楽器やコラム 9

渋谷の某店にて(寿庵皆男編)

そのお店に立ち寄ったのは、もともと知人Rさんからの、 「自分の狙っているギターを見て来てくれ」との依頼を受けて行って見たのが最初でした。
渋谷の駅からしばらく歩き漸くお店を見つけて入ってみました。
すると大学時代の私のような長髪に髭というロックなお姿(世間一般ではむさくる しいとも言う)の店主が「いらっしゃい」と人懐っこく微笑みかけて来たので、 「Rさんに頼まれてこのストラトを見に来たんですけど」と声を掛けました。
店主は益々愛想良く「ああ、どうぞどうぞ。チューナーはこれ、アンプはこれを使って下さいな」 と直ぐに試奏の用意をしてくれました。慣れないストロボチューナーに私が半音低くチューニングしていたのに呆れたのでしょう。 「あ、あの〜、僕がチューニングしましょうか?」と言ってくれたのにもかかわらず、「いや自分でします」と頑固な私。 店主は「慣れないと使い難いけど、慣れたらこれが一番合わせ易いんですよ」と私を慰めるかのようにブツブツとつぶやいてました。
やっとチューニングを済ませて、ストラトを持つと最初に指が動くという馬鹿の一つ覚え 「I Looked Away」のイントロを振り出しに、普段使っているレスポールでは あんまり弾かないストラトに似合う(?)と勝手に思い込んでいるフレーズを幾つか弾いて見ます。 「ふ〜ん、さすがはストラト。ストラトの音が出るわい。」と妙に感心しつつ、 ニコニコ見ている店主に「PUはオリジナルですか?」とか「バックプレートは?」とか さもストラトの事を知っているかのような質問をすると「全部オリジナルですよ。 全く問題の無いギターですよ〜」とニッコリ。「フレット、ナットは?」の問いにも「オリジナルです」とニッコリ。
店主の飾り気の無い感じの良さにつられて、私も「いや〜、私は本当はレスポール 好きで、ストラトのことなんて全然分らないんですよ。どれも一緒に見えるんです〜」 と言うと店主は「あ〜、そうなんですか。Rさんがストラト好き、貴方がレスポール好きなら便利ですね〜」と言いながら大笑い。
結局そのあと、2〜3本GOLDTOPを弾かせてもらってお店をあとにしたのでした。 その後Rさんにそのストラトのことを報告すると、Rさんは早速お店に電話したそう ですが件の店主は「いや〜寿庵さんって実にファニ〜な方でとても楽しかったです」と喜んでいたそうです。 結局Rさんはそのストラトを購入(私のおかげかどうかは判りませんが、少々値引きしてもらったらしい) したのですが、店主の言うとおり何の問題も無い素晴らしいギターでした。

そんな楽しい最初の出会いでしたが、あるときそのお店の広告を見るとマーシャル50Wヘッドの 70年代初めの1987が格安で出ているでは有りませんか。
早速電話して店主に名を告げるととても喜んでくれましたが、その格安物件は私には奨められないと仰います。 理由を聞くと、かなりゲインアップの改造がされており値段相応にボロで歪しか出ない。 もっと良い70年代初めの1987があるからそっちをお奨めします、とのこと。

早速画像を送ってもらいスモールヘッド好き(ホントは手持ちのボトム1922と幅を揃えたいだけ) の私はその点を確認すると「あ〜、スモールヘッドですよ。」と一言。 ついでに私はマーシャルの50Wが何年からラージヘッドになったのか良く知らなかったので店主に尋ねると76年とのお答え。 なるほどと納得しその他改造箇所を聞いてそれに決め、次の日にお金を振り込んで送ってもらうように電話しました。

しかし翌日何となく気になって送ってくれた画像を見ると、ヘッドの下に少しだけ写っている Aキャビとの幅が一緒のように見えたので不安にかられ念のためと思い店主に電話をしました。 「あの〜、画像に僅かに写っているAキャビと1987がおんなじ幅に見えるんですけど、あれってスモールヘッドなんですよね?」と私。
「え?ラージヘッドですけど」と店主。
・・・・・・・おいおい、スモールヘッドって言ったぢゃないかぁ〜と思いながら、 「え、そうなんですか?僕はスモールヘッドが良いんですけど有りませんか?」と言うと、 「今1台ありますよ。でも改造モノで確かゲインアップしてあるので寿庵さんは気にいらないかも」とのお答え。 そして「でも一応見てみて後で電話します。」とのこと。
なるほど、この店主は凄く良い人だけど、かなりアバウトで好い加減な人なんだぁ〜と思いつつ 「そういえばスモールヘッドって何年までなんですか?」と前とおんなじ事を聞くと「72年までですね」と明快なお答え。 またまた、うそぉ〜あの時は76年と言ったぢゃないかぁ〜!!!と思っていると 「いやぁ〜、こういうことって若いときはちゃんと調べてたんですけど、年取ると忘れちゃうんですよね〜」 とまるでこちらの気持ちを察したかのように続けてくれました。

私は悟りました。この店主は私とおんなじなんだ、と。
歳と血液型を聞くと案の定私と一緒。
そうなんです。悪気は無いけどアバウトで忘れっぽい。大雑把で細かいことは気にならない。

それからはさらに打ち解けて、お互いに最近なった病気(腎臓結石)の話とか老眼の気が出てきたことなどを話し合い、お互いの健康にエールを送りました。
その後直ぐにスモールヘッドについて電話があり、 「いやぁぁぁ〜、久しぶりにこのアンプ、しみじみと鳴らして見ましたけど良い音しますよ。さっきまでストラト突っ込んで音出してたんですけどね。」と店主。
「マーシャル」と「しみじみ」という言葉のアンバランスな響きに思わず魅了されていると、 店主は言葉を続けゲインアップの改造はされてなかったということ、冷却ファン設置、 カスケードしなくても内部でされているということ、マスターVo.の追加などの改造点と 真空管はまだ大丈夫だという点を説明してくれ、こちらも「しみじみ」と購入決定。
会話の中に時折「しみじみ」が出てくるのが彼の特徴のようです。
3日後、届いて音を出そうとするとナンと音が出ない!電話でその旨を言うと修理するので送り返してくれと言う返事。 4,5日してヒューズソケットを修理して音が出るようになって帰ってきました。
でもその数日後にプリ管の一本が死んだ事、さらにその後、内部リンクは実はされていなかった事は店主には言い出せませんでした。

大雑把で好い加減な店主ですが私にはとても他人とは思えません。
これからも何か出物があればきっと直ぐにあの愛すべき店主に電話することでしょう。(終わり)