いつの日か「イイ奴だったな」と言われたいです (92年) 

吉井和哉


インタビュー=市川哲史

▼現時点で、イエローモンキーって周りにどういうバンドだと捉えられてると思います? 
 「いいバンドだと思われてると思います(笑)」

▼いいバンドって?

 
「凄く音楽や歌詞を大切にしてとか皆言ってくれるんですけど。罠にハマったなお前ら、みたいな(笑)」

▼そもそも自分がイエローモンキーで演りたいと思ってるものはどういうもんなんですかね。

 
「本当にパロディ精神だけかもしれないですよね。ちょうどグラムロック時代にあったようなパロディ精神。
 ※誰かさんが“マイ・ウェイ”のコード進行で何とかを唄ってみたりとか、そういう紙一重のギャグとかね。あとは腹い
 せみたいなもん」

         
<※エロちゃんのワンポイント  誰かさん=デヴィッド・ボウイ  唄った何とか=Life on Mars?>

▼例えばラヴミサイルとかだとどう見ても、「あははは、馬鹿〜。阿呆」ってノリで捉えられるじゃないですか。ところが
イエモンの場合は結構皆シリアスに受け止めてるように見えるんですけど。

 
「楽しいなぁ、何か悪徳商売が成功した、みたいに(笑)

▼でも実際イエローモンキー全編に漂う変な空気って、吉井の自虐的な部分だと思うんだよね。そのパロディ指向もそ
うだけどさ。

 
「何かそうですよね。僕って何か知らないけど妙に痛めつけますね、変な風に。子供の頃は絵の具で血そっくりな色
 をつけてみたりとか、親に何か買ってもらえないと壁を殴って手を血だらけにしたりとか、そういう・・・・幼児体験――
 ―親が働いてたから相手にして 貰いたいっていう寂しがり屋なんじゃないですかね」


▼単なる我儘という気もしなくもないですが(笑)。
 
「たまにエマちゃんに『お兄ちゃ〜ん』とかって行くと毛嫌いされますよ(笑)。兄弟居ないのお、みたいな」

▼(笑)そういうものの積み重ねが今のイエローモンキーの根底にはなってるわけですな。
 「そうですね。ウチのメンバーは母性愛とか父性愛に凄い恵まれた人達で、その母性愛、父性愛に包まれた男の子
 達がバックで演ってて、そういうのが何もない男が唄ってるっていう。そういうシチュエーションは見えますね」

▼そういう境遇で唄ってる自分の姿を自分で可哀相と思ってたりするだろ。
 
「うん、そうですね、『可哀相・・・・いいやあっ』って石を蹴る、みたいな(笑)。兄弟チームの親がちゃんづけで呼んだ
 りすると 『羨ましいぞぉ』とか思う(笑)。僕は兄弟も父親も居ない暗い世界なんで、タイガーマスクみたいな(笑)」

▼そんなにずっと寂しかったんですか?
 
「寂しかったですねえ。そっから凄くイイ形の屈折した子供になっていくんですね」

▼でも屈折と我儘も紙一重なわけじゃん?そこで何か指針が無い事には駄目じゃないですか。それは何だったの。
「ウチの母親っていうのが僕の事を溺愛してたんだけど、父親が亡くなってから人が変わったようになったんですよ―
 ――まあ、生活もあると思うんですけど――――相手にされないし何やっても鬱陶しがられるし。その頃東京から静
 岡に引越したんですよね。僕、東京が凄い好きだったんですよ。凄い陰湿な匂いっていうのをその頃から感じてて。
 だから、静岡がもうとにかく嫌で、テレビは一週間遅れてるだわ『仮面ライダー』は違うだわ、もう大変(笑)。
 鼻水垂らして走ってる奴が本当に居るんですから、1968〜9年で(笑)。
 で、アルファベットの下敷き持ってたんですよ、で横分けで、凄く生意気な人間に見えるんですよ」

▼いかにも東京から来たっていう。
 
「そう。で、東京はジャポニカ学習帳だったんですけど、静岡は信じられない戦後みたいなグレーの表紙のノートで」

▼ああ、左側に黒い縁がついてる(笑)。
 
「(笑)そうそう。『何だこれ?』とか思ってて。で、皆絵も下手なんですよ。『こいつら知能が低いかもしれない』とか
 思ってて(笑)。
 ある女の子にその下敷きをパリンッと割られたんですよ。それで凄いそれがショックで『こんなところ大嫌いだ』と
 思って。
 同窓会でその子に会った時に『昔から好きだったんだよね』とか言われちゃったりして余計にショックで」

 
 
▼「殺す!」みたいな世界だよね(笑)。
 
「ええ。皆学校から家まで走って帰りますしね」

▼(笑)物凄え田舎差別してないか?
 
「僕ね、ドブに入れなかった奴なんですよ。畑とか田んぼでカエル捕まえたりとか出来なかったんですよ。
 皆と遊びたいんだけど出来ないからついていくだけついてってそれを見てて。で、東京の人より田舎の人の方が若
 い頃ってある意味で過激じゃないですか、ピュアな過激って言うんですか?平気で生き物いじめてみたり。
 そういうのを見てて歯がゆいなっていうか、何か凄い何とも言えない・・・・・・・」


▼それが小学校の?

 
「小学校3年生の時」

▼それは大きいね、価値観崩壊だよね。
 
「ええ。で、音楽はやっぱり好きで、東京はハーモニカだったのが静岡ではピアニカに変化して、その頃から音楽に
 は凄い執着があったんで、音楽に関しては静岡の方が進んでるって思った時に、凄いコンプレックスが倍増して嫌だ
 った」

▼その辺全てが価値観の転換ばっかみたいな。さっきの優しいお母さんが急に変わったっていうのも、かなりのアイ
デンティティが挫けそうになりますわな。

 
「そうですね。体質的にそういうのが嫌なくせに好きみたいですね。だから自分の思い込んでる曲の歌詞とかが違う
 ものだったりすると物凄い感動してみたりして」

▼人の見方を裏切ったり逆に自分の意見が裏切られたりとか、そういうドラスティックな変化が異常に好きじゃない?
 「はいはい、好きですね。上手くまとめてくれますね(笑)」

▼それはやっぱり自分が体験した超ドラスティックな変化が結局癖になってるっていう。
 
「そうでしょうね、一生そうなんだろうなっていう」

▼そこでさ、音の作りとか雰囲気は誤解を生むものがありながら、メロディは自体は凄く歌謡曲チックな感じがするん
ですけど、その辺の指向性っていうのはどこから来てるんですか。

 
「ウチの親の仕事の関係で演歌とかのレコードが凄い家にあるんですよね。で、祖母なり母なりが年がら年中かけ
 るわけで、歌詞の意味とか不明な部分もあるけど、『何か陰湿だ』とか『ヒワイだ』とかちょっと思うんですよね。
 で、“心のこり”っていう歌が流行った時がありまして――♪私馬鹿よね〜っていう。あれって凄い演歌だけども、
 『何か嫌いじゃないなこの歌』って思って。
 で、2年位前改めて聴いたんですけど、ゲイリーグリッターなんですよ(笑)。サックスからストリングスの構成から
 コード進行はもうほとんどそうじゃないかっていう。
 結局だから、ある部分を除いてほとんどの曲は本当にオールディーズとかから来てるんだろうっていう。
 ただコブシを回すとか歌詞の内容とかそれだけでいろいろなものに変化するんじゃないかなっていう。
 基本は一緒じゃないですか。“サブジェクティブ・レイトショー”とかもコブシ回して唄えば演歌ですからね」

▼そういう言い方をすると自然にって感じだけど、俺見ててそういう部分にプライド持ってると思うんだよ。やっぱりプラ
イド無いとそこ迄演らないと思うのね。そのプライドはどういうものなんでしょうね。

 「外人に聴かせて喜んでるわけじゃないんだ、日本人に聴かせててるんだっていう。
 外国で旗揚げたいぜバンドじゃありませんから」

▼もっと言うと、演歌も歌謡曲も素晴らしいんだみたいな。
 「ええ。日本人で歌謡曲に影響受けてない人は居ないと思うんです。それをわかってないで、歌謡曲を馬鹿にしつつ
 も演ってるのは結局歌謡曲じゃないかっていう。いくらアッシドだどうだって外国の格好良いキーをぶつけてもメロディ
 は歌謡曲じゃないですか、循環で綺麗にコードハマってるじゃないですかっていう(笑)。で、これは別に恥ずかしい
 事じゃないんだっていう。僕達はそういう人種なんだから」

▼そうやって歌謡曲を正当化するのはいつ頃からなんですか?
 「バイトで水商売とかやってたりとかして――お客さんが呑みに来てカラオケを唄うわけですよね。唄い易い歌だとか
 今の心境の歌だとか、その時々選ぶ曲に何とは言えないけど凄い共通したものがあるんです。で、気持ち良さそう
 に唄ってるお客さんを見てて自分も気持ちがいいと思った時があったんですね。
 『あっ、日本人なんだ』って思っちゃって。『酒が美味い!』みたいな(笑)で、そうした時に表面のものは除外して見
 るようになって、凄いいいもんだなっていう。その時からじゃないですかね」

▼でも日本人とか歌謡曲とかいったものが本当に心から優れてるんだと思ってるのか、やっぱり多少の被害意識が
あってそれの裏返しの開き直りなのか、どうなんでしょう。

 「んー、ただまあ、純粋に幼児期の頃は身体がデカくてスタイルが良くて長髪で鼻の高い人が人間とは思えないよう
 な声を出して唄ってたりすると『凄いなあ』っていう、そういう憧れはありましたね。もうどう考えてもこの人と俺達は違
 うんだっていう(笑)」

▼日本人コンプレックスなんだか外人コンプレックスなんだか、よく訳のわからない気がするんだけれども。
 「優柔不断なんだろうな。『この時は外人だあ、日本を否定しろぉ!』みたいな、そういうのがポンポンって出てくるん
 ですよ(笑)」

▼ていうか、どっちとも取れるように上手く曖昧な立場に居る、っていう気もしなくはないですが。バンドの評価も格好
良いと言われても大丈夫だし、「これは歌謡曲だよね」って言われても大丈夫だしみたいなさ。二つの選択肢を常に持
ってるじゃん。

 「卑怯ですね。昔女の子とかに、『あなたは優しいんだか冷たいんだかわからないわ』って言われた事もあるんです
 けど」

▼そういうもんか?(笑)
 「でもいつか本質っていうんですか?本当はこいつはこうだったって思われる日が来たら凄い、どんなに幸せだろうっ
 て思う時もある。『嫌な奴だと思ってたけど本当はいい奴だった、仲間だもんな』みたいな・・・・・演歌野郎ですかね、
 何かね、質がね(笑)」

▼でも一旦格好良いと思われたらさ、そのまま格好良いままで済んだ方がいいじゃん、普通に考えればさ。
 「そうやって時が過ぎてったらいいと思います(笑)」

▼だからどっちなんだよ(笑)。
 「(笑)・・・・・本当にどっちでもいいんですけどね」

▼二の線にも拘らず三の線も生かしておきたいみたいなさ。
 「ただ一つだけ言える事は、これは凄いしたたかな事かもしれないですね、もしかしたら。
 やっぱりどうしても独り善がりだと成り立たないっていうのがあるんで。『俺はジム・モリソンだあ』とか言って酒だあ
 何だあって今日のインタビューにも来ないとか。
 そうやって何年か演ってれば相手にされなくなるでしょう?そうするとおじさんになってもただひたすら演ってるような
 孤独なロッカーになっちゃうから」

▼いつまでも相手にされたいと。
 「相手にされたい」

▼二の線に転がろうが三の線に転がろうが、どんな形でもいいから相手にされていたいって事だな。
 「そうでしょうね。本当に寂しがり屋だから(笑)」

▼日本人のメロディとかさ、歌謡なんだから誰でもわかるはずだっていうのは、実は凄く、そういう意味では最大公約
数的なものを狙ってる、みたいなさ。

 「マーク・ボランは凄くナチュラルに演ってると思うんですよね、片やデヴィッド・ボウイっていうのは凄くやっぱそうい
 う人だと思うんですよ。僕はそっちの方が面白いっていう。笑えるし」

▼天然物よりも自分で必死こいて演る養殖みたいな。
 「そうそうそう(笑)」

▼養殖組ですか。
 「養殖組です」 ●