楽器やコラム 10

渋谷の某店にて(管理人編)

前回、寿庵皆男編でご紹介したお店ですが、最初は私が通販でギターを購入したことからおつきあいが始まりました。
たまたま雑誌広告に掲載されたストラトに興味をひかれたので電話で問い合わせたところ、店主は不在で、店員さんが応対してくれました。 早速、詳細画像を送って頂いて更に状態を電話で確認し、納得できる状態でしたので購入することにしました。
店主は「一度弾いてみてください。絶対納得しますから。」と勧めてくれましたが、 その当時は忙しかったこともあり、多少のリスク覚悟で現物を確認せずに代金を振り込み、ギターを送ってもらう事にしました。 到着したギターを確認すると店主の言っていた通り全く問題無く、安心しました。

それから数ヶ月がたち、別件でお店に電話したら珍しく店主が電話に出ました。店主と話をしていると、最近入荷したばかりのストラトがあるとのこと。 またまた画像を送ってもらうようお願いしたところ、

店主「お恥ずかしい話ですが実は店員が辞めちゃってね〜。バタバタしているからちょっと 時間がかかるかもしれないけどちゃんと送りますよ。」と少し照れくさそうな感じの返答でした。
RS「ああ、それじゃお一人で大変ですね。時間かかっても構いませんのでお願いします。」 とお願いすると意外にも翌日画像が届きました。
電話で尋ねた内容と画像を確認した限りでは非常に状態が良さそうでした。丁度その時期 寿庵氏が東京に行く機会があったので現物を見てきてもらう事にしました。
(この時の内容が前回のコラムに書かれています。)

寿庵氏が確認したところ私の思った通り大変良い状態だったとの報告を受け、物欲が倍増しました。 しかし今回は前回のギターとは金額的にも大きな差があるのでもしも購入する際は、宅配ではなく 自分の手で持ち帰ろうと思い、とりあえずHOLDにして、後日お店に見に行く事にしました。 当日、お店に入ると、例によってロックないでたちですが人当たりの良さそうな店主がにこやかに出迎えてくれました。 ご挨拶と世間話もそこそこにして現物を確認しました。
弾いても問題ないし、中を確認しても完全な100%オリジナルコンディションでした。

店主との会話です。
RS「こんな100%オリジナル状態のギターって少なくなりましたよね〜。出来るだけこの状態を維持してあげないといけないんでしょうね〜。」
店主「いや、所詮楽器ですからね〜。引き倒してなんぼのものでしょう。弾いてれば悪いところも出てきますし、 悪い所は修理するのが当然なんで本来あんまりオリジナルとか関係ないんですよね〜。」
「今はまだオリジナルのギターが残っているからその価値が高いけど、あと30年もたったら 何らかのリペアがされているギターが当たり前になっちゃいますよ。 あのストラディバリウスだって現存しているものは全て何らかのリペアがされているって いうじゃないですか?楽器なんてそんなもんですよ。」
「自分はもともとリペアが本業でね、このへんのビンテージのストラトなんて昔は良く リフィニッシュしてましたよ。バァーと剥離剤をぶっかけてね!わはははっ!!」 という潔いお言葉。
もともとリペアが本業なだけにオリジナルに拘るのではなく、「楽器=道具」という 一貫したポリシーをお持ちのかたのようです。
以前、某誌に掲載されていたコレクター氏はピックアップが断線していてもネックが反っていても
「オリジナルには一切手を触れない」というポリシーで修理はしないそうですが、 この店主とは全く対極にいらっしゃる方ですよね。それぞれプレイヤーと コレクターという異なった立場の頂点を極める、どちらも潔い考え方だと思います。

コレクターでもなくプレイヤーでもなく、[ちゃんと弾ける状態の100%オリジナルギター]を求めている なんとも中途半端なギター好きである私は、やっと見つけたこの理想のギターを このままこのお店に置いていたらどんなひどい事をされるか判らないとの危機感を感じたので 引き取って帰る事を決心しました。
「お金を降ろして来ますので梱包をお願いします。」とお願いしてから銀行に行き、厳重に 梱包されたギターの荷姿を想像しながらお店に戻ってみると、単純にツイードケースに入った だけのストラトがポンとおいてありました。

RS「あの〜、なんか中に詰め物とかしなくて良いのですかね?」と尋ねたら、
店主「あ、そうね、じゃぁクロスを1枚被せましょうかね?」と実にあっさりとした返事でした。
(本当はツイードケースも剥き出しじゃなくて何かで包んでくれると嬉しいんだけど。と思いつつも)

この店主にとっては3桁万円のギターであろうが5万8千円のギターであろうがどちらも
単なる「楽器=道具」でしかない訳ですから全く同じ扱いをするんだろうなぁ〜。 さすがだなぁ!と妙に感心しました。

お金の支払いをしている間に
RS「お一人で接客とリペアとだったら大変でしょう?」と聞いてみると
店主はしみじみとこう語りました。 「いや〜店員雇ってもウチでノウハウだけ吸収して独立して行っちゃうからね〜。 もう人雇うの嫌になっちゃって。常連のお客さんでオヤジの顔が見たいって方も 多いんで人を雇わないで私一人でやることにしました。」との事。
このロックないでたちの店主の顔を見たいと言うお客さんは確かに多いかもしれない・・・? と思いつつも挨拶をして(ここは渋谷だし、オヤジ狩りに遭ったらどうしよう?と心配しながら) ツイードケースを大事に抱えてお店を後にしました。


オヤジ狩りにも遭わずなんとか無事に帰りついた私はそれから一ヶ月ほどして、また上京する機会がありました。
例の店主の顔が見たくなったのでふらりとお店に立ち寄ってみました。
すると若い人に店主が一生懸命何かを教えています。
RS「こんにちは!!あれ?この方はお客さんですか?」と尋ねたら、
店主「いや〜、やっぱり一人で接客と通販とリペアは無理なんで今日からバイトに来て もらったんですよ。」と屈託の無い笑顔で爽やかなお言葉を返されました。 (あれ?もう人は雇わないって言ってたけどなぁ〜。)と思いつつも

RS「そうですよね〜、一人じゃやってられないですよね〜!わははははは!!」
店主「リペアのバックオーダーが溜まっちゃっててねぇ、これ以上お客さん待たせられないんで。あははは!!」 と二人でしみじみと談笑しました。

そんなお客さん思いの店主のキャラクター、私はとても好きです。 (終わり)