1.クロス馬の指定のルール

 クロス馬とは、繰り返し述べてきたように、「父方と母方の双方に共通して存在する祖先」のことにほかなりません。そして、父方か、母方のどちらか片方にだけ存在するのでは、たとえそれが何回出現しても、クロス馬として扱うことはありません。他の血統論では、「父方インブリード」とか、「母方インブリード」というようなとらえかたもあるようですが、I理論では、そういう考えかたはいっさいしません。 
 また、ある馬がクロス馬になると、当然のことながらその父母・祖父母、曾祖父母なども、父方と母方で共通になりますが、それをそのままクロス馬にするということにはなりません。

 例えば、ビワハヤヒデの分析表を見てみましょう。まず、分析表の構成を簡単に説明しておきますと、上半分は父の血統、下半分は、母の血統を表しています。横軸は、一番左の枠が1代目と2代目、そして、右に向かって順に3〜9代までの祖先を表します。縦軸に目を転じると、一番左の「1・2代」の欄のある、シャルードはビワハヤヒデの父(1代目)で、その上下にあるCaroとAngel Islandは2代目で、シャルードの父と母(=ビワハヤヒデの「父の父」と「母の母」)を表します。同様に、左端下半分の中では、パシフィカスがビワハヤヒデの母で、その上下のNorthern DancerとPacific Princessがパシフィカスの父と母(ビワハヤヒデの「母の父」と「母の母」)を表しています。

 ビワハヤヒデの血統の中では、Mahmoudの血が、父方7代と母方5代にあります。このMahmoudは、「父方と母方に共通して存在する祖先」なのでクロス馬になり、それゆえに、Mahmoudはクロス馬となります。

 しかし、Mahmoudの父であるBlenheimや、その父Blandford、曾祖父Swynfordなども、父母双方に共通する祖先ですが、Mahmoudがクロス馬になったからといって、それらの祖先も自動的にクロス馬になるわけではありません。Mahmoudの父Blenheimは、Mahmoud以外の馬の父親として相手側に存在する場合にのみ、クロス馬になる、というのがI理論のルールです。

ビワハヤヒデの場合には、Mahmoudの父としてのBlenheim以外に、Donatello II、およびMumtaz Begumの父としてのBlenheimが存在するために、Blenheimもクロス馬になります。同様に、Blenheimの父Blandfordも、Blenheimの父として以外に、Bahram、Budruddinなどの父として存在するために、クロス馬となります。さらに、Blandfordの父のSwynfordについても同様のことがいえます。

2.全兄弟(姉妹)の扱いについて

競走馬の場合、母が同じで父が異なる場合を半兄弟(姉妹)馬、父母とも同じ場合を全兄弟(姉妹)馬といいます。代表的な例をあげると、PharosとFairwayは、ともに父がPhalarisで母がScapa Flowなので、PharosとFairwayは全兄弟という関係になります。そして、I理論では、全兄弟(姉妹)馬は「同一の血」(同一の馬)として扱います。
 したがって、PharosとFairwayのように同じ父と同じ母をもつ別の名の馬が、父方と母方に分かれて存在する場合、これらは同一の馬としてとらえるため、クロス馬の扱いになります。ビワハヤヒデの血統でも、PharosとFairwayの全兄弟クロスが存在し、()のマークで表されています。

 ビワハヤヒデの表中にはありませんが、PharamondとSickleなども、全兄弟馬(父Phalaris、母Selene)として、よく血統表中に登場してきます。また、このルールは、牡牝間でも当てはまり、同じ両親(父Galopin、母St.Angela)を持つ
St.SimonとAngelicaのように、兄と妹の間でもクロスが成立します。

3.クロス馬の形態とその遺伝効果

 ビワハヤヒデの分析表では、すでに見たように、Mahmoudの血は、その父系がBlenheim−Blandford−Swynfordというように、何代も連続してクロスになっています。このような形態を、Mahmoudの《系列ぐるみ》のクロスと呼びます。

仮に、Mahmoudの父Blenheimの部分がクロスにならず、続くBlandford−Swynfordがクロスする(あるいはMahmoud−Blenheimクロスし、つぎのBlandfordががクロスせず、その先のSwynfordがクロスする)というように、1世代開いてクロスが続く場合には、Mahmoudの《中間断絶》クロスと呼びます。
また、Mahmoudの父Blenheim、その父Blandfordがクロスとならず、Swynfordがクロスになる場合もあります。このように、クロス馬とクロス馬の間が2世代以上開く場合には、Mahmoudの《単一》クロスと呼びます。

そして、それら3種類のクロス馬の形態を、遺伝の効果、影響力の強弱という点で比較すると、以下のような関係になります。

系列ぐるみのクロス>中間断絶クロス>単一クロス

4.《血の相性》とは何か?

 I理論では、《血の相性》という表現をよく使います。それは、種牡馬と繁殖牝馬との関係、種牡馬とBMS(母の父)との関係、あるいは主導勢力と影響力の強いクロス馬との間の関係などでも使用します。たとえば、「ハヤヒデの父シャルードと母パシフィカスは血の相性がよい」とか、「種牡馬ブライアンズタイムとBMSのNijinskyは、相性がよく、両者のキーホースを完全に押さえることができる」とか、あるいは、「主導勢力のHyperionと影響強力の強いMahmoudとは、
Gainsboroughを通じて近い世代で強固に結合するので相性がよい」といったいいかたをするわけです。

 つまり、《血の相性》とは、ある血統構成と別の血統構成の間で、相乗的あるいは相補的な関係が成り立つことをいいます。相手の長所・特徴を生かすような関係、相手の短所・欠点を補正するような関係にほかなりません。そして、この《血の相性》ということは、まさしくI理論の本質に関わる表現でもあります。
 いうまでもなく、《血の相性》という関係はクロス馬によって成り立ちます。すなわち、両者の間で、相手の長所を生かし、短所を補うようなクロス馬ができるか否かが、《血の相性》がよくなるか、悪くなるかの分かれ目になります。ある種牡馬の長所・特徴を生み出していたクロス馬(キーホース)を生かせないような繁殖牝馬(自分の血統内にその血を持っていないためにクロスさせられない)は、その種牡馬にとっては、相性がよいとはいえません。しかし、その牝馬も、別の種牡馬に対しては、その長所・特徴を生かし、短所・欠点を補うようなクロス馬をつくる関係になる可能性はあります。その場合には、まさに両者の関係は相性がよいことになります。そして、《血の相性》がよいことこそは良血馬の血統構をつくるための大前提であり、まさかく配合の最重要ポイントになるわけです。

 血統の話題になると、「○○の産駒だから、長距離血統」だとか、「○○の仔は成長力がある」といった、きわめて大まかな「傾向」を語るいいかたが、よくされます。父の特徴が、すべての産駒に受け継がれるならば、そういういいかたもできるでしょう。しかし、I理論ではそのような解釈はしません。「サラブレッドの競走能力を伝える遺伝因子」はクロス馬のみであるという立場に立っています。したがって、I理論では、もともとそういう表現はできないのです。なぜなら、同じ父であっても、相手の牝馬の血の内容次第で、産駒の血統内でどの血が生きるか生きないか(クロス馬になるかならないか)は、千差万別であり、いちがいに「○○産駒だから」といういいかたはできないからです。

 たしかに、ある種牡馬の血統構成内に含まれいてる血(祖先)の種類や数、位置などは固定しており、それを変えることは不可能です。
 ちなみに、9代血統表中に登場する1頭の馬には9代までに(実際にはその馬の8代までだが)、510頭の祖先が登場します(重複している馬も多いので、種類はこれよりも少なくなる)。したがって、この種牡馬がクロス馬として生かすことのできる範囲は、この510頭に限定されます。ここに含まれていないかぎり、いかに相手の牝馬側にあっても、クロスになることはできないからです。となると、あらかじめ与えられている血の内容の中で、どれをどう生かせるかということがポイントになってきます。その意味では、種牡馬の産駒に与える「傾向」は、ある程度はあるといえるでしょう。 

また、それは時代の趨勢や、ある特定の血の進展の勢いといったことで左右されることもあります。たとえば、現在リーディングサイアートップの座に君臨するサンデーサイレンス。前記のように、この馬に含まれる血の内容は固定されています。そして、この種牡馬に配合される繁殖牝馬は、多くの場合、Northern Dancerの血を含んでいます。つまり、Northern Dancer系の血の蔓延という時代の趨勢が、その背後にあるわけです。
 牝馬側に、Northern Dancerの血が含まれていれば、サンデーサイレンス内の3代目にある(産駒内では4代目の位置)Almahmoudがクロスになります。その位置や系列ぐるみのクロスになりやすいということから、Almahmoudは産駒の中で主導勢力を形成し、もっとも強い影響力を発揮するはずです。すなわち、現代では、サンデーサイレンス産駒には、Almahmoud主導型の馬が多くなり、それが、サンデーの種牡馬としての「傾向」として出てくるということはあり得ます。

ただし、別ないいかたをすれば、サンデーサイレンス産駒には、Almahmoudが主導ではない産駒もいるわけで、その場合でも、I理論は、両者の違いを的確に把握することができます。要するに、《血の相性》によって変化するクロス馬を、「サラブレッドの競走能力を伝える遺伝因子」としてとらえるI理論は、種牡馬の産駒に対する「傾向」ではなく、個々の産駒が持つ、固有の能力を把握することができる方法論なのです。



BACK