美は小首を傾げながら、運ばれてきたアイスティーにミルクを入れる。
左手に薬指にはめられたシルバーのリングが光る。
「ね、純。今日の仕事って何時からなの?」
「えっと、六時からだったと思う」
「そっかぁ。私もそれくらいに帰るから丁度いいかな」
「春日……さんってどこ住んでるの?」
「春日でいいって言ってんじゃん。
恥ずかしいんだけど、茨城…って言ってもほとんど千葉なんだけどね」
那美はそう言って「田舎娘なんだよね〜」と微笑んだ。
それを聞いて、斗真はますます分からなくなる。
那美がどうやってハセジュンの彼女になったのかを。
ジュニアで彼女持ちの奴は少なくない。
しかしそのほとんどが学校の同級生だったり、自宅近辺の人間という事が多いのだ。
ハセジュンは都内の人間だし、彼女とは歳が違う。
ナンパなんかは絶対にしない奴だし、ジュニア相手に逆ナンする奴もいないだろう。
それから少し話をして、斗真は二人と別れた。
本当なら彼とこれから一緒に買い物する予定だったのに。
待っていたのは無意味だったなと、斗真は項垂れた。
「……那美とは友達の紹介で知り合ったんだ」
その日の仕事…テレビ収録の休憩時間、ハセジュンが唐突に語り始めた。
「やっぱ、合コンか」
「ちーがーうったらぁ。何でいっつもそっち方向に持ってくの?」
「お前がそーゆー奴だから」
「デマを俺に重ねないの!生田くん超ムカツク〜」
プイとそっぽをむくハセジュンが面白くて、斗真はしばらくからかっていた。
「…で、なんで知り合ったんだって?」
「だからね、俺の友達が生田くんと同い年でね、それで『俺の友達連れてくるから』って急に 言われて、
行ったら…男子が二人いて……」
「男子が二人?あいつは?」
「……」
ハセジュンはいくらか話しにくそうに顔をしかめると、吐息をついた。
「男装…してたんだよ」
「は?」
「女の子だとファンの子が怖いからって。
なら来るなってカンジだったんだけど、自分もジュニアのファンだしとか言ってたからな」
「ジュニアファン?あんなに落ち着いてたのにか?」
斗真は喫茶店で話した時の那美の様子を思い浮かべる。
どう考えたって、自分の事を「彼氏の友達」くらいにしか見ていなかった。
普通のジュニアファンの女の子なら、「握手してください」くらいは言うだろう。
「斗真くんのファンだって言ってた」
「お、オレぇ?」
「うん。四年近くだって」
呑気に呟くハセジュンは、疑うという事を知らないのかもしれない。
仮にその話が本当だとして、普通付き合うか?
利用されているという考えは思いつかなかったのか?
「『かわいくてスタイルのいい子が好きー♪』…なんじゃなかったのかよ」
「え?俺そんなこと言ったっけぇ?」
そしらぬフリで言うハセジュン。
そこで丁度休憩時間が終わって、二人はそれぞれの場所にスタンバイした。
それから、季節は巡り秋となった。
もうすぐ秋の三大ドームコンサート。
ジュニアはリハーサルだ宣伝だと大忙しで、寝る暇もないほどだった。
そして迎えた東京ドームコンサート初日。
控え室に続々と集まるジュニアの中に、当然斗真とハセジュンもいた。
斗真は持ってきたミニペットボトルに口をつけながら、ふとあの夏の日を思い出した。
「な、今日って春日来るの?」
すぐ近くにいたハセジュンに問う。
それ以前に、付き合いが続いているのかすら謎だったのだが。
だが斗真の不安を他所に、ハセジュンは笑顔で答えた。
「あたりまえじゃん!最前列とってあげたんだぁ☆ ここにも呼んでおいた」
「呼んだ……って?」
「だから、ここにも顔出すように言っといたの」
ハセジュンがそう言った途端、楽屋の入り口辺りが騒がしくなった。
ドアの外に、立っている女が一人。
赤のTシャツにカーキのパーカー、デニムのリメイクミニスカートから伸びる少し太めの足。
コ ンバースのハイカットのスニーカー。
紺の帽子を目深にかぶっているが、それは間違いなく春日那美だった。
ドアを開けて予想以上の男子がいたのに驚いたのか、那美はしばらく立ち尽くしていた。
が、 ハセジュンの姿を見つけると一直線にこちらへ走ってきた。
「…久しぶり、純」
「うん」
言葉を交わす二人を、沢山の好奇の目が舐めるように凝視している。
斗真は「外に出た方がいい」と、二人を廊下に連れ出した。
「……で、なんで俺が相手してやらにゃならんのだ?」
「さぁ。あの子も忙しいんでしょ」
数分後、斗真は那美を預かるハメになった。
何やら緊急の呼び出しだとかで、ハセジュンが宮城俊太に連れて行かれてしまったのだ。
斗真は困り果てて那美を見やった。
那美はきょとんとした表情で斗真を見返す。
「……どうしてハセジュンと付き合うことになったんだ?」
斗真の考えついた話題なんてこれくらいだった。
那美は少し考えてから、喋りだした。
「最初はね、ジュニアの子と会えるってだけで会ったんだよ。
ホント一期一会って思って、でも色々怖いから男の子って事で……でも、すぐばれちゃったんだな。
で、その日の内にたっくさん喋ったんだ。どうせ二度と会わないからって」
「俺のファンだって事も?」
「うん」
目の前にその彼が居るにもかかわらず、那美はあびれずに答える。
「それ言ったらね、ちょっと不満そうな顔してた。
今思えば、妬いてたんだろうな。自分に会いに来たのに、他の、しかも友達の子が好きだって言うんだから」
「で?」
「…ケータイの番号こっちから一方的に教えて、それから…向こうから」
「付き合ってくれって?」
那美は顔を赤らめて頷いた。
斗真は那美の話が信じられなかった。
あのハセジュンから?
しかし、嘘ではなさそうである。
「でもさ、普通信じられないよね。私みたいなのがいいのかーってめっちゃ不思議だった。
それ以前に、私は斗真を好きだって言ったはずなのにさ。
でも、なんか可愛くなっちゃって、OKしちゃった」
「しちゃった…って」
随分偉そうな言い方だな、と斗真は呆れる。
「斗真の事はジュニアとして好きなんだなって、その時初めて気付いたよ」
「ハセジュンは?」
「ペット(笑)」
おかしそうに笑って、那美は「冗談☆」と舌を出す。
「可愛いんだもん。実際年下だけど……いっぱい怖い思いしたけど、私も好きになってたし」
那美はそう言って、パーカーの袖を捲り上げた。
そこにあったのは、夏には全くなかった刃物によるの無数の傷跡だった。
鮮血を滲ませているものも少なくない。
他者による嫉妬の形。
見ているだけで、こちらまで痛くなってしまうほどのものだった。
那美の小さな目が一瞬暗い影に覆われる。
しかし、次の瞬間には明るい光を帯びた視線が斗真に向けられていた。
「でも、仕方ないんだよ。 私の方が年上だし、我慢しなきゃいけない事思ったよりいっぱいあるし、純も、
色々苦し いみたいだしね。私の体につく傷で済むんなら、安いもんだよ」
斗真は、那美の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
那美は反射的にビクッと竦みあがったが、やがて斗真を見上げる。
「ハセジュンは幸せだな」
「……え?」
「ハセジュン、根はいい奴だから」
「……ありがとう」
「ごっめーん那美!」
ようやく来たハセジュンを、那美は「おっせーよ!」と乱暴に突き放す。
しかし、その表情は嬉々としていた。
「聞いてよ!出番増えたんだぜ。しかも二曲!」
「ホント?私の席の方に来る?」
「多分な。衣装合わせんのに時間かかっちって」
「ま、がんばんなさい☆」
走ってきたせいで乱れた髪を整えてやりながら、那美は言った。
斗真は二人に気付かれないようにそっとその場を去る。
(人って外見じゃないもんなのかも)
那美の一途な気持ちや、ハセジュンの幸せそうな表情を見てしまって、そう思わずにはい られない斗真である。
(俺にはそんな余裕ないって……)
斗真は自身が出した結論に溜息を吐いた。
END
![]()
![]()
読んでくださってありがとうございます☆
普段くら〜いもの(←Boy‘sラヴetc…)ばっか書いてる恋優(れんゆう)高校一年生です。
初めて書いたよ!こんな明るい女の子出演の小説(笑)
何やらほのぼのしております(爆)。
私自身は斗真ちゃんファンですが、ハセジュンも嫌いではないのでまずこういうのもいいかなと。
感想お待ちしています。Ren-dipper@jp-t.ne.jpにも待ってます☆ by 恋優