第十回
猫の正月

 猫はお正月を感じとることが出来る動物です。
 家の中が慌しくなる雰囲気と突然の静粛。そして来客。猫はそんな様子をいち早く感じとります。そんな喧騒を煩わしく思うのか、猫によってはプイッとおもてに出て行ったり、自分の居場所でじっとしていたりします。

 お正月は猫にとっても楽しみな時期で、それは御馳走にあります。
 今年は愛犬家の和食料理人と獣医師が監修したという「ペット用おせち料理」がデパートで販売されました。黒豆にロースハム、骨付きの鳥肉は刺さらない様に骨を外したミンチ。しかし動物用に塩分が控えられているため、人間には味気ないものになっているそうです。私がデパートで仕事をしていた頃はペットフードをお重に詰めただけのものが販売されていました。

 猫にしてみればおせち料理じゃなくても刺身、かまぼこ、かずのこなどがあるたけでも大喜びです。しかし「塩分が過剰」だとか、海苔はマグネシウムで「尿石が出来やすい」などと厄介なことを言われてしまいます。そもそもお節料理とは見た目が綺麗で、ある程度の保存が効くこと。しかし、それはあくまでも人間の好みであって猫にしてみれば見た目より新鮮なものを選ぶのです。つまりお正月くらいはキャットフード以外の保存が効かないものを食べてみたいのです。それは何も体に悪くて旨いというのではなく、本当の御馳走を食べたいということです。

 猫の舌には味覚を感知するだけでなく、アミノ酸にもよく反応します。つまり肉食であるがゆえに蛋白質を作るアミノ酸を摂取したがっているのです。肉や魚から摂取した蛋白質は、まず二十種類のアミノ酸に分解され、体内で体蛋白に組み換えられます。そして蛋白質に再合成されたアミノ酸は、生体を維持するための重要な役割があるのです。その量は犬よりも必要としています。 しかも猫は良い蛋白質と悪い蛋白質を区別し、バランスの悪いアミノ酸組成の食事を拒否したりします。それは猫の鼻腔や口腔に化学物質を感知する経路が関与しているのではと考えられています。狩りをするのも生きた餌物からアミノ酸を得るためで、捕食した小動物や魚の内臓も好んで食べるのもそのためです。そこには豊富なアミノ酸が含まれおり、美味しいだけでなく健康維持に欠かせない栄養素が含まれているからです。本当はこうしたものを欲しているのです。

 人間は長年の経験から美味しく、保存、調理する技術で食文化を形成し、魚や乳などの蛋白質を更に美味しくするために発酵や調味料を作り出されました。これはアミノ酸の分解によって味を作り出したものです。猫は目的こそ違いますが、すでにアミノ酸の存在は知っていたわけです。いろいろな食材が並ぶお正月は、猫にとっても楽しみにしている時なのです。
「ドギー&キャッツ」 2004年1月号掲載

第11回に続く

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