2003.11.3
メガマウスザメ解剖レポート

報告:サメの海管理者




**すべてのメガマウスザメの写真は、
東海大学海洋学部の許可を得て使用しています。
無断転載は禁止します。


これらの写真は、2003年11月2日に撮影されました。


・ 夜明けの出発


11月2日に、東海大学海洋学部でおこなわれるメガマウスザメの解剖を見るために、早朝に新幹線に乗り込みました。なにせ測定会は11時から始まるとのこと。しかも『鮫ザメと鳴く』の管理者・たーみーさんはもう現地入りしているようです。

が、新幹線のなかで流れているニュースを何気なく見ていると、13歳のサーファーがサメに襲われたという記事が流れていて驚きました。よりによって、めったに新幹線に乗ることのない私がいるときに、サメのニュースが流れるとは、ちょっと因縁めいたものを感じました。

静岡で東海道線に乗り換えて、清水駅で降り、あとはひたすらバスで大学を目指します。この日は快晴で、しかもとても暖かかったです。雨に降られつつ寒いなかで解剖を見る可能性もないことはなかっただけに、ありがたいことです。メガマウス解剖現場に到着すると、すでに多くの見物人が来ていました。サメももう展示場所に置かれて、グタっとしています。あわてて解剖現場を見下ろせる建物に上がって、メガマウスザメの全体像を撮ります。


・ サメ好きな人びと

ひととおり撮影が終わると、たーみーさんに電話をかけ、人ごみのなかを苦労しながらついにその人を発見、初対面を果たしました。それにつづいてReal Blackさん、のっぽさん、はかせっちさん、そしてイーフォトグラフィーの写真家の方にお会いできました。

この日に会うことはサメの海の常連さんとも打ち合わせをしていたのですが、いままで掲示板とかメールでしかやり取りしたことのないサメ好きの人びとと会うことに、多少不安めいたものを感じていました。サメ好きの見本というのは、自分を除いて身の回りにほとんどいませんので、いったいどういう人なのか知りようがないのです。

しかし彼らに会って、とてもうれしい発見がありました。まず、全員ちゃんと日本語が話せます。実に衝撃的です。

いえ、そんなレベルの低い話ではなくて、みんな紳士と呼んでもいいほどの人たちではないですか!そして、このような人たちが自分のサイトに訪問してくれるということに、大いに安堵しました。

もしひとりでも開口一番に「オレ、いまサメの腹縁軟骨に夢中なんだよねー」とでも発しようものなら、そいつをメガマウスの口に押し込んで帰っていたことでしょう。

さらに、測定会の時間が来るにつれて集まってくる人びとを見ていると、これまたうれしいことに女性、家族連れ、子供連れが多いことに気がつきました。

これはとてもいい兆候です。サメが女性や子供に人気があるということは、これからもその人気が成長するということを意味するにちがいありません。しかも人数の多いこと!このなかには、私が流したニュースを見てくれた人はどのくらいいるのだろう、と勝手に想像していましたが、まさかみんなに手を上げさせるなど、できようはずもありません。


・ メガマウス測定会




メガマウスザメ測定の光景。


測定のときに、今回のイベント担当者である田中教授(日本サメ学会の会長さんです)が、まずメガマウスザメの基礎知識を紹介してくれました。測定の結果、サメの全長は4255mm、つまり4メートル25センチ5ミリと報告されました。このサメは2003年8月7日に御前崎沖で捕獲された、体重460kgのオスで、きちんと2本のオスの生殖器もあります。

測定のあいだ、ずっとサメはブヨブヨ揺れていました。恐ろしく水っぽい体つきです。サメの死体を見ていて良く思うのですが、陸に揚げられたサメはしまりが悪くて、だらんと横に伸びて不恰好です。やはりサメが一番かっこいいのは海のなかです。




頭が下アゴにめりこんでしまってます(笑)


サメの測定がすむと、少人数に分けてメガマウスに接近して観察と撮影をさせてくれました。触るのは厳禁だったのですが、何人かの悪ガキどもが触って注意されていたようです。

この機会にメガマウスの顔と口のなかを撮影できました。目のなかを覗き込んでみましたが、きれいに透きとおっていたのを覚えています。




あんぐりと口を開けたメガマウスザメ。
アゴが少し前に飛び出しています。
ヘンな顔です。



メガマウスの目。実際に見ると透明でした。


またこの時に、蘭稲妻さんと、『へっぽこ動物写真館』の杉田隼人さん、そして豊川高校でサメ模型を製作した山本さんともお会いしました。メガマウスと一緒に、知り合ったサメ好きと一緒に記念写真を撮りました。あとでたーみーさんが写真を送ってくれましたが、なかなかみんなキリッといい面構えをしています。キーッとでなくて。


・ いよいよ解剖はじまる


ものすごい人だかり




解剖が始まり、
お腹がかっさばかれているところです。


さて昼休みが終わると、いよいよ解剖です。

ところがです。ちょっと現場からはなれて戻ってきたときには、ものすごい人だかりで、まったく前が見えないことが分かりました。いったいどうしたものかと困っていると、たーみーさんが、近くの建物の上からのぞくことを教えてくれ、喜んで上がっていきました。

距離は遠いですが、何とか見えて、しかも撮影できそうです。あの人だかりも、解剖が始まればその臭さや、退屈さからやがて姿を消すだろうと思っていたら、いつまでたってもみんなかなり熱心に見守っていて、これまた驚きです。この暑いのに、誰も音を上げようとしません。

が、解剖のあいだ、メガマウスの上に研究者や学生が乗っかったり囲んだりして、肝心の解剖の様子が見えません。あれでは近くにいたところで変わらないでしょう。せめてときどき見えやすいようにメガマウスからいったんのいて、解剖状況を見せてくれれば……と思ったのですが、解剖を公開してくれるだけでもありがたいといわなければなりません。


解剖とBGM


しかしとりあえず、ここで私が見たことを報告します。

まずサメの体の腹側にメスが入れられ、尾から頭にかけて切り開かれました。それから腹の皮がめくられ、白い中身がむき出しになりました。次に腹の中にホースが突っ込まれて、なにやら作業をおこなっているのですが、遠いところから見たのでなにをしていたのかは不明です。

このあいだずっと、まるでBGMか何かのように別の場所から演歌が聞こえてきて、一種独特の雰囲気がかもし出されていたのですが、そのことで杉田さんが、
「演歌のほうがメガマウスザメの解剖に合ってると思う。SMAPは似合わないけど」
とおっしゃってました。私はBGMとして演歌がメガマウスの解剖に合っているとは思いませんし、メガマウス解剖に合う音楽なんてイヤだと思います。


内臓、生殖器、胃内容物


時間がたつと、サメの腹のなかから白っぽい臓器が次々と取り出されていきます。内臓はいったん重さを体重計で測定してから、ポリバケツにしまいこまれます。これは遠くからなかなか確認できません。内臓がすべて取り出されて、パネルにのせられて展示されると、降りていって近くで見ました。

サメの死体の前に、ほとんどすべての臓物がきれいにならべられました。さらに、胃のなかに入っていたサメの最後の食事も展示されています。またサメの血は、やはり赤でした。サメも人間も変わらないものですね。サメの解剖の時は悪臭がすごいというので、半ば覚悟、半ば期待していたのですが、以外にもほとんど臭いはありませんでした。

先ほどの田中先生が、サメのクラスパー(生殖器)の軟骨を取り出して、指でその軟骨に走っている溝を指しながら、「ここを通って精子が排出されます」と解説してくれたりもしました。軟骨などといいますが、けっこう硬い代物です。

内臓で私が直接見たのは、心臓、肝臓、腸などでした。肝臓は灰色をしていて、触らせてくれるようになったいました。臭いとのことで私は触りませんでしたが、ぷよぷよしていたそうです。また脳は、その写真を撮ってくれた人に見せてもらいましたが、クラゲかなにかみたいで、人間のものとは大違いでした。写真を見せてくれた人は、たびたび『サメの海』にも訪ねてきてくれるとのことで、うれしい限りです。




メガマウスの心臓です。



メガマウスの肝臓です。
どれも人間のものと見た目は変わらないような…


公開された胃の中身の大半は、オキアミの仲間でした。俗にいう赤レンガ(釣り人は知っているはずです)に使われているやつです。バケツが一杯になるほどたくさんあって、そのままサビキ釣りに使えそうだと思いました。

他には、アジと見られる魚が5、6尾入ってました。もしメガマウスが魚を食べていたのが発見されれば、これは世界初のこととかで、少し興奮しましたが、たぶんメガマウスが網にからまったときに吸い込んでしまったのだろうということでした。たしかにどれもほとんど消化されてなかったので、それで正解でしょう。




メガマウスの胃内容物と腸。
右にある魚も胃から見つかったものです。


女の学生さんが一生懸命、腸のらせん弁の部分のひだを一枚一枚めくってなかにあるものをピンセットで探っていました。サメにとりつく寄生虫を探していたようです。今回見つかった寄生虫はサナダムシでした。細いひも状のサナダムシは透明なビンに入れられていきます。

そのようななかで、ついさっきまで公開されていたアジが、やがて学生に持ち去られたとき、
「お母さん、お魚もっていかれちゃったよ!」
「じゃあ、あそこの寄生虫を見せてもらいなさい」
「うん!」
などというまことに微笑ましい親子の会話も見られました。

いつの間にやら、のっぽさんがサメの頭部にあった軟骨のかけらをせしめてきていたので、頼んでひとつ分けてもらいました。半透明で硬く、見たところイカの刺身か寒天を連想させます。

やがてメガマウスザメの臓器がすべて取り出されると、気の毒なメガマウスはペッタンコになってしまいました。メガマウスには頭までシートがかぶせられ、本当に臨終を迎えた人みたいに見えました。これで公開解剖は終わりです。

このメガマウスザメは完全な標本として、近くにある海洋科学博物館で展示されるそうです。


・ サメ談義に明け暮れる


このあと、『サメの部屋』でおなじみの、よしきりさんとお会いして、サメ談義に明け暮れました。こうやって歓談しながら情報交換すると、知らなかった知識が次々と入ってきてとても楽しかったです。やはりネットで情報交換するのと全くわけが違います。

残念ながら私を含む数人がこの日に家に帰らなくてはならなかったので、話自体は2時間ほどでしたが、シンポジウムなどのおりに、みんなまた会おうと約束することは忘れませんでした。のっぽさんとは一番最後までいて、静岡駅で一緒に駅弁を食べつつビールを飲みながら、サメについて語り合いました。

今日の体験で全員が、サメ好きでいることのよさを確認しあえたと思います。もしかしたら西、東、北日本サメ同好会のようなものがあったらいいかもしれないという意見さえあり、サメネットワークが着実に広まりつつあるのかもしれません。

ときどき思うのですが、自然が好きな人には、ただひたすら自然の偉大さに驚嘆したい、と憧れる無邪気なひとが多いようです。このことは、今回の体験を通じてより確信を持っていえるようになりました。メガマウスの解剖に負けないくらい、今回の出会いは貴重なものです。このような人たちと一緒にやっていけるのなら、これからもずっとサメにかかわっていこう、と考えた次第です。

そして、今回解剖を公開しようと思い立った研究者の皆様、学生の皆様、心から感謝申し上げます。長い一日お疲れ様でした。


サメの海管理者 フック