大解説〜映画タイタニック〜3等船室のパーティー

♪まじめな前口上
…初めに,事故で亡くなった犠牲者の人々へ哀悼の意を表します。黙祷。

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ジェイムズ・キャメロン監督の「タイタニック」(1999公開)は日本中で大ヒットし,それまでアイルランドという国があることすら知らなかった人にまで,その国の名前とアメリカへの移民という歴史があることを認識させることになりました。

映画の序盤の終わり頃、ローズがタイタニック号の3等船室へ降りてゆき、ギネスをあおりながら、生まれ育った上流社会とは全く違ったアイルランド人のパーティーにまぎれ込むシーンは、 特に音楽ファンの心に強い印象を与えたようです。

そのおかげでアイリッシュ音楽ブームが加速されたと言ってもいいでしょう。それまで、エンヤとU2に代表されていたかの地の音楽が神秘的・求道的なイメージから解き放たれて、人間臭い豊かな音楽の伝統の存在にまで触れてくる人が多くなりました。

また音楽だけでなく、アイリッシュ・ダンスの話題が出るたびにこのシーンのことが話題になるようになりました。(*1)

その後、あちこちのケルト音楽ファンのサイトや掲示板でよく見かけるようになったのが「タイタニックでアイルランドの音楽やダンスに興味を持ちましたあ。」 という話題。「タイタニックで演奏していた曲を教えてください。or 楽譜ありませんか?」とか「あのダンスを踊ってみたいですぅ。」とか。<それはないぞ、おい。(笑)


(*1)伝統的な音楽としてチーフテンズ、アイリッシュ・ダンスのショー的発展形としてのリヴァーダンスについては、ここではあえて触れないようにしています。

♪シーンの流れ

映画開始後1:05〜
  • 威勢のよいバウロン(*2)からイーリアン・ パイプス(*3)が高鳴り、喧騒の中でさまざまな年齢層の男女が踊っている。
    ディカプリオは小さな女の子と踊っている。(*4)
  •  
  • 2曲目。
    ジャックはローズを誘い踊りの中へ。
    1:08頃上流階級の殿方達のつまらない議論のインサート・ カット。
    二人はワルツ・ホールド(*5)でぐるぐる。その後両手指ずもうホールド(*6)で回転。一人称視点のカメラ。

  • 3曲目。
    腕相撲を見てローズもつま先立ちで力自慢。

  • 4曲目。踊りながらどんどん手をつないでサークル(*7)になって走り回る。

(*2)(*3) 楽器の項参照。
(*4)男性が女性を片手でクルクル回すのはあることはありますが、こんなに引き寄せたりすることはないのではない?
(*5)セットダンスの基本ポーズ。
(*6)ケーリーダンスでの手の組み方のひとつ。でもスウィングはしないぞ!
(*7)みんなで手をつないで輪を作ること。ここではサークルというよりスネーク(蛇)だね。

  • このカップルに注目!

    男性が右で女性が左で踊っているカップルがいる。 (つまり完全に鏡像状態ね)
    このカップルはこのシーンの影の主役である。
    何しろ台詞もある。 どんなんかというと、

    男「こ、ここに手を置くよ。」

    いったいなんのこっちゃ?と思った男性はすぐにセットダンスの講習会の門をたたくべし。 カップルで踊る基本の姿勢を習えば納得してもらえるはずである。

    とりあえず社交ダンスの基本姿勢を思い出してもらえればいいが、男性は左手を女性の右手と握り合わせ、右手を女性の左肩甲骨の下部付近に当てるのである。

    この青年、彼女の腰の上あたりに手を添えたかったようですな。 (爆) そんな純朴な気持ちをうまく伝える練られた台詞であります。
    それに比べてジャックと来たら…。

    このカップルが影の主役である理由その2。
    出番が長い
    なんとこのカップル、観客がジャックとローズに目を取られている隙に、前や後ろを横切るは、後ろのステージに上がって、ひじとひざをからめスウィングはするは、最後にはローズの手を取ってサークルにつなげてしまうのである。
♪演奏されている楽器
  • イーリアン・パイプス(uilleann pipes)
    irish harp と共にアイルランドを代表する楽器。
    いわゆるバグパイプと異なるのはふいごを脇に挟んで腕で空気を送る仕組みであるところ。
    どうやらおしゃべりをしたりギネスを飲んだりするために口元をあけておくため工夫されたという説もある。<信じてはダメよ。(笑)
  • フィドル (fiddle)
    バイオリンとどこが違うんですかとよく聞かれるが、全く同じものである。クラシックのような決まった弾き方がないものはフィドルと呼んでおけばよろしい。かつての差別語、今のスター楽器…と言ったら怒る人がいるかな。
  • フラットマンドリン(flat mandolin)
    洋梨を縦割りにした形のイタリアのマンドリンをさらに薄い平たい形にしたもの。バンジョーと共にアメリカにおいて発展した楽器だそうだ。
    チューニングはフィドルや4弦のテナー・バンジョーと同じなので、さぞたくさんの演奏家がいるだろうと思いきや、アイリッシュ・トラッド界ではほとんどいない楽器である。
  • バウロン(bodhran)
    ボヅラン、ボドランと読むのだけはやめてくださいね。英語読みではボーランと聞こえますがアイルランドではバウローン、ボウロンなどの発音が地域によってあります。館主はバウロン派です。直径4〜50cmの寿司桶のごとき片面太鼓です。
  • スプーン(spoons)
    アイリッシュ・トラッドの楽器の中でもっとも安価なもの。あなたのお家にもありますな。 二本の裏を合わせ、握りの先で中指をはさむように握って動かします。 ひとたび名人が演奏すれば、誰もが踊り出してしまうリズムが生まれます。


  • 演奏している人達

  • CDの宣伝のせいで全員がゲーリック・ストーム Gaelic Storm というバンドだと勘違いしている人がたくさんいます。中心人物はエリック・リグラーというアメリカでも有数のパイパーです。一緒に演奏している人の中にかのバンドのメンバーがいる,といった程度です。彼ら自身の演奏は,いい意味でアマチュア味たっぷりの軽さがあって,アイリッシュ・トラッドの演奏でサントラを担当するだけの実力があるとは言いかねます。
♪演奏されている曲
  • 1曲目「The Blarney Pilgrim」
    調子のいい6/8のジグ。ジグは3連符1拍の4拍子に聞こえるので、初心者がいつも混乱するリズムです。

  • 2曲目「John Ryan's Polka」
    テンポの速いポルカの中でも特に印象的かつ人気の高い曲。

  • 3曲目「Kesh Jig」
    このジグも人気のある曲で多くの音源で聞くことができます。

  • 4曲目「Drowsy Maggie」
    4/4のダンスでもっとも多く使われるリール。この曲は他のリールと比べて、ちょっと重い引きずるようなメロディーです。

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♪考証してみます
  • 曲がスピード違反です。
    「え、タイタニックって最近沈んだんだっけ?」と思ったくらい速い演奏。ダンスの音楽を独立させ、凄いスピードで演奏するのが一般的になったのは80年代に入ってからのこと。
    この当時はもっとのんびりしていたはずです。
  • バウロン
    ビーターというばちを鉛筆のように握って手首で叩くようになるのも、かなり最近のこと。3曲目ごろにちらりと長い棒で叩いているところが映りますが、だいたいがそんなカンジで叩いていたと思われます。当時は絶対に、あんな風には使っていなかったでしょう。
  • フラットマンドリン
    はたしてこの時代に使っていたものがいたとは到底考えられないのだが。

  • 曲そのもの
    アメリカ移民が一段落してから作られた曲があるのではという疑いを持っていますが、詳しく調べてないので書けません。ご存知の方に教えていただければ幸いです。

♪いろいろ

…とまあいろいろ書きなぐってしまいましたが、館主、実はこのシーンが大好きで、ビデオは何度も繰り返し見てます。ただ映画館で見た時から気になっていたのが、上に書いた通り、バンドとチューンがあまりにも現代的過ぎるなあ…ということだったんです。

んで、後になって、キャメロン監督の時代考証の徹底ぶり、例えば調度品とかイ・サロニスティの曲とか、を知って「なぜ3等船室のシーンに限って、ずさんな考証になったのか」という疑問が湧いてきたんです。

ダンスの方はジャックが「きちんとしたアイリッシュ・ダンスを覚えていなかった」のだろうし、あの場所にいた人々も同様だろう、うまい人がいたとしても、少なくとも



「故郷を離れ新大陸に渡る期待と不安」でああやって、騒ぐしかなかったろう、とすれば、俳優の演技としてはあれでよかろう、という風に思っています。

あのシーンは、そういう心情や上流階級との対比を明確に見せるためのシーンでもあるので、むちゃくちゃなダンスで全くかまわないんじゃないでしょうかね。

だから、あのシーンで二人のダンスに感動した方も
適当にリズムに乗っていればあれくらいすぐ踊れますって。

そもそもアイルランド人が全員ダンスがうまいなんて、誰がいいだしたんでしょね。
あ、だれもそんなこと言ってないか。(笑)

 

   

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