第十三回
猫の啓蟄

 啓蟄とは、冬ごもりをしていた虫が地温の上昇で春の到来を感じ、いわゆる蟲たちが這い出して来る時期のことを言います。
 本来、暦の二十四節気のひとつで、3月6日頃がその日に当たります。その時期、福寿草やボケが咲き出し、ようやく生物も冬眠から覚め、産卵に出てきたヒキガエルを銜えて中毒体験をする猫がいるのもこの頃からです。

 4月になるとタンポポが咲き出し、汗ばむ陽気で虫が活動をし始めると、猫にノミが寄生し始めます。そしてノミで困るのは猫だけでなく、人間も刺されて痒くなるのです。
「これノミが原因でしょうか」と腕をめくりながら刺された個所を示す飼い主もいます。紅色の丘疹が点在した痒みは、足首にも集中していることもあります。案の定、猫の体毛を分けるとノミが走って逃げるのです。ウワッと思った瞬間、
「ノミですね。駆除しましょうね」と声を落として飼い主に伝えます。飼い主のなかにはノミの存在に驚愕する人もいるからです。しかし、ノミの駆虫は容易です。今ではスポットオンタイプの物が普及され、獣医師の処方で飼い主でもつけることが可能です。ノミの卵は条件さえ良ければ3週間で成虫となり、低温高湿度であれば採食せずに一年間は生存できるといわれています。その反面、乾燥に弱いので室内の風通しをよくすれば死滅してしまいます。

 ノミは暗褐色で、真上から見ると細く左右に扁平な体形をし、被毛の間を走り抜けるのに適した体形です。白い毛の猫では見つけやすく、黒い猫では見つけるのに一苦労です。黒い砂の様なものが付着していれば、それはノミの糞だったりします。ですからあまり汚れていれば体を洗うことを勧めます。

 獣医学的にはノミの問題点はこうした痒みだけでなく、瓜実条虫(犬条虫)の中間宿主になること。医学的には人を刺して炎症を起こさせるノミ刺口症、ノミアレルギー性皮膚炎、また、ペスト菌やリケッチアなどを媒介して人に感染させる公衆衛生的問題もあります。猫はノミに刺されると、痒みがストレスとなり不眠や不安感の原因にもなっています。ストレス発散のために外出すれば、またノミをもらってしまう。何とも猫には困った問題です。

 江戸時代の中頃、井原西鶴の『西鶴織留』に猫のノミ取り屋というものが紹介されています。それによると「えぇ、ノミ取り屋でござい」と声をかけながら町中を歩き、声が掛かれば一回三文(現在の価格で三十三円)で客の猫を水で濯いで狼の毛皮を被せ、ノミが毛皮に移ったところを外で取り除くという商いだったそうです。猫にしてみれば薬を掛けられないこの方法には今でも拍手喝采でしょう。現在では薬品以外の方法として、ノミ取りクシで梳き取ったり、素手で悪戦苦闘したりと方法は様々。裏技としてはアルコール綿でノミを押さえつけ、麻痺させてから取除く方法も。昔からこの時期になると、愛猫家にとっても猫にとってもノミの話題で持ちきりだったことでしょう。
「ドギー&キャッツ」 2004年4・5月号掲載

第14回に続く

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