甲斐よしひろ 2012 愛のろくでなしツアー2

2012年6月11日(月) Zepp Namba

 

 このところ毎週お笑いを見に通ってるなんばの駅で降り、かつて大阪球場だったなんばパークス横の 道を行く。いつの間にか「パークス通り」っていう名前になってるねんな。パークスから数分で、左手に Zepp Nambaが現れた。今年のゴールデンウィークにオープンしたばかり。これは近い。 Zepp Osakaにも思い出は多いし、大阪港の夕陽もきれいやったけど、 便利さが何桁も違う。移転という形でZepp Osakaがなくなったこの先、 もうコスモスクエアへ行くことはほぼなさそうや。

 Zepp Nambaの建物に沿って左折、さらに右に曲がったところに入口。チケットを見て、 「奥の左手から(客席へ)お入り下さい」と案内してくれるが、どこから入ればいいのかわからない。 ロビー奥の左は女子トイレの表示しかないねんもん。
 グッズ売り場の列はすでに2階まで達しているようで、開演前に買うのはあきらめる。震災の被災者 の方々への募金箱は、グッズ売り場の柵の向こう側にあった。募金も終演後にしよう。
 そんなふうにロビーを見渡しても、やはりどこから客席に入れるのかわからない。係員に聞いたら、 やっぱり奥の左手から入れるねんて。いや、あの表示、まぎらわしいって。あっちは女子トイレだけやと 思って、男は進まれへんで。

 その入口を入ると、客席右やや後方に出た。自分の席は右前やねんけど、ステージと会場全体の様子を 見たいから、あえて遠回りする。客席最後方を通って左端の通路を前へ、ステージを見ながら1列目前の 通路を右へ。今日は久々にかなり前の席や。たぶん「Classic Kai 」以来。
 ステージ上方に、白いライトが8つ並ぶ。その光がまぶしくて、近くても舞台の様子がよく見えない。 2列目の上あたりにも、ライトが吊ってある。黄色、肌色、白桃色が、いくつかずつ。ステージの前端から 客席へ飛び出すように設置した、小さな黒い装置が真ん中の左右にひとつずつ。横長の長方形の左右に半円を 付けたような形。これもスピーカーなんかな。
 目の上に手をかざして、舞台上を見てみる。横長の長方形の中にに赤い円が並んだライトを見つけ、 「絶対・愛」をやると確信する。舞台後方にはネットがあるようだ。
 スタッフが出てきて、ギターからベースへと各楽器を最終チェック。ウクレレがある。ウッドベース もあるぞ。去年は「よい国のニュース」と「かりそめのスウィング」で 使われたが、今日はどの曲で音を出すのか。いろいろと想像する。
 楽器の位置からして、メンバーの並びは去年どおりらしい。ツインギターが左右に。後方右の台に ベース渡辺等。さらに高い後方左の台にドラムス佐藤強一。
 飲み物が配置される。右ギターの後ろの台には、ふた付きのタンブラー。うずまき模様が見えた。 甲斐が飲むと思われるものは、ドラムス台の手前右に置かれた。濃い青のキャップがついた水のペットボトル と、こちらもふたのあるタンブラー。入っているのは特製ドリンクか、はたまた酒か。
 準備がここまで整えば、開演はもうすぐのはず。アナウンスの声は小さく短かった。BGMが終わると、 拍手。その拍手が客席じゅうに広がっていく。次のBGMが始まっていようが関係ない。拍手はやがて 大きな手拍子へ。甲斐よ、早く出て来てくれ。歌を聴かせてくれ。

 新たなBGMが高まって、開演の時を告げる。立ち上がって手拍子を打つ。客電は落ちていないようだ。 興奮のためか、BGMがよく聴こえない。ふっと 「Series of Dreams Tour Vol.3」を連想した。あのときは、「吹けよ風、呼べよ嵐」。 ブッチャーの登場テーマやった。これもプロレスの曲のような。そうか、ブルーザー・ブロディ。 「移民の歌」か?でも、はっきりはわからない。意識がそっちに向かない。思い切り手を打って、ライヴが 始まることだけを待っている。甲斐のロックを欲している。
 左からメンバーが歩んで来る。こっち側、ステージ右に蘭丸。左に佐藤英二だ。蘭丸は黒縁のメガネ。 濃紺のジャケットには銀の縁取り。

 さあ、来るぞ。去年は「エキセントリック アベニュー」やったんや。強一のあの太いドラムを、 今回もオープニングで見せつけるはず。
 しかし、意外に静かな曲が立ち上がった。ステージ中央奥、ドラムスとベースの台の間から甲斐が やって来る。「甲斐ーーっ!」と叫ぶ。さらなる拍手と大きな歓声。甲斐は銀のジャケット。中には灰色の ストールなのか、下の方は太く広がっている。そのさらに内は青。黒のパンツには穴を補修したような跡が いくつか。多分そういうデザイン。ゴーグルっぽいサングラスは全体が透明で、レンズの部分だけ紫 がかった色が入っている。
 コーラスの声に聴こえるのは、サンプリングか。静かな曲の中を渡辺等のベースがうねる。 大好きな「ROCKUMENT V」以来や。あのときもごく序盤に歌われた。
 「レッド スター」
 ただし、「ROCKUMENT V」そのままのアレンジではないはずだ。蘭丸が刻むギターが 効いている。
 イラク戦争時に「KAI FUND」の対象になったこの曲を1曲目に据えるには、大きな意味が あるに違いない。もちろん今の状況を考えてのことだろう。甲斐が目指す「社会が垣間見えるラヴソング」 のひとつだが、今は「社会」を描写した部分の詞が強く響く。「俺たちはニュース不感症さ」「割れたビンを 世界中が今ふみつけている」
 後奏。甲斐が叫ぶ。その声もまた胸をつかむ。

 「ダッ!ダッ!ダダダッ!」と分厚い音がはじける。別の曲かと思った。まさかこの歌が聴けるとは。
 「ナイト スウィート」
 「レッド スター」から一気に激しい曲へ転じるかと思ったが、そうではなかった。オープニングに しては、どちらかといえば、静かめな曲が続いた。ますます「ROCKUMENT V」を思わせる。 もちろん、「ナイト スウィート」だからバラードではないし、蘭丸はまたギターを刻んでるし、僕も みんなもノっている。
 ライヴで聴くと、普段よりさらに詞に敏感になる。「新聞社」とか、「竜土町」という地名にも、 意味がありそうに聴こえてくる。
 バンドが転調し、そのとき甲斐は左前で歌っている。その姿がなぜか印象的やった。

 「甲斐ーーっ!」の声と拍手を浴びて、甲斐がマイクスタンドの前へ。
 「魂を込めたナンバーばかりをやりましょう。」
 そうそう、「愛のろくでなしツアー」は、こういうMCやった。
 曲に行くためにスタンドを離れそうになった甲斐は、「最後まで楽しんでって」とつけ加えた。

 さあ、MCを挟んで再スタートのここから激しく。と思ったが、三度意表を突かれた。 明るいイントロがわきあがる。「ハートをRock」っぽいなと思った。
 「浮気なスー」
 うわ、この曲もやってくれるんや。ライトな曲調を楽しむ場内。甲斐は左に右に歩を進める。
 蘭丸のギターがちょうどいい感じに、演奏を特徴づけてる。甲斐のヴォーカルの形と色ががっちり あるうえで、そのところどころに蘭丸が自分の色を塗ってるようなイメージ。甲斐の歌を染めてしまうん じゃなくて、何か所か色を塗るような。甲斐の歌もギターに押されるような個性じゃないし。
 「そんな娘だとは 知っているけど まだ愛してる」って、わかってしまう気がする。詞は痛いのだ。
 後奏も終わりに差し掛かる。音がわきあがって、オーディエンスが拍手。最後にあと一つ音が鳴って 曲がフィニッシュ。と思った瞬間、そこで「ダッ!ダン!」と二音が跳ねる。そこから速いリズムが 続いてくる。「おおーーっ!」って声が出た。まさか、この曲につながるなんて。
 「ムーンライト プリズナー」
 歌が入る直前の、二度目の「ダッ!ダン!」で俺は拳を二連打。大合唱が始まる。甲斐もどんどん 大きなアクションに。手を打ったりしながら、左右へ動く。間奏前の「アー」という声は大きめ やった。そこから蘭丸が前に出て弾きまくる。黒縁のメガネをかけて、こんな激しいプレイを見せるねんから。 本当は凶暴やからこそ、そういうメガネをかけてるという余裕ある凄みを感じた。かっこいいやんけ。 目の前で蘭丸の激しさを見て、さらに蘭丸越しに甲斐の姿も見られたりする。絶好の席やな。
 この曲でも転調があって、特に注目してしまう。今夜はなぜかそういう感覚になる。
 最後は「だけどあの娘が忘れられない」というニューヴァージョンの歌詞。
 もう一度あの「ダッ!ダン!」でフィニッシュ!

 そうか、ここから激しい曲が続いていくんや。そう思ってんけど、またもや意外な展開に。
 「「愛のろくでなしツアー」には付き物の、バラードを」
 ああ、確かに「ストレートなロックを謳う一方で、バラードも見せ場になっている」というのが、 「愛のろくでなしツアー」の秘められた売りやった。でも、ついに激しい曲が来た、という直後に バラードとは。流れが予測不能やな。そして、そういう意外性も大歓迎や。

 ごく静かな前奏。すぐにあの痛切な名曲だとわかった。
 「橋の明かり」
 本当に久々に聴くことができた。もしかして、 「ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”」以来ではないのか。 最近カラオケでよくうたってたけど、今日聴けるとは予想できなかった。
 「弱い太陽の下で 俺は何とか生きてる」
 「冬の太陽の下で 俺は何とか やってる」
 ここの詞が特に胸を突いた。本当にかなしくて、つらく、やり切れない。だけど、もしかしたら この先には望みがあるのかもしれない。そういう、ごくかすかな光が見えそうな予感だけはある。わずかに。
 後奏の甲斐の声がまた、めちゃめちゃ切ないのだ。CDよりも1回多く、曲が消えるぎりぎりまで、 声をあげ続けてくれた。

 今日初めてのバラードに聴き入った客席は、声は発せず、しんみりした拍手でたたえた。
 「「橋の明かり」という曲をやりました」
 そう甲斐が言って、ふたたび拍手がおくられる。

 そこからのMCで、甲斐は震災に触れた。まだ問題は続いていると。
 そして、こうしめくくった。
 「仲のいい漫画家の萩尾望都は、震災の後、「なのはな」という作品を描いて。俺にはこの曲があった。 「カオス」という曲をやりましょう。」

 「カオス」
 去年のツアーでもやるという話はあった。でも、うたわれなかった。去年だと生々し過ぎる、 辛過ぎる、あるいは、客席のことを思うと仙台ではうたえないという判断があったのかもしれない。
 今年にしても、さっき甲斐が話したような状況なのだから、「カオス」の詞はきわめて重く響く。
 甲斐は、あえてそうしているのだろう、リズムに合わせて、歩くように腕を振ったりしながらうたう。
 第一期ソロのライヴでは「ラヴ ミー テンダー」とうたわれることの多かった曲名は、 発売当時のレコード通り「キリング ミー ソフトリー」やった。
 渡辺等のウッドベースが響く。奴は「カオス」のアルバムの頃にはもう、甲斐のレコーディングで 弾いていたのだ。
 2番の後の間奏。甲斐がハーモニカを吹く。フルートのパートを奏でているようだ。 強一が「タン!タン!タン!」とかわいた音を叩いて、3番へ。
 甲斐はここでも「FIRST LYRIC VERSION」ではなく、「見えない嘘によごされた雨 がふる」とうたう。ほっとした。「見えない塵」やったら、あまりにも強いし、詮索や曲解もされかねない。
 それでも、3番後半の詞は重かった。ものすごい歌やな。あらためて痛感する。 しかも、視点が偏っていない。ラヴソングとしても聴ける。さすが甲斐、という作品なのだ。
 甲斐の「カオス」という声が、静寂に溶け込む。その後に「ザ!ザーン!」という高い音でフィニッシュ。

 拍手がやむと、甲斐はこう言って、静かな空気を破った。
 「ロックンロールをやろうぜ。ロックンロールを」
 そうやんな。震災のことは頭の中に置きながらも、エンターテイメントがないと。それだけを見続けてたら、 どうかしてしまいそうになる。ここからハジけたとしても、聴いた者の心に今日の「カオス」は必ず残る。

 前奏はレコードと違っていた。でも、歌入りの瞬間、完全にあの曲やとわかった。
 「特効薬」
 一気に雰囲気が変わってる。王道のロックンロールで燃焼や。甲斐がマイクスタンドを持ち上げて、 斜めにこっちへ向かってくる。俺は勝手にデュエット気分。歌いまくる。蘭丸は再び前で弾き尽くす。 身をよじるようにギターを抱え、ときどき靴の裏が見えそうなほど足を上げて、指から気持ちをしぼり出す如く。
 2番に入る前の「アイーッ」というシャウトはなし。「フォークも聴きなよ」ではなく、 「フォークを聴きなよ」と歌う。欲しいものを挙げていく部分は、「名前」を2回のニューヴァージョン。
 英語タイトルにもなってる「Drugs love you」を、今日の甲斐は低くつぶやく。 そこからの後奏では、右に甲斐とツインギターが集まる。甲斐と接するように並んだ蘭丸と英二、 「ダンッ!ダン!」のビートとともに、同じ方向へギターを振り上げる。甲斐も同調。この見せ場が目の前で見られる幸せ。
 中山加奈子との「ROCKUMENT IV」以来かな?「特効薬」もカラオケでよく歌ってるけど、 まさか今日聴けるとは思ってなかった。

 続いて叩き出されたドラムの重低音に、意識する間もなく身体が跳ねる。そうそう!これをやってくれな!
 「ダイナマイトが150屯」
 前奏から蘭丸のギターが鳴り続く。あのキーボードの音を凌駕するほど。甲斐がマイクスタンドを縦に 蹴り上げる。「フーーッ!」「ヒューッ!」とオーディエンスが高い歓声を浴びせる。
 最初の「ダイナマイトがよーホオホー」の後、早くも客に「ダイナマイトが150トンー」と歌わせて くれる。そこから1番の続きは、甲斐と俺らで代わる代わる半分ずつ歌う感じ。こんなに歌わせてくれるのは めずらしい。客席の熱が伝わってるからこそやと思う。大声で歌えるうれしさと、甲斐が自分たちを認めて くれてるよろこびと、何より「ダイナマイト」の興奮がある。
 甲斐は後半、右へ来る。ステージの前端を歩く甲斐へ、その見えてる左耳へ向けて、「ダイナマイトが 150トンー」と全力で歌う。「ダイナマイト」で近くに来てくれて、歌ってくれて、感激や!
 後奏。真ん中に戻った甲斐は、マイクスタンドを置く。最初の縦蹴りで絡まってたコードは、 いつの間にか解けてる。そしてそして、ぐるんぐるんスタンドを多く廻す。身体を低くし、下でしっかり 受け止める。スタンドを横にぶん廻すことはせず、もう一度右に来てくれた。
 またしぜんに身体が跳ね、右左右と拳を突き上げ、跳びながら手を打ち続ける。 やっぱり、「ダイナマイト」最高。これまで序盤かアンコールでの披露が多かったのに、中盤に入った あたりでやるとは。この意外な感じもさらによかった。

 「ダイナマイト、ぶちかましたぜ」という言葉から、MCへ。
 主な話題は、キャンペーンで出た「レッドカーペット」。「都合よくTVを使う男」と言われるとか。
 スギちゃんの本番でのすごさ。サバンナの高橋さんが、むっちゃオーラあるということ。 野性爆弾の川島さんが好きだということ。
 最後は蘭丸の参加について。もともとは去年も蘭丸で行く計画やったはず。
 「蘭丸がいるのにこれやらないと、タダじゃおかないぞ、というのは後で。「渇いた街」をやるぜ」

 「渇いた街」
 甲斐が今日初めてギターを持つ。茶色のボディで、縁は黒っぽい。
 印象的な風景の描写から入る詞がよくて、「HIGHWAY25」収録の、詞が長いデモ・ヴァージョン やったらうれしいなと急に思ったが、通常の詞やった。この曲で2番が倍になるのはよくないという、 音楽的な判断なんやろうな。いつかライヴでデモ・ヴァージョンを聴いてみたい。
 「そんなたわ言を俺に吐かせたいのかい」の一連は、今日も強烈。
 もう一度あのイントロのフレーズが入ってから、後奏が終わっていく。

 メンバーが去って行った。残ったのは、甲斐と渡辺等だけ。
 8月12日(日)に薬師寺で行う、甲斐バンドのライヴについて。
 世界遺産が好きだとか、拝観料付きという程度のサービスだけどとか、奈良が好きとか言ってて、 客席に「拍手してるけど、本当に来るのか?」と問う。「行くよー」「買ったよー」というような声が 多く飛ぶ。「僕もいい大人だから疑わないけど」と笑わせる。
 松藤が薬師寺でドラムを叩くと張り切っているそうだ。よろこびの拍手が沸く。

 さらにいくつか松藤のエピソードがあってから、「松藤の話も出たし。夏ヴァージョンでいいのができたから」
 渡辺等がウクレレを奏でる。その音に、去年のハイライトのひとつ「よい国のニュース」の記憶がよみがえった。
 ウクレレだけで歌われる「ビューティフル エネルギー」
 爽やかや。音色は本当にあくまで爽やか。しかし、あまりの爽やかさに、「きれいそうに見えるけど、 詞は実は淫靡やねんなあ」と感じていた。これには裏がある。詞の本当の意味に思いを馳せながら、 甲斐の声を聴く。甲斐は語尾を下げて響かせるうたい方。甲斐はこんなふうに「ビューティフル エネルギー」 をうたうことが多い。松藤はいつも伸ばしてる。
 2番の後に甲斐のハーモニカ。と、テンポがゆっくりになる。
 「潮がひくように 消えていくんだろう はなしたくない 愛はもう戻らない」
 なんと、「ミッドナイト プラスワン」がうたわれたのだ。爽やかさの背後にエッチな影を感じては いたけど、さらに悲しい別れのうたを入れ込んでくるとは。これで、例えば、初めてこの曲を聴いた人でも、 爽やかなだけじゃないと気づかされたことだろう。ひたすら幸せで全く不安のないような歌って、 甲斐には本当に少ないし。
 メドレーに移るのかと思ったが、その一節だけで、すぐ「ビューティフル エネルギー」のサビ 繰り返しに戻った。後奏の最後に、もう一度甲斐のハーモニカ。

 再びメンバーが全員揃う。
 「さっきの曲の前に座らせようと思ってたんだった」と、甲斐が客に一旦座ることをすすめる。 僕はずっと立っときたかったけど、後ろの人らが気の毒やから座った。「後ですごいことになるから」とも 言う。終盤、激しい曲をいっぱいやるっていう予告やんな。期待高まるで。

 「孤独になって追いつめられると、いろんなモノが寄ってくる」「子どもの頃に空を飛ぶ夢をよく 見てたけど、あのときは本当に空を飛んでいたような気がする」という系統のMCをめずらしく。 そこから、「こわいものについて書きたいなあ」と思って書いた作品のことへ。
 「蘭丸のソロのために書いた曲を。2人でやるなら、この曲入れないと」
 「バンドでもやったんだけど、蘭丸に負けてると思う」と言うと、右の蘭丸は「いや、いや」という ふうに手を振った。

 始まったのはもちろん、「立川ドライヴ」
 もともとそういう曲やけど、あのMCの後やから、詞がそこもここも霊的なものを表してるように 聴こえてくる。「ウォーオーあいつが消えてしまう」というサビも。
 強一は刷毛みたいなのでドラムを叩いてる。
 曲が終わると、甲斐が蘭丸の名前を呼び上げる。「公平ー!」「蘭丸ーっ!」の声がなおさら増えた。

 きれいな音が湧き、みんなまたすぐ立ち上がる。蘭丸ゆかりの曲が続く。
 「レイン」
 今回も手拍子する感じのアレンジ。甲斐も何度か手を打ってみせる。この時いつも、両肘が直角に近い ねんな。トレーニングするみたいに腕が動く。
 甲斐といっしょにうたい、「Call My Name」で拳をあげ、「できはーしなーいー」と コーラスする。甲斐とやり取りする感じが気持ちいい。
 前に出た甲斐を見ると、その後方、客席横の壁に大きな甲斐の影も見えた。
 後奏。甲斐はファルセットを聴かせる。それから、蘭丸だけにピンクのスポットが当たる。 甲斐とやるきっかけになった「レイン」を、蘭丸が弾く。それを見せる。

 イントロのフレーズに「ウォーッ!」と声をあげてしまった。
 「メモリー グラス」
 ただし、蘭丸が弾くあのフレーズは、オリジナル通りではない。情感を抑えた、フラットな響き。 これがロックっぽさを増して、かっこいいのだ。
 甲斐が歌い出すと、蘭丸はギターを一音ずつ鳴らしていく。その音を長く震わせる。 こちらは逆に、情感を増してるように聴こえる。そして、サビに入る甲斐の「メモリーグラーース」と ともに、「キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキューーン」と高く駆け上がる。 歌もギターも最高や。
 後奏でもう一度あのフレーズに戻ってからフィニッシュ。

 ドラムスから始まる前奏。もしかして?ギターが入ると、客席全部が確信したはず。甲斐がマイクスタンドを蹴り上げる。
 「きんぽうげ」
 まさかやるとは。やるなら薬師寺やろうと思ってた。こうなると、逆に薬師寺ではどうなるんやろ。 一瞬だけそんな思いがかすめ、あとは全身で「きんぽうげ」のよろこびに突撃。
 今日は客にかなり多く歌わせてくれる。「はずーれた胸のボータン」からはしばらくずっと客。 甲斐はマイクを口から離し、左へ歩いている。「くーらやみのなかー」と甲斐が突き放した方のメロディーで歌う。 続いて客が「だーきーしめてもー」。甲斐の歌い方に対応して、同じくフラットめに。
 甲斐はそのまま左で、あのターン。今日はマイクを腰に差すことはしない。
 2番に入ると、甲斐が自分で歌う部分を増やす。客は「くちぐーせのようにおまーえは なんどーも つぶやーくー」。 これでもいつもよりだいぶ多い。客に多く歌わせるのは、「客がノってるから大声で歌うはずだ」と、 甲斐が確信してるからやろう。みんなの熱気が伝わってると実感できるし、信頼されてる証のようで、 これもまたうれしい。
 間奏の後も「だーきーしめてもー」は客に歌わせてくれる。最後の部分は甲斐が多く歌う。 客にも歌わせるけど、客との詞の分け方を変えている。今夜だけ、今だけのヴァージョンなのだ。
 後奏で再びあのギターの音。その間に入る強一のドラムのすごいこと。あの短い中に太い重低音を連打。 さらにさらに盛りあがっていくのだ。

 シンバル。ドラムの爆発。渡辺等のベースがうねる。見れば、ベースを左右に強く振りながらのプレイだ。 「ギャー!ギャー!ギャー!」とギターが煽る。甲斐はマイクスタンドを横廻し。
 「絶対・愛」
 バックにある赤の大きなライトが全部ついてる。新たなライティングや。とにかくずっとドラムが 「ドドドドドド」と太い音を放ってる。強一すごい、すごいぞ。
 蘭丸が右手を挙げる。野球でツーアウトを示す時のような、人差し指と小指を立てる蘭丸お得意のサインや。 俺らは「Hey!」と叫んで拳を上げる。その瞬間、蘭丸は手を下げてギターを鳴らしてる。このやり取り、いいなあ。
 「見えてはいても」と中央奥で歌う甲斐が、前に出てる蘭丸で見えない。「ギャン!ギャン!」と ギターを入れる蘭丸。そこから視界に甲斐が現れ、前に出てくる。「そんな愛は 嫌だろう」の後、サビに 戻るまで今日はそんなに長くない。
 最後の繰り返し。右端まで行ってた甲斐が、左へ動く。目の前を通る甲斐へ、 「絶対あーああい ウォウウォウウォーーオーー」と全力で歌う快感。蘭丸が弾く姿をオーディエンスに 見せるためか、前半は左に行くことが多かった甲斐。「その分、終盤にこっち来てくれたら」と思っててん。 やったで。
 後奏はもう「ウォウウォウウォー」に戻ることなく、「絶!対!愛!」フィニッシュ。

 「風の中の火のように」
 ドラムスも初めから激しい、このメンバーでの「風の中の火のように」だ。
 1番の序盤、蘭丸は一音ずつ弾いてるようだ。その後どんどん音を入れてくる。
 甲斐が「愛な のに」と歌う瞬間、照明が青になる。いつもは赤くなる場面。ライティングもだいぶ 変えてきてるな。そこから赤の世界になっていく。
 今年も最後の「火のように」を3回と、以前より1回多く歌ってから、「火のーーーーっ」と伸ばした。

 考える前に身体が跳ねてる。
 「漂泊者(アウトロー)」
 甲斐は1番の途中から2番の詞で歌う。1番から「愛をくれーよー」も「愛をくれーー」も両方客に 歌わせる。また客に多く歌わせてくれてる。
 2番。歌わなかった1番の詞を入れ換えて歌うかなとも思ってたけど、全部2番の詞のまま歌う。 いざその部分が来ると、俺もしぜんに2番の詞を大声で歌ってた。興奮してて、そういうの意識から消えててんな。
 「バクハツ」の後のタメは短め。でも、その直後のドラムがものすごいねんなあ。強力なメンバーやで。

 興奮の客席に、甲斐が感謝の言葉を伝える。
 「平日にも関わらず、こんなに来てくれて」
 それから、甲斐は、こう言ったのだ。
 「君たちに向けて。「マッスル」をやるからね」
 「マッスル」はギターの曲という印象がある。大森さんと一郎が「サンスト」で話してたから。 しかし、1番の前半、ギターは少なめ。ベースのうねりを聴かせる感じだ。
 甲斐は最初だけ、「マッスル」を滑らかに速めに歌う。次からは演奏に沿うように力強く「マッ スル」。 俺らにも何度か「マッスル」と歌わせてくれる。
 いつの間にかギターがガンガン鳴っている。後奏になると特にすごい。やがて長く湧き上がる音。 ドラムスの台に上がった甲斐が強一の顔を見る。アイコンタクトから飛んだ甲斐が拳を握ってフィニッシュ。

 ついにバンドヴァージョンの「マッスル」が聴けた。今年の2月と3月に、アコースティックで 久々に「マッスル」が聴けた訳やけど、こんなに力強いのはいつ以来か。もしかして、 初めて見た84年暮れのツアー以来ちゃうんか。
 感慨に浸る間もあまりない。去っていく甲斐たちに目一杯「甲斐ーーっ!」と叫び、拍手をおくる。

 手拍子から甲斐コール。メンバーが戻ってきて、拍手。拍手が止んでから演奏が始まるまで間ができて、 「手拍子した方がいいかもな」と思った頃。静けさの中から、あのイントロ!
 「ティコーン!」と高い音が響いた直後、「ディデュデュデュン!デュン!ディデュデュデュン!」と 強一の太く分厚く低いドラムが轟く。俺は「ウォーー!」と叫んでしまう。去年のツアーを代表するこの曲、 もう聴けないかと思ってた。
 「エキセントリック アベニュー」
 コバルトブルーのVネックTシャツを着た甲斐が登場し、歌っていく。そうやんな。 去年のハイライトやからって、今年やったらあかんってわけじゃない。むしろ、このメンバーでやらない なんてもったいない。音も歌も圧倒的なのだ。
 強一のドラムが、3番に入る前もすごい。太い。重い。とにかく強い。甲斐が「ウォーーーーーッ」と叫ぶ。
 「ダダダダダッダダッダダッ」のビートに続けて、甲斐が「ヨオーーオッ」と声をあげる。 それを繰り返した後奏から、「ダダダダダッダダッダダッ ダダッ」で曲が消えた。

 「メンバーの紹介を」という甲斐の声。そこからバンドが奏で始める。おお、曲に乗せてのメンバー紹介や。 「ストレート・ライフ ツアー」のアルヴィンとトレヴァーによる、ラップのメンバー紹介を思い出す。
 ドラムス佐藤強一、ギター佐藤英二、ベース渡辺等の順に、甲斐が紹介していく。名前と楽器名の 他にも曲に合わせてコメントするが、全部は聴き取れない。各メンバーがソロを披露し、最後は 「もう一人のギター」。蘭丸こと土屋公平だ。甲斐は名前を呼び上げる前に、「4年ぶりに会いたかったぜ」 と言った。4年もライヴに参加してなかったなんて、意外な感じ。
 蘭丸のソロから全員参加になり、最後の音が湧き上がる。そこで甲斐が言った。「オーケー、「HERO」をやるよ」
 曲はそのまま途切れずに、「HERO」の前奏へなだれ込んで行く。
 もう盛りあがって、歌いまくり。甲斐が左耳にイヤモニをしてることに気づいて、右耳めがけて 思い切り歌う。甲斐がマイクを向けて、俺らに歌わせてくれるとこもある。
 バックの赤いライトも白いライトも全部ついてたのって、この曲やったっけ?熱狂のうちに1回目の アンコールが終わっていった。

 手拍子と甲斐コールに応え、左から歩いて出て来たのは、今度は甲斐一人。大歓声。「甲斐ーーっ!」の叫び。
 灰色に黒の豹柄がところどころ見えるTシャツ。豹柄でもこういうのはかっこいいな。
 楽器は持たず、オケだけでうたう態勢。始まったイントロに、また「ウォーッ」と声をあげてしまった。
 「スマイル」
 この曲もまた久々や。やるとは想像してなかったなあ。
 ストリングスによる演奏は、オリジナルより速めのテンポ。このツアーのために新たに録ったのだろう。 きれいな音のバラードで、甲斐の声を堪能する。
 「胸を切り裂いてく」で甲斐は手を胸のあたりに。2番の後には「エーーイ」と声をあげる。客席から拍手が起こる。
 終わりの音も、以前のライヴヴァージョンとは違ったように思えた。

 すでにメンバーが帰って来てる。
 甲斐が最後の曲だと告げる。今回も壮大なバラードでしめくくるんやろうと思ってた。ところが、またしても意表を突かれた。
 「涙の十番街」
 うおお!最後にこの曲とは!
 甲斐は銀のジャケットを着る。そして、今日初めて、サングラスを外す。
 歌詞に合わせて、髪に櫛を入れるような仕草。蘭丸が刻んでる。今夜の序盤もそうやったな。こうしてライヴが終わっていくんや。
 「こんなふうに 君を失う ために生まれてきちゃ いないさ」
 甲斐の大きなテーマの一つでもあるこの詞が、胸の傷をえぐる。
 「ハーートブレイカーー」と女声コーラスが力強く。これも新たに録った声のように聴こえた。
 3番のサビの後、最後の繰り返し。「破裂しーそーなー 夜のなーかーでー 君をだーいていーる 十番街 こんなふうにー 君をうーしなうぅ ためにうーまれーてきーちゃ いないさ」
 甲斐はそう歌った!オリジナル通りの詞で。これ、好きやねん!これまでライヴで聴いたどの「涙の十番街」でも、ライヴアルバムでも、最後は「バックミラー……」と最初の歌詞に戻る形やった。初めて聴けた。いちばん沁みる詞をもう一回聴けた。感激やあ。
 後奏がゆっくりになっていく。甲斐は何度も「サンキュー!ありがとう!」と俺らに言ってくれた。

 甲斐とメンバーが、あるいはメンバー同士が、握手をする。抱き合う。手をつないでおじぎをする。その間、俺らは拍手をし、「甲斐ーーっ!」と叫んでいる。
 メンバーが左へ去り、最後に残った甲斐もやがて行く。「甲斐ーーっ!」の声を浴びせた背中が、スタッフが広げた大きなバスタオルにつつまれた。

 

 蘭丸越しに甲斐が見えたり、めちゃめちゃいい席やったな。甲斐がドラムスやベースの台から飛んでフィニッシュの曲がいくつかあったけど、甲斐が強一を見てる時、蘭丸も甲斐を見てタイミング計ってるのが感じられた。
 何より近いのがいい。甲斐がオフマイクで叫ぶ声も聴こえたし。「カモン!」が多かったな。
 顔の赤みや、腕の血管まで見えた。バラード以外では、「もし歌詞忘れそうになっても、俺が教えるでー」くらいの気持ちで歌った。

 それにしても、ものすごいライヴやったな。このツアーは、ROCKUMENTを超えた。僕は通常のツアー以上にROCKUMENTが大好きで、再開を待ち望んできた。だけど、「愛のろくでなしツアー」は、それを超えたシリーズになってる。 ROCKUMENTは、甲斐が「マニアのイントロクイズになってる」とジョークにしたことがあったように、どの曲も大幅にアレンジを変えていた。 でも今は、大きくアレンジを変える曲もあれば、ストレートに原曲通りの曲もある。原曲通りと言ってももちろん、細かい部分には手が加えられ、「今の曲」になっているし、それを最強のメンバーが弾くねんから。 どんな曲でもやってくれそうやし、曲順も予測がつかない。
 「愛のろくでなしツアー」はこれからも続くと確信できてる。早くも来年が楽しみや。いや、その前にもう一回このツアー、東京で見られるもんね。

 

2012年6月11日 Zepp Namuba

レッド スター
ナイト スウィート
浮気なスー
〜ムーンライト プリズナー
橋の明かり
カオス
特効薬
ダイナマイトが150屯
渇いた街
ビューティフル エネルギー
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