都会の場末・品川 港南口
(2003年3月16日)

あるいは、「品川 港南口では誰もが”ドナドナ”を聴く」。

現在、品川(特に港南口)は開発ラッシュ。
インターシティと平行した位置にビル群が建設されている真っ最中。今年は新幹線が開通する予定。
変貌しつつある品川。もともと「品川プリンス」とか「御殿山ヒルズ」とか、おしゃれでハイソなイメージもあるかもしれない。

でも、品川は「都会の場末」だった。2003年3月の現在でも、それは変っていない。

これから品川がどのように変っていくかはわからない。表面だけ取り繕って、内実は場末のままなのかもしれない。都会に生まれ変わるのかもしれない。いずれにしても、ちょっと昔の品川について、二・三思い出を語ってみようと思う。結構貴重な記録になるかもしれない。僕は合わせて10年近く港南方面で勤務していた。ちょうどこの4月から勤務地が変り、久々に品川を離れることになる。よい機会だと思う。

僕の品川勤務は91年か92年から、95年3月まで。そして97年4月から2003年3月まで。

品川港南方面。夏には高浜運河の水の腐った臭いに満たされる。インターシティができるまで、近所にはろくに本屋もなかった。路地裏の小さな飲み屋群にはお世話になったが...。

品川の港南口と言えば、まずはあの長い地下道が思い浮かぶ。
品川駅で電車を降り、港南口に出るためには、乗客が必ず通らなければならなかった地下道。最も高輪側の山手線の乗降客をはじめ、京浜東北線・東海道線・横須賀線、すべての乗降客がこの1本の地下道に集中する。利用客の流れは圧倒的に、港南口に向う方が強い。逆に港南口から入ってホームに向う人も当然いる。逆行する人のために通路の端一列を開けるのが一応マナーなのだが、そうは言っても電車が着いて階段からいっせいに利用客が降りて来れば、人波が衝突しあって、殺気立った空間が生まれることになる。ときどき、観光客や外国人などが、もの珍しげにビデオを撮っていた。僕も写真を撮っておけばよかった。思い出したくはないが、貴重な記録になっただろう。
98年に自由通路が開通するまでは、高輪口←→港南口間は、駅構内を通るか、30分かけて迂回しなければならなかった。間違えて港南口に出てしまい、高輪口への行き方を駅員に尋ねていたおば様を目撃したことがある。入場券を買うか、30分かけて歩くか、と言われていて、非常に気の毒に思った記憶がある(思っただけで何もしなかったが)。

あれはいつだったか、台風が上陸する、というので、16時頃帰宅してもよいことになった。例の地下道に入ると、浸水して足首くらいまで水浸しだ。靴をびちょびちょにして歩いた。ホームから地下道に下る階段を、雨水が川のように流れ落ちてきていたのをよく覚えている。どう考えても構造的な欠陥だったと思う。
(関係ないが、北千住の駅で乗り換えようとして、電車を待っていたとき、区役所が「まもなく5時です。お外で遊んでいる良い子はおうちに帰りましょう...」などと放送しているのを聞いて、「こんな台風の中で遊んでいる子供いねーよ」と乗客同士言い合っていた思い出もある)

もう一つは、「東京都中央卸売市場」。

ようするにでっかい屠殺場だ。

近辺には独特のにおいが立ちこめる。生き物のにおいばかりではない。死のにおい、血のにおいなのだろう。「血の池」があるらしい、という噂を以前から耳にしていた。インターシティができたので二階の位置から見下ろせるようになったが、確かに、それらしき色の液体の溜まり場が見える。
旧海岸通からは、牛の肉なのだろう、でっかい赤肉がたくさん吊るされているところが見えた。
肉をカラスにつつかれないように、わざわざ廃肉を毎朝まいているらしく、朝は廃肉を求めるカラスが上空を群れ飛んでいる中を通勤したものだ。当時から比べれば最近カラスは減ったが、それでもビル風の中を飛びまわるカラスや、上昇気流に乗ってとぶトンビを日常的に目にすることができる。
港南方面で生活していれば、必ず目にするのは、トラックで運送されてくる牛や豚。その牛や豚の悲しそうな目から目をそらし、吹きっさらしの中を歩いていく、のが日常的な通勤風景だった。

港南口通勤者なら、必ず心に「ドナドナ」を聴いたことがあるはずだ。

今でも、風向きからなのか、時々インターシティの入り口付近で、独特のにおいをかぐことがある。

その東京都中央卸売市場も、近代化される、という話は聞いたことがある。どのようになるのかはわからない。においは外に漏れなくなるのかもしれない。でも牛や豚が搬入されていくことには変わりないだろう。もちろんそれは、人が肉を食べるためには必要なことだ。肉を食べる、ということは生き物を食べる、ということ。そんな当たり前のことは、こういう風景を見なければなかなか気がつかないことだろう。

ここら辺が、「都会の場末」品川・港南口の印象的な風景だ。