T 大規模林道ってなに? T U V W

大規模林道戸河内・吉和区間に建設中の横川トンネル。三段峡の奥の奥にこんな立派な「林道」が建設されている。
 「大規模林道」とは、林野庁の外郭団体の緑資源公団(旧森林開発公団)が全国の「大規模林業圏」で進めている高規格林道の建設事業です。「大規模林業圏」とは、1960年代に国が打ち出した、それまで人工林として開発されていなかった日本の背骨=「奥山」に当たる部分を七つのブロック「大規模林業圏」に指定して人工林地として開発しようとする計画です。
 従来林道は谷沿いに上がっていって最後行き止まりになるものだったのが、大規模林道は「峰越え」を主とする「山岳ハイウエー」とも言われる広域林道です。中国地方には「山陽ルート」と「山陰ルート」があり、両者は中国山地の脊梁を縦貫する形で建設されています。基本的には二車線幅員5〜7メートルの、大型観光バスも行き交うことのできる高速道路並みの「超」高規格林道です。
 事業主体である緑資源公団は、大規模林道の目的として、林業の基盤整備・山村の定住環境の整備・広域観光・レクリエーション・エリアの整備などをあげています。
 広島県の大規模林道については、広島県HPの「農道・林道」の「大規模林業県開発林道事業」のページをご覧下さい。


U 細見谷に大規模林道が通ったらどうなるの? T U V W

横川トンネルの対岸。奥山を切り開いて大規模林道が建設される。
 では、細見谷の大規模林道計画はどんなものなのでしょうか。細見谷の計画は大規模林道大朝・鹿野線の戸河内・吉和区間の一部になります。基本的には十方山林道を拡幅・舗装し、細見の峡谷の真上で2キロメートル二車線・5メートル幅の新道を開設します。水越峠から下ったところの渓畔林では現道を原則として拡幅せず、巨樹・巨木も原則として伐採せずに舗装するということです。
 細見谷に大規模林道を通すことに対しては、随分以前から自然林への影響を危惧する声がありました(1990年5月14日中国新聞)。この計画は昭和50年代には既に策定されていて、当初2002年度(今年)完成予定でしたがいまのところ二軒小屋(戸河内町)〜中津谷(吉和村)では着工すらしていません。戸河内・吉和区間は数年前から始まった公共事業の見直し対象に引っ掛かりました。事業の再評価委員会が行われ、「環境NGOの意見などを十分に聴いた」最終的な計画として上に述べたような工法が決定されました。緑資源公団は、この計画について「大規模林道を通すことでむしろ環境が保全されるエコリンドーである」と主張しています。

1.高規格の林道は必要?
 細見谷周辺はほとんどが国有林で全域西中国山地国定公園の中にあり、水源涵養保安林(水土保全林)の指定を受けています。さらに、渓畔林は林野庁から「風景林」の指定を受けています。「風景林」とは「風致の維持を図る必要のある地域」ですから、付近の人工林で伐採した樹木を持ち出して渓畔林を傷つけることは出来ません。水土保全林とは木材の生産(「資源の循環利用」)より保水力を高めることを目的とした森林です。またこの地域は民有林の部分も含めて全域が国定公園の中にありますから、2ヘクタール以上の大規模な木材の伐採が規制されています。つまり、大量に木材を輸送するための道路の必要性の薄い場所になります。
2.観光道路としては?
 緑資源公団は広域観光道路としてこの区間の大規模林道化の必要性を訴えています。恐羅漢方面のスキー場などと吉和村のアクセスがよくなるとしています。しかし、恐羅漢方面で最も観光客が多くなるのは冬期のスキーシーズンです。細見谷は広島県内一の豪雪地帯ですから、冬期に利用しようとすれば莫大な除雪費用が必要になります。この費用は誰が出すのでしょうか。
 さらに、渓畔林部分を拡幅しないので観光道路としてはとても危険な道路となります。現道は幅員が3〜4メートルで、舗装する際には路肩や側溝が必要になります。路肩は約25センチ、側溝は幅約30センチだといいますから、両側に路肩と側溝をとれば実質2メートル余りしか残りません。普通自動車一台が通るのがやっとの道になり、春〜秋に多数訪れる登山客にとっては極めて危険な道路になります。
下流の「日本百名谷」細見峡はどうなる?
3.環境への影響は?
 広島大学の中根周歩教授は、舗装工事による渓畔林へのダメージを指摘しておられます。舗装だけといっても基礎工事があり、また側溝をとることなどにより「水みち」が変わってしまって渓畔の湿生の貴重な植物群落が破壊される可能性が大きいとしておられます(水源の森講議の後半参照)。
 排気ガスによるダメージもあります。渓畔林で有名な奥入瀬では排気ガスにより森林が被害を受けています(水と緑のネットワーク参照)。立山ではアルペンルートを通過する自動車の排気ガスで、40パーセントのブナが枯れてしまったといいます(惨憺たる立山参照)。
 十方山林道の渓畔林は傾斜の緩やかな盆地上の地形ですから、排気ガスの交換はとても悪いと考えられます。拡幅もしないのですから、自動車と植物の距離は非常に近く、林道のまわりに50〜100メートル幅でしか残っていない自然林は排気ガスにさらされ続けることになります。舗装されるとオフロード車以外もどんどん入ってきますから、排気ガスの量も現在とは格段に増えるでしょう。
 十方山林道を利用したワサビ栽培がありますが、渓畔林がやられてしまえば良質のワサビを栽培することも難しくなるでしょう。
4.細見峡は大丈夫?
 細見谷の下流・「中国地方最後の秘境」と呼ばれる細見の峡谷の直ぐ上に二車線5メートル幅の新道が建設されます。十方山林道付近には横川断層が通っていますから、地質的にしっかりしているとは言えません。人間のやることですから、最大限の注意を払ったとしても工事中の土砂の流出は避けられないでしょう。法面を切るわけですから完成してからも集中豪雨などで土砂が細見峡へ流れ込みやすくなると考えられます。
5.維持管理は?
 十方山林道は豪雪・集中豪雨・断層と人間の力をはるかに超えた自然の猛威にさらされる場所です。土砂崩れや崩落などの危険性のとても高い地域です。現在の十方山林道は簡易な構造ですから簡単な補修で維持できますが、大規模林道にしてしまうと一度壊されたら復旧に莫大な時間と費用が必要になります。この費用は地元自治体=来年合併する予定の新廿日市市が負担することになります。
 十方山林道を大規模林道にすることの問題点は、2002年1月27日・29日の毎日新聞広島版「スクランブル」で指摘されています。


V 批判の多い大規模林道 T U V W

餅の木の先、工事先端部に近い。
―大規模林道は様々な分野の方々から非常に問題の多い事業であると指摘されています。

●自然を破壊しつづける大規模林道
 大規模林道は以前山間部の自然破壊の元凶として問題になった「スーパー林道」よりもさらに規模が大きく、延長も長いものです。これまで人の手が入りにくかった場所に高速道路並みの道路を建設するのですから、全国各地の水源の素晴らしい森林が破壊されてきました。全く人の通わないところに建設するのですから、地元の人もほとんど知らない間にいつのまにか建設されていたという話も少なくありません。
 大規模林道はクマタカやツキノワグマのような、従来奥山で人間と棲み分けていたような野生生物の生息地を奪います(広島でも、中国縦貫自動車道が建設されてから、急にクマなどの被害が増えた、それまで見られなかった奥山の生きものが里に下りてくるようになった、という声をよく聞きますね)。峰越え林道ですから地下水脈を切り、井戸水やワサビ栽培などに悪い影響が出ている場所も少なくないと言います(当サイト「ブナの森」の「生きもの」をご覧下さい)。森林生態学などの専門家からは「スーパー林道」の轍を踏むのか、という指摘が数多く出されています。また、地形の急峻な気候の厳しい地域に林道を建設するので土砂崩れを引き起こし、大規模林道周辺には砂防ダムがたくさん建設されていると言われています。

共用を開始しているところ、芸北方面より戸河内町小板に至る途中
●必要性が疑われる大規模林道
1.造林不適地を通る大規模林道
 大規模林道は標高1,000メートル前後、あるいはそれ以上の所に建設されます。中国地方では、一般に標高800メートルを超えると、スギ(オモテスギ)などの生育が非常に悪くなり、大規模な造林には向いていないと言われています。現在木材の値段が低迷していることもあり、奥山での造林事業は全く採算が合わないと言われています。人手不足で手入れもされませんから森は荒れ、土石流などが発生しやすくなります。手入れの行き届かない人工林がいかに危険かは、1999年(平成11年)6月29日に広島県西部を襲った集中豪雨による被害からもよくお分かりのことと思います。むしろ水源林としてはブナなどの落葉広葉樹自然林の方がはるかに優れています。
(この問題については、水源の森講義の前半が参考になります)
2.「過疎地振興」にならない大規模林道
 事業主体である緑資源公団は過疎に悩む山村の地域振興に大規模林道が寄与すると主張していますが、実際には、建設時の土木関連事業以外の効果はあまりないようです。「高速道路並み」であるがゆえに観光客には「通過道路」として利用され、滞在型の観光客を増やすことに貢献していません。日常的な利用も少なく、芸北町に完成している区間では何時間待っても自動車一台通らないありさまです。もちろん災害時のアクセス道路としての意義は否定できませんが、大規模林道は地形や地質・気象条件のとても厳しいところに建設されますから、災害時に甚大なダメージを受けてしまって必ずしも迂回道路として十分に機能しているとは言えません。
こんな狭い道を自動車がどんどん通ると・・・
3.財政を圧迫する大規模林道
 大規模林道は完成すると地元自治体に移管されます。自然条件がとても厳しい地域に建設されますから頻繁に壊れ、維持管理費が莫大なものになります。山形県の例では崩落事故のあと復旧するのに1メートルにつき300万円かかったといいます。この維持管理費は全て自治体の負担になります。たださえ財政の苦しいこのご時世に、さらに莫大な負担を強いられることになります。ちなみに1999年の大災害の時、十方山林道も約一年間普通となりましたが復旧に要した金額はトータルおよそ180万円ですんだそうです。
 建設にかかる費用もとてつもないものです。十方山林道がある戸河内から吉和にかけて建設中の区間(約27キロ)では、半分も完成していないのに既に60億円が投入されています。大規模林道は国庫補助率が高いので、このお金には国民一般の税金が使われていることになります。


 大規模林道の実態については、「林野庁最大の愚行 山岳破壊ハイウエー・大規模林道の実態」が参考になります。また、写真週刊誌「フライデー」が2001年12月18日号で「緑資源公団は血税食い潰しながら『自然破壊』を続けた」と大規模林道と緑資源公団を厳しく告発しています。全国各地の大規模林道問題については「大規模林道はいらない」(大規模林道問題全国ネットワーク編、緑風出版、1999)に詳しく記されています。


W 細見谷の未来を考えよう 〜持続性のある活かし方は?〜 T U V W

 このように、太田川が日本に誇る細見谷に大規模林道を通すことは、メリットよりデメリットの方が大きいような気がします。なにより私たち太田川流域住民の「生命の森」が失われてしまっていいのでしょうか。「生命の森」を次代に引き継ぎながら、地域が元気になる方法はないでしょうか。広島大学の中根周歩教授は、十方山林道周辺を欧米の自然公園のように厳しく管理し、「西の白神山地」として徒歩で自然を楽しみ学習するルートにすることを提案しておられます。そして吉和村に宿泊・学習の拠点を造れば、地域の重要な観光資源にもなり得ることを説いておられます(水源の森講義後半参照)。この提案を実現するには、今後の国有林の運営方法などクリアーしなければならない課題が山積みです。いずれにしても、住民・行政・専門家が一つのテーブルを囲んで細見谷の将来を長い目で見て議論していく必要があるのではないでしょうか。
文責 原 哲之(nt-hara@f3.dion.ne.jp


※資料
 大規模林業県開発林道事業
 http://www.pref.hiroshima.jp/doboku/kanri/project/norindo/norindo03.html
 水源の森講義
 http://tamarin.cside21.com/nakane.html
 水と緑のネットワーク
 http://202.237.132.147/sanM/sanmuse/MIDORI.htm
 惨憺たる立山
 http://homepage1.nifty.com/oodai/pdf/tateym01.pdf
 林野庁最大の愚行 山岳破壊ハイウエー・大規模林道の実態
 http://www.tokyo-np.co.jp/gakujin/back/gakujinold/596/repo5961.htm


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