第十一回
猫の節分

 2月3日は節分の日。
 この日は豆をまき、冬の終わりと春の始まりとなるけじめの日で、自らの内に潜む醜悪な鬼心を払うのです。また、イワシの頭をヒイラギと一緒にくくりつけて鬼門にさして鬼が入り込まない様にしたり、その年の恵方(えほう)に向いて「のり巻き」を食べるなどの慣わしもあります。

 窓を開けて「鬼は外、福は内」の大声とバラバラと落ちる豆の音で、猫は一瞬何事かと驚くことでしょう。或いは毎年見られる光景に、慣れっこになっているかも知れません。しかし、我が家の猫に醜悪な鬼心があれば払ってあげたいと思ったりしませんか。

 猫には古くから置物の「招き猫」が厄除け、魔除け、幸運を招くなどと言われてきました。右手を挙げて幸運を、左手を挙げているものはお客さんを呼ぶといわれているのは、後世になってからのこじつけです。招き猫であろうと本物の猫であろうと大切なものを大事にしていれば、邪悪なものはなくなるという戒めでもあるのでしょう。

 ところでこの時期、立春を過ぎてもまだまだ寒い日が続いています。外から帰ってきた猫が全身の毛を逆立てているのを見ると「そんなに寒いなら出かけなければいいのに」と思ったりします。猫にしてみればそれなりの用事があるのでしょう。室内にいれば陽の当たる窓際にたたずみ、日向ぼっこをする姿を見かけます。夏ならば涼しい木陰を選んだりします。

 猫のそうした行動は、体内状態を一定範囲内にとどめようとする(ホメオスタシス)恒常性が働き、体温を最適レベルに維持する体温調節を行っているのです。こ一連の行動はグルーミングや休息、それにイネ科の植物を食して吐くなど、自己管理、或いは自己治療とも言うべきものなのです。

 猫が窓際にいる時は、たいがい尻を床に付け、前足をそろえてすくっと立ち、いわゆる犬座姿勢でお立ちをします。日光に向かってじっとしている姿はまるで招き猫です。猫の目線を見ると見張りや狩りのことを考えているかと思えたり、ただのうたた寝の様にも見えます。こちらが覗き込んでも目線を変えようとはしません。

 しかし、こうした居場所があるということは、猫が安心して暮らしている裏付けでもあるのです。日常的な猫のお立ちは、こうした環境を守ろうとする気持の現れなのでしょう。自分の暮らす家も含めて「福は内」と叫んでいるのかも知れません。
「ドギー&キャッツ」 2004年2月号掲載

第12回に続く

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