紫の記念日 1
  (96年)

吉井和哉 & 美輪明宏 


21歳の時に美輪明宏の自伝『紫の履歴書』を読み、その生き方と考え方に絶大な感銘を受けたという吉井和哉。
以来“1度は美輪さんと会って話しをしてみたい”と想い続けていた彼にとって、今回はまさに夢の対談である。
しかも場所は自分が尊敬する人の自宅。
若干の緊張を見せながらも、対談は吉井ま意外な話からスタート。そして意外な展開へ・・・・。

吉井 僕、“26歳で死ぬ”って言われた事があるんです。昔・・・・。

美輪 どういうこと?

吉井 子供の頃、家にハンコ占いがやってきてんですよ。“あなたの姓名判断をしますから、縁起のいいハンコを
買いなさいって”っていうあの胡散臭いやつが。で、どうせインチキだろうと思って話を聞いてたら、“あなた
のお父さんは26歳で亡くなってますね”って。
当てられちゃったんですよ。しかも、“あなたも26歳で亡くなります”なんて言うもんだから。子供心に、妙
な気持ちになっちゃいましてね。それ以来、その事がずうっと頭のかたすみにひっかかってて・・・・・。
いざ26歳を迎える前になって、もの凄く恐くなっちゃったんですよ。3年前の夏だったんですけど。
で、丁度その頃、テレビの霊視番組に出る機会があったんで、霊媒師の人に見てもらったんですね。
そうしたら、僕のおばあちゃんが出てきて、“あなたは吉井家最後の男だから、私たちが守るから大丈夫
よ”って言われて。それでちょっとホッとしたんですけど・・・・・。

美輪 不思議ねぇ・・・・。今、お話をうかがいながらあなたを見てたんだけど。大仏様がついてる人って初めて。

吉井 えっ!?大仏様?

美輪 えぇ。普通はお釈迦様とか薬師如来とか・・・・。まぁ、いっぱいあるんだけど。あなたの場合は大日如来。
いわゆる大仏様がついてるの。奈良の大仏とか、あぁいう感じ・・・・。
きっと、何か御縁があるんでしょうね。

吉井 へぇ、そうなんですか・・・・・。で、実はその時期に因縁めいた想いが重なってて・・・・。たとえば、それこ
そ美輪さんの影響で、その頃女装して歌ってたんですけど・・・・。

美輪 完全な女装?それともユニ・セックス?

吉井 最初はユニ・セックスだったんだけど、だんだんその女性になりきろうと思うようになっていって・・・・。
最終的に、そこで僕が演じてる女性は、実は自分のおばあちゃんじゃないかって思い始めたんです。

美輪 それとも、あなた自身の前世だったかもしれないわね。

吉井 あぁ、そうですね・・・・。実はそういう血筋みたいなことも、女装してる時に凄く感じちゃったんですよ。

美輪 血筋っていうと?

吉井 父親が、チョンマゲ役者の旅芸人だったんです。子供の頃は、それが嫌で・・・・。
ロックを始めた頃も、なんで俺の父親はあんなことやってたんだろうって。凄いコンプレックスに感じてたん
だけど。
でも今になって考えると、それが逆にありがたかったんですよね。
昔から、なぜかドーランの匂いのするものに惹かれたり、かぶくことに興味を持ったり・・・・。
すべて、父親から受け継いでるものなんですよ。今やってるロックも、結局そういう形のものに落ち着い
ちゃったし。

美輪 お父さんの持ってたものが、自然とあなたの細胞になってたのね。

吉井 えぇ。で、その、ひょっとしたら自分のおばあちゃんじゃないかと思った女性に、僕はマリーって名前をつけ
てひとつの物語を作ったんですね。戦時中に何かの理由で引き離されてしまった、ジャガーという名前の
兵士とマリーさんのラヴ・ロマンス。
太平洋戦争で戦死したジャガーの魂が現代にタイムスリップして、彼は音楽をやってる。で、結末としては
ジャガーとマリーは1994年のクリスマスに出会って、また2人であの世に行くんだけど。
実は、2人は同一人物だったという・・・・。
そんなストーリーのアルバムを作って、ライヴをやったりとかしてたんです。

美輪 おもしろい話ね。

吉井 ありがとうございます。でもそういう、男であるとか女であるとかっていうものを超えた発想が持てたのも、
もとをただせば「紫の履歴書」に出会ったおかげなんですよ。

美輪 そのお話の時のコンサートでも、まだ女装はしてたの?

吉井 たまに登場はしてました。メインはジャガーっていう兵士の方だったんで。役作りのために、坊主頭に
しちゃってたんです。

美輪 そう・・・・。吉井さんきっと、女装したから逃れられたのかもしれないわね。
“26歳で死ぬ”っていう厄から。

吉井 えっ!? 女装でですか?

美輪 たとえば、よく小さい時にね。男の子に女の子の振袖を着せて女の子として育てるっていう風習があったの。
そうやって女装させると、魔から取られないっていう。だから、今の話を聞いてると、吉井さんもその時にね
吉井さん自身じゃなくなったわけだから。
マリーさんになっちゃったわけでしょ。つまり、その時吉井さんは1回死んじゃったの。
だから魔が取りに来ても、吉井さんはもういないよーって。きっと自分でも知らないうちに、魔から命を逃れ
るために、そういう手段をてっとたんじゃないかしら。

吉井 確かに、凄く衝動的だったんですよね。なんで俺、こんな帽子かぶってドレス着てるんだろうって・・・・。

美輪 それはだから、あなたのおばあちゃんとか血筋とかじゃなくてね。あなた自身の前世が、その女性に生ま
れ変わってたのよ。
もしかしたら吉井さん、前世でフランスの娼婦だったこともあったのかもしれないわね。

吉井 えっー、娼婦ですか!?(笑)

美輪 マリーっていうのは、フランス人の名前でしょ。娼婦にも多い名前よ。
だから、その前世のマリーの物語を、吉井さん、自分で知らないうちに作品にしたのかもしれないわね。

吉井 それって、実はたまに・・・・。一瞬ふと思うことがあるんです。でも、そういうことって実際あるものなんです
かねぇ・・・・。

美輪 もちろん、あるわよ。それと、あなたに女装をさせたのは・・・・。もしかたら、お父さんが守ってくれてるのか
もしれないわね

吉井 そういえば、僕は中学生になるまで、父親の仏壇に手を合わせることをしなかったんですよ。
ただ、毎年8月になると、ケガをするんで・・・・。それも、自分が転落したり、何かが落下してきてっていう
ケガばっかり。
で、父親も8月に死んでるし・・・・。だから26歳になる前の夏が恐かったんだけど・・・・。
ちょっと手くらい合わせてみようかなって思って。そうしたら、だんだんケガするようなこともなくなってきた
んですね。
まぁそういう話って、信じない人は信じないかもしれないけど・・・・。僕はけっこう信じちゃう方なんですよ。

美輪 信じてる方が、本当は進んでるのよ。なぜ、年寄りの人間が信心深くなるかわかる?世の中がわかって
きて見えてきて、理解できるようになってくるからなの。でも、若いうちはまだモノを知らないから、そういう
人たちのことをバカにしちゃうでしょ。
だけど、、バカにする人たちの方が、実は愚かでバカなのよ。いい例が、科学者。
“科学こそ絶対だ。科学で立証できないものは、すべて嘘だ”なんて言ってるけど、科学なんて、生まれて
からしょせん100年か200年のものじゃない。だからエイズだって治せないし、ガンだって治せないし。
それよりも、白髪1本、水虫ひとつ、ハゲひとつなおせないのよ(笑)。それに比べて、人間の歴史はどれく
らい?何万年よ。
まったく、科学なんてナンボのものよねぇ。
それなのに、“科学は万能”だって。まったく。笑わせるじゃないの(笑)。科学者ほど野蛮で無知で、バカ
な人間はいないわ。
だって、なんでもかんでも数字数字で人の心がわからないのよ。ほらたとえば宗教を見てもわかるでしょ。
人間は誰でも、悩みや苦しみと闘いながら、自己を形成していって・・・・。そこで慈悲とか情けとかあたた
かさを獲得していくのに。
アイツらには、そういう人間性の部分が全部欠落してるの。東大の連中とか、裁判官とか、教員とかも、
みんなそう。
エリートと称する人間は確かにモノは知ってるのよ。でも、わかってないのよ。だから、知識と人間性のバ
ランスがとれない、結局は欠落人間なの。まったく、科学者や知識人が偉いなんていうのは、常識の大嘘
よ。